ジェンダーとかフェミとかはそもそも法律を理解せずにイギリスの法律を持ち上げている件

日本の場合基本的に同意は関係がない、ということがまるで理解できないのがすごい 構成要件をあいまいにすることが認められるということを平気でいうので、ジェンダーやフェミを学んだ人は法律関係者から排除した方がよい。 刑法の最低の知識すらなくして性犯罪を語るとか日本の刑法を語る信じがたい例
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/#MeTooから1年 なぜ日本は同意のない性交をレイプと認めないのか  イギリスとの比較
小川たまか | ライター
12/3(月) 11:30
  次の一文を読んでみなさんはどう思うだろう。

<セックスには、お互いの同意が必要。どちらかの同意がないのであれば、それは“レイプ”だ>

 「そんなのはおかしい」と思う人より、「当たり前だ」と思う人の方が多いのでは?

 けれど、司法の上ではこれは間違いだ。日本の刑法では、「同意がない性交=レイプ」とは見なされていない。殴る蹴るなどの暴力や、「殺すぞ」といった脅しを伴ったもののみが、レイプだ。しかし世界には、「明確な同意がない性行為はレイプ」と定めている国もある。(※1)

 世界的に起こった#MeToo運動から1年、不同意をレイプの成立要件としているイギリスでの視察を元に、なぜ日本ではその「当たり前」が実現できないのかを探った。
https://news.yahoo.co.jp/byline/ogawatamaka/20181203-00106312/

ARôK @roxokz

@lkj777 何かを考えている人が「全く何も考えない」のは不可能です。あなたの文章は支離滅裂ですよね。思考を整理してください。 相手の主張に反論したい場合は、その主張の誤りを具体的な根拠を示して論証しましょう。 RT @lkj777: イギリスであがって日本でも上がるとか考えるのも全くなにも考えていない。

2018-12-19 12:35:21
ARôK @roxokz

@lkj777 落ち着いて文章を読んでください。 わたしは「構成要件の要素を増やして検挙率があがる」と言っていません。 「強姦という集合の要素が増えるのですから、検挙率は上がります」と言いました。 RT @lkj777: さらに構成要件の要素を増やして検挙率があがるとはお笑いですわ。

2018-12-19 13:55:08

いうてるやんか

ARôK @roxokz

@lkj777 私は〈(強姦の)構成要件の要素を増やす〉などという話をしていないのです。強姦と認める要件を拡張するならば、という話をしています。 RT @lkj777: さらに構成要件の要素を増やして検挙率があがるとはお笑いですわ。

2018-12-19 14:07:42
ARôK @roxokz

@lkj777 たぶんあなたは次のように考えているのでしょう。 命題①〈Aならば強姦である〉にBという要件が加わると、 命題②〈AかつBならば強姦である〉になる。 その場合は、あなたの主張どおり検挙率は下がります。 認定範囲が狭くなりAとB両方を満たさないと強姦だと認められなくなりますから。 pic.twitter.com/wOv9qjE08Z

2018-12-19 16:37:18
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ARôK @roxokz

@lkj777 しかし、現実の法律は「AかつB」を要件としていません。 命題③ 〈AまたはBならば強姦〉です。 このように認定範囲を拡張することで、①では強姦だと認めらなかった事件が③では認められるようになります。 そして対象が増えるので検挙率は上がります。 以上、ガッテンしていただけましたか? pic.twitter.com/x0PysHqJir

2018-12-19 17:15:08
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第1 日 時  平成27年11月2日(月) 自 午前 9時15分
                      至 午前11時41分

第2 場 所  法務省第一会議室

第3 議 題  1 部会長の選出等について
        2 諮問の経緯等について
        3 性犯罪の実態に即した対処をするための罰則の整備について
        4 その他

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

○中村幹事 予定の時刻になりましたので,ただいまから法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第1回会議を開催いたします。
○林委員 法務省の刑事局長の林でございます。本日は御多忙中のところ,朝早くから審議のためにお集まりいただきまして,誠にありがとうございました。部会長が選任されるまでの間,慣例により私が進行を務めさせていただきます。
  まず,お集まりの委員や幹事の方々におかれましては,初対面の方も多いと思いますので,そこで,まず簡単にそれぞれの御所属,お名前等を伺えればと存じます。なお,本日は高橋宏志法制審議会会長にも御出席をいただいておりますので,まず御紹介いたします。
  また,後ほど出席の承認の手続をお願いいたしますが,関係官の方にもお越しいただいておりますので,併せて自己紹介をお願いいたします。
  それでは,恐縮でございますが,井田委員からよろしくお願いいたします。着席順にお願いいたします。
○井田委員 慶應義塾大学で刑法を教えております井田と申します。よろしくお願いします。
○今井委員 法政大学で刑法を教えております今井と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○小木曽委員 中央大学で刑事訴訟法を担当しております小木曽です。よろしくお願いします。
○北川委員 早稲田大学で刑法を担当しています北川佳世子です。どうぞよろしくお願いします。
○木村委員 首都大学東京で刑法を教えております木村でございます。よろしくお願いいたします。
○小西委員 武蔵野大学で臨床心理学を教えております精神科医です。小西と申します。専門はトラウマと被害者心理ということで,よろしくお願いします。
○佐伯委員 東京大学で刑法を教えております佐伯でございます。よろしくお願いいたします。
○池田幹事 神戸大学で刑事訴訟法を担当しております池田と申します。よろしくお願いいたします。
○岡本幹事 内閣法制局で参事官をしております岡本と申します。よろしくお願いいたします。
○香川幹事 最高裁刑事局第一課長をしております香川徹也と申します。よろしくお願いいたします。
○齋藤幹事 被害者支援都民センターで被害者支援をしております臨床心理士の齋藤と申します。目白大学にも勤めております。よろしくお願いいたします。
○武内幹事 弁護士の武内です。よろしくお願いします。
○田中幹事 警察庁の捜査一課長をしております田中と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○橋爪幹事 東京大学で刑法を担当しております橋爪と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○小林関係官 内閣府の男女共同参画局におります小林と申します。よろしくお願いいたします。
○塩見委員 京都大学で刑法を教えております塩見と申します。よろしくお願いいたします。
○田邊委員 東京地方裁判所で刑事事件を担当しております裁判官の田邊と申します。よろしくお願いいたします。
○角田委員 第二東京弁護士会の角田由紀子と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○平木委員 最高裁判所事務総局刑事局長の平木でございます。よろしくお願いいたします。
○三浦委員 警察庁で刑事局長をしております三浦でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○宮田委員 第一東京弁護士会所属の宮田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○森委員 最高検察庁検事の森でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○山口委員 早稲田大学で刑法を担当しております山口でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○松尾関係官 法務省特別顧問を務めております松尾浩也です。私が法制審議会の幹事に初めて就任しましたのは1965年のことでありましたから,ちょうど50年たちまして,いささかの感慨もございます。どうぞよろしく。
○松下幹事 法務省刑事局で刑事課長をしております松下と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○上冨委員 法務省大臣官房審議官をしております上冨と申します。よろしくお願いいたします。
○林委員 改めまして,法務省刑事局長林でございます。よろしくお願いいたします。
○加藤幹事 法務省刑事局刑事法制管理官の加藤です。よろしくお願いいたします。
○中村幹事 法務省刑事局刑事法制企画官をしております中村でございます。よろしくお願いいたします。
○林委員 どうもありがとうございました。
  次に,部会長の選任に移りたいと存じます。法制審議会令第6条第3項により,部会長は部会に属すべき委員及び臨時委員の互選に基づき,会長が指名することとされております。
  そこで,早速,当部会の部会長を互選することといたしたいと存じますが,御質問等ございますでしょうか。
  それでは,この互選に関しまして,皆様の御意見を伺いたいと存じます。どなたか御発言をお願いいたします。
○井田委員 山口厚委員を御推薦申し上げたいと思います。山口委員は学識,経験ともに豊かな刑法学の第一人者であられますし,また,先般の「性犯罪の罰則に関する検討会」でもいろいろな意見が出る中,実に見事な交通整理役,また取りまとめ役を務めてくださいましたので,最適任であると確信しております。
○林委員 ただいま,井田委員から山口厚委員を部会長に推薦する旨の御提案がございましたが,この御提案に対しまして御意見はございませんでしょうか。
  御意見はないようでございます。部会長には山口厚委員が互選されたということでよろしゅうございましょうか。
(「異議なし」の声あり)
  ありがとうございます。
  それでは,ただいまの議事のとおり部会長には山口委員が互選されましたので,高橋法制審議会会長に部会長の御指名をお願いいたします。
○高橋会長 ただいまの御説明のとおり,部会長につきましては互選に基づいて会長が指名するということになっております。
  そこで,ただいま互選されました山口厚委員を部会長に指名いたします。山口部会長,御審議,よろしくお願いいたします。
(山口委員 部会長席に移動)
○山口部会長 ただいま,部会長の御指名をいただきました山口でございます。充実した審議を円滑に進めてまいることができますよう部会を運営してまいりたいと存じますので,皆様方にはくれぐれもよろしく御支援,御協力をお願い申し上げます。
  高橋会長は,ここで御退室になられます。
(高橋会長 退室)
○山口部会長 まず,法制審議会令第6条第5項により,部会長に事故があるときに,その職務を代行する者をあらかじめ部会長が指名しておくこととされておりますので指名をさせていただきたいと思います。
  井田良委員にお願いをしたいと思います。よろしゅうございましょうか。
(「異議なし」の声あり)
  井田委員,どうぞよろしくお願いいたします。
  次に,関係官の出席の承認の件でございますが,法務省特別顧問の松尾浩也先生及び内閣府男女共同参画局推進課暴力対策推進室長の小林明生氏にそれぞれ関係官として,当部会に出席していただきたいと考えておりますが,よろしゅうございましょうか。
(「異議なし」の声あり)
  それでは,松尾特別顧問及び小林室長には,当部会の会議に御出席をお願いするということにしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
  次に,当部会の議事録の取扱いについてでございますが,法制審議会の部会における議事録の作成,公表方法等につきましては,平成23年6月6日の法制審議会第165回会議におきまして,発言者名を記載した議事録を作成して,原則としてこれを公表することとするとともに,一定の場合には発言者名等を明らかにしないことができるとされております。
  その法制審議会での議論の詳細等につきまして,事務当局から御説明をお願いしたいと思います。
○中村幹事 法制審議会の総会におけます議事録の取扱い等に関する審議,決定の状況について説明申し上げます。
  平成23年7月1日に公文書管理法が施行されたことに伴い,内閣総理大臣決定といたしまして,行政文書の管理に関するガイドラインが定められ,審議会の議事録につきましては発言者名を記載した議事録を作成する必要があるものとされました。
  その趣旨からいたしますと,法制審議会総会及び部会のいずれにつきましても,発言者名を記載した議事録を作成すべきものとなります。その上で平成23年6月6日に開催されました法制審議会第165回会議におきまして,議事録の公開方法について改めて審議がなされました結果,その公開方法については次のとおりとすることが決定されました。
  すなわち,まず総会につきましては,発言者名を明らかにした議事録を公開することを原則とする一方,法制審議会の会長において委員の意見を聞いて,審議事項の内容,部会の検討状況や報告内容のほか,発言者等の権利利益を保護するため当該氏名を公にしないことの必要性,率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれの有無などを考慮し,発言者名等を公開するのが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないことができることとされました。
  また,部会につきましても,発言者名を明らかにした議事録を公開することを原則としつつ,それぞれの諮問に係る審議事項ごとに総会での取扱いに準じて発言者名等を公表するのが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないことができることとされました。
  したがいまして,当部会におきましても,原則として発言者名を明らかにした議事録を作成するものの,部会長におかれて委員の御意見をお聞きし,ただいま申し上げたような諸要素を考慮して,発言者名等を公表することが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないこととすることができることとなります。
○山口部会長 ただいまの御説明に対しまして,何か御質問等ございますでしょうか。
  もし御質問がないようでしたら,ただいまの御説明を踏まえて考えますと,当部会における審議の内容を広く国民の皆さんに知っていただくという観点からも,発言者名を明らかにした議事録を公開することが相当ではないかと考えるところでございます。
  そこで,私といたしましては,原則として発言者名を明らかにした議事録を作成いたしまして,法務省のホームページ上において公表するという取扱いにしたらよろしいのではないかと考えております。
  もっとも,ただいまの御説明にもございましたが,審議事項の内容,その他の事項を考慮いたしまして,発言者の氏名を公表するのが相当でないと考えられるような場合は,その都度,皆様にお諮りして,部分的に公表しない措置を採ることとしたいと考えておりますが,いかがでございましょうか。よろしゅうございましょうか。
(「異議なし」の声あり)
  ありがとうございました。
  それでは,議事録につきましては,発言者名を明らかにしたものを作成して,これを原則として公開するという取扱いにさせていただきたいと思います。
  それでは,先の法制審議会総会におきまして,当部会で調査,審議するよう決定のありました諮問第101号について審議を行います。まず,諮問を朗読していただきます。
○中村幹事 朗読いたします。
  諮問第百一号 近年における性犯罪の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処をするための罰則の整備を早急に行う必要があると思われるので,別紙要綱(骨子)について御意見を賜りたい。
  別紙 要綱(骨子)。
  第一 強姦の罪(刑法第百七十七条)の改正。
     暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の者を相手方として性交等(相手方の膣内,肛門内若しくは口腔内に自己若しくは第三者の陰茎を入れ,又は自己若しくは第三者の膣内,肛門内若しくは口腔内に相手方の陰茎を入れる行為をいう。以下同じ。)をした者は,五年以上の有期懲役に処するものとすること。十三歳未満の者を相手方として性交等をした者も,同様とすること。
  第二 準強姦の罪(刑法第百七十八条第二項)の改正。
     人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて,性交等をした者は,第一の例によるものとすること。
  第三 監護者であることによる影響力を利用したわいせつな行為又は性交等に係る罪の新設。
   一 十八歳未満の者に対し,当該十八歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力を利用してわいせつな行為をした者は,刑法第百七十六条の例によるものとすること。
   二 十八歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力を利用して当該十八歳未満の者を相手方として性交等をした者は,第一の例によるものとすること。
   三 一及び二の未遂は,罰するものとすること。
  第四 強姦の罪等の非親告罪化。
   一 刑法第百八十条を削除するものとすること。
   二 刑法第二百二十九条を次のように改めるものとすること。
      第二百二十四条の罪及びこの罪を幇助する目的で犯した第二百二十七条第一項の 罪並びにこれらの罪の未遂罪は,告訴がなければ公訴を提起することができない。
  第五 集団強姦等の罪及び同罪に係る強姦等致死傷の罪(刑法第百七十八条の二及び第百八十一条第三項)の廃止。
     刑法第百七十八の二及び第百八十一条第三項を削るものとすること。
  第六 強制わいせつ等致死傷及び強姦等致死傷の各罪(刑法第百八十一条第一項及び第二項)の改正。
   一 刑法第百七十六条若しくは第百七十八条第一項若しくは第三の一の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し,よって人を死傷させた者は,無期又は三年以上の懲役に処するものとすること。
   二 第一,第二若しくは第三の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し,よって人を死傷させた者は,無期又は六年以上の懲役に処するものとすること。
  第七 強盗強姦及び同致死の罪(刑法第二百四十一条)並びに強盗強姦未遂罪(刑法第二百四十三条)の改正。
   一 次の1に掲げる罪又は次の2に掲げる罪の一方を犯した際に他の一方をも犯した者は,無期又は七年以上の懲役に処するものとすること。ただし,いずれの罪も未遂罪であるときは,その刑を減軽することができるものとすること。
    1 第一若しくは第二の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又は第六の二の罪(第三の二の罪に係るものを除き,人を負傷させた場合に限る。)。
2 刑法第二百三十六条,第二百三十八条若しくは第二百三十九条の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又は同法第二百四十条の罪(人を負傷させた場合に限る。)。
二 一ただし書の場合において,自己の意思によりいずれかの犯罪を中止したときは,その刑を減軽し,又は免除するものとすること。
三 一の1に掲げる罪又は一の2に掲げる罪の一方を犯した際に他の一方をも犯し,いずれかの罪に当たる行為により人を死亡させた者は,死刑又は無期懲役に処するものとすること。
○山口部会長 では,次に事務当局から諮問事項について説明をしていただきます。
○林委員 まず私から,諮問第101号につきまして提案に至りました経緯について御説明を申し上げます。
  性犯罪の罰則につきましては明治40年の現行刑法制定以来,昭和33年の刑法改正により,輪姦形態による強姦罪等が非親告罪化され,平成16年の刑法改正により法定刑の引上げなどの改正が行われましたが,構成要件等は制定当時のものが基本的に維持されてまいりました。
  しかし,近年,現行法の性犯罪に対する罰則は必ずしも近時の性犯罪の実態に即したものとなっていないのではないかなどの観点から,様々な指摘がなされております。例えば平成16年の刑法改正の際や平成22年の刑法及び刑事訴訟法の改正の際には,衆参両議院の法務委員会による附帯決議において,性犯罪の罰則の在り方について更に検討することが求められております。
  平成22年に閣議決定された第3次男女共同参画基本計画においては,女性に対するあらゆる暴力の根絶に向けた施策の一環として,強姦罪の見直しなど性犯罪に関する罰則の在り方を検討することとされています。
  法務省におきましては,これらの指摘等を踏まえ,平成26年10月から刑事法研究者,法曹三者,被害者支援団体関係者等からなる「性犯罪の罰則に関する検討会」を開催し,性犯罪の罰則の在り方に関する多くの論点について検討を行ってまいりましたところ,同検討会においては,強姦罪等を非親告罪化すること,肛門性交等を強姦罪と同等に処罰すること,地位・関係性を利用した性的行為に関する罰則を設けること,強姦罪等の法定刑の下限を引き上げること,強姦犯人が強盗を犯した場合も強盗強姦罪と同じ法定刑で処罰する規定を設けることにつきまして,法改正を要するとの意見が多数でございました。
  法務省におきましては,この検討結果等を踏まえ,性犯罪被害の実態や事案に即した対処をするため罰則の整備を行う必要があると考え,今回の諮問に至ったものでございます。今回の諮問に際しましては,事務当局において検討した案を要綱(骨子)としてお示ししておりますので,この案を基に具体的な御議論をお願いしたいと思います。
  その内容の趣旨等については幹事に説明をさせます。十分,御審議の上,できる限り速やかに御意見を賜りますようお願い申し上げます。
○加藤幹事 続いて,要綱(骨子)の概要について説明いたします。
  要綱(骨子)の各項目の趣旨の詳細につきましては,それぞれの項目に関して御審議をいただく際に説明申し上げますので,ここでは要綱(骨子)を作成いたしました際の考え方を中心に概略を申し上げます。
  要綱(骨子)につきましては先ほど朗読いたしましたが,御手元の資料1,説明の際に出てまいります関係条文については資料9につづってございますので,適宜,御参照いただきながらお聞き取りください。
  要綱(骨子)第一は,強姦罪について規定する刑法177条の改正に関するものであり,同条において処罰の対象とされている行為を拡張するとともに,その法定刑の引上げを行おうとするものです。
  まず,対象行為の拡張について申し上げます。現行法において刑法177条の罪は,同法176条に規定する強制わいせつ罪に当たる行為の一部を特別に重く処罰する加重類型であると理解されており,その対象となる行為は「女子」に対する「姦淫行為」に限られています。要綱(骨子)第一は,その対象となる行為を拡張して,その客体を「女子」に限定しないことととするとともに,被害者の膣内に陰茎を入れることに加え,被害者の肛門内又は口腔内に陰茎を入れることをも含むものとし,更に行為者又は第三者の膣内,肛門内又は口腔内に被害者の陰茎を入れる行為をも含むものとしています。要綱(骨子)第一におきましては,このような行為を総称して「性交等」と表現しております。
  このような改正を行おうとする考え方について申し上げますと,現行法において強制わいせつ罪に問擬されている行為の中でも,いわゆる肛門性交及び口淫は陰茎の体腔内への挿入という濃厚な身体的接触を伴う性交渉を強いられるものであって,姦淫と同等の悪質性,重大性があると考えられますことから,姦淫と同様に加重処罰の対象とすることが適当であり,また,このような行為により身体的,精神的に重大な苦痛を伴う被害を受けることは,被害者の性別によって差はないと考えられたことによります。
  次に,法定刑の引上げについて申し上げます。現行法においては刑法177条の罪の法定刑の下限は懲役3年とされておりますが,要綱(骨子)第一においては,これを懲役5年に引き上げようとしています。これは,最近における性犯罪の法定刑に関する様々な指摘や現実の量刑状況に鑑みますと,強姦罪の悪質性,重大性に対する現在の社会一般の評価は,強盗罪,現住建造物等放火の罪に対する評価を下回るものではないと考えられたことなどから,その法定刑の下限をこれらの罪と同様に懲役5年に引き上げようとするものであります。
  次に要綱(骨子)第二は,準強姦罪について規定する刑法178条2項の改正に関するものです。現行の同項の罪は刑法177条の罪と行為の手段,方法を異にいたしますが,女子を姦淫する行為を処罰する点では共通しており,その罪質も同様のものと考えられますので,刑法178条2項の罪についても要綱(骨子)第一におけるのと同様に,対象とする行為を拡張し,法定刑を引き上げようとするものです。
(齋藤幹事 退室)
  次に要綱(骨子)第三の一から三までは,監護者であることによる影響力を利用したわいせつ行為及び性交等に係る罰則の新設に関するものです。具体的には,18歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力を利用して,当該18歳未満の者に対し,わいせつな行為をし,あるいは当該18歳未満の者を相手方として性交等をした者について,強制わいせつ罪ないし要綱(骨子)第一の罪と同様の処罰の対象としようとするものであり,これらの行為の未遂も罰することとするものであります。
  現行法においては,不同意のわいせつ行為又は性交であって,違法性が高く,かつ,悪質であると類型的に認められるものとして,暴行又は脅迫を用いてなされたもの及び心神喪失又は抗拒不能に乗じるなどしてなされたものを処罰の対象としています。しかしながら,被害者の意思に反して行われる親子間の性交が,強姦罪ではなく,より軽い児童福祉法違反等で処分されている現状等に鑑みますと,被害者の意思に反して行われる性交ないし性交類似行為等の中には,暴行又は脅迫を用いることなく,かつ,心神喪失又は抗拒不能に乗じるなどするものでなくても,現行法の強姦,強制わいせつに当たる行為と同様に悪質であり,同等の当罰性があるものが存在すると考えられます。
  そこで要綱(骨子)第三の一及び二においては,行為者が18歳未満の被害者を現に監護しているという関係がある場合には,行為者が被害者に対して性交等を求めたときに被害者がその意思に反して性交等に応じざるを得なくなるという影響力が類型的に認められることに着目し,被害者を現に監護する者であることによる影響力を利用して行う性交等の行為について,強姦罪等と同様に処罰する規定を設けようとするものであります。
  なお,ここで用いられております「監護する」というのは,民法に親権の効力として定められているところと同様に,「監督し保護すること」を意味しますが,法律上の監護権に基づくものでなくても,事実上,現に18歳未満の者を監督し保護する関係にあれば,要綱(骨子)第三の「現に監護する」には該当し得るものと考えております。
  次に,要綱(骨子)第四の一及び二は,強姦罪等の非親告罪化に関するものです。そのうち,要綱(骨子)第四の一は現行刑法180条が同法176条から178条までの罪,すなわち強制わいせつ罪,強姦罪,準強制わいせつ罪及び準強姦罪並びにこれらの罪の未遂罪を親告罪としておりますところ,この規定を削除しようとするものです。
  また,要綱(骨子)第四の二は同法229条において親告罪とされている略取・誘拐の罪のうち,わいせつ目的及び結婚目的の略取・誘拐の罪,並びにこれらの罪を幇助する目的で犯した被拐取者引渡し等に加え,これらの罪の未遂罪を非親告罪とするとともに,略取・誘拐等の犯人と被害者とが結婚した場合における告訴の効力に関する特例を定める同法229条ただし書を削除しようとするものです。
  このような改正を行おうとする考え方について申し上げますと,現行法においては被害者のプライバシー等を保護する観点から,強姦罪を始めとする性犯罪を親告罪としておりますが,現状においては被害者において告訴するか否かの選択が迫られているように感じられる場合があるなど,親告罪であることにより,かえって被害者に精神的な負担を生じさせていることが少なくない状況に至っていると認められましたことなどから,これらの罪を非親告罪化し,併せてわいせつ・結婚目的の略取・誘拐の罪が親告罪とされていることを前提とする規定であると考えられる刑法229条ただし書を削除しようとするものであります。
  次に,要綱(骨子)第五は,集団強姦等の罪及び集団強姦等致死傷の罪の廃止に関するものであり,具体的には集団強姦等の罪について規定する刑法178条の2及び集団強姦等致死傷の罪について規定する同法181条3項を削除しようとするものです。要綱(骨子)第一及びこの後御説明いたします第六の二のとおり,強姦罪の法定刑の下限を懲役5年とし,強姦等致死傷の罪の下限を懲役6年に引き上げることといたしますと,それぞれ現行の集団強姦等の罪,集団強姦等致死傷の罪の法定刑の下限以上のものとなります。その結果,集団強姦等の罪などを廃止しても,2人以上が現場で共同して行う強姦等については,引き上げられた法定刑の範囲内で量刑上考慮することにより適切な科刑が可能となりますことから,集団強姦等の罪などを廃止しようとするものです。
  次に,要綱(骨子)第六の一及び二は,強制わいせつ等致死傷罪及び強姦等致死傷罪について規定する刑法181条1項及び2項の改正に関するものであり,要綱(骨子)第一及び第二における構成要件の変更,並びに同第三における犯罪類型の新設を反映させた上,要綱(骨子)第六の二において強姦等致死傷罪の法定刑を引き上げようとするものです。
  そのうち,強姦等致死傷罪の法定刑の引上げについて申し上げますと,現行法における同罪の法定刑は,無期又は5年以上の懲役とされておりますところ,その下限を懲役6年にしようとするものであり,基本犯たる同法177条の法定刑の下限を引き上げることに伴い,結果的加重犯を規定する同法181条2項の法定刑も引き上げようとするものであります。
  最後に,要綱(骨子)第七の一から三までは,強姦と強盗とを同一機会に行った場合の罰則の整備に関するものであります。そのうち要綱(骨子)第七の一は,同一の機会において強姦行為と強盗行為とを行った場合につき,現行法の強盗強姦罪と同様の法定刑で処罰できるようにしようとするものです。
  このような改正をしようとする考え方を申し上げます。現行刑法241条前段におきましては,強盗犯人が強姦をした場合について,強盗強姦罪として無期又は7年以上の懲役という重い法定刑が規定されていますが,強姦犯人が強盗をした場合についてはこのような規定は設けられておらず,一般的な併合罪に関する規定に従って,その処断刑は5年以上30年以下の懲役となります。
  しかしながら,同じ機会にそれぞれ単独でなされてもなお悪質な行為である強盗行為と強姦行為との双方を行うことの悪質性,重大性に着目いたしますならば,これまで強姦罪と強盗罪との併合罪が成立するとされていた場合についても,強盗強姦罪と同様の刑をもって処罰することができるようにすることが必要であり,また,相当であると考えられます。
  現行法における強盗強姦罪については,判例上,強盗の機会に強姦を犯した場合に成立するものと理解されておりますが,要綱(骨子)第七の一の罪についてもこれと同じ範囲で,すなわち同一の機会に強姦行為と強盗行為とを犯した場合に,この罪の成立を認めようとする趣旨であり,「一方を犯した際に」の「際に」という文言は,その意味で用いております。
  更に要綱(骨子)第七の一ただし書は,強姦行為と強盗行為とがいずれも未遂に終わった場合について,刑を減軽することができるとするものです。これは強姦行為と強盗行為のいずれもが未遂である場合については,刑法43条本文における未遂犯と同様に,刑の任意的減軽を可能とすることが適当であると考えられますが,この場合について,単に「第七の一の罪の未遂は罰する。」などと規定するのみでは,いずれの行為を基準に未遂か既遂かを判断するのかが判然といたしませんので,この点を明らかにするため,このただし書を設けたものでございます。
  なお,要綱(骨子)第七の一においては,この罪を構成する強姦行為と強盗行為とのいずれか一方でも既遂であった場合には,刑の任意的減軽は認めないことといたしております。
  次に,要綱(骨子)第七の二は,同一の機会になされた強姦行為と強盗行為とがいずれも未遂の場合において,いずれかの行為について自己の意思で中止した場合には,刑法43条ただし書のいわゆる中止犯におけるのと同様に,その刑を必要的に減免すべきものとしようとするものであります。
  さらに,要綱(骨子)第七の三は,同一の機会に強盗行為と強姦行為がなされた上に,そのいずれかの行為を原因として死の結果が生じた場合について,現行刑法241条後段の強盗強姦致死罪と同様の法定刑で処罰することとするものです。現行法においては,一般に強盗の機会に行われた姦淫行為又はその手段である暴行・脅迫から死の結果が生じた場合に強盗強姦致死罪が成立するものと理解されておりますが,要綱(骨子)第七の三の罪は,強姦行為と強盗行為とが同一の機会になされた場合において,その行為の先後等を問わず,いずれかの罪に当たる行為から死の結果が生じたときに成立することとするものであります。
  また,判例によれば,強盗強姦の機会に殺意を持って被害者を死亡させた場合には,強盗強姦致死罪ではなく,強盗殺人罪と強盗強姦罪とが成立し,それらの罪は観念的競合となるとされていますが,要綱(骨子)第七の三の罪は,殺意を持って人を死亡させた場合を含むものとしようとしております。
○山口部会長 次に事務当局から配布資料についての御説明をお願いしたいと思います。
○中村幹事 それでは,配布資料の説明をいたします。御審議の参考にしていただくために席上に資料27点を御用意させていただきましたので,その内容などにつきまして,ごく簡単ではございますけれども,御説明申し上げます。
  まず,資料番号1は先ほど朗読いたしました諮問第101号でございます。
  資料番号2は先ほど林委員からの説明でも触れました第3次男女共同参画基本計画の抜粋でございます。女性に対するあらゆる暴力の根絶に向けた施策の一環として,「強姦罪の見直しなど,性犯罪に関する罰則の在り方を検討する」とされております。
  続いて,資料番号3でございます。資料番号3は男女共同参画会議の下に置かれております「女性に対する暴力に関する専門調査会」による報告書の抜粋でございます。先ほどの第3次男女共同参画基本計画の下における同専門調査会による調査,検討結果をまとめたものでありまして,5ページ以下におきまして「強姦罪の見直し」として,非親告罪化や構成要件の見直しなどについて指摘がされております。
  次は資料番号4です。資料番号4は林委員の御説明にありました近年における性犯罪の罰則に関わる刑法,刑事訴訟法の改正経過やその際の国会での附帯決議についてまとめたものでございます。
  資料番号5は国連の各委員会による我が国の性犯罪の罰則等に関する見解をまとめたものでございます。非親告罪化や法定刑の引上げなど,様々な指摘がなされております。
  次に資料番号6は自由民主党の女性活躍推進本部が本年6月に取りまとめ,政府に提出した提言の抜粋でございます。強姦罪の保護法益や法定刑などについて検討を求める内容となっております。
  次に,資料番号7は,先ほど林委員が説明の中で触れました「性犯罪の罰則に関する検討会」の取りまとめ報告書でございます。
  資料番号8は,性犯罪の認知・検挙件数の推移に関する資料であります。赤色で示しておりますのが強姦,青色で示しておりますのが強制わいせつでありまして,実線が認知件数,点線が検挙件数を示しております。
  資料番号9は,参照条文です。要綱(骨子)に関係する刑法の条文のほか,性犯罪に関連する特別法などの規定として,児童福祉法などの条文も記載してございます。
  次に,資料番号10−1,資料番号10−2は,「性犯罪の罰則に関する検討会」におきまして,性犯罪に関する御知見や御意見をお持ちの方からヒアリングを行った際の議事録でございます。この部会におきましても御参考にしていただければと考えております。
  資料番号11−1から11−7までは主要国における性犯罪に関する条文の和訳でございます。アメリカにおきましては州ごとに法律が異なっておりますので,代表例としてミシガン州,ニューヨーク州,カリフォルニア州の条文を挙げております。そのほかイギリス,フランス,ドイツ,韓国の条文を挙げております。
  資料番号12からは,要綱(骨子)の個々の論点に関する資料となっております。まず12から15までは性犯罪の構成要件に関する資料であります。要綱(骨子)第一のほか,第二,第六に関係するものであります。資料番号12は主要国の法制度におきまして,強姦罪の行為者や被害者についてどのように規定されているのか,また,我が国でいうところの強姦罪と強制わいせつ罪のような分類がどのようになされているのかについて整理した資料でございます。
  資料番号13は,我が国において強制わいせつ罪,強姦罪が制定された歴史的経緯に関する資料であります。我が国におきましては明治3年の新律綱領は強姦罪に相当する罪のみを規定しておりました。その後,明治13年の旧刑法におきまして,強制わいせつ罪が置かれ,以後,現行刑法においても強制わいせつ罪と強姦罪が規定されております。
  次に,資料番号14でございます。資料番号14は,肛門性交や口淫を含む事例に関する資料であります。事務当局におきまして,平成25年1月から平成26年11月までの期間に公判請求された事件のうち,肛門性交,口淫,異物挿入の三つの類型について,それぞれの行為を含む強制わいせつの事案を調査して,把握できたものをまとめたものでございます。
  資料番号15は女性が加害者,男性が被害者となった性交の事例に関する資料であります。事務当局において把握できた範囲ですが,平成26年1月から12月までの1年間に公判請求された事案で,女性を加害者,男性を被害者とする性交の事例について把握できたものが2件ございました。
  次に,資料番号16からは法定刑に関する資料であります。要綱(骨子)の第一,第二,第五,第六に関係するものです。資料番号16は諸外国の性犯罪及び強盗罪に関する法定刑について,表の形式でまとめたものでございます。
  資料番号17は,我が国における性犯罪の法定刑に関する改正経過をまとめたものであります。強制わいせつ罪や強姦罪などの法定刑は,明治40年の現行刑法制定時から平成16年の刑法改正までは改正がありませんでした。平成16年の刑法改正におきましては,強制わいせつ罪の法定刑の上限を7年から10年に,強姦罪の法定刑の下限を2年から3年に,強姦致死傷罪の法定刑の下限を5年に引き上げたほか,集団強姦罪,集団強姦致死傷罪を新たに創設いたしました。
  次に,資料番号18は最高裁判所から提供していただきましたデータを基に,事務当局において作成した量刑に関する資料でございます。この資料の3ページ目を御覧ください。右下に3/16と書いているところです。強姦罪につきましては,平成12年から14年におきましては濃い青色の線で示しておりますとおり,懲役2年を超え3年以下の事件が50%を占め,最も多かったところですけれども,平成24年から平成26年におきましては水色の線で示しておりますとおり,懲役3年を超え,5年以下の事件が40%近くを占めて最も多くなっておりまして,全体として重い量刑の事件の割合が増加してきています。
  次のページを御覧ください。強姦致死傷罪につきましては,平成12年から14年におきましては濃い青色の線で示しておりますとおり,懲役2年を超え3年以下の事件が40%近くを占めていて,最も多かったところですけれども,平成24年から26年におきましては水色の線で示しておりますとおり,懲役5年を超え,7年以下の事件が最も多く,約25%となっておりまして,全体として重い量刑の事件の割合が増加してきていることが見て取れます。
  また,先ほど要綱(骨子)の御説明の中で触れました強盗罪や現住建造物等放火罪について御説明いたします。右下のページ番号で7/16を御覧ください。7ページです。強盗罪の量刑を見ていただきますと,平成24年から26年におきましては懲役2年を超えて3年以下の量刑が最も多くなっております。
  次に,13ページを御覧ください。13/16と書いてあるところであります。13ページの現住建造物等放火について見ますと,これも懲役2年を超えて3年以下の量刑が最も多いことが見て取れます。
  資料番号19から22までですけれども,資料番号19から22は要綱(骨子)第三に関する資料でございます。資料番号19は地位・関係性を利用した性的行為に関する主要国の法制度の概要をまとめた資料であります。地位・関係性を利用した場合の規定につきましては各国それぞれ様々な規定が設けられておりますけれども,その多くは地位・関係性がある場合には通常の強姦罪と比較して,成立要件を緩和した上で,より軽い法定刑を規定するという,いわゆる軽減類型として規定されております。
  次に,資料番号20は我が国における地位・関係性を利用した性的行為に関する過去の議論の経緯をまとめたものであります。旧刑法制定前の日本刑法草案会議における議論におきましては,一定の地位・関係性がある場合には刑を加重するという案が検討されております。また,その後も改正刑法仮案,改正刑法準備草案,改正刑法草案におきまして,保護される者,被保護者の姦淫等の規定が検討されております。
  資料番号21と22は,地位・関係性を利用した性的行為に関する事例集でございます。平成25年と26年の2年間に起訴又は第一審の判決宣告があった事件のうち,被告人と被害者との間に一定の関係性がある事案について事務当局において調査し,把握できたものをまとめたものでございます。資料番号21が性交を行った事例,資料番号22が口淫を含むわいせつ行為を行った事例をまとめたものでございます。
  資料番号23から25までは要綱(骨子)第四の非親告罪化に関する資料でございます。
  資料番号23は主要国における性犯罪の親告罪に関する法制度の概要をまとめた資料であります。そもそも親告罪制度がないという国もありますけれども,ここに挙げている諸外国におきましては,性犯罪は親告罪とはされておりません。
  資料番号24は,我が国におきまして強姦罪などが親告罪とされた歴史的な経緯に関する資料であります。明治13年の旧刑法の段階から強姦罪や強制わいせつ罪については親告罪とされておりますけれども,立法時の議論を見ますと,被害者の名誉を害することがあり得るため告訴を待つべきなどとされております。
  次に,資料番号25は親告罪の不起訴理由に関する統計の資料でございます。例えば,1枚目の強姦の欄の平成25年のところを御覧いただきますと,送致件数に対する不起訴率は48.8%でありまして,送致件数に占める告訴の欠如あるいは取消しを理由とする不起訴の割合が21.8%,嫌疑不十分を理由とする不起訴の割合が20.6%であったことが示されております。
  また,この資料の2ページ目を御覧ください。2ページ目の下から二つ目の欄は強姦致死傷,それから一番下の欄が強制わいせつ致死傷でございますが,これらは非親告罪であります。「親告罪の告訴の欠如」,「親告罪の告訴の取消し」という理由による不起訴は,その罪が親告罪である場合にのみ行うものですので,強姦致死傷や強制わいせつ致死傷の場合には,これらを理由とする不起訴はございません。強姦致死傷などの事件で示談が成立して,被害者が処罰を望まないというような場合につきましては,起訴猶予などの理由で不起訴となることになります。
  次に,資料番号26からでございますが,資料番号26からは要綱(骨子)第七に関する資料であります。資料番号26は我が国におきまして強盗強姦罪が設けられた歴史的な経緯に関する資料であります。強盗強姦罪は旧刑法において設けられたものですけれども,当時の史料で強盗強姦罪が置かれた理由について触れたものは当局においては見当たりません。
  資料番号27は,強姦と強盗が同一機会に行われ,現行法では強盗強姦罪に該当しないため併合罪となっている事例をまとめた資料でございます。平成24年,平成25年の2年間に強姦罪と強盗罪とが同一の機会に犯されたものとして併合罪により起訴され,これと同一の罪名により判決が確定している事案として,事務当局において把握できたものが31件ございました。
  最後に,席上にお配りしております資料について御説明いたします。席上配布資料と右上に書いてありまして,題名が「第175回法制審議会における諮問101号に関する御発言の概要」という2枚の紙を御覧ください。
  こちらは,去る10月9日に開催されました法制審議会総会におきまして,この諮問第101号について御審議いただきました際の委員の皆様の御発言をまとめたものでございます。本来であれば,議事録の抜粋を資料として皆様にお配りさせていただくべきところでございますけれども,まだ議事録が出来上がっておりませんので,事務当局の責任においてまとめさせていただきました。各委員の御発言の詳細につきましては,後ほど公表されます議事録を御確認いただければと思いますけれども,ここにございますとおり,御発言された6名の委員からは,いずれも今回の諮問について御賛同される方向からの御意見などが述べられました。この部会での御審議に当たりましては,このような総会での委員の皆様の御意見も踏まえて,御議論を進めていただければと思っております。
  以上,簡単ではございますけれども,配布資料の説明をさせていただきました。
  なお,机上にこの部会の委員等名簿を配布させていただいております。御確認いただきますよう,併せてよろしくお願い申し上げます。以上でございます。
○山口部会長 事務当局からの説明は,以上のとおりでございます。
  諮問事項に関する審議の進め方につきましては,この後で皆様にもお諮りして決めていきたいと考えておりますが,この段階で,ただいまの事務当局の説明内容に関しまして質問等がございましたら,お願いしたいと思います。
  特にこの段階で御質問はございませんでしょうか。また審議を進めながら,何か御質問がございましたら,随時お尋ねいただければというように思います。
  それでは,諮問事項の審議に入りたいと思います。今回の諮問につきましては要綱(骨子)の案が付されておりますが,審議の進め方について事務当局の方で何かお考えがあれば,お示し頂きたいと思います。
○上冨委員 審議の進め方につきましては,もとより,この部会において決定される事柄でございますけれども,事務当局の立場から1点お願いさせていただければ,まず初めに要綱(骨子)の案につきまして,どの部分からでも,あるいは全体についてでも構いませんが,委員各位の問題意識を共有することができますような形で御質問,御意見,御感想等の御発言をいただけますと,その後の審議をより充実したものにできるのではないかと考えております。
  例えば「性犯罪の罰則に関する検討会」でも触れられておりました強姦罪等の保護法益などについても委員の皆様から御意見をお示しいただけますと,その後の審議の参考になるのではないかと思われますので,議事の進行を御協議いただく際にはそのような点も考慮いただけると幸いでございます。
○山口部会長 私といたしましても,今後の進行にも有益であると考えられますので,もしよろしければ,概括的,総括的なもので結構でございますので,できるだけ多くの委員,幹事の方々から重要な論点はどこであると考えておられるのかということを踏まえた御発言,御意見,御疑問の点,あるいは御感想などの御発言を頂きたいと思いますが,よろしゅうございましょうか。
 (「異議なし」の声あり)
  それでは,要綱(骨子)全般につきまして,概括的,包括的な審議を行いたいと思います。どのような観点からでも結構でございますので,御発言を頂ければと思います。お願いします。
○井田委員 先ほど御紹介もあったところですけれども,現行の刑法典の強姦罪,強制わいせつ罪の処罰規定は,1908年,明治41年に施行されて以来,基本的にはそのまま今日まで維持されています。既に100年以上の時間が経過しており,この間の時代状況の変化,社会意識の変化というものに鑑みれば,これはその事実からだけでもかなり根本的な手直しが必要ではないかという推測が働くと思われます。
  これも先ほど御紹介がありましたけれども,諸外国の刑法を見ましても,戦後,特に1970年代以降ですが,かなり大幅に改正されてきているわけで,日本の性犯罪の処罰規定は国際水準から取り残されたものということも言えそうです。
  先ほど御説明いただいた要綱の内容ですが,かなり大幅な改正を予定するものとしてお聞きしました。ただ,このぐらい大きな手直しをする必要性があること自体は,誰も否定できないのではないかと考えております。
  少し具体的に申し上げますと,もし現行法の規定の中に処罰の空隙(げき)部分がある,つまり当罰的なのに可罰的になっていないという部分があるとすれば,それは埋めていかなければいけないでしょう。また,そうでなくても,ハードルが高くて適用が難しく,被害者に十分な保護が与えられていない規定になっているとすれば,それは補正していく必要もあるだろうと思います。
  また,より根本的なことを申し上げれば,刑法というものを考えるとき,もちろん処罰されるべきものは処罰する,保護されるべきものは保護するということが大事なのですけれども,それだけに尽きるものではない。保護法益,言い換えれば,それは犯罪の被害の実質にほかならないのですが,それをその国が,その社会がどう評価しているかという,保護法益に対する評価ないし価値決定というものを示す,保護法益に対する尺度を与えるもの,それが刑法だと思うのです。刑法の規定の中に,その国が,その社会が,その犯罪とそこから生ずる被害をどのように見ているか,ということが示されている。そして,その評価ないし価値決定が国の刑事司法機関の活動のその基本に置かれなければいけないのです。
  そうであるとすれば,現行刑法を見たときに,等しいものが等しく扱われているか,異なって評価されるべきものが異なって評価されているか,そういう規定になっているかどうかを検討して,手直しをしていく必要があるのではないかと考えるのです。こうした見地からしますと,先ほどの要綱の基本的な方向性を妥当なものだと見ておりますし,また,そういう観点からこれから審議を進めていくべきではないかと考える次第でございます。
○山口部会長 先ほども言及がございましたけれども,「性犯罪の罰則に関する検討会」がございまして,委員,幹事の方々の中にもそれに参加された方々がおられます。その方々の御意見につきましては既に議事録でも明らかになっておりますので,特にその検討会に特に御参加されておられなかった委員,幹事の皆様から御意見をこの機会にお伺いしたいと思いますが,いかがでございましょうか。
○森委員 私は長年,検察官として性犯罪の捜査,公判を取り扱ってまいりましたけれども,現行法の規定の在り方につきましては疑問に感じることも度々ございました。例えば男児が被害者の場合には強制わいせつでしか処罰できないですとか,親子間の犯罪の場合に非常に処罰が難しいといったことで苦慮したこともございました。更には性犯罪の被害者がいかに大きな精神的ダメージを受けるかということも目の当たりにしてまいりました。
  そういった経緯に照らしますと,今回の改正というのは捜査,公判の実務の立場からも,よい方向であると考えております。今後の審議におきましては,捜査,公判に携わる検察官という立場から性犯罪の実態ですとか実務の現状に合った改正になるよう意見を述べてまいりたいと思っております。
○小西委員 私は初めて今日,参加させていただいたので意見を述べさせていただきます。松尾先生には全く及ぶべくもないのですが,私も1993年からずっと性犯罪に関する被害者の支援,性暴力の被害者の支援を実際にやってまいりました。最初の頃は私の分野であるPTSDのことも,それからその被害者はどれくらい具合が悪くなっていって生活が侵されているかということも世の中が全く知らないという状態で仕事をしていたと思いますが,ようやくここまでたどり着いたかという感じは持っております。
  ただ,実際にやっていますと,性犯罪に関しては理不尽だという言葉が一番当たると思いますが,そのように思わざるを得ないことがたくさんあります。理不尽だというのは,司法の関係者の方,検事さんも弁護士さんも言われたりするのですけれども,個人的には問題だと思いますけれども法律的にはこうしか扱いようがないのです,とおっしゃるようなケースもたくさんあったりします。
  現在,私はレイプワンストップセンターから紹介される被害者の方を中心に診療しておりますが,ここ3年で大体40ケースぐらいの紹介を受けました。私のところまで紹介されて来られる方は,例えばPTSDがあることが疑われたり,裁判の中で診断書が必要だったりという方が多いわけですけれども,その中でPTSDになっている人が4分の3くらいおります。PTSDというのは本当に心身に大きな影響を与える障害です。40人の中で本人が結果について公表していいとおっしゃってくださった方が28名なので,その28人中でお話ししますけれども,警察に少なくとも相談できた人が10人で,被害届が出せた人が5人です。
  ところが,多くの人は健康の問題だけではなく,経済的な問題,例えば引越ししなくてはいけなかったり,職業がなくなってしまったり,そういうことも含めて非常に具合が悪いです。そういう実情を皆様になるべくお伝えできたらと思って参加しました。
  私が問題だと思っていることというのは幾つもあるのですけれども,今,特にということで申し上げますと,一つはやはり性的虐待に関して非常に理不尽な扱いになってしまうことが多いということですね。例えば,親から繰り返し被害を受けている子のほとんどはというか,全員はと言っていいくらいですけれども,抵抗なんか全く考えもしません。父親とそうやって接触することだけが虐待を防ぐ方法であったり,あるいはそうしないと非常にひどい行為をされたりするということがあるので,被害の最初はどうだったか分かりませんけれども,最後の頃になってくると当然,抵抗なんかしないわけです。
  ところが,刑法でそのことが扱われるときには一つ一つの行為が扱われるので,最後の性行為だけ扱われて,それは抵抗がないから強姦とは言えないと。そうですねと私なんかは専門ではないので言うしかないのですけれども,非常に理不尽な構造になっているなと思うことがあります。
  親だけではなくて,実際に臨床でほかにもたくさんの被害者の方を私は診てきましたけれども,祖父ですとかおじですとか兄からの被害も結構あります。それから学校の先生とかクラブ活動の指導者,長いことやっているクラブ活動の指導者なんかは同じ形になっていますけれども,そういう人たちからの被害がみんな同じような形で抵抗できないで,法律でもうまく扱えないということがあるなと思っています。
  性犯罪の被害は,人の苦しみがうまく法律に乗っかっていかないものの最たるものではないかなと今は思っています。今後も何かそういうことがお話しできたらと思っております。
○橋爪幹事 今の小西委員の御意見に関連いたしまして,要綱の第三の罪について若干,感想めいたことを申し上げたいと存じます。
  要綱(骨子)第三の罪は,現行法の準強姦罪等の抗拒不能の要件では十分にカバーされない類型につきまして,18歳未満の者の性的保護を拡充するという観点からは,非常に重要な意義を有しているように思われますし,その方向性につきましては基本的に賛成したいと考えております。
  ただ,刑法を勉強しておりますと,やはり処罰範囲をどのように明確に限定するかということに強い関心を持つわけでございます。本罪は具体的に申し上げますと,現に監護する者が影響力を利用することを要件としておりますが,どのような状況において影響力の利用が認められるかについては,具体的な事例を想定しつつ,慎重な検討が必要であると考えています。
  例えば,同居の親族の提案によって,あるいは要求に基づいて性行為が行われた場合については,常に影響力の利用と言えるのか,それとも,なお影響力の利用の要件を充たさない場合があるのかにつきましては,おそらくいろいろな考え方があるかと思います。この点につきましては私も更に考えていきたいと存じます。
  また,この問題に密接に関係しますが,13歳以上18歳未満の被害者の同意らしきものがある場合,その同意が果たして法的に有効といえるかという点につきましても,刑法理論的には更に検討する必要があると考えております。
○松尾関係官 小西委員のお話を伺っておりまして思い出しましたのは,最高裁判所が憲法違反の判例を出した尊属殺事件であります。あれもまさにその発端は性犯罪なので,私どもは事件の原因にショックを受けたわけであり,それに対応して立法というようなことも当然考えるべきであったろうと思いますけれども,不幸にして,ある時期,日本の刑事立法は全く休眠状態に置かれておりまして,ピラミッドのように沈黙しているという批評もあったわけですが,そのような状況が昭和の終わり頃まで続いていたのが平成の時代を迎えて様子が変わってまいりまして,このように法制審議会も頻繁に開かれるようになったという経緯があります。
  ただ,立法というのは複雑な視角を持って見なければならないという面がありまして,その意味で今日のテーマに関しても一つだけ付け加えさせていただきたいと思います。小野清一郎先生は法務省特別顧問として,ある意味で私の前任者でいらっしゃいましたが,小野先生は立法の美学ということを説いておられました。法律を作るときには美しいものを作るのが望ましいと。今回の要綱(骨子)を拝見いたしますと,これは検討会の慎重な議論を踏まえ,そして事務当局の方で苦心された言わば要綱(骨子)自体が一つの成果というようにも感じられるものでありますが,それにしましても,その個々の項目について審議を行い,このような立法が必要であり適切であるかということを判断されるのは,まさにこの部会でありますので,その意味でこの論点の一つとして立法の美学ということもあり得るということを述べさせていただいた次第です。
○三浦委員 警察でございますけれども,今回の要綱案につきましては先ほど森委員からもございましたように,捜査をする立場からしても法定刑の問題でありますとか,あるいは要件の関係でありますとか,良い方向性であると考えているところであります。
  先ほど橋爪幹事からもありましたように,特に要綱の第三に関しましては,これはこれまでこういった家庭内等における事案というものについて,なかなか対処が難しいという面があって,警察,捜査する側にとっても大きな課題でありましたけれども,こうした方向性で新しく規定がされるということについて,今後,被疑者に対する適正な処断ができるという意味において期待をしているという部分もございます。ただ,その分事例もかなり多いものですから,要件の明確性といいますか,構成要件として,実際に捜査する場合に曖昧な部分ができるだけ残らないようにということで,この点についても十分な議論をしていただけるということを期待しているものでございます。
○今井委員 一言,総論的な感想を述べさせていただきたいと思います。私は検討会には参加しておりませんでしたが,いろいろと公表される資料を見ておりまして,先ほど来,皆様の御意見にあり,また,井田委員が適切におっしゃいましたように,ようやく社会の認識と犯罪とされるべき実態との間で調整がとれようとしているのではないかと思った次第であります。
  具体的には従前の性犯罪のところでは,男女間の性差というものを当然の前提とした規定ぶりがあったわけですけれども,在外研究中に大きなショックを受けたことがありました。女性を被害者とするだけではなく男性も被害者とする解釈や,また,女性も加害者となり得るというふうな規定が多い国などで勉強していたものですので,日本の刑法の規定を報告する機会に,親告罪などの説明もしましたが,あまり理解が得られない状況でした。そのときには,日本国憲法の下で男女の平等を定めている以上は,この辺りも加害者,被害者間の性差をなくすような方向性がいいのではないかと思ったことがございました。
  この度の要綱案等を見ますと,そういった部分がかなり入っているということで,私としては,やっと社会の実情に合った規定が整備されそうだなという感想を持っておりまして,今後の議論に期待しているところであります。
○塩見委員 私も今回,法制審議会刑事法部会から初めて参加させていただきました。大学の教員という立場からは,井田委員が最初に言われたような印象を私も持っておりまして,基本的にはそういう方向で改正を行うというのが妥当なのだろうと考えています。今後の細かな議論についてはその都度,意見などございましたら申し上げさせていただきたいと思っております。
  1点,形式的なことなのかもしれませんけれども,この部会の始まる前から既に検討会でかなり突っ込んだ議論をされていて,議事録も拝見させていただきまして,それを基に要綱(骨子)も作られているという印象を受けております。その検討会での御議論とここで行う議論との関係というのですか,一応済んだものというような印象を受けてしまうので,どのような位置付けにしたらいいのかということを最初に伺っておこうかと思います。
○加藤幹事 ただいまのお尋ねの点について,事務当局の考えを申し述べさせていただきます。
  「性犯罪の罰則に関する検討会」は,今お示ししているような要綱等を前提に議論をお願いしたものではなく,現在の性犯罪の実態等に鑑みまして,幅広い観点から,どういった事項について手当が必要であるか,あるいは法改正が必要であるかといったことを論点として洗い出し,必要な改正の方向性等についても御議論いただいたものです。ただ,検討会は,意思決定をする場ではないということが前提でしたので,取りまとめにつきましても意見の多少などについては,多数の意見と少数の意見があったということを併記するような形で取りまとめをしたというものでした。
  その上で検討会の議論も踏まえて,法務省におきまして検討させていただいた上で今回の諮問に至っているというものですので,この法制審議会の部会の場におきましては,諮問の内容につき,改めて改正の要否,あるいはその内容などについて,特に専門的な御立場からも十分な御検討をお願いしたいと考えているところであります。
  検討会におけます御議論というのはかなり充実したものであったと考えておりますので,その検討内容も御参照いただきながら,更に改めてどのような法改正が必要であり相当であるのかということについて,深く,具体的に御検討いただければと存じております。
○塩見委員 どうもありがとうございました。
○宮田委員 今,加藤幹事のおっしゃられました検討会での結果を踏まえてというのは,検討会の結果は当然に援用されないと理解してもよろしいか,お尋ね申し上げます。
○加藤幹事 援用とおっしゃいますと,検討会での多数意見は結論として動かせないものかどうかというお尋ねでしょうか。
○宮田委員 そうではなくて,そのときに発言した内容については,ここではそれがあったものを前提としてよいのか,それとも,そこでの発言なのだけれども,特に強調したい点などについてこちらで御発言の機会を頂戴できるかどうか,そういう趣旨でございます。
○加藤幹事 進行に関する問題でございますので,もちろん部会あるいは部会長の御差配によるところだと思われますが,事務当局の立場で申し上げれば,検討会で御議論いただいた点については広く公開されておりますので,全くの重複にわたるというものであれば,例えば検討会での御議論を要約していただくなどして,議論を効率的に行うという観点も必要かとは存じます。ただ,また検討会とは異なる構成員で部会をお願いしているところでもありますので,必要な点については再度御発言いただくということも可能ではないかと考えております。
○宮田委員 それでは部会長,発言をお願いさせていただきたいのですが,加害者側,弁護の立場からの意見というのは,今回,御提出いただきましたヒアリングの中には出てきておりませんので発言をさせていただければと思います。よろしいでしょうか。
  再審事件二つを題材にして発言させていただきたいと思います。氷見事件という事件がございました。これは真犯人が出てきて再審無罪となった事件ですが,この事件の当初,被害者の方2人の,必ずしも明確ではない犯人の識別供述によって捜査が始まりました。性犯罪の被害者の方は何者かに襲われて犯罪の被害に遭ったということで,知覚的な条件,あるいは記憶をするための条件がよくない。そのために犯人を十分識別できない,あるいは事実に関して十分な記憶ができない,記憶が飛んでしまう,あるいは思い込みをしてしまうということもあります。
  更にそれにとどまらず,先日,大阪で再審無罪の決定が出ました。この事件は被害者が明らかに虚偽の被害を申告していた事件でした。これは加害者とされた男性が14歳だった同居人への強姦と強制わいせつを働いたとされたものですが,この被害者とされた女性あるいは目撃者とされたこの女性の兄が虚偽を述べていたことを昨年認めて,この再審請求がされまして,再審請求後,地検の捜査で性的被害の痕跡がなかったという診断の記録も確認されるに至りました。
  報道では,過去,この加害者とされた男性とトラブルのあった母親が被害者とされた女性に対して繰り返し何をされたかと詰問して,この女性が虚偽の供述をするに至った,また,目撃者の被害者の兄も母親の顔色をうかがって虚偽の証言をしたとされています。
  私たちは,弁護の際,被害者の方が言う強姦神話とは逆に,被害女性が嘘を言うわけがないという逆強姦神話というべきものがあると考えています。この大阪の再審事件の弁護人は,記者会見のときに,被害者が嘘を言うわけがないという偏見はないだろうかと問題提起しています。
  被害者の供述の吟味による苦痛というのは確かに大きいかもしれませんが,事実を認定していく上で被害者の供述の吟味をしなければならないのは当たり前だと思います。すなわち被告人は無罪の推定を受けています。検察官は主張立証の責任を負っています。検察官が犯罪事実の証明をするために最も重大な証拠である被害者供述の信用性が問題になるのは当然です。被害者の保護を目的として立証責任が転換されたり,検察官の立証責任が軽減されるようなことはあってはならないと思います。
  そして,100人の有罪を逃しても1人の無辜(こ)を罰してはならないというのが刑事法の大原則であり,刑罰という手段は問題解決への最終手段であって,謙抑的な立法,すなわち必要最小限度性を考えていく必要があると思います。そして,その適用についても同様です。刑罰の手続は個人の権利を厳しく制約するもので,無辜(こ)にとっては耐え難いものです。
  先ほど構成要件の明確という話がありましたが,検察官の立証責任が軽減されるような,あるいは被告人に立証責任が転換されるようなものであってはなりませんし,構成要件というのは明確でなければならないということは当たり前のことだと思います。
  処罰の規定についても,手続についても,性犯罪が破廉恥罪中の破廉恥罪であり,その犯人として名指しされた人のマイナスというのは計り知れないということは常に認識しておかなければならないと思っています。今回の罰則の検討については平成16年の改正の議論も踏まえ,今回の改正の立法事実について十分に検討する必要があると思いますし,最終手段であるという刑罰の性格や刑法の謙抑性についても十分に,これは釈迦に説法かもしれませんけれども,考慮されながら議論が進められなければならないと思っています。申し訳ありません。今までの先生方の議論と若干違いますけれども,発言させていただきました。
○小木曽委員 今の御発言,極めてごもっともなことであろうと思います。えん罪があってはならないわけで,これは当然,刑事法を語る上では前提となるべきことであろうと思います。ただ,そのことと,性犯罪の保護法益を時代の要請に合ったものにするとか,量刑の在り方を見直すということは,切り離して議論することができるのではないかと考えております。
○山口部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
  この段階での総括的,全般的な御意見は,大体,このくらいでよろしゅうございましょうか。
(「異議なし」の声あり)
  それでは,ここで休憩にさせていただき,10時50分に再開するということにさせていただきたいと思います。

