- mzyukn_0809
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【グッドイブニングエブリワン。是より「ぐっちゃん現パロSS」、題して「しとど濡れたる宵待孔雀」の投稿を開始します。全字数は約1000字、推定所要時間は約30分です。実況……というほどの量もありませんが、タグは一応 #宵待孔雀 とします】
2018-12-21 23:04:52「……なによ、そんなに人のことじろじろ見て」 僕は慌てて彼女から目を逸らす。 再び部屋に沈黙が満ちて、雨が窓を叩く音、乾燥機の音、ココアを啜る音だけがか細い僕らを繋ぎ止めていた。 何をするでもなく、何を話すでもなく、純粋な静謐が、一種の神秘性をすら孕んで時計の針を進める。
2018-12-21 23:07:12「あの、先輩」 「なに」 そんな静けさは(少なくとも僕にとっては)心地良いものではあったが、僕はとうとうその帳を破った。 「その、えっと、僕……」 「なによ。ていうかこっち見ないで」
2018-12-21 23:10:16僕の寝巻きのジャージごと身体を抱くように、彼女は少し距離を置いた。 烏の濡れ羽色と言うのだろうか、彼女の湿った黒髪と、薄く紅の差した頬が、堪らなく煽情的だった。
2018-12-21 23:13:21「す、すいません。えっと、お代わり、要ります?」 「……る」 「え?」 「要る」 ずい、と目の前に空になったカップが差し出される。まだ少し湯気が立っていて、底には溶けきらなかったココアパウダーが固まっていた。
2018-12-21 23:16:02僕は渡されたカップを持ってキッチンに行き、カップにココアパウダーを足して先程余分に沸かしたお湯を注いだ。今度は溶け残りがないように、丁寧に底からスプーンで掻き混ぜる。
2018-12-21 23:19:22出来立てのココアを持ってリビングに戻ると、彼女は変わらず座椅子の上で膝を立ててクッションを抱いていた。僕は彼女の前の卓にカップをそっと置く。 「どうぞ。熱いので気を付けてください」 「ん」
2018-12-21 23:22:02僕が対面の座椅子に座ると、彼女はカップを手に取ってふうふうと息を吹きかけて、ゆっくりとココアを口に含んだところだった。 「だから見ないでって」 「すいません」 「謝るくらいなら最初から……もう」 はあと息を吐き、再びカップを傾ける。
2018-12-21 23:25:02それ以来互いに言葉を交わすことはなく、僕は窓の外の雨を眺めたり、ココアを飲む彼女を盗み見たりしていた。 やがて雨も小降りになり、ココアを飲み終えたらしい彼女が立ち上がる。
2018-12-21 23:28:23「先輩?」 「そろそろ帰ろっかなって。服も乾いただろうし」 彼女がそう言うと、測ったように脱衣所の方から乾燥機の電子音が鳴った。
2018-12-21 23:31:09乾いた服に着替えた彼女は、丁寧に畳んだジャージを僕に返して、玄関で靴を履いて振り返った。 「ココア、美味しかったよ。ありがと」 扉が閉まる。 彼女の着ていたジャージは、クチナシの香りがした。
2018-12-21 23:34:02