アルター・オブ・マッポーカリプス #4

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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【アルター・オブ・マッポーカリプス】#4

2018-12-10 21:32:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

今この時、シトカ港湾取引管理ビルの屋上にはソウカイヤのクロスカタナ・カトン・ホロ旗も、シトカ旧紋章旗も掲げられてはいなかった。海の男とヤクザは中腰姿勢で向かい合い、視線でお互いを殺そうとするかのような気迫で睨み合う。中央には側的テントが張られ、下にはショーギ盤。そして二人。1

2018-12-10 21:35:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ショーギ盤のこちらにはオールドストーン。あちらにはホローポイントである。海の男たちもヤクザ達も、この勝負テントに立ち入ることは許されぬ。インシネレイトもだ。彼は携帯端末をコールしたり、オールドストーンにぞっとするような恫喝の視線を投げたりと、忙しかった。 2

2018-12-10 21:37:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「クソが……クソが」インシネレイトはヴァニティとガーランドに繰り返しコールを試みる。応答がつかぬ。「何なんだよ……畜生なんなんだよ……!」振り仰いだ空には黄金の立方体がゆっくりと自転し、空は黄色く染まっている。黒いトリイが連なり、不可視の道を邪悪な一団がゆっくりと行進する。 3

2018-12-10 21:39:40
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「オニイサン……ヤベェ絶対にヤベェよ……!」「コイルド・サーペント!」オールドストーンはドス太い声を放ち、盤面にコイルド・サーペントの駒を張った。そして付け加えた。「お前ンとこのワカモノは勝負ってものがわからねえんだなァ!教育のほどが知れる。小便臭くて集中が乱れちまうわい」 4

2018-12-10 21:42:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そこは……アー……ブラインド・ベアが効いてンぜ」ホローポイントはブラインド・ベアでコイルド・サーペントの奇襲攻撃を倒した。しかしそれも罠の伏線であった。「オーテだ、お若いの」オールドストーンは言った。「……フー」ホローポイントは息を吐き、駒を投げた。「マイッタ。次だ」「よし」5

2018-12-10 21:45:30
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何事も無かったかのように、相対する二者は再び盤面に駒を並べ始めた。ここまでくれば勝ち負けはさほど意味がない。ただ、ショーギを行い続ける。死なずに座っていた方が交渉を制する。意地の世界だ。「オニイサン……」「ウルッセッゾコラー!クソタコスケッコラー!」ホローポイントが吠えた。 6

2018-12-10 21:47:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「で、でもよォ!マジにヤベェ感じですぜ……し、下を見てくださいよ」BLAMN!インシネレイトの頬を銃弾がかすめた。躱さなければ死んでいた。「チャルワレッコラー!」ホローポイントが叫んだ。オールドストーンは重々しく頷いた。「俺を起こしに来るバカが居るおかしな夜だ。何が来ても驚かん」7

2018-12-10 21:49:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

下の街の異常な状況は当然オールドストーンも知るところだ。陣頭指揮を執り、市民を励ます事ができればどんなによいだろう。だがスーサイドから渡されたこの場所を放棄する道理はない。ソウカイヤはシトカに譲ってはいない。いまだ五分の立場である。この場を捨てればそのバランスがさらに傾く。 8

2018-12-10 21:53:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ならば、オールドストーンはただ信じる。スーサイドがシンウインターの首を取り、戻って来る事を信じる。市民がこの災害に抗い、生き延びる事を信じる。それまでこの他所者のヤクザの身勝手な線引きを許すわけにはいかぬ。……ホローポイントも決して譲るつもりはない。メンツとソンケイにかけて。 9

2018-12-10 21:56:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シトカ港湾取引管理ビルの占拠、クロスカタナの掲示、それがホローポイントに与えられた至上ミッションだ。他の事は知らぬ。この場を任せて火山に向かったガーランドなり、市街で行動するヴァニティなり、他に任せておけばよいのだ。「こんな光景、見たことがないわ……」耳元の囁きも無視だ。 10

2018-12-10 22:01:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ねえ、私、多くの場所を旅してきたわ。色の無い浜辺、逆さの山々。でも、キンカク・テンプルがこんなに近くて、大きくて、明るいの。胸が騒ぐ……」ホローポイントはディアボリカに銃を向けたり、黙らせたりすることもしない。力を込めてフック・ムーヴァーの駒を動かす。オールドストーンが笑う。11

