呟怖と散文

晴れ時々雨 @rio11ruiagent

君のことを思い浮かべながら、この気持ちをどうしようか考えた。 言葉にするのは難しすぎる。 文字にすれば安っぽい。 写真を撮るのに似ている。 見たままの風景は手には取れない。 そこには僕のささやかな感情があるから。 どんなに陳腐でも、笑われても、表して確認したい。

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夫の友人だというその人と出会ったのは、昼下がりのホテルのレストランだった。お互い伴侶同伴で席についた。 目が泳いだのだと思う。 テーブルクロスの下で、彼の硬い足指が太腿に触れた。繰り返す恐怖と快感。 それからは４人で会うたび私を試す。トイレの中で抱き合う、キスの作法を教わった。

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口を開けた瞬間、ちらと覗く。食事をしている最中ぺろりと唇を舐めるそのピンクの舌がいかがわしい。 真っ昼間のオープンカフェでサンドイッチにかじりつく歯をなぞる仕草が艶めかしい。 途中になった会話もそぞろに、頭の中はあれを使うことでいっぱいだ。今あたしを覗かれたら、それはそれでいい。

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心を開くってなんだろう。 誰でも他人に心を開きたい。 でもそれをすると傷つくことも知っている。だから限られた人にしかしたくない。 好きな人には心が開けるのか。そもそも開かなけりゃわからないような想いってなんだ。 そんなもんは誰も知りたくねぇんだよ。 知ってほしければ知れ。後は合わせろ

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きみが死んだあの日から、きみの命日には思いっきりお金の無駄遣いをして遊ぶんだと決めている。 チャーシュー麺のトッピングでチャーシューを追加する。UFOキャッチャーのぬいぐるみが取れるまでチャレンジする。映画館でバケツポップコーンを食べる。 それから、抱え切れないくらいの花束を君に。 twitter.com/jellyfish_mono…

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「ご臨終です」 体はな。 家族が泣き崩れるのを合図に、こいつらははしゃぎだす。調子の悪い肉体を脱出し、のびのびと饒舌になる。 ああうるさい。聴診器を掛け直して早々に病室から退散する。どんなに叫んだってもう誰にも聞こえないんだ。俺以外にはな。 #呟怖

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玄関の開く音と共に、こんにちはーと元気のいい声がする。 あの子は毎週火曜にこのそろばん塾へ一番にやってきた。授業開始の１５分前、その日あった出来事などを話す。 「こんにちはー」 ざっと風が吹き抜けて今日も声がする。もう半年か。あれ以来、姿は見えない。 #呟怖

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君はなんの衒いもなく微笑む。僕の邪とも言える気持ちも知らずに、車のドアを閉める。僕はすかさずロックする。 完全なふたりきりだ。密室だ。だが君は完全と言えるのか。僕が欲しいと言えるのか、その美味しそうな唇で言うのか、子猫のような声で言うのか、指で乳房で足首で。 僕は完全に狂ってる。

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人混みの中 周囲の喧騒も耳に届かず 目と目を合わす 言葉もなく そのドアを閉めれば 風もなくなり そこはふたりの世界 #詩人の本懐 完全

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明日のことを考えながら眠るように逝けたら。 それか、何か避けられない事故で一気に死にたい。 そういうときが来るかもしれないから、一生懸命生きたい。 自分が曖昧になって、お荷物になるのが怖い。 でもそれは、人生のシード権もらったと思おう。 #理想の死に方コレクション

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幼馴染みが高校野球地区予選で決勝まで行った。快挙だった。学校を上げて応援し、まさかの決勝進出。優勝旗までは届かなかったが、お祭り騒ぎだった。 後日試合への労いと喜びを伝えると、ありがとうと言いながら空を強く睨んだ。泥まみれのユニフォームが目に浮かんだ #君の見た空の色を僕は知らない

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私は不本意ながら介護を受けている。洗濯物を抱えたまま庭先の花壇を仕切ったレンガで躓いて、その拍子に手を付いて骨折、足首もやってしまった。 息子は遠方で所帯を持っているので頼れない、頼りたくもない。 隣の奥さんから聞いて介護センターに頼んだ。職員さんは手厚い。私は寝てばかりいる #呟怖

