なぜ妻をこき下ろす短歌は少ないのか? ~夫と妻を題材にした詩歌の非対称性について~

ある俳句を見つけたTweetとやり取りを見て、触発されて連投しました。
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補足。統計をとると「夫」と「妻」を題材にした短歌の比率はおよそ1:3ぐらいです。
ただし「妻」の歌は、妻視点で自らのことや他所の妻を詠んでいるケースも多いです。合わせて4割ぐらいかな。

久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

90年代や00年代ぐらいになると、夫をこき下ろす系の傑作もかなり多くなります。わたしの好きなのは「夫とは一匹二万のクワガタを手に乗せうっとり愛でる男か」(石原美紀)とか。 twitter.com/okirakunakuma/…

2018-08-26 01:46:48
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

それ以前の年代だと、まず女性作者が少ない上に、夫が題材になることもそもそも少ないため、まじで見つかりません。 わたしの知る一番古いもので、夫に対してはっきり抗議を示す歌は「塩はゆき黒髪を噛む仔牛どもわが夫よりもいたく優しく」(石川不二子)ですね。1976年の歌集収録。 twitter.com/okirakunakuma/…

2018-08-26 01:41:50
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

石川不二子といえばこれもありましたね。「病院の暁に息止まりゐし夫こそよけれ我もしかあれ」2008年の歌集収録。この作品などはインモラルな感じを結句でうまく相殺しています。もし夫ではなく妻だったとしても、批判とかはされないんじゃないかなと思います。 twitter.com/okirakunakuma/…

2018-08-26 01:50:36
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

ごく最近の夫の歌の動向でいうと、そもそも未婚率が高くなっているので夫婦の歌が減っているように思われああ結婚はやはりオワコンかなとか思ったりしますが、特に若い世代で夫との空気感が穏やかな傾向が以前より強まっているように思います。なんでかはよくわからず、教えて欲しいぐらい。 twitter.com/okirakunakuma/…

2018-08-26 01:55:23
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

逆に夫視点で詠む妻の歌は、与謝野鉄幹大先生みたいな例もありますが、実はここ百年ぐらいずっと「妻大好き、愛してる」みたいなのがずっと主流です。内容をよく読むとあれなのもいっぱいありますが、基本的に妻への感情がものすごいポジティブなんですよ。 twitter.com/okirakunakuma/…

2018-08-26 01:58:22
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

私としてはこの多様性のなさが非常に不満だったので、自分ではもう少し妻に対する悪感情も含めて詠もうとした時期もありました。そしたら某賞の選考で某先生に女性蔑視な態度だと批判されましたけどね。 twitter.com/okirakunakuma/…

2018-08-26 02:04:51
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

まあそれはともかく、現在の短歌の世界では夫に要求される倫理的態度が、歪な形で厳しくなってしまっているのではと思うことがあります。その結果取りうる選択肢が無難な妻大好き系短歌になってしまうのではないかと。ほぼ勘ですけどね。まとまらなくなってきたのでこの辺で。 twitter.com/okirakunakuma/…

2018-08-26 02:16:30
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

夫への抗議とこき下ろしを区別すんの忘れてたな。前者は倫理的に正しい印象を与える夫への攻撃、後者は必ずしもそうとはいえないやつです。前者がマイナス評価されないのは当たり前として、後者も特に問題視はされにくい(夫⇒妻の場合よりも)印象があります。

2018-08-26 02:19:41
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

それゆえに妻側の視点で夫を詠う方が、逆の場合よりも、切り口も感情の複雑さも多彩かなと思います。私が不満なのは、逆の場合におけるこき下ろし系もそこそこあっていいんじゃないの?というところで、でも書いてる最中からすでにそんなの反感買いそうだなと思ってしまう。 twitter.com/okirakunakuma/…

2018-08-26 02:27:34

安田鋲太郎 @visco110

やっぱさらっと嘯くよりも滔々とマジリプしたほうが物事は面白くなる場合が多いな、と思った。

2018-08-26 05:29:08
@kerai14

RT 「許される」という言葉は、よく日常的にも(とくにジェンダー観を表す場合に)使われる言葉ですが、この言葉は、あえて主語をはっきりさせないことにその微妙なニュアンスが込められている言葉だと思っています。

2018-08-26 07:24:25
@kerai14

しいて言うなら「みんな」と「みんなの価値観を内面化した自分自分の良心」の混じったようなものですかね……。

2018-08-26 07:25:12
安田鋲太郎 @visco110

発見者(笑)としては二つ思うことがあって、これはおそらく素人の、先生に就いて習ったりはしていない人の作であろうと。技巧が感じられない。それが逆に生々しい心を窺わせて印象のある句となっている。 twitter.com/visco110/statu…

2018-08-26 09:15:29
安田鋲太郎@楽しい蘊蓄 @visco110

ある古本に紙が挟まっていて、女性とおぼしき文字で「夫逝きて心はばたく秋の空」と書いてあったのが、これまでの人生でいちばん印象にのこっている俳句です。

2018-08-25 15:41:26
安田鋲太郎 @visco110

もう一つは、俳句は通念に依拠して言葉の短さを補うため、どうしても保守性(そういう意味ではこの句はやや破格だが、それでも亭主個人との関係に言及するのが精一杯とは言える)を持つものなんだろうなと。短歌だったら「妻逝きて~」でも、なんとかそれ自体で完結する歌が作れたのかもしれない。

2018-08-26 09:22:11

タイトルに関する考察がなくて釣りタイトルっぽくなっているので追記。

「なぜ夫視点の妻こき下ろし系短歌は少ないのか?」
①ざっくり百年ぐらい前でも、夫側の妻に対する態度としての規範はたぶんありました。それは「妻を慈しむ」というものです。妻をこき下ろすような作品はそこから外れるので、プラスの評価につながるものではなかったと思います。鉄幹みたいな例はやはり少ないので。
ただ評価を与える層が妻帯者の男性ばかりだったので、共感もあり、甘くなりがちだったのではないかと考えています。
配偶者への態度に規範があるといっても、その厳しさは妻と夫で差があった。

②ここ四十年で「妻を抑圧する夫」という概念が、倫理的に正しくないことであるという認識とともに浸透。夫の妻に対する態度への規範は、以前より厳しくなりました。
このため、夫から妻への態度が攻撃的な作品は、倫理的に正しくないものとして批判されるおそれが強くなったと考えられます。だから以前に増して、妻をこき下ろす短歌は生れにくいのではないかと推定しています。

③個人的には、作品に現れている態度が倫理的に正しくない点をもって、作品の評価をマイナスするのは相当に慎重であるべきだと思っています。この手の作品は読み手に感情的な反応を引き起こしやすいので、なおのこと一歩引いて読むことを意識したいものです。(久真)