ライフ・アフター・デス #8

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コーオオオオ……バイクの走行音と風の音が混じり、他の音を打ち消す。並走する2台のバイク、その乗り手の一方は赤黒のニンジャ……ニンジャスレイヤーであり、もう一方は明るいオレンジの髪をなびかせるウキヨ、コトブキであった。コトブキの後ろにはゾーイが座り、その背にしがみついていた。 1

2018-02-08 22:07:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

空は深く暗い水のようだった。星の粒が輝き、割れた月は白く光っていた。彼らの後方には凍てつく宝石を散らしたようなシトカ。前方には黒い丘の影。このまま道路を真っすぐ進めば、シトカを逃れ、シルバーキーのあの海岸に帰ることができるだろう。 2

2018-02-08 22:12:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コトブキは話しかけようとするが、当然うまくいかない。スピードを上げられるだけ上げているからだ。逃げる。だが、もうひと障害ある筈。彼らはほとんど確信に近い予感を共有していたし、実際、スーサイドの別れ際の言葉は脅しとも思えなかった。まるでそれは魔女の不吉な予言じみていた。 3

2018-02-08 22:14:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……「お前、ヤツと何をやらかした?」状況判断の末に拳を降ろしたニンジャスレイヤーに、スーサイドはそう尋ねたのである。「俺がシンウインターの奴から命じられていたのは、お前を炙り出して、可能なら殺すなり連れてくるなりする事だ。で、そこのブルハウンド達は、ガキを見張れとな」4

2018-02-08 22:19:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは無言でスーサイドを見据えた。その真意を測りかねた。「……」「これ以上やりあう気はねえ」スーサイドは肩をすくめた。「気が変わった。俺は奴のイヌをやめる。だからイクサも無しだ。間が悪かったな。お前」「貴方、どんな意図があるのですか」コトブキが代弁して尋ねた。 5

2018-02-08 22:23:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「時間がありゃ話してやってもいい」スーサイドはニンジャスレイヤーを見た。彼は数秒、思考をさまよわせた。「……とにかく、バカらしくなっちまった。奴は俺の敵だ。だから、とっとと行け」「納得がいかない」ニンジャスレイヤーは言った。スーサイドは「だろうな」と呟いた。 6

2018-02-08 22:29:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ドルッ、ドルドル……。ゾーイが生み出したバイクの排気音だ。スーサイドは眉を動かす。「成る程。そういう事ができると。だからあの野郎が欲しがる。納得だな」「……だから、連れて帰る」ニンジャスレイヤーは言った。スーサイドはブルハウンドを親指で示した。「安心しとけ。こいつは脅した」 7

2018-02-08 22:32:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ブルハウンドは無言で目を伏せ、震え声で言った。「猛反撃を受け……ゼレズニーイが死に、お前らは逃走した」「……」コトブキはおずおずと礼を言った。「ありがとうございます」スーサイドは呟く。「俺はシンウインターとやり合う。そうと決まれば、奴と揉めてる奴らは多い方が都合がいいんだ」 8

2018-02-08 22:38:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

KADOOOM……BRATATATA……近く遠くで戦闘音。「ソウカイ・シンジケートだとよ」スーサイドはブルハウンドに言った。ブルハウンドは目を見開いた。「そうなのか」スーサイドはIRC端末を振った。「弟分どもが、このクソみてえな夜の状況を俺に流してくる」「ソウカイヤ!」コトブキも驚いた。 9

2018-02-08 22:40:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼女はニンジャスレイヤーを心配そうに見たが、ニンジャスレイヤーは特に感情を表さず、コメントもしなかった。「足がもう一台要る」彼は呟いた。スーサイドはキーを投げた。「ブルハウンドのバイクだ。勝手に盗みな」「……何故助ける」「引っ掻き回せ」スーサイドは言った。 10

2018-02-08 22:46:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……コーオオオオオ。無機質な走行音と風の音は、ニンジャスレイヤーの思考を研ぎ澄ます。(言っておくが、お前らがシトカから出る事はできない。絶対にな)スーサイドはニンジャスレイヤー達に告げた。その言葉には、恐らく彼自身の経験に裏打ちされたであろう確信が込められていた。 11

2018-02-08 22:50:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(奴は何にも興味なんか持っちゃいねえ。そのくせ、奴の所有欲は絶対だ。自分の道具を持ち去る奴の事は絶対に許しはしねえんだ)センターラインの白が催眠的に繰り返される。ニンジャスレイヤーは前方を見据える。知った事ではない。空には緑と紫の輝きが帯になり、揺らめいている。オーロラだ。 12