(休     憩)

○山口部会長 会議を再開いたします。
  要綱(骨子)の具体的な内容に関する審議にこれから移りたいと思いますが,ここからの審議の進め方について事務当局の方でお考えがあれば,お示しいただきたいと思います。
○上冨委員 今回の諮問につきましては,要綱(骨子)が示されておりますので,要綱(骨子)の第一から順に御審議いただくということが考えられるところでございます。もっとも,本日につきましては残りの審議時間との兼ね合いもございますので,要綱(骨子)の中でもほかの論点からある程度独立して御議論いただけるのではないかと思われる論点として,要綱(骨子)第四の強姦の罪の非親告罪化について御審議いただければよろしいのではないかと考えております。
  また,次回以降につきましては第一から順に御審議いただくのがよいかと思われますが,その中で相互に関連する問題につきましては併せて御審議いただく方がよいのではないかと思われます。具体的には「第一 強姦の罪の改正」及びこれと関連性の強い「第二 準強姦の罪の改正」,「第五 集団強姦等の罪及び同罪に係る強姦等致死傷の罪の廃止」,更に「第六 強制わいせつ等致死傷及び強姦等致死傷の各罪の改正」を併せて御審議いただくのがよいのではないかと考えております。
  その後,要綱(骨子)の順ということで「第三 監護者であることによる影響力を利用したわいせつな行為又は性交等に係る罪の新設」,「第七 強盗強姦及び同致死の罪並びに強盗強姦未遂罪の改正」の順に御審議いただくのがよろしいのではないかと考えております。
○山口部会長 ありがとうございました。
  私としましても,ただいま事務当局から御提案のありましたような順で御審議いただくのがよいのではないかと思いますが,いかがでございましょうか。よろしゅうございましょうか。
(「異議なし」の声あり)
  それでは,本日はまず要綱(骨子)第四,強姦の罪の非親告罪化について御審議をお願いしたいと思います。
  まず,事務当局から要綱(骨子)第四について,改めてその趣旨や検討経過等について御説明をお願いいたします。
○中村幹事 要綱(骨子)第四について御説明申し上げます。
  資料1の諮問第101号の別紙,要綱(骨子)第四を御覧ください。要綱(骨子)第四の一は刑法第180条におきまして,刑法第176条から第178条までの罪,すなわち強制わいせつ罪,強姦罪,準強制わいせつ罪,準強姦罪並びにそれらの未遂罪を親告罪としておりますところ,この刑法第180条を削除して,これらの罪を非親告罪としようとするものでございます。
  現行法におきまして,強姦罪と強制わいせつ罪は親告罪とされておりますけれども,その趣旨は,一般に,公訴を提起することによって被害者の名誉などが害されるおそれがあることから,公訴の提起に当たって被害者の意思を尊重するためであると解されております。
  しかし,この点につきましては,第3次男女共同参画基本計画におきまして,強姦罪などの非親告罪化が検討事項とされまして,「性犯罪の罰則に関する検討会」におきましても,性犯罪被害者やその支援団体関係者などからのヒアリングで,親告罪であることにより被害者に生ずる負担が大きい旨の意見が表明され,これを踏まえた検討会での御議論におきましても,非親告罪化に積極的な意見が多数を占めておりました。
  これらを踏まえまして検討しましたところ,従来,強姦罪などは被害者保護の観点から親告罪とされていたものですけれども,現実には肉体的,精神的に多大な被害を負った被害者にとっては告訴するかどうかの選択を迫られているように感じられたり,告訴したことにより被告人から報復を受けるのではないかとの不安を持つ場合があるなど,親告罪であることにより,かえって被害者に精神的な負担を生じさせていることが少なくない状況に至っているものと認められます。
  そうすると,もはや強姦罪などについて親告罪として維持するよりも,これを非親告罪化して,親告罪であることによって生じている精神的負担を解消することが相当であると考えられたことから,要綱(骨子)第四の一のとおり,強姦罪等を非親告罪化しようとするものでございます。
  また,要綱(骨子)第四の二は,わいせつ目的及び結婚目的の略取・誘拐罪に関するものでありますけれども,現行刑法第229条において親告罪とされている略取・誘拐の罪のうち,わいせつ目的及び結婚目的の略取・誘拐の罪とこれらの罪を幇助する目的で犯した被拐取者引渡し等の罪,また,これらの罪の未遂罪を非親告罪とし,同法第224条の未成年者略取・誘拐の罪,未成年者略取・誘拐の罪を幇助する目的で犯した被拐取者引渡し等の罪及びこれらの罪の未遂罪のみを親告罪として維持することとするものでございます。また,併せて略取・誘拐等の犯人と被害者とが結婚した場合におけます告訴の効力に関する特例を定める刑法第229条ただし書を削除しようとするものであります。
  現行法上,わいせつ目的又は結婚目的の略取・誘拐に係る罪が親告罪とされている趣旨は,一般に,強姦罪などと同じく,被拐取者の名誉の保護のためなどとされております。このため,今回の強姦罪等について,親告罪とされていることに伴う性犯罪被害者の負担などを考慮して非親告罪化しようとする以上,これと同様にわいせつ目的や結婚目的の略取・誘拐に係る罪についても非親告罪化しようとするものでございます。この結果,略取・誘拐の罪につきましては,未成年者略取・誘拐に係る罪のみが親告罪として維持されることになります。
  未成年者略取・誘拐に係る罪が親告罪とされた趣旨には,略取・誘拐の被害に遭った未成年者のその後の成長に影響を与え得る犯人の処罰を求めるか否かの判断を被害者や監護権者の意思に委ねるべきとの観点が含まれていると考えられておりまして,その意味で親告罪を維持する独自の意義があると考えられます。したがいまして,未成年者略取・誘拐に係る罪,すなわち未成年者略取及び誘拐の罪,刑法第224条,それから未成年者略取及び誘拐の罪を幇助する目的で犯した被略取者引渡し等の罪,刑法第227条第1項の一部,及びこれらの罪の未遂罪につきましては,刑法第229条により規定される親告罪の対象として維持することとしているものでございます。
  また,要綱(骨子)第四の二におきましては,被害者が犯人と婚姻した場合,婚姻の無効等の裁判が確定した後でなければ告訴の効力がないとする刑法第229条ただし書を削除することとしております。
  先ほど御説明申し上げましたとおり,今回,未成年者略取・誘拐に係る罪のみを親告罪として維持するものとしておりますところ,仮に第229条ただし書を維持するとした場合,例えば未成年者を略取・誘拐した者がその後,被拐取者と戸籍上だけの形式的なものであっても婚姻したときは,被拐取者などから告訴があっても,その婚姻の無効又は取消しの裁判が確定するまで告訴の効力がないということになります。
  しかしながら,そのような事態は今回の改正によって結婚目的で未成年者などを略取・誘拐した場合について,その後の婚姻の有無に関わりなく非親告罪とし,そもそも婚姻と告訴の効力に関係性がないものとすることと整合しないものとなります。また,刑法第229条ただし書が設けられている趣旨は,一般に法律婚の保護と考えられておりますけれども,略取・誘拐された未成年者が犯人と婚姻したにもかかわらず犯人を告訴する場合というのは,そもそも婚姻の届出はなされたものの被拐取者に婚姻する意思がなかったか,あるいは婚姻関係が破綻しているような場合であると考えられますから,そのような状況において告訴の効力との関係で法律婚の保護が図られるべきであるとも考えられません。
  したがいまして,今回,結婚目的の略取・誘拐に係る罪などを非親告罪化するのに併せ,刑法第229条ただし書の規定を削除することとするものでございます。
  なお,要綱(骨子)第四につきましては,先ほど御紹介いたしました席上配布資料にありますとおり,去る10月9日の法制審議会総会におきましても,「非親告罪化には賛成であるけれども,非親告罪化した場合には被害者の心情への配慮や捜査,公判の過程における二次被害の防止などが重要である」,また,「被害者の意思に反した起訴がなされないような仕組みについても考えていただきたい」という趣旨の御意見が複数の委員から述べられております。
  この部会での御審議に当たりましても,このような総会での委員の皆様の御意見なども踏まえて,御議論を進めていただければと考えております。
○山口部会長 ありがとうございました。
  それでは,総会で御指摘のあった点も含めて,御意見を伺いたいと思います。御意見のある方,よろしくお願いします。
○今井委員 この問題につきまして,要綱(骨子)に賛成する立場から若干意見を申し述べたいと思います。
  今,御説明がありましたように,現行法が強姦罪等を親告罪としているということは,席上の資料ですと,例えば資料24等からも分かるわけですが,公訴提起することによって,被害者とされる方の,制定当時の理解でいいますと名誉,あるいは現在の理解によりますとプライバシーの保護という方が適切かと思いますけれども,そのような被害者の意思を忖度(そんたく)せず公訴提起することによるプライバシー侵害を防止するということが主たる目的であったと考えられるところであります。
  しかし,資料7の「性犯罪の罰則に関する検討会」におけます議論,例えばその3ページなどに議論の要約が書いてありますけれども,そこを見ますと,先ほど御紹介もありましたように,現時点では,被害者にとって,あなたが告訴権者ですから告訴するかどうかを決めてくださいとお願いをするようなことによって,更に心理的な負担が大きいという場合も多々あるという御意見がございます。また,自分が告訴するかどうかということによって加害者とされる方から報復されるというおそれを持つことも十分考えられるところでありまして,実はこういった制度が被害者に更なる精神的な負担を課しているのではないかということが懸念されるところであります。
  そのようなことを考えますと,被害者のプライバシー保護が図られている限りにおいては非親告罪化に進むべきではないかと思います。そのプライバシーの保護でありますけれども,近年の刑事訴訟法の改正等におきまして,様々な制度の工夫がなされているところは御案内のところであります。例えば証人尋問の際に遮蔽措置を採るなどということあるいは被害者特定事項の秘匿ということもありますが,そういったことによりまして,被害者のプライバシーを保護することは十分に考えられますので,現時点では,この犯罪が重大であるということも併せて考えますと,非親告罪にするという方向性が支持されると思います。
  他方で今日,席上配布されました資料を拝見いたしますと,被害者のプライバシー保護について更なる御意見も出ているところであります。例えば被害者が積極的に処罰を希望しないという意思を明確にした場合には訴追しないとするような仕組みについて検討されてはどうかという意見もありまして,大変ごもっともなものだと思います。しかし,今回の議論の前提ですが,性犯罪が大変重大な犯罪であるということ,そして被害者のプライバシー保護も制度的に相当程度図られてきているということを考えますと,御提案のような制度を作った場合には,被害者の方の明確な意思を確認するということが制度的に困難になるのではないかと思います。
  このような御要望についての対応につきましては,やはり適切な公訴権の運用,起訴裁量に任せる方がよいのではないかと思っていましたところ,資料で見ますと,今日の26番の資料で親告罪の不起訴理由等に関する統計というものがあります。その1ページ目には,強姦罪に関する不起訴のパーセンテージが挙がっており,2ページ目には現在でも非親告罪であります強姦致死傷,強制わいせつ致死傷の数が挙がっているところでありますが,この不起訴率を比較して見るに,強姦罪が非親告罪になった場合でも強姦致死傷,強制わいせつ致死傷等と同様に適切に,例えば被害者の意見を聞く,あるいは示談が成立して起訴不相当となるような事案について適切に裁量権を行使することによって,御懸念の点は解消されるのではないかと思っております。
  そういったことを含めまして,結論を繰り返しますが,私としましては要綱(骨子)第四の提案に賛成したいと思っております。
○池田幹事 私も今の今井委員の意見に賛成するものでございます。これまで,刑事訴訟法の改正が繰り返されてまいりましたが,これらは一貫して,被害者が手続に関与することに伴って受ける負担の軽減に向けられてきたものといえます。そして,親告罪という制度が手続に関与する被害者の負担となってきたという指摘に鑑みますと,この制度を廃止することによって被害者の負担を軽減するというのは,その線に沿うものと考えております。
  翻って考えてみますと,先ほどプライバシーという言葉も出ましたが,事件を公にしたくないという希望は,それ自体が保護に値しないわけではないものの,従来の仕組みは,その保護を処罰の断念により担保しようとしてきたものだと考えられます。しかし,公にしたくないという希望と,処罰を断念しようという気持ちとは,必ずしもイコールではないのであり,また,これまでの議論によりますと,秘匿を望む方々が皆さん処罰を断念されているというわけでもないとするならば,適切な制度を通じて,その秘匿の希望に沿いつつ適正な処罰を図るということが考えられてよいのではないかと思います。
  また,プライバシーを保護するための被害者の意思の尊重のための枠組みにつきましても,ただ今の御指摘に加えて申し上げるならば,被害者が明確に処罰を求めないということを述べている事件で検察が無理に訴追するということをしても,公判の維持というものは困難となるのではないか。そのような観点からも,事実上,被害者の明示の意思に反する訴追というものは行われにくくなるのではないかと思われ,あえて制度を設けて意思を確認することによって生じうるデメリットと比較いたしますと,特段の規定を設ける必要はないのではないかと考えております。
○北川委員 今,今井委員と池田幹事がおっしゃったこと,非親告罪化すべき方向が支持されるということに対して,私は反対を述べるわけではないのですけれども,だからといってというところが1点,懸念が残っているということを正直に申し上げたいと思います。
  先ほど宮田委員がおっしゃったこととも関係するのですけれども,えん罪を防止するために被害者の供述が吟味されなければならないということになっているはずです。だとすれば,被害者のプライバシーを保護しても,被害者で何度も同じ事を話したくないという人の意思は尊重されなくなってしまう事態も予想されます。また,強姦犯人と疑わしき人が捕まって複数の被害者が見込まれて,この被害者からも供述を得たい,裁判でも証言していただきたいとなってしまったときに,その方を対象から外すということになるのでしょうか,この点は実務の方々にお伺いしたいと思います。
  被害者の何度も話したくない心情というのは大変分かりますので,申し上げた次第です。
○森委員 今,実務の方にというお話がございましたので,検察の現場での運用について少し説明させていただきたいと思います。
  御指摘のとおり,被害者供述の吟味がとても重要だというのは,当然のことでございます。先ほど宮田委員からお話がありました大阪の再審事件のような,被害者供述が虚偽であるのを見抜けずに起訴してしまうということは,あってはならないことだと思っております。
  それで,性犯罪に関する検察の運用の現状でございますけれども,親告罪とされている強姦罪等につきましては,当然のことながら被害者の告訴意思を丁寧に確認しております。また,更に非親告罪であります強姦致死傷罪や集団強姦罪におきましても,起訴するか否かを判断するに際しましては,被害者の意思を丁寧に確認しております。
  先ほど今井委員から,不起訴理由に関する資料を基にお話がありましたとおり,非親告罪とされております事件につきましても,示談が成立して被害者が処罰を望まないというようなときに,あるいは被害者が法廷への出廷を頑なに拒否しているというようなときには,それが不起訴理由の一つとして働くことになります。
  その理由は当然ながら,被害者のプライバシー等の保護というのが性犯罪では取り分け重要になってくるということ,それから今も少し申し上げましたけれども,性犯罪におきましては,検察官の立証の中心,それが被害者の供述になることがどうしても多いものですから,被害者の意思に反する起訴をして被害者が法廷に出てくるのを拒むということになりますと,これはもう立証できないということになってしまいます。
  そういったことから,非親告罪につきましても,被害者の意思というのは最大限尊重しているところでございます。ですので,強姦罪や強制わいせつ罪を非親告罪化した場合にも,これまでと同じように,被害者の意思というのは最大限尊重していくことになろうかと思っております。
  もちろん,事案によりましては被害者の供述がなくても立証可能な事案もございますし,また,事案の悪質性ですとか再犯防止という観点から,被害者が処罰を望んでいなくても検察官が公益の代表者として処罰するべきであると考える事案も中にはあるかと思います。ですが,その場合におきましても,検察官としては被害者の方に対して処罰の必要性等を十分に説明することになりますし,また,被害者のプライバシー保護に関する制度につきまして丁寧に説明して,被害者の意思に反する起訴とならないよう努力していくことになると思われます。ですので,被害者が処罰を望んでいないのに被害者の知らない間に起訴されてしまうというようなことは通常,考えられないと思っております。
  また,先ほど今井委員からも被害者のプライバシー保護に関する諸制度の説明がございましたので付け加えて申し上げますと,検察庁では平成26年10月に最高検から発出しました通達におきまして,被害者等から事情聴取するに当たっては,被害者等が受けた身体的,精神的被害等に十分配慮しつつ,被害者等との間のコミュニケーションをより一層充実させ,その声に真摯に耳を傾けるよう努められたいとしております。これはもちろん捜査等の過程で,いわゆる二次被害を被害者に与えてはいけないということを,検察官において,常に念頭に置いて,その心情に十分配慮した対応をとる必要があるという趣旨でございまして,これを全国の検察官に周知しているところでございます。
  具体的な配慮の在り方として少し申し上げますと,まず捜査段階の事情聴取におきまして,現在,女性検察官も増えてまいりましたので,被害者の意思にもよりますけれども,女性検察官と女性事務官が立ち会って聴取を行うという配慮ですとか,あるいは一般の取調室ではなくて被害者専用に設けたちょっとリラックスできるような部屋,あるいは被害者の心身の状況によりましては自宅に伺って話を伺うということもやっております。更には被害者の体調や精神状態に配慮して,こまめに休憩を取るような配慮も各検察官がしているところでございます。
  また,公判段階におきまして,先ほど今井委員の方から述べられた制度等がございますし,起訴段階において起訴状にその被害者が特定されるような事項が出てこないような配慮ということも今はしているところでございます。
○北川委員 具体的な工夫といいますか,運用のお話を教えていただいてありがとうございます。
  確認したかったのは,処罰は望むけれども,何度も供述させられたり,証言台に立ちたくないという被害者もおられる一方で,刑事事件である以上,裁判である以上,被害者の供述を吟味し,証言の信憑性を問題にせざるを得ないではないかというところのジレンマをどうやって解決していくのだろうかと,どういう工夫があるのだろうかということをお伺いしたくて,お聞きした次第です。ありがとうございました。
○田邊委員 ただいまの北川委員の御質問につきまして,裁判所の立場からも少々申し上げさせていただきたいと思います。
  私が申し上げるのは現行の法律上の運用ということになりますけれども,現在,このような犯罪が起訴されて公判になった場合,被害者とされる方の証人尋問というものは避けて通れない場合というのが多々ございます。そのような場合に,公判において被害者とされる方に対する配慮といたしまして,現行法上は,例えば公判でその被害者とされる方の人定事項など被害者を特定される事項,こういうものについては公判廷で秘匿して,それで審理を進めていくという制度がございます。そのほか,証人尋問という場面になった場合には必要に応じまして,また,当事者の意見も聞きながら証人への付添い,それから傍聴人,被告人などとの間に衝立て等を置いて見えない状態で証言をしていただく遮蔽の制度,また,別室に入っていただいてビデオリンクで証言をしていただく制度,また,これらを併用してなどということが具体的に規定もされておりますし,かなり広く運用されているところでございます。
  このような現行法上の規定につきましては,これまでも当事者の御意見を聞きながら適切に運用してきたと考えておりますし,恐らく今後もそのように運用されていくと思いますので,一言付け加えさせていただきました。
○小西委員 被害の当事者にこのことを,非親告罪がいいのか親告罪がいいのかと聞いてしまうと,どちらの意見も当然出てくると思います。検討会の議事録を読ませていただきましたが,当事者の方がそう言っている場面もあったように記憶します。
  ただ,実際に更に,なぜ非親告罪が嫌だということを聞いたり,どうしたいかというのを詳しく聞くと,相手を罰したくない方というのはほとんどいません。ただ,自分が法廷でしゃべらなくてはいけない恐怖とか,相手にそういうことをやったときにどのような報復が来るか分からない不安,それからもう一つは,その時期は感情がなくなってしまったり,事件のことそのものを全く考えられない方もいるのですね。これは大体,被害の急性期にこういうことが起こります。その時期には捜査があったり,あるいは起訴,不起訴の問題があったりします。
  ですから,その時期にどうしたいかと聞かれても,私は加害者のことは何とも思いませんというようなお返事を,その急性期の症状でなさる方もいます。そういうことをいろいろ考えると,基本はやはり罰したいし,普通の犯罪,暴力の犯罪として扱っていただくということが多くの方は思っていることなのだと思うのですね。
  そうなると,ここはやはり実務の問題というところが非常に大きい。現に今,親告罪であっても二次被害はたくさん起こっていますし,また非親告罪になれば,またそういうことが起こるというのは現実としてあると思いますが,むしろそこの問題として考えていただく必要があるのではないか。
  結論としては,自分の経験からすると,私は非親告罪化に基本的に賛成です。被害者の声というのも,声もうまく上げられない時期,それから考えることもできない時期ということも,もっと考えていただければなと思っております。
○小木曽委員 御議論を伺っておりまして,結局,被害者の方にかかる公判や捜査段階の負担というのは,親告罪であるかないかということとは関係がないのだろうと思います。被害者への負担を減らしつつ,処罰されるべき者は処罰されなければならないでしょうし,一方で,これが刑事裁判である以上は,証拠の吟味ということは必要でありますので,被害に遭ったとされている方の協力も必要なのだと思います。そこで,いかにその負担を軽減するかという工夫はしていかなければならない。
  しかし,被害者への負担軽減ということと,被害者の告訴を訴訟条件とするということについての理論的な関連は,冒頭,今井委員の発言にありましたように既に薄れているのではないかと考えます。
○塩見委員 私も基本的には非親告罪化ということに賛成です。被害者について現場でも非常に慎重な取扱いをされているということで,運用は今後も改善の余地はあるのでしょうけれども,非常に気を遣ってされているということはよく分かりました。
  その負担と親告罪にするかどうかとは直接には結び付かないだろうという御発言がありましたけれども,そもそも3年以上とか5年以上の有期懲役というような重い法定刑が規定されているということは,社会的に見て非常に重大な犯罪であるということが当然前提になっているわけで,それを親告罪という形で扱うということに理論的にも疑問があると思います。そういう表明をした以上はやはり国が責任を持って起訴をするという形をとるのが筋ではないかと。それで出てくる不都合は別途いろいろな形で調整を図る,被害者の方に負担が掛からないようにするというのがやはり基本的に在るべき姿ではないかと思います。では,どこからが親告罪としていいような法定刑なのかと言われると困るのですけれども,そういう面から非親告罪化ということに賛成したいと思っております。
○佐伯委員 今,塩見委員から御発言があったわけですけれども,私自身は「性犯罪の罰則に関する検討会」でも申し上げましたけれども,先ほど事務当局から今回の提案の理由として御説明がありましたように,今回の非親告罪化の理由というのは,告訴権というのは被害者のために認められているにもかかわらず,被害者のためになっていないという点にある。そういう立法事実があることを前提として今回,非親告罪化を行うというふうに理解しております。
  もし,重大犯罪であるから非親告罪にすべきでは本来ないということになりますと,被害者の方が大勢として親告罪を維持することを望んでいても,国家の立場から非親告罪化すべきであるということになるかと思いますけれども,今回の改正というのはそういう趣旨ではないというように理解して,賛成したいと思います。
○武内幹事 基本的に非親告罪化することについて反対の立場をとるものではありません。ただ,被害者の負担という点について先ほど来お話が出ておりますので,主に犯罪被害者の支援を担当する弁護士の立場から一言,意見を申し述べさせていただきます。
  確かに非親告罪化することによって,告訴をするかしないか,ないし一旦行った告訴を維持するか取り下げるかという点について,被害者の精神的負担は軽減されるものと理解しております。他方,処罰の意思がそれほど強固でなくても,捜査の負担を被害者が受けることになるという側面は,やはり否定できないのではないかと考えております。
  ですから,今までであれば捜査の負担を考えて告訴をする,しないという選択肢を与えられていた性犯罪被害者が,今後は制度的にそれが担保されなくなる。確かに,公訴提起の場面では,被害者の意思に反した起訴というものはなされないでしょうが,被害者の意思に反した,ないし被害者の意思に沿わない捜査の開始というものがこれから起こっていくことになります。その部分の被害者の精神的負担をケアすることが考えられなければいけないのではないかと思っております。
  冒頭に申し上げたとおり,性犯罪の非親告罪化そのものに反対する立場ではありませんが,被害者の負担が増すケースが十分考えられる。その部分のケアをこの先,我々が社会的に考えていかなければいけないと思っております。個人的にではありますが,そのような被害者ができるだけ早い段階で,無料で弁護士による法的な支援,あるいは心理士によるメンタルの支援を得られるような制度の構築というのを,併せて別途,国として考えていくべきではないか,そのように考えます。
○角田委員 先ほど小西委員からお話があったのですけれども,PTSDの急性期の被害者というのは,つまり捜査が始まると,早く届出がされたらですけれども,捜査と急性期とが重なってしまうので,その段階で何か被害者に特別な支援が必要ではないかと私は今,聞きながら思ったのですね。
  ですから,先ほどお話がありましたように,声を上げられないとか考えることすらできない段階に捜査がぶつかったときに,その被害者の意思というものが間違ってとられてしまうことが起きてくると思われますので,そこに何か特別な手当が制度的に必要ではないかと私は思っております。
○小西委員 今の角田委員の御意見に賛成なのですが,ここはそういう実務的な支援をどうするかを話し合う場ではないのかなと,ちょっと自分でよく分からないでいたので申し上げなかったのですけれども,非親告罪化に伴って急性期の支援ということが非常に大事になってくると思っております。
○武内幹事 先ほど森委員から,被害者のプライバシーへの配慮の一つとして,被害者の特定事項が起訴状に掲載されないように配慮することもあるというお話を御紹介いただきました。ところで,被害者の方からプライバシーに配慮してほしいという希望があったときに,そのことだけで起訴状に記載しないという運用は,現状で可能なのでしょうか。
○森委員 今現在,現にやっております。もちろん公訴事実として被害者を特定することは必要ですので,それはその事案により様々な工夫で特定するのですけれども,例えばよくある名前でも漢字が特殊なので,漢字で名前を書いてしまうと特定されるようなときには片仮名表記にするとか,あるいは親の名前を記載して,その長女何歳とするとか,これは本当に事案によりますし,被害者の方の希望の有無のみで決める訳ではありませんが,そういう取組を始めております。裁判所の御理解もいただいているところです。
○武内幹事 ありがとうございました。
○平木委員 この点につきましての裁判所での議論を御紹介させていただきます。
  平成25年9月に司法研修所で行われました研究会において,裁判官同士で議論がなされたわけですけれども,起訴状には原則として被害者の実名を記載すべきではないかという意見が多かったところではございますが,例外として再被害のおそれが高いような場合には,実名以外の記載をする必要性が高くなるということについては異論がなかったと聞いております。
  もっとも,この問題につきましては裁判所のみで対応できるものではございませんで,公訴を提起する検察庁での議論や弁護士会における議論状況もお聞きした上で検討する必要があるものと考えております。そうした議論も踏まえまして,個別具体的な事案におきまして再被害のおそれが高いかどうかという観点なども踏まえて,起訴状に実名を記載すべきか否かということについて,更に検討していくということになると考えておるところでございます。
○武内幹事 平木委員にお伺いしたいのですが,起訴状の記載に関してはそのような取扱いがなされておると伺っておりますけれども,例えば再被害のおそれがあるようなケースであっても,判決書に被害者のお名前を載せないということはあり得るのでしょうか。
○平木委員 先ほど申し上げました司法研修所での研究会での議論を紹介させていただきますと,被告人には実名を知らせるべきではないと考えられる事案ではあっても,被告人の防御の観点から弁護人には被害者の実名をお知らせする必要があり,証拠上も実名が明らかになることが望ましいということを前提に,証拠上,実名が明らかにされれば,判決書にも実名を記載する方が望ましいという議論が多かったと聞いております。
  その理由につきましては,判決書におきまして実名を記載しなかった場合には,後に同一の被告人について再度起訴がなされますと,それが前の事件の蒸し返し,重複起訴かどうか分からなくなってしまうのではないかという議論がなされていたと聞いております。
○武内幹事 その場合,判決書に被害者の名前が出ていたとしても,被告人には謄本の交付請求が可能だと理解しております。
  戻りますけれども,性犯罪の非親告罪化に反対する立場ではございませんが,そこでいう被害者のプライバシーといった場合,広く社会一般に自分の事件が知られるというプライバシーの側面と,もう1点,被告人に自分の氏名あるいは住所といった特定事項が知られてしまうというプライバシーの側面,二つの側面が考えられると思います。
  非親告罪化がなされたとしても,被害者の明確な拒絶のある事案等での公判維持は相当困難であろうと思います。ですが,それでも被害者の意に反した捜査,意に沿わない公判請求ということは十分考えられます。その場合,特に被害者の被告人に対する関係での情報のコントロールという側面を,私を含めた関係者が,より考えていかなければならないと思っております。
○山口部会長 ありがとうございました。
  非親告罪化についてはいろいろ御意見をお伺いしておりますが,略取・誘拐罪の関係につきましても非親告罪化が問題になります。その点について何か具体的に御意見をいただけけることがあればお願いします。
  強姦等と一括して同じに考えてよいと理解してもよろしいでしょうか。別に考える必要があるということであれば,何かその辺りの御意見を頂ければと思うのですが。
○今井委員 私は先ほどの御説明で納得しているものでありまして,未成年者略取・誘拐罪については現行法を維持するということでありますけれども,その他の犯罪につきましては,先ほど来ここでも議論がありましたけれども,被害者のプライバシー保護ということと犯罪の重大性ということとの兼ね合い,あるいは池田幹事がおっしゃったように被害者の意思というものにも二通りあり,公にしたくないということと,しかし処罰を断念するわけではないということ,この調整を図っていった際の整理の仕方としては,未成年者に係るものであるという点,それから略取・誘拐という犯罪である点を踏まえますと,これについてはなお親告罪として残すということに合理的な理由があるように拝聴しました。
○山口部会長 諮問自体は,親告罪を残すというよりも,非親告罪化する部分についてそれでよいかという問題ではあるのですが,ほかにいかがでしょうか。
  大体,御意見としてはお述べいただいたと理解してもよろしゅうございましょうか。
○宮田委員 略取・誘拐の場合はある程度被害の期間があるということになるかと思います。そうすると,被害者の方にとっては,その期間,自分が何をしていたか等についての情報のコントロールが必要な面がある程度出てくるのではないかと思います。
  そういう意味で,強姦とはまた違った意味での被害者のプライバシーの問題は出てくるのではないでしょうか。特に反対という意味ではありませんが,被害者の保護すべき情報という問題は出てくるのではないかと感じた次第でございます。
  また,先ほどから出ている強姦等の非親告罪化の問題ですが,捜査の端緒は被害者の被害申告だけではない。加害者の方が何十件もやっていますと自白したような場合,あるいは目撃者があそこで被害に遭っている人を見ましたというような形があります。捜査の端緒は被害者の意思にはかかわらしめられないものがある以上,先ほど小西委員がおっしゃったような,親告罪であることによって被害者が捜査をコントロールできていた部分が今後できなくなるという点についての配慮は,必要ではないかと感じた次第でございます。
○山口部会長 ほかに御意見いかがでしょうか。
  大体,今日のところは御意見をお述べいただいたということと理解させていただきました。
  ありがとうございました。
  本日の御議論では,要綱(骨子)第四の一及び二のとおり,強姦罪,強制わいせつ罪,及びわいせつ目的又は結婚目的の略取・誘拐罪等について非親告罪化すべきであるという御意見が多数といいますか,反対の御意見は述べられなかったと思います。その意味では皆様,賛成していただいたと理解できるように思います。
  また,非親告罪化した場合について総会でも御指摘のあった点でございますが,被害者の意思に反した起訴ができないようにする制度的な担保を設けるかどうかという点につきましては,そのような制度を設けることは難しい上に,運用によって適切に対応が可能であるという御意見が多かったように思われます。運用についてもかなり御説明をいただきまして,理解を深めることができたのではないかと思います。
  いろいろな御指摘がございましたが,非親告罪化するか否かにかかわらず,捜査,公判の手続において被害者に対する配慮が必要であるという御意見が複数述べられたところでございます。
  本日の審議はこのような形でまとめさせていただき,これで終了するということにさせていただきたいと思います。
  次回以降の予定でございますが,先ほど申しましたとおり,要綱(骨子)第一とそれに関連する事項から審議をお願いしたいというように考えております。次回以降の会場等につきまして,事務当局の方で御説明いただければと思います。
○中村幹事 第2回会議は11月27日,金曜日の午前9時からを予定いたしております。場所は本日とは異なり,法務省地下1階の大会議室でございます。
○山口部会長 それでは,次回は平成27年11月27日,金曜日,時間は本日より若干早くなりまして,午前9時からということで,地下1階の法務省大会議室で開催するということでございます。内容的には要綱(骨子)第一の強姦の罪の改正に関する事項と併せて,関連する第二,第五,第六に関する事項について議論したいというように思います。
  なお,本日の会議の議事でございますが,これにつきましては特に公表に適さない内容に当たるものはなかったというように思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思います。
  なお,配布資料でございますが,資料番号14,15,21,22,27につきましては,具体的事例の内容に関するものでございますので,関係者のプライバシー等に配慮いたしまして,ホームページでの公表はしないことといたしまして,それ以外の資料は公表することにしてはいかがかというように思いますが,そのような取扱いでよろしゅうございましょうか。
(「異議なし」の声あり」)
  ありがとうございました。それでは,そのようにさせていただきます。
  それでは,これをもちまして終了とさせていただきます。
  どうもありがとうございました。
http://www.moj.go.jp/content/001166028.txt

http://www.moj.go.jp/content/001173705.txt
第1 日 時  平成27年11月27日(金) 自 午前
議        事

