【ドルフロ】うちの支部

Twitterでだらだら書いている二次創作小話のまとめです。
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さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

傘ウイルスは、あくまでもグリフィンの人形をアクセスポイントにする事で情報を漏洩させるものだ。植え込まれた人形達に長らく自覚がなかった事からも、(結果的にそうなる事はあったとしても)裏切らせる目的で運用されるものではない。 しかし、今回遭遇したPPKには、鉄血に寝返った自覚がある。

2019-11-30 19:31:57
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

厄介なのは、彼女の見た目はグリフィン製のPPKそのものである事だ。恐らく中身もグリフィン製のまま、命令系統だけが鉄血のものなので、純正のグリフィン製PPKと混ざると判別がつきにくい。 彼女が戦場を彷徨っていたところで、鉄血の人形だとは思われまい。はぐれ人形として保護される事も有り得る。

2019-11-30 19:38:54
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

「何食わぬ顔で支部に入り込んだら、後はもうやりたい放題。情報を抜き取るも良し、通信系統を滅茶苦茶にするも良し、鉄血に襲撃させるも良し」 「そうして壊滅したのが、416の元居た支部と言う事か」 「そうなる。確認したけど、確かにそこにもPPKは所属してた。うちとは別個体のが」

2019-11-30 19:42:57
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

HGレベルの情報処理能力があれば、支部の戦力と傾向を把握し、弱点を突く事など造作もないだろう。こうして、傍目には鉄血の襲撃を受けて壊滅した様に見せかける。本人はグリフィンに残る痕跡を何も持たないので、死んだ事にして行方を眩ませられる。 先程も言ったが、悪趣味極まりない。

2019-11-30 19:56:53
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

「どうするんだ、ボス」 「とりあえず、夜戦部隊がリストア終わるまでは全作戦を停止。純正の人形と見分けられないか、ペルシカ博士に打診してみる。その間は待機ね」 「了解」 事実上の長期休暇を言い渡して、私はペルシカ博士のもとに繋がる秘匿回線を開いたのだった。

2019-11-30 20:03:16
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

―――――――――― 訓練場に416が転がっている。 リストアが終わるなり、FALにリハビリと称して組手を申し込み、そして見事に負けたのだった。組手に勝敗とは、と思ったが、実際ボロ負けと言っても良い惨状だったので残当である。 FALが訓練場を後にすると、入れ替わりにPPKが入って来た。

2019-11-30 20:07:42
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

「まあ、毎度良くやること」 「何。笑いに来たなら帰ってくれる」 「結論を急ぐのは悪い癖よ、貴方。別に、少し話をしようと思っただけ」 黙り込む416。PPKの言う「話」が何を指すのかが解ったからだ。そしてその話題は、416の口に錘をつけるに十分なものだった。

2019-11-30 20:10:31
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

しかしPPKは意に介さず、話題の口火を切る。 「最初から、だったのかしらね」 その一言に416は目を伏せた。 仮にも数年、同じ支部で共に戦って来た仲間だったのだ。多少なりとその人となりは理解しているつもりである。そう思いたくない、と言う個人的な感情はさておいて。 「たぶん、そう」

2019-11-30 20:16:46
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

最初からそうだったとして、彼女はやるのか。そう自分に問いかけてみた時、やらないと断言出来る情報がなかった。だからきっと、最初からそうだったのだろう。 仲間だと思っていたのは、どうやらこちらだけだったらしい。そんな自嘲の込められた苦笑が、口の端を零れ落ちる。

2019-11-30 20:28:08
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

ああ、馬鹿みたい。向こうは仲間意識の欠片もなく、ただ淡々と、どうやって支部を滅ぼすか考えていただけだったのだ。まんまと騙された自分達は格好のカモだっただろう。本当に、馬鹿みたい――。 「わたくしの私見ですけれど」 ネガティブな方向に向かおうとしていた416の思考を、PPKが遮った。

2019-11-30 20:34:08
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

首だけを巡らせてそちらを見ると、PPKは相も変わらずのすまし顔でこちらを見下ろしている。 「居心地が悪いところに長居する程、我慢強くはないわ」 表情を変えず、そう言い切ったのだ。 慰めているつもりだろうか。向こうのPPKとこのPPKは違うのに。実際そうなのかは、本人に聞かないと解らないのに。

2019-11-30 20:38:48
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

ただ、存在しない筈の心が少し軽くなった気がしたのは、事実だった。 「そう」 だから、それだけ返して416は身体を起こす。いつまでも床に寝転がっていては、心配性の指揮官に叱られてしまう。風邪なんて引かないのだから要らぬ心配なのだが。 訓練場を出ようとする体勢で、PPKを振り返る。

2019-11-30 20:47:13
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

「なら、貴方が出て行く時は、見送ってあげる」 最後にそう言って、416は訓練所を後にした。 残されたPPKは、少しばかり呆気に取られた後、またいつものすまし顔に戻る。 「そんな日は、たぶん来ないと思うけど」

