苔のむすまで(風見と千代)

風見と千代の話
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とり @sssupple

「君には、両親を大切にしてもらいたい。僕が父親に名を連ねたところで変わりはないかもしれないけれど、言われたから、流れだから、で僕が父親になるのは違うと思うんだ」子供相手にマジメすぎる返答だろうか。自分でも思いはしたが、ちゃんと二人でわかっておかなければいけない大切なことだと思う。

2018-09-01 19:59:32
とり @sssupple

「じゃあ、チヨは一人?シセツ?」「いや、家族と同じ。一緒に住んで、生活するけど、君はママの名字のまま」「でもおとーさんじゃない?」「そう」「なにがちがうの?」「君が本当の両親に愛されていたことを覚えていて欲しいのと、あとは僕の我儘だよ」

2018-09-01 20:39:39
とり @sssupple

千代という名前をつけたのは降谷だと思った。だからこそ、風見の名の下に入れたくなかった。「君が降谷の姓になれば、ヤチヨになるから」「ヤチヨ?」大切だけれど、それを形にして表せない娘に、彼が最初に与えた最高の贈り物を風見は返したい。だから。

2018-09-01 20:44:04
とり @sssupple

「君は、預かり物だ。いつか、降谷さんにお返しするまで。その間は、君の親の代わりをしたい。もし、降谷さんが帰って来たのなら、君には彼のところに行ってもらいたい。だから、父親にはなれない」なんとなく纏まったと言葉にすれば、チヨが瞬きをした後、大きく息を零した。

2018-09-01 20:51:31
とり @sssupple

「レンラクとれなかったのに、かえってくるとおもうのです?」「帰ってくるよ」絶対に帰ってくる。少しだけ不安そうに目の色を揺らした彼女に、笑みを返す。「あの人を舐めちゃいけないよ。大切なもののためなら、守るためなら。地獄の底からでも帰ってくるさ」

2018-09-01 20:53:54
とり @sssupple

彼女は笑みを浮かべることなく頷いた。そして、「カザミがいてくれるならそれでいいです」と。一拍置いてからのその言葉には、大人びた笑みを添えた。それよりも饒舌な、風見の服をきゅっと握り込んだ手を、風見は守っていきたいと思った。

2018-09-01 21:07:13
とり @sssupple

「あしたはなにを入れてほしいですか?」「明日は僕が作るよ」ネクタイを外しながら言えば、受け取るために掌を器の形にして待っていたチヨが固まった。二度三度と瞬きをしてから、背伸びして距離を縮めようとする。ほんの少しだけ近づいた顔を見下ろすと、瞳がキラキラと光っている。

2018-09-01 21:13:33
とり @sssupple

「あしたはお休みなんですか」「一山落ち着きましたので」「チヨもお休みします!カザミといっしょ!」「ダメです」可愛い我儘だけれど、折角新しい学校に慣れ始めた頃なのだからちゃんと通って欲しい。盛大に膨らませた頰を両側から手で包み込んで、ふしゅ、と空気を抜いた。

2018-09-01 21:19:14
とり @sssupple

「そのかわり、お迎えに行きます。で、晩ご飯は外に食べに行きましょう」「ほんとに?」「ほんとに」「およびだしがかっても?」「善処します」「それはおしごとしてください」「……はい」結び目の解けたネクタイを引き抜いて、それから彼女は満点の笑みで言った。

2018-09-01 21:23:42
とり @sssupple

「あしたはハンバーグがいいです!」

2018-09-01 21:24:15

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とり @sssupple

「なんでデンワしてきてるんですか!」「いや、でも、」「はやく、行って!」「あの、」「それでよくケイサツがつとまりますね!カザミ!カザミのサイユウセンジコウは!?」「日本の平和です。すみません、行ってきます」風見裕也。小学生に叱られて、気を落としながら出勤します。

2018-09-02 17:40:48
とり @sssupple

授業参観があると言われたから休みを取ったわけだが、そんなことはお構いなく事件は起きるし、呼び出しもかかる。風見の職場は、優先されるのは休みではなく、日本の平和。参観を見てから一緒に帰って晩御飯を作るつもりだったが出来なくなったから、待たずに帰ってほしいと言うつもりだったのだが。