○中村幹事 予定の時刻となりましたので,ただいまから法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第2回会議を開催いたします。
○山口部会長 おはようございます。本日は御多忙中のところ,お集まりいただきまして,誠にありがとうございます。
  本日,木村委員,松尾関係官におかれましては,御欠席と承っております。
  まず初めに,事務当局から資料についての御説明をお願いいたします。
○中村幹事 本日新たに配布する資料はございませんけれども,前回の会議でお配りした資料1から27までを机上に置いております。このうち,本日御審議いただく論点に特に関係すると思われる資料が資料12から18まででございます。
  また,参考といたしまして,本年の犯罪白書に「性犯罪者の実態と再犯防止」と題する特集が掲載されておりますので,その部分の写しをお配りしております。性犯罪に関する様々なデータが含まれておりますので,御参考にしていただけるものと思っております。
○山口部会長 ありがとうございました。
  それでは,早速審議に入りたいと思います。前回申し上げましたとおり,本日は要綱(骨子)第一,第二,第五及び第六について,審議を行いたいと思います。
  まず,事務当局から,これらの諮問事項について,改めてその趣旨や検討経過等について,御説明をお願いいたします。
○中村幹事 本日御審議いただく予定となっております要綱(骨子)第一,第二,第五及び第六につきまして,このような内容とした趣旨及び検討の経過などを,御説明申し上げます。
  お手元の配布資料番号1の別紙要綱(骨子)の第一を御覧ください。
  要綱(骨子)第一は,強姦罪について規定する刑法第177条の改正に関するものです。
  同条において処罰の対象とされている行為を拡張するとともに,法定刑の引上げを行おうとするものです。
  まず,対象行為の拡張について申し上げます。
  現行法におきましては,刑法第177条の罪は,第176条に規定する強制わいせつ罪に当たる行為の一部について,特別に重く処罰する加重類型であると理解されております。そして,その対象となる行為は,「女子」に対する「姦淫」行為に限られております。
  しかし,この点に関して,第3次男女共同参画基本計画においても,強姦罪の構成要件の見直しが検討事項とされており,「性犯罪の罰則に関する検討会」におきましても,強姦罪の行為者,被害者について性差を解消すべきであり,男性器の女性器への挿入以外の行為にも強姦罪と同様の刑で処罰すべきものがあるとする意見が多数を占めました。
  このような議論を踏まえて,要綱(骨子)第一は,その対象となる行為を拡大して,その客体を「女子」に限定しないこととするとともに,相手方,つまり被害者の膣内に陰茎を入れることに加えまして,被害者の肛門内又は口腔内に陰茎を入れることを含むものとし,更に行為者又は第三者の膣内,肛門内又は口腔内に被害者の陰茎を入れる行為をも含むものとしております。要綱(骨子)第一におきましては,このような行為を総称して「性交等」と表現しております。
  このような改正を行おうとするのは,現行法においては強制わいせつ罪に問擬されている行為の中でも,いわゆる肛門性交及び口淫は,陰茎の体腔内への挿入という濃厚な身体的接触を伴う性交渉を強いられるものでありまして,姦淫と同等の悪質性・重大性があると考えられますことから,姦淫と同様に加重処罰の対象とすることが適当であり,また,このような行為によって身体的・精神的に重大な苦痛を伴う被害を受けることは,被害者の性別によって差はないと考えられたことによります。
  さらに,行為者又は第三者の膣内,肛門内又は口腔内に被害者の陰茎を入れる行為,いわゆる挿入させる行為につきましても,被害者としては,自己の陰茎を他人の体腔へ挿入するという濃厚な身体的接触を伴う性交渉を強いられるものでありまして,被害者の膣内,肛門内又は口腔内に行為者又は第三者の陰茎を入れる行為,すなわち挿入する行為と同等の悪質性・重大性があるものと考えられたことから,これらの行為も同様に加重処罰の対象とすることとしたものであります。
  ここで「陰茎を入れる」とは,陰茎が膣内,肛門内又は口腔内に入った状態にすることを意味するものであります。
  また,「自己又は第三者」として,第三者を加えている趣旨についてですけれども,行為者が自己の陰茎を被害者の膣内,肛門内,口腔内に入れる行為や,自己の膣内,肛門内,口腔内に被害者の陰茎を入れる行為だけではなく,第三者にその陰茎を被害者の膣内等に入れさせたり,第三者の膣内等に被害者の陰茎を入れさせるという行為も想定されますところ,現行法においても,第三者に被害者と性交をさせるような行為は強姦罪として処罰し得ると考えられますけれども,このような場合についても,第177条の罪として処罰することを明確にするという趣旨で,「第三者」を加えているものでございます。
  ところで,第177条の処罰の対象行為の拡張に関し,「性犯罪の罰則に関する検討会」におきましては,膣や肛門に対する手指や異物の挿入についても姦淫と同等に取り扱うべきであるという御意見がございましたが,これに対しては,指や異物の挿入まで含めると外延が不明確になるのではないか,姦淫と同等といえるかという点でも疑問があるといった御意見もございました。
  今回の諮問におきましては,異物を肛門内に入れる行為の場合,異物の範囲が無限定でありますことから,性的な意味を有しないこともあり得ると考えられること,異物を膣内に入れる行為の場合,通常性的な意味を有するものと認められるとは思われるものの,その態様には様々なものがあり得ることなどから,全ての場合に被害者にとって姦淫と同程度の濃厚な身体的接触を伴う性交渉を強いられるものと類型的に認められると断ずることまでは難しいと考えられたため,これらの行為は,拡張する範囲に含めないこととしております。
  なお,現行の強姦罪につきましては,実行行為を行い得るのが男性に限られる一種の身分犯であるとの理解がございましたけれども,要綱(骨子)第一のとおりの改正が行われた場合には,行為主体について性別を問わないことが明らかとなります。
  なお,要綱(骨子)には直接関係しませんが,刑法第176条においては,行為の相手方を「13歳以上の男女」,「13歳未満の男女」と規定しているところですが,これは,第177条において「女子」としていることとの関係で「男女」とされているものと考えられますので,第177条において「女子」を「者」と改正するのであれば,第176条についても「者」としてそろえるのが適切ではないかと考えているところでございます。
  次に,法定刑の引上げについて申し上げます。
  現行法においては,刑法第177条の罪の法定刑の下限は懲役3年とされておりますが,要綱(骨子)第一におきましては,これを懲役5年に引き上げようとしております。
  刑法第177条の罪の法定刑につきましては,平成16年の刑法改正により,下限がそれまでの懲役2年から懲役3年に引き上げられましたが,その際の国会審議における附帯決議においても,他の罪の法定刑との均衡や被害の重大性を踏まえた更なる検討が求められておりました。
  また,平成22年の刑法及び刑事訴訟法改正に係る国会審議の際にも,事案の実態や犯罪被害者等を含めた国民の意識を十分に踏まえつつ,罰則の在り方について更に検討を求める旨の附帯決議がなされておりました。
  さらに,平成22年12月に閣議決定されました男女共同参画基本計画におきましても,「女性に対する暴力に関する専門調査会」での強姦罪の法定刑を引き上げる見直しを検討するべきであるとする取りまとめを受けて,性犯罪に関する罰則の在り方を検討することとされておりました。これらの指摘を踏まえて議論が行われました「性犯罪の罰則に関する検討会」におきましても,近時の強姦罪の量刑の状況や強姦罪の被害の重大性などに照らしまして,法定刑の下限を引き上げるべきであるとする御意見が多数でございました。
  実際の量刑につきまして,強姦罪と強盗罪などの量刑の軽重が両者の法定刑とは逆転した状態ともなっていることにつきましては,前回の資料説明の際にも申し上げましたが,さらに,別の観点から御説明したいと思います。
  お手元の資料18の3ページを御覧ください。
  強姦罪の法定刑の下限が懲役3年に引き上げられた平成17年以降平成26年までの量刑を見ますと,強姦罪につきましては,5年を超える懲役とされた事件,つまり,グラフの下の表1の中で「7年以下」という欄から右側の欄の件数を合計すると917件となりまして,全体に占める割合は約31%となります。
  これに対し,強盗罪について,7ページを御覧ください。
  同じく平成17年から26年までの,5年を超える懲役とされた事件の合計は1240件であり,全体に占める割合は約22%でございます。
  続いて13ページを御覧ください。
  現住建造物等放火罪については,5年を超える懲役とされた事件の合計は433件であり,全体に占める割合は約23%でございます。
  このように,法定刑の下限が懲役5年とされております強盗罪及び現住建造物等放火罪よりも,強姦罪の方が重い量刑がなされる事件の割合が高くなっているということがいえます。
  このような最近における性犯罪の法定刑に関する様々な御指摘や,現実の量刑の状況に鑑みますと,強姦罪の悪質性・重大性に対する現在の社会一般の評価は,少なくとも強盗罪,現住建造物等放火罪などの犯罪に対する評価を下回るものではないと考えられまして,現時点において,強姦罪の法定刑の下限は低きに失し,国民意識と大きく異なることとなっていると言わざるを得ないと考えられました。そこで,その法定刑の下限を,強盗罪,現住建造物等放火罪と同様に,懲役5年に引き上げようとするものでございます。
  次に,要綱(骨子)第二について御説明いたします。
  要綱(骨子)第二は,準強姦罪について規定する刑法第178条第2項の改正に関するものでございます。
  その趣旨などにつきましては,前回御説明したとおりでありまして,同項の罪についても,要綱(骨子)第一におけるのと同様に,対象とする行為を拡張し,法定刑を引き上げようとするものでございます。
  次に,要綱(骨子)第五でございます。
  要綱(骨子)第五は,集団強姦等の罪及び集団強姦等致死傷の罪の廃止に関するものです。具体的には,集団強姦等の罪について規定する刑法第178条の2及び集団強姦等致死傷の罪について規定する同法第181条第3項を削除しようとするものです。
  現行法では,集団強姦等の罪の法定刑の下限は懲役4年,同罪に係る致死傷罪の法定刑の下限は懲役6年とされておりますが,要綱(骨子)第一及び第六のとおり,強姦罪及び強姦致死傷罪の法定刑の下限を引き上げることといたしますと,集団強姦等の罪及び集団強姦等致死傷の罪の法定刑以上の法定刑となるわけでございます。
  したがいまして,集団強姦等の罪などを廃止したとしても,二人以上が現場で共同して行う強姦等については現行法以上の刑を科すことが可能となっておりまして,集団による強姦という悪質性については,引き上げられた法定刑の範囲内で量刑上適切に考慮することによって適切な科刑が可能となることから,集団強姦等の罪などを廃止することとするものであります。
  なお,平成16年に集団強姦等の罪等が設けられた際に,集団強姦等致死傷罪の法定刑の下限について,前科などのない犯人が被害者に対して最善の慰謝の措置を尽くすなどしたにもかかわらず,酌量減軽をしてもおよそ執行猶予を付し得ないとすることには問題があるとの観点から,酌量減軽をした場合において,執行猶予を付することができる限界である懲役6年とされた趣旨は,現在も妥当すると考えられますので,同罪を維持した上でその法定刑の下限を懲役7年以上のものとすることは適当でないと考えられます。このことからも,集団強姦等の罪及び同罪に係る致死傷の罪については,廃止するのが相当であると考えたものでございます。
  次に,要綱(骨子)の第六の一及び二は,強制わいせつ等致死傷罪及び強姦等致死傷罪について規定する刑法第181条第1項及び第2項の改正に関するものです。
  これは,要綱(骨子)第一及び第二における構成要件の変更並びに要綱(骨子)第三における犯罪類型の新設を反映させた上,要綱(骨子)第六の二において,強姦等致死傷罪の法定刑を引き上げようとするものです。
  なお,新設しようとしております第三の罪に関する部分につきましては,第三の罪に関する御説明の際に別途御説明申し上げますので,ここでは,第六の二について御説明申し上げます。
  まず,構成要件につきましては,その基本犯たる第一及び第二の罪の対象となる行為を拡張したことから,その結果的加重犯であります第181条第2項の罪についても,この拡張を反映させるものであります。
  次に,強姦等致死傷罪の法定刑の引上げについてです。
  現行法における同罪の法定刑は,無期又は5年以上の懲役とされておりますところ,基本犯たる刑法第177条の法定刑の下限を引き上げることに伴い,その結果的加重犯を規定する同法第181条第2項の法定刑も引き上げ,懲役6年としようとするものです。
  これは,強盗致傷罪におきまして,被害が極めて軽微で示談が成立し,被害者も宥恕(ゆうじよ)しているような場合に,酌量減軽をしても執行猶予を付すことができないことは酷に過ぎると考えられることから,法定刑の下限が懲役6年とされていることも考慮して,酌量減軽すれば執行猶予を付すことができる限界である懲役6年とすることとしたものであります。
○山口部会長 本日の審議の進め方でございますが,大きく三つの論点に分けまして,まず1点目として,現行法では「女子」に対する「姦淫」のみが強姦罪として強制わいせつより重く処罰されておりますが,その重い処罰の対象とする行為を要綱(骨子)第一のように拡張することについて御議論をいただきます。
  次に2点目として,法定刑を引き上げることについて御議論いただき,最後に3点目として,集団強姦等の罪を廃止することについての御議論という順序で進めるのがよろしいのではないかというように思いますが,そのような進め方でよろしゅうございましょうか。
(「異議なし」の声あり)
○山口部会長 ありがとうございました。それでは,そのように進めたいと思います。
  では,まず最初に,重い処罰の対象とする行為の拡張についてでございます。
  これは,要綱(骨子)第一,第二,第六に共通する問題でございます。この問題につきましては,御議論いただくべき主なポイントとして,4点ほど挙げられるように思われます。
  すなわち,第1に,対象となる行為を,現行法の「姦淫」から,要綱(骨子)第一にありますように「性交等」に拡張すべきなのかどうか。第2に,拡張することが適当であるとして,その範囲は,要綱(骨子)第一の括弧内にありますように,膣に陰茎を入れる行為に加えて,肛門,口腔に陰茎を入れる行為を含めるということでよいかどうか。第3に,同じく括弧内の後半部分,「又は」以降でございますが,ここに記載されている行為,つまり被害者の陰茎を自己又は第三者の膣,肛門,口腔に挿入させる行為についても,同じく重い処罰の対象に含めるということでよいかどうか。第4に,要綱(骨子)第二のとおり,準強姦についても同様の行為を対象とすることでよいかどうかという4点がポイントになると思われますので,これらの点につきまして,御意見をお伺いしたいと思います。
○小西委員 法律家でない立場から,実態についてお話ししておこうと思います。
  例えばその対象を性交から拡大するかどうかということですけれども,肛門性交や口腔性交の場合に,通常の性交よりも被害がどうなのか,精神的な被害はどうなのかというデータをお示ししたいところなのですけれども,国際的にもないと思います。なぜかというと,これらが精神的には同一の被害として扱われていることがほとんどだからです。
  大体,PTSDの診断というのは,特に研究ではアメリカ精神医学会の診断基準,DSMに従って行われていることが多いですが,現在の第5版のトラウマ体験の要件としては,強制された性交,暴力的な性交だけでなく,オーラルセックスやアナルセックスなども,当然のごとく含まれておりまして,これらは同じトラウマ体験として扱われています。
  実際に臨床の体験で言いましても,そういうことを区別するということが何か意味があるようには思えません。PTSDになる方もたくさんおりますし,それからその被害についての治療の仕方も共通だと思います。そういう点では,臨床や治療という側面から見ると,これは当然共通のものと考えていいのではないかと思います。
  男性に拡大するかということですけれども,これも大規模な疫学研究は欧米にしかないのですけれども,男性がアナルセックスで被害を受けたというような場合には,むしろ女性よりも高い比率でPTSDが起きるということも言われておりまして,そういう点では,男性の場合も大変精神的な影響が大きいということが言えると思います。
  それから,3番目に言われた第三者の膣内,肛門内,若しくは口腔内に相手方の陰茎を入れる行為ということですが,実際に私が見聞きした臨床の経験で,こういうような被害,男性の被害のケースはありました。例えば集団的ないじめの中で性交が一つのいじめとして行われているような場合,それから,例えばもうちょっと犯罪性の進んだ集団の中で,一種の拷問として,そういうことが男性に対して行われる場合などを知っております。そういう点では,特に「第三者の」ということが含まれることは重要だと思っています。
○齋藤幹事 小西委員に続いて,ほとんど同趣旨なのですけれども,法律以外の面から発言をさせていただければと思います。
  「性交等」として範囲を広げることに関してですが,今お話もありましたとおり,海外のレイプ被害に関する調査では,男性の被害者も女性の被害者も調査の対象となっております。また,肛門性交や口腔内の性交も含まれていることがほとんどです。そして,それらのレイプ被害の調査において,被害後にPTSDとなった人の割合は男女ほとんど変わらず,むしろ男性の被害者の方が発症の割合が高いということを考えますと,精神的被害の重大さに男女差や,膣性交と肛門性交あるいは口腔内の性交による差はなく,膣性交ということで区切るということは適切ではないのではないかと考えております。
  挿入させる行為に関しましては,児童の施設内では時折起きる行為だということも聞いております。また,少年院等に関わっている先生方からは,性加害行動を行う少年たちに対して成育歴などを聴取すると,無理やり挿入をさせられた,つまり挿入させる行為をされたという被害を受け,その結果,PTSDやトラウマ反応が出現し,それが性加害行動を引き起こした事例も多いと耳にしております。
  そして,エイズの患者さんに対するカウンセリング場面などでも,性被害に遭った男性から話を聞くことがあります。従って,男性の性被害というのは恐らく考えられているより非常に多く,女性よりも暗数が多いのではないかと考えられます。強姦に性別の規定があることで,男性は自分たちの受けた被害が適切に認められないのではないかと不安を抱き,警察への届出に至らず暗数になってしまうというケースも多いのではないかと考えますと,きちんと肛門性交,口腔性交も含み,そして性別の記載をなくし,どちらにおいても強姦の罪が成立するのだと示すというのは,非常に重要なことだと考えております。
  なので,今ここに提示されているものに関しまして,私も全面的に賛成をしております。
○小木曽委員 精神医学的に,また被害の実態の観点から御教示いただいたわけですけれども,法的な,保護法益という観点から見ると,こうした罪が誰とそのような関係を持つのかという意思決定への侵害であると考えますと,主体の拡大,行為類型の拡大が正しいのではないかと思います。
○北川委員 男性の被害者も多く,とても深刻な被害があるということの御指摘,御教示をいただきました。大変重要なことだと思います。そういう意味では,被害者を女性に限らず男性も含めるという意見には賛成です。ただ,それとともに,後の議論に関係しますけれども,強姦罪の範囲について,「性交等」という形で行為類型を拡大せざるを得ないという状況になったときを鑑みまして,法定刑も5年以上に上げると仮定した場合,強姦に匹敵する行為というのは,どこまでの範囲かということを限定的に考えざるを得ません。男性器の女性器への挿入や男性器の肛門への挿入というのは相当であると理解できるのですけれども,疑問に思うのは,口腔内への挿入ということまで含めて5年以上としてよいかということです。強制わいせつの加重類型としての強姦罪で,法定刑もここまで重いものになることとの関係で,少々疑問を持ちます。
  さらに,被害者をして行為者若しくは第三者の肛門,口腔内に被害者の陰茎を入れるという行為については,挿入をさせるという行為も伴いますので,そういうことも鑑みますと,かなり拡大するという印象をもちます。性的被害の深刻さ,国際社会あるいは国内の要望を受けての改正というのは,よく理解しているつもりなのですけれども,強姦匹敵行為という一つの柱から,どこまで拡大するのかという拡大対象について少し疑問はあります。
  そういう視点から,口腔と,それから入れる行為,相手方を第三者まで含める行為という点については,慎重な検討が必要なのではないかと思います。
○山口部会長 ただいまの御発言は,「行為の範囲をどこまでにするのか」という問題と,「する」,「させる」の「させる」という方についての御指摘でございましたけれども,その前提となるそもそも「広げるかどうか」ということを含めて,いかがでしょうか。
○角田委員 広げるということについては,私は賛成です。
  今までの強姦罪というのが,女性の膣内ということだけを言わば特別扱いしてきて,そのことによって女性の人権について随分マイナスの効果があったと思っておりますので,それを特別扱いしないという点でも,広げるということは,とても大事なことだと私は考えております。
  それから,今,北川委員から疑問を呈されました口腔内ということなのですけれども,これも自分の口の中に陰茎を入れられるという行為を考えた場合に,その被害者の受ける屈辱感や苦痛というのは,ほかのものより低いとはとても考えられないと思います。それからもう一つ対象行為というか,その括弧内の「性交等」の中を,これでよいのかという論点もありました。私は手の指も挿入するものとして広げるべきでないかと思っています。ただ,手の指の場合,手の指を口腔内に挿入するという行為については若干考えなければいけないのではないかと思いますので,挿入するものと場所との組合せで考える必要があるのではないかと思っております。
  それから,「物」については,確かに今のままでも強制わいせつになるのですけれども,ただ「性交等」の中に含める場合,やはり5年ということを考えたときに,「物」の定義といいますか,外延がどこまでいくかということは,難しい問題を含むと思いますので,今回は手の指,手指を加えるということを考えていただきたいと思っています。
○宮田委員 そもそも行為の範囲を広げるかどうかでございます。広げる範囲については,後ほどまた発言の機会を頂戴できればと思います。これは法律家の法律ばかだと言われるかもしれないことですが,弁護士や学者の方々とお話したとき,強姦罪は性的な自由を侵害する非常に悪質な行為であることは間違いないところ,妊娠の可能性や性行為の神聖性等,昔から強姦が特別に処罰されていたことに対しては相当の理由があるのではないか,そしてやはり圧倒的に刑事学的に女性が男性から被害に遭うことが多いのであり,このように圧倒的に多いものを別に処罰するということには理由があるのではないかというお考えの方が非常に多いのでございます。
  また,立法の手法として,強姦という構成要件を広げるのではなく,姦淫行為は姦淫行為として置いておいた上で,肛門性交やその他の処罰するべき,あるいは強制わいせつの中で加重するべき行為を別の構成要件として切り出すという立法の方法は,十分にあり得ることかと思います。
  現に,頂戴いたしました資料の中に韓国の刑法がございますが,これは姦淫行為は3年以上,肛門性交や口淫などについては,別の構成要件として2年以上という定め方もあるのではないか。
  検討会でも,一応発言させていただきましたけれども,そういう方向からの議論も十分にあり得るという考え方が私の周囲にありますので,指摘させていただきます。
  私は個人的には,肛門性交までは,正に肛門「性交」という言葉で一般的に言われていることもあり,北川委員と同じような理由で,ここまでは広げてもいいのではないかと個人的には考えておりますが,広げる範囲については,また改めて発言させていただきます。
○井田委員 私は要綱(骨子)を基本的に支持する立場から発言したいと思います。まず押さえておくべきことは,現行法は単に強姦と強制わいせつとを区別して,強姦の刑を重くしているというばかりではなくて,例えば致傷の場合にも,もちろん刑は変わってきますし,強姦については集団強姦罪という加重類型も設けており,更には強盗強姦罪という独特の結合犯の類型も規定している。このようにして,現行刑法は,男性の女性に対する性器結合の強制のみを種々の観点から特別扱いしているのです。ここでの問題は,それでよいのか,このような行き方を今後将来に向けて正当化できるのかということです。このことがここで押さえるべき第一のポイントだと思うのです。
  改正に当たっての一つの方法論は,宮田委員のお考えはそれに近いと思うのですけれども,古典的な強姦のイメージを前提としてそこから出発し,外形的にそれに準ずるものを強姦と同等に扱うことにする,というものです。そういう方法論も採れるかもしれませんが,私にはそれが正攻法であるとは思われない。それよりも,法益侵害ないし被害の実態を前提に置いて,どの範囲の性的侵害行為を言わば加重強制わいせつ罪として類型化するのがよいか,というように考えて行くのが一番よいと考えるのです。強姦罪の処罰規定をそのままにしておいて,強制わいせつ行為の一部をより重く処罰する中間類型を設けるという三分法を採るとすれば,非常に複雑な立法になってしまいます。二分法を前提として,広い意味の強制わいせつ罪の中から,被害の実態を考えて,被害者に強姦に匹敵するようなダメージを与えるものを括り出してきて,強姦を含めて類型化するのがよいであろうと思うのです。
  そのように考えますと,小西委員,齋藤幹事のお話にもありましたし,また冒頭の中村幹事の御説明にもありましたけれども,何が性犯罪の被害の実態なのか,そのことをどう認識するかが決定的な視点ということになってきます。性犯罪とは,濃厚な性的な接触を強制するというところに本質がある。性的行為という特殊な経験を無理やり犯人と共有せざるを得ない,その共有を強いられるというところに被害の実態があると私は考えています。
  ドイツにおける最近の議論においては,性犯罪の保護法益は,内密領域の防御権であるとするものがあります。確かに我々は人からそこにアクセスされたくない身体的領域,また他人のそういう領域へのアクセスを強いられることもやはり嫌な身体的領域というものを持っています。そういう領域を特定の人との関係では開放する,そこへのアクセスを許すというのが性的行為であり,意思に反して無理やりその経験を共有させられるというところに,性犯罪における被害の実態があるのではないか。意思に反してそういう身体的領域に踏み込まれる,又は,こちらは嫌なのにそこにアクセスしなければならないというところに被害の実態があるとすれば,取り分けその中でも体腔内への陰茎の挿入を伴うような態様のものというのは,特に濃厚な性的経験の強制的共有と評価してよいのではないかと考えられます。そこにより重く処罰されてよい実態があるのではないかということです。
  そこから,口腔への陰茎の挿入もまた,特に濃厚な性的経験の共有を意味するものです。口腔は,顔に近いところにある,そして我々が食事のために用いる,そういう身体的な器官であるわけで,そこに排泄の機能を持つ身体的器官を無理やり挿入されるという経験は被害者にかなり大きなダメージを与える行為なのではないでしょうか。また,被害の実態を見ても,強姦のケースの多くの場合において口淫性交が行われるという事実があります。それは見方を変えれば,犯人の側としても,性欲の満足のために強い欲求を感じる行為でもある。そうであるとすれば,逆に被害者側はそこから特に強く守られるべき行為であるといえる訳です。性的欲求の対象となる度合いが強ければ,それだけ,被害者も強い保護に値するということがあります。口淫性交は,やはり膣性交や肛門性交と同じに扱ってよい理由はそこにあると考えるのです。
○角田委員 やはり姦淫行為を特別扱いするのは,大変まずいと私は思っています。日本だけで見ていると,男性の被害というのは強制わいせつにしかならないということもあり,やはり男性が性的な被害を受けるというのは,おそらく女性が考える以上に恥ずかしいという受け取り方が,この社会にはあると思うのです。
  そのことがあって,つまり強制わいせつにしかならないということと,仮に強制わいせつであっても,それを言うということ,しかも警察とか,言わば公のところでそのことを話すということは,男性の方はおっしゃらないけれども,とても屈辱的なことだと,打ち明ける方は,そのようにおっしゃるわけなのです。
  そのことがあって,日本では,結局男性の被害というのがほとんど見えないようにされてしまっている。したがって,私たちには,女性の膣性交の被害だけしか目に付かないということがあると思うのです。そして,そのことは女性に対する膣性交の被害が特別なものだというように間違った考えに容易に導かれることになるので,私はやはり男性の被害が見えていないこと自体が非常に大きな問題だと考え直して,提案のように拡張すべきだと考えております。
○小西委員 実態に沿った形でということで,この性犯罪の問題を考えると,そもそも今の状態では救いきれていないのだということを,よく考えないといけないと思うのですね。
  法務省の被害者調査でも,女性の性犯罪の通報率というのは非常に低いですね。10数%という数字が出ていると思います。女性でもそうです。男性はほとんど出てこないのだけれども,疫学的な調査で海外で行われているものだと,大体女性の被害の10%ぐらいあります。女性の被害の10%あるものは,例えば内閣府の調査で,無理やり性交されたという聞き方ですと,生涯で女性の被害率は6%から7%の間ぐらいあります。非常にたくさんあることですね。それの10%は,決して少なくないです。拾えていないのですね。
  それは,やはり拾い方の不備があって,ここにいらっしゃる多くの法律の専門家の方は,そこで拾われた非常に特殊な拾えたものしか見ていないということは,是非知っていただきたいと思う。そこはやはり変えていかないと,その犯罪がそのまま放置されているということになってしまうのだと思います。
  それから,オーラルセックスについても何かとても私は違和感があるのですが,実際の被害の状況を聞くときに,オーラルセックスをさせろよと,それだけで犯罪が起こっていることは余りなくて,多いのは性的虐待がたくさん行われた挙げ句に,その一つとしてオーラルセックスがあるとか,あるいは子供で相手が膣性交ができないから子供にオーラルセックスを強要するとか,それから,大人でも,例えば月経中だからオーラルセックスをさせるとか,1回限りの被害でもそういうことがあります。
  そういう点では,実態としてはオーラルセックスはどこが膣性交と違うのか,そういうものが暴力的に行われるときにどこが違うのかというのが,私の普段の感覚で言いますと,全く分からないという気がします。
○角田委員 一つだけ,今の小西委員の発言に関連して申し上げたいのですけれども,日本では男性の訴える場がないというのと,もう一つ,私の経験からしますと,オーラルセックスと膣性交というのは,大体同じ機会に行われていることが多いのです。刑事事件では余りないのですけれども,セクシャルハラスメントの民事裁判をやっている中で,その被害の態様として出てくるわけです。まず最初にいわゆる姦淫行為を行い,言わば仕上げのような形で,オーラルセックスがなされるということは,それほど珍しいことではないのです。そして,被害を受けた人も,やはりオーラルセックスの方は言いにくいというか,セクシャルハラスメントの被害に遭ったのだということを訴えるときに,そこはやはり言いにくいというような状況になっていると思いますので,これは侵害の形としては差がないものとして,同じように扱わなければいけないのだと私は考えております。
○山口部会長 これまでの御議論ですと,対象を広げることに反対であるという御意見を述べられた方はおられません。広げるということを前提にした上で,従来の強姦罪の規定を広げるのか,あるいは広げた部分については別立ての規定にするのかという御議論がございまして,広げる部分も強姦と同等だから,強姦の規定を拡張する形で規定するのがよいのではないかという御意見と,別立てにするという御意見が述べられていたわけですけれども,その点について更に御発言いただけることがあればお願いいたします。
○佐伯委員 私は,要綱(骨子)の範囲で強姦罪を拡張することは,適切であると考えております。
  拡張する場合に,その強姦罪を残して別の加重類型として設けるというのは,男性の女性に対する姦淫行為を特別視するということになりますので,角田委員がおっしゃるように,法の下の平等の観点から,望ましくないように思います。
  関連して1点確認というか,教えていただきたいことがありますので,この機会に述べさせていただいてよろしいでしょうか。細かな話になってしまい恐縮なのですけれども,現在は姦淫という言葉が特に定義もなく使われているわけですが,要綱(骨子)のような形で,膣,肛門,陰茎というような言葉を使った場合に,その範囲について,例えば手術によって形成されたものまで含まれるのかというような点について,もしお考えがあれば教えていただければと思います。
○中村幹事 今お尋ねのありました点につきまして,事務当局としての一応の考え方を申し上げますと,性別適合手術などがあると伺っておりますけれども,そういった手術によって形成されたものであるから一律に要綱(骨子)第一の膣や陰茎に該当する,あるいは該当しないというものではないのではないかと考えているところでございます。
  すなわち,個別の事案におきまして,その外観だとか機能などを勘案して,膣ないし陰茎に当たるか当たらないかというのを判断していくということになるのではないかと考えているところではございますけれども,この点についても,委員,幹事の皆様方の御意見があれば,御意見を承りたいと考えております。
  また,本日の段階でも,もちろん御意見を頂きたいと思っておりますけれども,この問題につきましては,性別適合手術といった手術によって形成される陰茎とか膣というのがどのようなものであるのかなどについて,よく把握する必要があるかと思っておりますので,この点については,私どもとしても今の問題提起につきましては,よくよくその実態がどうなのかというところを把握した上で,次回以降に御報告させていただくということも検討させていただきたいと思っております。
○山口部会長 それでは,そのようにお願いしたいと思います。
  今の点について,何か御発言があれば,お願いしたいと思いますが,よろしいでしょうか。
○今井委員 今,佐伯委員からの問題提起の点は,私も関心を持っているところですが,中村幹事の御説明に賛成するものであります。手術等,人工的に作られた性器等が対象になるかというのは,これから大きな問題になるような気がしておりますけれども,例えば性同一性障害を患っておられた方が,そういう精神的な疾患をなくすために手術をなさった。そして人工的にできた性器に,ここに規定されているような行為が行われたときには,彼又は彼女が感じる屈辱感ですとか,あるいは自分の意思に基づく性的な行為ができなかったという被害の実態におきましては,自然のままの性器に対してこれらの行為が行われた場合と変わるところがないと思いますので,私は基本的に,そのような人工物も対象に入れる方向で考えるべきではないかと現在では思っております。
○山口部会長 是非引き続き御議論いただきたいと思いますのは,拡張するとしても,どの範囲で拡張するのかということが非常に重要な問題になってくるのではないかと思います。既に頂いた御意見の中でも,口淫は入れるべきでないのではないか,あるいは疑問だという御意見と,入って当然であるという御意見とがあったように思います。そのほかに,膣性交,肛門性交,口淫以外に手の指も含めるべきではないかという御意見もございましたが,これらの点について,特に御意見を頂ければと思いますが,いかがでございましょうか。
○宮田委員 度々申し訳ありません。先ほど言いかけたのですけれども,私は肛門性交までは第177条の中に入れてもよいのではないかと考えています。先ほど申しましたように,肛門「性交」というような,姦淫行為と同等に見られるような言葉が実際上あります。また,女性被害者に対して行為が未遂で終わったときに,「私は肛門性交するつもりだった。」と言われてしまうと,強制わいせつになる。私が押し倒されたときに,そんなことになるとちょっと嫌だなと思います。被害者が,客観的,外形的にも同じような行為をされて,それが別な類型になってしまうということに問題を感じます。
  構成要件を規定するときには,行為の客観性や類型的な危険性のようなものを考えなくてはいけないのではないかと思われるところ,姦淫行為と肛門性交だと,挿入する直前までどちらの行為か分からない,被害を受ける場所の近似があり,細い器官に対する陰茎の侵襲ということですので,行為の危険性は大きいと思われますし,あるいは相手の衣服を剥がさなければ実行に至れないという意味で,規範の乗り越え方が類型的に口淫とは違うように思われるのです。
  未遂のときに,強姦と肛門性交はそうはならないけれども,口淫だったら公然わいせつとなる単なる性器露出とどう線引きするのかということも出てきかねないのではないかと思っています。
  先ほど小西委員や角田委員の御意見の中にありましたけれども,口淫は,性交に至るまでの一つのプロセスである場合が多いのではないかと思われるのです。そういう意味で,強姦未遂の中に評価されているために,法務省から頂戴いたしました資料14の中に,口淫のケースは必ずしも多くないのではないかと思われます。
  キリスト教国においては,口淫や肛門性交自体が禁忌であって,そういう行為自体,恋人同士であっても,忌まれるような行為です。処罰を求める被害感情も我が国のそれよりも大きいでしょうし,処罰をしなければならないという社会的な要請も大きいのでしょう。日本との間には,そのような文化的な違いがあるように思われるのです。
  また,強制わいせつの法定刑の上限が今10年です。量刑の話を先取りしてしまってもいけないかもしれませんが,法務省から頂戴いたしました,資料14を見ますと,口淫の場合,3年以下で処罰されている例がかなり多い。強制わいせつの法定刑の上限が現在10年であることを考えますと,この資料に出ている例を拝見いたしましても,科刑の不均衡が生じるという問題も起こらないことから,口淫については含めないという考え方も十分あり得,むしろ私はそちらの方が正しいのではないかと考える次第です。
○山口部会長 口淫の問題,これは既に要綱(骨子)に入っている問題で,これを除くべきかどうかという議論ですけれども,要綱(骨子)に入っていない「手の指」の問題については,いかがでございましょうか。
○角田委員 実際に現在強制わいせつ罪になっているのですけれども,膣に手の指を入れられたという事件の被害者,女性なのですけれども,その方が受けた苦痛というのは,いわゆる膣性交とそれほど差がないというか,屈辱感とかものすごく自分が酷い目に遭ったという,そういう感情については,陰茎だから重くて手の指だからそうではないとは,実態のところではそうなっていないのではないかと私は思っているのです。ですから,膣とか肛門とか,そういう性器,肛門を性器とは変なのですけれども,性器関連部分といいますか,そういう部分に対する指の挿入というのは,指を挿入されることの屈辱感というのは非常にやはり大きいと私は思いますので,この二つの器官に対しては,手の指を入れるという形態に広げてもよいのではないかと思っております。
○橋爪幹事 結論から申し上げますと,やはり挿入するものは陰茎に限定すべきであって,指,異物については,追加するべきではないと考えております。
  まず,そもそも現行法は,一般の強制わいせつ行為と区別して,強姦行為,すなわち陰茎を膣に挿入する行為のみを加重処罰しています。膣性交のみを加重処罰する理由というのは,おそらく,膣性交が妊娠の危険性をはらむ行為であり,また,仮に妊娠する危険が全くないとしても,生殖行為としての抽象的な意味を持っているという観点から,刑が特に加重されていると解することができます。
  もっとも,要綱(骨子)第一の罪は,このように生殖行為としてのシンボリックな意味を持つということを離れて,重大な性的侵害という観点を重視していると思われますが,そのような理解は基本的に正当だと考えます。すなわち,飽くまでも性的な行為として濃密な身体的接触があるところに加重処罰の根拠があると考えるべきであり,このような理解からはやはり膣とそれ以外の肛門,口腔を区別して考えるべきではないと思われます。
  このような前提から,指や異物の挿入の問題に戻りますが,膣に対する指や異物の挿入は陰茎の挿入と同様に処罰するという理解があり得るとしても,肛門や口腔については,指や異物の挿入すべてを陰茎挿入と同様に処罰するという理解は採り難いと思うのです。そうすると,膣と肛門,口腔で取扱いを異にすべきかということになるわけですが,先ほど申し上げましたように,重大な性的侵害という観点から,膣のみを特別視すべきではないという前提に立ちながら,膣に対する指や異物の挿入行為だけを罰するというのは,前提と結論がやや矛盾しているような感じがいたします。飽くまでも膣と肛門,口腔等を区別をしないという前提からは,一律に指,異物の挿入行為を罰するか,あるいは罰しないという選択しかないように考えております。
  そうしますと,やはり口腔内への指や異物の挿入行為を性犯罪として全面的に罰することには無理があることから,結局のところ,異物ないし指の挿入行為は加重処罰から外すという方向にならざるを得ないように思います。
○山口部会長 指については,不可罰になるわけではなくて,強制わいせつ罪になるという御趣旨ですね。
○橋爪幹事 はい。失礼しました。
○小西委員 二つ申し上げたいと思いますが,一つは今の指のことなのですけれども,例えば自分の子供にずっと肛門に指を入れて被害を与えるというような性的虐待は,結構ありますね。その指を入れていることが明らかに加害者の方では性的な行為として行われていると思いますし,そういうときに,後でそのことがトラウマになってくるということは当然あると思う。
  だから,被害者の方の被害の重さという点では,例えば今頭に思い浮かぶ例で言えば,電車の中の痴漢にずっと性器に指を入れられていて,PTSDになっているようなケースもあります。ただ,その程度がやはりいろいろなものが含まれてくるなという感じがして,ちょっと私はここのところは被害の重さが個別に違い難しいと自分では思っているところです。
  一方で,先ほどの口腔は別だというのは,例えば子供を対象にしたときに,これを別にする理由なんか何もないというのが本当に実態だと思うのですね。性的な犯罪を起こそうと思って,抵抗しない子供を選んで,性器をその口に挿入するというようなケースは結構たくさんありますから,そういうケースがどこが膣性交と違うのかというのは,そこで区別を引くのは変な話だなと思います。大人でも同じような形で口腔を使うということに至っているケースもあり,恐らくPTSDの発生率なんかも何も変わらないと思うのですね。
  そこのところは,線引きがよく分からないなと思うところです。
○角田委員 これは,子供の虐待などを扱っている弁護士の人から聞いた話です。加害者の側にとって,手の指というのは,特に子供が小さい場合は,まだ陰茎を使えないときに,まず手始めに手の指を女の子の膣に入れるとか,そういうことをやって,だんだん時間が経ってきたら,その使うものが性器に変わってくるということなので,手の指を使った行為というのは,実は加害者側にとっては既に性的な意味を持ったものであって,それがだんだん本物の性的侵害に発展していくというケースが少なくないということを聞いております。そういう意味からも,私は手の指というのは無視できないものではないかと思っております。
○森委員 私は,拡張の範囲につきまして,要綱(骨子)に賛成の立場でございます。
  実務で見ておりまして,強姦事件で口淫を伴う事件というのは,相当数あります。それで,口淫ですとか,あるいは肛門性交というのは,性的な欲求を満たす行為として膣性交と同等と評価できるのではないかと思いまして,それを相手の意思に反して無理やり行うというのは,膣性交の強姦と悪質性は同じであろうと思います。それに加えて,被害者の精神的な被害の重さの実態というのも同等であれば,そこまでは拡張してよいのだろうと思います。
  ただ,手の指その他の異物となりますと,行為としての意味合いというのでしょうか,それが異なってくると思われますし,それから,構成要件としましても広がり過ぎるということが懸念されますので,私はそこまでは広げるべきではないと思っております。
○齋藤幹事 手指のこと,口淫のことに関して発言をいたします。手指のことに関しましては,犯行の状況など様々かとは思いますので,一概に性交等に加えるべきだとも私は言い切れません。また,この場で,科学的なデータをお示しすることもできません。しかし,臨床上の感覚として,例えば痴漢の被害などで性器に指を挿入されなかった被害とされた被害では,トラウマ反応が異なるようにも思っています。性器に指を挿入されていないからといって,苦痛感であるとか屈辱感であるとかが軽いとは言えませんし,反応の出方は人それぞれなので一概に言うことはできませんが,ただ,臨床でお会いしている中で,性器に指を挿入された被害者の方は,トラウマの反応としては重篤な場合が多いと感じております。
  また,口腔内に関しましては,臨床でお会いしている限り,膣内,肛門内,口腔内に性器を挿入された場合,そのトラウマの反応ですとかPTSDになる,ならないというのがそれほど大きく違うという感覚はありません。また,海外の調査などでもオーラルセックスまでは基本的に含まれているものが多かったので,逆に私は,なぜ膣内,肛門内,口腔内が区別されるのかということの方がずっと不思議でした。そして,犯行が行われる状況を考えましても,口腔内に関しては膣内,肛門内とごく類似した状況で行われることが大半ではないかと考えますので,口腔内というのは,要綱のままということに賛成の意見を述べさせていただきます。
○山口部会長 現在の強姦を広げるということになった場合に,類型的に強姦と同等かどうかという視点が立法する場合に重要ではないかと思いますので,その点について何か御意見があればお伺いしたいと思います。挿入させる行為については,既に若干御意見を頂いておりますが,その点について更に追加的に御意見を頂ければと思います。
○宮田委員 させる行為のことをまず述べます。挿入させる行為と挿入する行為は違うのではないかと思うのです。
  先ほど,構成要件をどこまで広げるかという話で,行為の客観的な危険性を,まずは考えるべきではないかと申し述べました。器官への侵襲行為といっても,侵襲する行為の危険性と,させる行為の危険性というのは,やはり大きく違うのではないかと思います。侵襲させられたことによって性器が害されることは考えられないわけです。
  過去の暗数があるから,あまり意味がないと言われるかもしれませんが,法務省から頂戴している資料15の挿入させる行為の事例は,大人が児童に対して挿入させる行為をしているものです。処罰の必要性が高いのは,こういう若年者に対する行為であるとすれば,強姦罪の範囲を広げることによって対処するのではなくて,若年者に対する保護を強化する対策が一義的に必要なのではないかと思うのです。
  侵襲される被害の場合は,行為が受け身で,同意がない,暴行・脅迫などがある,あるいは欺罔されているというように,同意がないという推定を働かせることは容易です。否が応でも入ってしまうわけですから。ただ,侵襲させる行為の場合には,男性の性器を,こういう言い方をこういう場でするのが非常に抵抗はあるのですけれども,男性の性器が膣などに挿入できるような状況になるためには,生理的,あるいは心理的な影響が非常にあり,男性が嫌悪感とか恐怖感から萎えてしまう,いわゆる立たない状態になってしまう場合は多いのではないかと思うのです。
  そうすると,いや,これは同意があったからそういう行為ができたのだという形で非常に不毛な争いが出てくる場合もあるのではないか。性的な反応が非常に敏感に出てくる若年者の被害者のことは,考えなくてはいけないのだろうなと思うのですが,これはさせる行為として一般的に規定することによって保護するべきなのかどうかは,疑問に思うところであります。
  先ほどの口淫の問題についても,子供の被害が多い,あるいは指の挿入についても子供の被害が多いということであれば,それは児童への虐待の問題として一括りにして考えるべきであって,成人の場合には,口淫あるいは指を使ったいわゆるペッティングと言われるような行為は,性交の前提として見ることができる。つまり,強姦しようとして,そういう行為をする,あるいは強姦できなかったから,そういう行為で取りあえず終わらせておく。障害未遂によって強姦できなかったから,そういう行為で代替すると。口淫の場合には,特にそういう場合も出てくると思われますので,私は,強姦の拡大について,口淫はなくても処罰上,問題はないのではないかと思ってしまうのです。
○今井委員 今の宮田委員の御意見を承っておりまして,確かにそのような面が非常に大きいというのは理解できるのですけれども,今回の改正をしようとする基本的なスタンスは,先ほど来,御議論がありますけれども,被害者となり得る男女間の性差をなくすという観点が一つあったように思います。
  そうした場合に,男性が被害者となって,その意に反して性行為等をさせられたという場合に,それは被害者として女性の場合と何ら変わることなく,自己の意思に反して性的な交渉を持たされてしまったということ,それに伴う精神的な屈辱感というものが生じるわけでありますので,今,宮田委員は,その行為の危険性ということも御指摘されましたけれども,行為の危険性が現実化して被害に遭ったという男性がいる場合を想定いたしますと,挿入させる行為を除外する理由はないのではないかと思います。
  日本の資料を見ますと,確かに,先ほど来,暗数ということも言われていて,例えば男性が男性にさせた行為がどれだけ実態として被害報告等あるのか,確かに余りないのかもしれませんけれども,海外の事例などを見ておりますと,これは映画などでも大変よく出てくるテーマでありまして,刑務所内で,インメイト同士でこういうことになって大きな問題になるということは,社会的にも知られていることでありまして,日本でもそういったことがないにしても,あるいは,多くはないにしても,必要な処理をすべく,今回の改正をすべきではないかと思った次第です。
○小西委員 今の御意見と一つは重なりますが,成人男性の被害は結構あります。今言われたような刑務所の中などではたくさん起こっていますが,出ていないだけ。出せないから,出ていないのだと思いますけれども。
  それから,その後,立たないのではないかということを言われましたけれども,そこが性被害に関するとても大きな誤解だと思います。女性の場合も,そういうときに,例えば女性の方も快感を感じたということが,そんなことないのではないかと被害者本人も思っているから,実際にそういうケースはあるのです。生理的反応ですから,当然あります。男性も当然,生理的反応なので,性交ができる状態になることはあります。
  それが非常に本人の自責感を募らせる。自分はそういうことを思ってしまったから,これは犯罪とはいえないと思っている人は,非常にたくさんいます。
  小さいときからたくさん被害に遭ってきて,しかも私はそのことで快感を覚えてしまったから全部私のせいなのだと思っている子供は,本当に気の毒です。そこは分けて考えるということが,性被害に関して考えるのには大事な点だと思います。
○山口部会長 ありがとうございました。
  大分御意見を頂いているのですが,既に論点について御意見をお述べになっておられない方から特に御意見をお願いいたします。
○池田幹事 今問題となっております,させる行為についてですけれども,やはり濃厚な身体的接触の強制的な共有という観点から,する行為とさせる行為は区別ができないのではないかと思います。
  生理的に対応可能な状態になっている場合もあるではないかという御指摘につきましても,そのことが直ちに同意の存在を基礎付けるわけではないと考えられます。加えて,先ほど今井委員からも御指摘がありました,被害者についても性差をなくすという観点に鑑みましても,させる行為を処罰の範囲に含めることを明示するということは適切ではないかと考えております。
○田邊委員 私は,「性犯罪の罰則に関する検討会」の段階から参加しておりました。
  構成要件を拡張すべきか,またどのような範囲で拡張することにするのかなどという拡張の可否,若しくはその範囲ということについては,基本的には立法政策の問題でありますので,裁判官としては申し上げるべき立場ではないと考えておりますが,ただ,構成要件の外延というものは明確にしていただきたいという意見を申し上げました。
  基本的にここで申し上げる点も同じことになるわけですけれども,要綱(骨子)を拝見しておりますと,構成要件の明確性という観点から,特に大きな問題は感じないということはございます。もっとも,先ほど御指摘のありました,例えばこの中にある膣,陰茎といった用語について,その外延をどこまで含むのかといった問題については,更にクリアになるというのは非常に望ましいことかとは思っておりますけれども,基本的には明確性という観点からの問題というのは,特にないものと思っております。
○山口部会長 今まで御意見を頂いていない点なのですが,要綱(骨子)第二の準強姦につきまして,これも行為を第一の強姦の罪の改正のように「性交等」というように広げるということになっておりますが,この点について何か御意見があれば,お伺いしたいと思いますけれどもいかがでしょうか。
○橋爪幹事 要綱(骨子)に賛成する方向で,意見を申し上げたいと存じます。
  準強姦罪は「準」と付いておりますが,現行法においても,強姦罪とその当罰性において相違はないと考えております。すなわち,強姦罪において暴行・脅迫行為の存在が刑を加重するわけではなくて,意思に反する性行為を強いているという観点が強姦罪を性犯罪として重く処罰する実質であると思われます。
  そうしますと,準強姦と申しましても,意思に反する性交等を行うという点において,その法益侵害性は強姦罪とほとんど異ならないと思います。また,脅迫を用いた強姦行為というのは,被害者にとって心理的に抵抗し難い状況を作出し,それを利用して姦淫行為を行うものですので,実際問題として,抗拒不能に基づく準強姦と厳格に区別することは困難です。このような観点からも,両者で取扱いを分けるべきではないと思います。
  以上申し上げましたように,第二の罪につきましても,第一の罪と同様に処罰範囲を拡大するべきであると考えております。
○山口部会長 この要綱(骨子)第一の関連のことにつきまして,いろいろな御意見をお述べいただいたのですが,御意見をお述べいただいていない方で更に御意見があれば,お聞かせいただきたいと思います。
○塩見委員 今までの御議論とずれる話なのですが,議題に上っていないことで一つ意見を述べさせていただきたいと思います。
  それは,要綱(骨子)第一の冒頭の「暴行又は脅迫を用いて」に続いて書かれています「13歳以上の者を相手方として」の部分は要らないのではないかということでございます。
  現在の要綱(骨子)は被害者の年齢を13歳以上と13歳未満に分けた上で,13歳以上については暴行・脅迫を手段とする性交等,13歳未満については暴行・脅迫に限らない性交等一般を処罰するという形式になっています。これですと,よく知られていることではありますけれども,13歳の年齢について故意が及ぶ必要があるのか,あるいは前段と後段との間で錯誤があった場合にどうなるのかといった問題が生じてまいります。
  確かに判例によりますと,同様の規定ぶりである現行の176条に関しまして,13歳未満の者に脅迫を用いてわいせつ行為をしたという事案において,前段と後段の区別なく右法条に該当する一罪が成立すると述べておりますので,今申し上げたような問題は解決済みなのかもしれませんが,むしろこの際,判例の趣旨を規定ぶりに反映させてもいいように思います。
  また,一般の方にとっての分かりやすさという点でも,暴行・脅迫を手段とするものは,被害者の年齢を問わず処罰する,それから13歳未満についてはそれ以外のものも処罰する,というように書いた方が分かりやすいように感じております。
  そのような修正は内閣法制局で検討されるべき事項なのかもしれませんし,修正するとすると,現行の176条にも及ぶことになりますので,今回の部会の射程範囲を超えるという問題もあるのかもしれません。ただ,もし可能であれば,先に述べた部分を削除することも一案ではないかと考えております。
○中村幹事 事務当局から,この要綱(骨子)第一で「13歳以上の」という文言を現行法と同じく維持したということの趣旨について,御説明申し上げます。
  これは,現行刑法の第177条と同じ趣旨でございます。すなわち現行刑法の第177条前段では客体を「13歳以上」としておりますけれども,これはその第177条後段が「13歳未満」としていることから,これとの対比で注意的に置かれたものと考えられます。また,前段と後段との関係につきましては,塩見委員からも御紹介ありましたとおり,暴行・脅迫を用いて13歳未満の女子を姦淫した場合には第177条の一罪が成立するとされておりまして,第176条の強制わいせつ罪についても同様に理解されているところでございます。
  そして,疑義が生じ得るのが,行為者が,被害者の年齢について誤信していた場合ということでございますけれども,つまり,13歳以上の女子を13歳未満であると誤信して姦淫した場合に,前段,後段,どちらの罪を適用すればよいのかという問題がございます。
  この点については,現在は,前段の罪,すなわち暴行・脅迫を用いて姦淫する罪においては,「13歳以上」であることの認識は不要であるとの解釈が定着いたしておりまして,13歳以上の者を13歳未満であると誤信していたとしても,暴行・脅迫を用いて姦淫したのであれば第177条前段の罪が成立するとされております。
  現在の実務の運用におきましては,塩見委員から御指摘のあった点を含めまして,このような解釈が定着しておりまして,特段の問題が生じていないということから,今回の諮問は,この点については特段の変更は加えないという意味で,現行法と同じく「13歳以上の」と記載することとしたものでございます。
  ただ,もちろん御指摘を踏まえまして,更に検討させていただきたいと思っておりますので,この点に関しましても,御指摘,御意見を承りたいと思っております。
○佐伯委員 事務当局御指摘のとおり,特段の問題は生じていないのだろうと思いますので,この点だけを改正する必要はないと思いますけれども,性犯罪に関する規定を今回大きく変更するということであれば,この際,そういう疑念を払拭するという意味で,この点についても規定ぶりを改めるということは十分考えられることかと思います。
○今井委員 今の塩見委員の御意見,大変興味深く拝聴しておりましたけれども,現在の第176条,第177条が13歳以上の者かどうかで分けているのは,恐らくそういう年齢に達したときには,精神的にある程度成熟してきて,自分で判断し性的な交渉を誰と行えるかができるという推定,あるいは前提の下に立っているのだろうと思います。
  他方で,そういう年齢の制約を外してしまうという考え方は,性犯罪の持っている性的暴行という局面をより重視する観点になじむ,言い換えますと,年齢による制約は取り外しまして,同意については刑法の一般の同意の理論によって処理するという考え方とよりなじむ発想だろうと思います。
  しかし,性犯罪には,そういう性的自己決定権の侵害を,暴行等により侵すものという両面がありますので,かつ,私は前者の性的自己決定の保護ということが中心になろうと思いますので,この13歳以上の者,年齢をどこに引くかというのは,また議論があるかもしれませんけれども,一定の成熟した年齢という基準を残す方がよいのではないかと思っております。
○山口部会長 塩見委員の御指摘の点は,そのように変えてもいいし,別に変えなくても困らないという問題かなというように思いますので,いずれにしても,これは最終的にもし答申されて,決定された場合には,どういう法文になるのかという辺りで更に御検討いただくべき問題かなと思います。
○角田委員 私も「性犯罪の罰則に関する検討会」のメンバーだったのですけれども,検討会では結局賛成多数とならなかった二つの論点について,少し付け加えさせていただきたいと思っております。
  一つは,暴行・脅迫要件の緩和という問題です。もう一つは,今出てきました13歳という年齢をどうするかという話です。検討会での取りまとめ報告書は,お手元の資料7にありまして,7の18ページ以下なのですけれども,そこにも書いてあるように,被害者がどのように抵抗したかということと,著しく抗拒が困難であったかどうかということが,最高裁の昭和24年の判例で,それに対して最高裁が昭和33年6月6日の判決で,その暴行・脅迫の程度というのを被害者の抗拒を著しく困難にする程度を前提にして,それは具体的にどう判断するかということで,言ってみれば総合的に文脈で判断するのだということを言われているわけです。つまり,個々の暴行・脅迫だけを切り離してみるのでないということを指摘されているわけなのです。
  それで,検討会でも,例えば資料7の19ページにもあるのですけれども,実務の実際としては,被害者の意思に反する性交か否かというのは,行われた暴行・脅迫を状況証拠として用いつつ認定しているのだと考えられる。だから被害者の意思に反することが間違いなく確信できるという事例について,強姦罪を認めているのだという御説明がされております。
  でも,実際には,暴行・脅迫の程度というのが直接議論されて,そして構成要件に必要な程度を満たしていないという事案については,無罪の結論になっているわけです。
  それで,その無罪の例を検討会に御参加でなかった方は,後で法務省のホームページで御覧いただくことになるかと思うのですけれども,第6回の検討会資料の資料28が暴行・脅迫の程度に関する裁判例で,最初は強姦罪の成立が肯定された例,その後は成立が否定された例として二つ載っています。一つは,東京高裁の平成26年9月19日の判決,もう一つは,これは被害者支援などをやっている人たちにはとても有名なものですけれども,大阪地裁の平成20年6月27日の例がこの暴行・脅迫要件に引っ掛かって無罪になった例として挙げられております。
  これは,よく見ますと,東京高裁の例は加害者が25歳,被害者が15歳の小柄な女の子だということです。頂いた資料自体からは,この二人の知り合い関係というのは分かりませんし,判例検索してみたのですけれども,元の判例に当たれなかったので分からないのですが,大阪地裁の方のケースは,これは判例が公刊されていまして,私の記憶が正しければ,加害者が28歳ぐらい,それから被害者は14歳の中学2年生なのです。二人はほとんど前の日に知り合ったばかりという,関係が非常に薄いケースです。このケースは二つとも起訴されているわけですから,検察官は,この二つの例について,暴行・脅迫の要件を満たしていると判断されたわけです。しかし,裁判所では,総合的に判断しても,抗拒を著しく困難にする程度の暴行・脅迫ではなかったという結論になっているのです。
  そこで,暴行・脅迫が不十分だと判断されているのですけれども,具体的にどういうことが行われたかということを見ていただくと,これは暴行・脅迫ありとされた例と遜色ないと,変な言い方なのですけれども,それほど著しい違いがないということなのです。そうなってくると,その総合的な判断というのは一体本当になされているのかどうかと私は考えてしまうのです。
  結局,不同意と確信を持って判断されるためには,今挙げた二つの東京高裁,大阪地裁のケース以上に,もっと強い暴行・脅迫が必要だと言われていることになってくるわけなのです。ですから,日本の実務では,結局,不同意ということは,被害者の抵抗の程度で計られている。これは変わっていないと私は思っております。そこが,裁判所が認定するそれと,現実の被害者の抵抗とはかなりかい離があるのではないか。そのため,この取りまとめ報告書が出た後でも,被害当事者の人たち,団体や個人から,やはり暴行・脅迫の要件は緩和すべきでないか,条文としてどうするのかということとは別の問題として,事実認定における考え方として,それは緩和というか,やはり考えなければいけないのではないかと,私は思うのですね。
(齋藤幹事 退室)
  それで,この暴行・脅迫の判断に,私は外国のことは知らないのですが,日本の場合は程度論,どの程度かという程度論を持ち込んで判断しています。その程度論という考え方が,実は私はおかしいのではないかと思っているのです。
  福岡高裁宮崎支部の去年の12月11日の準強姦で起訴されていた事案ですけれども,結論としては無罪になったケースでした。その事案では,高裁は準強姦の成立を認めたのですけれども,被害者が大して騒がなくて,いわゆる抵抗しなかったので,加害者の方が同意があるものだと誤解したので強姦の故意はないと判断されました。おまけにその判例では,この加害者は無神経な男だということも書いており,無神経な男だから被害者がどういう心理状態にあったか分からなかった。念のために言いますと,加害者は56歳で,被害者は当時18歳の高校生で,彼がゴルフを教えた生徒だったのです。そういう関係があったのです。そうしますと,この暴行・脅迫の要件を被害者の対応といいますか,どの程度抵抗したかということで考えるのが強姦であって,つまり被害者が大して抵抗しなかったらそれは強姦ではないという考え方になっているのです。それがちまたに振りまかれていて,それを結局,裁判所,判例の実務が支持してしまっているのではないかと私は思っているのです。
  ですから,この程度論の間違いというのは,やはり真剣に考える必要があるのではないかと思っています。つまり,程度を論じないということ,私は暴行・脅迫撤廃論で,検討会では誰からも賛成がなかったので,今日は暴行・脅迫の維持は仕方がないという立場でお話しするのですけれども,暴行・脅迫の強弱,大小,程度を問わないという考え方を採るべきではないかと私は思っております。
  古くは,植松先生がそういう説を,非常に少数説でしたが述べられておりました。今は大阪大学の島岡まな先生が,基本法コンメンタールか何かで,このことを非常に明確にお書きになっている。
  もう一つは,検討会でも示されたのですけれども,現場で実際に行われている事実認定では,暴行・脅迫は状況証拠の一つとしていると指摘されているのですけれども,結局,暴行・脅迫の程度が非常に重視されているのが実態ではないかと思われます。そして,その程度を重視した結果,必要な程度に達していませんよとして,14歳の女の子,15歳の女の子の抵抗の仕方が足りなかった,しかも相手は成人の男性です。自分より10歳ぐらい上の男性に対して,そんな抵抗では駄目ですよと言われてしまっているということなので,これはやはりもう一度考え直すべきではないかと思っております。
  程度論とは一体いつから始まったかと私は思うのですけれども,恐らく戦前からではないでしょうか。そこでの程度論が出発したときの男性と女性との社会的関係とか,女性を男性がどう見ていたか,取り分け,法律家がどう見ていたかということは,非常にここに大きく関連してくるのではないかと思います。
  それから,検討会で諸外国の立法例,この問題に関して,いろいろ頂きました。それで見ましたら,かなりの国で暴行・脅迫要件が入っているのです。暴行・脅迫要件が入っているということと,それを解釈するときに日本のような程度論をやっているのかいないのかということを,外国の法律にお詳しい研究者の方々に教えていただきたいと私は思っております。
  それから,先ほどもう一つ,13歳の問題なのですけれども,これは13歳で暴行・脅迫が足りなくて無罪になるケースもあるのですけれども,むしろ13歳とか14歳の頃に,子供時代に被害を受けて,その被害がその後の人生にどういう影響を与えていったかということも,一緒に考える必要があるのではないかと思うのです。
  13歳とか14歳の子供,日本ではまだ中学生なのですけれども,判例基準の抵抗行動を取れるのだろうかということは,やはり私は疑問でしようがないです。そして,これも現実からかい離している。現実からかい離しているために,先ほど御紹介しました東京高裁,大阪地裁の判例は,この子供たちの抵抗が足りなかったと,はっきりそのように書いて無罪にしているわけです。これはおかしいのではないかと,もう一度ここで言わせていただきました。ありがとうございました。
○山口部会長 ただいま,暴行・脅迫の点と,それから,いわゆる性交同意年齢の問題について御発言があったわけでございますけれども,まず暴行・脅迫の点について,何か御発言はございますか。
○小木曽委員 被害の実態というか,被害者がどのくらい抵抗したのかということの認定と,それから裁判所の判断がかい離しているということがあるのではないか,そういう事案があるのではないかということは私も思いますけれども,結局,暴行・脅迫要件を残す以上,それは事実認定の問題にならざるを得ないと思います。というのは,ほかにどういう書き方,法律の立法の仕方としてあるのかと考えたときに,これはよく言われることですけれども,暴行・脅迫要件を撤廃して,意思に反してと書いた場合に,そう書くことの逆にデメリットというのは,主張立証が非常に難しくなってしまって,それは検察官側もそうですし,被告人・弁護側もそうだと思いますが,そうすると,かえって本来処罰されるべき事案であるにもかかわらず,立証ができなかったから無罪になってしまうというようなデメリットがあるのではないかということが気になるところであります。これは検討会でも議論された点ですけれども,この場でも議事録に残しておいていただきたいと思いまして,あえて申し上げます。
○角田委員 私は,暴行・脅迫要件をなくせとは言っておりません。暴行・脅迫要件を,ここでなくすのは難しいでしょうから,それは暴行・脅迫という言葉で残しておくのであれば,それをめぐる議論の中で,程度論というのはもうやめるべきではないか。それから,もう一つ,私はこの問題を考えながら思ったのですけれども,刑法の教科書で,暴行・脅迫の要件について,必ず程度の問題が論じられているわけなのですが,そのときに昭和24年の最高裁の判例は引かれているのですけれども,昭和33年の総合的に判断しろという判例について,それほどはっきり書かれていないように思われます。だから私も含めて実務家は,総合的な状況によって,暴行・脅迫の程度も考えなければいけないのだと言われ,検討会でも暴行・脅迫は状況証拠の一つだと説明を受けたのですけれども,でも,実際に起きていることは,結局,暴行・脅迫をそれ自体として評価していて,それが構成要件として要求される程度に達していないと駄目よというように言っているのではないかと思います。一つお願いしたいのは,ここで言う話ではないと分かった上で申し上げるのですけれども,教科書の中で,そのことを明確にしていただきたいと思います。そうすると,随分その点についての誤解が消えていくのではないかと思うのです。
  それと,外国では,そこの議論がどうなっているかと,私は本当に知りたいと思います。法務省から頂いた資料は,どういう条文になっているかということで頂いたのですけれども,それをめぐってどういう議論があったのかということについては全く私は分からないものですから,教えていただきたいと思っています。
○山口部会長 私も教科書を書いていまして,責任の一端を負わなければいけないと思うのですが,ただ,最近,強姦罪における暴行・脅迫が一体どの程度のものとして要求されているのかということについては幾つか論文が発表されております。そういう意味では,教科書レベルではなお更にアップデートしていかなければいけないと思うのですけれども,論文という場で見ますと,かなり学説の立場からも検討が進められていて,認識が深まっているということは,申し上げさせていただきたいと思います。
○角田委員 今のアップデートの問題なのですが,私は古い人間なので,団藤先生の「刑法綱要」で勉強しました。それで,その教科書は一体いつ発行されたのかを見ましたら,昭和41年なのです。その団藤先生の教科書には,実は昭和33年の最高裁の判決は引かれていないのです。それから,その後1960年代に出た「注釈刑法」がございますね。あの中で,所一彦さんが非常に有名なことをお書きになっています。些細な暴行に屈するような貞操はこの条文では保護しないのだと,する必要はないというようなことをおっしゃっているのです。今は,そんなことをお書きになる勇気のある方はいらっしゃらないと思うのですけれども,その「注釈刑法」だって,最高裁の判例の変化を全然反映していないと思います。だから学説はとてもアップデートされるのが遅いのではないかと私は思っておりますので,その点も含めて,是非正しい認識をみんなが持てるように,つまり,みんなというのは学生だけではなくて,宮崎支部の事件の被告人だって,そう思っているわけです。この程度は,つまり彼女が抵抗しないのだから,強姦になるためには抵抗が必要だというように普通の人が思っている,ここをやはり何とかしなければいけないと私は思っています。
○小西委員 少し実態をお知らせしておきたいと思いますが,臨床で見ていますと,この暴行・脅迫要件で引っ掛かって,事件として認知されなかったり,不起訴の山という感じになります。要するに,警察に行った段階で,これは無理だという形で判断されてしまうので,例えば何か脅したときの跡が机についていればそれでよくて,そうでないと全然最初から抵抗できてないということになってしまう。口頭で脅迫されただけでも人はすぐ恐怖を覚えるのが普通です。けれども,そのことが分かっていない。もし程度問題だというのだったら,その被害者の心理について,もっとよく知ってほしい,そうでないと,程度なんか言えないでしょうというのが私が思うことです。
  例えば,今の最後の抵抗の問題で,ちょっと思い出したケースがあるのでお話ししますけれども,やはり150センチぐらいの若い女の子で,相手の加害者は巨漢の人というケースがありまして,最初抵抗しているのですよ。だけど,もう途中で抵抗をやめてしまうのですね。スポーツ選手でさえ,レスリングだって,3分ぐらいしかできないではないですか。それほど人が抵抗を続けられるわけないと思うのに,その後,抵抗せずに一緒に歩いていったり,あるいは担がれて踏切を渡ったりみたいなことがあって,そのときも静かだったという理由で,そこに疑いがあったりするのです。そのケースは意見書を出しましたけれども,それほど当たり前のことに精神科医の意見書が要るような状況なのだということがあります。
  大体,被害者が抵抗できないことには二つの理由があって,一つは,余り怖いと人の感情は麻痺する,そういうことが被害の中で起こってくる人もいます。麻痺しますと,相手の言うことを淡々と聞いてしまいます。一方では,早く自分が助かるためには,なるべく言うことを聞こうと考える人もいます。これもすごく当たり前のことだと思うのですけれども,例えば,被害に遭った後にコンビニに行って一緒に買物をしている,早く逃げたいから言うことを聞いているというようなところがまた法律では引っ掛かったという例もあります。本人に聞くと早く逃れたいと思ったようなのですけれども,裁判ではその場面だけを取り上げて,抵抗していないじゃないかという主張がなされる。そういう意味では,全体を判断しなければしようがない総合的な問題なのだと思います。私は角田委員が言われることをきちんと理解できてないのですけれども,そうだったら,せめてそういうことがたくさんの人に起こる普通のことで,男だって,自分より2割方身長が高くて体重が5割増しぐらいの人に襲われたら何もできないでしょう,黙って言うことを聞くでしょうというような被害者の心理についてやはり分かっておく必要が当然あると思います。
  それが分からないところで,総合的判断というのは,非常に一方的な議論ではないかと思います。
○森委員 少し検察の実務について説明させていただきますと,検察の現場では,先ほど来出ております最高裁の昭和33年6月6日判例に基づいて,暴行・脅迫の客観的な程度の強弱だけではなく,その他の被害者の年齢,精神状態ですとか,行為の場所,時間等,諸般の事情を考慮して,社会通念に従って,それが抵抗を著しく困難にさせる程度の暴行・脅迫と言えるかどうかというところを判断しているところです。
  その過程におきましては,小西委員から御指摘がありましたような被害者が途中で抵抗を諦めてしまう心理状態になることがあり得るとか,あるいは恐怖で凍り付いてしまうことがあるといったことにつきましても,科学的な知見の理解に努めて判断しているところです。本日の御指摘を踏まえまして,今後も研修等を通じて,そういった辺りの理解を深めていくようにしたいと思っております。
○小西委員 いろいろ努力されていることは承知しておりまして,変わっていくといいなと思っていますが,多分一番被害者が駄目と言われるのは,司法の第一線のところなのですね。やはりそこも変わっていかないといけないかなと思っています。
  それから,もう一つは,今お話ししたようなケースで,言葉を尽くして裁判で専門家の意見として意見を書いたりして,抗拒不能だということが認定された場合に,結構,相手はそのことを認識していなかったのだから,結局,罪に問えないというような結論が,自分が持っていたケースでは2件ぐらいあった。つい最近ありました。それはやはり,そうすると物分かりが悪い偏見に満ちた人は無罪になるのかと,極論すれば,そういうことを私は素人ですから考えてしまいます。
  そこのところが,皆さん余り疑問がないのかどうかもよく分からないのですが,とてもおかしいなと私は思っていますので付け加えさせていただきました。
○三浦委員 警察の方で現場でいろいろな被害の申告なども頂くわけですけれども,もとより警察の方もいろいろ性犯罪に関する様々な研修でありますとか,あと近年女性の警察官をそうした事件捜査に極力当てるようにしているようなことであるとか,いろいろと被害者の心情に配意した捜査ということにも努めているつもりではあります。ただ,まだまだ現場で浸透し切れていないという部分もあるのかもしれませんけれども,警察組織全体としても,そういう方向を向いて努力をしているということは,是非,御理解をいただきたいというように思います。
  ただ,現実の問題として,一つの事件を扱っていく中で,やはりどこまで証拠が収集し切れるのか,あるいは公判に堪えるだけの証拠をどれだけ収集できるのかというのは,常に現場も悩んでいるところでありまして,ただ,極力,小西委員がおっしゃったような被害者の心情というものをよりよく理解をして,そうしたところに寄り添って捜査をしていくということが正に必要であると感じていますので,更に努力をしていきたいというように思っています。
○山口部会長 ありがとうございました。
  性交同意年齢の点について,何かございますでしょうか。
○武内幹事 要綱(骨子)第一について,日弁連の犯罪被害者委員会を中心とした被害者支援に取り組む弁護士と議論を重ねてまいりましたが,性交同意年齢について,これを引き上げるということを検討すべきではないかという強い意見も出されています。
  これについて,事務当局あるいは御出席の委員の皆様の御意見,お考えをお聞かせいただければと思います。
○佐伯委員 検討会でも申し上げたことなのですけれども,私は,性交同意年齢は現行法のままが妥当ではないかと考えております。
  性交同意年齢を引き上げるということは,同意があっても一律に強姦罪,強制わいせつ罪で処罰するということを意味するわけですけれども,それはちょっと行き過ぎではないかと考えております。
  引き上げないということが保護をしないということを決して意味しておりませんで,現行法の下でも,児童福祉法等の特別法,あるいは条例などで青少年保護の規定というのはございますので,刑法だけではなくて,そういう特別法,条例を含めた法律全体として,児童の保護ということを考えていくべきだろうと思っております。
○橋爪幹事 私も原案に賛成でございます。確かに年少者の性的保護という観点からは,同意年齢の引上げにも十分な理由があると思うのです。ただ,同意年齢に満たない者との性交は,同意があってもなお強姦罪を構成しますので,仮に性交同意年齢を引き上げますと,例えば13歳,14歳の児童の方から性行為の要求があり,その要求に応じて性行為を行った場合についても強姦罪が成立することになり,波及効果としてかなり大きな問題が生ずるように思います。
○山口部会長 いろいろと御意見が述べられましたが,今まで出ていない観点からの御意見があれば,是非お聞かせいただければと思うのですけれども。
○井田委員 先ほどの塩見委員の御発言のときに確認すべきであったのですが,機会を逸してしまいました。大変細かなことですが,176条の強制わいせつ罪の文言は,現在は「男女」となっているのですけれども,これは177条の方がジェンダーニュートラルになった場合には,「男女」というのはおかしいですから,「者」に変わるという理解でよろしいのでしょうか。
○中村幹事 先ほど若干その点についても御説明したつもりではございましたけれども,この176条で「男女」とされているのは,現行の177条で「女子」としていることとの関係で「男女」としていると考えておりますので,そうだとすると,177条で「女子」を「者」とするのであれば,176条についても同様に「者」とするのが適当ではないかと考えているところでございます。
○北川委員 今,暴行・脅迫要件の程度の緩和ということと,性交同意年齢のお話が出ましたがこの要綱(骨子)では,私の勘違いであれば事務当局の方から御修正いただければと思いますが,一般に強姦,準強姦,また強制わいせつもそうですけれども,佐伯委員がおっしゃったように,一律暴行・脅迫を要件とし,また年齢については13歳のままとする案になっているのは,年齢も暴行・脅迫要件も緩和しなくても,児童福祉法による対処が可能であることに加えて,さらに,骨子の第三の要綱にも関係しますが,この新設部分に「18歳未満」とあるので,13歳以上18歳未満で,暴行・脅迫要件を用いてという立証ができないものでも,この第三のところで一定の範囲が対応可能になる,ただし,どこまでの範囲とするかどうかはまた別の問題だと理解しています。それでよろしいでしょうか。
○中村幹事 今おっしゃったような理解で,基本的によろしいかと思います。
○橋爪幹事 要綱(骨子)第一は,「強姦の罪(刑法第177条)の改正」とされておりますが,仮に原案どおり,肛門性交や口淫行為についても処罰対象に含むことになりますと,処罰対象がもはや強姦行為に限定されておりませんので,強姦罪という名称が使えなくなるようにも思います。もし事務当局の方で既に新しい罪名に関するお考えがあれば,教えていただきたいと思います。
○松下幹事 事務当局といたしましても,仮にこの要綱(骨子)のとおりに御答申を頂いた場合には,罪名についても検討する必要があると考えておりますので,ここで皆様から御意見を頂けると有り難いと存じます。
  また,併せまして,要綱(骨子)で,「性交等」ということで,あと括弧書きで書いておりますけれども,その「性交等」という用語を用いることや,括弧内の定義の表現ぶりなどについて,事務当局としては,構成要件の明確性を意識しまして,このような表現を用いているところなのでございますけれども,条文としてよりよい文言や表現などがございましたら,御意見を頂ければと思っております。
  例えばフランスでは,性的挿入行為という文言を用いていて,それ以上の具体的な定義は,条文には書いていないというようなことでございまして,そのような規定ぶりというのは考えられるかどうかといった点も併せて,御意見を頂ければと考えております。
○山口部会長 今の段階で,何か御意見は。明確性の問題は非常に大きいかと思うのですけれども,何か御意見がいただければ。
  この段階ではよろしゅうございますか。
(「異議なし」の声あり)
  ありがとうございました。それでは,本日頂いた御議論をまとめさせていただきますと,まず現在の強姦罪の対象行為を拡張するかという点については,拡張することに反対の御意見はございませんでした。ただし,強制わいせつ罪よりも重い刑で処罰するものがあるとしても,強姦とは別に構成要件を設けるべきだという御意見がございましたが,多数の御意見は,現行の姦淫よりも強姦罪の規定を拡張するという形で処理すべきであるという御意見であったように思います。
  その上で,拡張する範囲についてでございますが,口淫は除くべきだという御意見がございました一方で,膣等への指の挿入も含めるべきだという御意見もございましたが,多数の御意見は,要綱(骨子)のとおりということであったように思います。
  また,要綱(骨子)第二の準強姦罪についてでございますけれども,第一と同様の行為を処罰の対象とすることに反対の御意見はなかったように思います。
  また,先ほど御指摘された点でもございますけれども,手術によって形成された性器の問題と,それから「性交等」の括弧内の書き方の問題などにつきましては,事務当局において更に御検討いただきたいと思います。
  ここで休憩をさせていただきたいと思います。休憩後に,法定刑に関する審議に入りたいと思います。
  11時5分に再開ということにさせていただきます。

