異世界小話~異世界召喚されたらご飯に「いただきます」しただけで天才あつかいな話~

もうここの欄考えるのめんどくさいから好きな寿司のネタを書くとアナゴ。
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帽子男 @alkali_acid

異世界召喚されたらご飯に「いただきます」しただけで天才あつかいな話

2018-01-13 00:01:22
帽子男 @alkali_acid

山田花子は女子大生である。特技はない。文系。サークルは神話・伝承系。甲賀三郎伝説とかを調べていた。 運動神経わるく、物理や化学、政治など役に立つ知識もあまりない。そんな彼女が異世界に友達と召喚されてさあ大変。なおチート能力はもらえなかった。

2018-01-13 00:03:28
帽子男 @alkali_acid

友達の発案で、迷宮いわゆるダンジョンにもぐってみたものの、 なぜか最深部にいるはずの主というかラスボスである、龍つまりドラゴンが好き勝手に持ち場をはなれて動き回っており、 そいつはイジワルにも出入口を破壊して冒険者を脱出不能にしてしまった。初心者にヒドい仕打ち。大ピンチである。

2018-01-13 00:06:52
帽子男 @alkali_acid

山田さんとしてはおおいにビビるべきなのだが、正直、異世界に召喚されてからというもの魔物は出るわ、戦闘は起きるわでビビりすぎ、麻痺してきていた。 むしろ今つらいのは、コミュニケーション障害の気があるにもかかわらず、見ず知らずの現地の人と冒険の仲間、いわゆるパーティを組んでること。

2018-01-13 00:09:42
帽子男 @alkali_acid

しかも、一緒に召喚された友達で、人望もあり冒険者としても優秀な佐藤ひろみさんが、なぜか山田さんをほめまくるので みんなも山田さんをひとかどの人物と錯覚しているのである。否定するにも言葉がへたでうまく伝えられない。 そうこうしているうちに過大評価はどんどん加速していた。理不尽なほど

2018-01-13 00:12:23
帽子男 @alkali_acid

もはや山田さんが、ご飯のとき「いただきます」と言ったら天才あつかいである。 さすがに意味がわからない。いただきます。確かにお行儀は良いが、言ったからって財宝が手に入る訳でもなければ、皆の体力が回復する訳でもない。魔物を倒したり追い払ったりもできない。

2018-01-13 00:13:58
帽子男 @alkali_acid

ちょうどその日の夕ご飯?昼ご飯?とにかく起きて二度めの食事は豪華にカニだった。 カニ。そう、あのカニである。元いた世界のカニに比べると相当大きく、ハサミは完全に人の首をちょん切れる感じだったが、味はよかった。

2018-01-13 00:17:01
帽子男 @alkali_acid

カニは破裂するとすごい音がして頭が割れるように痛くなる泡を吹く、らしいのだが、佐藤さんともうひとりの仲間の嗅鼻氏という地元の人が、割れる前にすべてスパスパっと空中で切ると何も起きない。 二人は息の合った攻撃でかすり傷ひとつ追わずにカニを仕留めた。山田さんはむろん、見ているだけ。

2018-01-13 00:20:20
帽子男 @alkali_acid

カニの甲羅を鍋がわりにして料理したのだが、そこでも別に山田さんはたいしたことはしていなかった。 見習い冒険者の草採君という女の子みたいにかわいい少年が、香りのよい草とかを色々集めて、味つけも上手にやってくれたのだ。 まあ一応手伝いはしたのだが、それはほかの人達と一緒にである。

2018-01-13 00:22:29
帽子男 @alkali_acid

全体の流れとしては、山田さんは完全にお荷物である。生きた鎧という初心者むけの頑丈な半自動で動く防具の中に入って、離れたものかげでじっとしていただけである。 嗅鼻氏がペットとして飼っている犬、といっても実際は魔物だが、その犬さえカニを追いこんだり混乱させたりするのに働いていたのに。

2018-01-13 00:24:46
帽子男 @alkali_acid

二匹の親犬の見守るなか、三匹の仔犬が、黒い靄になって消えたりあらわれたりしながら、カニのまわりを飛び回り、攻撃をかわし、ときどきへまをやっては嗅鼻氏に助けられ 一生懸命働いているのを見て、「私って仔犬以下の存在」という認識が山田さんの脳に刻み込まれていった。

2018-01-13 00:26:08
帽子男 @alkali_acid

よく茹でたカニの身をいざ食べる段になっても、仔犬たちには「はたらいた分たんとおあがり」という気持ちになるが、じゃあ見ていただけの山田さんはなんなのか。 自然「いただきます」という言葉に感情がこもってしまったのもしかたあるまい。

