愛読書

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❥blue box @sweetblue818

【51】 亮香さんが指さしたのは安川さんだった。 「まんまとのせられて。今じゃ完全なダイビング仲間だけどね」 笑う亮香さんの視線に安川さんも気づいた。 「りょーか。お前変なこと吹き込んでへん?」 「さぁ?」 「さぁ、って。大丈夫?いじめられてへん?」

2017-09-19 20:07:36
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【52】 「人聞き悪い。仲良しだよねー」 「ホンマかぁ?」 ビール片手に亮香さんの隣に座る。 「なぁ、今年何本潜った?」 「11」 「お前、それ月2ペースやんか!」 うらやましい、とため息をつく安川さんと、 「気合の差」 グイッとビールを飲む亮香さん。

2017-09-19 20:08:24
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【53】 「章、今度伊豆行こうよ。いい季節なったし」 「ええな!りょーかいつごろ暇?」 顔を突き合わせて話す二人に席を離れた。 pic.twitter.com/HymZuRwus1

2017-09-19 20:09:33
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【54】 *** 「送らんでも大丈夫?」 「はい、近いので」 「ホンマに?」 「…亮香さんは?」 「あいつは大丈夫」 「…」 「ん?」 「あの…、」 何か話したくて言葉を探したときだった。 「ハル?」 スーツ姿の隆ちゃんだった。

2017-09-19 20:10:46
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【55】 *** 「もしかしてダイビングの?」 安川さんの持った荷物に気づく。 「お世話になっています。俺こいつの、」 「幼なじみです」 隆ちゃんが言うより先に言った。 「こいつが迷惑かけてるみたいですいません」 「いや、そんな」 「そうですか。

2017-09-19 20:11:33
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【56】 でもこれからわからへんし。あんまり調子にのらせんとってください」 「隆ちゃん!」 「俺は迷惑もかけられてへんし、波琉さんも調子になんて乗ってないと思います。しっかりしてますよ」 「そうですか」 「じゃ、俺はこれで」 笑って頭を下げる安川さん。 「じゃ、」

2017-09-19 20:13:02
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【57】 *** 「遅いぞ?」 頭を小突く隆ちゃん。 「…隆ちゃん、」 「ん?」 「わたし夏休み、ライセンスとろうかな」 「ふふ、また何言い出すかと思えば、」 「本気なの!」 「何もライセンスまでとらんでもええやろ。こうやって体験もできるんやし」

2017-09-19 20:14:33
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【58】 「でもね、ライセンスとったらもっといろんなとこに潜れるようになるんだって!」 「やめとき。身体だって、」 「本当に大丈夫なの。あのね、結構センスあるって言われたんだ。それでね、」 「いい加減にしろ!お前には無理!」 え…、

2017-09-19 20:15:31
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【59】 「考えてみろ。日中陽射し浴びるだけで熱出すねんで?学校の体育もろくに受けれん奴がなんで海なんて潜れんねん」 「、」 「自然なんやと思うてる?そんな生易しい世界じゃないやろ?憧れだけじゃすまされへん世界やねんで。他の人にも迷惑かける。やめとけ。ええな」 ぴしゃり。

2017-09-19 20:16:38
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【60】 迷惑… 「…どうしてそんなこと言うの?」 ひどいよ、そんなの。 「憧れるのもダメ?そういう世界素敵だなって思うのもダメ?」 隆ちゃんがハッとした顔になる。 「わたしだって…」 真っ白でひょろひょろの私の腕。情けないくらいぽろぽろ落ちる涙。 「ごめん」

2017-09-19 20:18:12
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【62】 !! 「隆…ちゃん?」 隆ちゃんの、 胸の中。 「心配やねん」 「え、」 「妹みたいな存在なんかとちゃうよ」 「」 「好きや。お前のこと」 ずっとお兄ちゃんみたいって…。 「隆ちゃ…」 「知らん世界がキラキラ見えるだけやねんて」

2017-09-19 20:22:10
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【63】 「お前のこと、俺が一番よくわかってる」 「…」 唇が近づく。 「やだっ!」 思いきり突き飛ばした。 「…ごめん、隆ちゃん。」 隆ちゃんは、本当に本当に大切な人。ずっと傍にいて守ってくれてた。 でも。 「ごめんなさい…」