(休     憩)

○山口部会長 それでは,会議を再開いたします。
  ここからは,法定刑についての御議論をお願いいたします。
  法定刑につきましては,第1に,要綱(骨子)第一の罪の下限を懲役5年とすること,第2に,要綱(骨子)第二の罪,準強姦罪につきましても同様に下限を懲役5年とすること,第3に,要綱(骨子)第六の2,強姦致死傷の罪の法定刑の下限を懲役6年とすることという三つの点が問題となってまいりました。
  これらの点につきまして,併せて御意見をお願いします。
  引き上げる理由につきましては,先ほど事務当局の方から御説明がございましたが,いかがでございましょうか。
○橋爪幹事 結論から申し上げますと,法定刑の引上げに賛成したいと考えております。その賛成の理由を申し上げた上で,事務当局に1点質問をさせていただきたいと考えております。
  現在の強姦罪の法定刑の下限は3年でございますので,法定刑の下限が5年である強盗罪とのギャップが生じていることは,先ほど来,御説明があったかと存じます。また,性犯罪が被害者の人格に対して重大な被害を及ぼすことを考えますと,強盗罪よりも強姦罪の法定刑が軽いということは,やはり大きな矛盾をはらんでいるように思います。また,資料18を拝見しましても,量刑傾向につきましても,強姦罪については,現住建造物等放火や強盗罪よりも重たい量刑傾向にあるようです。そして,正に量刑傾向というものが現在の社会における性犯罪に対する処罰感情なり処罰の必要性の反映であると考えますと,やはり強姦罪と強盗罪との間のギャップを解消する方向での法改正が必要であると考えております。
  そういう観点からは,もちろん強盗罪の法定刑を引き下げるという方向の法改正もあり得るところかと思います。しかし,現在の強盗罪の法定刑が過度に重すぎるとまではいえないように思いますので,強盗罪の法定刑を基準としつつ,強姦罪をこれにそろえるという方向での法定刑の改正もにあり得る選択肢ではないかと考えております。このような理解から,原案に賛成したいと思います。
  もっとも,このような理解は,飽くまでも現在の量刑傾向が正当な判断である以上,それに対応するかたちで法定刑を修正するべきという趣旨でございます。したがいまして,今回の立法提案というのは,現在の強姦罪の処罰が余りにも軽いから,法改正によってより重く処罰する必要があるというメッセージまでは含んでいないと,私は考えております。
  端的に申し上げますと,今回の法改正は,今後の実務においては求刑,量刑が従来よりもプラス2年で行われるべきであるというメッセージを発するものであってはならないと思うのです。飽くまでも現在の量刑傾向に適切に対応する形で法定刑の修正を行うという趣旨で,今回の事務当局の御提案を評価すべきだと思います。
  質問と申しますのは,このような形で今回の改正の御提案の趣旨を考えてよいのか,という点について確認させていただければ,と考える次第です。
○中村幹事 事務当局から,今回の諮問の法定刑引上げについての考え方に関し,御質問の点について御説明申し上げます。
  今回の諮問につきましては,現行法の強姦罪の法定刑,つまり3年以上の有期懲役となっておるわけでございますけれども,現行法のそういった法定刑の下におけるものとして,強姦罪の求刑だとか量刑が軽きに失して不当であるという認識を前提とするものではございません。
  要綱(骨子)のように,法定刑を引き上げる趣旨につきましては,先ほど冒頭御説明申し上げましたとおり,最近における性犯罪の法定刑に関する様々な御指摘,それから現実の量刑の状況に鑑みますと,強姦罪の重大性,悪質性に対する現在の社会一般の評価が,強盗罪,現住建造物等放火罪などの犯罪に対する評価を下回るものではないと考えられることなどから,その法定刑の下限を強盗罪,現住建造物等放火と同様の懲役5年に引き上げようとするものでありまして,強姦罪の悪質性,重大性に対する法定刑としての評価を適切に反映させようとするものでございます。
  また,法定刑を引き上げる法改正をした後の実務における求刑や量刑の在り方についてでございますけれども,そのような改正の趣旨を踏まえて,検察官又は裁判所において適切に判断されるべきと考えております。
○佐伯委員 私は検討会でも申し上げましたけれども,法定刑の下限の引上げについては慎重であるべきであると考えております。
  元々強盗罪の下限が重過ぎると考えていることもございますし,現住建造物等放火罪については,やはり生命に対する危険性が非常に高いということを根拠として下限が定められていると考えております。
  そのように,私自身は引上げには慎重であるべきだという考えなのですけれども,ただ,先ほど橋爪委員から御指摘があり,事務当局が御説明があったことは,仮に法定刑の下限の引上げがなされた場合であったとしても,非常に重要な点であると思いました。
○北川委員 法定刑の下限という点に関して,先ほど御説明のあった量刑の経緯,量刑に関する資料からは強姦がだんだん重くなってきているという状況があるということなのですけれども,それは飽くまで強姦の話ですよね。つまり,強制わいせつは含まない,重い事例はこうであるという統計ですね。
  何を言いたいかというと,この議論の前提として,「性交等」という形で強姦に匹敵する行為を広げた場合に,ある一定程度の重い強制わいせつ罪が入ってくるということも想定しながら,それでも5年以上ということでよいのかというお尋ねです。対象行為の基本部分の軸足を定めないとぐらついてしまいますので,お伺いしたいと思いました。
○加藤幹事 事務当局から,ただいまお尋ねの点について,説明いたします。
  事務当局からの説明の中でお示しした資料は,御指摘のとおり強姦罪のみを対象とした統計であり,いわゆる性交類似行為を含む強制わいせつ罪をその中に含んでいるものではありません。ただ,強姦未遂は含まれています。
  それから,今回の改正に当たって,強姦罪に関する資料を法定刑の引上げを御検討いただく一つの根拠としておりますが,現在強制わいせつ罪として問擬されているものの中にも,冒頭の説明でも申し上げましたように,それと同等に評価すべきもの,すなわち現在強姦罪とされている行為と同等の悪質性,重大性を備えるものがあるのではないか,その部分については,現在強姦罪とされているものと同等に評価するのが相当なのではないかという考え方で,その部分についても,要綱(骨子)第一どおり強姦罪の法定刑を引き上げた場合には,同等の法定刑とすべきものがあるのではないかという御提案申し上げているということでございます。
○北川委員 ありがとうございます。分かりました。
  法定刑の引上げによっては,やはり性交等の行為の類型化の範囲と密接に関わりますので,御確認いただきましたこと,ありがとうございます。
○宮田委員 私は法定刑の引上げには反対の意見でございます。そもそも,強姦罪の構成要件を広げないという前提でも,5年まで上げる必要はないという考えでございます。
  現行の罰則の中で,確かに量刑傾向は重くなっているとはいえ,法定刑の中で収まっている刑の言渡しがなされているということは重要かと思います。現在,非常に執行猶予が付きづらい状態にはなっていますが,それが更にこれを引き上げるべき立法事実になるのかは疑問です。
  また,執行猶予を付けるべきではない事案には付けなければよいというだけで,酌量減軽しなければ執行猶予は付かない形に条文を変えることには,問題があるのではないかと考えます。
  そして,傷害致死は3年以上,殺人は5年以上です。やはり,生命への侵害に対して,このような法定刑であることとの権衡は考えなければならないと思っております。
  更に,被害者の精神的ダメージの問題です。嫌がらせをされてPTSDになった,これはそのPTSDの診断書を出して,傷害罪で処断することは可能です。
  PTSDや適応障害あるいは不眠などの精神症状が出ている強姦罪の被害者について,診断書を出して,これを強姦致傷に問えないのでしょうか。あるいは強姦の中で,被害者が非常に重い精神的な苦痛を受けていることが,例えばカウンセラーから,カウンセリングの過程で非常に心理的に酷い状態になっているという証言が出てきたら,それは犯情の重い事案ということで,現行の強姦罪の中でも重いものとして処罰が可能なのではないでしょうか。
  逆に,被害者の精神的被害を強姦の中に取り込んで考えていくということは,比較的軽微な診断名の診断書が出されて強姦致傷だと言われたら,これは強姦の中で評価され尽くしているから,これは強姦致傷にはならないという方向での議論にもつながり得るのではないかと思いますし,被害者の精神的な苦痛について,カウンセリングなどの資料を更に付けて重く処罰をすることができなくなってくるのではないかということを感じるのでございます。
  もう一つ,要綱(骨子)への意見です。構成要件を広げて,なおかつ処罰を重くするという要綱(骨子)でございますが,頂戴した資料12を見ますと,ドイツの刑法は,性的行為については原則1年以上で,重い性交類似行為の類いは2年以上です。韓国は,強制的な性行為は3年以上,口淫や肛門性交は2年以上ということのようです。
  資料14を見ますと,口淫の事例は多くはありません。先ほど申しましたように,口淫は,性交に至るまでの一つのプロセスとしてなされる場合も多い。口淫をさせたけれども,これは強姦まで至るまでに例えば被害者に抵抗されて行為はやめてしまったので,強姦未遂というような事例は,数多くあるかと思います。
  口淫は,肛門性交を含むいわゆる性交に対しての準備的な側面もある。そういう意味では,口淫の科刑は軽くてもいいのではないか。現に頂戴した資料14の中の執行猶予を含む3年未満の事例は,18件中の7件だったと思います。3年というのが3件で,過半数が3年以下であった。要綱(骨子)は,この刑を引き上げろというメッセージを発するのですか,という疑問を持ってしまうわけです。
  やはり,下限が5年という議論は,飽くまで,今まで言われていたいわゆる強姦行為という,非常にコアになるものに対する議論ではなかったのかと思うのです。
○小西委員 今のお話なのですけれども,私は当然,PTSDは傷害として処罰されるというのは妥当だと思っている者です。ただ,また今,強姦の中に差が付くというお話をされているのですけれども,そういう形では傷害の差はとれないということを先ほど申し上げたと思います。被害者の側からすれば,どの形の類型でも同じであるということは,申し上げたと思います。
  過半数が3年以下と言われましたが,被害者の方から言いますと,強姦被害者の約半数が大体PTSDが診断されることが分かっていますよね。半数のPTSDの患者の中でまだ今ごく一部の人が臨床にしか来ないというのは,そうなのですけれども,来られた方の平均の受診までの期間は,6〜7年かかっていました。
  今,私は,レイプワンストップセンターと一緒に関わっていますので,被害後非常に早い時期の人を診るようになりましたけれども,今までの臨床では,それから日本の多くのところでは,受診するまでだけに6〜7年かかるのですね。被害の後も,本当に家を替えたり,職業をなくしたりする人がいろいろな犯罪類型の中で高いです。強盗より当然高いです。そういう点では,その被害の大きさから考えても,強盗より低いということは考えられないのではないかと思います。
  もう一つ言いますと,被害者の方に直接伺うと,どういう刑がいいのというと,ずっと入っていてくださいとか死刑にしてくれと言われます。もちろんこれは主観的な御本人の印象ですけれども,そのくらい傷付いているということは事実だと思います。
○井田委員 基本的には橋爪幹事のおっしゃったことに賛成なのですけれども,少し補足して申し上げたいと思います。法定刑は確かに実際に科すことができる刑の幅の上限と下限とを決めているということはもちろんそうなのですけれども,そればかりではなくて,やはり法の目から見たそれぞれの犯罪に対する評価,あるいは被害法益に対する評価というものを示しているという側面がとても大事だと考えています。そういう点から見て,今の強姦罪等の刑の在り方はこれでよいのかどうかということが問われているのだと思います。
  そういう目で見ますと,確かに強盗の場合ですと,その被害額,財産的な損害の額が低いとか,または犯人が経済的に困窮していてかなり同情すべき面もあるというような事情があって,やはり軽いケースというのが想定できる。それにもかかわらず,強姦の法定刑の方が下の方に幅広になっていること自体,法定刑の在り方として理解しにくいという面があります。そして,現在の量刑水準では強姦と強盗との間に逆転現象も生じているということは,もう指摘のあったところです。
  また,殺人との関係でいいますと,殺人というのは,御提供いただいている資料にもありますけれども,元々量刑が大きく2極分解する,重いものと比較的軽いものとに分かれる傾向があります。グラフに二つの山ができる犯罪であって,軽い類型というのも想定しやすいのです。そこで,殺人と比べてどうのという議論は必ずしも当たらないのではないかという感じがいたします。
  それから,今回,強姦罪の範囲を広げるということの関係で申し上げますと,改正に当たっての基本的な考え方は,従来よりも強姦罪の範囲を広げて,より軽いものも取り込むのだ,というものであってはならないと思います。そうではなくて,従来は不当にも軽い類型に包括されていた行為を正しく評価する,強姦と同じ重い行為の類型の中に収めるのだという考え方をすべきです。ですから,軽いものを取り入れて広げるのだから法定刑を上げてはおかしいという議論には,必ずしもならないと思います。
○池田幹事 先ほどから量刑傾向について指摘がなされているところですけれども,宮田委員が御指摘になられたように,現行の法定刑の範囲内でも重く評価されている事案があるわけでありまして,量刑傾向が重い方にシフトしているということから直ちに法定刑の引上げが基礎づけられると考えることにはならないのではないかと思います。
  しかし他方で,井田委員も御指摘になられたように,その他の法定刑を異にする犯罪と比較して,実際に言い渡されている刑が逆転しているということは,考慮要素として非常に重要なものだと思います。
  そのことと,その他の法定刑との均衡や,あるいは法定刑の下限を,酌量減軽なしでも執行猶予を付し得るものとして今後も維持するかどうかということ,またこれらに加えまして,度重なる議会での附帯決議がなされていることや,共同参画基本計画等に示されている要請に鑑みますと,社会全体として法定刑の見直しを要求する意見というものが現に存在していることから,立法事実の存在も認められるのではないかと考えております。
  このような見解から,要綱(骨子)に基本的に賛成でございます。
○宮田委員 先ほどの事務当局からの御説明で,強姦致傷については下限を6年に上げるという案が出されました。酌量減軽で,やはり執行猶予が付くべき事案があるのではないかというお考えだったかと思います。強姦致傷と強姦の量刑傾向のグラフを拝見しておりますと,強姦のピークは5年ぐらいのところにあります。強姦致傷のピークが,やはり7年以下の辺りのところにあります。つまり,大体強姦致傷と強姦は,2年ぐらいはピークに差があるのではないでしょうか。
  そうすると,やはり強姦致傷ですら酌量減軽で執行猶予が付くよう6年にするということであると,強姦を5年にすることは,現実の量刑自体からみて重くなりすぎ,強盗,強姦致傷との関係での刑の採り方として,いかがなものということを感じるのでございます。
  あと,これは今ここで述べるべきことかどうか分からないのですけれども,第1回のところで性犯罪とえん罪の話を私がいたしましたが,えん罪と量刑は関係ないのだと小木曽委員がおっしゃったわけですけれども,重い刑のものに対しては,例えば国民がその捜査に協力しなければいけないという思いから,曖昧な目撃証言であっても,これは情報として出さなければいけないと思う,あるいは被告人に対する取調べ圧力が高まる,捜査官だって,あるいは国民全体だって人間ですから,人間がものを扱う以上は,そこの刑法のメッセージというのは捜査に必ず反映するのであると思うわけです。
  ですから,刑を上げるということが直ちにえん罪につながるとは言いませんが,それは関係ないからというのは,私は違うのではと申し上げます。
○小木曽委員 名前が出たからというわけではないですけれども,量刑というのはどういうものなのかということから考えて見ますと,今,井田委員や池田幹事から御意見がありましたけれども,やはりその行為に対する社会のというか,主権者の評価を枠として示す意味があるのだろうと思います。
  では,その主権者の意思がどのようなところに表れているのかということを判断するのに,池田幹事がおっしゃったような様々な機関での決議なり現在の量刑傾向なりをその指標として見ることは,必要なのだろうと思います。それから,その行為を刑法の体系の中で,それ以外の犯罪との関係でどのように評価するかということで考えますと,やはり財産刑との比較という観点があってもいいのだろうと考えます。そうすると,現在の3年というのは低すぎるという意見があってもおかしくないと考えます。
○佐伯委員 繰り返しになって恐縮ですけれども,私も小木曽委員,あるいは池田幹事と同じように,あるいは橋爪幹事が最初におっしゃったように,強盗罪と強姦罪はやはり同じ法定刑の下限であるべきだと思います。しかし,強盗罪の法定刑を引き下げることが難しいから,現実の問題として難しいから,強姦罪の方を引き上げるべきだというのは,やはり刑事政策として妥当なものとは思わないということです。
○角田委員 検討会の中でも,強盗の刑を引き下げるのが難しいから,その代わりにと言ったら何ですけれども,強姦罪を上げるという認識はなかったのではないかと思います。
  私は,やはり強姦罪と強盗罪の保護法益が質的に違うというところに着目して,今までの3年という強姦罪の扱われ方が余りにも酷いのではないかと,だから井田委員もおっしゃったように,今まで不当に扱われていたものを,きちんとしたそれにふさわしい扱い方にするという考えで,要綱(骨子)に賛成です。
○塩見委員 私も,象徴的な意味も法定刑にはあると思いますし,近時の量刑傾向等に鑑みて,5年に引き上げるのは致し方ないというか,支持できるのではないかと考えます。これは事務当局の方から御説明いただければと思いますが,強制わいせつ罪についてはそのままに,法定刑の下限が6月になっております。強姦罪に当たる新しい罪で5年に引き上げますと,下限でかなり差が出てくることになります。強制わいせつ罪の法定刑には触れない点については,どういうお考えだったのかを御説明いただければと思います。
○中村幹事 「性犯罪の罰則に関する検討会」におきましても,強制わいせつ罪の法定刑をどうするのかといったことについても御議論いただきました。それを踏まえた上で,強制わいせつ罪の法定刑については,下限,上限についても現行法のまま,現行法を維持するという前提で,このような諮問に至っているわけでございますけれども,これは強制わいせつ罪に問擬される行為というのは,かなりいろいろな行為というのが考えられるだろうという考え方でございます。つまり,量刑が下限の6月に近いような事案から,上限に近いような事案というのもあるだろうと考えたものです。
  また,今回,従来強制わいせつ罪で問擬されていた行為のうちの一定の行為を,強姦罪と同等に処罰するということにいたしておるわけでございますけれども,そういった行為のほかにも,例えば膣や肛門内に異物を挿入するとか,顔面へ射精をするといった依然として強制わいせつ罪で問擬される行為の中にも,かなり重い量刑に値する行為もあるだろうと考えまして,その結果といたしまして,この下限,上限については,現行法を維持していいのではないのかと考えた次第でございます。
○塩見委員 ありがとうございました。
○宮田委員 「性犯罪の罰則に関する検討会」のときには,5年ではなくて4年という意見も出ていたかと存じます。事務当局の方で,この5年という案をお出しになった,その理由について,お聞かせいただければと存じます。
○中村幹事 事務当局の方の考え方でございますけれども,先ほど来,御議論いただいているところとも重なるところもございますけれども,下限が5年という法定刑として,刑法の中には,例えば強盗罪,現住建造物等放火罪といったものがございますけれども,そういった強盗罪や現住建造物等放火罪と強姦罪を比べたときに,強姦罪に対する社会の評価というものが強盗罪を下回るものではないのではないのかというところであります。さらに,強姦罪については,一般に凶悪重大犯罪と言われていますが,一般に凶悪重大犯罪と言われている強盗ですとか放火という罪と同じく,刑法の全体の中で法定刑としても位置付けられるべきであろうという点でございます。
  また,その4年とするかどうかでございますけれども,強盗罪を5年としつつ強姦罪を4年とした場合には,依然として強盗罪と強姦罪との間には差が残るわけでございます。強盗罪の法定刑を引き下げた上で4年にそろえるという選択肢というのもあり得るかとは思いますけれども,他方,強盗罪について,その法定刑を引き下げるような特段の事情はないのではないのかというところもございまして,以上のようなところを総合的に考慮いたしまして,下限を5年としたらいかがかということで御提案申し上げている次第でございます。
○山口部会長 消極の御意見が述べられました。要綱(骨子)を支持する御意見も述べられておりましたけれども,何か今までの御意見と違った観点から御意見があれば是非お願いしたいと思いますが,いかがでございましょうか。
  よろしゅうございましょうか。
(「異議なし」の声あり)
  ありがとうございました。
  本日頂きました御議論をまとめますと,法定刑の下限を引き上げる必要がないという御意見がございましたけれども,要綱(骨子)のとおりにする,強姦罪及び準強姦罪の法定刑の下限を懲役5年に,強姦致死傷罪の法定刑の下限を6年に引き上げるという御意見が多数であったと理解させていただきました。
  それでは,最後に,要綱(骨子)第五の点,すなわち,ただいま御議論いただきました強姦罪及び強姦致死傷罪の法定刑を引き上げるということを前提として,集団強姦等の罪及び集団強姦等致死傷の罪を廃止することについて,御意見を承りたいと思います。いかがでございましょうか。
○角田委員 私は,廃止には反対です。確かに基本の強姦罪の下限は上がることになると思うのですけれども,それでもこの集団強姦罪というのは,犯罪類型が普通の強姦罪とは基本的に,本質的に違った悪質なものだと考えておりますので,その悪質性をきちんと評価すべきではないかと考えております。
  そうすると,下限は何年にするのかということになってくるわけなので,強姦罪と同じということには多分できないでしょうから,6年に上げるかということは考えざるを得ないのではないかと思っております。
○今井委員 集団強姦罪とは,御案内のように,一連の経緯があって,緊急に対処すべきということで作られた規定ではないかと思っております。それが今回の諮問に応じまして,先ほど来,井田委員も明確におっしゃっておりましたけれども,強姦罪とされる範囲を広げつつ,その法定刑を上げていくということで,本来の正当な評価をするということで,強姦等の罪,あるいは致傷等の罪の法定刑の引上げについては,おおむねの合意が得られたところですが,それによりますと,従前その機能を担っていた集団強姦の罪は,ほぼ新しく作られる罪の中に取り込まれてしまうということもありまして,集団でなされた悪質性が高いものが存在することは分かりますけれども,共犯類型における量刑事情を適切に評価することで従前と変わらない量刑ができるのではないかと思いますので,私は今回の御提案に賛成するところであります。
○井田委員 強姦罪はその基本類型としても既に大変重い犯罪であり,法定刑の上限を見ると懲役20年です。例えば,傷害罪は,被害者の目をくり抜いたり,その腕を切り落としたりする行為を含みますが,その上限は懲役15年であり,強姦罪はその基本類型においても,それよりも重い犯罪として規定されているのです。ですから,集団強姦罪の規定を仮に削除したとしても,重いケースについては基本類型により十分重く評価することができるはずです。また,法定刑の下限について見ても,今回の改正により強姦罪の刑の下限を引き上げて,そのままでは執行猶予を付けられない,つまり酌量減軽という特別の判断をしないと執行猶予にはできないということになれば,その意味でも,この集団強姦罪を置く理由はなくなってしまうのではないかと思います。
○山口部会長 ほかに,いかがでございましょうか。
  集団強姦等の罪については残すべきだという御意見が述べられましたが,先ほど御議論いただきましたように,強姦罪等の法定刑の下限を引き上げると,特別の類型として集団強姦等の罪を殊更に置く必要はないという御意見であったように思いますが,いかがでしょうか。
○橋爪幹事 私も要綱(骨子)に賛成でございます。集団強姦は確かに極めて悪質な犯罪ですが,現在の実務の一般的な理解に従いますと,姦淫行為自体を複数人が分担する必要はないと解されておりまして,例えば暴行・脅迫の共同実行,更には実行分担がなくても実行共同正犯に匹敵するような関与があれば,集団強姦罪が適用されているようです。
  このように,強姦罪の共謀共同正犯を適用すべきケースと集団強姦罪を適用すべきケースというのは,実は紙一重のところがあり,実務的にも困難な問題をもたらしているように理解しております。
  このような実務的な問題もありますので,集団強姦行為につきましては,むしろ同一の構成要件の内部で,量刑評価の問題として対応する方が適当であるように考えております。
○山口部会長 維持するという御意見が述べられ,廃止してよいという御意見が述べられておりますが,ほかに,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
  ありがとうございました。
  集団強姦罪等を廃止することについては,反対の御意見,維持すべきだという御意見が述べられましたけれども,廃止することに反対だという御意見はほかにありませんでしたので,廃止するという御意見が多数であったと理解させていただきます。
  それでは,本日の審議はこれで終了とさせていただきたいと思います。
  次回の予定につきましては,前回申し上げましたとおり,要綱(骨子)第三と第七について,御審議をお願いしたいと思います。
  次回の予定につきまして,事務当局から御説明をお願いします。
○中村幹事 次回の第3回会議は,12月16日水曜日,午前9時15分からでございます。場所は,法務省20階の第1会議室でございます。
○山口部会長 それでは,次回は平成27年12月16日水曜日,時間は午前9時15分から法務省20階の第1会議室で行うことにいたします。
  なお,本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったのではないかと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしゅうございましょうか。
(「異議なし」の声あり)
○山口部会長 それでは,そのようにさせていただきます。

法制審議会
刑事法(性犯罪関係)部会
第3回会議 議事録
第1 日 時  平成27年12月16日(水) 自 午前 9時12分
                       至 午前11時45分

