ドラゴン・インストラクション #3

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
2
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「貴様らに斟酌する理由は特にない」ニンジャスレイヤーは答えた。カークィウスはその目にただならぬカラテの漲りを輝かせた。「そうか。その不遜ゆえに、お前はここで死ぬ事になる。……そして、サツバツナイト=サンとやら」カークィウスは黒橙のニンジャに睨みを移した。 24

2018-09-18 23:50:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お前が各地で残した情報は断片的なものばかりで、短時間でさほど得られるものはなかった。無名のニンジャよ、何故この物狂いのニンジャに力を貸す。聞いておこう」「成り行きだ。しかし私自身、オヌシらの行いは見過ごせぬ。探偵だからだ」サツバツナイトは低く言った。 25

2018-09-18 23:55:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アダナス社のシステム・オマークを用いた、人体由来のエメツ人工精製。真実か?」サツバツナイトは単刀直入に問い返した。カークィウスは「ハ!」と一声笑い、答えた。「不遜の次は好奇心か。どちらも致死の病よな。そこまで知るならば当然、生かしては返さぬ。貴様の素性全て吐き出させ、殺す」 26

2018-09-19 00:01:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャ同士の殺意が庭に凝集した。だがそれで終わりではなかった。彼らはカラテを構え……「!」瞬時の状況判断ののち、背中合わせに立った。彼らがくぐってきた黒白の縞幕が開き、一人のニンジャがゆっくりとエントリーしたのである。「ドーモ。サイグナスです。どうやら間に合ったようだな」 27

2018-09-19 00:06:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「始めるところだ、サイグナス=サン」カークィウスが咎めるように言った。サイグナスは鼻を鳴らした。「ならば二人がかりといこうか。割り込ませてもらうぞ」「当然だ、ワイズマン」カークィウスが頷いた。「役に立て」「こいつらには借りがある。この手で葬れるのは僥倖だ」 28

2018-09-19 00:11:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーはカークィウスに。サツバツナイトはサイグナスに正対する。サイグナスは目を細める。「二人がかり……フン……二人では済むまいな。お互いにな……」その身体の輪郭がブレ始める。ブンシン・ジツの予兆である! 29

2018-09-19 00:13:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ドアノブに手をかけた彼女は、入室前に息を止め、一度俯いた。俯きながら、そんな己に、恥に似た困惑を覚えた。彼女は……ザルニーツァは息を吐き、入室した。かつての自室に。ゾーイは部屋の隅、木人の陰に座っていた。少女は強烈な憎悪の眼差しをザルニーツァに向けた。 31

2018-09-19 00:20:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ザルニーツァはフルメンポを脱ぎ、小脇にかかえる。彼女は既にイサライト・アーマーで身を鎧っている。高濃度の酸素とともに濃縮オンセンを循環させるテアテ・カプセルとスシ・エッセンスの点滴。カタナ社に由来する先端治療により、彼女は短時間のうちに戦闘継続可能な状態まで回復している。 32

2018-09-19 00:24:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何の用」ゾーイは立ち上がり、拳をかためた。「やめておけ。無駄だ」ザルニーツァは言った。彼女はホテルのスイートルームめいて広い部屋を見渡した。「……ここは変わらない。私が使っていた部屋だ。せいぜいくつろぐがいい」「それじゃルームサービスを呼んでよ」ゾーイは剣呑に切り返した。 33

2018-09-19 00:30:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「クマのぬいぐるみでも欲しいか?」ザルニーツァは冷たく言った。ゾーイは少し躊躇った後、挑発的に、威圧的表情のクマのぬいぐるみを「取り出し」、床に投げ捨てた。01のノイズが散り、ザルニーツァは微かにカラテ警戒する。やがてノイズは消えた。「そうやって会いに来るのが好きなのね、アンタ」34

2018-09-19 00:34:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゾーイは木人を掌でバシバシと叩きながら、毒づいた。「ここがアンタの部屋?こんな木人が用意されて。笑っちゃうよね」「……そうとも。カラテを鍛え、ボスに貢献する。その為のものだ」「……」ゾーイはザルニーツァの回答に、やや困惑した視線を返す。棚の写真立てに、旧い写真。埃を被っている。35

2018-09-19 00:38:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「で。何しに来たの」ゾーイは再度尋ねた。「自分の部屋をアタシが使うから、文句を言いに来た?」「……」何故?ザルニーツァは自問する。写真立てを取り、裏返す。この部屋は今の彼女が来るべき場所ではない。なにしろゾーイの監禁場所だ。見咎められれば、場合によっては申し開きの必要すらある。36

