園児RPGテキスト外伝「宵の流星と暁の詩」第二章
- Mumeinight
- 1047
- 4
- 0
- 0
「おや旅人さん、乗っていくのかい?」山道を行く馬車の御者は人影を呼び止めた。人影は無言で振り返り、金貨を手渡す。 #mmytxt
2018-07-13 21:21:09人影はオフホワイト外套を纏い杖を手にしている。フードを目深に被っており顔はよく見えないが、どうやらうら若い女性のようだ。彼女はそのまま黙って馬車に乗り込んだ。 #mmytxt
2018-07-13 21:22:32ポポスノスクの街並みは朝から賑わっていた。シカナは漁船や釣り船、交易船が集まる船着き場付近で吟遊しようとしていた。しかし…「あれっ」船着き場から美しい弦楽器の音色…先客か。吟遊詩人業界も厳しいのだ。 #mmytxt
2018-07-13 21:27:37ミヤコガルド吟遊詩人のほとんどは楽器の弾き語りスタイルで、シカナのような紙芝居スタイルはごく少数派だ。使われる楽器も小型のフィドルからリュート、ハープなど様々だ。中にはグランドピアノを背負って各地を巡る猛者もいるという噂だ。 #mmytxt
2018-07-13 21:29:33そんな事を思いながら、聞こえてくる音色に奇妙な懐かしさを覚えたシカナの歩みは自然と船着き場へと向かっていった。港に繋がれているボートの上に人影が見える。その周りで何人かが演奏に聞き入っているようだ…シカナも誘われるように聴衆の間に入っていく。 #mmytxt
2018-07-13 21:32:18そのボートの上では澄んだ海水のようなライトブルー長髪を伸ばした女性が大粒の雫めいた青いクリスタルのついた装飾兜を目深に被り、レオタードとも水着ともつかないおよそこの北方の地には似合わぬ露出度の高い服装で座っている。外見年齢は二十半ばだろうか。 #mmytxt
2018-07-13 21:34:24女性は両腿の上にカンテレを置き、弦を爪弾いている。これはシバレリア北方では古来より伝わる神話的な楽器であるが、現在のミヤコガルド吟遊詩人に奏者はほとんどいない。シカナも書物での知識はあるが実際に演奏を聞くのは初めてだ。 #mmytxt
2018-07-13 21:37:35(何だろう、この気持ち…すごく懐かしく感じる…)シカナの目から何時の間にか涙が零れ落ちていた…。「あら、どうしたの?」気がつくと演奏はもう終わっており、カンテレ弾きの女性とシカナだけが残っていた。「あなたは…」「まぁ、名乗るほどの者じゃないけど…」 #mmytxt
2018-07-13 21:40:49「わたしは『海』のムメイ。よろしくね」「あのっ…私は『詩』のシカナ」「…もしかして…泣いてるの…?」「…あなたの演奏…とても懐かしくて…。でも、思い出せない…」膝をつきうつむいたシカナの涙が石畳に零れ落ちる。優しくその手を取ったのは、ムメイだった。 #mmytxt
2018-07-13 21:42:59冷たい風が吹く北方の港町で、シカナにはその手が一際温かく感じられた。顔を上げ、ムメイに問いかける。「…ムメイさんは…この町の人…それとも…?」ムメイはかすかに微笑み、答えた。「わたしはね…海の向こうから来たのよ」 #mmytxt
2018-07-13 21:46:09だが彼女が乗っているボートはかなり小ぶりだ。人一、二人と荷物がやっと乗る程度である…当然外海に出られるような代物ではない。「これで…?」シカナの疑問ももっともだ。「まあ、見てて」ムメイはイルカめいて後方宙返り跳躍すると、そのまま海面に飛び込む! #mmytxt
2018-07-13 21:48:00(えっ…!?)シカナは驚愕した。ムメイは両の手足をX字にぴんと伸ばすとバランスを保ったまま着水し…驚くべきことに、湖に張った氷の上のごとく海の波間に立って滑るように移動しているのだ!「…すごいね…」ふとシカナは妙なことに気がついた。 #mmytxt
2018-07-13 21:50:13両足は常人のそれではない。膝から下はカニめいた甲殻に覆われ、足首には関節がなく先端は刃物のようにシャープだ。その表面の透き通った鱗状の部位が海上を駆ける度に七色に輝く。「こんな風に海を渡ってきたのよ!」 #mmytxt
2018-07-13 21:51:39「…もしかして…」シカナはある伝説に思いを馳せていた…輝きとともに大海を駆け安寧を見守るという精霊、もしくは女神の伝承…。 #mmytxt
2018-07-13 21:55:15