第2 場 所  法務省第一会議室

第3 議 題  1 要綱(骨子)第三について
        2 要綱(骨子)第七について

第4 議 事  (次のとおり)
議        事

○中村幹事 ただいまから法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第3回会議を開催いたします。
○山口部会長 おはようございます。本日は御多忙の中お集まりいただきまして,誠にありがとうございます。
  本日,田邊委員,松尾関係官におかれましては,御欠席と伺っております。
  まず初めに,第2回会議の後に委員の交代がございましたので,新たに委員になられた方から,簡単に御所属,御名前等の自己紹介をお願いいたします。
○?委員 法務省大臣官房審議官を命じられました?と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○山口部会長 ありがとうございました。
  では,次に,事務当局から配布資料についての御説明をお願いいたします。
○中村幹事 本日,資料として配布しておりますのは,資料28です。本日御審議いただく予定となっております要綱(骨子)第三において用いられております「監護」という用語に関係する民法などの条文をまとめたものでございます。
  また,第1回会議で配布いたしました資料1から27までを机上に置かせていただいております。このうち,本日御審議いただく論点に特に関係すると思われる資料は,資料番号19から22までと,資料26及び27でございます。
○山口部会長 ありがとうございました。
  それでは,審議に入りたいと思います。
  本日は,要綱(骨子)第三及び第七について審議を行います。
  まず,事務当局から,これらの諮問事項について,改めてその趣旨や検討経過等についての御説明をお願いいたします。
○中村幹事 本日御審議いただく要綱(骨子)第三及び第七につきまして,このような内容とした趣旨及び検討の経過などを御説明申し上げます。
  なお,第2回会議におきまして,要綱(骨子)第一の罪について,「強姦罪」という罪名を維持することは不適当であるとの御指摘もありまして,事務当局といたしましても検討しているところでございますけれども,現時点で決めることができるものではございませんので,以後,便宜上,要綱(骨子)第一の罪について「強姦罪」,要綱(骨子)第二の罪について「準強姦罪」と呼ばせていただくことがございます。この旨,御了承ください。
  お手元の配布資料1の別紙要綱(骨子)の第三を御覧ください。
  要綱(骨子)第三の一から三までは,18歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力を利用して,当該18歳未満の者に対しわいせつな行為をし,あるいは,当該18歳未満の者を相手方として性交等をした者について,現行の強制わいせつ罪ないし要綱(骨子)第一の罪と同様の処罰の対象としようとするものでありまして,これらの行為の未遂をも処罰することとするものです。
  現行法におきましては,不同意のわいせつ行為又は性交であって,違法性が高く,かつ,悪質であると類型的に認められるものとして,暴行又は脅迫を用いてなされたもの及び心神喪失又は抗拒不能に乗じるなどしてなされたものを処罰対象としております。
  しかしながら,資料21と22の事例集を御覧くださるとお分かりいただけますとおり,被害者の意思に反して行われる親子間の性交等の事案が,強姦罪や準強姦罪ではなく児童福祉法違反などで処理されている例が多くあります。このような現状に鑑みますと,性交等に及ぶ場面だけを見ると,暴行又は脅迫を用いることなく,また,抗拒不能には当たらないようなものであっても,現行法の強姦罪,強制わいせつ罪に当たる行為と同様に性的自由ないし性的自己決定権を侵害し,同等の悪質性,当罰性があるものが存在すると考えられます。
  「性犯罪の罰則に関する検討会」におきましても,「被害者と加害者の関係性ゆえに,被害者が加害者に対して性交に不同意である旨の意思表示ができないような関係を対象とする類型を設けるべきである」などとして,地位又は関係性を利用した性的行為を処罰する規定を設けるべきであるとの意見が多数を占めました。
  そこで,要綱(骨子)第三の一及び二におきましては,行為者が18歳未満の者を現に監護しているという関係がある場合には,18歳未満の者が精神的に未熟である上,生活全般にわたって自己を監督し保護している監護者に精神的にも経済的にも依存している,そういう関係にあることに着目し,監護者がそのような関係性を利用して18歳未満の者と性交等を行った場合には,18歳未満の者の自由な意思決定に基づくものとはいえず,性的自由を侵害する行為として,強姦罪などと同様に処罰する規定を設けようとするものです。
  本罪の主体,客体に関しては,「性犯罪の罰則に関する検討会」では,新たな規定による処罰の対象とする地位又は関係性について,教師と生徒の関係,雇用関係,医師と患者の関係,スポーツのコーチ等と選手等との関係などをも対象とすることが考えられるという御意見もありましたが,要綱(骨子)におきましては,それらの関係性による影響力を利用した場合を含まないこととしております。
  この点につきましては,「性犯罪の罰則に関する検討会」においても,「地位又は関係性を利用した性的行為を処罰する規定を設ける場合には,その地位又は関係性が存するのであれば被害者に有効な同意がないと実質的にみなせるような非常に強い支配関係が要件として規定される必要があり,そうでなければ有効に機能しないのではないか」,「被害者が加害者に扶養されているとか,生存がかかっているような強い支配関係という意味で,同居をメルクマールとすることが考えられる」などといった御意見があり,そのような御意見を踏まえて検討し,「現に監護する者であることによる影響力を利用」した場合に限定することとしたものです。
  具体的には,先ほど申し上げましたとおり,18歳未満の者が精神的に未熟である上,生活全般にわたって自己を監督し保護している監護者に精神的にも経済的にも依存している関係にあることから,監護者がそのような関係性を利用して18歳未満の者と性交等を行った場合には,類型的に18歳未満の者の自由な意思決定に基づくものとはいえないと考えられますが,それ以外の関係性,例えば雇用関係や教師と生徒などの関係などの場合,必ずしも生活全般にわたる関係ではない場合も多いと思われ,その関係性を利用した性交等が類型的に自由な意思決定に基づくものでないと断ずることまではできないと考えたためです。
  このように,本罪は,強姦罪等と同様に性的自己決定権を侵害するものであり,同等の悪質性・当罰性が認められる犯罪と考えておりますことから,法定刑は,強姦罪などと同様のものとすることとし,要綱(骨子)第三の一の罪については,刑法第176条の強制わいせつ罪と同様の法定刑,要綱(骨子)第三の二の罪については,要綱(骨子)第一の罪と同様の法定刑としています。また,要綱(骨子)第三の三において,強制わいせつ罪や強姦罪と同様に,要綱(骨子)第三の一及び二の罪の未遂を罰することとしております。
  本罪の具体的な要件について,御説明申し上げます。
  まず,本罪の被害者となるのは,18歳未満の者としています。これは,一般に,18歳未満の者は,精神的に未熟である上,監護者に精神的・経済的に依存していることから,このような者に対し,監護者が影響力を利用して性交等を行った場合には,自由な意思決定によるものとはいえないと考えられるためです。逆に言いますと,一般に,通常高校を卒業する年齢であります18歳程度になれば,精神的にも成熟度が増し,監護者に対する精神的・経済的な依存が弱くなると考えられます。加えて,年少者の保護を目的とする児童福祉法や児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律などにおいても,年少者の社会生活上の実態を踏まえて18歳未満を保護の対象としていることなどをも考慮し,本罪の被害者についても18歳未満の者としたものでございます。
  次に,本罪は,「現に監護する者であることによる影響力を利用して」わいせつ行為又は性交等を行うことにより成立することとしております。ここで,「監護する」とは,民法に親権の効力として定められているところと同様に,「監督し,保護すること」をいうものですが,法律上の監護権に基づくものでなくても,事実上,現に18歳未満の者を監督し,保護する関係にあれば,要綱(骨子)第三の「現に監護する」に該当し得ると考えております。
  民法の規定などにつきましては,本日お配りいたしました資料28を御覧いただければと思いますけれども,民法上の「監護」が,そもそも親子関係を基本とする概念でありますことから,要綱(骨子)第三の「現に監護する者」と言えるためには,親子関係と同視し得る程度に,居住場所,生活費用,人格形成などの生活全般にわたって,依存・被依存ないし保護・被保護の関係が認められ,かつ,その関係に継続性が認められることが必要であると考えております。
  「現に監護する者」であるか否かの主な判断要素としては,同居の有無,居住場所の関係,未成年者に対する指導状況,身の回りの世話等の生活状況,生活費の支出などの経済的状況,未成年者に関する諸手続等を行う状況などが挙げられるものと考えております。
  「現に監護する者であることによる影響力を利用して」とは,必ずしも積極的・明示的な作為であることを要するものではなく,黙示や挙動による利用ということもあり得るものと考えております。
  次に,要綱(骨子)第七の一から三までは,強姦と強盗とを同一の機会に行った場合の罰則の整備に関するものです。
  まず,要綱(骨子)第七の罪全体について,このような罪を設けようとする趣旨を御説明申し上げます。
  現行刑法第241条前段におきましては,強盗犯人が強姦をしたときについて,強盗強姦罪として無期又は7年以上の懲役という重い法定刑が規定されておりますが,強姦犯人が強盗をした場合には,このような規定はなく,一般的な併合罪の規定に従って,その処断刑は5年以上30年以下の懲役となります。
  この点につきまして,「性犯罪の罰則に関する検討会」におきましては,「被害者にとっては,同じ機会に強盗と強姦の両方の被害に遭うという点で同じであるのに,強盗犯人が強姦をする場合と,強姦犯人が強盗をする場合とで違いが生じる理由は理解できない」,「強姦された上で金銭を奪われた事案の被害は非常に大きい」などとして,強姦犯人が強盗した場合についても,強盗強姦罪と同様に処罰する規定を設けるべきであるという意見が多数でありました。
  このような御意見を踏まえて検討しましたところ,同じ機会に,それぞれ単独でなされてもなお悪質な行為であります強盗行為と強姦行為との双方を行うことの悪質性・重大性に着目すると,これまで強姦罪と強盗罪との併合罪が成立するとされていたものについても,強盗強姦罪と同様の刑をもって処罰することができるようにすることが必要であり,また相当であると考えられるため,要綱(骨子)第七の罪を設けようとするものです。
  次に,具体的な規定の内容について,御説明申し上げます。
  まず,要綱(骨子)第七の一の本文は,同一の機会において,要綱(骨子)第七の一の1に掲げる罪,すなわち,強姦罪,準強姦罪若しくはこれらの未遂罪又は強姦致傷罪と要綱(骨子)第七の一の2に掲げる罪,すなわち,強盗罪,事後強盗罪,昏睡強盗罪若しくはこれらの未遂罪又は強盗致傷罪とを行った場合について,現行法の強盗強姦罪と同様の法定刑で処罰できるようにしようとするものです。
  現行法における強盗強姦罪につきましては,判例上,強盗の機会に強姦を犯した場合に成立するものと理解されておりますけれども,要綱(骨子)第七の一の罪についても,これと同じ範囲で,すなわち,同一の機会に強姦行為と強盗行為とを犯した場合に,この罪の成立を認める趣旨でありまして,「一方を犯した際に」の「際に」という語の意義は,その趣旨でございます。
  なお,要綱(骨子)第三の罪は,18歳未満の者を監護する者が,そのことによる影響力を用いて性交等に及ぶという犯罪類型であり,これと同一の機会に暴行・脅迫を用いて財物奪取に及ぶことは実際上想定し難いため,第七の一の1に掲げる罪には含めておりません。
  次に,要綱(骨子)第七の一ただし書でございますが,これは本文の場合において,強姦行為と強盗行為とがいずれも未遂に終わったときは,刑を減軽することができるとするものです。
  同一の機会になされた強盗行為と強姦行為とがいずれも未遂であった場合については,行為の危険性が比較的小さかったことから結果が発生しなかった事案など,本文に定める法定刑で処罰するのが酷な事案も考えられ,刑法総則,刑法第43条本文ですが,刑法総則における未遂犯と同様に,裁量的な刑の減軽を認めることとするのが相当であると考えられます。
  もっとも,これを,単に「第七の一の罪の未遂は,罰する。」などとするのみでは,いずれの行為を基準に未遂か既遂かを判断するのかが判然としませんので,この点を明らかにするため,要綱(骨子)第七の一ただし書を設けたものです。
  他方,強姦行為と強盗行為とのいずれか一方でも既遂であった場合には,刑の任意的減軽は認めないこととしております。この場合は,同一の機会に,それぞれ単独でなされてもなお悪質な強盗に向けた行為と強姦に向けた行為とがともになされ,少なくともそのいずれかは行為の目的を達しているということになりますので,その悪質性・重大性は,いずれも未遂の場合と比べて大きいと思われ,あえて刑の減軽をする必要はないと考えたためです。
  また,仮に,このような場合に刑の減軽を認めることといたしますと,同一の機会に行われた強盗行為と強姦行為のいずれか一方が未遂の場合に,処断刑の下限が懲役3年6月となります。
  しかしながら,これでは,強盗既遂,あるいは要綱(骨子)のとおり法定刑に関する改正が行われたとして強姦既遂のみが行われた場合の法定刑の下限である5年よりも軽くなるというような刑の不均衡が生じます。このような観点から,いずれか一方でも既遂であった場合には,刑の減軽を認めることは適当ではないといえます。
  したがいまして,要綱(骨子)第七の一ただし書のとおりとしたところでございます。
  次に,要綱(骨子)第七の二は,同一の機会になされた強姦行為と強盗行為とがいずれも未遂の場合において,いずれかの行為について自己の意思で中止した場合には,刑法第43条ただし書のいわゆる中止犯におけるのと同様に,その刑を必要的に減免すべきものとしようとするものです。
  中止未遂について必要的減免が定められている根拠については諸説ありますけれども,犯罪の結果発生を防止するという政策的観点からは,強盗行為と強姦行為の一方でも自らの意思で中止した場合には,必要的減免を認めることが相当であると考えられますし,中止未遂を認める趣旨として,違法性や責任の減少を認める立場からも,強盗行為と強姦行為の両者ともに障害未遂であった場合に比べて,違法性又は責任の減少を認めることができるものと思われます。
  このことに鑑みますと,強盗行為と強姦行為を同一の機会に行った場合を一つの罪で処断しようとする要綱(骨子)第七の罪についても,少なくとも一方の行為について自らの意思で中止したのであれば,その事実を評価しないのは適当ではなく,他方の行為も障害未遂にとどまっていることを前提に,必要的に刑を減免することが相当であると考えたものです。
  最後に,要綱(骨子)第七の三は,同一の機会に強盗行為と強姦行為がなされた上に,そのいずれかの行為を原因として死の結果が生じた場合について,現行刑法第241条後段の強盗強姦致死罪と同様の法定刑で処罰することとするものです。
  現行法におきましては,一般に,強盗の機会に行われた強姦行為によって死の結果が生じた場合に,強盗強姦致死罪が成立するものと理解されております。
  これに対し,要綱(骨子)第七の三の罪におきましては,強姦行為と強盗行為とが同一の機会になされた場合において,その行為の先後関係等を問わず,いずれかの罪に当たる行為により死の結果が生じたときに成立することとするものです。
  また,現行法の下で,強盗強姦致死罪はいわゆる結果的加重犯であり,殺意がある場合を含まないものと解されており,強盗の機会に行われた強姦行為又はその手段である暴行・脅迫から死の結果が生じた場合において,殺意をもって死亡させたときは,判例によれば,強盗強姦致死罪ではなく,強盗殺人罪と強盗強姦罪の観念的競合となるとされております。
  これに対し,要綱(骨子)第七の三の罪には,強姦行為又は強盗行為のいずれかの罪に当たる行為により,殺意をもって人を死亡させた場合を含むものとしようとする趣旨です。いわゆる結果的加重犯と解されている現行法の強盗強姦致死罪のように「よって…死亡させた」との用語を用いていないのは,この趣旨でございます。
  これは,要綱(骨子)第七の三の罪については,現行法の強盗強姦致死罪と同様の法定刑とし,死刑又は無期懲役という極めて重い法定刑を定めることとしておりますところ,それぞれ単独でなされてもなお悪質な行為であります強盗行為と強姦行為とがともになされ,殺意をもって被害者を殺害した場合についても,これと同様の刑を科すのが適当であることから,殺意がある場合についても,この罪に含めて同一の法定刑とするのが適切であると考えられたためです。
  なお,要綱(骨子)第七の三の罪において,殺意をもって強姦又は強盗行為を行ったものの,殺害するには至らなかった場合には,同罪の未遂犯として処罰し,刑法第43条本文の規定により刑の減軽が認められるものと考えております。
○山口部会長 ありがとうございました。
  それでは,要綱(骨子)第三,第七の順に審議を行います。
  まず,要綱(骨子)第三につきましては,大きな論点が3点ほど挙げられると思われますので,まずは,それらについて順次議論を進めたいと思います。
  まず,一つ目でございますが,要綱(骨子)第三の一及び二にありますような一定の影響力を利用したわいせつ行為や性交等に関する罪を新設する必要性についてでございます。第三は,現行法にはない新しい類型の罪を設けようとするものですので,このような罪を設けるべき必要性について,御議論いただきたいと思います。
  次いで,二つ目でございますが,そのような類型の罪を新設する必要があるといたしまして,構成要件が要綱(骨子)第三のようなもので適切であるかどうかという点でございます。その中でも,まず,主体及び客体の範囲をどのようなものとするのが適切であるのか,要綱(骨子)のように,被害者を18歳未満の者とし,行為者を18歳未満の者を監護する者とすることが適当かという点について御議論いただき,その上で,「現に監護することによる影響力を利用して」との要件について,このような要件を設けることの当否について御議論いただきたいと考えております。
  三つ目でございますが,法定刑の点でございます。すなわち,第三の罪の法定刑を,強制わいせつ罪及び強姦罪と同様の法定刑とすることが適切かどうかという点について,御議論をお願いしたいと思います。
  もちろん,それぞれの論点は,互いに関連するものでございますので,御発言の際に,関連して述べた方がよいと思われる場合には,他の論点に関する御意見をおっしゃっていただくことも差し支えございませんが,基本的には,今申し上げたような順に整理して議論を進めたいというように考えております。
  また,以上私から申し上げた論点に当たらない部分につきましても,御意見をお持ちの方がおられるかもしれませんので,そのような御意見をおっしゃっていただく機会も適宜設けたいというように考えております。
  このような進行とさせていただきたいと思っておりますが,よろしゅうございましょうか。
(「異議なし」の声あり)
○山口部会長 ありがとうございました。それでは,そのように進めたいと思います。
  では,まず最初に,要綱(骨子)第三の罪を設ける必要性について,御意見を頂きたいと思います。
○宮田委員 私は,このような類型は必要ないという意見でございます。その根拠としては,第178条の抗拒不能の要件で,この部分についてはカバーができるのではないかと考えるためであります。
  検討会のときにも紹介させていただきましたが,日弁連の刑事弁護センターの委員に聴取したところでは,例えば,父親との関係で,父親に嫌われるのが嫌で関係に応じたというケース,教師の影響力を配慮して生徒が拒まなかった事例,あるいは取引関係にある者が関係を拒まなかった事例などについても,第178条で現に処罰がされている例があるということでございます。
  このように,新しく監護者の類型を作らなければならないと救われないという事例にはどのようなものがあるのか,もしも具体的なものがイメージできるのであれば,是非事務当局の方から御紹介いただければと存じます。
  そして,逆にこのような規定がなければ影響力行使の案件が処罰できないということなのであれば,かえって今の第178条の解釈・適用に対して足かせを作ることにならないかと感じるのでございます。
  第二に,立証の問題です。
  第178条の抗拒不能であれば,間接事実を積み重ねていった主張と,それに対する立証がなされていくということになるかと思います。
  今度,監護者類型を作るということになりますと,監護者である者が被監護者に対して性的な関係を持てば,この影響力が事実上推定されるということになってしまうのではないか。そうすると,このような構成要件の構造というのは,検察官は,監護者だということと,性的な関係を持ったということを立証すればよいということになり,被告人の側で,例えば,被監護者が真の同意があったのだ,あるいは監護者として実質の不存在,実際ここまで言えるかどうかは別ですけれども,そのようなことを被告人の側で主張し,立証していかなければならなくなる,つまり,推定規定を置いて,一種の主張責任の転換が生じてしまうと考えるわけです。刑事訴訟法の原則の大転換を図らなければならないのかという,根本的な疑問があります。
  先日,御紹介申し上げましたけれども,強姦犯人だとされた男性に対する再審無罪の事件も出ています。子供の供述は,親の影響等によって左右されて虚偽のものが出てくる危険性があり,それによる誤判の可能性もある。立証責任が転換されてしまうことになると,その誤判の危険はより大きくなるのではないかということを考えます。
  そして,第三の問題です。
  このような問題は,むしろ児童福祉の問題なのではないかということでございます。
  被害者が13歳未満であったら,強姦罪や準強姦罪に問えるわけです。資料21を拝見しておりますと,懲役10年を超えるような類型というのは,13歳未満の子供に対する加害の事例でございます。懲役10年以下の宣告刑でよいということであれば,児童福祉法違反でなぜいけないのか。刑法犯として別類型を立てる必要があるのかどうかということでございます。むしろ,子供の健全な育成のために良くない行為ということで,児童福祉の視点から処罰をするということに何の問題があるのかという根本的な疑問があり,なおかつ,児童福祉の視点で,特に親族に関して加重するという類型を置くのではなぜいけないのかということも考えるのでございます。
  第四として,この種の虐待の案件についての対処の仕方という問題でございます。
  虐待に対して今,刑罰を重くしようという動きもありますが,虐待の案件については,虐待する親,特に実子については,実親自身が虐待の被害者でもあるということは多いわけです。この虐待,加害行為が一種の文化となって伝わっているような場合もあり得ます。
  こういう人たちに対しては,重い処罰をするというよりは,その文化から離脱する,そのための教育であるとかカウンセリングであるとか治療であるとか,そういうものが希求されるべきであり,刑を重くするということでの対処が果たして妥当なのかどうかという根本的な疑問も持っています。
  五つ目としては,後で客体の議論のところでも是非もう一度申し述べさせていただきたいと思うのですけれども,女子の婚姻適齢は16歳です。16歳が未熟だということであれば,この規定自身が間違っているということになるのではないかということです。
○橋爪幹事 私からは,要綱(骨子)に賛成する方向で意見を申し上げたいと存じます。
  すなわち,18歳未満の者が監護者から性交等に応ずるように要求を受け,自身が経済的・精神的に監護者の支配下にあることから,性交等を断り難い精神状態に陥り,やむを得ずに性交等に応ずるという事態は,正に重大な瑕疵ある意思によって性的な意思決定が行われていると言えますので,強姦罪,準強姦罪と同様に処罰をする必要性が高いと考えます。
  このように,本罪が処罰対象にする行為は,18歳未満の者の健全な育成を保護するという観点ではなくて,飽くまでも被害者の瑕疵ある意思決定によって性的自由が侵害されているという観点から,性犯罪として刑法典に規定する必要が高いと考える次第です。
  先ほど宮田委員から,このような類型の行為は準強姦罪で処罰が可能であるという御指摘がございました。確かに,準強姦罪は抗拒不能に乗じた性行為等を罰しておりますし,抗拒不能というのは,心理的又は物理的に抵抗が不可能又は著しく困難な状態と解されておりますので,18歳未満の者が性交を断り難い状態に陥った類型については抗拒不能を肯定する余地があるのかもしれません。
  しかしながら,被害者が監護者からの要求を断り難いというプレッシャーを感じつつ,監護者に嫌われたくない一心で性交に応ずるような場合などであれば,なお抗拒不能には該当しない場合が多いように思われます。特に性的関係が継続化し,いわば常態化しているような事例については,被害者の感情,感覚が麻痺しているような場合があると思うのですが,そのような場合につきましては,個別の性行為について抗拒不能を認定することは困難であるように思います。
  このような理解からは,準強姦罪などで処罰できない行為について処罰範囲を拡張することの当否が問題となりますが,やはり18歳未満の年少者につきましては,意思決定に瑕疵が生じやすいという観点から処罰範囲を拡大し,その性的保護を強化するということには十分な理由があるように思われます。
  更に,宮田委員からは,このような行為類型については,児童福祉法上の淫行させる罪で処罰をすれば十分ではないかという御指摘がございました。しかし,児童福祉法の淫行させる罪は,被害児童の意思内容いかんを問わず,青少年の健全な育成を保護するという観点から行為者を処罰しております。また,資料21の事例集を拝見いたしましても,比較的量刑も軽いように思われます。
  これに対して,先ほどから申し上げましたように,飽くまでも本罪は,18歳未満の被害者が瑕疵ある意思によって性交に応じざるを得なくなる,という点において,正に性犯罪としての被害の実質があるわけです。このような観点からは,児童福祉法の犯罪として位置付けるべきではなくて,やはり刑法上の性犯罪として重く処罰をする必要性があるように考えております。
○小西委員 私もまず,その第一の点について,新設は賛成であるというところからお話ししたいと思いますが,今実例を挙げろとおっしゃっていたので,ちょうど私が経験した例で,援護から外れている例について,個別の事例を特定しない範囲でお話ししようと思います。
  実父と一緒に普通に住んでいた女の子ですけれども,小さいときから性的な言動や子供に対する身体的虐待がある。そういう人が長じてきたときに,例えば14歳,15歳の辺りで,それが性的な虐待,性交になった,こういうケースは非常にたくさんあります。
  そのときに,どういうふうに子供が言われていたかというと,例えば,こういうふうに男性を喜ばせることの教育をしてやっているのだとか,それから,こういうふうに親に従えない子供は駄目なのだというふうに言われて,そこまでずっと虐待的に育ってきた子供というのは,それに抵抗することなんかできないわけですね。できないままに性交があるのですけれども,当然そこでは抵抗も準強姦の状態というのもない,今までのケースですと,ないことだと思います。
  実際にこの人はずっとそれが続いていて,18歳になったときに,ようやく自分から言うことができて,それで虐待者と離れることができましたけれども,結局,刑法の罪には問えていないのですね。いろいろそういう努力もなされていますが,結局問えないままに終わりました。本人への性的虐待の影響というのは,本当にひどいです。治療しないで放っておくと,一生この人は苦しむことになります。
  そういう意味では,繰り返して性的な被害に遭うということは,1回限りの被害よりも更に複雑な影響といいますか,個人の人生の幸福に対するすごく大きな影響を与える。そういうケースが一つではないことを考えますと,私は是非この罪は作ってもらいたいと考えております。
  それから,幾つか宮田委員がおっしゃっていましたが,加害者には教育が必要ではないか。確かに,こういう行為をする父親自身に,DVの被害や虐待の被害の経験があることはございます。でも,それを言ったら,犯罪を起こした人の多くがそうです。この罪だけがそういうわけではありません。かつ,そういう人だけがこの罪を起こしているわけでもありませんし,自身がトラウマを抱えていて犯罪をするという人と,それからそうではない人,様々な原因が犯罪にはあるわけですけれども,性的虐待だけ取り上げてそれを言うのは,おかしいのではないかと思います。
  私は刑法の専門ではないのですけれども,実際に取り上げるときに一つ一つの犯罪しか取り上げてもらえないことが,精神科医の立場からすると非常に理不尽だと思うことが多いのですね。ただ,法律はそうやってやるのであれば,一連の影響下,パワーの影響,その人を自由にさせる権力の下で行われた行為については一つ類型がないと,これはうまく罰していくとか,こういう罪を認識していくということができないのではないかと思います。
○森委員 まず,検察の実務の実際について申し上げますと,親や養親あるいはこれに準じる立場の者による性的虐待の事案というのはよくございます。そういう事案でよくあるのが,今,小西委員からも事例の紹介がありましたけれども,被害者が性的行為の意味を理解できない10歳前後の頃から性的行為を日常的に繰り返されていて,性的行為の意味を理解できる年齢になった後も同様の行為が繰り返されているという事案です。
  このような場合ですと,日常生活の中で繰り返し性的行為が行われて,それが常態化してしまっておりますので,明確な暴行や脅迫もなく,抗拒不能とも言えないような状況で性交等が繰り返されておりまして,そのため,強姦罪とか準強姦罪で起訴することが非常に困難であるということになってしまいます。そのため,先ほど事務当局からも資料21の説明がありましたけれども,現実問題として,そういった事案については児童福祉法違反で起訴していることも多いというのが実情です。
  ですけれども,このような事案は,性犯罪として,やはり強姦罪や準強姦罪と同等の悪質性あるいは当罰性があると考えられますので,私は要綱(骨子)第三のような罰則を設ける必要性はあると考えております。
○角田委員 私は,要綱(骨子)第三については,監護者に限定するのは狭いと思っておりますので,この点はちょっと置きまして,今の議論に加わりたいと思うのですけれども,小西委員がおっしゃったように非常にたくさんある事例なのですね。
  私の親しい知人が,やはり10代のときそういう被害を受けていて,彼女はもう40歳を過ぎているのですけれども,最近カミングアウトして,公にインタビューに答えたりなんかしております。その人は10代のときの被害を,40歳を過ぎて今もなお苦しんでいるということなのです。
  この犯罪はとても深刻な被害を子供に生じさせる,それは日常生活の中で起きるので,1回限りの強姦ではなくて,繰り返し行われて,それが言わば日常になってしまうわけです。自分が被害を受けているという認識ももちろん小さいからないし,大きくなってもそれが生活そのものに取り込まれているということがある。ですから,刑法の性犯罪として,やはりきちんと位置付ける必要があります。被害の甚大さからいって他の性暴力被害と変わりがありません。
  先ほど児童福祉法違反でも賄えるのではないかとの御意見がありましたが,今は,刑法の適用がないので児童福祉法で対応していると思うのですけれども,ただ,児童福祉法の適用と刑法の強姦罪が適用されるのとの大きな違いは,被害者参加の問題があるのではないかと思うのです。刑法第316条の33の第1項,被害者参加の事案に,児童福祉法だとならないわけなので,そこで,被害者として保護されるべきことが行われていないということになってきます。
  例えば,被害者弁護士を国選で使えるということもあるわけです。そういう点なんかも,児童福祉法だと保護が薄いという点があるので,やはり私は,刑法の中にきちんと位置付ける,そのことによって,これは深刻な性暴力犯罪なのだということを社会的にも明確にする必要があると思います。
  何か先ほど宮田委員の方から,加害行為が文化になっているというような感じのことを言われたのですけれども,どういう意味か私よく分からないのですが,そのこと自体がやはり,もし許容するものがあるとしたら,それはおかしいので,きちんと刑法犯として格上げするというと変なのですけれども,位置付けるということが非常に重要であり,もしそういうことが文化というふうに考えている人がいるとすれば,それを正すためにも明確にしておく必要があると考えております。

○齋藤幹事 私も,この新設するということに賛成であります。
  例えば,中学校や高校に勤めている心理士は,実父や継父,保護者から性的虐待に遭っているお子さんに出会うことは少なくありません。そして,精神科クリニックなどでは,20代,30代になってやっとクリニックに来て,そのことについて打ち明けることができたという被害者の方もたくさんいらっしゃいます。
  準強姦の罪に問えるのではないかという話もありましたけれども,私たち,被害者支援の現場にいる者の多くは,準強姦の罪にも問えず苦しんでいる被害者の方々に出会っております。現在の制度からこぼれ落ちている方々は,現実に本当に多くいらっしゃいます。先ほど18歳未満が精神的に未熟であるからというお話がありましたが,私は,これは精神的に未熟であるからではなく,影響力が余りにも強くて判断することが困難であるという関係性が問題だと思っております。
  そう考えますと,本当に居住を握られているとか,精神的に逆らうことが困難であるとか,家族の関係性を考え判断することが難しくなるですとか,そうした方々というのがたくさんいらっしゃいますので,影響力を利用した行為,監護者であるとか何か強い影響力を持つ者からのわいせつな行為というものが犯罪なのだと明記されることに,私は賛成をいたします。
○田中幹事 1点だけ補足なのですけれども,先ほど,実務の関係につきましては森委員から御発言ありましたとおりなのですが,準強姦罪の立件に向かって,いろいろ捜査を主にやっていく際,実務上,過去に行われた虐待行為などをきちっと裏付けをしていくというのは大変難しくて,先ほどお話があったようなケースで,準強姦罪で立件できる場合というのはごくまれだと言えます。やはりそういった観点からも,今の要綱(骨子)の方向性というのはあるのかなと感じておりますので,補足させていただきました。
○小西委員 ちょっと補足でお伝えしておこうと思います。
  PTSDの治療という観点から考えたときに,成人になってあるいは1回限りの強姦被害という方と虐待の被害の方と,どちらも重い。そのトラウマ体験をして,そのトラウマ体験の反応としては,性暴力の被害というのは非常にPTSDになりやすいということ,これはもう定説というか,世界中で実証されていることなのですけれども,その中で,その虐待ケースと,それから1回限りの強姦のケースの治療をしておりまして,自分のところの何十ケースかを見て,それぞれ何十ケースかあるのですけれども,そういうものをはかってみても,性的虐待のケースの方がPTSDも重傷であり,更に治療も非常に困難です。
  なぜ困難かというと,やはり長年にわたるその影響下での性交ということが本人の自責感を高め,自己評価を低くし,先ほど確か子供の供述というお話が宮田委員のお話の中にあったと思いますけれども,こうやってある意味では非常に痛め付けられてしまった子供は,自分が被害を受けたということさえ認識することができません。周りの者は大変なことがあったと,それからひどい目に遭ったと思っているのですけれども,本人だけは,私はお父さんの意思に沿えない悪い子だというところで,例えば18歳の高校生であっても,あるいはもっと年齢が高い人であっても,まずそこから出てきてもらうということに非常に大きな治療のエネルギーを使います。
  そういう点から言うと,この形で法律がないと,司法で捜査する段階というのは,子供が余りにもひどく傷付いていて,うまくそういうことが言えない段階であることもとても多いのです。大人でもそうですね。そうだとすると,こういう規定が是非必要だと私は思います。
  それを付け加えさせていただきました。
○小木曽委員 先ほど立証のお話がありましたので,その点についてですが,これについては,この後の議論にも関わる,影響力を利用したという部分をどのように解するかということだろうと思いますが,いずれにしても,影響力を利用したという点については,検察官に立証責任があることは変わらないと考えますと,骨子が挙証責任の転換につながるということにはならないだろうと思います。
○山口部会長 ほかはいかがでしょうか。
  必要性の点については,大体御意見はおっしゃっていただいたということでよろしゅうございましょうか。
  ありがとうございました。
  要綱(骨子)第三の罪につきましては,準強姦罪等で賄えるので設ける必要はないという御意見が述べられましたけれども,多数の方は新たな類型の罪を設ける必要があるという御意見でございました。
  次に進めさせていただきます。
  次に,要綱(骨子)第三のような一定の影響力を利用したわいせつ行為又は性交等の罪を設けるとした場合の構成要件の在り方について,審議したいと思います。
  まず,客体としては18歳未満の者を対象とし,主体については18歳未満の者を監護する者とするというのが要綱(骨子)の内容でございますが,この点につきまして御意見を伺いたいと思います。
○角田委員 私は,これでは,実態に即して考えたときに狭すぎると考えております。
  一番狭いところが親子関係をモデルにした監護ケースだと思うのですけれども,実際のケースを見ていると,頂いている資料の中にもあるのですけれども,教師が加害者というケースが非常に多いと思うのですね。私も現実にそういう事案を何件も扱ったことがあります。先ほどの狭い要件で精神的・経済的依存関係というところを採ると監護者になってしまうのですけれども,実際の被害に着目すると,もう少し教育関係等に広げるべきではないかと考えております。
  そうすると,構成要件の明確化の話をどうするのかということが出てくるわけなのですが,私は別にドイツ法に詳しいわけでも何でもないのですけれども,頂いた資料11-6ですね,ドイツ性犯罪関連条文訳というのを見ていますと,第174条のところで,保護を委ねられている者に対する性的虐待という条文があって,「教育,職業教育,若しくは生活上の世話が行為者に委ねられている16歳未満の者に対して」というふうに書かれておりますので,例えば,これなんかも参考になるのではないかと思います。必ずしも監護関係だけではなくて,今申し上げた教師との関係というのが入っておりますし,ドイツ法のことは井田委員がお詳しいのだと思うのですけれども,ただ,これも条文になっておりますので,これで構成要件としては機能しているのではないかと思うのです。
  ということで,もうちょっと実態に合わせたところに,監護者が核になると思うのですけれども,広げるべきだと考えております。では,どういうふうに書くのか,それは次のテーマにしていただきたいと思います。
○木村委員 今の角田委員の意見に,私はかなり近いと思うのですけれども,やはり事実上の親子関係に限るということは,確かに親子関係はひどい事案が多いのかもしれませんけれども,どうしてそこだけに限るのかという合理的説明がなくてはいけないと思います。
  この点は,特に教師とかスポーツ指導者,それをなぜ外してしまっていいのかという議論が必要なのかなと思うのですけれども,先ほど中村幹事の方からは,有効な同意がないと実質的に認められる場合というのが,類型的に認められるのが親子関係ではないかというお話があったのですけれども,これまで検討会でも議論してきましたけれども,いわゆる性犯罪が性的自由に対する罪であって,同意が重要だというような議論というのは,保護法益としてもう余り成り立たないといいますか,むしろ人間の尊厳に対する罪だというふうに考えてくると,同意ができないほど徹底的に抗拒不能にならなければいけないみたいな議論につながる議論は妥当ではないように思います。
  すみません,ちょっとごちゃごちゃしましたけれども,準強姦が余りにも狭すぎるのですよね。準強姦が余りにも狭くて,最近の例で言えば,鹿児島のゴルフ場の指導者の例がありましたけれども,あれも無罪になってしまって,しかも検察審査会経由の起訴だったと思うのですけれども,なかなか準強姦が有罪にならないので,警察も検察もいろいろ非常に御苦労されていると思うのですけれども,躊躇してしまう面があるのかなという気はするのですね。
  なので,もし改正を親子に限るというのであれば,準強姦をもうちょっと柔軟に考える必要がある。検察も是非躊躇しないで準強姦で起訴していただけるということを,ここでお約束いただけると非常に有り難いのですけれども,それがない限りは,やはり親子で限ってしまって本当にいいのかというのは,やや疑問があります。
○小西委員 基本的に,私も親子だけでは狭いと思っているものです。そういうケースはたくさんありますけれども,このケースも大変問題だと思っています。
  例えば,先ほど要件として,同居,居住,人格形成,影響とおっしゃっていましたけれども,長時間コーチの下にいて,そこで非常に厳しい指導を受けながら,数年を過ごしている子供の例です。だからこそ,被害を受けそうになったときにも,一も二もなく従ってしまうのだと思います。
  このケースだけではなく,例えば,中学校の先生が子供に被害を繰り返し与えていてその卒業のときになって発覚したケースも経験しました。大体こういうことで被害に遭っていく子供というのは,親にも話ができないような状況にある子が多いわけです。要するに,家の中では虐待されているとか,あるいは家の中でもほとんど顧みられていなくて,友達ともうまくいっていない,寂しいというときに,担任の先生あるいは教師が優しくしてくれたり,これは例外なのだよというふうに言ったりすると,本当にそれでそう信じてしまうわけです。その被害者も,恋愛関係だと思っていました。だけど,そうではないということが分かってくるのに,やはり何年か要します。
  中学生ぐらいは,皆さん思い出していただいてもそうだと思いますが,家よりも学校の方で生活している時間が長い人がほとんどです。しかも,教育は義務教育で,教師との関係というのは,子供が選びとれるものではないわけですね。そういう中で起こっていることというのが,どうして外されてしまうのだろうと。
  実際に,確かにいろいろなケースがあります。例えば習い事の先生とか塾の先生とか,ありとあらゆる子供と大人が1対1になるような場所で被害が起きていて,どのケースも知っています。確かにそういうものは一つ一つの関係性というのが難しい,そういうことは分かります。せめて学校の教師,義務教育の教師というのは,関係性としてはかなりはっきりしているのではないかなと,私も思っています。
○今井委員 ここの主体及び客体を絞るということは大変難しいと思いますけれども,まず,木村委員がこの性犯罪全体につきまして,人間の尊厳に対する罪という観点をより正面から捉えるべきだとおっしゃったことは,とても大事だと思います。しかし,そういった表現を用いますと,全ての犯罪はそれになってくるわけでありまして,例えば,自分が愛着を持っているものを盗られたという被害額としては軽微なものに対する窃盗罪でも,人の捉え方によっては生活基盤,あるいは自分が生きていく上でのイメージ,あるいはガイドライン的なものがなくなったという意味で大きなトラウマが生じる場合もありますので,全ての犯罪にわたるような概念を持ち出すのは,新しい構成要件を考えていく上では,必ずしも適切ではないように思います。
  その上で,この要綱(骨子)第三の御説明でありましたように,いずれも現行法の強制わいせつ罪あるいは改正が検討されております強姦等の罪と同列に扱われるべきものを絞り込んで,処罰範囲を明確にするために今御提案されていると思いますけれども,私は,基本的にはこういう方向でまずは検討すべきだと思います。
  先ほど齋藤幹事から,精神的未熟というよりも,生活の基盤が全て加害者側に依存してしまっているような場合には,正常な判断が困難になるというお話がありました。そのような御指摘,おっしゃるとおりだと思いますけれども,どういった場合にそういう依存性ができてしまうかといいますと,中村幹事からも御説明ありましたけれども,精神的・経済的に生活が全面的にその加害者に依存してしまっているような状況ということが,一つ明確な類型としてくくり出せるかと思います。
  こういう観点を出発点とした上で,どこまで広げられるかというのは御議論があってもいいと思うのですけれども,今教師との関係が話題になっており,義務教育の先生については確かに難しい問題だと思いますけれども,他のスポーツコーチでありますとか習い事の先生というものは,自分の親子,実親子,養親子との関係と比べると,全くその方に全ての生活が掛かっているわけではないでしょうし,先生方も転校,転任等で交代の可能性があるわけでしょうが,親子関係はそうではないということを考えますと,まずは,この要綱(骨子)の範囲が適切かどうかに絞って検討するのがよいのではないかと思っております。
○北川委員 今,今井委員がおっしゃったこととほぼ同旨になるかもしれませんけれども,確かに教育現場における先生と子供の関係というのは,非常に密接な場合もある一方,必ずしもそうではないという場合が多いのと,やはり先生と子供の関係の場合,生活の依存ということに関しては,通常の義務教育の場合は,お家に帰るというか ,自宅に帰れば親子関係という,他で生活基盤があるので,そこで大きく異なる部分があるのではないかと思います。
  今井委員がおっしゃったように,まずは同居関係があって,そして,その関係から養育関係があって,依存性が非常に認められる関係から,精神的又は経済的にという形で拡大していくと,どんどんこの構成要件が広がってしまう。そうなってくると,強姦罪,準強姦罪に匹敵する暴行・脅迫要件に代えて,同等の同列のものを新たな類型として,立証上難しいものを補足的に設けるという趣旨からは外れてしまう。その趣旨から外れてしまっていいのかという問題が,やはり生じてくると思います。
○宮田委員 主体及び客体の点で,幾つか指摘させていただければと思います。
  今井委員から,主体の監護する者ということであれば外延が明確だというお考えをお示しいただいたと思うのですけれども,本当にその外延は明確なのか疑問を持っております。
  監護の概念は,同居を始めとした幾つかの概念の中の複合体であるという御趣旨の御説明があったかと思います。そうであるとすれば,内容は一義的に決まるということではないことになります。先ほどの御説明であれば,監護を放棄している親は,この規定の中に入ってこないことになるのだろうと思います。
  例えば,母親が男性の愛人であり,たまにその男性が通ってくる場合この男性が経済的には支配関係にあるとしても,子供と同居もしていないし,特に指導も受けているわけではなく,影響力も果たしていない状態であれば,その男性と関係を持たされたというような場合には,「監護する者」に当たるのか。あるいは,同居している母親の恋人なのだけれども,母親の経済に全く依存している,いわゆる若いツバメと言われる類いの男性は,「監護する者」ではないということになるのでしょうか。また,そういう若いツバメがその後経済力を得る状態になったとすると,今度は監護する者に変化することになるのでしょうか。
  母親が男性と再婚します。再婚相手を子供には紹介していなかったとすれば,同居1日目で影響力があると言えるのでしょうか。ないとすれば,何日たてば影響力があると言えるのだろう。
  同じ関係にある人が,どういうときには影響力を行使しているといえるのか判断していくときに,一義的にこれが本当に明確になるのだろうか。同じ立場にある人が,あるときには処罰され,あるときには処罰されない,少なくともこれは不公平ではないかということは考えるわけです。
  今度は客体の問題です。客体の問題と主体の問題が入れ子になってしまっている部分もあります。
  客体について,13歳未満の子供については,性交同意年齢の規定がありますから,これは同意があろうがなかろうが強姦,準強姦罪に問えます。13歳以上で18歳未満の被監護者について考えてみます。
  学齢期の子ども,6歳から12歳のアンケート調査ですけれども,性的な問題行動をとる子供というのは,男子だけではなくて女子も少なくなく,4割近い女子が性的な問題行動をとると言われています。その中には,進んで性的な関係に入るという形での行動もあり得るわけです。アイデンティティの未確立な子供,特に14歳から18歳までの女子が進んで性的な関係に入るということは少なくない,居場所を作るためにそういう関係に積極的に入っていくこともあり得ます。つまり,積極的にそういう子供の行為があったときに,この「監護する者」がその場で性的に反応してしまって関係に及んでしまった,こういう場合には,この規定には入らないと考えてもいいのでしょうか。それは,真の同意ではないということになるのでしょうか。
  もう一つ,先ほど述べた婚姻適状です。女性の婚姻適状は16歳。性的にのみか,人格として成熟していると考えられるから,子供を産み育てて家庭を作るということが認められる,結婚に適した年齢だと考えられているわけです。
  16歳,17歳で結婚して,経済力があってうんと年が離れた男性と生活しているのは合法です。一方で,例えば16歳,17歳の女の子が家出をした。長年別居していた実父のもとに転がり込んだ。夫婦ではないです。夫婦ではないけれども,そこで時間がたって,お父さんに経済的に養ってもらいながら生活している中で,例えば,そういうところで性的な関係が生じてしまった。こういうときには,今の要綱(骨子)であれば当然この罰条が適用になるのでしょうけれども,16歳,17歳の女性の同意,性に対する考える能力ということを考えたときに,婚姻まですることを認めているのに,一方で犯罪だとされてしまうというところに,私もうまく説明できないのですけれども,大きな違和感を感じるところでございます。
○山口部会長 今の御発言の最初の部分で,監護の概念がはっきりしないのではないかという御指摘がございましたので,事務当局としてどのように考えているのか御説明をお願いします。
○中村幹事 この要綱(骨子)第三の罪の「現に監護する者であることによる影響力」について,今明確ではないのではないかという御質問がありましたので,私どもの考え方を御説明申し上げたいと思います。
  この「現に監護する者」というのは,18歳未満の者を現に監督し保護している者でありまして,法律上の監護権に基づくものであることは要せず,事実上,現に監督し保護していれば足りると考えております。
  そして,この18歳未満の者を現に監護する者に当たるか否かにつきましては,先ほど宮田委員から幾つか事例をお示しいただきましたけれども,個別具体的な事案における具体的な事実関係によって判断されるものであると考えております。
  民法上,監護権の内容といたしまして,居所指定権,懲戒権,職業許可権,第三者に対する妨害排除請求権,子の引渡請求権,それから,身分行為の代理権があると一般に解されておりますけれども,民法上の監護が,そもそも親子関係を基本とする概念でありますことから,要綱(骨子)第三の監護する者と言えるためには,親子関係と同視し得る程度に居住場所,生活費用,人格形成等の生活全般にわたって依存・非依存の関係ないし保護・非保護の関係が認められ,かつ,その関係に継続性が認められるということが必要であると考えております。
  そして,「現に監護する者」であるか否かの判断要素といたしましては,同居の有無だとか居住場所に関する指定などの状況,未成年者に対する指導状況,身の回りの世話等の生活状況,生活費の支出などの経済的状況,未成年者に関する諸手続を行う状況などが考えられます。
  したがいまして,この「現に監護する者」に該当する否かにつきましては,これらの要素に関する具体的事実を立証していくことになると考えておりますけれども,先ほど子供との関係が経済面だけの場合どうかということについては,正に今申し上げたとおり,「現に監護する者」であると言えるか否かというのは個別具体的な事案における具体的な事実関係によって判断されるものであると考えておりますけれども,仮の話としまして,経済的な支援以外は全くしていない,その他の関係が全く認めらないということなのであれば,通常は生活全般にわたって依存・被依存関係ないし保護・被保護の関係があるとは認められませんので,「現に監護する者」とは言えないものと思われます。
  また,一時的な場合にすぎない場合,例えば,同居1日目であったらどうかというような御指摘などがございましたけれども,それも個別の事案における具体的な事実関係によって判断されるものと考えられますけれども,その生活を共にしている期間というのも当然考慮要素に入ってくるかと思いますし,同時に,そのような生活を継続する可能性だとか意思といったものも一つの判断要素となり得るものと考えております。
  それから,もう1点が,その被害者側が受け入れるという場合があるかどうかという点でございますけれども,この罪におきましては,18歳未満の者が精神的に未熟であります上に,監護者に精神的・経済的に依存している関係性にありますので,このような関係性を利用して行われる性的行為については,その被害者の性的自己決定権を侵害する,そのような考え方から設けられた罪でございます。すなわち,監護者であることによる影響力がある状況で性交等が行われれば,自由な意思決定による同意というのは基本的には問題にならないのではないかと思われるのですけれども,そのような場合であっても,特段の事情があって,自由な意思決定だと言えるような場合がないわけではないのではないかとも思われるところですので,この点については,委員,幹事の皆様方の御意見を賜れればと思っております。
○井田委員 私は,今日の冒頭の中村幹事の御説明を伺って非常に説得されましたので,その点について説明させていただきたいと思います。
  その前に,角田委員が御指摘になったドイツの規定ですが,法定刑は軽いのです。上限5年の自由刑にすぎません。通常の強姦罪の法定刑の上限はドイツでは15年ですから,かなり軽い類型として規定されているのです。これに対し,今の私どもの課題はそうではなくて,その重さにおいて強姦等に匹敵するような行為を類型化した規定を作るというところにあります。その意味で,かなり事情が異なるのではないかということです。
  監護者に限定するという点につきまして,私は,中村幹事の御説明を伺って納得いたしました。といいますのは,少し遡った議論になりますが,立法に当たっては大きな二つのベクトルがあり,その調和,調整を図るという側面があるからです。その一つは,一般化,類型化しなければいけないという面と,いま一つは具体的事情を考慮しなければいけないという面です。この両方のベクトル,それらをうまく調和させることが必要なのではないか。
  ちょっと外れるかどうか,例示のためにお話ししたいのは,放火罪を処罰するときに,その取り分け重い類型として,個別の事情の下で人の生命に具体的危険を生じさせる行為が考えられます。立法に当たり,そういう具体的に人の生命に危険が及ぶような場合を条文化し,その規定の適用においては,現にその状況で具体的に危険であったことの認定を要求する,そういう条文を作る。もちろんそれは可能なことです。他方で,現行刑法のように,「現住建造物」という形で類型化し,一般的にはそこに人がいることが多く,人が住んでいる場所ですから,そこに火を付けるのは一般的には危険だというのでこれを重く処罰する,立法論としてこういう行き 方も当然可能であるわけです。
  そういう二つのベクトルという視点で,現行の性犯罪の規定を見てみると,13歳以上については同意能力を原則として認めた上で,強姦とそして準強姦と,いずれも具体的な事情の下で,具体的に被害者の同意が否定される場合を予定した規定になっています。具体的な状況下で同意が否定される場合が,そこで問題とされているのです。これに対し,この要綱(骨子)第三が予定しているのは,そういう具体的に同意が否定される場合を捕捉することが問題になっているのではなくて,類型的に同意があることが想定されないような事例を捕まえる条文を作ることが問題となっている。このように私は理解しました。
  そうであるとすれば,具体的に同意の有無が問題となるのではなく,およそ類型的に,そういう状況があれば同意がそもそも考えられない場合を規定にするとすれば,やはりそれはかなり限定されたものになってこなければならないし,それはやむを得ない,むしろそれで適切だということになるのではないかと思うのです。
  なぜ,そういう立法が適切か,方向性として基本的に妥当かと言いますと,一つは,行動のルールとして,禁止規範として非常に明確なものとなる。具体的な事情の下でこうだったらいい,こうだったら悪いというのではなくて,駄目な場合を明確な形で示せるということです。具体的な事情を考慮すればするほどルールは曖昧になり,こういう場合だからいいではないかという弁解を許してしまうことになってしまう。
  二つ目の理由は,同意の有無に関係する具体的事情を考慮すればするほど立証が難しくなってしまう。これは実務家の方はそれ ぞれにお分かりのことであろうと思います。なるべく同意に関する具体的な事情に依拠しないような,同意の問題について具体的な事情の認定に左右されないような規定にするというのは,それは,立証の負担を軽減するものであろうし,同意に関する錯誤を理由にして加害者が刑事責任を免れることも妨げることができる,ということを意味します。類型的に同意が想定できない場合を捕捉するというのは同意の有無に関する具体的な考慮をなるべく排除する規定にするということであり,被害者の保護に資するのではないかと考えられます。
  これに対し,監護者以外にも適用範囲を広げていくとなると,また具体的な事情を考慮しなければならないという話になってきますので,規定が曖昧化し,また,それによっていわば「抜け道」ができてしまうということにもなりかねないのです。
  最後に木村委員の御意見について一言申し上げます。同意に捉われるなとおっしゃったのですけれども,これは,やはり現行法の建前がそうなっている以上は,それを崩すというのは,かなり根本的な考え方の転換にならざるを得ず,ちょっと難しいのではないかと思うのです。そればかりでなく,今申し上げたように,要綱(骨子)第三は,むしろ同意に関する具体的な事情を捨象する,類型化する規定なのであって,木村委員のお考えの趣旨にむしろ合致するのではないかと私は思いました。
○佐伯委員 私も井田委員と基本的に同じ意見でございます。
  宮田委員から,16歳で婚姻が認められているのに処罰されることには違和感を感じられるという御発言がございましたけれども,現在でも18歳未満の者に対して支配的な関係を利用して性的行為を行えば児童福祉法で処罰されているわけで,要綱(骨子)第三というのは新たに処罰規定を設けて,これまで処罰されていない行為を処罰するわけではありません。
  日本の法律は,刑法は性的な自由を保護し,青少年の保護は児童福祉法等の特別法で行うというような役割分担が行われているわけで,今回,要綱(骨子)第三で設けようとしているのは,強姦罪や準強姦罪等と同じように性的自由を侵害する行為として刑法に規定しようというものであって,今まで処罰されていない行為を新たに処罰しようとするものではないということは,一つ重要な点かと思います。
  また,強姦罪等の罪と同じような性的自由の侵害があると類型的に認められる行為に限って規定するということであれば,先ほどの井田委員の御指摘のとおり,要綱(骨子)のような形で限定して規定することが望ましいのではないかと考えております。
  小西委員がおっしゃられましたように,義務教育というのは,確かにある意味支配関係が強いという点で,監護関係がある場合と,それから,普通の教師の場合,あるいはスポーツのコーチ等の場合との中間にあるものだと思いますので,線引きの問題としてそこまで入れるということも考えられなくはないと思いますけれども,やはり生活の基盤が全面的に依存している監護関係にある者と比べれば,依存関係が弱いということで,監護関係がある場合に限って今回立法することは適当ではないかと思っております。
○武内幹事 角田委員に賛成する立場から発言をします。
  やはり本罪の主体に関しては,もう少し幅広に考える余地があるのでないかと考えます。
  資料20ですけれども,昭和36年の改正刑法準備草案あるいは昭和49年の改正刑法草案におきましても,「業務,雇用,身分,その他の関係に基づき自己が保護し又は監督する女子に対し」という切出しがなされております。もちろん,それぞれ偽計又は威力を用いてという構成要件になっておりますから,必ずしも要綱(骨子)第三の罪とパラレルに考えられるものではないと理解してはおります。しかし,このような類型の下では,その承諾が真意に出たとは言い難い場合が考えられる,あるいは被害者の自由な意思決定に不当な影響を与えることが多いという説明もされているところです。ですから,こういった類型に関しても,処罰範囲に取り込んでいく必要性は否定できないのではないかと思います。
  仮に,第三のこの罪に含めるというのが困難であるとした場合,すなわち,強姦や準強姦と同程度の悪質性が類型的に認められないものだとしても,例えば,法定刑を下げる形で別途,処罰規定を考えるということは十分に考えられるでしょう。また,先ほど今井委員や北川委員からも,まずは親子類型で,今回は親子類型でというようなお話も出たところです。そうであれば,将来的には本罪の主体に関して処罰範囲を広げていくということも考えていいのではないかと考えております。
○塩見委員 私も,井田委員,それから佐伯委員とほぼ同じ考えを持っております。
  屋上に屋を重ねるようなことを申し上げますが,主体の範囲をどうするかという形で議論されているわけですけれども,条文上は,その「影響力を利用し」という手段も書かれているわけで,主体要件を満たすだけではなくて,影響力を利用したというふうに言えなければならない。この要件をどう考えるかということで,影響力利用をかなり絞り込めば主体を広げることができるし,主体を絞り込むのであれば,影響力利用は余り大きな意味を持ってこないという相関的な関係になっていると思われます。
  先ほどの事務当局からの御説明では,1回限り,最小のものでも「影響力を利用し」に当たる,例として,先ほどから挙げられているものは,繰り返されてきた関係と,長年にわたる関係かもしれませんけれども,必ずしもそれに限るわけではないということです。「影響力を利用し」を比較的絞り込まないという方向で解釈をするのであれば,主体の範囲はそれほど広げることはできないというか,一般的にその主体・客体関係が影響力を利用するものと言えるようなものという形で設定する必要が出てくるのではないかと思います。
  そういうことで,私も要綱(骨子)に賛成を致します。
○齋藤幹事 私は,この「現に監護する者」ということに関しては,少し狭いのではないかと考えております。
  他の委員のお話,幹事のお話を聞きまして,強姦に準ずるような,としたときに,この要綱(骨子)第三の罪の対象を広げることが難しいという事情も理解できたのですけれども,例えば,祖父ですとかおじですとか兄弟ですとか,家族関係の影響力を行使した場合にはどうなるのだろうということも考えております。そういったものも,せめて含めるべきではないかと考えております。
  祖父から孫への性的虐待であるとか親族間での性的虐待というのは,現場におりますとかなり多いという印象を受けておりまして,それらを含める必要があると考えております。
  また,ここから先は,仮に,本当にこの第三の罪に含めることが難しいといたしましても,先ほど小西委員であるとか角田委員もおっしゃっていたような,その人の将来に対する影響力が非常に強い関係性においては,意思決定が非常に困難であり,また不同意を示すということも大変難しいということ,そして,そういった事例が準強姦の罪にもなかなか組み入れられずに,起訴されずに置かれている状況があるということは,今後考えていっていただきたいと思っております。
○池田幹事 先ほどから,主体の限定について御議論がありますけれども,「現に監護する」という概念が曖昧なものではないかという御指摘については,既に中村幹事から御説明があったように,解釈の余地ある規定ではありますけれども,考慮すべき事情というのは,これまでの議論の積重ねの中で明らかであって,規定の明確性に欠けるところはないのではないかと思います。
  また,他方で,この範囲が,絞り込みすぎだというお話もありまして,それはそのような側面がないとは思わないですけれども,規定が明確であるということは必ずしも形式的に何かを切り捨てているということではなくて,実質的に,実態に応じて,主体の設定を個別具体的に判断する余地というものを含むものである。そのように考えますと,この表現については,実態に応じた処罰を図るということを可能にする用語法であると思われまして,そもそもの御提案の趣旨であります強姦に匹敵する行為を切り出すという観点を適切に表現できているものと思われます。以上のように考え,要綱(骨子)に賛成したいと思います。
○山口部会長 ありがとうございました。
  この範囲の問題につきましては,委員,幹事の方々から様々に御発言いただきまして,大体考慮されるべき論点は出されたのではないかというように思います。
  まだ検討しなければいけない問題もございますので,この辺りでひとまずまとめさせていただきますと,先ほども学校の先生,教師,特に義務教育の教師については入れる方がよいのではないか,あるいは祖父,おじについても入れる必要があるのではないか,スポーツのコーチについても入れるべきではないかという御意見がございましたけれども,要綱(骨子)のとおりでよいという御意見が多数であったというように整理させていただきたいと思います。
  ただ,その中で,仮に要綱(骨子)第三の主体を広げないとしても,例えば準強姦罪の適用に当たっては,その具体的な在り方,関係の在り方を考慮する必要があるのではないかというような御発言もなされていたところでございます。
  関連いたしまして,先ほども宮田委員の方から問題として出されたところでございますけれども,「監護する者であることによる影響力を利用して」という要件について,更に御意見をお伺いしたいと思います。
  この点については,既に第1回の会議の際に橋爪幹事が御発言されておられますので,何か御発言があればお願いします。
○橋爪幹事 御指名ですので,発言させていただきます。
  具体的な検討に先立ち,事務当局に一つ質問させていただきます。要綱(骨子)第三の罪につきましては,監護者が被監護者と性交すれば常に本罪を構成するわけではなくて,今,部会長から御指摘がございましたように,飽くまでも現に監護する者であることによる影響力を利用することが要件とされております。ということは,逆に申しますと,監護者との性交等であっても,その影響力を利用したとは言えない場合があるということが前提になっているように思われますが,具体的にどのような事例について,影響力の利用に該当しないと考えておられるかについて,質問したいと存じます。
○中村幹事 この要綱(骨子)第三の罪は,18歳未満の者に対し,当該18歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力を利用して,わいせつな行為ないしは性交等をした者について成立する罪でございますけれども,この罪も,強姦罪や準強姦罪などと同様に,性的自己決定権を侵害する罪であります。精神的に未熟な18歳未満の者については,生活全般にわたって自己を監督し保護している監護者に精神的・経済的に依存している関係があることに着目して,そのような関係性を利用して監護者が性交等をした場合には,18歳未満の者が性交等に応じたとしても,それは自由な意思決定に基づくものとは言えない,このような考え方から設けようとする罪でございます。
  そこで,この現に監護する者であることによる影響力を利用して性交等をしたということなのですけれども,このように生活全般にわたって保護,依存の関係があることを自己に有利に用いて性交等をすることをいうものと考えております。つまり,これに当たらない場合ということでございますけれども,例えばでありますが,行為者において,自らが犯人であることを相手に隠すため,例えば覆面をして犯行に及んだ場合のように,監護者であるということを相手に認識させなかった場合などが考えられるところでございます。
○山口部会長 ありがとうございました。
  それでは,この点につきまして,何か御発言があればお願いしたいと思いますが,いかがでございましょうか。
○宮田委員 先ほども少し述べたのですが,被監護者の方が積極的に関係を持つように監護者に対して迫った,そういう言動があった場合にも,やはり影響力の利用ということになるのかどうなのか疑問を持っております。
  あと,姦淫行為や性的な行為自体が未遂に終わったということ以外の未遂行為を考えた場合に,性的な意図をもって,第177条であれば暴行・脅迫行為をした,第178条であれば抗拒不能を作り出すような行為をしたところでも未遂が成立し得ます。被監護者に対して影響力を及ぼす,親が子を監護するような行為は,合法的であって社会が求めている行為ですが,この影響力を利用した行為での未遂行為というのは想起し得るのかどうか,この2点について,ちょっとお伺いできればと思います。
○中村幹事 まず,1点目でございますけれども,先ほど若干申し上げたところと重なるところはございますけれども,この罪におきましては,監護者であることによる影響力がある状況で性交等が行われれば,自由な意思決定による同意というのは基本的には問題にならないのではないかと思われるのですけれども,そのような場合であっても,特段の事情があって,自由な意思決定だと言えるような場合がないわけではないのではないかとも考えられるところでございますので,この点につきましては,委員,幹事の皆様方の御意見,御指摘を賜りたいと思っております。
  また,2点目の未遂でございますけれども,この未遂については,監護をする者であることによる影響力を利用して性交等を行うということについての具体的,現実的な危険を生じさせる行為があった時点で着手があり,その時点で未遂が成立すると考えております。
○小西委員 今の中村幹事の御説明について確認しておきたいのですが,一つ一つの行為を取り上げたときに,被害を受け続けている人が自分から誘ったり,あるいは,そのことが非常にうれしいことであるかのように,錯覚なのですけれども,そういうふうに認識していることは当然あります。
  そういうことは,ここに含まれないと,含まれないではないですね,この要綱(骨子)第三のものには,例えば,事前からの影響力の問題として考えることができるというふうに考えればいいのですねということを確認していただきたい。
○中村幹事 監護する者であることによる影響力を利用して性交等をするというのが,この罪の犯罪行為でございますので,要は,監護者であることによる影響力がある状況で性交等が行われれば,自由な意思決定による同意というのが基本的には問題にならないと思っております。ただ,そういった影響力下,影響力がある状況で性交等が行われていながら,何らか特段の事情があって自由な意思決定だと言えるような場合がないわけではないのではないかというところがございますので,この点について,是非御知見をいただければと思っております。
○小西委員 それは,例えば,先ほどの話でいうと,17歳の女の子がいて,1日だけ来た母の愛人という人がいたときにどうなのかとか,そういうお話ということですかね。
  もちろん,理屈上でそういうことを考えることは,それはできると思いますし,法律家はその理屈上の非常に少ない可能性を捉えて今議論されているのだというのは理解したいと思いますが,現実にそういうケースは非常に少ないし,そのために,あとの99%,何%か分かりませんけれども,そういうケースが救えない今のままになってしまうことについては,むしろそちらの害の方が非常に多いと思います。
  現在の刑法上では,たくさんの虐待の被害者がある1件だけを取り上げるために,本人が自由意思で性交したのだというところから逃れられずに何も手が打てないということがあるということを,やはり,もう一度お話ししたいと思います。
○角田委員 基本的には,小西委員と同じ意見なのですけれども,子供の振る舞いを見ていて,子供の方から誘っているように見えていること自体が影響力の行使下の行為であるということを,大人は知っておかなければいけないのではないかと思っております。
○山口部会長 今,御質問あるいは御発言がございましたが,この点につきましては,更にいろいろ詰めて検討を深めていかなければいけない,法律論だけでは駄目なのではないかというお話がございましたけれども,少なくとも法律論がしっかりしていなければ立法はできませんので,事務当局においては,その点について更に詰めて検討をお願いしたいと思います。
  進行の不手際で恐縮なのですけれども,この後,法定刑について御議論いただくのですが,その前に,法定刑以外の点について,何か問題とされたいことがあればお願いしたいと思います。よろしいでしょうか。
  それでしたら,法定刑の点について,この要綱(骨子)は強制わいせつ罪,強姦罪と同じ法定刑とするということとしておりまして,先ほども御発言がございましたように,主体,客体の範囲もそれと連動しているということでございましたが,この点につきまして,御意見があればお願いしたいと思います。
○佐伯委員 先ほど来の御意見の繰り返しになりますけれども,法定刑の問題というのは,新しい規定の保護法益をどういうふうに考えるかということと連動していると思います。
  井田委員から御紹介ありましたように,ドイツは青少年保護の規定も刑法の中に取り込んで,通常の性犯罪よりは軽く処罰しております。日本もそういう方向をとることはもちろん考えられなくはないわけですけれども,従来の日本の立法は,刑法と特別法とで役割分担をして,青少年保護は特別法でというのがこれまでの規定の仕方でしたので,それを維持するとすると,繰り返しになりますが,要綱(骨子)第三の主体はかなり限定して,かつ,強姦等と同じ法益侵害があるということですから,同じ法定刑ということになるかと思います。
○宮田委員 規定を置くとしても,強姦や準強姦罪と同等の処罰とするのでは重いのではないかと考えています。もちろん,虐待案件が非常に悪質であるということは,そのとおりかと思います。しかしながら,その具体的な事件を見ていると,事件の中では,過去の処罰されている案件などについても,やはり加害者側の事情で考えられるべき事情もある案件もあるように思われます。
  先ほど申しましたように,虐待する親の方の加害の原因が何にあるかというところについて,実親の場合には,かなり典型的に,被害の経験が隠されている事例だと思っております。そういう意味で,強姦と同等の処罰とするということには問題があるようにも思われます。
  また,新たな構成要件であるということであり,予想されている事案と全く異なった類型が出てくる可能性もあります。それが何であるかということについては,私の方もすぐに事例を考え付けないのですが,もうちょっと考えておかなければならない部分であり,最初から,強姦罪と同等の罰を最初から準備しておくということが妥当であるのかという問題もあるかと思います。
  虐待の事案というのは,理想的には親子の再統合に向かうべきものです。性犯罪の事例についてはなかなかそういうことにはならず,被害者も精神的に傷付いていて,親ともう一度会いたいと思わないという場合も確かに多いとは思うのですが,被害を受けたことに加えて,子供に親が重い犯罪者であるという社会からのスティグマを持たせることが本当に正しいのかどうかという気もします。あるいは,親の社会復 帰を促進し子供への援助を支援させるべき案件もあるように思われます。
  「僕の父は母を殺した」という本があります。母を父に殺されて,被害者であるのに加害者の子供として,彼が社会の中で差別され,非常に生きづらかった様が記載されている本です。性犯罪の被害者である子供が,重大犯罪の犯人の子供として社会から受ける偏見というのも十分考えられるかと思っております。
○橋爪幹事 私からは,要綱(骨子)に賛成する方向で意見を申し上げたいと思います。
  確かに,宮田委員御指摘のとおり,要綱(骨子)第三の罪というのは,暴行・脅迫を要件としておりませんし,心神喪失,抗拒不能に乗じた行為があるわけでもありません。そのような意味においては,意思の抑圧や強制の程度が比較的軽微なものも含まれているのかもしれません。
  しかしながら,やはり被害者が18歳未満であること,つまり類型的に自由な意思決定が困難である者が被害者とされていること,更に,何といいましても監護者,すなわち本来は被害者を保護すべき者が,その地位,権限を濫用して被害者の意思決定に介入し,性交等を行わせるという点に強い不法性を認めることは十分に可能ですので,強姦罪に匹敵する当罰性があり,強姦罪と同一の法定刑で処罰をするという理解は十分に正当化できると思います。
○角田委員 加害者側の,例えば父親自身に被虐待体験があるとか,いろいろな事情は,それはある事例はあると思うのですけれども,そういうことは個別の事例のときの量刑で考慮されれば済むことであって,ここで法定刑の下限をどうするかというところとは余り直接関係ないのではないかと,私は考えております。
○武内幹事 先ほど宮田委員から,被害者となる子供にとって,親が犯罪者となってしまうということの負担という御指摘がありました。けれども,本罪の類型は,正にそういった形で,すなわち「家族の中から犯罪者が出ていいのか」という形で影響力を利用して行われることが少なくない。それは,非常に卑劣な態様であって,やはり強姦罪に匹敵する程度の悪質性が認められるのではないかと思います。ですから,先ほど御指摘のあった点というのは,むしろ強姦と同程度の法定刑を科すべきという方向に機能するのではないかと思います。
○山口部会長 ほかにいかがでしょうか。法定刑については,大体よろしゅうございましょうか。
  法定刑につきましては,軽くすべきだという御意見もございましたけれども,要綱(骨子)のとおり,刑法第176条又は要綱(骨子)第一の罪と同様とすべきであるという御意見が多数であったように思います。
  もう一つだけお伺いしたいのですが,要綱(骨子)第三の罪の未遂罪を設けることについて,何か御意見がございましたらお願いしたいと思いますけれども,いかがでしょうか。
  宮田委員が御発言された問題はありますので,それは検討するということかと思うのですけれども,ほかによろしゅうございますか。
  それでは,その点については特に異論なかったということで理解をさせていただきます。
  開始してから大分たってしまいましたので,ここで,11時5分まで休憩とさせていただきたいと思います。