2018-09-19 00:45:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……諦めろ。諦めて、ボスに従え。それを言いに来た」ザルニーツァはゾーイの目を見て言った。「ここはエッジカム火山の中だ。ニンジャスレイヤーがお前を取り戻しに来た」ゾーイの表情に、ひととき、歓喜と心配が入り混じった。ザルニーツァはそれを打ち消すように言った。「だが、無駄だ」 37

2018-09-19 00:49:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「なぜ」「奴は死ぬ。カークィウスとサイグナスが奴を迎え撃った。どちらも、過冬で最も強いニンジャ達だ」「アンタみたいに?だけど、アンタじゃ止められなかったよね」「震えているぞ」ザルニーツァは言った。ゾーイは怯んだ。「アイツは強いよ」「サイグナス=サンは……最強ではない。わかるか」38

2018-09-19 00:55:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」「最も強いニンジャの一人だが、最強ではない。仮に彼を倒したとして、ニンジャスレイヤーを待つ運命は変わりはしない。そういうことだ。このシトカの海が、奴のオブツダンだ」「うるさいなあ!そんな事を言いに来ただけなら、帰ってよ……帰れ!」ゾーイがザルニーツァを押そうとする。 39

2018-09-19 00:58:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ザルニーツァは当然、苦も無く彼女の手首を掴み、逸らした。「私の部屋だ。私が決める」「くだらない。暇潰しに来たの?」「そうかもな」ザルニーツァは答え、目を閉じ、また開いた。「……私はお前と同じ孤児院にいた」彼女は言った。ホテルで呟いた言葉を続けるように。「そして、ここに来た」 40

2018-09-19 01:03:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それで、なに」「ボスは私に全てを与えた。お前にも、そうするだろう。ボスが必要としているのは、お前の力だ。だから、お前をいたずらに傷つける事はない。自暴自棄になるな、ゾーイ=サン。それは誰の為にもならない。つまり、なによりも、お前の為にならない」「……」 41

2018-09-19 01:08:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゾーイは俯いた。やがて言った。「銀の浜辺のハーミットは、アタシの力が無ければ、死んでしまう」「死んでしまう?……そうか」ザルニーツァは心臓を貫いた相手の顔を思い浮かべる。あれで生き延びたか。「それで?」「助けて。アイツを助けて」 42

2018-09-19 01:18:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どうやって」「アタシを銀の浜辺に連れて行ってほしい。そうしたら……」「協力するのか?お前は大人しくエメツを吐くのか、それで」「……そうすれば」ギュッと閉じたゾーイの目から、涙がこぼれた。ザルニーツァは考えを巡らせた。胡乱な隠者の一人二人。「そうか。ボスに掛け合ってもいい」 43

2018-09-19 01:21:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それなら……!」ゾーイは勢い込んだが、ハッとなり、再び俯いた。「……ニンジャスレイヤー=サンの事を……!」「ダメだ。それは聞き入れられない」ザルニーツァは首を振った。「あれは過冬の敵だ。ボスはあれを必ず殺すと決めている」「アタシと……グレイハーミットの為なんだ!」 44

2018-09-19 01:27:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ボスは望みを叶える。お前は大事にされる。それが最善だ」「う……う」ゾーイは嗚咽する。「い、嫌だ……ダメだ……!」「……!」ザルニーツァはゾーイをじっと見た。彼女はゾーイを強く抱きしめた。彼女の胸に強い哀切が沸き起こった。「ゾーイ=サン。気持ちを静めろ。苦しむことはない……!」45

2018-09-19 01:31:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

遅れて、ザルニーツァは困惑を深める。自省する。この娘の境遇に感情移入し過ぎている。ゾーイから身を離そうとする。ほとんど同時に、ゾーイがザルニーツァを突き飛ばす。「離れろ!」ザルニーツァは後ずさった。ゾーイは泣きながらザルニーツァを睨み、息を吐いた。首元が赤く光っていた。 46

2018-09-19 01:34:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゾーイの怒りが苦悶に変わった。彼女は熱いものから身を離すように、首飾りを外した。今やまともに触れられぬほどに赤熱するその首飾りは、八方向、ランダムな方向に刃が飛び出したスリケンだった。 47

2018-09-19 01:36:15