「ナチもの」は、普段お堅い歴史書を読まない層にも需要があるのか、比較的いろんな出版社から出ている。興味本位で面白がっただけの本は読みたくない…。そういう時、安心のブランドとしては白水社などがあるわけだが、KADOKAWAっつーと、「大丈夫?」とちょっと思ってしまう。
2018-05-29 10:09:48しかし内容はいたってまじめで、読みごたえがあった。 かつて、「KADOKAWA(旧・角川)で面白かった本は、「平清盛の闘い」くらい」といっていたが、修正しよう。「ナチスと精神分析官」も面白い。
2018-05-29 10:10:00連合国軍の精神科医ケリーと、心理学者ギルバートは、国際軍事裁判にかけられるため拘留されていたナチ党幹部を、裁判ができるかどうか精神鑑定や精神状態のチェックを任じらていれた。
2018-05-29 10:34:00とはいえ、本書の主人公格はケリーであり、ギルバートの方はわき役といえる。なぜそうなっているのかは、ギルバートがニュルンベルクのナチ党幹部を「異常者たちの集団」と、割とステレオタイプに見たのに対し、ケリーはナチ党幹部の人間性、特にナンバー2であったゲーリングの人柄に、
2018-05-29 10:35:27ギルバートの「ナチ党幹部は異常。ナチズムも異常」という結論に対し、ケリーは「ナチ党幹部に際立った異常性はなく、アメリカでも文化や教育に気を付けなければ、ナチズムと同種の社会現象に陥りかねない」と警告を発した。
2018-05-29 10:36:20ギルバートは、ナチ党幹部の野心と出世欲が強すぎて、目的のためには手段を選ばない傾向などを列挙したが、ケリーからすれば、それは多かれ少なかれ、成功した政治家やビジネスマンにも見られる性格だった。
2018-05-29 10:36:53その後の精神医学は、大きく分けてこの二つの見方が戦い続けることになる。ミルグラム実験等の、多少倫理的問題があった心理テストを経て、近年ではケリーの方が支持されてきているらしい。
2018-05-29 10:37:26その後ケリーは、精神医学から犯罪学へと軸足を移し、ナチ党への関心を持ち続けていたが、自殺、それもゲーリングと同じ青酸カリによる服毒自殺という、奇妙な縁を感じさせる最期を遂げた。
2018-05-29 10:38:04まるでニーチェの有名な箴言、「深淵を見るものは、深淵の方からも見られている」を体現するかのように、ケリーはナチ党幹部をテストしながら、自身もナチの闇に取りつかれてしまった・・・? それが、本書の中心テーマである。
2018-05-29 10:39:28書誌情報
追加
「ナチスと精神分析官」 オムニ7では売り切れだった。しかし、アマゾンの中古も見れば、300円くらい(送料除く)で投げ売りされている。
2018-05-29 15:43:38追加
ゲーリングは、実際のところ、客観的に見ても頭のキレがよかった。ギルバートの実施した成人知能テストでは、「マルクの魔術師」といわれたライヒスバンク(ドイツの中央銀行)総裁シャハトに次ぐ、2位の成績。
2018-05-29 18:41:36戦犯裁判においては、英語が理解できたため、検察の論告等が翻訳されるまでに反論を練り上げることができた。これらのエピソードは、ニュルンベルク裁判の本にもある。
2018-05-29 18:42:01(ミルグラム実験。イェール大学の社会心理学者スタンレー・ミルグラムが、「人は残酷な命令にどれだけ服従するのか」を試した実験。「記憶と罰の効果についての実験」と偽って、一般人から「教師役」を募集し、解答を間違えた生徒役に電流を流させた
2018-05-29 18:55:29(実際には流れておらず、生徒役は痛がっている演技をするだけ)。実験者は次第に強い電流を流すように命令し、生徒役はますます激しく痛がるふりをしたが、60パーセント以上の参加者が命令通りに電流を流し続けた。
2018-05-29 18:55:42