2018-12-10 22:03:38
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「システム省電力」「再起動思考1112度」「不正な処理が発生したので再起動します」ノイズまみれのシガーカッターの視界に、暴走したサイバネティクス自己診断プログラムの表示が辛抱強く繰り返される。それを止めるすべもないまま、彼は路上に両膝をつき、うなだれていた。 13

2018-12-10 22:07:19
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「システム省電力」「省電力モードに入るにはPINGを論理入力してください」「しばらくお待ちください」「……」じわり、じわり。傾いだネオン看板「電話王子様」の影が蠢き、這いずるものが近づいてきた。シガーカッターは腕を動かそうとする。動くのは幻肢だけで、実際の身体は動かない。機能停止。14

2018-12-10 22:09:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ナァグ……ナァグ……ナァグ」這いずりながら近づいてきた影は、シガーカッターの膝に、腿にしなだれ、手を伸ばして頬に触れた。「ナァグ……ナァグ……ナァグ」シガーカッターは瞬きした。「うむ」セプクする事すらできぬ。「ナァグ……ナァグ」さらに影がひとつ。後ろから抱きしめにくる。 15

2018-12-10 22:12:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ナァグ……ナァグ……ナ……アバッ!」影の一つが引き剥がされた。「イヤーッ!」「アバーッ!」その者が影の頭を踏み砕くと、半死体・半エーテルの異形は墨めいて散り、染みに変わった。その者は背中側の存在も剥がしとり、「イヤーッ!」「アバーッ!」カラテで蹴り殺した。「お待たせ。散々ね」16

2018-12-10 22:14:33
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「……ヴァニティ=サン」「見える?」「うむ」「立てる……」「否」「……わけないわね」ヴァニティは肩を貸して、重量のあるサイバネボディを持ち上げた。火花が落ち、濡れた地面に音をたてた。そのまま数歩歩いたが、足を引きずるシガーカッターにしびれを切らせ、彼女は抱え上げた。 17

2018-12-10 22:17:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「頭だけ持っていけば済んだりしない?」「残念ながら」シガーカッターは不明瞭な声をしぼりだした。「負け犬は置いていけ。ここでカイシャクするがいい。どのみち、俺は使い物にならん」「それを判断するのは私ではない」ヴァニティは鼻で笑った。「見つけたのが私でよかった。他の奴では運べまい」18

2018-12-10 22:20:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

KABOOOM……。遠くで爆発音。あるいは叫び。「状況はどうだ」シガーカッターが尋ねた。「……状況ね」ヴァニティは黄色い空を見た。「わかる事と、わからない事がある。わかる事で言うと、ついさっきガーランド=サンから通信あり」「うむ」「シンウインターは死んだ」「……そうか」 19

2018-12-10 22:25:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「キイイエエエエーッ!」KRAAAASH!前方、窓ガラスを割りながら路上へ飛び出したのはニンジャだった。ヴァニティはシガーカッターを抱えたまま、そのカラテをはかる。問題ないと判断した彼女は、走りくるそのニンジャを待ち構え、拳を固めた。「イヤーッ!」アイサツなしのジャンプパンチを躱す! 20

2018-12-10 22:29:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」お返しに腹に叩き込んだショートフックはニンジャの内臓を破裂させ、頭に巻いた布は弾け飛んで、口から臓器を噴出せしめた。「アバババーッ!」のたうちまわり、「サヨナラ!」爆発四散!「……どうした」「何でもない」「そうか」「ニンジャの真似事か、サンシタ以下のサンシタ」 21

2018-12-10 22:30:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「過冬か」「まさか」ヴァニティは坂をあがってゆく。オーロラは晴れ、かわりにもっとひどい空と、この異常な状況が訪れた。しかし瀕死の相手に現状や推測を話して聞かせるなど、骨折り損だ。ゆくてには高層ビルの割合が増え、ヴァニティは一度、携帯端末で座標を確認する。「どこに向かう」「帰る」22

2018-12-10 22:34:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ビルとビルのあわいのバンブー林にはアグラする者がいた。その者もニンジャだった。「ギャーテーギャーテー……」ザゼン・チャントを一心に唱えていたニンジャは、目の前を通過するヴァニティに目を剥いた。「……ハラ!見えたり!」無視して歩くヴァニティに言葉を投げる。「貴公もニンジャだな!」23

2018-12-10 22:36:38