ライフ・アフター・デス ＃３

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ライフ・アフター・デス】#3

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ンアーッ！」ザルニーツァにほとんど米俵じみて抱えられたゾーイはベッドにぞんざいに投げつけられ、バウンドしながら悲鳴をあげた。「もっと丁重に扱ってよ！」「丁重でなければ壁に叩きつけたところだ」ザルニーツァは冷たく言った。ここはホテル「雪兎」22階03号室。過冬の管理物件である。　1

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高層ホテルの窓から見下ろすシトカの夜景は、ネオサイタマとはまた違った、氷の結晶じみた幻想的ネオン光景である。電子戦争以前は人口一万人に満たなかったアラスカの小さな町は、現在、超自然産業と非合法活動のハブとして大きく発展し、推定人口300万人都市にまで成長した。　2

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驚くべき急成長は、それゆえに激しい歪みも引き起こす。歪みの中で最も強い力を得たのが、「過冬」。アドリアン・メギルヴィッチ・イオロフ……ニンジャとしてはシンウインターの名を持つ恐るべき男が率いるロシアンヤクザ組織である。ザルニーツァは彼の忠実なる戦士の一人だ。　3

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全身をくまなく覆う甲冑じみたニンジャスーツと、覗き穴ひとつない謎めいたフルメンポ。まるでマシンである。実際彼女はマシンのように冷酷で、ゾーイが哀れみに訴えようとしたり、懐柔しようとしたり、高圧的に振る舞ったりしても、実際取り付く島もない。「おぼえてなさいよ」ゾーイは睨んだ。　4

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「アタシにこんな真似をした事、絶対後悔させてやる」「暖かい食事もベッドもある。感謝されこそすれ、恨まれる筋合いはない」ザルニーツァは平然と言った。「親元を離れて寂しいか」「寂しい……？ふざけるな」ゾーイの目が燃えた。「アタシは一人で生きてきた……！」　5

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「それはいい。組織もご機嫌取りに苦心しなくてよいことだ」「アンタにはわからない。アタシの周りの連中、皆、敵だった。確かにアンタの言った通り、ここは少なくとも暖かい。少しも辛くなんかない。ドーモアリガト、クソッタレの……」「……」ザルニーツァは懐から通信端末を取り出した。着信だ。6

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ファオー。壁に映像が投射される。シンウインターである。『ドーモ。ザルニーツァ＝サン』「ドーモ。無事移送を完了致しました」『ああそうか。ご苦労』どうでもよさそうに言った。『そこは？』「ホテルです」『階は？高いか？窓から見えるか？』「窓？」『まあ見てみろ。見えるか』「……」　7

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促されるまま、ザルニーツァは窓に近づいた。何を探せとも言われていないが、すぐにわかった。炎。「あれは……」『見えたか。よく燃えているか？あれは俺のカジノのひとつでな』シンウインターは言った。『……俺の、モノだ。わかるか』　8

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「つまり……」『元気な連中が居てな』シンウインターの声はいつものように気だるげだ。しかし、その声には怒りが込められている。彼は奪い、獲得し、所有する事を好む。そして忘れてしまう。だが、ひとたび己のモノとなったものが奪われたり棄損されれば、凄まじい怒りを抱くのだ。　9

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『ま、とりあえず、何がどうなっているか適当に確かめて来い』「ハイヨロコンデー」映像に向かって、ザルニーツァは小さくオジギした。映像が乱れ、消えた。「……どうした」彼女はゾーイを振り返った。「銃でも作り出して、私を撃ってみるか？」「……」ゾーイは悔しげに無言。無駄だと判っている。10

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「せいぜい行儀よくしろ。ロビーの連中は私と違って優しくないぞ」ザルニーツァは言った。ゾーイは何か言い返そうとした。「アタシは……」「"海のほとり孤児院"」さえぎるように、ザルニーツァが言った。「確かに敵ばかりだったろうな」「……！」ゾーイは思わず目を丸くした。　11

