突発現パロSS、第七話

泣かせていいのか迷ったけど今までいちばん泣いて過ごしたのは香取って設定あるからごめんなさい
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鉢植えホットケーキ @in_KabeWall

机に業務の報告書がまとまったファイルがいくつか積まれた。鹿島は手前の一つを手に取り、パラパラとめくる。手書きだったり印刷だったり、中には絵が描かれたものもある。 「すごく個性が出てますね」 「要点さえ書けば自由で良いって言ったらこうなったのよ」

2018-06-03 13:54:48
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「それを適当に読みながら連絡を受ける。それでここがどんな仕事をしてるのか把握できると思う。たぶん三日もすれば社長から何か話しかけてくるわ」 社長という語で、先程話した多摩の自己紹介を思い出す。球磨の妹。大井も球磨の妹で、それは球磨本人からも伝えられている。

2018-06-03 14:04:07
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「球磨さんって、その......とても若く見えますよね」 「見た目の事?確かによく子供に間違われてるわ」 多摩さんも大井さんも歳相応の見た目だから、少し不思議です。そう言おうか迷ったが、そんな言い方は不躾だ。鹿島は今考えた事を心の中にしまった。 「大井さんって三人姉妹なんですか?」

2018-06-03 14:11:01
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「いえ、五人。誰かに会った?」 「はい、休憩所で多摩さんに」 そう言った瞬間に大井を変なヤツだと評していた事を思い出した。 会話は普通で、鹿島の面倒をきちんと見てくれている良い先輩だと思う。鹿島の働いていたコンビニに大井が通っていた頃も、滞在も会計も簡潔で良いお客様だった。

2018-06-03 14:26:19
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急に何を話すか浮かばなくなり、何となく透明メロンソーダのキャップを開ける。プシュと炭酸の逃げる音がして、大井は怪訝そうに鹿島を見た。 「そういう飲み方も、うん、有りよね」 鹿島は半分飲んでそのままの透明コーヒーを思い出した。 「あの、このジュース半分飲みます?」 「遠慮しとく」

2018-06-03 14:28:39
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鹿島の挙動から、多摩に何か言われたなと大井は確信する。鹿島が多摩とどんな話をしたのかは気になるがそれは個人の自由だ。多少わだかまる気持ちもあるが、努めて忘れる。 「今日は私もここで仕事するから、何かあればすぐにきいて」 そう言って大井は通信のできないパソコンを取り出し電源を入れた。

2018-06-03 14:41:26
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報告書をざっと見ると、業務内容は様々だった。船の警護や海洋調査、沈没船の引き上げに漁の補助まで、海で行われる仕事のほとんどに手を広げているように見える。 ちらと伺うと、大井はパソコンを広げて何か文章を打ち込んでいるようだった。

2018-06-03 19:06:21
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とりあえず着信があるまで最初から報告書を読んでいこうと思い、机にある中で最も古い日付のファイルを探す。数秒かからないうちに見つかったのは、ちょうど二年前のものだった。 二年でこんなに報告書が溜まるのかと感心していると、呼び出し音が鳴る。大井の視線を感じながら、通話ボタンに触れた。

2018-06-03 19:21:15
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「お疲れ様です、榛名です。業務番号は930524。予定より早いですが、船の受け渡しが完了したので榛名達も帰路につきます」 「了解しました、お気をつけて」 確認すると、確かに予定より6時間も早く電話を掛けてきていた。 「新しい方でしょうか?会えるのを楽しみにしてますね」 「あっ、はい!」

2018-06-03 19:41:21
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雑音もなく通話が切れる。 「大井さん、予定より早く終わったから戻るって連絡だったんですが、チェックは記載してある場所で良いんでしょうか」 「ええ」 大井は立ち上がり、鹿島の横に立った。 「今の、榛名さんからか。戦艦のヒトが関わる業務はたいてい予定より早く終わるのよね」

2018-06-03 19:49:54
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大井はファイルを取って榛名の報告書を開く。 「あ、読んでる途中だったらごめんなさい。このヒトのは読みやすいし、ついでだから今読んでおくといいわ」 「はい、まだタイトルを眺めただけでしたから、大丈夫です」 再び大井は席に戻り、パソコンに向かった。

2018-06-03 19:54:57
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開かれたページには、戦艦と潜水艦のヒトが組んで沈没船の引き上げと受け渡しを行った事が書かれていた。鹿島は読み進める度に感嘆の声を出さずにはいられなかった。専用の設備を載せた船ではなく、ヒトの姿のままそんな仕事をできている事が不思議で仕方ない。

2018-06-03 20:00:05
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己の想像力の限界を感じながら、次の報告書を読み進める。生態調査の為、特定の魚を一ヶ月間追跡......潜水艦が遂行。名前の通り海に潜れるのだろう、潜水艦のヒトは大変そうだ。 続いて鹿島は自分の分類された巡洋艦はどんな事をするのか、ページを適当にめくって探してみた。

2018-06-03 20:18:41
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始めに見つかったのは海洋観測用のブイの設置。内容を読む前に名前を確認すると、姉の香取が書いたものだった。報告書にはタイトル通り航路に指定のブイを設置した事が書かれていたが、鹿島は内容より香取の筆跡の丁寧さに感心していた。

2018-06-03 20:27:25
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船の警護、海難救助......巡洋艦の報告書を眺めていると、何度めかの着信が入る。鹿島もすっかり慣れてきて、慌てる事なく通話ボタンを押す事ができた。 「はい」 『香取です、業務番号は......』 香取姉だ。姉の声をきいた途端に鹿島はそわそわし始めた。 「あっあの、香取姉」 『......鹿島?』

2018-06-03 22:53:50
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何を言おう、何て言おう。香取は業務中なのだから、短く済ませなくては。 「お、お仕事がんばってね!」 一瞬の間を置いて、くすりと笑う声が入る。 『戻ったら、どこかでお話ししましょう』 「うん!」 『元気そうで本当に良かった。それじゃ』 そして通話は切れ、鹿島は名残惜しそうに子機を置いた。

2018-06-03 22:59:33
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香取は丁寧に通信機をしまった。 見慣れた夕陽も今は一層綺麗なものに見える。ふぅ、と軽く息を吐くと、川内が寄ってきた。 「調査船はここで碇泊するって。香取、早く休みたかったら休んでいいよ」 そう言って引っ張ってきた小型船舶を指す。 「大丈夫です、川内さんこそ日が落ちるまで休んでいては」

2018-06-03 23:08:02
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「じゃあ座っとこうかな。香取、何かあった?」 「顔に出てますか?」 香取の穏やかな表情が夕陽に照らされ、川内には今にも泣き出しそうに見えた。 「......いつもより目が優しいから」 「ふふ、私は嬉し泣きするタイプのようです」 「良い事があったんだ?」 「はい」

2018-06-03 23:14:57
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「小さい頃離れ離れになった妹と、先日再会しまして」 整理しきれない気持ちを抱えながら香取は続ける。 「今、定時連絡を受けてくれました」 「へえ、それって出発前に入ってきたコの事だよね?こんなとこで再会できたなんてすごいじゃん」 「ええ本当に......早く会いたいです」 「二週間後だねぇ」

2018-06-03 23:22:05
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夕陽も沈み、夜の帳が下りてくる。 「さて香取、交代だよ。私結構寝たから、寝坊してもいいからね」 川内は船の小さな寝室へ彼女を促す。背中を押されるがまま寝具へ転がり、そのまま諸々寝る準備を整えた。 身体を落ち着けると、安堵感が身を包む。香取は手で顔を覆い、感情のままに涙を流した。

2018-06-03 23:31:48