2018-01-13 00:28:04
帽子男 @alkali_acid

しかし、いただきますと手を合わせた瞬間に、草採君がまた頭をひょこっと上げて、じっと山田さんをガン見してきたのである。 そして山田さんにはまだあまり聞き取れない異世界の言葉で、嗅鼻氏におずおずと話しかけた。すぐに佐藤さんも加わっておしゃべりが始まる。

2018-01-13 00:29:48
帽子男 @alkali_acid

皆ちゃんと意志の疎通ができる。できないのは地元の言葉がうまく操れない山田さんだけ。もちろん佐藤さんがちゃんと翻訳して伝えてくれるが。 「草採君が、ヤマダサンのそれはどういう意味かって」 「あ、あ、いただきます?ですか?ええと、これから食事をしますという宣言です」 あわてて返事する。

2018-01-13 00:31:35
帽子男 @alkali_acid

佐藤さんが笑顔になる。 「まじめだよね。山田さん。あたしも言わなきゃね」 いや、いただきますと言っただけではないか。ただ、いただきますと。山田さんは縮こまる。 草採君がまた何かさえずる。伝わらないが、かわいい声である。

2018-01-13 00:32:56
帽子男 @alkali_acid

佐藤さんがまた通訳する。 「どうして、食事の宣言をするのかって」 山田さんはあわてる。 「え?あ、あ、もしかして、こっちだと逆に礼儀とかに反する感じでしょうか?」 「ううん。そんなことないよ。ただ言わないだけ」 「えっと…」

2018-01-13 00:34:53
帽子男 @alkali_acid

山田さんは頭にさっきの戦いを思い浮かべる。必死にハサミをふりまわしていたカニや、すばやく飛び交う仔犬や、二人の冒険者の無駄のない動きを。 「難しいですね…説明が」 「感謝のため?だっけ?」 佐藤さんが助け船を出す。すると嗅鼻氏がなにやら口を挟み、またやりとりが始まる。

2018-01-13 00:38:26
帽子男 @alkali_acid

二人ともちょっと強い語気になる。やがてそっぽをむく嗅鼻氏。あわてる草採君。むっとした顔の佐藤さん 「はあこいつ…ったく」 「あの…何か?」 「え、えっと」 「教えてください。お願いします!」 いただきますと言ったせいで回りが喧嘩になるとか恐ろしすぎる。何が起きてるのか知りたい。

2018-01-13 00:40:10
帽子男 @alkali_acid

「嗅鼻のやつはさ…ちっちゃいとき、親がいなくて、似たようなちび達と群つくって、街を駆け回ってたんだよね。いつも腹すかしてさ。そんでよくご飯をくれるのが、僧院てとこだったんだけど」 佐藤さんが片膝を立てて頬杖をつき、話をする。山田さんは正座して聞き入る。 「でもそのとき、いつも」

2018-01-13 00:42:11
帽子男 @alkali_acid

「僧院の人は感謝しろって言うんだ。女神様のお恵みに感謝しろ。まあつまり僧院に感謝しなさいってことね。それがすっごく、むかついたんだって…あたしも一緒だったからその気持ちは分かる」 「ああ…」 「あたし、つまんないこと言っちゃったね」 「えっと…」

2018-01-13 00:43:53
帽子男 @alkali_acid

「…いただきますは、もちろん、感謝の意味で使うこともあるんですけど…もっと色んな意味があるっていうか。ごめんなさいの意味もあるし」 「ごめんなさい?」 「私がご飯を食べるために、あなたの命を奪ってごめんなさい…とか」 「そっか…」 「あ、でも…どちらでもない意味もあるんです」

2018-01-13 00:46:09
帽子男 @alkali_acid

嗅鼻氏がそっぽを向いたまままた何か言う。だんだん理解できるようになってきた気がする。 「ヤマダサンはなんて言った?」 と尋ねたのだ。同じ質問を繰り返すのでやっと分かった。佐藤さんが伝える。草採君はじっと黙って聞く。皆すごく真剣。 でも犬達はうとうとしている。あたりが安全な証拠。

2018-01-13 00:49:04
帽子男 @alkali_acid

嗅鼻氏が怒ったように吐き捨てる。佐藤さんがまたむっとする。慌てて山田さんが訊く。 「嗅鼻さんはなんと?」 「死んだ獲物にあやまったってしょうがないって…っとに」 「あ、わかります…そうですよね…そうだと思います」 「いいんだよあんなやつ。つまんないことで怒って」 「ううん…」

2018-01-13 00:50:43
帽子男 @alkali_acid

「私は、ありがとうとか、ごめんなさいって意味で、いただきますって言ってるときも、本当は自分に話しかけてるんです…えっと、これ…伝わりますかね?」 「難しいけど…言ってみる」 「すいません…」 「あやまんないで。あたしも聞きたいから…」

2018-01-13 00:53:17