-
ayaka_inabashi
- 876
- 2
- 0
- 0
![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
しかし、かよわいレディを連れて下水散歩とは……なかなかよろしくない趣味をしてやがる。このマンホールが何処に繋がってるかは分からんが、“騎士”にでも見つかったらそれこそ面倒だろうに。まさか“王国”全体を敵に回すつもりか?だとしたら尊敬する。 #101
2018-06-14 20:28:53![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
容疑者……スーツ男の動機を絞る材料がない以上、考えすぎは脳細胞をイジめるだけだ。可能性をひとつずつ取り除いていけば、最後には真実だけが残る。それが俺のポリシーだ。 #102
2018-06-14 20:29:15![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
まずはレディ・榎子の安否確認を急ぐのが先か。最悪の場合、既にタイムオーバーになっている可能性もある。だがそうじゃない可能性も同じだけある。それなら脚を動かさない理由はない。俺はしゃがみこみ、重く蓋をされたマンホールに右羽をかけた。 #103
2018-06-14 20:30:23![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
マンホールを開けようとしたその姿勢のまま、俺はフリーズせざるを得なくなった。俺の首元に、ひやりとした金属の感触が伝わる。何者かが背後に立って、刃物を突きつけてやがるんだ。 #105
2018-06-14 20:31:41![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「両腕を上げてゆっくりと立て」男の声が俺に指示をする。迂闊……いや、殺気は全く感じなかった。正確に表現すれば、今この瞬間にも刃物の気配以外には“何も感じない”。完全に気配を遮断している。相当の手練だ。……“隠れバディ”が苦戦する理由が分かったぜ。 #106
2018-06-14 20:32:19![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「……腕じゃなくて羽なんだか問題無いかい、ミスター・ワタナベ」「……立て」俺は男に背中を向けたままそれに従う。声に少しだけ動揺が混ざった。間違いない、レディ・榎子を連れていたスーツ男……仮称ワタナベ・タナカその人だ。 #107
2018-06-14 20:32:54![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「妙な真似をしたら躊躇いなくナイフを引く。こちらの質問に正確に答えろ、化物」「化物とは心外だね、こんなイケメンを捕まえといて」「……余計なことは喋るな」参ったな。質問したいのはこっちなんだが。 #108
2018-06-14 20:33:29![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「お前の所属は何処だ」「……悪いが、顔も知れない相手とお喋りする趣味はないね」そう言って、俺はスーツ男へと振り返る。「警告はしたぞ」男はその手に握った大型軍用ナイフに力を込め、俺の首を無慈悲に切断した。 #109
2018-06-14 20:34:25![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
―――かのように思っただろうな、この男は。「……何だと」ガキン、と金属同士が衝突する音を立て、そのナイフは刃こぼれしていた。「思ってたより良い男じゃねえか。ヒトじゃなかったら俺の親戚にモテそうだ」 #110
2018-06-14 20:39:47![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
ナイフを滑らせた首元の羽が数枚抜け落ちる。カラン、と軽い金属音。地面に落下した羽は錆び付いた金属のように変質していた。こいつは俺の特技のひとつだ。 #111
2018-06-14 20:40:05![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
俺は自分の羽を硬質な銀(R:シルバー)に変えることが出来る。但し、持続時間は一瞬だ。それこそ眼をぱちくりした後には、こんな具合にたちまち錆び(R:ラスティ)になっちまう。だがこれでも役に立つ時がある。例えば、不審者に不意に刃物の一撃を喰らいそうになった時などだ。 #112
2018-06-14 20:40:24![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「……化物め」「そんなに褒めるなよ。何も出ないぜ」 男は刃こぼれしたナイフを捨て、どこからともなくナイフを2本取り出し両手に握る。(一瞬で装備した。恐らくウェポンマウントだ)……二刀流か。先程よりも隙がなくなった。 #113
2018-06-14 20:47:17![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