(休     憩)

○山口部会長 会議を再開いたします。
  ここからは,要綱(骨子)第七について,御議論をお願いします。
  要綱(骨子)第七につきましても,大きく三つの点に分けて議論を進めたいと思います。
  すなわち,まず一つ目ですが,要綱(骨子)第七の一の本文についてでございます。これは,第七の罪の基本類型となる部分ですので,そもそもこのような規定を設ける必要性が認められるか,そして,それを踏まえた規定の在り方について,御議論を頂きたいと思います。
  次に,二つ目といたしまして,要綱(骨子)第七の一のただし書と第七の二についてでございます。これは,要綱(骨子)第七の一の罪について,刑の減軽や免除を認める規定ですが,それぞれの要件などについて御議論を頂きたいと思います。
  三つ目は,要綱(骨子)第七の三についてでございます。死亡の結果が生じた場合について,このような規定を置くことについて,御議論を頂きたいと思います。
  このように3点に分けて進行させていただくということで,よろしゅうございましょうか。
(「異議なし」の声あり)
○山口部会長 ありがとうございます。
  それでは,まず,要綱(骨子)第七の一の本文について,特にこのような規定を設ける必要性があるかということを含めて,御意見を伺いたいと思います。いかがでございましょうか。
○橋爪幹事 要綱(骨子)に賛成する方向で意見を申し上げたいと存じます。
  現行法の強盗強姦罪は,本来であれば強盗罪,強姦罪の併合罪となるべきところを,強盗の機会に更に強姦行為に及ぶということが極めて悪質であることから,結合犯として刑を加重していると解されます。そして,このように考えますと,強盗罪,強姦罪という重大犯罪が同一の機会に行われたことが重要であり,両者の先後関係は本質的ではないと考えることができます。このような理解から,要綱(骨子)のとおり,強盗,強姦の先後関係を問わない形の規定を設けることに賛成したいと思います。
○塩見委員 今,橋爪委員から御指摘がありましたように,強盗の機会に強姦が行われた場合については,強盗強姦罪という加重規定があるのだから,刑法的な評価上それと大きな差がないと見られる強姦の機会に強盗が行われた場合についても,同様の加重規定を置くべきだという説明は確かに説得力があると思います。
  もっとも,強姦強盗罪を新たに作るわけですから,それとして問題はないのか,また強盗強姦罪とのパラレル論に立つとしましても,強盗強姦罪自体が加重規定として問題がないのかという点をやはり考えておく必要があると思います。
  強盗強姦罪は,強盗罪と強姦罪の併合罪とされた場合よりも重い,無期又は7年以上の有期懲役を規定するものでありますが,このような加重が肯定される根拠は必ずしも明らかではなく,強盗の機会に強姦が行われることが多いからといった理由付けが一般的と見られます。 強姦などにより生じた反抗抑圧状態を利用して強盗が行われるということが,統計的な問題なのかどうかよく分かりませんが,仮に統計的に見て有意なほど多いのだとしましても,それだけで併合罪による加重よりも更に加重するということの理由となるかは疑問ですし,ある犯罪を犯した機会に重ねて別の犯罪を行うというのは,確かに悪質性が高いですけれども,それは何も強姦罪と強盗罪に限られるわけではないと思います。通常は,適宜量刑において,併合罪加重された量刑の枠内で考慮される事情にとどまるものと考えられます。
  より細かく刑罰を加重する程度を見てみますと,要綱(骨子)第七の一では,有期懲役の下限が7年とされておりますが,傷害の結果が生じれば,新しいこの規定がなくても強姦致傷罪として下限が,要綱(骨子)第六の二が採用されたとすれば6年になるのでして,傷害の結果が発生しなかった場合でも7年,更に言うと,7年になると酌量減軽をしても執行猶予が付けられないわけで,これらの点には疑問を感じるところであります。 また,重い方につきましても,実際にはないとしましても,理念的には傷害の結果を発生させなくても無期懲役が科し得ることになることが必ずしも妥当とは思われません。
  更に,傷害結果が発生しなかった場合に,無期懲役が言い渡されることも実際上少ないとしますと,その場合に選択される有期懲役刑は,新しい規定では上限が20年となりますが,強姦罪と強盗罪の併合罪として加重しますと,有期懲役の上限は30年となり,怪我はさせなかった以外の点では極めて悪質という事案にどちらが柔軟に対応できるかという問題も残るように思われます。
  以上,申し上げましたような理由から,現在の強盗強姦罪を存置し,強姦の部分を今次の改正に合わせて性交等に拡張するのはやむを得ないとしましても,新たに強姦強盗罪に相応するような類型を新設するということについては,慎重であってよいのではないかと考える次第でございます。
○小木曽委員 今の塩見委員の御発言はごもっともな点が多々あるように伺いましたけれども,ただ,被害者,被害に遭われた方の感情といいますか,その人たちがどのように思うかということからしますと,どちらが先かということによって,刑の下限が変わっているということを納得するのは難しいと思います。
  それから,もう1点は,捜査・公判の過程で,これは検討会でも出たのですけれども,どちらが先であったかということについての被疑者・被告人の供述が変わるということがあるというお話があったことも,記憶にとどめておくべきであると思います。
○宮田委員 塩見委員の意見に賛成でございます。更に付加して,強姦強盗罪の新設に対して1点,疑問点を言わせていただければと思います。
  強盗強姦の場合,強盗行為は,被害者に対する反抗の抑圧を要件としております。一方において,強姦においては,第177条においても,相手の反抗を抑圧する行為までは要求していません。反抗を著しく困難にすれば足りるとされております。また,準強姦や準強制わいせつは,著しく抵抗の困難が生じたということを要件にはしておりますが,これは,性的な行為に対してのその反抗の困難ということでございます。
  強姦あるいは準強姦の実行行為の段階では,強盗と同程度に被害者の反抗の抑圧が生じていない案件もあるのではないかと思われます。単に強姦が既遂になった,そういう機会に行われた行為,物を盗っていく行為が強盗とされるというためには,更なる暴行・脅迫を要件としなければならない場合も相当あると思われます。私のこのような理解で間違っていないかどうかについて,事務当局にお尋ねしたいと思います。
  また,強盗強姦については,強盗の機会に強姦をすることが多いのだという立付けでの立法でございますけれども,反抗を抑圧するような程度の暴行・脅迫が先行している強盗行為が行われる,そして,更に強姦が行われるということなので,抗拒不能が言いやすい一方で,強姦の現場で物を盗る犯意が生じたき,被害者に気付かれずに物を盗った場合には,現在,窃盗で処断されているかと思います。この条文ができることで,強姦の犯人が,その機会に強盗を行ったとき,今は窃盗の類型になっているようなものまで解釈を緩めるようなことがあってはならないと思っておりますが,この点についてはいかがお考えか,事務当局のお考えをお聞かせいただければと存じます。
○中村幹事 事務当局から,今の御質問の点についてお答え申し上げます。
  第七の一の強盗強姦の罪の改正の点でございますけれども,要綱(骨子)第七の一のところに書いてございますとおり,前提として,ここに挙げている,それぞれ掲げられております強盗罪ないし強姦罪が成立するということが大前提でございます。
  したがいまして,もちろん個別具体的な事案によって,反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫になっているのか,ないしは著しく反抗が困難な程度の暴行・脅迫かといったところは認定していく必要がございますけれども,いずれにしても,強盗罪及び強姦罪が同一の機会において両方とも成立しているということが大前提であります。
  また,2点目でございますけれども,窃盗罪というのが今後この新しい第七の罪の強盗として位置付けられることになってしまうのではないのかという御質問でございますけれども,今申し上げましたとおり,強盗罪として成立しているということが必要でございますので,個別具体的な事案によりますけれども,窃盗に本当にとどまるのであれば,それは窃盗としてしか処断できないということになるかと考えております。
○小西委員 今の議論は私にはよく分かりませんが,その実態から余り離れたところで言われてもなというのが本当は率直な気持ちです。例えば,今の話って,ナイフを突き付けて財布の中身をとってから強姦するのか,その反対に起こったのかというようなお話だとしたら,被害者にとってはどっちも同じですね。
  例えば,どれくらい精神的な影響があるのかということは一言では言えませんけれども,PTSDの発生率,仮にそういうもので見るとすると,強姦が一番高いです。次,強盗という形でされているわけでないですけれども,身体的な暴行が加えられているときは,これは男女差が非常にありますが,どちらにしても強姦よりは発生率は低いですね。強姦の方は男性の方がちょっと高いというのが今出ているデータです,PTSDの発生率については。だけど,被害者一人一人に聞いて,今の二つのことは違うというのをどうやって説明するのというのは,本当にナンセンスな感じに私には聞こえてしまう。ごめんなさい,ここでそういうこと言ってはいけないのですけれども,どうしてもそういうふうに聞こえますということをお伝えしたいと思います。
○宮田委員 典型的な強姦の例でいえば,小西委員のおっしゃるとおりだとは思いますけれども,現在かなり幅広に解釈されている準強姦についても,この条文にのってくるということを考えますと,やはりこの強盗の要件の発生の部分についてはかなり慎重に対処しなければならないのではないかとは思っているわけです。やはり小西委員がおっしゃった事例とは異なるものもあるということで御理解いただければと思うのですが,いかがでしょうか。
○小西委員 私としては,要するに,この二つの罪が別の量刑であるということはおかしいと思うという意見だけです。法律的な議論については,ちょっと理解ができません。
○今井委員 皆様の御意見の繰り返しになるかと思いますけれども,中村幹事が御説明されましたように,ここで想定しておりますのは,強盗,あるいは今回改正にかかっております強姦が成立しているということが前提です。ですから,その際に,実際において問題となるのは,小木曽委員あるいは小西委員がおっしゃいましたように被害者の被害が二つ生じていますけれども,その先後関係がその後の精神的な状況等によって明確にできないという大変悲しい事態があるということも踏まえて適切に対処するためのものでありますから,宮田委員の御懸念のような問題はないのではないかと思っております。
○山口部会長 ほかに御発言されていない方,いかがでしょうか。
  特に御発言がない方は,要綱(骨子)に賛成であると理解してよろしいでしょうか。
  更に,この書き方等について何かありましたら,お願いしたいと思います。
○今井委員 先ほど続けて御質問すればよかったと思いますけれども,本日の冒頭におきましても,中村幹事の方から,この要綱(骨子)第七の強盗強姦のところの御説明ですけれども,強盗強姦罪においては,強盗の機会という現在の解釈を維持するという御説明,その前提に立って条文化を検討されているという御説明があったと思います。
  そうしますと,現在の第241条,強盗強姦罪が,強盗が女子を姦淫したというふうな一定の者が一定の行為をしたというふうな書き方をしておりますので,それとの関連でどのような条文の在り方があるのか,少し教えていただければと思います。
○中村幹事 先ほど冒頭に御説明申し上げたとおり,この要綱(骨子)第七の一の罪につきまして,「一方を犯した際に」という形で,「際に」という言葉を用いておりますけれども,これは,従前の同一の機会に強盗と強姦を行った場合という,一般的な判例上の理解を変更しようというものではございません。したがいまして,この「際に」というのは,従来のその同一の機会にと同じ意味で使っているということでございますけれども,他方,最終的に条文化するときにどのような表現を用いるかということにつきましては,今後も検討していくことになるかと思いますので,もしこの点について,特段の御意見がございましたら,委員,幹事の皆様からもいただきたいと存じます。
○山口部会長 この段階で,何か具体的に御意見をお述べいただけることがありましたら,お願いしたいと思いますが,いずれにしても条文化に際しては検討の必要がある点かと思います。
  いかがでございましょうか。この点についての議論は,大体よろしゅうございましょうか。
  ありがとうございました。
  要綱(骨子)第七のように,強盗行為と強姦行為を同一機会に行った場合に,その先後を問わずに現行の強盗強姦罪と同様の重い刑で処罰する規定を設けることにつきましては,御議論の状況を拝見いたしまして,疑問がある,あるいは必要がないという御意見がございましたけれども,要綱(骨子)の形でよいという賛成の意見が多数であったというように理解いたしました。
  次でございますが,要綱(骨子)第七の一のただし書及び第七の二について,御議論をお願いします。
  すなわち,同一の機会に強盗行為と強姦行為を行った場合に,そのいずれも未遂に終わったときには,刑法第43条本文の未遂犯と同様に裁量的な刑の減軽を認めること,それから,その場合において,いずれかの行為を自己の意思により中止した場合には,刑法第43条ただし書の中止犯と同様に必要的な刑の減免を認めることについて,御意見をお願いしたいと思います。
  両方が未遂の場合に未遂とし,いずれかを自己の意思により中止した場合には中止犯と同じ効果を与えるという,これが要綱(骨子)の案でございますけれども,この点について御意見を頂ければと思います。
  いかがでしょうか。
○今井委員 要綱(骨子)に賛成したいと思います。
  先ほど申し上げましたように,今回その強盗強姦に加えて,強姦強盗と呼べるような類型を考えましたのは,被害者にとってみれば,先ほど小西委員からも御指摘がありましたように,同程度の重大な被害を被っているのに,その先後不明であることによる,正義感情に反するような事態を避けるためということでありますが,その前提といたしましては,強盗罪あるいは今回改正にかかっています強姦罪が大変重大な法益侵害を行う行為であり,重たく処罰されるべきものであるという発想があると思います。
  そういたしますと,そのいずれか一方が既遂段階に立っているときには,刑の減軽等を考える余裕,余地はないものだろうと思います。他方で,この要綱(骨子)第七の二のような中止犯の規定ぶりというものは,これは中止犯の理解によって決められるべきものでありまして,本日冒頭に中村幹事から御説明ありましたように,基本的に政策説的な発想をしながらも,中止した部分について違法性ないし責任が減少するということは考慮ができますので,このような政策的判断をとることは十分に可能だと思って支持したいと思います。
○佐伯委員 私は,まだ確固とした意見があるわけではないのですけれども,現行法の下では,強盗が既遂であっても強姦が未遂であれば強盗強姦罪は未遂となり,強姦を任意に中止すれば中止未遂の規定の適用があるということになっているわけで,今回,強盗強姦と強姦強盗を同じように処罰するということで新たに規定を設けることによって,現行法で認められている未遂が認められなくなるというのが本当にいいのだろうかということについては,少しまだ疑問を持っております。
  先ほど塩見委員からも御指摘がありましたけれども,7年という下限で未遂にならないということは,酌量減軽しても執行猶予は付かないということになるわけで,強盗といってもいろいろな類型があることを考えると,それがいいのかという問題。それから,強盗が既遂になった場合には,もうその犯人には中止未遂の余地がないわけですけれども,それも,強姦の被害者の保護という観点から本当にいいのかという点については,なお検討が必要ではないかと思っております。
○井田委員 その点ですけれども,私も検討が必要だということ自体はそのとおりと思うものです。ただ,現行の第241条については,第243条が未遂処罰を予定していることから,解釈論上,立法者が第241条の未遂を想定していることを否定できない。 そこで,通説は,強盗の既遂,未遂は関係ない,この犯罪の重点は強姦部分にあるのだということで,強盗強姦の未遂は,強盗の点で既遂であろうと未遂であろうとそれは関係なく,ただ,強姦が未遂にとどまったという場合だけが強盗強姦未遂となるとしています。それは,現行刑法の文言からはそう解釈せざるを得ないということにほかなりません。
  翻って,それが本当に正しい解決かどうかについては,私はかなり疑問があると前から思っています。しかし,それは,現行法の下では立法論の問題になってしまうわけです。最初の中村幹事の御説明にもあったのですけれども,もし強盗を行って既遂となり,そこで終わったというときには,処断刑の下限は5年です。これに対し,更に強姦を行って,途中で障害未遂に終わったというときに,処断刑の下限が現行法だと3年半の懲役に落ちるのです。ましてや中止になると免除の可能性も出てくるというのは,やはりバランスを失する。現行法の解釈としてはしようがないといえばしようがないのですけれども,今回の法改正に当たり,そこのところを訂正するというのであれば,私には十分理解できるところです。
  ちょっと付言しますと,先ほどの塩見委員は,現行法の強盗強姦罪の規定自体,合理性があるのかどうかという問題を提起されました。強盗強姦罪について,やはり大事なのは下限でありまし て,下限が7年に上がっているということ自体に意味があると思われます。単に強盗罪と強姦罪の併合罪として扱うというのではなく,下限を7年に上げているというのは,それ自体意味があることであると思うのです。また,実態として,強盗を行った人間が被害者を黙らせるために強姦を行う等々の事例を考えてみれば,そこには単なる併合罪以上のプラスアルファがあるのではないかと考えられます。また,事務当局から頂いた資料を見ても,強盗強姦罪はかなり重いところに量刑水準があって,しかも無期刑も相当に科されているということ等を併せ考えますと,現行の強盗強姦罪にも相応の存在理由はあるのではないかと思われるのです。こういうことから,要綱(骨子)の御提案に私は賛成です。
○武内幹事 現時点で要綱(骨子)に反対の立場をとるものではありませんが,若干自分でうまく整理が付いていないところもありまして。中止未遂のところなのですけれども,強姦が既遂に達した後で強盗の実行行為を中止したときには刑が減免されることになろうかと思います。この点,要綱(骨子)どおりの改正が行われると,単純強姦の場合は5年以上の懲役になる。他方,その後,強盗に一旦着手したのに,それを自己の意思で中止した場合,必要的な減免となってくると,ちょっとバランスとして本当にこれで大丈夫なのかなと思います。確かに,ここは政策的に決められるところだと思いますけれど,社会全体の理解を得られるのかなという疑問を持っています。
○中村幹事 この要綱(骨子)第七の二においては,第七の一のただし書に該当する場合が前提となっておりますので,強盗未遂,強姦未遂,両方とも未遂の場合において,いずれか一方が中止である場合に必要的減免としようということでございますので,御理解いただければと思います。
○武内幹事 了解しました。そういうことであれば,今の疑問は撤回します。
○宮田委員 佐伯委員の疑問としておっしゃったことを理由として,私はむしろ積極的に反対の意見ということでございます。
  強盗や強姦の犯人が自ら中止した場合に,政策的に減軽を認めるということ自体には賛成です。しかしながら,現行法でとられている解釈よりも狭い形にしてしまうことで,その政策的な効果が減じることはないのかというところでございます。
○山口部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
  いろいろ問題点など,御指摘がされたところでございますけれども,これは基本的に反対であるという御意見があれば,是非お聞かせいただきたいと思います。
  何か関連した問題で,気の付かれたことで御指摘いただけることがあればお願いしたいと思うのですけれども,よろしゅうございますか。
○橋爪幹事 大変細かいことなのですけれども,要綱(骨子)第七の二の中止行為に関する規定について,一つ質問を申し上げたいと存じます。
  要綱(骨子)では,いずれかの犯罪を中止していれば,刑を必要的に減免することになりますので,例えば,まず強姦に着手したが,被害者がかわいそうになって強姦行為を中止した後,その後新たに強盗の犯意を生じて暴行・脅迫に及んだが,抵抗されて未遂に終わったという事案につきましては,これは強盗も強姦もともに未遂犯でありまして,しかも強姦行為を自ら中止しておりますので,要綱(骨子)第七の二が適用されることになります。その結果,刑として有期懲役を選択した場合には,少なくとも必要的な減軽を行うことになりますので,その刑は3年6月以上10年以下ということになるかと存じます。
  しかし,現行法ですと,これは強盗未遂と強姦未遂の併合罪となりますので,強姦罪について中止減軽をするとしましても,仮に強盗未遂罪については任意的減軽をしないという処理をした場合,その処断刑は5年以上30年以下の懲役となりますので,むしろ併合罪として処理をした方が刑が重たいという逆転現象が生じます。
  このように考えますと,仮に要綱(骨子)のとおり法改正をした場合であっても,要綱(骨子)第七の二の適用がある事例については,なお強盗未遂,強姦未遂を切り離して併合罪としてより重く処罰することが可能なのかという問題が残るように思われます。この点につきまして,事務当局のお考えをお聞かせいただければと思います。
○中村幹事 今,橋爪幹事から御指摘のあった点でございますけれども,その処断刑におきましては,そのようなものが生じる場合があり得るとは思いますけれども,御指摘のような事案というのがどの程度発生するのか,それはかなりまれではないのかという点がまず1点あります。また,仮にそういった事案が発生したとしても,実際の量刑上はそれほど問題は生じないのではないかと考えております。 つまり,有期懲役を選択した場合,3年6月以上10年以下という範囲で適切な量刑というのは可能なのではないのかと考えておりますので,政策的目的を達成するという趣旨を重視して,この要綱(骨子)第七の二のようにしたわけでございますけれども,このようにすることについて,皆様方からもまた御意見いただければと思っております。
○北川委員 今,橋爪委員から御質問があった事例は,強姦が未遂にとどまり,かつ,かわいそうに思ってやめたのだけれども,その後強盗に着手して,そっちの方は障害未遂にとどまったと,このような事例でよろしいわけですね。
  この場合は,果たして同一の機会に犯されたものと考えてよろしいのでしょうか。犯罪を中止した段階で,同一機会と言えるのかなとちょっと思いましたものですから,先ほども同一機会という言葉の御説明がありましたので,その解釈はどういうふうに考えるべきなのかとちょっと疑問を持ちましたので御質問させていただきますが,これは事務当局の方にお願いしたいと思います。
○中村幹事 今の点でございますけれども,同一の機会と言えるかどうか,これは,個別具体の事実関係によってくるところでございますので,その中でどのように同一の機会であると判断していくのか,具体的には時間や場所等々を勘案して判断していくことになるのだろうとは思っておりますけれども,そのような意味で,同一の機会という場合もあり得るし,事案によってはないのかもしれません。
○山口部会長 ほかにいかがでしょうか。
  この要綱(骨子)第七の一のただし書,第七の二,未遂,中止犯に相当する部分につきましては,技術的な性格も強いということがございまして,なかなか難しい議論になったかと思われますけれども,重要な御指摘が幾つかなされました。
  第七の一については,現行法の下で減軽される範囲よりも狭くなるのではないかという問題,それから,中止未遂として現在であれば必要的減免となるものが,要綱(骨子)の下では必要的減免にならないのではないかという問題,それから,第七の二については,これを適用する方が,先ほどの橋爪幹事からの御指摘ですけれども,併合罪として処理するよりも処断刑が軽くなる場合があるのではないかというような御指摘がなされておりまして,これらについては,いずれも検討が必要だと思われます。
  まとめますと,この部分については反対の意見もございましたけれども,基本的にはよろしいのではないかという御意見が多かったのではないかと思われますが,いずれにしても,これらの今申し上げた点については更に検討が必要ですので,事務当局において,今なされました御指摘を踏まえて更に御検討をお願いします。
  最後になりますが,第七の三について御審議を頂きます。
  死亡の結果が生じた場合について,この第七の三,このような規定を置くことでよいかどうか,また事務当局から,殺意をもって行った場合もこれに含まれ,そして,その場合に,殺害が未遂に終わったときには,第七の三の罪の未遂犯として処罰するという御説明がございましたが,そのような規定として設けるということでよいかどうかについて,御意見をお伺いしたいと思います。
○今井委員 簡単に結論だけですが,冒頭に中村幹事から御説明あった理解に賛成するものであります。
  現在の第241条の強盗強姦致死罪におきましては,御説明ありましたように,判例におきましては殺意がある場合が含まれていないと言われておりますけれども,その法定刑は死刑又は無期懲役という一番重いものとなっておりますので,現在の有力な学説におきましても,殺意が含まれるという見解が多々主張されております。
  そういった学説状況も踏まえますと,今回の要綱(骨子)第七の三におきまして,同様に死刑又は無期懲役に処するとしているものにつきましては,殺意を含むという理解を基に検討していくべきではないかと思います。
○井田委員 確認なのですけれども,殺意を含むという解釈になるという根拠は,文言上,「・・・を行い,よって」とはしていないから,ということでよろしいのでしょうか。
○中村幹事 冒頭の御説明でも若干その点申し上げたところでございますけれども,この要綱(骨子)としては,「よって・・・死亡させた」という結果的加重犯に典型的に用いられる文言を用いていないところが,文言上の取っかかりと考えております。
○山口部会長 ほかにいかがでございましょうか。
  よろしければ,まとめさせていただきまして,この第七の三のような規定を設けること自体,それから,殺意をもって行った場合をも含むとすること,そして,殺害が未遂に終わったときには第七の三の罪の未遂として処罰することについては,特に反対の御意見はなかったということでまとめさせていただきたいというように思います。
  以上で,本日の審議は終了ということにいたしたいと思います。
  本日で1巡目の議論が終了いたしましたので,次回からは2巡目の議論を行いたいと考えております。
  まず,要綱(骨子)第四の非親告罪化の問題につきましては,第1回会議の議論におきましては,特に要綱(骨子)に反対する御意見は述べられませんでしたけれども,2巡目において,何か付け加えて議論すべきことがございますでしょうか。
○宮田委員 私の周囲の人間に,反対の意見もございますので,是非御紹介させていただきたく,また,私自身も非親告罪化に疑問を持っておりますので,一度発言の機会を与えていただければと存じます。
○山口部会長 分かりました。
  ただいま宮田委員からの御発言もございましたので,要綱(骨子)第四についても,2巡目の議論を行うことにいたしたいと思います。その際,宮田委員から御意見,あるいはそれに関連する御議論をお願いしたいと考えております。
  それ以外の論点につきましては,要綱(骨子)に反対という御意見,あるいは検討の必要があるという御意見,御指摘がございましたほか,事務当局において検討することとしている点もございますので,これらの点について2巡目の議論を行うことにしたいというように思います。
  そこで,次回以降でございますが,1巡目の議論の順番に従いまして,要綱(骨子)の第四,それから「第一・第二・第五・第六」,第三,第七という順序で議論を進めたいと思いまずか,そのような進行とさせていただいてよろしゅうございましょうか。
(「異議なし」の声あり)
○山口部会長 ありがとうございました。それでは,そのような進行とさせていただきます。
  次回会議の場所等の予定につきまして,事務当局から御説明をお願いします。
○中村幹事 次回の第4回会議ですけれども,来年1月20日水曜日午前9時15分からでございます。場所は,本日と同じ法務省20階の第1会議室でございます。
○山口部会長 それでは,次回は平成28年,来年の1月20日の午前9時15分から,この第1会議室でということで行うことにしたいと思います。
  なお,本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することにさせていただきたいと思いますが,よろしゅうございましょうか。
(「異議なし」の声あり)
○山口部会長 ありがとうございました。それでは,そのようにさせていただきます。
  では,これをもって終了いたします。本日はどうもありがとうございました。
-了-

法制審議会
刑事法(性犯罪関係)部会
第4回会議 議事録

第1 日 時  平成28年1月20日(水)    自 午前 9時30分
                         至 午前11時13分

第2 場 所  法務省第一会議室

第3 議 題  1 要綱(骨子)第四について
        2 要綱(骨子)第一,第二,第五,第六について
        3 その他

第4 議 事 (次のとおり)

