1945年5月のベルリン陥落に至る在ドイツ日本人の動き

数学史研究者 @redqueenbee1

1945年5月の伯林陥落に至る在独邦人の動きを抜書してみる 1945年3月31日，原子核物理学者の湯浅年子は伯林で日記に以下の記述をした． 「日本の陸軍，大使館は，上を下への引っ越し騒ぎ．荷物運びに余念がない．OKW(国防軍司令部)もしかりと聞く．こんなのを見ると，国家専制主義の不正さ，やがて

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滅びなければならない専制資本主義(社会労働党も党資本主義である！)を感じる．結果，社会全体は，善悪を別として，自然発展の経路として，共産主義形態に近づいていくのではないだろうか」 この頃，大使館通商経済部嘱託の菊地庄次郎他はベルリン東方プレンツラウ市郊外の農場の一角にあるクレーヒ

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レンドルフ城に立てこもった． 駐独財務官事務所の有吉正は「四，五百人のベルリン在留邦人のほとんどが，ドイツ国内でも比較的安全な地に疎開したり，スイス等の中立国に立ち去ったりしたものでしたが，財務官と私は，二十人足らずの大使館員等と共にベルリンに残りました」

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「ベルリンが断末魔にあえいでいた頃，即ち一噸爆弾が焼夷弾のように降り，しかも昼はアメリカ，夜はイギリスと四六時中続く空襲の最中でも，役所を一日も休まれませんでした．ベルリンがそれ程緊迫した状態にあっても，東京の大蔵省からは，毎日のようにいろいろと調査の注文がきます．これもこの

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事務所が欧洲の唯一の窓口であれば致し方のないことです．財政や金融のことは勿論，ドイツでは紙巻煙草の紙の代用品に何を使っているかとか，日本でも近く勝札(宝くじ)を発行したいが，ヨーロッパのロッテリーの仕組如何というようなものまであるのです．島本事務官と小島財務書記は既にスイスに去って

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いました．従って当時事務所は財務官と私の二人だけになりましたので，私がかけまわって何とか報告をまとめます．しかしこれを日本に送るには電信の暗号にひきなおさなければならず，これがかなり時間のかかる仕事です．私が暗号帳を相手に悪戦苦闘していますと，財務官が隣の室からのぞかれて

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「手伝うよ」と仰って原稿の一部を持ってゆかれます．勅任官閣下に財務書記の雑用をお願いしたことは誠に恐縮の至りでした」 同盟通信社特派員小田善一はチロルのキッツビュヘルのホテルとは名ばかりの「まだ腰までも雪のある山小屋で，聞けるだけのラジオ放送をきき，故国の運命を探るのが，毎日の

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日課になつた．食糧がない，女子供にまで竹槍を持たせて，最後の抵抗の猛訓練をしている，といった心配なニュースもきいた．遠い異郷の山中で，ぐるぐるダイヤルを廻して，方々のニュースをきいていると，奇妙に，日本のおかれた現在の立場や，日本をめぐる情勢が，ハッキリ浮んで見えてくる．誰一人

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他に日本人もいず，強がりをきかせてくれる武官連中も，一方的な情勢判断を教えてくれる外交官諸公もいない．ドイツの新聞も届いて来ないこの山中で，ひとりラジオニュースだけに頼っていると却って的確な判断がつく．それだけに，故国の悲運をかみしめるこの二カ月はつらかった．もはやあらゆる抵抗は

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ムダな事で，降伏による収拾だけを，ひたすら神に祈るという追いつめられた気持も，わびしいものであった」，「ラジオにしがみついていた理由は，何よりも日本の態度を知るためであつたが，そういうニユースはなく，私は失望した．こゝはラジオの調子が良く，主にロンドン，ベルンの佛語放送を聽いて

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いたが，ロンドン，ニユーデーリ，モスクワの日本語放送も聽えた」 4月1日，湯浅年子日記 「今日はまた陸軍の例の「動きまわり」で，K氏はじめ数人の人が帰ってきた．無定見なことだ．袋の中の鼠があわててバタバタしているのと同じで，近頃男の人の頭はすべてこわれてしまったらしい．I氏のごときも

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あまりに迷っていて，私からはむしろ可笑しいくらい．命一つを何故にそれほど惜しみ慌てるのであろう」 同日有吉正日記 「キユストリンが陥ちたら翌日はベルリンも危ないという程に，ベルリン市民の頼みとするキユストリンも，その陥落が間近にせまつて来ている．昨夜も「キユストリンが陥落した．