不意の襲撃者と対峙し、俺は改めてそいつを観察する。会社員(R:クグツ)風の黒スーツ。身長は180……183cmってところか。しかし、ここまでハッキリと姿を捉えて尚、こいつから気配がしないのが不気味だ。眼では確認出来ても、脳が“誰もいない”と告げている。 #114
2018-06-14 20:48:48![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
俺は上げた両羽をやや広げて首を振る。ヒト風に表現すれば“やれやれ”ってところだ。「俺の知名度もまだまだってことか……急いでスポンサー捕まえて、千早さんあたりにCMでも作ってもらわねえとな。そしたらテーマソングはミス・メロディだな」「……何者だ、お前は」 #115
2018-06-14 20:50:11![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「俺の名はホークアイ。街に埋もれた真実を掘り起こす考古学者……もしくは、私立探偵さ」状況は芳しくない。相手は恐らく戦闘の達人で、しかも至近距離(R:エンゲージ)にいる。だからこそ、俺は焦りを顔に出さず余裕ぶる必要がある。 #116
2018-06-14 20:51:04![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「探偵……」「ああ。大事な娘が失踪したから探してくれ、ってご両親からの依頼でな」正確には違うが、依頼人に対しては守秘義務ってもんがある。決してペットロイドに依頼をされたくだりを説明するのが面倒だったわけじゃない。 #117
2018-06-14 20:51:24![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「そして調査の末、アンタと女の子がここで姿を消したってのが分かって……あとはこの通りさ」「……どの組織にも所属していないと」「熱烈なファンはいるかもしれんがね」「…………」男は考える素振りをする。もしかしたらIANUSで“しかるべき所”に報告してるのかもしれんな。 #118
2018-06-14 20:52:35![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
暫く押し黙った後、男は口を開いた。「お前、先程の与太で……“千早さんあたり”、と言っていたな」「そりゃCMEは最大手だからな」「そうじゃない……お前は千早の手の者ではないのか」 #119
2018-06-14 20:53:25![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
そういう言い方をするってことは……成程ね。「アンタ、イワサキの工作員(R:カゲ)か」「……」「肯定と受け取るぜ」 #120
2018-06-14 20:53:44![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
非合法セクションがあるのは千早重工だけじゃない。軍産企業であるイワサキにも、お抱えの“ニンジャ”がいるってわけだ。それがコイツの正体。万一の時に千早に罪を被せるために、ペルソナを偽装していた、というストーリーだろう。 #121
2018-06-14 20:54:02![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「まさか、イワサキのクグツが少女趣味だったとはね」わざとらしく溜息をつく。「抜かせ。これは上からの任務だ」「だろうな」しかし、レディ・榎子にもしもの事があれば、俺はコイツともう一勝負しなけりゃならん。例の特技は恐らく二度は通じない。厄介だな。 #122
2018-06-14 20:56:54![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「俺の依頼は、迷子の子猫ちゃんを親元に無事に返すことだ。イワサキとやり合うつもりは毛頭ないが、アンタがそれを邪魔するなら、俺も“武器”を出す必要がある」……殆どハッタリだがね、と心の中で付け加える。男はナイフを構えながら俺を観察し、そして思いもよらないことを言った。 #123
2018-06-14 20:57:09![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「あの少女はおれが保護している」……なんて言った?「保護だって?」「どうやらお前は敵ではないらしい。余計な仕事をするのは主義に反する」そういうと男は手ぶらになった。またも一瞬で。仮に俺が不意打ちしても、あっけなく捌かれるだろう。そのままローストされたらたまったもんじゃない。 #124
2018-06-14 20:59:27![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「ホークアイ……と言ったか。少なくとも現在の任務が終わるまでは、あの少女は無事だ。適当に理由をつけて家に帰すつもりだった」俺は男の両眼を観る。相変わらず気配は読めないが、その眼は真実を語っている。そのくらいは雛鳥でも分かるだろう。 #125
2018-06-14 20:59:57