他人の記憶や体験を「吸いとる」能力がある少年の話

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帽子男 @alkali_acid

他人の記憶や体験を「吸いとる」能力がある少年。 吸いとられた方は完全に忘れる訳ではないんだけど、ちょっとぼんやりする。 代々その力でつらい記憶を持つ人間を救ってきた一族なんだ。

2018-02-11 15:21:12
帽子男 @alkali_acid

だけど吸いとった方はその記憶に侵されていくから、やりすぎると頭がおかしくなってしまう。 なので慎重に。母はとある連続監禁殺人鬼の記憶を吸いとって、生きている被害者の場所をつきとめるが 最後にはその影響で父を殺し、少年を殺す前にみずから命を絶った

2018-02-11 15:23:16
帽子男 @alkali_acid

少年は救出された被害者のひとりであるお姉さんが世話係としてついている。 まだ幼いので記憶を吸いとるつとめはさせないようにしていたのだが、お姉さんが監禁時の記憶にうなされるたびにじつはそっと吸いとっていた。

2018-02-11 15:25:23
帽子男 @alkali_acid

そんな少年のもとに、どうしても記憶を吸いとって助けてほしいという依頼が来る。 病院をいくつも経営しているような地元のおえらいさんの幼い娘さん。お姉さんはだめだというんだけど、少年は写真を見せられてやるという。

2018-02-11 15:27:33
帽子男 @alkali_acid

いざ吸いとると、激烈な発作が起きて、少年はぶっ倒れてしまう。廃人。 利用価値がなくなると、すーっと潮が引くように人は離れていく。見捨てられる。 でもおえらいさんの息子さん。うちの妹を救ってくれたのだからと病院に入れてくれる。

2018-02-11 15:29:24
帽子男 @alkali_acid

「保険適応でない、高価な設備ですが…これで彼の生命維持は可能です…こことあと外国に数台ありますが」 「…よろしくお願いします」 とお姉さん。でも費用がかかる。

2018-02-11 15:30:47
帽子男 @alkali_acid

最初の数か月は無料なんだけど、やはりずっとは難しいと言われる。もともとはあなたたちのせいでと思うが、お姉さんはがまんする。 少年の命がかかっている。

2018-02-11 15:31:54
帽子男 @alkali_acid

「そうですね。あなたへのお給料というかたちで…こちらが負担しましょう。かたちだけうちの従業員ということで」 「分かりました」 どうせ学校はやめるつもりだったお姉さん。

2018-02-11 15:32:55
帽子男 @alkali_acid

看護師見習いとして働いているうちに、医師であるお偉いさんの息子からあれそれを受けるがこらえる。 外国にある機械について調べるが、ものすごく高いのが分かる。 「この機会の技術には彼のお父さんも少しかかわっていたのですが…まあそれはそうと」 胸を揉んだり尻を撫でたり、やりたい放題。

2018-02-11 15:35:22
帽子男 @alkali_acid

しかも妙にお姉さんの弱いところをいじってくる。悔しいがこらえる。

2018-02-11 15:36:18
帽子男 @alkali_acid

少年が救ったお偉いさんの娘に会う。少年と同じ年頃。幼げ。 「どうしてここにいるの」 「色々あって」 事情は話すとつらいだろうとごまかす。 「逃げた方がいいよ。逃げられるうちに」 「え?」

2018-02-11 15:37:35
帽子男 @alkali_acid

夜勤。うたた寝し、悪い夢にうなされて覚め、熱に浮かされたように病院の使っていない病棟(やけに多い)に入り込むお姉さん。 美貌の看護師がお偉いさんの息子である医師にまたがって腰を振っている。 「ひどい人ね」 息を荒らげながら笑い、囁く。

2018-02-11 15:40:45
帽子男 @alkali_acid

医師はお姉さんを一瞥してにっこりする。ぞっとして背を向ける。 でも翌日から 「あれも業務のうちなんだ」 と要求される。ここは病院というよりこのお兄さんの後宮のようだ。たまに来る患者も若い女が多い。

2018-02-11 15:41:37
帽子男 @alkali_acid

お姉さんは拒む。でもやんわりと少年のことで脅される。 結局受け入れる。受け入れるとお姉さんの弱いところを全部知っているかのようにいじってくる医師。 気が狂うほど苦しく快く、そしてなにかを思い出させる。

