P-PingOZ 『職人(ブラウニー)通りの靴屋さん』
いつかのどこかのお話です。 あるところに、第02特区という島がありました。 みんなはこの島をオズと呼び、日々せいいっぱい生活しています。 この島では、住民の皆が主人公。 そんな彼らの様々ないとなみを、ひととき、覗いてみましょう。
2018-08-25 20:02:33今日の主人公は、うつぶし地区の職人(ブラウニー)通りにある、「小さな靴屋」さん。店主の相森(おおもり)夫妻が営む、オーダーメイドの靴屋さん。ご主人のヤーコフさん(52歳)、奥様の糸さん(49歳)、それぞれ資格を持った職人さんです。今日はこのお店の、ある一日を拝見しましょう。
2018-08-25 20:04:26うつぶし地区、職人(ブラウニー)通り。ろいろ駅の東口を出て少し歩くと見つかるここには、様々な職人さんがお店を構えています。古い小型機械の修理、車輪のある乗り物のパーツ、小ロットの金属加工や、鍛冶屋さん、家具、鞄、傘のお店、そして、「小さな靴屋」さんも。1
2018-08-25 20:11:05――朝8時。ヤーコフさんが工房で作業をするリズムの良い音もが聞こえてきます。お店が開くのはまだなのですが、工房での作業はご夫婦のペースで進めているんです。ヤーコフさんの工房は前面がガラス張りになっていて、お店の中から作業の様子が見られます。2
2018-08-25 20:14:05お店の床は木目加工。フェイク植物を飾って、レジ脇には、お客様と打ち合わせする、大きなカウンター席。そのカウンターからヤーコフさんの工房が見える、という作りです。ここからでも、大きな体を丸めたヤーコフさんが、小さなポンチで革に飾り穴を開ける姿が見えますね。3
2018-08-25 20:17:38ヤーコフさんは、革靴作りの職人さんです。師匠にあたる糸さんのお父様から、技術とお店を受け継いで今年で15年。フルオーダーの靴を、年に30足ほど受注しています。お客さんとしっかり話し合って作り上げるため、一足できあがるのに数ヶ月かかってしまう事が多いそうです。4
2018-08-25 20:21:02けれど、それはずっと使える物を作るため。それが分かるお客さんと、兄妹のように育った奥様の糸さん。皆で長く育ててきた、今の「小さな靴屋」さんです。5
2018-08-25 20:26:33ヤーコフさんが作業を始めてから一時間ほど経つと、お家の事を終えた糸さんが、お店のエプロンを着てお掃除を始めます。小柄な糸さんがテキパキと動き回るのは、なんだか見ていて気持ち良いですね。そうして、朝の10時。「お店開けるよー」糸さんの声と共に、開店です。6
2018-08-25 20:29:41お店で材料の納品や電話予約などを受けるのは、糸さんのお仕事。お客さんが来るまでは、ヤーコフさんは工房で、糸さんはお店のカウンターでラップトップを使って、ご自分のお仕事をしています。今日はたまたま、お店にご来店予定のお客様はいないようで、お二人とも作業に集中していますね。7
2018-08-25 20:31:56お店が開いて少しして、最初のお客さんがやって来ました。こちらは常連の男性、桜庭さん(23歳・男性・無職)。ご夫婦とはすっかり顔なじみですが……「やだ、どうしたのそれ!」桜庭さん、カジュアルな格好に医療杖を携え、王子様のような顔には額から頬にかけて大きな医療テープを貼っています。8
2018-08-25 20:36:26「面目ない」「いいから! 座って」糸さん、カウンターの椅子に桜庭さんを座らせます。「ヤーシェニカ!」糸さんに呼ばれ、ヤーコフさん、のっそりとお店へ出てきました。「やあ。こりゃあ……」桜庭さんの有様を見て、おひげを撫でてのんびりと驚きます。「酷いな。どうしたね」9
2018-08-25 20:38:56「クライアントから契約違反を叱られまして」「叱、え……?」怪我を訝る糸さんと対称的に、マイペースなヤーコフさん。「治りそうかい?」「足は長くかかりそうですし、顔も痕が残るようで。廃業する他ありませんよ」そう言いながら、どこかさっぱりした様子の桜庭さんです。10
2018-08-25 20:44:02「じゃあ、今日は、糸さんに頼みに?」桜庭さんは首を横に振ります。「いえ。新しい靴をしつらえて貰えますか」少し面食らったようなヤーコフさん。「それは……構わない。ただ、型を取り直したいから少しかかる。時間、大丈夫かね?」どうやら、桜庭さんの足型を作り直すようです。11
2018-08-25 20:48:47「ここの靴履きたくてリハビリしたんですから、何時間でも」桜庭さん、嬉しそうな声ですね。「あぁ、と……ありがとう」「僕のお守りなんです。貴方の靴」ヤーコフさん、おひげを捩りながら足型のスキャナを取りに工房へ引っ込みます。「照れちゃって」糸さんが、からかいながら見送りました。12
2018-08-25 20:53:54「桜庭くん、しばらく大変だね。色々キツイでしょ」靴を脱いでいた桜庭さん、手を止めて苦笑いです。「生活は、何とか。ただ、アレルギーを伝えても『欠損の方が得』って、役所で切断を勧められるのが、ちょっと」「治る見込みあるのに?」「そういう物みたいですね」13
2018-08-25 20:58:05ヤーコフさんが、作業場から黒い箱形のスキャナを持って戻って来ました。「裸足にしても?」「助かります」桜庭さんを裸足にして、怪我の状態について細かくお話を聞きながら、スキャナで片足ずつのデータを取ります。これを元に、3Dプリンタで足型を作るんです。14
2018-08-25 21:04:0020分程で両脚の計測を終えたら、次は箱の中に両脚で立って、両脚の重心やバランスを計測します。杖のあるなしで二回。これも靴作りには大事なデータです。「ご希望は」「革靴が履きたいんですが、ロングノーズだと……難しそうなお顔ですね」「そうだね」ヤーコフさんはきっぱりと答えます。15
2018-08-25 21:08:10「ラウンドが良い。ソールも前とは変えよう。糸さん、データを」「はいはーい」糸さん、ご自分のラップトップを経由して工房の3Dプリンタへ今のスキャンデータを同期させ、出力を始めました。その間にも、素材の革や全体の色形について相談が続いています。16
2018-08-25 21:12:00さすがに慣れている桜庭さん、スラスラご希望を伝えます。足型は仮型を印刷してから調整して実際に使う物を出力させるのですが、合わせて5時間以上かかる作業です。なので、今日できるのは打ち合わせだけ。後日フィッティングやサンプルの確認が必要です。17
2018-08-25 21:16:34「次回、来月ぐらいですか? リハビリがてらまた来ますので」打ち合わせを終え、支払いを済ませ、桜庭さんは立ち上がります。「それ位かかる。できたら鳩で知らせるよ」「有難うございます」「こっちこそ。いつもどうも」桜庭さんは、お辞儀してお店を後にしました。「気をつけてね。またどうぞ」18
2018-08-25 21:22:24