日向倶楽部世界旅行編第62話「ノーブレーキ・ガール」

予選大会と決勝大会の合間、互いに都合の良い時間を見つけた武蔵と初霜は、密かに情報を交換する。深海棲艦の謎を巡り、二人は互いの腹を探り合う。
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三隈グループ @Mikuma_company

「最上さんや日向さんは薄々勘付いてる」 「迂闊な事をする人間ではあるまい」 「何か隠してるんでしょ?」 「化け物の身の上話、人間は結構好きなんだろう?」 「余計な疑惑を作りたくないもの」 「私、サイテー…ふふっ」 「最高だ、最高だなァッ!」」 日向倶楽部、この後21:00! pic.twitter.com/7i7eM5ZtOM

2018-09-05 20:49:16
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【前回の日向倶楽部】 扶桑です。 久し振りに親衛隊の二人と会いました、二人とも元気そうで何よりです、彼等になら留守を任せても安心でしょうね。 …とまあ、お話をしたのは良いのだけれど、今日は日向も最上さんも初霜さんも居ませんね。でも最近、三隈さんからたぶれっと?で本を読む方

2018-09-05 21:00:23
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【前回の日向倶楽部その2】 満たされた者と満たされぬ者、求めぬ者と求む者、広く多様な世界の中で、幸福の尺度は千差万別。ある者は満たされる、今ある小さな幸せに。ある者は求める、今の向こう側、修羅の道の最果てに。 さあ、何処へ行く?

2018-09-05 21:02:53
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日向倶楽部 〜世界旅行編〜 第62話「ノーブレーキ・ガール」

2018-09-05 21:04:34
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〜〜 決勝トーナメントまであと五日。ここはブルネイ泊地、応接室。 長学ランを羽織り、サングラスをかけた女、武蔵が、白いソファにゆるりと座っている。 「フゥ、人間に混じって暮らすのは面白いが、こういう立場にいると忙しいのが困りものだな。」 武蔵は、正面に座る少女に向けて言った。

2018-09-05 21:06:39
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その少女は黒の制服に身を包み、黒く長い髪をしている、彼女は初霜であった。 「ふふっ、でも今日は皆休んでる…こうして話すには、お互い都合が良かったわね。」 初霜は尖った八重歯を見せて笑い、暑苦しそうにワイシャツの上のボタンを外す。そんな彼女を見て、武蔵はサングラスを外して笑う。

2018-09-05 21:07:41
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「ククッ…汝程の背格好をしたヒトの幼体はもう少し単純なものだが、つくづく面白い奴だ。仲間からは大事にされてるんだろう?」 彼女は真っ赤な目をギラつかせながらそう言うと、また用心深くサングラスをかける。そして、足を組みながら言った。 「さて…アレから何か、変わった事はあるか?」

2018-09-05 21:09:44
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武蔵が訊ねると、初霜は肩を竦める。 「近況って意味なら、まあ色々あったわ。ハイドロ団とかいう妙な連中につけ狙われてみたりね。でもお前が聞きたいのは、私が深海棲艦相手に暴れたってところでしょう?」 初霜の身に起きた暴走というアクシデント、それは武蔵の耳にも入っていた。

2018-09-05 21:11:21
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武蔵は目を細めて頷く。 「ああ…無論だ。その時の事をきちんと聞かせてもらおう、汝はそう迂闊な事をする人間ではあるまいからな。」 「随分買ってるのね。まあ、良いわ。」 情報を互いに握り合う状況、初霜は悪戯っぽい笑みを浮かべながら、語り始めた。

2018-09-05 21:12:57
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「…結論から言えば、あの時意識はなかったわ。何処からかはよく覚えてないけれど、深海棲艦を前にした辺りからよく覚えてないし、多分その辺りじゃないかしら。」 「ほう?意識が…」 武蔵は興味深そうに聞き入り、訊ねる。 「では、汝の知らぬ間に汝が動いていた、そういう事か?」

2018-09-05 21:14:35
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「ええ、そうなるわね。何が起きたのかは分からないけれど、私は勝手に戦闘を行なった…って話。」 初霜はそう答えると、今度は不快感を露わにして続ける。 「…一応その事を取り繕いはしたけど、多分最上さんや日向さんは薄々勘付いてるわ、それ経由で扶桑さんもね。」

2018-09-05 21:16:12
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初霜は、自身の一際激しい部分を人には見せない。それが異常であると自覚し、知られるのは都合が悪いと知っているからだ。 故に、そういう部分に探りを入れられるというのは極めて不愉快であった。それが仲間だったとしても…いや、身近な人間だからこそ、ダメなのだ。