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夏でも肌を出さないとはきっと何かあるんだろうとは思っていたが、二の腕に赤い傷があることを知ったときは、ある種の興奮から少し動揺してしまった。 君らしからぬその引き攣れは、急に君の内部へ繋がり、僕をも引きずり込んだ。 そうだ隠しておけ。 それを知るのは僕だけでいい。

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商店街の先で老人が道に迷っていた。何か紙を見ながらぶつぶつ言っている。時間があったので声をかけることにした。しかし人通りはあるのになんで老人を放っておくのだろう。声をかけようとそばまで行くと、老人が持っている紙切れが見えた。「天国の行き方」という書き出しの細かい文が見えた。 #呟怖

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日曜だってのに精が出るわい。あの人はここには住んどらんが、週末んなるとこっちゃきてあの山の上の別荘で過ごしとる。畑なんかすごいもんだよ。なんとか言う肥料作る装置みたいなもん持っとって、それで作っとるんだわ。胡瓜だの茄子だのじゃが芋まで育てて。平日は儂が水撒き頼まれとる。 #呟怖

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このままじゃやられる、急いで防御の体制に入る。 逃げ込んだテーブルの隙間からスリッパの砲弾が鋭く撃ち込まれる。危ない、すんでのところで避けたがもう後がない。出口のドアは手の届く位置にあるかのように見えた。タイミングを見て手を伸ばすと腕組みした母が立っていた。 「牛乳買ってこいや！」

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どうしてそんな優しい顔するの？なんだか居場所をなくしてしまう。今までなんてことなかった一人の時間も、あなたのことでいっぱい。どうしちゃったのわたし。変だよ。あなたが好きなんて言うから、普通を忘れちゃったじゃないか。 #優しい言の葉 逆

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さよならを言うつもりが、どういうわけかあなたの告白を聞くことになった。わたしは何度許すのだろう。こうして幾度も心をひっかかれ、それが癒える頃同じ場所を再度触られる。わたしの心は硬くなり、小さい傷には目をつぶれるようになった。あなたは何をわたしから奪ったの。どこまで強くあればいいの

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セックスがしたいと思った。 誰かの言葉に相槌を打つとき。 書き留めるものを探しながら電話を受けているとき。 雑踏の中で信号待ちをしているとき。 誰かの愚痴を聞いているとき。 不意に無性に心がそこへ飛んでゆく。 #アトリエ部文芸展 願

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久しぶりに一人で街に出た。大体の用事を済ませ、独身時代に通った喫茶店に入る。ほろ苦いコーヒーの香り、呟くように流れるピアノのジャズ以外の静寂、懐かしさが込み上げる。本でも持ってくればよかった。店を出ると後ろから「ママ」と声がして思わず振り向く。我が子はもうあんなに幼くはないのに。

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縛るのは容易いが、それをほどくのは難しい。ズボンの紐を固結びにしてしまってほどけない。履いていると丁度よいのに脱ぐのが面倒だ。 どうしたらこの女を置いていけるだろう。そんなことばかりが脳を支配している。 #呟怖

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こうしている間にも私の脳は忙しく微動している。人から見ればただじっとして座椅子に腰を落ち着けているように見えるだろう。仕事場での出来事や夕飯の献立、猫のあくびや寝返り、猫の呼びかけ、猫の爪の長さ。ああ。全部10円で買えたらなぁ。さ、風呂でも入るか。

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穴の空いた靴下で一日過ごしてみてわかった。そんなことは誰も気にしないし、むしろ自分が忘れてしまうのだ。歩くとぺたぺたする。米粒でも踏んづけているんじゃないかと３回は確認してしまった。４回目には、洗濯する前に捨てようと心に留める。脱いだあとゴミ箱に放り入れ、忘れなかったことを喜ぶ。

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少し目を離した隙に彼女は手首を切ってしまった。蒼白な顔で弱まっていく体を抱き留め、手首を押さえる。今回はかなり深い。押さえた指の間から血液が溢れる。水を貯めた浴槽に拡がるそれは、まるで真紅のビロードのリボンのようで、彼女の生と死の美しさを思わせた。処置も忘れ魅入った。 #呟怖

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ある町の少女が亡くなった。死因は浴室での頭部打撲だった。近所の者は噂する。あそこの奥さんはよく子供を怒鳴っていた、性格も激しかった。少女も変わった子だった。もしかして虐待なのではないかと。噂は独り歩きして、もう一度少女を殺す。母は２度少女を亡くす。 #呟怖