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しかしザルニーツァはそれしか言わなかった。「ルームサービスは、そこの受話器を使え」ザルニーツァはそっけなく去った。「……」ゾーイはベッドに倒れこみ、爪を噛んで、身を震わせた。口惜しさ。そして不安。自分の事ではない。シルバーキーの事だ。　12

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（ゾーイ！）ニンジャスレイヤーの……マスラダ・カイの叫びがニューロンに蘇る。（ほんの少しだ。ほんの少しの間だ！耐えられるか！）「……！」ゾーイは拳を固く握り、奥歯を噛みしめた。「……耐える……！すぐに来る……！」　13

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その部屋のエントロピーは一ヶ月前よりも輪をかけて増大し、危険水域に突入している。パンチシートや観測レポート類、タレコミ情報のファイルが層を為し、空のケモビール瓶や12インチのヒーロー・スタチュー類の散乱も酷いものだ。そこで今、UNIXライトの照り返しを受けているのは三人。　15

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タキの目には不健康な隈が増し、あと二人は「以前」とメンツが違う。一人はハンチング帽を目深にかぶった男。もう一人はセルフレームの眼鏡をかけた小柄な女だ。タキは頭を掻いた。「十中八九ここだ。あの野郎」タキはモニタの世界地図をペン先で突いた。そして二人を振り返った。「で。どうすンだ」16

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「直接行く」ハンチング帽の男……フジキド・ケンジが言うと、シキベ・タカコは厳かに頷いた。「そうッスね」「ポータルじゃシトカにゃ行けねえぞ……文句はソウカイヤか過冬に言え。それにしても畜生！」タキは思考オーバーフローを起こし、机に突っ伏した。「全くあの野郎はよォー！」17

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IRC通信でコトブキが伝えてきたのは、シトカのヤクザ組織「過冬」の末端で回覧されている組織外要注意ニンジャのリストの件だった。過冬が管理する船舶が襲われたとかで、ニンジャスレイヤーの名がやり取りされていた。それを頼りに、彼女は急遽行き先を変更、空路を用いてシトカに辿り着いた。　18

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探偵の集めた断片的な情報も、どうやらそれを裏付けていた。シトカ。「通信は繋がらないンスか？ニンジャスレイヤー＝サンと」シキベが尋ねた。タキは苦笑した。「ナンデこんな苦労してると思ってる。アイツのIPアドレスはイカレてるんだよ。ハッカーでもねえアンタらにゃ説明するのも面倒くせえが」19

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「じゃあ説明しなくてもいいスよ」憮然としてシキベが言った。タキは頭を掻いた。「アイツから再度のセッション・リクエストがあるまで、どうにもならねえンだよ。まあアンタらはアラスカにどうやって行くか……」ピボッ。UNIXモニタにプッシュ通知。「何だ？」IRC-SNS、ようこそピザタキのページ。20

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「別にいいだろ」タキは二人を睨んだ。画面に表示されるのは回転するガイコツのアイコンと、「破天荒」というロウソク漢字である。閑古鳥のフォーラムに新着通知がある。タキは反射的にそこをフォーカスした。文字化けしたIPからの書き込みだ。【ホテルの座標を調べてくれ】「ホテル？」【すぐに】　21

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「これって……つまり、イカレたIPって事スか」シキベが訝しんだ。フジキドとともに、タキの肩越しに画面を覗き込む。タキは焦って返事を送信する。「どこにいる連絡ひとつよこさずこのイディオットめ」【シトカ。「雪兎」。すぐに】「ダムシット！」タキは机を殴りつけた。「アーアー、雪兎、雪兎」22

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彼とて、いっぱしの情報屋。店名まであればすぐに引っ張ってくることが可能だ。タキは後ろの二人にも見せつけるように素晴らしいキータイプを行い、即答の勢いでホテル「雪兎」の情報を送り返した。既読サインがつき、フォーラム・チャットから謎めいたIP存在はログオフした。　23