オペラ『アイーダ』の登場人物から読み解く安全保障

オペラ『アイーダ』の登場人物(主におっさん3人)のセリフを追ってみたよ 参考: オペラ対訳プロジェクト アイーダ https://www31.atwiki.jp/oper/pages/355.html
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Tamejirou @Tamejirou

アイーダを何十週も観てアリアの日本語訳なんかも読んでるうちに、安全保障について思うところがあったのでまとめる

2018-04-20 12:41:42
Tamejirou @Tamejirou

@gamayauber01 アイーダ 1981年 サンフランシスコオペラ公演 在りし日のパヴァロッティが出てるやつをここんとこずっと掛けっぱなしにしてます youtube.com/watch?v=b8rsOz…

2018-03-16 17:04:35
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リンク YouTube Verdi: Aïda - San Francisco Opera (starring Luciano Pavarotti) A magnificent spectacle of stars, scenery and choreography, this version of Verdi's Aïda is remastered from Sam Wanamaker's landmark production. It features ... 8966
Tamejirou @Tamejirou

オペラ『アイーダ』主要登場人物おさらい アイーダ(ソプラノ): 女主人公。絶世の美女。美女だっつってんだろ。エジプトの敵国であるエチオピアの王女だが身分を隠している。 アムネリス(アルト): 恋のライバル。負けヒロイン。エジプトの王女。 ラダメス(テノール): ヒロイン。超絶イケメンの若き将軍

2018-04-20 12:44:05
Tamejirou @Tamejirou

『アイーダ』登場人物続き ファラオ(バス): エジプト王。親バカ。 ラムフィス(バス): エジプトの神官長。対外強硬派。 アモナスロ(バス): エチオピア国王でアイーダの父親。 他に「軍使」もソロパートがありますが名有りのキャラクターはこの6人。よく見るとむさ苦しいですね。

2018-04-20 12:47:29
Tamejirou @Tamejirou

まず戦争全般に対する考え方が、世代や立場によって大きく違う。ラダメスは若さ故もあって「戦争の指揮官となって大手柄をたてたいものだ!」などと歌う。ファラオは「エチオピアからの侵略者がすぐそこまで攻めてきておる」と落ち着いたトーンで危機を語り、ラムフィスは「戦じゃ!侵略者に死を!」

2018-04-20 12:50:00
Tamejirou @Tamejirou

と強い口調で歌うのだが後段をみると経緯が怪しい。アモナスロは「我々は祖国を守るために戦ったが武運拙く破れ、王は討死し……」と哀願する。どうもこのあたり、エジプトとエチオピアの相互に認識のズレがある。

2018-04-20 12:52:02
Tamejirou @Tamejirou

そもそもエチオピアの王女であるアイーダが「王女アムネリスの侍女」とはいえ奴隷の身分にある事自体、ここ数年で相手国中枢へ攻め込んでいるのはどう見てもエジプトの方である。それへの報復として「エチオピア軍がテーベまで攻めてきた」というのは有りうることである

2018-04-20 12:53:56
Tamejirou @Tamejirou

アモナスロは言う、「娘アイーダよ、祖国を救うのだ、でなければお前が何もしなかったせいで故国は滅びるのだ」と、ラダメスにハニトラを仕掛けるよう命じる。まあもともとラダメスはアイーダにべた惚れなのでチョロいのだがそれは本ツイートの主旨からは外れる。

2018-04-20 12:55:30
Tamejirou @Tamejirou

ラダメスはアイーダの身分を知らないので、「愛する人の父親」であるアモナスロとその他のエチオピア人捕虜たちを解放するよう王に願い、王も聞き入れる。ここで神官長のラムフィスは悪役らしく、「アカン、こいつらここでまとめて死刑にしないとまた攻め込んでくるで」と反対するのだが

2018-04-20 12:57:47
Tamejirou @Tamejirou

ラムフィスの感覚のほうが常識的だろう。また、「ここで慈悲をかければまた攻めてきますぞ……!」の下りは祖国エジプトを守らねば、という愛国心が切々と歌い上げられて名曲だと思う。まとめに上げたスカラ座の動画だと1:21:00のあたり。