議        事

○中村幹事 本日もお忙しい中お集まりいただきまして,ありがとうございます。予定の時刻となりました。
  塩見委員は本日,新幹線が雪の影響で遅れており,御出席が若干遅れると伺っておりますが,ただ今から法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第4回会議を開催いたします。
○山口部会長 おはようございます。本日は御多用中のところお集まりいただきまして,誠にありがとうございます。
  本日,田邊委員,それから松尾関係官におかれましては,御欠席と伺っております。
  まず初めに,事務当局から配布資料についての御説明をお願いいたします。
○中村幹事 本日配布しておりますのは,資料29と資料30です。
  資料29は,昨年12月に閣議決定されました第4次男女共同参画基本計画の抜粋でございます。第3次計画に引き続き,性犯罪の罰則の見直しについても盛り込まれております。また,これに関係して,小林関係官から参考資料も提出されております。これらの内容につきましては,後ほど小林関係官から御説明いただけると伺っております。
  次に,資料30は,第2回会議の中で御指摘のありました性別適合手術に関する資料です。具体的な内容に関しましては,後ほど要綱(骨子)第一に関する御審議の際に御説明させていただきます。
  また,第1回会議でお配りいたしました資料1から28までを机上に置かせていただいております。
  それでは,小林関係官から,資料29の第4次男女共同参画基本計画の関係につきまして,御説明をお願いいたします。
○小林関係官 資料29と,カラーのピンク色の絵がございますけれども,そちらが資料となりますので,見ていただきながら,適宜説明させていただきたいと思います。
  資料29の冊子になっている方を2枚ページをおめくりいただきまして,まず目次でございますけれども,この計画は,冒頭言及いただきましたように,昨年の12月に閣議決定したものでございます。この計画を策定するに当たりましては,男女共同参画会議の方に総理大臣から諮問がございまして,それに対して,同会議から基本的な考え方ということで答申をいただき,それを踏まえて,関係省庁とも相談して策定したものでございます。
  具体的内容としましては,今,目次を御覧いただいていると思いますが,「基本的な方針」という第1部と,あと,具体的な施策を記した第2部という形で構成されております。今日主に御説明申し上げますのは,第2部のローマ数字で政策領域ということで,Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳとそれぞれ書いてあるもののⅡの部分,「安全・安心な暮らしの実現」のところの「第7分野 女性に対するあらゆる暴力の根絶」ということで記載しております。その中に性犯罪の関係のことを記載しておりますので,そちらを説明申し上げたいと思います。
  それでは,ページをめくっていただきまして,下にページ数が書いてございますけれども,6ページをお開きいただきたいと思います。
  こちらは,今申し上げました「女性に対するあらゆる暴力の根絶」ということでございまして,先ほど申し上げました男女共同参画会議から答申いただきました基本的な考え方をまず記載しております。その上で,具体的な成果目標ということで,数値目標を四つ掲げております。
  上の三つは,配偶者等からの暴力の関係の相談窓口等々の目標でございますが,四つ目に行政が関与する性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの設置というものを掲げておりまして,これについては,各都道府県に最低1か所ということでございます。これは,被害に遭った方について,できるだけ1か所で,医療的な支援もそうですけれども,捜査機関との関係,あと,その後の精神的な中長期のケアなども含めて,できるだけ被害者の方に負担がないように支援できるようにということで,御案内のとおり,ワンストップ支援センター設置の動きがございますけれども,まだ今現状で,私どもで把握している限りで25か所という状態でございますので,これを全都道府県に最低1か所という目標としております。
  続きまして,具体的な政策の中身ということで,7ページ以下に記載しておりますけれども,性犯罪の関係でございますと,15ページに飛んでいただきたいと思います。
  15ページの下の方から始まっておりますけれども,こちらの方で,まず具体的な取組としては,「性犯罪への厳正な対処等」ということで,アで記載しております。このページの次のところで,16ページの上の方ですが,先ほども言及ございましたが,性犯罪に関する罰則の在り方について,法制審議会で今,正に御議論いただいておりますので,その結果を踏まえて,法改正を含む必要な措置を講ずるということで記載させていただいております。私どもとしましても,当部会の御議論には注目させていただいているところでございます。
  そのほか,アの中では,今申し上げました「(ア)関係諸規定の厳正な運用と適正捜査の推進」「(イ)性犯罪捜査体制の整備・充実」「(ウ)性犯罪の潜在化防止に向けた取組」などを記載しております。次に,イのところで「被害者の支援・配慮等」ということで,この説明の冒頭に申し上げましたけれども,ワンストップ支援センターの設置促進ということを記載しております。
  ページをおめくりいただきまして,17ページの方にも,被害者の支援の関係がそれぞれの項目を記載しておりまして,次に,18ページのウのところで,「加害者に対する対策の推進等」ということ,あと,エで「啓発活動の推進」ということで記載しております。
  併せまして,「性犯罪への対策の推進」とはまた別の項目で立てておりますけれども,「5子供に対する性的な暴力の根絶に向けた対策の推進」ということで,性犯罪でもあるし児童虐待でもあるという観点で項目を掲げておりますけれども,その中で,アの部分でございますけれども,「子供に対する性的な暴力の防止,相談・支援等」ということで記載しております。具体的中身といたしましては,まず,特に発見がしにくいということもありますので,関係機関の連携等による虐待の早期発見等ということ,あと,性犯罪全般でもそうなんですが,特に児童に関しましては,事案が判明した後の対応というのに更に困難性がある部分もございますので,例えば事情聴取の仕方等々含めて,新たな取組をするということで記載しております。
  計画の内容については以上でございますが,ずっとページをめくっていっていただきまして,ページは振っていないのですが,冊子としては後ろから2枚目の紙になりますが,男女共同参画計画のそのものではないんですが,「参考指標」の抜粋を付けております。この「参考指標」は,先ほどで御説明を申し上げた成果目標ではないのですけれども,施策のその後の推移をウォッチする際の参考ということです。1枚めくっていただいたところに,暴力の関係ですと,そこに掲げたような数値を毎年きちんと把握して,施策の参考にしていくという建て付けになっております。
  大変簡単ではございますが,以上でございます。
○山口部会長 ありがとうございました。
  ただ今御説明いただきましたことについて,何か御質問等ございますでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。
(一同 発言なし)
  それでは,審議に入らせていただきたいと思います。
  本日から2巡目の議論となりますが,本日はまず,要綱(骨子)第四について審議をいたしまして,その後に要綱(骨子)第一と,これと関連性の強い第二,第五,第六について審議を行いたいと思います。
  それでは,まず,要綱(骨子)第四,すなわち,強姦罪等を非親告罪とすることについての審議に入ります。
  要綱(骨子)第四につきましては,第1回会議におきまして議論を行い,強姦罪,強制わいせつ罪及びわいせつ目的又は結婚目的の略取・誘拐罪等につきまして,非親告罪とすることに賛成の御意見が多数述べられ,反対の御意見は特に述べられておりませんでした。もっとも前回,宮田委員からこの点について,改めて御意見を述べられたいという御希望がございましたので,まず,宮田委員の方からお願いしたいと思います。
○宮田委員 機会を与えていただいて,ありがとうございます。
  実は,非親告罪に反対してくれという年賀状をもらったりいたしましたので,機会を与えていただいたことに心から御礼申し上げます。
  ヒアリングに出てこられた被害者の方たちは,非親告罪を求める意見が圧倒的に多かったわけですけれども,私どもが弁護活動をしていて,示談が成立する被害者の方たちは,示談で終わってよかった,裁判にならなくてよかった,早く済んでよかったというような御感想をお持ちになる方であるわけです。親告罪でよかった,親告罪であることを維持してほしいという意見の被害者の方というのは,公に意見として出てこず,どうしても潜在化しやすいのではないかと思うのです。
  強姦罪の場合,例えば加害者と被害者とが知人同士であるような事件など,加害者側が逮捕勾留されて,弁護人が加害者側に付いた形で,加害者と被害者とが冷静に話し合い,このことによって問題解決ができて,それでよいと考える被害者がいてもおかしくはないはずだと考えます。個人法益を守る罪である強姦罪については,私的自治に委ねてもよい部分があるのではないかと考えるわけです。
  非親告罪化の理由は,被害者の心理的負担の軽減など,被害者の立場に考慮するという観点であるわけですが,逆に,これが親告罪とされてきた理由も,被害者の名誉やプライバシーであるとか,あるいは心情の平穏といった被害者の利益を保護するために,立件や処罰の可否について,被害者の意思を尊重するというところにあったはずです。そして,親告罪であることで現にその機能を果たしてきたと言えるし,その機能が今後も果たし得る役割というのは大きいと考えます。
  非親告罪化することは,このような被害者のそれらの心情の平穏等の利益を保護する目的や,それらを保護する機能を持った制度をなくするという意味です。つまり,被害者の処罰意思にかかわらず処罰することを法律的に可能にするというものです。被害者の心理的な負担を軽減するために被害者の意思を尊重する制度を撤廃するということに,そもそも理屈として疑問があるとも言えるわけです。
  非親告罪化について,示談の圧力が掛かるという御意見がヒアリングの中でありました。しかし,資料25を見ていただければ,強姦致傷や強制わいせつ致傷のような非親告罪であっても,起訴猶予の案件が非常に多いことが分かります。つまり,示談の圧力というのは,別に非親告罪化したかどうかには関わらないということでございます。
  示談ですら被害者にとって圧力となるとすれば,非親告罪になった場合に,被害者に対して,例えば事情聴取を受けてほしいとか実況見分に立ち会ってほしい,あるいは,更にその後,起訴されて証言に立ってほしいと言われたときの負担は,逆に大きくなるのではないかと考えます。親告罪であれば,今はとにかく混乱しているので,処罰してほしいかどうか判断が付かないという被害者の意思が表明されれば,捜査はそこでストップするわけです。しかしながら,非親告罪化された場合,特に被害者の被害申告によらない形で被害者の被害が判明した場合,加害者の自白であるとか,あるいは目撃者の存在,その他の事由によって,被害者の意思によらずに捜査が開始された場合に,果たして,捜査官の方から,正義のために協力してほしい,あるいは,こういう悪いやつは罰して,社会のために一緒に頑張ってほしいというようなことを言われた場合に,果たして,混乱している状態の被害者の方が,今は無理です,駄目です,もうちょっと後にしてくださいということが言えるだろうかということは,非常に心配に思われるわけです。
  起訴されて,事実関係がもしも争われるということになれば,被害者の方はその意思に関わらず,証人尋問を受ける場合があり得るわけです。証人には証言拒絶権はありません。このような場合,被告人側が反対尋問しないということは,ほぼあり得ません。このようなことで,かえって被害者の負担は重くなるのではないかということも考えられます。
  制度として非親告罪化して,運用として被害者の意思を尊重するために,被害者に対して処罰意思の有無を確認して事情を聴取するということであれば,これは非親告罪化しなくても,親告罪を維持した場合でも,被害者の心理的負担というのはほとんど変わらないということにはならないのだろうか。つまり,被害者が処罰の意思を表明したから捜査が進んだんだろうといって逆恨みされるだろうという被害者側の危惧が非親告罪の理由として出ましたが,結局は同じことにはなるのではないかと思うのです。
  やはり被害者は,プライバシーを自ら守る権利はあるはずですし,放っておいてもらう権利は持っているのではないかと思います。
  あと,強姦罪は重大な犯罪だということを国民に認識してもらうために非親告罪化が必要なのだという議論もありましたけれども,親告罪である理由というのは,例えば,器物毀棄などについては重大な犯罪ではないという場合ですけれども,名誉棄損などの場合には,プライバシーの問題もあったりします。性犯罪の場合には,被害者の心情的な平穏等を守りたいという被害者の意思を守るという趣旨であって,その制度の趣旨が異なるものを捕らまえて,非親告罪化することによって性犯罪が重大な犯罪であるということを国民が認識することになるという議論は,論理的にいかがなものだろうかと感じるわけです。
○山口部会長 ただ今,宮田委員の方からは,親告罪という制度は,被害者の利益保護という観点から意味が大きいのではないか,特に放っておいてもらえる権利,プライバシーの権利という観点から意味がある,非親告罪化により,かえって被害者の負担が重くなる場合もあるのではないかといった御指摘がございました。この点につきまして,特に1巡目でお述べいただいた御意見に付け加えて述べていただけることがあれば,お願いしたいと思います。
○角田委員 二つのことを申し上げます。まず,今,宮田委員から指摘されたいろいろな親告罪であることの利点についてです。立法例を見ますと,現在では親告罪にはなっていないし,元々,性暴力犯罪であっても,親告罪になっていないという国があるわけです。そういう国ではどういう議論になっているのかということを,ちょっと学者の方に教えていただきたいと思っています。
  それから,もう一つは,被害者の負担の問題です。結局,被害者は現状では,刑事手続に関わることの負担があるので,ちゅうちょすることがあると思うのですけれども,でもその人たちが,加害者を処罰しなくてよろしいと,私はこのまま忘れて,それで平穏な生活が回復するのだと,そう思っている人は,私はほとんどいないのではないかと思うのです。処罰してほしいという意思は非常に強いけれども,もろもろのその後起こる厄介なことについて,自分がやっていけるかどうか自信がないので,関わらないでいようとなっていくわけですけれども,先ほど小林関係官からもお話がありましたように,ワンストップセンターのようなことが手当てされていくことによって,被害者についてもいろいろ,今まで以上に支援が強くなっていくということになってくると,被害者はきちんと,自分に対する加害者と闘うことで,本来の尊厳を取り戻すという,そういう道が開けてくるのではないかと私は思っております。特に日本においてだけ,親告罪にしておくことが被害者の利益を守るという議論は納得できないと思っております。
○山口部会長 ただ今,外国ではどうなのかという御質問がありました。親告罪という制度がそもそもない国を含めて,何か御発言いただけることがあればお願いします。
○今井委員 特に詳しく知っているわけではございませんけれども,今の角田委員の御理解のような国が多いと私も思っております。
  例えば,イギリスなどでも,元々犯罪の処理というものが私的自治に委ねられるという歴史もあったわけですけれども,先ほどの宮田委員がおっしゃっていたような,性的自己決定権も個人的法益であって,私的自治に委ねる領域があるという議論もあったようではありますけれども,現在では,それは社会的な関心事項であって,被害者の方の個別的な意思というものを含めた社会全体の在り方として,刑事制裁の対象にするという方向で,大きく制度ないし認識が変わってきたと理解しております。
  そういった意味では,今回の諮問の出発点であります,従来「強姦」と言われてきた類型を含め,周辺にも重大で大変悪質な類型があり,それを個人の処理に委ねるのはよくないという発想,ここから今回の議論もスタートしているわけですので,非親告罪にするという方向が正しいと思います。
  現在でも,被害者の方のプライバシーを考慮した運用がなされているという話でしたが,今後も適切な訴追裁量権の行使等によって,同様の結果が期待できると思いますので,1巡目でも申しましたけれども,私はこの方向性に賛成でございます。
○中村幹事 事務当局から,事務当局が把握している限りについて,若干外国の制度について御紹介したいと思います。
  もとより,改正の経緯ないしは外国の制度について,網羅的に把握しているわけではございませんけれども,アメリカとかイギリスではそもそも,一般的には親告罪制度がないと考えられております。また,フランスにおきましては,かねてから性犯罪は非親告罪とされておりました。また,ドイツにおきましては,こちらは文献上の指摘ということでございますけれども,「刑法典は1871年の制定当初は強姦罪を親告罪としていたが,1876年の刑法改正で親告罪規定が削除されて,強姦罪が非親告罪となった。ドイツでは,この段階で既に,性犯罪を被害者の意思にかかわらず処罰することが重要だと考えられたといえる」旨の指摘がございます。また,韓国におきましては,刑法制定当初から,強姦罪や強制わいせつ罪などが親告罪とされておりましたけれども,被害者が被害申告及び告訴を敬遠することにより犯罪が隠蔽されることを防ぐことができ,犯罪予防の効果があるほか,被害者の意思と関係なく,加害者に対する厳正な対処効果が期待できるなどの理由から,2012年の刑法改正によって非親告罪化されたと,以上のようなところを承知しているところでございます。
○小西委員 表面的に被害者の方に聞けば,どちらの案もある,年賀状に書いてあったとおっしゃいましたけれども,それはもちろんあると思うのですね。私は現状で,被害者の権利が適切に扱われているとは残念ながら思えないと思っていますが,ただ,ではなぜその機能を親告罪が果たしてきたのかと,もう1回問い直したいと思いますね。それは,親告罪でなければ被害者の権利は守れないものなのか。そうではないのだと思います。
  表面的に,最初にイエスかノーかで聞いてしまえば,二つの意見はあると思うのですが,私は,幸いにと言いますか,法的な事件とならない被害者の方もたくさん見ております。むしろその方が多いです。そういうところで,どうして警察に訴えないのか,あるいは取り下げてしまったのかというお話も聞きます。もちろん,だから示談を受けてしまったという方もいるし,そもそも表に出ていくことが耐えられないと思ったという方もいます。いますけれども,ではその人たちが,相手のことを示談でよかったと思っているのかと,全く思っていないですね。心理的に言えば,被害を受けた方の相手を処罰してほしいという感情が非常に高い犯罪だと思います。
  現状で,いろいろな不備がある状態で,その二つの意見に分かれるのは,むしろ被害者がどういう道を採ればいいかよく分からないからであるというのが,現場から見た状況だと思っています。
  ただし,この前も申し上げましたように,非親告罪になるということは,やはり宮田委員が言われたようなおそれ,今のままでいけば,そういうことが起きないとは限らないというのもそのとおりだと思いますので,例えば,捜査に協力する,急性期に捜査に協力するということをするためには支援が必須だと思います。そういう点で,レイプ・ワンストップセンターの支援,あるいは各司法機関における専門的な支援というのを強化していかなくては権利が守れないということは,当然のことだと思っております。
○齋藤幹事 小西委員に続けて,同趣旨で発言をさせていただきます。10年近く前になりますが,当時,私の関わっている被害者支援現場ではご遺族の支援が多く,性犯罪被害者の支援は件数が多くありませんでした。そのためもあり,どのように性犯罪被害者の支援をしてよいか手探りでやっておりました。そのときには,示談で済んでよかったとおっしゃる被害者の方も多くいらっしゃったと記憶しております。
  しかし,ここ数年,性犯罪被害の受理件数が増え,かつ,警察や検察庁の方々,弁護士の方々と連携をとらせていただきながら支援に当たるようになって,連携の上での支援,早期からの支援の体制が整いつつあります。そうすると,示談で終わらせる,という被害者の方は以前よりも明らかに減っているということを感じております。もちろん,示談で終わらせたいと望む方もいらっしゃいます。しかし,きちんと早期から精神的なケアを受けている,そして,それぞれの段階に適切なケアを,民間支援機関やワンストップセンター,若しくは警察,検察から受けている被害者の方の中には,自分がきちんと守られ精神的なサポートも受けられるならば,加害者を罰したいという意向を示す方がとても多いと感じております。
  したがいまして,大事なことはやはり,小西委員もおっしゃっていたようなケアの充実であるとか,被害者の心情に配慮した手続であると思います。非親告罪化した上で,更にそのケアをきちんと充実していただければと願っております。
○小木曽委員 「性犯罪の罰則に関する検討会」におけるヒアリングで出たことですが,「あなたが望めば裁判になりますよ」と言われるのと,ほかの犯罪と同じように,「本来裁判になるのだけれども,あなたが望まなければ裁判にはなりませんよ」と言われるのとでは,出発点が違うという御意見がありました。そうすると,今まで出てきましたように,ケアの点をしっかりしつつ,しかし,ほかの犯罪と同じように扱うという方向が正しいように私も思います。
○宮田委員 被害の初期の被害者が非常に混乱していて,意思をきちんと表明できないという場合もあり得るところですが,その点については,告訴期間を撤廃するというような形で十分な時間を与え,捜査機関がその間ストップするという法改正がなされたのは,それほど古い話ではありません。
  また,示談の話です。示談が終了して,被害者の方は,もうこれで手続は終わったと思っている。それでも,被害者の処罰意思が起訴の要件になっていなければ,性的な犯罪ではなく,別な犯罪で現に経験したところですけれども,示談が終了して,それを検察官に提出したとしても起訴される事例もあります。
  被害者の意思を尊重するというのはどういうことなのか。これは,性的な犯罪だけに限らず,話合いができる,そして,話合いをするときも,今,齋藤幹事から,センターでは処罰意思の強い方も多いという話がありましたけれども,私どもが示談をする場合に,最近は,被害者代理人の方が付いて示談する場合も非常に増えております。そのように,客観的なアドバイスを受けながら示談をし,問題を解決しているという場合もあります。そして,被害者の方も,処罰を望んでいるというよりは,その男性が自分のそばから離れてほしいと考え,話合いでうまく条件が決められるのであれば,そういう方がいいと考える方もいらっしゃいます。
  もちろん,性犯罪については,私的自治の範囲ではないのだという考え方もあるかもしれませんけれども,その事件の個別の事情,例えば,過去からの被害者と加害者の関係などによっては,そのような解決が望ましい案件もあるように思われるのです。
○井田委員 現行法を見ますと,御案内のように,強姦致傷の場合とか集団強姦の場合には非親告罪になっているわけです。今お伺いした宮田委員の御見解をそのまま当てはめれば,実は強姦致傷とか集団強姦,これらもまた親告罪にすべきだという考え方につながっていかなければいけないはずです。しかし恐らく,宮田委員もそこまで御主張はされないのだろうと思うのです。その意味で,現行法は,最初から非常に不徹底な立場に立っていると思うのですね。ですから,私は,ここは原則に戻って,こういう重大な犯罪なのだから国が責任を持って立件,訴追するという立場を明確にする。ただ,その際に,被害者の気持ちも十分考慮して,運用していく。先ほど小木曽委員がおっしゃったような考え方がよろしいのではないかと私は思います。
○角田委員 今まで,被害者に対する支援が非常に足りなかった。というのは,被害者のプライバシーを守るということが,告訴をしないということと引換えになされてきたという歴史があると思うのです。ところが,だんだん被害者の意識も変わってきて,自分たちの権利を主張してもいいのだということが一方で起きてきているわけですね。そして,先ほど申し上げたように,国も一定程度被害者支援に乗り出してきている中で,親告罪を維持するということが起きるとすれば,ここまで積み上げてきたもろもろの支援などの政策が,やはりそれも後退するのではないかと思いますし,社会的にも被害者に対する認識が,やはり後退するのではないかと私は思っておりますので,親告罪を維持するということは非常に悪影響があると思っております。
  それから,先ほどちょっと出てきたのですけれども,示談になっても起訴されることがあるということです。それはあると思いますけれども,強姦罪以外の多くの事案でも,具体的には,示談が成立すると,もちろん内容によるでしょうが,検察官は起訴という選択はされないと思いますし,それから,被害者が証人になるのは嫌だということを明確にしているのに起訴して,検察官御自身が公判の途中で立ち往生するような,そういう愚かな選択はあり得ないのではないかと私は思っております。
○山口部会長 ほかに,御意見はございますでしょうか。
  よろしゅうございますでしょうか。
○宮田委員 井田委員が強姦致傷等について,これが親告罪でないことについての私の意見について,そん度した御意見を頂戴しましたけれども,私は親告罪の範囲は,性犯罪も含めて,もっと広くてもいいという考えを持っています。
  ここの議論と関係ないと思ったので出していないだけです。一言付け加えます。
○山口部会長 この点につきましては大体御意見をお述べいただいたのではないかと思います。
  それをまとめさせていただきますと,要綱(骨子)第四につきましては,非親告罪化することに疑問があるという御意見が本日述べられたわけでございますけれども,多数の方は非親告罪化すべきだという御意見であったというように理解できるのではないかと思います。
  それでは,次でございますが,要綱(骨子)第一,第二,第五,第六について,まとめて審議を行いたいと思います。
(塩見委員入室)
  1巡目の議論を簡単に振り返っておきますと,まず,現行の強姦罪に当たる重い処罰の対象になる行為につきましては,現行法の「姦淫」よりも拡張することについては,反対の御意見はございませんでした。その上で,拡張する範囲につきましては,口淫や挿入させる行為は含めるべきでないという御意見があった一方,膣等への手指の挿入をも含めるべきであるという御意見もございましたが,多数の御意見は,要綱(骨子)のとおりとするのがよいというものでございました。
  また,現行の準強姦罪につきましても,同じように対象とする行為を拡張することにつきましては,特に反対の御意見はございませんでした。
  次に,法定刑の引上げについてでございますが,現行の強姦罪の法定刑の下限を引き上げる必要はないという御意見もございましたけれども,多数の御意見は,要綱(骨子)のとおり,強姦罪及び準強姦罪の法定刑の下限を懲役5年に引き上げるべきであるというものでございました。また,強姦致死傷罪の法定刑の下限でございますが,これを懲役6年に引き上げるということについては,反対の御意見は述べられておりませんでした。
  さらに,要綱(骨子)第五の集団強姦等の罪の廃止につきましては,集団強姦罪を維持して,その法定刑の下限を懲役6年とするべきであるという御意見がございましたが,廃止するべきだという御意見が多数であったということでございます。
  本日は,こうした1巡目の御議論を踏まえていただき,更に議論を深めていきたいと思います。
  まず,1巡目の議論の中で,手術によって形成された膣や陰茎について,事務当局において,実情を把握した上で報告するということになっておりましたので,まず事務当局から,その点についての御報告をお願いいたします。
○中村幹事 本日お手元にお配りしております資料30を御覧ください。
  資料30は,第2回の部会におきます御議論を踏まえまして,性同一性障害者の治療及び性別適合手術によって形成される性器について実情を把握するため,性同一性障害者の治療を行っている岡山大学病院ジェンダーセンター長の難波祐三郎教授と,岡山大学ジェンダークリニックで治療を担当されている松本洋輔岡山大学病院精神科神経科助教に御協力をいただきまして作成していただいた資料でございます。
  この資料の内容について御説明申し上げます。
  資料の表紙をおめくりいただいて本文の1ページ目ですけれども,1ページ目の1のとおり,岡山大学病院では,「岡山大学ジェンダークリニック」と「岡山大学病院ジェンダーセンター」が一体となって,性同一性障害の診断から性別適合手術までの治療を包括的に行える体制を整えておりまして,岡山大学病院におきましては,これまでに,約2,000名の性同一性障害者の診察を行い,延べ約600件の性別適合手術を行った実績があるとのことです。
  そのページの3のとおり,性同一性障害者の中で,生物的な性別は男性であるけれども,性の自己認知あるいは自己意識が女性である者を「MTF」と呼び,生物的な性別は女性であるけれども,性の自己認知及び自己意識が男性である者を「FTM」と呼んでおり,この資料の2ページ目以降の4のところに,岡山大学病院での性同一性障害者の治療の流れが書かれております。
  この4の(1)に記載されているような経過を経て性同一性障害の診断がなされ,ホルモン療法等への移行が適当であると判断された患者に対しては,(2)のところに書いてありますけれども,MTFの患者の場合,女性ホルモンの投与が行われ,場合によっては,豊胸手術を検討することとなっております。また,FTMの患者の場合,男性ホルモンの投与がなされ,乳房切除術が行われることとなります。
  そして,おめくりいただいて3ページですが,3ページの(3)のとおり,患者が,性別適合手術を希望する場合,性別適合手術適応判定会議で手術の適否が検討されることになります。性別適合手術は,外性器を反対性の形状に近似させることにより,性同一性障害者の性別違和を緩和することを目的として,治療行為の一環として行うものとのことです。
  次に,3ページ以降,5におきまして,性別適合手術の術式と形成される性器について説明がされております。
  まず,(1)のところですが,(1)はMTFの場合であり,その手術の術式が①のところに記載されております。MTFの手術では,まず,陰茎を切断し,精巣を摘出し,陰核,会陰及び外尿道口を形成することになります。膣を形成する造膣術の術式が複数記載されておりますけれども,いずれの術式でも,人工物によって形成するのではなく,患者本人の皮膚や結腸の一部を用いて膣腔を形成する点で変わりはありません。
  形成された膣の特徴・機能につきましては,5ページの②の部分に記載されております。
  いずれの術式によりましても,外観は女性生来の膣に近似しておりまして,形成される膣に陰茎を挿入することは可能であるとのことです。
  また,いずれの術式によりましても,神経や血管をつなぐことになりますので,形成した膣や外陰部には感覚があるとのことです。
  次に,6ページ以降ですが,6ページ以下の(2)のところでは,FTMの場合について記載されておりまして,その術式が①のところに記載されております。
  FTMの手術では,まず,子宮卵巣を摘出することとなります。
  その上で,立位排尿を行うことを目的とした陰核陰茎形成術や,尿道を延長した上で行う陰茎形成術があるとのことです。
  陰茎形成術につきましては,複数の術式が記載されておりますけれども,いずれの術式でも,人工物によって形成するのではなく,患者本人の腹部,前腕部,前外側大腿部などの皮膚で陰茎部分を形成して移植する点では変わりはありません。
  形成された陰茎の特徴・機能につきましては,7ページの②のところに記載されております。 陰核陰茎形成術によって形成されるミニペニスは,外観は生来の陰茎とは異なっており,通常,膣や肛門に挿入することは困難であるとのことです。
  一方,陰茎形成術によって形成された陰茎は,いずれの術式によっても,その外観は生来の陰茎により近似しておりますけれども,色などの点で実物とは異なるとのことです。陰茎形成術によって形成された陰茎には,いずれも内部に尿道が通っており,神経を再建した場合には,尿道内を尿が通っている感覚もあるとのことです。また,形成された陰茎の皮弁の知覚神経と陰核神経を接合すれば,陰茎に知覚,性感を感じることができますが,性的に興奮しても勃起することはできないとのことです。そのため,形成される陰茎に肋軟骨などの支持組織を埋め込む場合があり,そのような場合には,膣などに挿入することが容易となるとのことです。なお,支持組織を入れるか否かにかかわらず,形成された陰茎を口淫することは可能であるとのことです。
  以上のことを踏まえまして,事務当局として,性別適合手術で形成された膣又は陰茎についても,個別具体的な判断によることとはなるものの,要綱(骨子)第一の膣又は陰茎に当たり得るものと考えております。
○山口部会長 ありがとうございました。
  ただ今御説明いただきましたことを踏まえまして,御質問あるいは御意見のある方は御発言をお願いしたいと思います。
○井田委員 今の中村幹事のお話ですが,お聞きしていてよく理解できました。性別適合手術によって形成された陰茎や膣,これらも,言わば生まれながらの陰茎や膣と同じに扱っていい場合があるということです。もちろん,いろいろな態様,形態があるようですので,そこは個別的判断によるというのは,確かにおっしゃったとおりだと思います。例えば,自分の組織,あるいは他人の組織を使ってそういうものを作った,あるいは何らかの物質を使って作ったというとき,最初からそれは条文の文言に当たらないのだというような判断にはならないであろうということです。
  それは,保護法益の理解から来るもので,私は身体的内密領域ないし親密領域をその侵害から保護するのが性犯罪処罰規定による保護であると考えるのですけれども,同じ機能ないし作用を持ち得るものであるとすれば,同じように被害者をそれによる侵害から保護すべきだということになると思うのです。
  ちなみに,傷害罪の場合の人の身体というときに,自分又は他人の組織や臓器を移植した場合や,あるいは一定の物質を埋め込んだというような場合でも,それが身体と切り離せないような形で結合しているのであれば,もはや身体の一部として保護すべきだというのは,恐らく一般的な見解だろうと思われます。それとパラレルに考えることができるのではないかという感じがいたしました。
○小西委員 少し違う視点からになりますが,性の在り方というのは,身体的なレベル,それから心理的なレベル,それぞれに非常に多様ですよね。今,LGBTと言われていますが本当に多様です。その中で,性的な侵襲というのがどうやって行われるかと考えた場合に,すごく古典的な,女性と男性で陰茎が膣に挿入されるという,それだけでは考えられない,例えば,同性の間の性的な侵襲は結構たくさんあると思います。それも含めますと,むしろやはり,これは特に議論にはなかったと思いますけれども,男女含めて様々な性の在り方の人に適用できるようにしていくということは,やはり必要なのではないかなと思っております。
○山口部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでございましょうか。特によろしゅうございますか。
  手術によって形成された膣や陰茎につきましては,最終的には個別事案,個別のケースについての判断ということになるのではないかとは思いますけれども,要綱(骨子)第一の括弧内に書かれております「膣」あるいは「陰茎」に当たり得るという御意見が述べられまして,これに特に反対する御意見はございませんでした。
  この点は,要綱(骨子)を修正する必要が生じるものではないというようには思われますけれども,法文化の際にどのような用語を選択するのかにも関わるところですので,事務当局におきまして条文作成の作業に当たる際には,ただ今の御意見を踏まえて,検討していただくようにお願いしたいと思います。
  それでは,次に,「性交等」の範囲と法定刑の引上げについて,1巡目の議論を踏まえて,更に御議論をお願いしたいと思います。
  1巡目の議論では,性交等の範囲につきましては,多数の方は,先ほど申しましたが,要綱(骨子)のとおりでよいとする御意見でございましたけれども,要綱(骨子)に含まれているもののうち,口淫,あるいは,いわゆる挿入させる行為については含めるべきではないという御意見もございました。他方で,要綱(骨子)に加えまして,膣等への手指の挿入も含めるべきであるという御意見もあったわけでございます。
  法定刑につきましては,強姦罪の法定刑の下限を引き上げる必要はないという御意見もございましたが,引き上げるべきであるという御意見が多数でありました。
  これらの点につきまして,1巡目の議論を踏まえていただき,更に御意見があればお願いしたいと思います。1巡目では,論点ごとに御意見をお伺いいたしましたけれども,本日は,「性交等」の範囲を拡張することと法定刑を引き上げることとの関係なども踏まえて,御意見をお伺いしたいと思います。
  また,1巡目の議論では,要綱(骨子)第二の準強姦罪について,要綱(骨子)第一と同様に法定刑の下限を懲役5年に引き上げる点や,要綱(骨子)第六の強姦致死傷罪の法定刑の下限を懲役6年に引き上げる点につきましては,時間の関係等から十分に御意見をお伺いできなかったようにも思われますので,これらの点につきましても,御意見があればお伺いしたいと思います。
○宮田委員 1巡目で,口淫やさせる行為についての拡大について,反対の意見を申し述べました。私は,膣や肛門への侵襲行為は,客観的な危険性が大きいと申し述べたわけですけれども,その危険性の問題については,子供の口淫の場合には危険である,あるいは,させる行為について,子供が非常に精神的に傷付くという形での小西委員の御意見も頂戴したとは思います。果たして,これが成人について,膣や肛門と同様の物理的・生物的な危険があると言えるのかどうか疑問に思っております。
  口淫について,事務当局から18件の例が紹介されておりますけれども,紹介された例は,成人の被害者の例は18件中4件です。しかも,その被害者は全て20代の方ということでした。少なくとも,させる行為については全て未成年の事例でございます。このような,実際に事件となった例の実態を見ると,口淫,少なくともさせる行為の方は,これはむしろ未成年の保護のための規定と考え,およそ成人まで,させる行為を全て処罰の対象とするということは,現実に沿わないのではないかと感じられるのでございます。
  それとの関係で,法定刑の問題ですけれども,要は肛門性交,口淫,させる行為,これは従来,強制わいせつとして処罰されてきたわけです。そうすると,強制わいせつから強姦と同等の処罰になるということ自体が重罰化だと思うのですけれども,その強姦の法定刑を更に引き上げるということになりますと,二重の重罰化ということが言えるのではないかと考えます。
  第2回でも指摘しましたけれども,資料14や15を見ますと,肛門性交や口淫,させる行為は,3年以下で処罰されているものが非常に多い。これらを含めて懲役5年とするということになりますと,これらの行為は,現在よりも重く処罰されるようになることは明らかだと考えます。少なくとも口淫,させる行為については,従来,強制わいせつとか児童福祉法違反で処罰されてきたもので,これを取り込んで懲役5年とすることには非常に問題が大きいのではないか。強姦と同じにして3年以上にすることに加え,更に5年という二重の重罰化がされるということ自体,問題であるように思います。
  そもそもが,基本的に第177条で従来規定されてきた強姦罪の認知件数自体が,少なくとも横ばいの状態であるわけですから,法定刑を引き上げる必要性というのは乏しいのではないかと考えます。そして,現に,現在の強姦罪でも,言い渡されている刑の7割は5年以下です。法定刑が引き上げられた場合には,量刑傾向は上がることになります。このような立法をしなくても,法定刑の範囲で十分に対処が可能であるところを,なぜ刑を上げる必要があるのかというところが,甚だ疑問に感じるところでございます。
  そして,強姦罪が,懲役5年になったとしても,酌量減軽があるから執行猶予が付けられるではないかという議論がありますけれども,酌量減軽の議論を先取りして執行猶予が付けられるという議論は,倒錯した議論ではないかと思うわけです。法定刑の中で収まるような刑を言渡しできるようにするのが当然なのではないでしょうか。
  今まで,検察庁の求刑基準は,法定刑が上がれば,それに連動して上がってきています。これは,私たちの感覚的な問題で,検察庁が違うと言ったら違うのかもしれませんが。そうすると,強姦罪では,特に事情がない限りは,原則として5年の求刑がされるということにもなり得ます。そこで,私たちが弁護するときに,どこまでを主張立証すれば執行猶予が付くのか,その予想は困難になります。また,裁判の適用にもばらつきが生じてくるおそれがあると考えます。そして,この下限5年というのは,殺人罪の法定刑の下限と同じです。
  平成16年の刑法改正では,殺人罪の法定刑の下限を3年から5年に上げました。そして,強姦罪の法定刑の下限を2年から3年に上げました。この改正の時点では,強姦罪と殺人罪の評価基準は同じではない,そして,殺人罪の方が重いものだということが前提とされていたのではないのでしょうか。殺人罪の保護法益である生命というのは,全ての法益の中でも最も重要なものであることは言うまでもないと思いますけれども,平成16年以降現在までに,強姦罪を殺人罪と同等に評価しなければならないほど大きな価値観の変化が生じたのだろうかというのが大きな疑問です。
  そして,この5年という法定刑,強盗だってそうではないか,ほかだってそうではないかという考えもあるかもしれませんけれども,強盗の法定刑がそもそも合理的なのかという議論をしないで,強姦罪だけ論じるということに果たして問題はないのでしょうか。
  元々は,明治35年の草案の段階では,強盗罪は,僅かばかりのお金を取って逃げるというような事件もあるから3年とされていたものを,貴族院で,強盗というのは人が最も嫌がる罪だといって5年にしたという経緯と聞いております。強盗罪という財産罪の法定刑が何でこれほど重いのだろう。ここを議論せずに,性犯罪の分野のみを捉えて議論することは,こんなことを言っては申し訳ないのですけれども,場当たり的な引上げを招いて,ほかの分野とのバランスを欠いたままで,どんどん重罰化をしていくことにつながりかねないのではないかと思うのです。
  性犯罪と財産罪という個別の問題を比較したときにも問題が起きると思いますし,放火については,個人的な法益ではなくて,これは公共危険罪である。家が燃えることによって社会全体に危険が起きるということで,5年の刑が下限ということになっていたのではないでしょうか。しかしながら,判決が非常に軽いのは,そういう危険は実際に生じないのだけれども,いわゆる独立燃焼説を採って,壁が燃えました,天井がちょっと焦げましたというような場合は,全て現住建造物放火で処罰しなければならない。そういうことで,かなり軽微な事案まで同罪に取り込まれるので,非常に軽い処罰もあるということなのではないのでしょうか。
  そのようなことを考えますと,性犯罪の問題だけ3年を5年に引き上げるという議論が,果たして正しいものなのかどうかということを感じるものです。
  刑の下限を引き上げるということは,量刑の裁量の幅が狭くなるということです。重い事件を重く罰するのであれば,今のままで何も支障はないわけですが,下限を引き上げるということは,現実に軽微な事件,類型的に軽く処罰できるようなものまで,酌量減軽しなければ重く処罰されるということになり,非常にやはり問題があるのではないかと考えるのです。
  そして,傷害致死は3年以上,殺人は5年以上です。もちろん強姦罪というのが,魂の殺人と言われるほど,被害者に大きなダメージを与えるという犯罪であることは十分認識しておりますけれども,殺人と同等,生命を奪う場合と本当に同じにしてよいのかという疑問を持つのでございます。
  前回も指摘しましたけれども,要綱案だと,強姦致傷は6年で,強姦が5年で,この二つの罪は,事務当局からいただいた量刑のグラフを拝見しますと,ピークは2年ほど離れているのに,1年しか法定刑の差がないということでいいのかということもありますし,生命・身体を害したものと刑が1年しか変わらないということは,生命や身体を軽視しているような誤ったメッセージをむしろ発してしまう危険はないのかということを感じた次第でございます。
  準強姦についてですが,準強姦の裁判例の中には,例えば,家族や先生から嫌われたくなかったという,任意の意思に基づいているのだけれども,その関係から,同意に問題があるような事例であるとか,あるいは取引先の男性からの,いわゆるセクハラ的なようなものまで,かなり幅広に取り込んでいます。そうしますと,準強姦罪という条文は,強姦に準じるという形で,今は処罰しているものでございますけれども,この行為の悪質性とか危険性とかいうことを考えますと,暴行脅迫をもってする第177条とは異なった類型のものもあると考えられるのではないかと思うのです。
  ですから,準強姦という言葉は,強姦に準じるという条文が第178条にあるから,今そうなっているだけで,実際の処罰されている抗拒不能の内容などを考えますと,別な類型と考えることが可能であり,少なくとも第177条の法定刑を上げるとしても,第178条を上げないという立法はあり得るのではないかと思うのです。
  そして,この第178条の元々の要綱(骨子)の第二ですけれども,心神喪失や抗拒不能にさせて性交等をしたという規定の仕方なわけですから,例えば,頂戴いたしました資料の中でドイツの刑法を拝見させていただきますと,第177条はいわゆる強姦等,第179条では反抗不能な者への性的虐待ということで,後者の方が軽いという立法です。暴行脅迫によるものと抗拒不能や心神喪失に対するものについて,処罰を同じにしなければならない必然性はないように思えるのです。
○木村委員 今,準強姦の話が出たので,その点だけちょっと触れさせていただきます。
  おっしゃるとおりで,いわゆる薬物影響だとか睡眠中だとか,典型的に準強姦に当たるようなもの以外に,典型的なのは親子関係とか,あと教師・生徒関係とか,そういうのも入っているわけですね。親子関係みたいなものが,もし今度の法改正で,特別類型として,重く処罰されるということになると,教師と生徒関係って,これもやはりかなり悪質な例が多くて,それが特別類型から外れることになります。では,どこで拾うかということになるのですけれども,準強姦,準強制わいせつという,いわゆる「準」の規定で拾う可能性がかなりあるのではないかと思います。それはやはり,かなり重く処罰する必要があるものもあって,そうしますと,準強姦だけ軽いまま残しておくというのは,バランスがとれないのではないかと,強姦罪の法定刑を上げるのであれば,やはり準強姦も上げる必要があると思います。
○今井委員 先ほどの宮田委員の御意見のうちの要綱(骨子)第一に関連するところだけ,意見を申し上げます。宮田委員は,口淫や挿入させる行為というものが膣性交や肛門性交と同程度の,これほど重く処罰する危険性あるいは実態があるのか,という疑問を提起されていたのだと思われます。
  この点に関連しまして,本日も小林関係官からの資料の御説明がありましたし,また,小西委員,齋藤幹事からも現場の状況の御説明がありました。また,第1巡目のところでも,角田委員からも御指摘があったと思いますけれども,挿入する行為の場合でも,口淫の危険性が軽視できないという実態があること,また,挿入させる行為というものも,日本では統計の取り方,あるいは,正にそういった類型が犯罪とされていないがためにデータとして上がってこない可能性が高く,したがって,未成年を対象とした犯罪件数しか認知されていないと思われるわけですけれども,実態としては,ここまでの処罰範囲が,従来の膣性交と同程度の危険性あるいは悪質性,重大性というものを持っているということは,先の現状の御説明からも十分理解できるところであります。また,そうした行為が,今回考えております強姦等という罪の保護法益である性的自己決定権を強制的に侵害するという点では,何ら違いはありませんので,私は法定刑の話の前提といたしまして,この処罰範囲の切り口としては,これで妥当なものだと思っております。
○北川委員 前にも申し上げたことと重複するのですけれども,今回,要綱(骨子)第一の強姦罪の改正のように,法定刑5年以上という刑に上げるということを前提に考えますと,性交等の範囲をここまで拡張していいのかということについては,慎重な議論が必要だと思います。
  それとの関係で御質問させていただきたいのですけれども,正に口淫という事例と,それと手指であるとか,あるいは異物を挿入した場合の事例では現行法上同等に扱われているのか,資料14で両者の量刑の相違が実感値として把握できないので,事案の関係上,読み取れない部分もあるのですけれども,実務的な感覚として,口淫と手指及び異物を挿入した場合の量刑の,著しいというか,質的な違いというものはないのでしょうか。そこのところを教えていただければと思います。
○山口部会長 御質問の点は,今確認しておりますので,先にほかの点についての御意見でも結構ですので,頂けませんでしょうか。
○橋爪幹事 今,北川委員からも御指摘がございましたが,法定刑の引上げの問題と性交等の範囲の問題は,リンクして考える必要があると存じます。すなわち,姦淫行為と同等の当罰性を有する行為が何かという観点から処罰範囲を検討した上で,それについて一括して法定刑の引上げの当否を検討する必要があると考える次第です。
  先ほどから,膣性交と肛門性交,口淫行為が同等の当罰性を有するかという観点から御議論がございました。この点につきましては,私個人の感覚なのですが,被害の現場から遠いところでの社会通念などのイメージによって,法益侵害の程度を推し量るべき問題ではなくて,むしろ被害者の方の被害感情やその心身の被害の程度という観点からのアプローチが重要であるように考えております。
  また,膣性交につきましては,妊娠の危険性がある等の生殖行為としてのシンボリックな意味が認められますが,それのみによって,これを別個に扱うことには合理性がないように思います。むしろ,相手の性器が身体の開口部から強引に入ってくるところに重大な法益侵害性があるという観点からは,肛門性交と口淫行為には,膣性交と同等の当罰性があるとする要綱(骨子)には,十分な合理性があると思われます。
  このように,「性交等」に該当する行為全てについて同等の当罰性があると考える以上は,その内部で区別をするべきではなく,包括的に法定刑の引上げの当否について検討する必要があると思われます。
  そして,法定刑の引上げにつきましては,議論があり得るところかと存じますが,飽くまでも現在の量刑傾向に対応した法定刑を整備する必要があるという観点,また,やはり強盗罪との逆転現象の解消が重要であるという観点からは,法定刑を5年に引き上げるという要綱(骨子)にも一定の合理性があると考える次第です。
○小西委員 最初に子供の例だけが挙がったではないかという御指摘を頂いたと思うので,それについて簡単にお答えしておきます。
  多分,例えば,月経中の被害者がいるときに,それでも強姦,性交してしまう加害者もいるのですけれども,そういうときに口淫するというような形で,口淫だけの被害の人は経験したことがあります。さらに,いろいろな事情があって繰り返し,例えば,DVなんかもそうですけれども,繰り返し起こっているときの被害の一つの事件としての一つの被害が口淫であることは,それは非常にたくさんあると思うので,子供だけではないということは申し上げておきたいと思います。
○角田委員 先ほど宮田委員のお話の中で,口淫の問題について,物理的危険性ということが出てきたと思うのですけれども,ここで考えるべきは,もちろん身体的な物理的な危険ということもあるのですけれども,それとともに,その人のセクシャリティーとか性的自己決定権とか性的自尊感に対する侵害というのが保護法益に含まれているわけですので,それは口淫であっても,被害者から見れば,そのことの自分に対する屈辱的な重大さという点については,何ら変わりがないと私は思います。
  それから,現在より結果的には重く処罰するということになってきているのですけれども,それは今まで,性暴力犯罪というのは,この社会で非常に軽く見積もられてきて,被害者が軽くあしらわれてきた。そのことによって,今までの刑は,軽く設定されていたのだと思うのです。そこで,ようやく最近になって,被害を受けた人が,自分に何が起きたかということを自分の言葉で語ることができるような環境が作られてきたわけです。その中で,本当はこれは何だったのかということが,社会的にもそのことに対する理解が広がってきたことによって,今までの刑は低すぎたのではないかと,こういう議論が出てきたのだと思っております。
  それから,もう一つ,他の分野とのバランスの問題は,確かにそうだと思うのです。私も,このように継ぎはぎだらけに刑法を改正していくと,必ずその問題は逃れられないということで,本当は全部,御破算で願いましてはと,最初から変えるというのが,恐らくアンバランスを避ける正しい方法だと思うのですけれども,多分この社会では,それは現実的ではないでしょうから,取りあえず問題がはっきりしているところからやるというのは仕方がないと思います。今,つまりここは性犯罪の問題を議論しているわけなので,議論していない他の犯罪とのアンバランスが多少生じても,それは次にそちらを改正してもらうという方向でやるしかないのではないかと私は思っております。
○小木曽委員 今の角田委員の御発言と関連があるのですけれども,先ほど殺人との比較の話が出ました。確かに要綱(骨子)では下限は一緒になるかもしれませんけれども,刑の軽重は,上限も併せて見る必要があるのではないかという点だけ申し上げたいと思います。
○香川幹事 先ほど北川委員から,量刑傾向についてお話がございましたので,裁判所の立場からお話しできることだけになりますけれども,少し発言させていただきたいと思います。
  一般的に申し上げまして,量刑自体は,いろいろな要素を個別具体的な事案に基づいて決めておりますので,一概にこれとこれを比較してどうなのかというのは,なかなか申し上げにくいところでございまして,いろいろお話に出ました,例えば口淫などをとりましても,それを比べてどうかということは,なかなか言いにくいところがございます。
  特に,口淫につきましては,これまで強制わいせつ罪で処罰されていたことと思われますので,これが強姦になったときに量刑がどうなるかという比較は,将来予測も入りますので,難しいかなとは思います。
  ただ,お配りいただいた資料なども拝見いたしまして,実務家の感覚としては,少なくとも口淫については,強制わいせつ罪の中では重い類型として処罰されてきたのかなとは思います。けれども,繰り返しになりますが,それが強姦に含まれたときにどうなるかというのは,なかなか事案ごとの判断ということで,難しいのかなと思っております。
○加藤幹事 先ほど北川委員からお尋ねのあった件について,現在把握できる範囲でお答えを申し上げます。
  香川幹事から御指摘があったところとも関連するわけですが,資料14の中で,北川委員からのお尋ねは,②に分類されている口淫を含む強制わいせつというものと,③に分類されている異物挿入を含む強制わいせつの中でも手指の挿入という類型,その二つを比べて,どちらが重い軽いがあるのか,量刑傾向としてはどのようになっているかというものだったと認識しております。
  香川幹事から御発言があったように,口淫を含む強制わいせつは,強制わいせつの類型の中でも比較的重い量刑傾向の類型だとは考えられます。②の資料を御覧いただきましても,強制わいせつ罪の量刑としては比較的重い方ではないかと考えられます。
  一方,③の異物挿入類型という方は,ここに挙がっております例は,手指ではなく性具の挿入,性具を用いたものが挙げられておりまして,強制わいせつ行為の中で,手指を入れるのが中心的な行為になっているという類型については含まれておりませんので,手指の挿入がどの程度に評価されているかということが,資料からは十分に把握できないというのが現状でございます。したがいまして,もし香川幹事のほかにも,実務家の委員,幹事の方々から,その辺の御知見があれば更に伺いたいと思います。
  加えまして,口淫をどう評価するか,あるいは異物をどう評価するかという評価の問題でもございますので,量刑傾向から直ちに結論が得られるというものでもないと承知しております。
○山口部会長 ありがとうございました。
  それでは,本日御意見を頂いていない点で,強姦致傷の法定刑の下限を6年とするという点につきましてはいかがでございましょうか。
○橋爪幹事 この点につきましては,もちろん第一の罪の法定刑の引上げの問題が前提になりますけれども,強姦罪本体につきまして,法定刑を5年に引き上げるのであれば,それに連動しまして,強姦致傷の罪につきましても引上げが必要になるかと存じます。
  もっとも,具体的事実関係によりましては,強姦致傷行為についても,執行猶予を付すべき事案があるようにも思われます。そのような観点からは,正に強盗致傷に関する議論と共通するわけでございますけれども,刑を減軽した場合,執行猶予を付す余地を認めるという意味において,法定刑の下限を6年とする要綱(骨子)が適当であるように考えます。
○井田委員 この点についても何回か発言しているので,繰り返しになってしまうかもしれませんけれども,重い類型の範囲について,まとめてお話ししておきたいと思います。
  やはり出発点は,被害の実態ないしは保護法益の内容だと思います。男性器の体腔内への侵入を伴うような非常に濃厚な身体的な接触の経験を無理やり共有させるというのが被害の実態であると考えれば,それが膣であろうと肛門であろうと口腔であろうと,濃厚な身体的接触という観点から見れば変わらないということで,それらは同じ評価に値するとすることに十分理由があると考え,この点では要綱(骨子)を支持したいと思っております。
  それで,男性器の体腔内への侵入を基準にすることのもう一つの理由を挙げるとすれば,それは刑法という法律の本質的な機能に関わります。私は,強い衝動を持って行われる行為に対して,強いサンクション,制裁を道具としてこれで対応するのが刑法であると考えます。男性器の体腔内への侵入というのは,いずれも性的欲求の直接的な満足を目的とする行為という点で共通しています。強い欲求が働くところでは,その反面において,被害者を保護する必要がより強くなります。刑法は,他人の財産を侵害する行為の中で,領得目的による場合と毀棄目的による場合とを区別して,領得目的の場合は一般的にはより強い衝動に基づく形態なので,より重く処罰している。ちょうどそのことと関係は同じなのではないか。
  つまり,より直接的に性的欲求を充足しようとする行為であるからこそ,その反面において被害者の保護の必要性も高まるという,そういう関係にある。そしてそのことは,被害者側に生じるダメージの大きさにも対応している。ここから,男性器の体腔内への侵入を伴う身体的接触の強制については,膣か肛門か口腔かを区別せず,同じように重く処罰してよろしいのではないかと考えるのです。
  他方で,手指とか性具の挿入を除外するのは,今申し上げたような意味で,性欲の直接的な充足を目的とする行為ではないということが一つ,それから,もう一つの理由は,仮にそれらを入れるとすると,重い類型の外延がかなり曖昧になってしまうということです。手指を口に挿入するというような場合がそうですが,それは性犯罪ではなくて,暴行罪に当たる行為までこれに含まれることになりかねないという問題も生じてきます。5年以上20年以下という刑の幅に合うかどうかという観点から見れば,むしろ手指・性具の挿入は強制わいせつの枠内で場合により重く処罰することで足りるのではないかと考えます。
○山口部会長 ありがとうございました。
  先ほど,準強姦罪の法定刑に関しては,木村委員からも御発言がございましたけれども,この点につきまして,更に御意見があればお伺いしたいと思います。
  現行法では,強姦罪と準強姦罪とが同じ扱いになっていて,要綱(骨子)は,強姦罪が上がるなら準強姦罪もそれに伴って上がるということでございますが,この点についてはいかがでございましょうか。
○橋爪幹事 この点につきましては,やはり準強姦と強姦の同質性を十分に意識する必要があると思います。すなわち,準強姦は「準」と付いておりますが,これは別に準優勝や準特急のように「準ずる」という意味の「準」ではなくて,準用するという意味の「準」でございますので,現行法においても,これは全く強姦と同様に扱われてきた行為でございます。
  また,実質的に考えましても,被害者の心神喪失状態を利用する姦淫行為というのは,年少者に対する姦淫行為と同等の当罰性があると思われますし,また,抗拒不能に乗ずる姦淫行為というのは,心理的な強制によって抵抗が著しく困難な状況を利用した姦淫行為でございますので,実際には,脅迫による心理的な強制の影響で姦淫をする強姦類型と共通する側面がございます。
  このような観点からは,両罪は,実質的には同一構成要件に属するような実質があるといえますので,法定刑については共通の観点から検討する必要があると考える次第です。
○山口部会長 ありがとうございました。
  ほかに,御発言いただけることがあれば,いかがでございましょうか。
  1巡目でも大分御議論を頂いておりまして,いろいろな論点は出ているように思うのですけれども,いかがでございましょうか。よろしゅうございましょうか。
  ありがとうございました。それでは,この段階でまとめさせていただきますと,「性交等」の範囲につきましては,1巡目と同様でございまして,口淫や挿入させる行為については含めるべきでないという御意見もございましたけれども,多数の方は,要綱(骨子)のとおりでよいという御意見であったように思われます。
  強姦罪の法定刑についてでございますけれども,これも1巡目でいろいろ御意見を頂きました。「性交等」の範囲を要綱(骨子)のように広げるのであれば,下限は引き上げるべきでないという趣旨の御意見もございましたけれども,多数の方の御意見は,要綱(骨子)のとおり引き上げるという御意見であったように思われます。
  また,要綱(骨子)第二の準強姦罪につきましては,これも法定刑を引き上げるべきでないという御意見がございましたけれども,多数の方は強姦罪と同様に引き上げるべきであるという御意見でございました。
  要綱(骨子)第六の強姦致死傷罪の法定刑の下限を懲役6年に引き上げるということについては,疑問を述べられる方もあったかと思いますけれども,多数の方は下限を6年とするということでよろしいという御意見であったように理解させていただきました。よろしゅうございましょうか。
  次に,要綱(骨子)第五,すなわち,集団強姦等の罪を廃止する点についての審議に移りたいと思います。この点につきましては,1巡目の議論で,集団強姦の罪の悪質性に対する評価として,集団強姦罪を維持し,法定刑の下限を懲役6年とするべきだという御意見がございましたが,多数の御意見は,要綱(骨子)のとおり,廃止するということでよいという御意見でございました。
  この点に関しまして,更に付け加えてお述べいただける御意見があれば,お伺いしたいと思います。特に,前回御意見をお述べいただいていない方で,要綱(骨子)と異なる御意見がございましたら,是非御発言をお願いしたいと思います。いかがでしょうか。
  維持すべきだという御意見がありましたが,強姦罪の下限を5年に上げ,強姦致死傷を6年に上げるのだとすれば,その量刑の範囲で賄えばよいという御意見が多数だったということかと思うのですけれども,さらに,本日それに追加して御発言を頂けることがあれば,お願いしたいと思いますが,いかがでございましょうか。
(一同 発言なし)
  1巡目の議論で大体尽きていると理解してよろしいでしょうか。
  ありがとうございました。それでは,集団強姦等の罪につきましては,維持すべきだという御意見がございますけれども,多数の方は要綱(骨子)第五のとおりでよいという御意見であるというように理解させていただきました。
  これで,要綱(骨子)第一,第二,第五,第六の内容面についての御意見はお伺いしたということでございますけれども,最後に,1巡目の御議論の中で,要綱(骨子)第一の罪の罪名や「性交等」の定義などの規定ぶりについて御指摘がございましたので,改めて事務当局から,検討の経過あるいは問題点についての御説明をお願いしたいと思います。
○中村幹事 事務当局から,要綱(骨子)第一の中で用いられております「性交等」の用語や定義の書きぶり,それから強姦罪の罪名についての検討状況等について御説明いたします。
  第2回会議におきまして,橋爪幹事から,要綱(骨子)第一のように改正し,肛門性交や口淫についても対象行為に含めるとした場合には,「強姦罪」という罪名は適さないのではないかとの御指摘がございました。
  この点につきましては,事務当局といたしましても,仮に,この要綱(骨子)のとおりに御答申をいただいた場合には,罪名についても変更することを検討する必要があると考えております。この罪名につきましては,実務上用いるというのみならず,刑法の条文の見出しとして用いることが想定されます。
  現行の「強姦」という用語は,男性器の女性器に対する挿入のみを意味するものと解されておりまして,肛門性交や口淫に拡張することとの関係でも,そぐわないものと思われます。
  そこで,例えば,要綱(骨子)第一で用いております「性交等」の用語を使いまして,「強制性交等」とすることなどを考えておりますけれども,ほかによりよい案などがございましたら,委員,幹事の皆様の御意見を伺いたいと考えております。
  また,これと関連いたしまして,要綱(骨子)第一におきましては,現行法で「姦淫」とされている対象行為を拡張することとし,それを「性交等」と呼ぶこととした上で,括弧内にその定義を置いております。この点に関しまして,例えば,フランスにおきましては,条文上は「性的挿入行為」とのみ規定しておりまして,その具体的な意味については定義規定などは置かず,判例によってその意味が明らかにされているようでございます。
  そこで,今般の我が国の刑法改正におきましても,このような形での規定ぶりが可能かどうかということについて検討いたしました。この「性的挿入行為」のほかに,例えば「性的侵襲行為」「挿入行為」「性行為」などを考えてみたわけでございます。もっとも,どの用語を用いるとしても,それがどのような行為までを対象とするのかという点が一義的に明らかになるものではありませんので,その用語のみで処罰範囲を明確にすることは困難であって,構成要件の明確性の観点から,要綱(骨子)第一の括弧内のような定義を置く必要があると考えたものでございます。
  この点につきまして,構成要件の明確性といった要請を踏まえつつ,括弧内のような定義を置く必要があるのか,また,定義を置くとしても,よりよい表現ぶりはないかといった点を含めまして,委員,幹事の皆様の御意見を伺いたいと考えております。
○山口部会長 今の点につきましては,最終的に,この要綱(骨子)のとおり答申がなされたという場合に,事務当局において法案を作成する際に検討されることでございまして,当部会において結論を出すといった性質のものではございませんが,委員,幹事の皆様の御意見もお伺いした上で,それを参考にされたいという趣旨でございます。
  ただ今の事務当局の御説明を踏まえまして,何か御意見がおありの方はお願いしたいと思います。
○香川幹事 ただ今,事務当局から御説明のあった2番目の点につきまして,裁判所の立場から若干発言させていただきたいと思います。
  以前,第2回であったかと思いますけれども,田邊委員の方から,裁判官としての観点から,次のように御発言があったかと記憶しております。すなわち,法律を適用する立場にある裁判官としては,構成要件の外延ができるだけ明確になってほしい,また,現在提案されている要綱(骨子)の記載については,明確性の観点からは,特段大きな問題は感じないという趣旨の発言があったかと思います。今,事務当局からもお話がありましたけれども,私も基本的には同じように考えております。
  ただ,補足させていただくとすると,その趣旨は,今の表現でなければならないということまで申し上げるつもりはございませんで,また,こういう記載がいいのではないかと,こういう意見も特に申し上げるつもりはございません。明確性という観点を踏まえて,いろいろな表現を検討していただくことに,反対することまではいたしませんということを補足的に述べさせていただきたいと思います。
○山口部会長 もしこれが法律になった場合に,実際に法の適用をされる立場からの貴重な御意見を頂きました。
  ほかにいかがでございましょうか。
○橋爪幹事 2点申し上げます。
  まず,罪名でございますが,これは,第2回の部会で発言させていただきましたように,処罰対象を姦淫行為に限定しているわけではありませんので,「強姦」という名称を使うことは適切ではないと考えます。そして,第一の罪につきましては,行為態様が「性交等」と規定されておりますので,罪名につきましても,「性交等」という文言を用いることが好ましいように,個人的には考えておりました。
  このような次第で今事務当局の方から御提案いただきました「強制性交等の罪」という御提案につきましては,「性交等」という表現が用いられている点,また,強制という表現につきましても,強制わいせつ罪とも平仄がとれる点から,賛成したいと考えます。
  次に,「性交等」の具体的な定義の要否でございます。私も刑法の研究をしている身としまして,一応,刑法典に関する美学のようなものを持っておりますので,括弧書きでこのように具体的な性行為の内容について,詳細な定義を付すことについては,若干の違和感があることは否定できませんが,しかし,このような定義がなければ,「性交等」の具体的な内容が明確にはなり難いように思われます。
  先ほど御紹介がございましたような「性的侵襲行為」や「性的挿入行為」という文言を用いた場合ですと,例えば,本日議論がありました指や異物等の挿入行為などが,これに該当するか否かが文言からは明らかにされません。やはり刑法の明確性の原則の観点からは,「性交等」の範囲や行為態様を限定するために,具体的な定義規定を置かなければ,安定した法適用は困難であると考えます。
  このように考えますと,この要綱(骨子)どおり括弧書きにするか否かという点については,なお検討の余地があると思いますが,「性交等」につきまして,具体的な定義規定を設けるという要綱(骨子)の方向には賛成したいと存じます。
○角田委員 私も要綱(骨子)に賛成です。
  この書き方だと,別に法律家でなくても,普通の人が読んでも,何のことを言っているのかと分かるので,その点が非常に優れているのではないかと思います。現行の刑法だと,私も法律の勉強を始めたときに,いろいろ首をかしげることがたくさんありました。例えば「姦淫する」とありますが,これは日常用語ではありませんから,「姦淫」とは何かという解説をもう一つ言わなければいけないと。普通の人は,刑法の今の第177条を読んでも,「姦淫」というのは何のことかと,そう簡単には分からないということがあるわけですけれども,これからの刑法の在り方としては,誰が読んでも分かるということはとても大事なことではないかと思いますし,それから,裁判員裁判ということを考えても,普通の人に分かる用語を使うというのはいいことだと思っております。
○北川委員 私も,特段の意見を持っているわけでもありませんし,強姦の罪が性交等の罪ということになるのであれば,「姦淫」という言葉を外して,このような平たい形に書く必要が出てきてしまうというのはよく分かるのですが,逆に,強盗強姦の罪なんかのときの見出しというのはどうなってしまうのかなと。長ったらしくなって,ややこしいなというような嫌いもあります。ということになりますと,「姦淫」という言葉を残しつつ,「姦淫を始めとした性交等」という書き方は,選択肢として中途半端かもしれませんけれども,なかなか名称は難しいですけれどもそうした工夫もあり得るのではないかと思い,あえて申し上げた次第です。
○山口部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでございましょうか。
  この問題は,事務当局の方で最終的に非常に悩まれることになる,そういう性質の問題ではないかと思いますが,何か御示唆を頂けることがあれば有り難いと思います。いかがでしょうか。特によろしゅうございますか。
○小西委員 もう今の「姦淫」の議論に付いていけなくなってきていますが,やはり分かりやすくということは是非お願いしたいと思いますし,それから,美しくないといけないということを何度か,いろいろな方が御発言されてはおります。法律ってそういうものかなとは思って,素直に思おうと思っているのですけれども,でもやはり,被害者の権利ということがそもそもこの議論の初めであれば,きちんとそれを救うために,多少文言が非対称になっても,中に何か例示があっても,どうしていけないのかと,私の立場では思わざるを得ません。そういう点では,分かりやすく誤解のないようにと思います。
○角田委員 今の小西委員の意見を聞きながら思ったのですけれども,私,随分前に,強姦の被害者の損害賠償請求の裁判をやったことがありました。裁判では,被害者本人が原告本人尋問で,自分がどういう目に遭ったかと答えるわけなのです。そのときに,どんな言葉を使って説明するかということで,その女性が望んだことは,私はできるだけ客観的に言いたいということで,ここにあるような陰茎とか性器とか膣とか,そういう言葉を,つまりこれ,解剖学的にそう言うしかないわけですよね。ほかの名前はないわけですから。そういう言葉を使って,彼女は話をしたいということで,そういうことを選択したことを思い出しましたので,被害者にとっても,実はそういう言い方の方が楽なのかもしれないと思います。
○山口部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。よろしゅうございますか。
  ありがとうございました。ただ今,貴重な御意見をいろいろお伺いいたしましたので,事務当局におきましては,これらの御意見を是非とも参考にしていただきたいと思います。
  それでは,本日の審議はこれで終了とさせていただきたいと思います。次回は,要綱(骨子)第三及び第七について,2巡目の審議を行いたいと思います。
  次回会議の場所等の予定につきまして,事務当局から御連絡をお願いします。
○中村幹事 次回は,3月25日金曜日午前9時15分からです。場所につきましては,おってお知らせいたします。
○山口部会長 それでは,次回第5回の会議は,3月25日金曜日の午前9時15分から行います。
  なお,本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することにさせていただきたいと思いますが,配布資料のうち,資料30の最終ページの写真につきましては,ホームページでの公表に適さないものと思われますので,これにつきましては公表しない取扱いとさせていただきたいと思いますが,そのような取扱いということでよろしゅうございましょうか。
(「異議なし」の声あり)
○山口部会長 ありがとうございました。それでは,そのようにさせていただきます。
  それでは,これをもって終了といたします。本日はどうもありがとうございました。
http://www.moj.go.jp/content/001176868.txt
-了-