2018-02-11 15:43:18
帽子男 @alkali_acid

少年の病室に行くのがつらくなってくる。はじめのころは外でかいだ花の匂い、夕焼け、鳥の声。 記憶として伝えてあげたのに、もうできない。 ほっそりした腕がさしまねく。近づけない。 「ごめんね…」

2018-02-11 15:44:49
帽子男 @alkali_acid

またお偉いさんの娘に会う。にらんでくる。 「なんで逃げないの…」 「ここに…患者がいて…私の弟みたいな」 「そんなのいいから逃げなさいよ。それで警察でもなんでも…」 兄である医師が廊下の反対側から見つめる。

2018-02-11 15:45:58
帽子男 @alkali_acid

夜。地下の霊安室に呼ばれる。そんな場所があったとは。 実際は調教用の部屋。兄が妹をおもちゃにしている。 「やあ…彼の力はすごいね。壊れかけていた妹が君にあんなことを言うまでになるんだからな」 「…まさか…」 「そうだよ。僕だ。僕がこの子をもてあそんだんだ」

2018-02-11 15:48:04
帽子男 @alkali_acid

「慣れれば気持ちいいんだよ。すぐに分かる…君もね」 逃げようとするが、できない。 「それに、君は経験者だろ?偉大な巨匠の作品じゃないか」 「何を言って…」 「ああそうか、それも覚えていないんだっけ。彼の力もよしあしだね…」

2018-02-11 15:49:16
帽子男 @alkali_acid

お姉さんは徹底した調教を受ける。お偉いさんの娘と一緒に。 それはもう色々と。薄れていた記憶がところどころ蘇る。昔同じような目にあったことがある。 「どうだい?あの巨匠に比べて僕の腕前は…」 「ひ…ぁっ…」 「すばらしい天才だったのに、彼の親が…台無しにしたんだ」

2018-02-11 15:51:48
帽子男 @alkali_acid

「記憶ののぞき屋…あの力のせいで巨匠の密かな芸術は暴かれ、作品も散逸してしまった…でも僕は集めたんだ…ひとつひとつ…自分の作品も手がけた…身近な素材を使ってね…でももうちょっと…ね」

2018-02-11 15:55:13
帽子男 @alkali_acid

心身ともぼろぼろになったお姉さんを、少年の前にひきずっていく。 「優しい君のことだ。大好きなお姉さんが苦しそうなら…記憶を吸いとってやりたいだろ?」 「やめて…やめて…お願いそれだけは」 「もう正気は残っていないだろうが…でも世界で一番大切な彼女の苦しみだけは分かるはずだ…うん」

2018-02-11 15:56:39
帽子男 @alkali_acid

「さあ…吸いとれ…楽にしてやるんだ」 「いや!だめ!絶対にだめ!!」 少年のうでが伸び、そっとお姉さんの額に触れる。記憶が薄れ、ぼんやりする。 ベッドの上で華奢な体がのけぞり、痙攣する。 「ははは…かなかなか強烈だったか?そうか…」

2018-02-11 15:57:47
帽子男 @alkali_acid

「色っぽい顔だ…たっぷり男に抱かれた女の顔をするようになったね…でも僕に男の子を抱く趣味はないから…直接は手を触れないよ…そんなことをしたら台無しだものね…」 「許さ…許さない…あなただけは…」 「いいね…元気になったじゃないか。またいじめてあげるよ」

2018-02-11 15:59:09
帽子男 @alkali_acid

「そうして彼にまた吸いとらせてあげよう。何度でも、何度でも、何度でもね」 「いや…いやっ」 「おっと…自ら命を絶つなんて考えるなよ。ここには君以外にも巨匠の作品は沢山集めてあるんだ…ほかの誰かを吸わせればいい…それだけだ…もっと別のものを吸わせてもいいか…」

2018-02-11 16:00:32
帽子男 @alkali_acid

それからお姉さんは毎日毎晩、かつての連続監禁殺人鬼の模倣犯である男の手であれそれをされ、 精神崩壊一歩寸前になると、少年の前に連れて来られ、記憶を吸われる。楽になる。苦しみが和らぐ。安堵する。 一方で少年は泡を吹き、涙を流し、もがき苦しむ。だが吸うのはやめない。

2018-02-11 16:02:14