2018-09-02 17:48:51
とり @sssupple

「叱られるとはなぁ…」電話をしている暇があるならば少しでも早く出勤しろ、なんて。小学生に言われるとは思わなかった。物分かりが良すぎて、もう少しだけ我儘を言ってほしいものだ。そう零せば、その考え方がもう親だなと同僚には笑われた。

2018-09-02 17:54:22

***

とり @sssupple

彼女と生活し始めてまだ一年経つか経たないか。それでも親でいいのだろうか?「子供の面倒を見て、子供の事を考えて、何よりも大切に思う。立派な親でしょうよ」「そうかなぁ」自分が大切にしているのがあの子自身なのか、“降谷との繋がりがある人間”なのか、自信がなかった。

2018-09-02 20:03:11
とり @sssupple

子供がいる部下にも上司にもアドバイスを求めて、出来るだけいい親になろうとした。親になる事で、彼女を通して降谷との繋がりを求めている事から目を背けようとしているのかもしれない。

2018-09-02 22:15:31
とり @sssupple

「風見はヨケイなコトを考えすぎじゃないですか?」遠足のための荷物をリュックに詰めながら、彼女は言う。弁当と水筒以外に、遠足のしおりと筆記用具。ハンカチとティッシュの他に、ウェットティッシュとバンドエイドも入れているのは生傷が絶えない彼女のためだ。

2018-09-03 00:11:08
とり @sssupple

誰に似たのかは言わずもがな、曲がったことは大嫌いを地で行く彼女はよく他の児童と揉めていた。駄目な事、悪い事を見逃せないだけだから彼女に非はないが、相手が指摘されて納得できる年頃ではない。カッとなった相手に手を出される事もよくあり、押されて転んで怪我をするのは日常茶飯事だ。

2018-09-03 00:14:35
とり @sssupple

遠足で一番心配なのは、外に出て大人に向けてその正義を振るわないかどうかだ。正義を貫くには力がいるが、彼女にはまだそれだけの力はない。力のある悪は正義を潰してしまう事だってあるのだ。だから大人相手の時は見かけたら何もせずに風見に言うようにと口を酸っぱくして言ってある。

2018-09-03 00:20:10
とり @sssupple

それを見抜かれたのかと彼女を振り返りながら「余計な事って?」と問い掛けると、「カゾクの事」と簡潔に返された。荷物を詰め終わって蓋を閉めた彼女は、明日のための服を枕元に用意し始める。「いい親って何だろうって、思ってないですか?」「……思ってます」

2018-09-03 00:22:46
とり @sssupple

「風見の思ういい親って何ですか?」改めて問われて、すぐに答えられない事に気がついた。いい親とは、何なのだろう。「一緒にいて、」「いっしょにいて?」「子供の事を最優先にして」「サイユウセンにして?」「何よりも大切に思ってる」「それでいいですか?」「はい」

2018-09-03 00:26:38
とり @sssupple

風見が言い終わった時、彼女は目の前に来て、何をするのかと思えば。「ぶぶーっ!ハズレです!」風見にもわかりやすくするためにか、両手で大きくバッテンを作って見せた。「イッパンテキにはそうかもしれないですけど、千代と風見はイッパンテキじゃないので当てはまりません!」

2018-09-03 00:29:17
とり @sssupple

「一般的」「イッパンテキ」少しだけぎこちない言葉を繰り返せば、彼女ももう一度口にして見せた。「いっしょにいないといけないなら、おしごとでかえってこないパパはいい親じゃなくなります」確かに。戸籍の上でも父親でもない降谷だ。何を基準にいい親になるのかもわからない。

2018-09-03 00:31:57
とり @sssupple

「ママもニュウインしてて千代と居ないことが多かったので、いい親じゃなくなります」その言葉で気がついた。言わせてはいけなかった言葉を、風見は言わせてしまった。彼女自身が気にして居ないとはいえ、これは余りにも失礼だ。謝ろうとしたが、風見はその前に小さな手で口を塞がれた。

2018-09-03 00:33:52
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