ハート・オブ・ダウントロッデン・ソウルズ #5

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
0
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゾーイは半狂乱で鉄格子の方向を振り仰いだ。ナムサン……少年たちは白目を剥いて倒れ、痙攣していた。彼女にはわからぬ事だが、これはニンジャ・リアリティ・ショック症状だ。(タスケテ!タスケテ!)ゾーイは足をばたつかせた。男は笑い続けた。(誰か!)ゾーイは叫んだ。……旅人が、応えた。 24

2018-05-17 23:12:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その異常な瞬間のことは、今思い出そうとしても、おぼろだ。いきなりそこは地下道ではなく、不気味な白い花が咲き乱れる野原で、空には黄金の立方体が輝いていた。(……何だ!?)現れた男は明らかに困惑し、ゾーイと、ゾーイを掴んだ男を交互に見た。ゾーイは泣き叫んだ。(タスケテ……お願い) 25

2018-05-17 23:15:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

旅人はすぐに動いた。(グワーッ!)不意を突かれたからか、男はほんのコンマ数秒、怯んだ。旅人はこの男が己の力をほぼ撥ねつけた事にも衝撃を受けたようだった。それでも旅人はゾーイを男の手から奪い……世界は再び戻ってきて……どうやって逃げたのか、あまりはっきりとは思い出せない。 26

2018-05-17 23:18:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その旅人が、シルバーキー、すなわちグレイハーミットだった。男はただでは二人を逃がさなかった。何人かのニンジャとの戦闘があった。シルバーキーは襲ってきたニンジャのニューロンを焼き、爆発四散させた。逃げて……逃げて……あの浜辺に、隠れた。 27

2018-05-17 23:21:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……「すまないゾーイ=サン。私はね……」うずくまったまま、ゾーイの目の前で、ネルソンは泣き続けた。「私はクズだ……どうしようもないクズだ。呪われている。他の連中より余程!」「三人は逃げられた?」ゾーイは冷たく問うた。ネルソンは顔を上げた。「も、戻ったら……居なかった。逃げた筈」28

2018-05-17 23:26:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ふう、とゾーイは息を吐いた。「取り敢えず、それは良かったよ」「しかし……しかし何故ここに」「言いたくない」ゾーイは撥ねつけた。「気絶させて。コトブキ=サン。カンフーのチョップとか……そういうので」「ただならぬ様子ではありませんか」コトブキは躊躇した。 29

2018-05-17 23:29:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「私は裏切った。脱走の希望を与えて摘み取った。過冬の男への恐れに抗えなかった」滔々と話しながら、ネルソンは首を振り続けた。ゾーイは彼を、そしてコトブキを見た。コトブキは静かに答えた。「ゾーイ=サン。悪いのは、過冬のクソ野郎だと思うんです」「……」ゾーイは、ぐす、と鼻を鳴らした。30

2018-05-17 23:33:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゾーイはネルソンに手を貸し、立ち上がらせた。ネルソンは言った。「逃げなさい。当直は私一人ではない。私は……絶対に言うものか。いや、心配なら縛ってくれ。銃があれば頭を撃ち抜きもしよう……!」「いいよ。そんなのイヤだ」ゾーイは言った。そして明かした。「あの地下道を使いたいんだ」 31

2018-05-17 23:36:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「地下道……そうか」ネルソンは重々しく頷いた。「だが、鍵は……」「要らない。作れるから」「そうか。来なさい」ネルソンは案内しようとして……立ち止まった。「いちど詰所に来てくれないか。ここからすぐだ」彼は指さした。「渡したいものがある」「渡したいもの?」「手放せなかったものだ」 32

2018-05-17 23:40:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゾーイとコトブキは顔を見合わせた。「おかしな真似だったら、マジで脳天叩き割るよ」ゾーイはコトブキを示した。「いつでもやってくれ」ネルソンは悲しげに言った。二人は彼について詰所に向かった。扉の中には誰も居なかった。乱雑に書類や競馬雑誌が積まれた机の引き出しを、彼は開けた。 33

2018-05-17 23:43:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「罪悪感だ」ネルソンは呟いた。「こんな日が来ることを予期していたのかもしれない。直接詫びて、償える日を。だから手離せなかった。ゾーイ=サン。あんたのゆかりのものを」彼は引き出しに手を入れ、探した。「アイスレイクの酔っ払った電波塔職員から、買ったものだ」 34

2018-05-17 23:46:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「電波塔?」「ああ。そいつがあんたを見つけたんだよ。一年前か……もうすこし前だったか。その日の出来事は、あの空は、私も今でも記憶に残っている。日蝕の日だ」ネルソンはゾーイを見た。「覚えているかね。思い出せたかね、今はもう」「……」ゾーイは横に首を振った。 35

2018-05-17 23:49:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そうか」ネルソンは探し当て、品物を取り出した。「あんたはあの日蝕の日に、電波塔のてっぺんに現れた。ケビンは飲んだくれてていたし、そりゃあ、おっかなびっくりであんたを助けた……だがどうしようもなくてな。ここに引き取られた。その時あんたが手に持っていたものだそうだ」 36

2018-05-17 23:52:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ネルソンはゾーイの手にそれを持たせた。「刃は落としてあるが、手を切らないでくれ」ゾーイとコトブキは、その品を見た。八つの刃がランダムな方向に飛び出したスリケンを。「……きっと、あんたにとってなにか、たいせつなものだろう。なにもわからなくとも、きっと」 37

2018-05-17 23:55:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゾーイはそれを受け取り、懐にしまった。「……ありがとう」「私は……私はな……」ネルソンは泣きながら、手探りで卓上のウォートカの瓶を掴み、ゾーイ達の前ではばからずに呷った。「あの子らは無事だろうか……」「大丈夫だよ」ゾーイはぶっきらぼうに言った。「アタシも平気だったんだから」38

2018-05-18 00:02:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「日蝕……嗚呼……まるであのネオサイタマのホロトリイだった。空には黒いトリイが浮かんでいた。狂っていた」ネルソンはもう一度サケを呷った。「異常な一日だった。そして今日はこのおかしなオーロラだ。過去からあんたが……この狂った夜は……」机に手をついて立ち上がり、外へ出る。 39

2018-05-18 00:07:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「地下道を使うなどと、よほどの事だろう」地下へ導きながら、ネルソンはゾーイに言った。「なにか……トラブルなんだろう。ゾーイ=サン。なあ、こんな事、私が言えた事じゃないのだが、あんたはどうか、どうか幸せになってくれよ」「……」ゾーイは答えを迷った。やがて無言で頷いた。 40

2018-05-18 00:12:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

トンネルはゾーイのおぼろな記憶の通りだった。コンクリートが再び行く手を塞いでいたが、「ハイヤーッ!」コトブキが強烈な双掌打で苦もなく粉砕した。「フンッ!」さらに鉄格子を腕力で曲げた。「アタシの道具、要らないや」ゾーイは笑った。二人は先に進む。ネルソンは佇み、それを見送る。 41

2018-05-18 00:15:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゾーイは一度足を止め、後ろを振り向いた。ネルソンは寂し気に立ったままだ。「……ありがとう。ネルソン=サン」ゾーイは言った。ネルソンは厳かに頭を下げた。ゾーイとコトブキは走り出した。バシャバシャと水を撥ねながら。 42

2018-05-18 00:17:36