ストレイトロード:ルート140(32周目)
- Rista_Bakeya
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「順調に育ってるって聞いたけど」蹂躙と争いによって荒れた山を蘇らせる。新聞で知った活動の現場を見るため私達は展望台に登った。若木の列は周辺の山に比べて弱く見える。「生き物が戻るまでには時間かかるんでしょ?」引き返す道の頭上で、新しい住処を見つけた鳥たちが競うようにさえずっていた。
2017-12-31 20:10:39警察官から教えられた道を低速で進むうち、いつの間にか一匹の犬が私達の車の前を歩いていた。時折振り向く様子は目的地へ先導するかのようだが、実際には違う期待の眼差しだろう。「次はあの看板を右ね」藍が持つメモを頼りにハンドルを切った。当然犬は道を違えたが、音を聞きつけてすぐ戻ってきた。
2018-01-01 19:42:06下り坂の中腹に人々が集まり道路を塞いでいた。私達の車が一時停止すると、緑の蔓を両手に抱えた女が近づいてきた。側溝を埋め尽くす謎の植物を皆で刈っていたという。「この辺じゃ見かけない草よ。どこから来たんだか」「集めてどうするの?」「もちろん食べる」不作に悩む農家には恵みとなるらしい。
2018-01-02 19:00:34顔写真に合致する男を歓楽街の入口で見つけた。藍の代理で来た旨を伝えると怪しまれ、伝言を渡すと警戒された。「此処を指定した理由は」「お捜しのブツがこの先にあるんだよ」特別な力の持ち主は皆未成年。少し調べれば判る話だ。「では警察に立ち会いを求め」「取引は中止だ」男は言い捨てて去った。
2018-01-03 19:43:21「あのオバサンの弱味を探しなさい!」手柄を奪われた藍の怒りが収まらない。仕方なく私は手下を送った女フレイムについて調べたが、慈善事業のアピールと悪評潰しの裁判の記事ばかりが出てきた。地道な活動の蓄積が今の地位に繋がっていることがよく分かる。彼女の裏の顔を暴くのは容易くないだろう。
2018-01-04 19:38:06藍が事件の謎を解くと言い出した。私は証言を渋る関係者の説得に当たった。彼女は真相の解明に努めるとは宣言したが、誰かを糾弾するつもりはないはずだ。「もし故意と判れば後は警察に委ねる。そうですよね?」「もちろん」自称紳士達が唸る中、藍は一人微笑んだ。「そろそろお話聞かせてくださる?」
2018-01-05 18:46:49渓谷に架かる鉄橋を観察すること一時間、成果はなかった。双眼鏡を下ろして全体を見渡せば、自然と人工物が調和した景色に心が安らぐ。鉄道が廃線になり、観光客も少ない山奥の地に、こんな構造物は二度と作られないだろう。「よそ見しない」藍は風景を見ていない。ある人物の出現を待っているらしい。
2018-01-06 19:36:48藍が大人の気を引く間に、私は子供達を小屋から連れ出した。誰も泣き出さないよう細心の注意を払い、隠れ場所に着いてからも機嫌を取ることに徹した。彼らは今日を風変わりな道化に捕まった日として記憶するだろう。今はそれでいい。風の魔女が非道な大人に何をしたか知るのは成長した後でも遅くない。
2018-01-07 19:07:14「山は厳しいぞ、お嬢様。その辺の獣も狩れねえだろ」「狩りはできないけど料理はできます」藍は私が背負ってきた鞄を開けた。食糧や寝袋を取り出すと、調味料や道具を詰め込んだ鍋が現れた。私は見覚えのない準備に驚き、時折気になった鞄の重さに納得した。「手を組みませんか、猟師さん」「何だと」
2018-01-08 19:07:15会計を済ませた藍は買ったばかりのドレスを店員に返し、既に送り先が記入された荷札を渡した。「ここに送っておいて」指定したのはどこかのホテルだ。「わたしたちが着く頃には全部そろってるはずだから」彼女が寄り道する間に、それを使う場所に先回りさせるという。見合うアクセサリーや靴も添えて。
2018-01-09 21:46:05就寝中に送られてきた宿題を渡したことで、朝から藍の機嫌が悪い。「最近ちゃんと宿題やってるのに、今度は抜き打ちテスト?」卑劣な罠に嵌められたかのような怒り様だ。周囲に人の目がなくてよかった。「事前に知ってたでしょ、どうして言わないの」「私も知らなかったもので」まさに抜き打ちだった。
2018-01-10 18:57:44怪物の被害を免れた劇場は古いが確かに原形を留めていた。入口のポスターは色褪せている。「昔のプログラム?」「いいえ、今の演目です」避難先から戻った市民の為に過去の名作を再演したら大当たり、今や遠方から客が来るらしい。役者の熱演を真似る子供達の話をすると、藍が何か思い当たる顔をした。
2018-01-11 19:22:25