2018-04-20 13:00:45

※サンフランシスコ・オペラ版だと1:20:20あたりから

Tamejirou @Tamejirou

また、ラムフィスは捕虜を解放する際の妥協案として「アイーダの父親(士官のフリをしている)」だけは留め置くことを飲ませる。このあたり、正体を見抜いていたのか、それとも捕虜たちのまとめ役らしきことからたまたま選んだのかは不明。

2018-04-20 13:06:36
Tamejirou @Tamejirou

一方、ファラオはこの捕虜を解放するか死刑にするか、という話の最中にも「神々の意向に適うかどうか」などと自問していて、そこはさすが神政一致、神権国家の王という感じ。しかし今日、もう1つ重要なことに気づいた。

2018-04-20 13:09:52
Tamejirou @Tamejirou

王はこの凱旋式の場で、娘のアムネリスとラダメスの婚姻を提案というか命ずる。彼は「安全をさらに確実なものとするため」と歌っていながらただの親バカか、と思っていたのだが、もしかすると彼は簒奪を警戒していたのかもしれない。

2018-04-20 13:11:20
Tamejirou @Tamejirou

ラダメスは若いながらエジプト全軍の最高司令官であり、エチオピア出身(と確定した)女奴隷と良い仲であるらしいことは娘のアムネリスからも知ることが出来ただろう。すると、エチオピアの高位の司令官(実は王)の娘などと結婚されては困るのだ。

2018-04-20 13:13:08
Tamejirou @Tamejirou

だからファラオは、単に娘アムネリスの望みを叶えてやりたいなどという親バカではなく、自分の王統の継承や国家の安定、という一段上からの視点でこの「エチオピア捕虜の扱い」を見ていたということに気づいた。

2018-04-20 13:14:43
Tamejirou @Tamejirou

仮に、ラムフィスの常識的な提案を容れて捕虜たちを死刑にしていれば、アイーダだけでなくラダメスまで「恋人の父親を殺された」という恨みを抱く可能性がある。そうせず、望みを聞きいれて捕虜を解放するかわり、縁談を呑んで王位継承者となれ、と命じたわけだ。

2018-04-20 13:16:51
Tamejirou @Tamejirou

また、アモナスロの方は予想に違わず、脱走してエジプトに反撃することを試みる。まあこの辺は当たり前だと思う。しかし結局、警戒していたラムフィスとアムネリス等によって企みは露見し、アモナスロは横死、ラダメスは機密漏洩で刑死、アイーダは恋人に殉死、という結末に至る。

2018-04-20 13:18:23
Tamejirou @Tamejirou

だから以前には「エジプトこんなガバガバな体制で大丈夫か」みたいなことを書いたが、実際にはファラオとラムフィスの2頭体制は見た目以上に堅固だったということだ。

2018-04-20 13:19:36
Tamejirou @Tamejirou

安全保障に話を戻すと、どちらの国も「敵が攻め込んできて民は今にも殺されそうである侵略者を殺せ」というふうに戦を煽り、実情はこちらが侵略していたとしても、それは民衆にはわからない。これがまず一点。

2018-04-20 13:21:58
Tamejirou @Tamejirou

そして、下手をすると軍の最高指揮官ですら戦争を前にすると名誉・栄誉のために他のことを度外視するようになる。例えそれが恋人の祖国を相手とする戦争であっても。

2018-04-20 13:24:27
Tamejirou @Tamejirou

最後に、「相互理解」というのはやはり戦争抑止のためには必要なのではないかということ。軍使も「エチオピアの蛮人が……」というフレーズを使うが、これが経済交流があって商人が行き来し、王同士も知り合いであったならそういう言葉は使わないだろう。

2018-04-20 13:27:12
Tamejirou @Tamejirou

しかしながら昨今の情勢は大国間の相互理解を困難にし、また隣国同士、国民レベルで相手を尊重するよりも、むしろ憎悪と軽蔑を煽る風潮が高まっているのを感じる。これは世界の平和にとって極めて危険な兆候だと思われる。おわり。

2018-04-20 13:28:36