2018-02-08 22:55:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

追跡ニンジャの気配はない。あのザルニーツァが向かってきている様子もない。ゾーイはコトブキの背中に顔をうずめている。不安に耐えるように。空にはオーロラ。幾重にも重なり、揺れ動き、押し包む。輝きが視界に乱反射する。輝き。霧。オーロラ……。(((マスラダ!))) ニューロンに熱! 13

2018-02-08 22:58:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヌウッ!」ニンジャスレイヤーは目を見開く!その瞳がセンコ花火めいてすぼまり、メンポが音を立てて軋んだ。マフラーめいた布は炎を発しはじめた。マスラダはナラク・ニンジャのざわめきを抑え込もうとした。「やめろ…!」(((いかん!マスラダ!引き返せ!)))いつになく切羽詰まった調子だった。14

2018-02-08 23:00:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

気づいたときには、暗い輝きが視界を一杯に満たし、並走していたコトブキの姿もわからない。バイクが前に進まない。静止している。「これは……!」(((ユミル・ニンジャの力だ!ええい、この儂が!なんたるウカツ……!)))「グワーッ!」マスラダは悲鳴をあげた。内なる炎が噴き出した!15

2018-02-08 23:05:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「「「ハ・ハ・ハ・ハ・ハ・ハ!」」」暗い輝きが暴れ狂い、巨大な……あまりに巨大な影がゆっくりとその身を仰け反らせた。「「「シトカは、俺の街だ」」」超自然の声がニューロンを責め苛む!「「「ゾーイ……とかいう娘……あれも俺の物だ。ゆえに……」」」「グワーッ!」 16

2018-02-08 23:09:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マスラダはソーマト・リコールめいて静止した時間の中、暗く輝くオーロラの中で苦悶した。この責め苦に終わりはない。彼は謎めいた巨大な力を打ち破ろうと必死であがいた。彼の目の前には赤黒い人型の炎が両手を拡げて立ちはだかっていた。ナラク・ニンジャ。つまり己自身だ。 17

2018-02-08 23:12:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「マスラダ!」ナラクは叫んだ。炎が拡散し、オーロラを焼き焦がす。だが……!(いいか。”手綱” だ。くれぐれも。奴に任せ過ぎるな)シルバーキーの警告がニューロンに繰り返された。マスラダは唸った。「そんな事はわかっている……!」だが、この光に呑まれれば、一貫の終わり!「イヤーッ!」 18

2018-02-08 23:16:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……。……。……。「奴を、甘く見ていた……!」沈痛な面持ちで顔を上げたのは、目の前でアグラするシルバーキーだった。ニンジャスレイヤーは無限の銀の砂浜を見渡した。隣にゾーイが立っている。泣きそうな顔で。では、無事、帰り着いたのか。否。彼は頭上の黄金の立方体を見上げた。 19

2018-02-08 23:20:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「すまん」シルバーキーは呟き、頭を押さえた。「だが、引き返せ。ゾーイと共に。お前たちは、今はシトカに帰るしかない」「でも、死んじゃうよ!消えちゃう!」ゾーイが叫んだ。シルバーキーの後ろには49本の蝋燭が並び、0と1で構成される弱々しい火を燃やしていた。近づく死のヴィジョンである。 20

2018-02-08 23:22:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「だけど、アタシがアンタのところに帰らないと!」「わかってる。俺も死にたくねえ。安心しろ」シルバーキーは言った。「少しも安心できないよ……!」「とにかく今はダメだ。無理をすりゃ消えるのはお前らだ。前にお前と逃げた時は、奴も今みたいに備えちゃいなかった。ラッキーだったんだ」 21

2018-02-08 23:25:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「嫌だ!」ゾーイは首を振った。シルバーキーに駆け寄ろうとするが、目の前に居ながら、決して届くことはない。マスラダはゾーイの肩を掴み、止めた。そして尋ねた。「いつまで保つ?」49本のローソク。その右端の1本は既に根元まで溶けている。 22

2018-02-08 23:29:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シルバーキーはじっと考えた。「……俺自身にもわからん。一週間か。2,3日か。俺自身、こうなって以来、こんなにゾーイと離れた事は無いからだ」「わかった」マスラダは頷いた。シルバーキーは訝しんだ。「何がわかったんだ」「シトカに戻る」「ああ、そうだ……」「ふざけたジツの元を、殺す」 23

2018-02-08 23:31:09