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ソ聨兵が来るぞ？」と怒鳴つて歩くドイツ兵がいたので，ぎくつとしたが，結局ドイツ兵の酔つたあげくのいたづらとわかりホツとしたのであつた．街角には「オーダー川はドイツ最後の守り．この戦線を放棄するドイツ兵は直に銃殺す．」という物々しいビラがはり出された．汽車の旅客の調べが俄に厳重と

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なつたのも，脱走兵の探索のためであり，ときには，捕まつて手を縛られた脱走兵の姿が街にも見うけられるようになつた．キユストリンの陥落が時日の問題となつた今日においては，毎日のラジオできく大本営発表がこわいものにふれるようでありながらも待たれるようになり，オーダー戦線異状なしのアナウ

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ンスを聞く度に，市民はホツとしたが，それも信用ならずとして，厳禁の英米放送に耳を傾ける者が次第に多くなつて来た．復活祭の今日は，ドイツ人四，五名を招いてささやかな復活祭の宴を吾が家で開いた．客の顔には，いづれも，追い込まれたドイツ人の運命をかんじてか，暗い蔭が宿つていたが，一刹那

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でも娯しもうとする現実的な気持からか，酒をあふつては無理に笑いにまぎらそうとする努力が，目に見えるようだつた．それでもなお，戦況が気になると見えて，誰云うとなくラジオの二ユースを聞くことになつた．大本営発表は突如「キユストリン，ソ聨軍の手に入る」ことを伝えた．皆の口から一斉に嘆息

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が洩れた．明日の日のベルリンを想像する勇気もなしに一時座は白けたが，再び投げ出すように杯の動きはつゞけられ，談笑が始まつた．その笑声は前に増して大きいとはいえ，その響きは徒らに空虚であつた」 同日，小島正巳海軍大佐は伯林海軍武官室から撤退した． 「われわれベルリン海軍武官室に

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勤めていた一部の者はベルリンを脱出，自動車でバルチック海岸の小港ワルネミュンドに移った．そして，ここで成し得る限りの情報をわが海軍に打電し続けたが，ロシア軍の進撃はたいへん速かで，五月一日には遂にワルネミュンドも占領される見通しとなった」 4月2日，駐独陸軍武官室では「一部の嘱託や

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炊事担当者等を，ベルリンを既に退去して集結している日本村に向かわしめ，大部は再び個人車の行軍にて4月2日朝エルガースブルグを出発して，目的地たる旧墺領のサンギルゲンに向かい行軍を起こした」 同日，満鉄伯林駐在参与西畑正倫の日記 「学校の改造が完了した処で，突然西部戦線が悪化し，南部

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国境に移動することになり，正午自動車七台，バス一台で出発し，八四粁走ってルードルスタットに宿泊す」 4月3日，満鉄伯林駐在参与西畑正倫の日記 「六時起床，八時ホテルアンカーを出発，私は石塚氏と共に先行する．二六〇粁走って午後七時インゴルスタットで市長を煩し民宿す」

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4月4日，ベルリン・コンスタンツァ街8番地の自宅に戻った舞踏研究者邦正美は，取り残されたホテル・アドロンの毎日新聞伯林特派員加藤三之雄・大島鎌吉から救出依頼を受け，駐独大使館にも宣伝省新聞課にも秘密の疎開先であるワンゼー湖の西方のチァボウ村に車で送り届けた．その後日，邦正美は駐独

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大使館を訪問した．「大島大使も今はバード・ガシュタインに逃れてしまって大使館は固くドーアを閉めている．横の通用門のベルを押すと河原参事官が出てきた．河原参事官は家族とともに大使館の地下壕に引っ越してきて留守番として住んでいるという．他にはドイツ人の使用人だけで，日本人は一人も

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いない．河原さんは外交官というよりは学者のような人物である．僕の現在の状況や毎日新聞の加藤・大島両君のこと，それからハレ近くに疎開している近衛秀麿君の様子などを報告した．「いよいよ終わりに近づいたようですね．ベルリンにはまもなく赤軍が入るらしいです」と河原参事官は言った．在留邦人

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はもうだいぶマールスドルフ古城に集結しており，その責任者である馬瀬総領事一行も出かけた．日本の外務省とはもう直接には連絡ができないので，スイスの日本大使館経由で毎日電報を打っていることなどを話してくれた．万一の場合に役立つかもしれないとロシヤ語と日本語の単語を並べた小冊子を一冊

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僕にくれた」 同日，西畑正倫の日記 「ボルフガング湖畔サントギルゲンに到着し宿泊する」 4月6日午前，駐独陸軍武官室の石毛省三は「敵機の空襲を退避しつつ途中4泊(内1日は民宿の舎営にて休養)の後4月6日午前目的地に到着した．行程約五七〇キロであった．本行軍が距離に比して日時を要したのは，