2018-09-05 21:18:05
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そして何より、最上や日向は強い。万に一つ敵対でもすれば、どんな相手よりも厄介な敵になるのは明白であった。 だから知られてはならない、異常性を隠さなければならない。お互いの為にも、悲劇を跳ね除け天真爛漫に生きる少女である必要があるのだ。

2018-09-05 21:19:44
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そんな彼女は、懐から巾着を取り出して訊ねる。 「…ねえ、今回の話…この石ころと何か関係があるんじゃないの?」 そこには、武蔵から受け取った黒い石が入っている。 「この石、深海棲艦のものなんでしょ?貴女が渡して来た奴よ。それで今回の話…薄々何か分かったんじゃない?」

2018-09-05 21:21:02
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情報を促すように、初霜は武蔵へと詰め寄る。すると武蔵は、巾着を彼女から受け取り、中の石ころを取り出した。 「…ふむ」 石をジッと見つめ、武蔵は頷く。 「何か分かる?」 「これを見ろ、石の黒色が、少し薄くなっている。」 彼女に促され、初霜は石を注意深く覗き込む

2018-09-05 21:22:45
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武蔵の言う通り、真っ黒だった石は少し、黒色が薄れているように見えた。 「…何が起きてるの?何か分かる?」 初霜が訊ねると、武蔵はサングラスを外して答えた。 「これはあくまで仮説だが…この石は恐らく、深海棲艦の記憶媒体だろう。」 「記憶媒体…脳みそでは無いの?」

2018-09-05 21:25:01
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武蔵は首を横に振る。 「分からん。これ単体が思考し、判断するだけの能力を有しているかは何とも言えない。しかし、こいつが何かしらを"記憶"している可能性は高いと私は考える。」 「何故?」 初霜の疑問は最もである、武蔵のそれはかなり強い断定だからだ。

2018-09-05 21:26:52
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すると、武蔵は懐から厳重なロックのされたスマートフォンを取り出した。 「こいつは良い道具だ、気に入っている」 「早く見せてよ」 「ククッ…そう急かすな」 催促する初霜に、彼女はスマートフォンに一枚の写真…赤黒い石が映った写真を表示し、口を開いた。

2018-09-05 21:28:24
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「こいつは以前、我々ブルネイ調査隊が討伐した、ヒト型の深海棲艦から採れた石だ。」 画面をスライドすると、ヒト型をした深海棲艦の写真が現れる。 「こいつだ。この個体は中々に賢い奴で、調査隊も手を焼いた。目撃情報などから精査するに、かなり長い間活動していたと思われる。」

2018-09-05 21:30:15
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深海棲艦だが、人間の研究者としての顔も持つ武蔵はそれらしい口調で続ける。そして彼女は、初霜の黒い石を指差す。 「逆に、その石ころを取った深海棲艦は、ヒト型ではあったもののあらゆる面でこの個体には大きく劣っていた、活動期間も大した事が無かったと思われる。」

2018-09-05 21:32:14
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「要するに、強い奴と弱い奴で石の状態に差異があるって事?」 「概ねその認識で合っている。まあ、強弱よりは正確な基準として、私は"経験"や"記憶"、"刺激"であると推測したに過ぎないが…その辺りはまだまだ未知だな。」 武蔵が唸りながら答えると、初霜はふうんと納得する。

2018-09-05 21:33:37
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だが、彼女は疑り深く武蔵を見る。 「今日は随分と素直に喋るじゃない、もう少し勿体つけると思ったんだけど。」 話すメリットが思い当たらない事を怪しむ初霜に、武蔵はクスリと笑う。 「何、情報の共有は悪い事でもないだろう。それに、どうせ汝は気付く。」 「そうかしら?」

2018-09-05 21:36:17
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二人は友人の様に軽口を叩き合う。 「…まあ良いわ、どうせ肝心な事は隠す腹づもりでしょうし。」 「ククッ……まあ、好きに思えば良い。」 だが、両者の根本は腹の探り合いである、互いに気を許す事はなかった。 と、そんなこんな話が逸れたところで、初霜が訊ねた。

2018-09-05 21:37:38
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「…で、話を戻すわ。なら私の持っているこれが、その兆候…"記憶"を示したのは、どういう事かしら?」 武蔵は頷く。 「考えられる可能性は…この石そのものが、単体で記憶媒体として機能しているというものだ。刺激を受ける事で記憶する、深海棲艦どうこうではなく、この石そのものが。」

2018-09-05 21:39:06
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「石が深海棲艦の本体って事?」 「ニュアンスは近い…だが本体というには、機能が足りなさすぎるとも言える。例えばの話をすると、このスマートフォンという奴は、パソコンでデータの出し入れができるだろう?」 「…お前の口からスマートフォンって言葉が出てくるの、ちょっと面白い。」

2018-09-05 21:40:37
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