2017-09-19 20:23:31
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【64】 どうしたらいいかわからなくて、逃げるようにその場を離れた。 pic.twitter.com/XkD97ikUNT

2017-09-19 20:24:13
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【61】 「ごめん、ハル。言い過ぎた」 「…わかってるよ」 無理なことくらい。 小麦色の肌の亮香さん。 「ごめん、ハル…」 わかってる。海も、安川さんも、全部… …憧れだ。

2017-09-19 21:44:22
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【65】 *** その日は朝から身体が重かった。 (平気。大丈夫) 雑誌の切り抜きを手にお店へ向かった。 ** 「お前なぁ(笑)!」 明るい笑い声に胸がキュンとなって振り返った。 「あ…、」 ……。 そこにいたのは安川さん、

2017-09-21 20:26:50
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【66】 と、 亮香さんだった。 夕陽に照らされた日焼けした肌の二人。 笑い合う二人は絵になりそうなほど素敵で、声をかけることなんてできなかった。 (……) 「章、」 背中から聞こえてくる声。 「わたしたちやり直さない?」 pic.twitter.com/xOJL4cQZTJ

2017-09-21 20:29:28
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【67】 ** 「この店には置いてないです」 「そうですか」 何軒回っても雑誌に載ってるような商品は田舎のお店にはなかった。 (何やってんだろう) きっと安川さんは今頃。 変な意地だったのかもしれない。 いつの間にか降り出した雨に濡れるのも構わず走り回った。

2017-09-21 20:30:14
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【68】 *** 《本日定休日》 (…、) シャッターに寄りかかる。 わたし何してるんだろう…。 ポトッ、ポトッと髪から落ちる雫。 わたしは……。 「ハル!」 「隆ちゃん、」 「何してんねん!びしょ濡れやんか!」 「傘忘れた…」

2017-09-21 20:31:05
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【69】 「もう!出かけるときは天気予報ちゃんと見な」 自分のパーカーを脱いで着せてくれる。 「帰ろ」 隆ちゃんはいつものように手を伸ばした。 「…うん」 つないだ手の温かさにほっとして。 「ハル?」 「…」 「ハル!しっかりしろ!」 声が遠くに聞こえた。

2017-09-21 20:32:29
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【70】 *** 目を覚ますと部屋のベッドだった。 「隆ちゃん、」 「お、気ぃついた?」 「ここんとこハードやったし身体もびっくりしたんやろ?」 「…、」 「久しぶりに隆ちゃん特製粕汁作ったる!待っといて」 腕まくりして台所に立つ。 「隆ちゃん、」 「んー?」

2017-09-21 20:34:26
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【71】 「隆ちゃんが言ったとおりだった」 「、」 「やっぱり無理だったね…」 憧れは憧れのまま。 「へへ。バカだね、わたし…、」 笑ったはずだったのに、涙が零れた。

2017-09-21 20:35:03
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【71】 ** 「なぁ、ハル」 ベッドの前に腰を下ろす隆ちゃん。 「これ、」 ゆっくり息をついて袋を差し出した。 「お見舞い。開けてみて」 (!!) 「隆ちゃん!」 ウォータープルーフのマスカラ、アイライナー、アイブロー…。

2017-09-21 20:36:42
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【72】 「男がこんなん探し回るの結構しんどかったんやから」 《女性ダイバーのためのメイク術特集》 わたしが持ってた雑誌の切り抜き。 「隆ちゃん…」 「せっかくのプレゼント、使わなアカンよなぁ」 「、」 「ラストやで!ハルっ!」

2017-09-21 20:38:41
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【73】 隆ちゃんは笑って、いつもみたいに私の頭をクシャクシャっと撫でた。 「頑張れハル!俺からは卒業!」 pic.twitter.com/Z8US2pCKj4

2017-09-21 20:39:12
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【74】 *** (ない…) ようやく熱が下がって行った本屋。ダイビング雑誌はもうなかった。 トボトボとレジの前を過ぎる。 「遅い」 「…え、」 「お前ら二人、人の店で何してくれとんねん」 「あの…?」 「雑誌!あいつはとっとけ言うし、あんたは取りに来-へんし!」

2017-09-23 14:45:58