2019-11-30 20:50:43
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

―――――――――― ここにあるのは残骸だけだ。建物と、設備と、人形。何もかもが無残に破壊されて、もう永劫機能する事はない。あれだけ奮戦してくれた人形達も、鉄血とほぼ相打ちの形で死んでしまった。 俺もきっともう少しで死ぬのだろう。ほら、廊下を誰かが歩く音がする。誰なのかは、大体想像がつく。

2019-11-30 20:57:12
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

だから俺は執務机に座った。そこかしこに穴が空き、天板は折れて使い物にならないけれど、いつもそうしていたから。 足音がすぐ傍まで迫っている。扉はもう木っ端微塵で無いも同然だ。部屋の前まで来れば相手の顔は見えてしまう。そうすればもう、名前を呼ぶだけでいい。 「よう。首尾はどうだ、PPK」

2019-11-30 21:22:45
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

足音の主は、怪訝そうな顔でこちらを見るばかりだ。何故気付いている、と言わんばかりの。それは、それなりに長く彼女と接していても初めて見る表情だった。 「……上々ですわ。あとは敵の首魁を討ち取るのみ」 「そうか。お前は本当に優秀な司令塔だな。惜しむらくは、グリフィンの人形じゃない事か」

2019-11-30 21:31:46
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

「どうして、解ったの。徹頭徹尾、グリフィンの人形として振る舞っていたのに」 「ああ、迫真の演技だったよ。民生に戻れたなら女優もアリなんじゃないか? 少なくとも俺は、こうなるまで気付かなかった」 そう。彼女は馬脚を現さなかった。誰もが、PPKは勇敢に戦って死んだと考えただろう。

2019-11-30 21:35:02
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

しかし、こうなった途端に何もかもが繋がった。間違いであって欲しいと言う願いも虚しく、こうして彼女は俺の前に立っている。敵として。 「なら」 「簡単な話だ。状況が巧すぎる」 部屋の中で物言わぬ残骸となって転がる人形と鉄血兵を見渡す。コアがダメになっているので、修復は不可能だろうな。

2019-11-30 21:46:11
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

「あまりにも、この支部の事を理解した戦い方だった。うちはMGが居ないから、火力をRFに頼っている――つまり、物量戦に弱い事を理解していた」 まず最初に、弱い鉄血兵を大量に出す。HGでも2発あれば倒せるが、それが大量となれば、対応の為に多くの人形を前線に出さざるを得なくなる。

2019-11-30 21:51:40
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

結果論で言えば、それは悪手だった。弱個体の対応に追われて前線が崩壊したところにこそ、本命の第二陣が待ち構えていたのだから。盾役が居なくなれば、足の遅いRFはカモである。ダメージディーラーを確実に潰す為の強い個体が投入されたのだ。 うちでも特に練度が高い第一部隊が、そこで潰された。

2019-11-30 22:00:53
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

前線が崩壊した時点で416を呼び戻していて正解だったと思う。その後、通信系統が全てダメになっていたと解った段階で、すぐに416に記録を持たせて逃がすと言う選択が出来たから。こればかりは良くやった、俺。 しかし、それからは後手後手に回ってしまって全く駄目だった。本当に、よく理解してるよ。

2019-11-30 22:03:52
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

「タイミングが良すぎた。鉄血が攻めて来ただけなら、こんな状況はまず起こり得ない。つまり、支部の中に内通者が居るんじゃないかと思った訳だ」 「それで、あたくしに疑いの目が向いたと。仮にも第一部隊の司令塔であるあたくしを」 「いや、だからこそだ。当たって欲しくなかったのはそうだがな」

2019-11-30 22:11:09
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

今、俺はどんな顔をしているんだろう。笑ってるのかな、泣いてるのかな。自分でも何を信じれば良いのかよく解らなくなって来た。今から死ぬって言うのにそんな感傷を持っても仕方ないけど。 せめて、416が無事に逃げ果せている事を願おう。 「さ、これで終わりなんだろ。殺すならさっさと殺してくれ」

2019-11-30 22:15:32
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

胸の内に渦巻く色んなものが外に出ない様に、なるべく明るく告げる。死にたくないと言うのは簡単だが、それを聞いてくれる相手でもなし。 顰めっ面で俺を見ていたPPKは、一瞬視線を逸らしてから銃を構える。自分そのものである銃――ワルサーPPKを。威力は十分だが、一撃で殺してくれるだろうか。

2019-11-30 22:32:44
さかきじゅな@SS用 @JunaSakaki_SS

「指揮官」 引き金を引く瞬間、彼女の口から転がり出た言葉は、敵対しているとは思えない程に悲壮感に溢れたものだった。 「この支部、居心地は悪くありませんでしたわ」 「……そうか」 それが最後。 発砲音がした瞬間に、俺の視界は真っ暗になった。

2019-11-30 22:36:26
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