フォビドゥンフォレスト６話「フォビドゥンフレイム」#6 「焦熱する痛み」

フォビドゥンフォレスト＠カクヨム投稿中 @fbd_forest

新しく公開しました #17(了) 「潜」～現れるバケグモ集団 - フォビドゥンフォレスト - カクヨム kakuyomu.jp/works/11773540…

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「フォビドゥンフォレスト６話「フォビドゥンフレイム」#5「リリア・リース」」をトゥギャりました。 togetter.com/li/1197206

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闇の深い夜明け前。寒さが肌を刺す。片桐春夏はいつものように鳥居の前で一礼し、霜を割りながら石階段を登る。 1

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半月の薄明りと白樺の巨木が作る影が威圧的に片桐を見降ろす。階段を一段づつ登る歩みはいつもより遅く、重い。処刑台を登るかのような足取りは、足場が狭く凍っているせいだけではない。影を一つ通り過ぎる度に、大鉈を振り下ろされるかのような錯覚を覚えた。 2

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二百段ほどの階段を登り終え、手水舎に着く。水面の氷を割って、柄杓で両手と口を洗う。寒いと言う感覚すら麻痺する冷たさに自然と体がガタガタと震え出す。反射的に両手を擦り合わせかけるが、その動きを両手を握り合わせることで止めた。温めてはいけないかのように。 3

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意図的に温める動きをせず、自然に冷たさが落ち着くのを持つ。その姿を見た者がいれば、そのまま氷像と化すのではないかと心配になったかも知れない。固まっていたのは恐らく２・３分。片桐は再び手袋をつけた。その手は冷え切ったままだ。何せコートこそ着ているが、カイロ一つ持っていない。 4

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コートのお陰で流石に凍死はしないまでも、これでは体が温まろう筈もない。自然と暖を求めて震える体を力の入らない指先で摘まむようにして抓りあげながら、片桐は社殿へ上がった。布製の小袋を両手で開き、賽銭を取り出そうとするが、袋が開いた拍子に五円玉が床に落ちた。 5

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幸い両足の間に落ちたので見失わなかったが、拾おうとして二度失敗し、三度目でようやく掴み上げる。小銭を拾うにしては大げさな、野球の球でも掴むような動きになった。大きく息を吐く。小銭をそっと賽銭箱に滑り込ませようとして……目測を誤った。弾いてしまった小銭が飛んで行く。 6

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賽銭箱の底で、五円玉が予想外に大きな音を立てる。それでも昼間なら大した音ではなかったろうが、夜明け前の静かさの中ではやたらに大きく響いた。首を大きく横に振ると、そこからは努めて丁寧に参拝の所作を終え、社殿を降りた。そして北里家へと歩き出し、奥の階段を降り……足を止めた。 7

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――鳥姫の巫女として神を降ろして戦った瑠梨はまだ面会謝絶中だ。命に関わる事態ではない。既に自宅療養中だ。むしろ神降ろしそのものでは死ぬことだけはない。だが今回のように僅か数分の神降ろしでも、巫女は数日寝込む羽目になる。体力を消耗するだけでなく、全身に凄まじい火傷を負う。 8

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常人であれば即死する程の重度の火傷ではあるが、巫女は数日で完治する。 ―完治はするが、最初の一両日中は……敢えて酷い言い方をすれば、人間の体、もしくは生物とは思えないような凄まじい有様になる。本人としては可能なら家族にすら見せたくない程だ。見舞いなど論外だ。 9

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瑠梨が初めて神を降ろしたのは六歳の時。それから昨日までの十数回。毎回この有様であり、歴代の巫女も概ね同じだった。その負荷は余人には推し量ることなど出来はしない。想像しようというのが既に烏滸がましいのかも知れなかった。 10

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（結局、瑠梨に頼る羽目になっちまった） 北里家に体を向けたまま、片桐は片手で大樹に体重を預けながら歯を食いしばって呻いた。鳥姫の巫女の務めは戦いに備えているだけの平時でさえ凄まじい負担である。せめて実戦でその力を借りずに済むように全力を尽くしてきた。 ……その結果がこれだ。 11

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昨夜の自分の行動の、何が駄目だったかを考えてみる。戦場を駆け、時には指示を受け、或いは自分の判断で機転を利かせ妖怪たちと戦った。その判断の一つ一つを振り返る。この丸一日半、夢の中ですらそうして来たように。 だがいくら考えてみても、致命的と言える落ち度が思いつかない。 12

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そもそもが、仮に自分が今の数倍の強さだったとして事態が大きく変わったとは思えない。涼平やガイアのように単騎で戦場を大きく戦場を引っ繰り返す域は遥か遠くだ。それ自体を落ち度と認めるのは容易いが、それは傲慢だろう。自分より弱い仲間たちは全員鍛錬を怠けていたとでも言うのか？ 13

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なら僚勇会全体の動きはどうだったか。これも致命的なミスは思いつかない。 完全に裏を掛かれたが、それは結果論だ。敵があそこまでの戦力を用意すると予測できる筈もない。敵の情報が揃うのを待たずに森に入ったのは確かだが、手をこまねいている訳にもいかなかった。 14

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仮に作戦を行わなかった場合、Ｓ級二体を含む一団が風科を急襲した可能性もある。それこそ巫女の出番だ。或いは敵が森の中に拠点を構築していたかもしれない。重傷者一人で敵戦力を釣り出せただけ上等な部類だろう。 15

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人員や武器をもっと他所から調達しておくか、町の防衛戦力も森に向ける手もあったろうが、それこそ結果論だ。僚勇会のリソースは無尽蔵ではないし、手薄になれば風科を攻められていた可能性も十分ある。 時間と情報が限られた中ではよくやったと認めるしか無い。 だがそれは……。 16

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樹に手を当てたまま片桐はずるずると地面に崩れ落ちる。力なく項垂れる。 （つまり、どうしようもなかったってことかよ……！！） 言葉に出したつもりだったが、声は出なかった。 それは寒さのためか、それとも声に出すことで認めてしまうことへの抵抗からだったか。 17

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うずくまる少年の口から嗚咽が漏れる。 両手を地面に突けたその体を容赦なく寒風が突き刺す。 だが、彼の意識はその外からの寒さには向いていない。 その脳裏に蘇るのは、内側から彼を焼くのは、 あの日感じた焦熱する痛みだった。 18

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フォビドゥンフォレスト６話「フォビドゥンフレイム」 #6 「焦熱する痛み」終わり #7 「焦熱する痛み②」に続く