「千の想いを」~最終章 クライマックス4『約束』~
- mamiya_AFS
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大の字に横たわったまま、金剛は『彼女』の放つ空気に口元を緩める。 そうだとも、あの人がただ黙って身体を奪われるわけがない。
2015-07-25 22:43:57『姫』が両腕を振るう。 大オーケストラの名指揮者のように、優雅に、格調高く。 扶桑の、翔鶴の、伊勢の、最上の、祥鳳の、伊吹の、まだ動ける航空機のAIを強制的に奪っていく。かつて演習で伊吹がそうしたのよりも、より速く圧倒的に支配していく。 空を、無数の様々な機体が飛び回る。
2015-07-25 22:49:26『姫』の挙動に、陸奥が砲を構える。その砲口を、姉の長門の腕が遮る。 奪われた瑞雲の『声』に、扶桑と伊勢が嫉妬すら感じた。 翔鶴がわずかに微笑み、千歳が狙撃銃を足元に下ろす。 金剛が倒れたまま腕を振り上げ、握り拳をつくる。 間宮が安堵の溜め息を洩らす。 『姉』達は。
2015-07-25 22:54:35腕や指先に走るヒビ割れからぽろぽろと崩れ落ちていく身体の表皮をちらりと見下ろし、天城は瞼を1度強く閉じる。 時間は、あまり無い。 もっとも、本来ならばあるはずも無かった時間である。
2015-07-25 23:08:32それは果たされなかった約束。 永遠に果たされる事のなかったはずの約束。 赤城の中で、初めて空を飛んだ感覚が蘇る。 千では足りない感情の全てを込めて。 矢を、放つ。 天に願うように。
2015-07-25 23:15:59戦いと呼ぶしかないはずである。 無数の航空機達が撃ち合い、時にぶつかり合い、相手の翼を捥ぎ取り、破壊し、墜としていく。空を幾つもの赤が彩り、黒い煙を上げて次々と振ってくるボーキサイトの破片は鋭く尖り、触れる者を傷付けるだろう。 だが、彼女らは笑っていた。
2015-07-25 23:20:53超超高速で展開される脳内演算は適正を持たない者であれば即座に精神崩壊される規模のものである。 空中という三次元の盤面では、一瞬の何千分の一の時間も判断の遅れを許さない。 戦いであるはずなのに。 彼女らは笑う。 彼女達にとってはこれが遊びであり、手を取り合って踊るに等しい。
2015-07-25 23:25:02