- yorishirosama
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「みんなぁ~……私を――見てぇ~~っ♪!!!」 女性がコートを脱ぎ捨て、柔らかな肢体を太陽の下に晒し出す。 シミ一つ無い白磁のような素肌、均整の取れたボディバランス。 まるで人のものとは思えない、妖艶な美しさを惜しむこと無く曝け出している。
2018-09-16 23:11:28周囲の人々は――あまりにも意外な光景に、驚きを隠すことなど出来やしない。 そしてあまりにも唐突に――"変化"が、訪れる。 日差し、暖かく柔らかな日差し。 それを浴び続けた女性の姿は――
2018-09-16 23:12:19『大物吸血鬼 白昼堂々の自殺!』 『夜の街の大物、朝焼けに死す!』 『突然の自照行為...彼女に何があったのか』 『※本日のおいしいスープ特集はお休みです』 『照光自殺にさらなる大物の影? 当紙の調べによると――』
2018-09-16 23:13:47俺はため息を吐きながら、何枚ものタブロイド紙をまとめてクズ籠に投げる。 「やれやれ、何も分かっちゃいないようだ」 俺はもう一度ため息を吐き、底にこぞんでいた泥水のようなコーヒーを飲み干した。
2018-09-16 23:14:18俺は、吸血鬼狩りを生業にしている。 つまりは「吸血鬼ハンター」……全く、時代遅れにも程が有るぜ。 今や吸血鬼は完全に人類に溶け込んでいる。 だから単純に――「特定人種に絞った殺し屋」でしかないんだ、ハンターなんて。
2018-09-16 23:15:18吸血鬼にも政治家、事業家、投資家、暴力屋……要は他人に恨みを買うような連中はそりゃあいる。 プライドは高いくせに、人間と大して変わんねーってのがちょいとばかし哀れだが。 そんなわけで、"需要はある"んだよ。この『商売』は……。
2018-09-16 23:16:33まあ、ハンターとは言っても。昔みたいに、十字架やニンニクや白木の杭……なんて、野蛮なものは使わない。 俺が使うのは――『太陽』だ。
2018-09-16 23:16:52知ってるだろ? 吸血鬼の最大の弱点。 思いっきり浴びちまえば、たとえ真祖だろうと無機王だろうと塵になって焼け死んじまう。 まあ、たまに全然効かねえデイウォーカーなんてのも居るがな……ありゃあ別の手段でやるしかねえ。専門外だ。
2018-09-16 23:17:25……あん? なんだって? そんなことが出来るわけがない? 吸血鬼に、直に太陽を浴びせられたら誰も苦労はしないって? そりゃそうだ。連中はヒトより力は強えし、魔法みてーな変な力まで持ってやがる。 力づくじゃあ、そりゃあ無理だよ。出来るわけがねえ。
2018-09-16 23:17:53……じゃあ、どうやってるかって? なに――簡単な話さ。 『奴らが自分で、太陽の下に出るようにすればいい』のさ。 そうすることが、俺には出来る―― ――この、"欠落魂"の[ゼーム]様ならな。
2018-09-16 23:18:39俺は昔から、魂を体の外に出すことが出来た。 地元の統一神官曰く、「体に収まるべき魂が足りず、欠けている」から、らしい。 先祖の不徳だの悪魔の呪いだの散々罵られたが……結局の所、これは俺の"才能"だったってわけだ。
2018-09-16 23:19:44誰にも見えずにどこへでも行けるし、見たいものは見たい放題だ。最高だぜ? だが人の体には触れられねえし、奥まで突っ込んだら弾き返されちまう。 さっきの例えで言うんなら、「魂の満ちた器」に、それ以上は入らねえんだろうな。
2018-09-16 23:20:24そいつが悪い女でよお、可愛い子供を攫っては血を食い散らかして、吸い殻はその辺に放り捨てちまう様なクソッタレだったんだ。 その女に追い回されて付け回されて――いよいよ食われちまう! って事になったわけだ。
2018-09-16 23:21:42――あ? 「その顔で?」だと? うるせえ、俺も昔は紅顔の美少年だったんだよ。 っておい、誰が厚顔無恥だ。睾丸でもねえよ。 黙ってろ話の腰を折るな。ったく。
2018-09-16 23:22:53それで、いよいよもって絶体絶命の危機に陥った俺は―― ――最高に素敵なアイデアを思いついた。 自分の体から抜け出したのさ!
2018-09-16 23:23:52何を思いついたかって? 統一神官の野郎が言ってたクソ話さ。 えーっと、確か…… 「人が人であることを止め、吸血鬼となる時。 その魂は永遠に失われ、二度と死後の安らぎを 得ることはできなくなるのです」 とかって話な。
2018-09-16 23:25:28そんな説教くせえ文言だがよ……。 そん時の俺には、起死回生のチャンスだったんだよ! 「魂の無い吸血鬼の体になら、 俺の魂が入り込めるんじゃないか」ってコトよ!。
2018-09-16 23:26:32――で、だ。 結果は、大成功だ。 気がついたときには眼の前に、ぶっ倒れた俺の姿が。 場所はあの女が嗤っていた場所。木の位置からして多分そうだった。
2018-09-16 23:28:07手を見ると尖った爪に白くて細い指。 肩は夜風にあたってスースーするし、口はなんだか噛みあわせが悪い。 股の下には何にもねえし、俺の体を見てるとなんでか興奮してくる。 歩きづれえ靴のまま、フラフラと水場を探して見つかって。 水面を覗いてみると、なんと誰の姿も写ってねえんだ。
2018-09-16 23:30:35――わかるか、おい? 乗り移ってたんだよ、その女吸血鬼に! "完全"に"自由に動かせる"んだ、何の邪魔も入らずに――!
2018-09-16 23:31:30