法制審議会
刑事法(性犯罪関係)部会
第5回会議 議事録

第1 日 時  平成28年 3月25日(金)   自 午前 9時15分
                         至 午前11時48分

第2 場 所  東京地検会議室(1531号室)

第3 議 題  1 要綱(骨子)第三について
        2 要綱(骨子)第七について
        3 要綱(骨子)第四について

第4 議 事 (次のとおり)

議        事

○中村幹事 予定の時刻になりましたので,ただ今から法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第5回会議を開催いたします。
○山口部会長 おはようございます。本日は御多用中のところお集まりいただきまして,誠にありがとうございます。
  本日,北川委員,松尾関係官,小林関係官におかれましては,御欠席と伺っております。
  本日は,要綱(骨子)第三と第七について審議する予定となっておりますが,このほかに要綱(骨子)第四の適用範囲に関しましても御審議いただきたいと考えております。
  具体的な内容につきましては,後ほど事務当局から御説明いただくことになっております。
  まず初めに,事務当局から配布資料の説明と御報告をお願いします。
○中村幹事 本日,新たに配布する資料は3点ございます。資料31から33までです。これらは要綱(骨子)第四の非親告罪化の適用範囲に関する資料ですが,その内容につきましては,後ほど御説明させていただきます。
  また,いつものとおり,前回までの配布資料を机上に置かせていただいております。なお,第1回の部会でお配りいたしました資料5の内容に関わることでございますけれども,3月7日に国連の女子差別撤廃委員会の最終見解が示されました。当部会で御審議いただいております諮問に関係する内容も含まれておりますので,日本語訳が出来次第,資料の更新をさせていただきたいと考えております。
  併せまして,事務当局から,当部会におけるヒアリングに関する御指摘,御要望について,御報告申し上げます。
  最近における国会の御審議の中で,「性暴力の被害者に寄り添った刑法の見直しの議論を行うために,法制審議会の部会で被害者や支援者のヒアリングを行うことが必要ではないか」などとの御指摘がありました。また,これまでに当部会あるいは部会長宛てに送付され,皆さまにもお配りしております要望書等の中にも,被害当事者からの被害実態のヒアリングを求める御意見が含まれておりますので,御報告,御紹介させていただきます。
○山口部会長 ありがとうございました。
  ただいま御報告のあったヒアリングの件につきまして,皆様の御意見をお伺いしたいと考えております。ヒアリングにつきましては,既に御案内のとおり,「性犯罪の罰則に関する検討会」におきまして,12の個人・団体からのヒアリングが実施されており,検討会にも参加されていた委員・幹事の皆様は,そのときに直接聴いておられるわけでございますし,その議事録がこの部会の資料10-1,10-2としても配布されております。したがいまして,検討会に参加されていない委員・幹事の皆様もこれをお読みになっているわけでございますが,その上でこの部会においても更にヒアリングを実施する必要があるかということについて,御意見をお伺いしたいと思います。
○角田委員 私は基本的に実施した方がよいのではないかと思っておりますので,そのことをちょっと説明させていただきます。この要望書が出た時期はもう法制審当部会の審議が終わりに近付いている頃なので,普通の慣行で考えれば,もうそんな時期に言っても駄目ではないかと思われるかもしれません。そういうことをわきまえた上で,やはり終わる前に是非と,この要望が出されたことはとても切実な問題ということを表しているのではないかと思います。
  それで,日程の問題とかいろいろあると思うのですけれども,ただ時間的にはこの会議はそれほどきつくはないということだと思うのです。時間的に多少のヒアリングを受けるぐらいの余裕があるのではないか。いつまでに答申をしなければいけないとなっているとも思いませんし,何しろ100年以上遅れてきた問題ですので,ここで1回や2回の時間を急がなければいけないということは多分ないだろうと思うのです。それで,ヒアリングを聴くことの必要性・メリットということで,確かに私も検討会とは重ならないようにするということは必要なことだと思っています。ですから,もし聴くとすれば検討会では聴かなかった人を対象にするということが必要だと思います。
  こちらの委員についても,確かに検討会の委員であった人は聴いておりますけれども,新しく法制審になってから委員になられた方は,議事録でお読みになっていると思いますけれども,こういう切実な話は文字で知るよりは,やはり当事者の具体的な声を通じて,生の発言を聴くということはとても大事ではないかと思っております。それでは,やることに何かデメリットがあるか。それは特に私はないのではないかと思いますし,議論が振出しに戻る心配もないと思っています。では誰に聴くかということになってくるのですけれども,「性暴力禁止法をつくろうネットワーク」の要望書の最初に出てくる団体で,「性暴力と刑法を考える当事者の会」,この会の人たちのシンポジウムの報告とか,それからその代表者の山本さんの新聞でのインタビュー記事が載っておりますので,私はこの方を聴くのであれば意味があるのではないかと思っております。もし時間的余裕があれば,支援団体の人から聴くということも,もちろんよいと思うのですけれども,どうしてもそれほどたくさん時間をとれないということであれば,当事者の中で山本潤さんを中心にすることはどうかと思います。
  検討会でも当事者としては小林美佳さんのお話を私たちは直接伺ったのですけれども,小林さんの場合は,強姦として割と理解しやすいと言ったら変な言い方ですけれども,状況だったと思うのですね。知らない相手,夜,それから野外であったということなのですが,要望書をお読みになっていると思いますけれども,山本さんは13歳の頃から7年間,実の父によって性的虐待を受けたという体験で,そういう体験については,私たちは直接には聴いていないと思いますし,要綱(骨子)第三の事例を取りまとめるに当たって参考になるのではないかと思っておりますので,スケジュール的に特に問題がなければ,例えば山本さんから聴くということで,御検討いただいたらどうかと思っております。
○小西委員 私も角田委員の意見に賛成です。なぜこのような要請が時期外れというのですか,そういう時に来るのかということをやはり考えていただきたいと思います。
  私はこの部会からの参加ですので,以前の聴取には参加しておりませんけれども,法律を改正する議論をするときにいる人たちは,当然現在の社会の実情とか,被害の実情,心理について,あるいは本人の社会的な問題について知った上で議論するというのは当然のことなのだろうと思うのですね。ところが,やはりこの中では実際にそういうケースはたくさんあるのですかと。直接はそうは聴かれませんけれども,そういうようなことが問題になったり,それから私と齋藤幹事が基本的には実際にしょっちゅう被害者に会って支援している者なのですが,この2人が述べていることが,単に一つの主張として捉えられてしまうような状況というのが,非常におかしいと思うのですね。自分としては実情を伝えているにすぎないわけです。それもちょっとパワー足りないぞと言われていると思うのですけれども,そのことを考えますと,特に,生の声で実際にどういうふうに困っているかということを,間接的ではなく聴いていただくということも,是非必要なのではないか。現実が見えていないのに法律の改正を議論する。とても危ないことなのだと思うのですよね。私はそういう意味では,やはり何度でも聴いていただくこと,それから時期もいつでも聴いていただくことが必要なのではないかと思っております。
○宮田委員 この部会での議論は,要綱(骨子)についての議論をすると理解しております。「性犯罪の罰則に関する検討会」の際のヒアリングで,今,角田委員がおっしゃられたような類型についても,支援をなさっている方々の御意見は頂戴しています。
  そして,私たち委員も,様々な要望書,当部会に送られてきたもの,検討会の際の委員はその時に送られてきたものに目を通しておりますし,私の事務所には個別に書籍や意見書が送られてきております。
  私はそれに目を通した上で意見を述べております。私の意見がそういうものを無視していると理解されているとすれば,非常に遺憾です。私は弁護をするという切り口から意見を述べています。
  被害者団体などから出てきている御意見を拝読しておりますと,刑法の大原則,刑事訴訟法の大原則,刑事政策的な重要な視点などについて,共通の理解がないように思います。更に,検討会でのヒアリングは12団体中,2団体が加害者の支援に関わる方のものでしたが,残りは全て被害者に関わる方々の御意見です。今般,新たにヒアリングをするということであれば,別な視点からのヒアリングも必要なのではないかと私は思うのです。この国民の多くがこの部会の議事録に注目しています。刑法は謙抑的でなければならない,構成要件は明確でなければならない,刑罰の機能はどういうものか等の刑法の大原則や,あるいは検察官に立証責任があって,その証明の程度は合理的疑いを超える高度なものでなければいけないという,刑事訴訟法の原則は,本来であれば常識として国民全てが共有しなければならない問題です。こういうことも,この機会に御説明申し上げることも必要なのではないかと思えるのです。
  また,刑事政策の在り方について,重罰化が刑事政策の中でどのような意義を持つのかという視点も必要ではないかと思うのです。刑罰の持つ意味,刑務所での受刑の実態,保護観察の実態等の,我が国の状況についての知識の共有も必要でしょうし,海外で刑が重くなっているという話こそ紹介されましたが,実際には,判決では刑務所に入れるのではなく,治療等の代替処分を言い渡したり,刑務所に入れずにGPSで監視して,社会の中で更生する方法を選択するという国もあるのです。刑罰を重くする視点しかない政策についての見直しも本当は必要なのではないかという気がします。
  そして,何より弁護の立場から言わせていただければ,被害者供述を信用する余りに,えん罪が起きているという事実については,何度繰り返しても,繰り返しすぎることはないと思っています。客観証拠が出てきて覆された性犯罪の事案,今年は幾つかの事件がありました。これから検討する要綱(骨子)第三の監護者の類型の危険性そのものにもつながる論点かと思われますけれども,先般,大阪で出た再審無罪の事件,これは同居の親族間の事件でございます。あるいは被害者供述の問題については,先般,福岡高裁宮崎支部で鹿児島で起きた事件がDNA鑑定によって被害者供述の信用性が否定されて破棄された事件も出てまいりました。更に,今月,大阪地裁堺支部で強姦事件の無罪事件が出されたとの報告を受けております。この1年ほどでも,性犯罪について複数の無罪事件が出ております。なぜ,こういうえん罪が起きてしまうのかのメカニズムなどについて,知識が共有されるべきではないかと思います。更に言えば,被害者供述が持つ問題性についての心理学的な分析なども必要でしょう。
  また,全く違う視点の問題もあります。加害者の立ち直りのためには加害者が加害行為を行う心的メカニズムなどについても,知識として共有すべきと思います。
  被害者からのヒアリングの要請はたくさん出てきています。それは被害者団体,被害者の支援の団体の方たちが声を上げているからですが,加害者側からの声は,まず上がりません。事件を起こして立ち直っていれたとしても声を上げることはできません。問題を起こし続けているのであれば,そんな人の意見は聴く必要もないのかもしれませんが,なぜそうなのかを知る必要があります。要請の意見が出てこない部分についても,聴く必要があると思いますし,声が上がっているからといって,必ず聴かなければならないのかともいえるかと思います。
○小木曽委員 既に検討会で2回のヒアリングが行われておりますが,それで全ての意見を聴くことができたというわけではもちろんありませんし,他方,ここでもう一度ヒアリングをしたから,それで全ての声が拾えるというわけでもないということだろうと思います。しかし,そのような御希望が寄せられていて,検討会では聴くことのできなかったカテゴリーのと言いますか,皆様の意見を聴くことができるということであれば,今の,宮田委員の御発言も含めて,そういうバランスのいい人選を考えた上で,ヒアリングを実施することが検討されてよいのではないかと思います。
○小西委員 今の宮田委員の御発言に私が言ったことに幾つか誤解があったのかなと思ったので,そこは訂正させていただきたいと思います。
  この場で法律的な議論がなされ,法律的な知識に基づいて本当に専門家の皆様が議論されることに何の異議もありません。もちろん,逆に言えばここの場でどんな発言が,どんなヒアリングがあったとして,皆様そういうことに影響されないぐらいの知識はお持ちだから,ここにいらっしゃるのだと思います。そのことに何も反対していません。ただ,そもそも法律の元になる社会の実情ということについて,知識がないまま,あるいは類推だけでやってしまうのは問題があるのではないかということをお話ししているだけです。
  それから,えん罪のお話がありましたけれども,もちろんそういうケースは防がなくてはいけないと思います。そういうことをどうやっていけばいいかということも,大いに議論の対象だと思いますけれども,一方で日本で被害を受けた人の通報率が非常に低いこと,法務省の統計でも十数パーセント,性犯罪に関してはそうですね。実情はもう少し低いのではないかと思われます。そういう状況の中で,えん罪のケースだけが取り上げられること,実際には被害を受けているけれども,うまく法律にのせてもらえない人がたくさんいること。そのことも忘れないでいただきたいと思います。
  国連からたくさん女性に対する暴力に関して文章が出ていますけれども,それを読んでいると,最近はこの性暴力被害問題への対策として開発途上国で資源のないところではどうしたらいいのか,先進国ではどういうふうに関してやっていけばいいのかと,広い視野で政策が書いてあるように思うのですが,その中で見ていますと,日本の法制というのは,決して先進国ではない。何か中進国というような気がしてしまいます。そこだけ遅れているということはどうしてなのか。そういう問題も法律的な議論とは違うでしょうけれども,やはり見識としてお持ちいただけたら有り難いなと思っています。
○山口部会長 ありがとうございました。ただいまヒアリングをやるかどうかという点について,御意見をお伺いしておりますので,実体的なことについての御意見も意味があることではございますけれども,ヒアリングの点について,まだ御意見を述べておられない方から御意見を頂きたいと思います。
○佐伯委員 小木曽委員の御意見と重なるところが多いのですけれども,検討会でお話を伺い,この部会では小西委員,齋藤幹事からいろいろお話を伺い,決して主張として捉えられているということはなくて,被害の実態を正確に伝えていただいていると思っております。いろいろ御要望書も頂いて,読ませていただいていますので,我々は知識がないまま議論しているということではなく,実態を踏まえた上で議論していると考えております。
  そういう意味では,是非ともヒアリングをしないといけないということではないと思いますけれども,先ほど角田委員から御発言ありましたように,これまで出ていないような視点からの御意見を伺う,それも被害者だけではなくて,いろいろな角度から伺うことができるということであれば,ヒアリングをすることも考えてよいのではないかと思います。
○齋藤幹事 基本的には角田委員,小西委員と同意見です。私も,被害者の実情ということでお伝えしているのですが,やはり要綱(骨子)第三に当たる監護者であることによる影響力を利用したわいせつな行為等に関しましては,虐待の専門家からの話を聴くということが必要なのではないかと思っております。もちろん小西委員も専門家でいらっしゃいますし,ヒアリングでも児童精神科医の先生からの話を聴きましたが,それに加えてもし叶うのであれば,当事者の方や小児科医,男児の性犯罪被害をよく見ていらっしゃる先生からのお話を加えて聴いていくということは,これまでのヒアリング,これまでの議論に足りない点を補うということになるのではないかと考えております。
○山口部会長 ありがとうございました。まだ意見をお述べになっていない方で是非おっしゃりたいという方があれば,お願いしたいと思います。
○武内幹事 私も角田委員の御意見と同じです。被害者支援に関わる弁護士として,数多くの性犯罪の被害者の方と接しておりますが,今回の要綱(骨子)第三の類型に当てはまるようなカテゴリーの被害者の方と接した経験が少ないものですから,そういった方のお話が聴けるのであれば,是非ヒアリングを実施していただきたいと思っております。
○山口部会長 ありがとうございました。
  まだ言い足りないという部分はあるかもしれませんけれども,この問題は大体これぐらいでまとめさせていただきたいと思います。ヒアリングは実施すべきだという御意見が複数述べられましたが,検討会でも既にヒアリングをやっているわけですので,それと重なるようなヒアリングは必要ないので,補足的にやったらよいのではないか,あるいは,もしやるとすれば,もう少し幅広く加害者の更生支援等に関わっておられるような方々に意見を聴くべきではないかといった御意見をお述べいただいたわけでございます。
  私といたしましても,「性犯罪の罰則に関する検討会」において既に一度12の団体・個人の方々からヒアリングを行っているわけでありまして,そのようなヒアリングと重複するヒアリングをここで更に実施する必要はないというようには考えておりますけれども,足りなかった部分を補足するという観点でヒアリングを行うことについては,検討してもよいのではないかと考えております。
  もっとも,例えば被害当事者の方に実際にこの場にお越しいただけるのだろうかという問題もございますし,実施するとしてもいつどのような形で実施するのがよいのかということについても検討しなければならないと思いますので,恐縮ですが,事務当局と私との間で検討させていただきまして,その結果につきましては,別途皆様にお知らせするという運びとさせていただけないかと思うのですが,よろしゅうございましょうか。
(一同異議なし)
○山口部会長 ありがとうございます。特にヒアリングを実施する必要があるという御意見を述べられた委員の方に,先ほど具体的なお名前も出ておりましたけれども,候補者について御意見等をお伺いするかもしれませんので,その節はよろしくお願いしたいと思います。
  では,ヒアリングの件につきましては,ここまでとさせていただきまして,本日予定しておりました審議の内容に入りたいと思います。
  本日は要綱(骨子)第三及び第七について2巡目の議論を行います。まず,要綱(骨子)第三についての審議を行いたいと思います。要綱(骨子)第三につきましては,1巡目の議論を簡単に振り返りますと,まず第三のような類型の罪を新たに設ける必要性につきましては,準強姦罪で対応できるので新たに設ける必要はないという御意見もございましたが,多数の方は,新たな類型の罪を設ける必要があるという御意見でございました。
  次に,第三の罪の主体を「18歳未満の者を現に監護する者」としている点につきましては,より広く,教師,あるいは祖父,おじまで含めるべきであるという御意見,更にはスポーツのコーチなどまで含めるべきであるという御意見,それから客体を「18歳未満の者」としている点につきましては,16歳以上の女子が婚姻可能であることとの関係で疑問があるといった御意見がございましたが,要綱(骨子)のとおりでよいという御意見が多数でございました。
  また,第三の罪の法定刑を強制わいせつ罪や強姦罪と同じ法定刑としている点につきましては,より軽い法定刑とするべきであるという御意見もございましたが,要綱(骨子)のとおりとすべきであるという御意見が多数でございました。
  なお,「現に監護する者であることによる影響力を利用して」という要件につきましては,これに該当しない場合としてはどのような例が考えられるのかという点について,事務当局への御質問や御意見があり,この点については事務当局において更に検討していただくこととしておりました。
  本日はこのような1巡目の議論を踏まえまして,まず事務当局から1巡目の議論の後に検討していただいたことについて,御説明をお願いしたいと思います。
○中村幹事 第3回会議におきまして,要綱(骨子)第三の「現に監護する者であることによる影響力を利用して」との要件に関しまして,御質問などを頂いておりました。そこで,改めまして,事務当局において要綱(骨子)第三の罪の趣旨や各要件の意義について,検討・整理いたしましたので御説明申し上げます。
  まず,要綱(骨子)第三の罪を設けようとする趣旨などにつきまして,改めて御説明申し上げます。まず,そもそもこのような罪を設ける必要性があると考えたのは,現実に発生している事案の中に,強姦罪や強制わいせつ罪と同じように,性的自由ないし性的自己決定権を侵害しており,同等の悪質性,当罰性がある事件だと思われるにもかかわらず,現行法の強姦罪や強制わいせつ罪などでは処罰できていないものがあると考えられたためでした。
  その典型例としては,実親や養親等の監護者による18歳未満の者に対する性交等が継続的に繰り返され,監護者と性交等をすることが日常的なことになってしまっていたり,さらには,18歳未満の者が監護者と性交等をすることが良いことであると思い込んでしまっているなどして,事件として日時場所などが特定できる性交等の場面だけを見ると,暴行や脅迫を用いることなく,抗拒不能にも当たらない,そのような状態で性交等が行われているという事案が挙げられます。
  そこで,このような事案をその実態に即して,強姦罪や強制わいせつ罪と同様の法定刑で処罰するために設けようとするのが,要綱(骨子)第三の罪でございます。
  その上で,この要綱(骨子)第三の罪の考え方を改めて整理して御説明申し上げます。
  一般に,18歳未満の者は,精神的に未熟である上,生活全般にわたって自己を監督し保護している監護者に,精神的・経済的に依存しております。そのような依存・被依存ないし保護・被保護の関係にある監護者の影響力がある状況下で性交等が行われた場合,18歳未満の者が監護者との性交等に応じたとしても,その意思決定は,そもそも精神的に未熟で判断能力に乏しい18歳未満の者に対して監護者の影響力が作用してなされたものであって,自由な意思決定ということはできないものと考えられます。
  したがいまして,監護者がその影響力を利用して,18歳未満の者と性交等をすることは,強姦罪や強制わいせつ罪などと同じく,18歳未満の者の性的自由ないし性的自己決定権を侵害するものであるということができ,強姦罪などと同等の悪質性・当罰性が認められると考えたものです。
  そして,このようなことから,要綱(骨子)第三の罪は要綱(骨子)第一の罪や強制わいせつ罪と同じ法定刑としているものです。
  次に,要綱(骨子)第三の罪で用いられている文言の意義について御説明申し上げます。まず,「監護する」でございますが,「監護する」とは,第3回会議でも申し上げましたとおり,民法に親権の効力として定められているところと同様に,「監督し,保護すること」を言います。法律上の監護権に基づくものでなくても,事実上,現に18歳未満の者を監督し,保護する関係にあれば,要綱(骨子)第三の「現に監護する」に該当し得ます。そして,民法上の監護が親子関係を基本とする概念であることから,要綱(骨子)第三の「現に監護する者」と言えるためには,親子関係と同視し得る程度に,居住場所,生活費用,人格形成等の生活全般にわたって依存・被依存の関係ないし保護・被保護の関係が認められ,かつ,その関係に継続性が認められることが必要でございます。なお,「現に監護する」とは,法律上の監護権に基づくものでなくてもよい反面,法律上,監護権を持っている者でも,実際に監護しているという実態がなければ,「現に監護する者」には当たらないこととなります。
  次に,「影響力」ですけれども,「影響力」とは18歳未満の者の意思決定に作用し得る力を言います。
  そして,「影響力を利用して性交等をした」の要件について,御説明申し上げます。18歳未満の者を現に監護する者であれば,日頃から自分が保護し,自分に依存している18歳未満の者の生活全般にわたって,その意思決定に作用する影響力が常にある者と考えられますところ,このような18歳未満の者に対する影響力が一般的に存在している状況において,監護者と18歳未満の者とが,性交等を行った場合には,通常はその性交等についても一般的に存在している監護者の影響力が作用しており,18歳未満の者の自由な意思決定に基づくものとは言えないと考えられます。
  ここで,影響力を利用して性交等を行ったと認められるためには,監護者からの影響力を利用する積極的な働き掛けなどの行為が必要不可欠だとすることは,先ほど申し述べましたとおり,本罪により処罰することとすべき事例の中には,特に積極的な働き掛けなどがなくても,性交等に応じてしまうようなものも含まれることから,適当ではないと考えられます。むしろ,監護者の影響力が一般的に存在している関係においては,通常,その性交等について監護者の影響力が作用しており,18歳未満の者の自由な意思決定に基づくものとは言えないと考えられますから,そのような積極的な働き掛けなどがなくても「影響力を利用して」に該当すると考えられます。
  ただ,18歳未満の者に対する監護者の影響力が,一般的に存在している状況であっても,監護者と18歳未満の者との間で行われた性交等が,監護者の影響力が遮断されて行われたと言える場合が全くないとまでは言えないと考えられます。例えば,監護者の18歳未満の者に対する影響力が一般的に存在している場合であっても,暗闇の中,相手方を判別できない状態で性交等が行われた時や,18歳未満の者から脅迫されるなどして監護者が性交等を強いられたとき,このような場合には性交等との関係では影響力が遮断されており,影響力とは無関係に性交等が行われたものと考えられます。
  このような一般的に存在している監護者の影響力が遮断されているような場合には,「影響力を利用して」性交等を行ったと言えず,第三の罪が成立しないこととなるものと考えております。
  このようなことから,「影響力を利用して」とは,18歳未満の者に対する監護者の影響力が一般的に存在し,かつ,その影響力が遮断されていない状況で性交等を行ったことをいうものと考えております。
  次に,被害者の同意の点でございますけれども,18歳未満の者に対する監護者の影響力が一般的に存在している状況においては,その影響力が遮断されない限り,18歳未満の者が監護者との性交等に応じたとしても,その意思決定は,そもそも精神的に未熟で判断能力に乏しい18歳未満の者に対して監護者の影響力が作用してなされたものであって,自由な意思決定ということはできないということですから,要綱(骨子)第三の罪の成否を論ずるに当たり,被害者の自由な意思決定による同意の有無は直接問題とはならないものと考えております。もっとも,当該性交等が監護者の影響力を「利用して」行われたこと,すなわち,一般的に存在している監護者の影響力が遮断されていない状況で性交等が行われたことの立証責任を検察官が負うものであることに変わりはありません。
○山口部会長 ありがとうございました。それでは,ただいまの御説明を踏まえまして,御議論いただきたいと思います。ただいまの御説明に対する御質問,あるいは御意見も含めて御発言いただきたいと思いますが,よろしくお願いします。
○香川幹事 新しい刑事罰の類型ができるということでございますので,実際に適用する裁判所の立場から若干,今の事務当局の御説明を踏まえて,3点,この時点で事務当局のお考えをお聞かせいただけないかと思います。
  まず,「18歳未満の者を現に監護する者」ということにつきまして,親子関係と同視し得る程度にというようなお話があったかと思います。親以外で監護するという者に当たりそうな者といたしまして,例えば18歳未満の者が児童養護施設等の施設に入所している場合を考えた場合,この施設に所属している職員皆さんがこれに該当するのか,あるいは施設の中で一定の範囲の職員の方が該当するということになるのか,もちろん具体的な事案ごとに裁判所が検討するということになるのかもしれませんけれども,例えばどんな要素を考えるべきなのか,事務当局の方でもしお考えのところがあれば,お聞かせいただきたいということでございます。例えば施設の職員の中でも,正にその児童の身の回りの世話をしている方と,例えば管理職とでは,児童との近さというのは大分差があるのかなと思います。この辺どんなふうに考えたらいいのか,一般論でも結構でございますので,今お考えがあればお聞かせいただきたいというのが1点目でございます。
  2点目は,同じく「18歳未満の者を現に監護する者」の御説明の中で,事実として現に監護している者ということが重要であるとお伺いいたしました。裁判所の方では,例えば家庭裁判所ですと時々ございますけれども,子供の親権を争って別居しているような親御さんの間で,お子さんが事実上,移動するというようなことがございまして,その場合,後から法的に評価すると,これは一方の親が一方的に子供を連れていったのだと評価されるような場合がありまして,場合によりますと,違法だ,損害賠償だみたいな話が出てまいります。これと,この犯罪における現に監護するということが関係するのかしないのか,通常は恐らく事実として監護しているかどうかというところに着目すると,連れ去ったかどうかとか,監護に至った経緯が違法かどうかというのは,余り関係しないようにも思うのですけれども,そういう理解でいいのかどうか,現時点の事務当局のお考えで結構ですので,お聞かせいただければと思います。
  最後3点目,ちょっとこれは技術的な話になりますけれども,実際,実務上見てまいりますと,今回問題になっているような類型の一部は,従前,例えば児童福祉法違反というような形で処罰してきたものもあるのではないかと思うのですけれども,今回,要綱(骨子)第三の罪に当たるようなものの中で,同じく児童福祉法違反の罪にも当たるというようなものもあるのではないか。そうした場合,この罪数関係がどうなるのかということをどうしても実務家は考えてしまうわけですけれども,ここについて,何か今の段階で事務当局のお考えがあればお聞かせいただきたい。
  以上,3点でございます。
○中村幹事 それでは,今の3点について,お答え申し上げます。
  まず,養護施設等の施設の職員の点についてでございますけれども,「現に監護する者」に当たるか否かにつきましては,個別の事案における具体的な事実関係によって判断されるものですけれども,その施設等の場合につきましても,同居の有無や居住場所に関する指定などの状況,指導状況,身の回りの世話などの生活状況,生活費の支出などの経済的な状況,未成年者に関する諸手続などを行う状況などの要素を考慮して,個別に判断されるものと考えております。
  管理職などについて御指摘がございましたけれども,管理職を含む養護施設の職員でありましても,このような要素を考慮して,親子関係と同視し得る程度に生活全般にわたって,依存・被依存ないし保護・被保護の関係が認められ,かつ,その関係に継続性が認められる場合には,「現に監護する者」に該当する場合もあると考えております。
  また,管理職か又は身近な世話をする人かといった御指摘がございましたけれども,その身の回りの世話につきましても,その考慮要素となり得ると思われる一方,直接身体的な接触があるかどうかの一事をもって,直ちに「現に監護する者」と認められるか否かが左右されるものではないと思われます。
  また,職員が施設に居住しているかどうかといういろいろなそれぞれのパターンがあるかと思いますけれども,その施設に居住しているかどうかという点については,同居の有無として考慮対象となる要素となるものと考えております。
  続いて,2点目でございます。2点目の親権の争いがあるような場合についてでございますけれども,「現に監護する者」に当たるかどうかにつきましては,個別の事案における具体的な事実関係により判断されるものでございますけれども,先ほど御質問の中で御指摘がありましたとおり,ここでいうところの監護関係は,法律上の監護権に基づくものであることは要せず,事実上,現に監督し保護していれば足りると考えておりますので,先ほどの御指摘のような場合であっても,「現に監護する者」に該当することはあり得るものと考えております。
  次に,児童福祉法違反の罪との罪数関係の点でございます。この要綱(骨子)第三の罪と,児童福祉法違反の罪との関係でございますけれども,これは現行法の強姦罪ないし強制わいせつ罪と,児童福祉法違反の罪との関係と同様であると考えております。したがいまして,18歳未満の者を監護する者であることによる影響力を利用して,性交等又はわいせつ行為に及んだことが,同時に児童に淫行させる行為に当たる場合には,要綱(骨子)第三の罪と児童福祉法の淫行させる罪との関係は,併合罪となるのではなく,両者は一罪となるものと考えております。
○宮田委員 この点についての意見の前に,先ほど小西委員の御意見の中で誤解があると感じましたので,1点言わせていただきたく存じます。私は,この部会での議論に文句を言っているのではなくて,部会や事務所に送られてきたものを拝読していると,どう考えても判例の読み方が違うのではないか,法的な理解が誤っているのではないかと思われるもの等があったためあのような発言をいたしました。私の申し上げ方が悪かったのかもしれませんが,私は部会の議論をどうこう言うつもりは全くなく,そこはご理解いただかないとこれからの議論が不必要にぎくしゃくしそうに思いましたので,大変申し訳ありませんが,御指摘申し上げます。
  事務当局への御質問も幾つか含めて,私の方の意見も申し述べたいと思います。お伺いしたいことは,3点ございます。前回のこの要綱(骨子)第三について検討する際に,母親と男性の関係にはいろいろなグラデーションがあるということで,幾つかの場合について質問しました。経済的に全く母親に依存している男だったら,これには当たらないか等,いろいろな事例を挙げたと思います。そういうものについては,今御説明になったように,ケース・バイ・ケースでよいのかどうかという確認です。
  2つめです。監護をする者と同居している者との関係についてです。先ほどの山口部会長のおまとめの中でも,要件の中には祖父とかおじ・おばというのは原則として入らないという趣旨になっていたかと思いますけれども,これは両親あるいは片親がいる家庭という前提でよろしいのでしょうか。親がいて親が監護していれば,祖父とかおじやおばは入らないという理解でよいのかどうかということでございます。
  というのも,想定されているのは,両親がいて母親が面倒を見て,父親が経済活動をして,というような,典型的な中流家庭のように思えるのです。両親がいても両親が非常にハードに働いていて,祖父母に子育てを丸投げという家族もありますし,片親家庭で祖父母に子育てを任せている場合や,親の兄弟,子供にとってはおばさん,おじさんに当たる方たちに子育てを任せている場合,あるいは年齢の上の子供,子供にとっては兄や姉に監護を任せているというような家もあるかと思います。
  そのように家族が大家族的な家庭,親と子供だけという家族ではなくて,ほかの親族が子育てに関わりのある形での同居をしている場合に,祖父母やおじ・おば,兄弟・姉妹は,監護する者の中に入れられるのでしょうか,入れられないのでしょうか。というのも,少年事件などでよく見るのが,育児放棄的な家で,父親も母親も子供の面倒を見ないで,朝,500円渡して食事を買えという。たくさん家族が住んでいて,両親だけではなくて,祖父母やおじ・おばも一緒に住んでいるような家の子供は,一体誰が育てているか分からないような状況であったりします。そういうところで性的被害が起きたときに,監護者は一体誰なのだろうかと感じてしまうわけです。
  3つめです。先ほどの香川幹事からの御質問の中で,施設の話が出ましたけれども,施設から子供を預かっている里親は,これは法律的なものではないけれども,事実上の同居している親と見ていいのかということでございます。更に,全くの他人が事実上監護している場合は当たるのかどうかということです。法律的には養子縁組もしていないが,事実上,子供の面倒を見ている場合は,これは事実上の監護に当たるといってもよさそうに思われます。しかし,例えば,中学生くらいの子供が家出をした場合を想定し,その子供が声を掛けてきた男性の家に転がり込み,相当長期間,そこの家で暮らしていたとします。男性がいろいろと面倒を見てくれる状況下で生活をし,具体的には,同居して生活費も出してもらっているし,携帯の契約や雇用の保証など,いろいろな形で法律的・対外的にその男性が面倒を見てくれている場合に,性的な関係を持ったとすると,これは監護者類型に当たるのか当たらないのかということです。転がり込んだ先の男性が,例えば祖父とかおじとか親族であればなるのか,全くの他人であってもなるのかというところがわかりません。
  全く他人の男性のもとに,高校生ぐらいの女子が転がり込んで結婚してしまえば,適法な関係になることとの均衡はどうなるのかという疑問もあります。
  ここからは意見になります。今申し上げたたくさんの家族が住んでいるような例を考えるなどしていますと,この類型については,私はやはり児童福祉法とか虐待防止法の中での対処を検討した方がよいと考えます。その家族から離すことと,監護していると称している人たちの影響力を排除するための措置を抜きにして,子供の保護は図れないと思うのです。被害者の救済や加害者への対処などについて総合的な配慮をしなければ,こういう事件の解決にはならないのではないでしょうか。もちろん,強姦罪に当たるような罪を創設して,親をしょっ引くのが一番手っ取り早い方法かもしれないですけれども,私は他の虐待を含めて,総合的な検討ができた方がいいと考えているのです。
  それから,この要綱案の条文には,民法の親子関係やそれと同視できるものとは明示的に出てきません。条文の中に,監護者というのは親子に準じる関係にある者だということまで含んだ文言にしておかないと,解釈が無限定に広がるのではないかという危惧を持っています。
  そして,この条文は刑法第177条,第178条では網を掛けられない場合を想定したものであるとの御説明がありましたけれども,条文ができてしまえば,親族等の近い関係にある人が影響力を利用していると考えられる案件については,第177条,第178条でいける案件でもこの類型で処罰され,慎重に監護者性等を考えなければならない案件についても,解釈が広がっていくのではないかと危惧します。少なくとも,この規定については,第177条,第178条の補充的な性格であることが,何らかの形で明示される必要があるように思われます。
  更に今の事務当局の御説明を伺いますと,監護者であれば影響力はほぼあるということになります。影響力の利用については,検察官が立証されることにはなりますけれども,この人が監護をしているということ,こういうような生活実態があるということを立証すれば,ほぼ影響力があるということ,ちなわち,同意は瑕疵があるというのとほぼ等価だと思われます。前回,立証責任が事実上転換されているのではないかと申し上げましたが,そうはいえず立証責任が検察官にあると言っても,事実上,反証は許されない,不可能な形の犯罪類型なのではないかと感じた次第です。
  なお,このついでに,大変申し訳ありませんが,以前の私の発言についての訂正をさせていただければと思います。前回の議論の時にドイツの抗拒不能の第178条については,第177条と罰条が一致していないとの指摘をしましたけれども,被害が姦淫の類型については抗拒不能の類型について,ドイツでも懲役2年で第117条と同じでした。ただ,ドイツでは,要綱(骨子)の第一,第二の類型とも懲役2年だというところは再度指摘しつつ,訂正させていただければと思います。
○中村幹事 それでは,今何点か御質問があった点についてお答え申し上げます。この「現に監護する者」にどのような場合が当たるかどうかという点についてでございます。先ほどケース・バイ・ケースかという御質問がありましたけれども,やはりこれにつきましては,個別の事案における具体的な事実関係によって判断されるものでございますので,なかなか一概にお答えすることは難しいところではございます。まず,この「現に監護する者」に当たるかどうかというところでございますけれども,この現に監護するというのは,法律上の監護権に基づくものでなくても,事実上,現に監督し,保護する関係にあれば,この「現に監護する」に該当し得る。逆に言いますと,法律上の監護権があったとしても,事実上,監督して保護していなければ,この「現に監護する」には当たらないということになります。
  先ほど幾つか大家族的なもの,里親,また,家出して声を掛けた場合と,幾つかの事例というのを御指摘いただきましたけれども,この「現に監護する者」の「監護」につきましても,「監護する」というのが民法において親権の効力として定められているところと同様に,監督して保護することを言いまして,またこの民法上の「監護」というのは,親子関係を基本とする概念でありますから,この「現に監護する者」と言えるためには,親子関係と同視し得る程度に居住場所,生活費用,人格形成等の生活全般にわたって,依存・被依存ないし保護・被保護の関係が認められ,かつ,その関係に継続性が認められることが必要であると考えているということでございます。
  具体的にどのように判断していくかというところにつきましては,先ほど香川幹事の御質問に対してお答えしたような要素を考慮して,個別に判断していくことになるものと考えております。
  また,この条文上,「監護」という言葉を用いているけれども,これがどんどんその範囲が広がっていかないかというところでございますけれども,この「監護」という用語でございますけれども,これはるる御説明申し上げてきておりますとおり,民法上の「監護」というところを頼りにこの用語を使っているということでございますので,この「現に監護する者」という意義につきましては,先ほど申し上げたようなところで明確となっていると考えております。
  また,罪数の点でございますけれども,こちらも御説明してきておりますとおり,要綱(骨子)第三の罪というのは要綱(骨子)第一の罪や,強制わいせつ罪を補充する趣旨で設けようとするものでございます。したがいまして,仮にある行為が外形的には強制わいせつ罪ないし要綱(骨子)第一の罪と要綱(骨子)第三の罪との双方に該当するように見られる場合には,強制わいせつ罪又は要綱(骨子)第一の罪のみが成立するものと考えております。
  なお,立証責任の点について,御指摘がございましたけれども,これも冒頭の説明と同様となってまいりますけれども,検察官がこの監護者の影響力を利用して行われたこと,当該性交等が監護者の影響力を利用して行われたことについて,立証責任を負うこと自体は,当然変わりはありませんので,立証責任の転換はないと考えております。
○加藤幹事 ただいまの説明に若干補充させていただきます。宮田委員の御質問の最初に提示された母親と男性との関係をグラデーション的に御提示されたことにつき,ケース・バイ・ケースでよいのかという御質問だったと思いますが,それは中村幹事がお答えしたように,もちろん基本的にはケース・バイ・ケースです。具体的に申し上げれば,例えばお母さんの彼氏と言われているような方がたまに家に帰ってくるということがあっても,同居しているとも言えず,生計も別であり,意思疎通も18歳未満の者とはほとんどないということになれば,通常は監護しているとは言えないだろうと考えられますし,一方,法律上の監護権者でなくても,実親との関係,お母さんとの関係がいわゆる内縁といわれるような実態的な夫婦関係にあって,またその18歳未満の者との関係も実の父子と変わらないというような関係にあれば,監護している者と言える場合もあるだろうと考えられます。その中間もいろいろなケースがあるだろうという意味で,ケース・バイ・ケースだと申し上げているわけでございます。
  また,監護者であるか否かの認定は,先ほど来,御説明しているとおり,現に監護する者であるかどうかという事実関係の問題でありまして,事実上の問題として実の親子であれば監護者であることが多いということは言えたとしても,親子であるから監護者である,あるいは親族であるから監護者に当たるという,そういう関係にある要素ではないということは,これまでの御説明で御理解いただいていると思います。
  大家族の場合というのも,事実認定の問題になるので,個々のケースを分析してみなければ分からないところはありますが,例えば御提示いただいたように,実の親は養育にはほとんど関わっておらず,実際に子育てをしているのは祖父母あるいはおじ・おばであるという場合に,その祖父母やおじ・おばが監護者に当たるということはあり得るということは言えると思われます。したがって,実親がいるからその祖父母やおじ・おばは決して監護者には当たらないという関係にはないであろうとは考えているところであります。
  一方,里親の例を挙げられて,親族でない人,全くの他人が監護者に当たることもあるのかという御質問もあったように思うのですが,それもあり得るという意味では,正に先ほど来,御説明申し上げている監護者に当たる者であれば,当たるということになるものと考えております。すなわち,血縁関係がないことが監護者であることの関係を排斥することにはならないとは考えています。例えば,里親として18歳未満の者の生活全般の面倒を見ており,親子関係と正に同視し得る程度に,生活全般にわたって依存・被依存,あるいは保護・被保護という関係があるものについては,それは監護者に当たる場合があると考えていただいてよろしいかと思います。
  最後に,検察官の立証責任を事実上,転換するものなのではないかという御指摘につきましては,中村幹事からも御説明申し上げましたけれども,この犯罪の構成要件は監護者である者がその影響力を利用して性交等に及べば成立するというものでありまして,逆に言えば監護者ではないこと,あるいはその影響力を利用していないことについて,その弁護人,あるいは被告人の立場として主張することは可能であるわけであります。事実の問題として反証の余地が狭いのではないかという御指摘については,それはそういう構成要件を設けることの適否の問題に正に帰着するわけであり,そうした規定を設けることについて,それが適切であるか否かについては,正に委員・幹事の皆様の御意見を伺いたいと考えているところでございます。
○塩見委員 「影響力を利用し」のところで,1点質問をさせていただきたいと思います。
  影響力の遮断があった場合には,この要件を満たさないということで,影響力の遮断がまれにあるとされる例としまして,暗闇の例ですか,それからあと,被監護者の側が脅迫を行った場合,性交に応じるように求めた場合という例を挙げられました。もう少し一般的に言えば,監護する者であることを被害者に認識させなかった場合,あるいは被監護者の側から性交等を求めた場合,この場合には影響力の遮断があるということになるかと思います。そうしますと,被害者は行為者が監護する者であることを認識していたのですけれども,行為者の側は被害者が認識していないと誤信していた場合,あるいは被監護者の方から性交等を求めたと行為者が誤信をしていた場合,こういう場合は影響力の利用についての認識が欠ける,故意がないということになる,という気がするのですが,そういう理解でよろしいのですかというのが質問です。
○中村幹事 影響力が遮断されているか否かの判断でございますけれども,これは個別の事案によって判断されるものですけれども,要は,性交等が一般的に存在している監護者の影響力とは無関係に行われたかどうかというところでございます。その例としましては,先ほど申し上げましたとおり,暗闇という例を申し上げましたけれども,これは18歳未満の者の側で行為者が監護者であるということを認識していなかった場合ということでございますけれども,それ以外の場合であっても客観的に性交等が一般的に存在している監護者の影響力とは無関係に行われたと認められる場合には,この影響力が遮断されるということになろうかと思います。
  今,御質問の中で御指摘のありました18歳未満の者が監護者に対して性交等を求めた場合,どうなのかという点がございますけれども,18歳未満の者に対する監護者の影響力というのが一般的に存在している場合におきまして,仮に外形的にはその18歳未満の者から監護者に対して性交等を求めたということがあったといたしましても,そのような行動というのを18歳未満の者がとるというのはどういうことかといいますと,例えば監護者において幼い頃から継続的に性的な行為を行ってきたこともありまして,要は18歳未満の者としては生活全般を監護者に依存しているということから,性交等を求めることによって監護者を喜ばせる,ないしはその機嫌を損なわないようにしているような場合というのがあり得るというところでございまして,そのような18歳未満の者の方から性交等を求めた場合であっても,そのような行動をとるに至ったこと自体が,精神的に未熟で判断能力に乏しい18歳未満の者に対して,監護者の影響力が作用した結果であると考えるべきではないかと考えております。
  そうしますと,18歳未満の者の方から性交等を求めたにすぎないような場合というのは,影響力とは無関係に行われたとは言えず,その影響力が遮断されている場合には当たらないと考えております。
  先ほど,故意の点,錯誤の点について御指摘がございましたけれども,影響力の利用というところにつきましては,当然これについても行為者において認識,故意がないといけないということでございますけれども,要は「影響力を利用して性交等をした」について,故意があると言えるためには行為者におきましてその18歳未満の者に対する監護者の影響力が一般的に存在することを基礎付ける事実の認識,また,その影響力が遮断されていない状況で性交等を行った事実の認識というところが必要であると考えられます。したがいまして,これらの認識に欠けるという場合には,故意犯である以上はこの罪は成立しないということになるのではないかと考えております。
○今井委員 私も中村幹事の御説明に賛成するところです。前提といたしまして,今日の冒頭,角田委員から改めて実情についての御説明を頂きました。齋藤幹事からも同じような御説明があったわけですけれども,この要綱(骨子)第三の罪が念頭に置いている典型的な事例といたしましては,先ほど角田委員もおっしゃったように,例えば幼少期から親が性交を子供に対して繰り返すということで,そういう18歳未満の者としては特定の行為がなされた段階では,自分がどういうふうな被害に遭っているのかを認識できないような場合も多く含まれている。そういった根の深い事例をも視野に入れて,立案しようとしているものだと思います。
  そうしますと,この要綱(骨子)ですと,影響力を利用してという文言が使われておりまして,これですと直近の被害者に向けられた特定の行為の立証が必要になるようにも読めるわけでありますけれども,その影響力が遮断されているか否かということがこの犯罪を否定する大きな要素であるという御説明があり,私もそれに賛成するものであります。そして,そのことをもう少し的確に表現するならば,「影響力があることに乗じて」というふうな,他の表現ぶりの方が適切ではないかと思ったところですので,意見として申し上げたところです。
○小西委員 暗闇の中で判別されないということが,影響力の遮断の典型例として出てくることが,ちょっと私はどうかと思っております。というのは,多くの例えば性的虐待の例で,夜,暗闇で真っ暗にした中で性交が行われるというケースがあるんですね。だけれども,もちろん目では誰だか分からないけれども,実際すぐ分かりますよ。それは人間の認識は視覚だけではないので,触覚も聴覚も体感もあるわけなので,当然誰だかは分かるわけですね。というようなケースが結構あり,更に小さい時からの繰返しがあってここに至って,そのケースが事件化される,その事例が事件化されるということになるとすると,真っ先にこの暗闇の例が出てきてしまうのが,ちょっともう少し適切なものに変えていただけないかなと思います。自分が持っているケースで,たくさんそういうケースが思い当ります。父親は夜誰か別の人が忍び込んできたのだろうと言ったりするのだけれども,実際にはそうではないというケースが複数あります。ですので,それはちょっと考えていただけないかなというのが私の気持ちです。
  それから,実はこの問題に該当するケースを私は持っておりまして,御本人がどうして抵抗できないか,この会議で話していいと言われたので,聞いたまま今日持ってきたのですね。なのでちょっとどういうことが行われているか,具体的に1分ぐらい御紹介させていただいてもいいですか。
  この人は,実父からの性的な虐待の被害者で,18歳でようやくそこから逃れた人です。当初は全て自分が悪いから,父を自分が誘ったから,こういうことが起きたとしか考えられていませんでした。2年たってようようちょっと話せるようになってきているのですけれども,「何か抵抗するとかやめるとかいうことを考えなかったのか」と質問したら,「そんなの全く無理。怖いからそういうこと自体を考えないようにしていた。被害を受けていた当時は,自分はその記憶を切り離していて,日常生活は何もないように過ごしていた。だから嫌だとも思っていなかった。夜になったり,家に戻ったりすると多少思い出したけれども,それでも考えないようにし,昼間はその虐待について意識さえしていなかった。性行為について意識さえしていなかった。」と言っています。
  「子供にとって親は全てだから,言うことを聞かないといけないと思っていた。親が性交することが普通だと親が言えば,自分は普通だと思う。他の家でもみんなやっていることだけれども,言わないだけなのだと親に言われて,自分もだからそうかと思っていた。そういう環境でしか育っていないので,それは普通だと思っていた。」ということです。
  最初がいつから始まったのか覚えていない。中学の時も高校の時もあったけれども,それより前からあったかもしれない。記憶が出てこないのですね。親は,性的虐待にこんな理屈をつけていました。「性行為に慣れていないと痛いから,将来の練習としてやるのだ」と言われた。本人は屁理屈だと思ったが「そうなんだ」と父に言うしかなかった。高校の時,人を助けたくてリハビリの職に就きたいと思い,そのことを家族に話したことがあったが,父と二人きりになった時に,風俗嬢みたいなことをやることを父が提案してきた。「そういう職について,対象者の家を訪問する時もあるだろうが,別料金でやると喜ばれるのではないか」と父は言ったそうです。そういう性的処理の練習をしているのだ,好きな人相手に気持ちよくなってもらうテクニックの練習だと言われた,と言っています。本人にこのことについて聞くと,今は複雑な気持ちで,2年たった今でも,「父は自分の欲望を正当化していた」とは思うところまでは来ましたけれども,なかなか本当に自分は悪くないと思えない状況です。「父が悪くて,自分が被害者だと納得しにくい,言い換えれば心理的な納得がなかなかできないのです。もしかして自分が悪いのじゃないかという気持ちからなかなか逃れられません。虐待から逃れて2年でここまで言えるのは,むしろ治療としては順調だと思います。実情を語れるようになったこと,御本人が話してもいいということ,そのものが治療の成果です。
  こういう形で本人は嫌とも言わず,むしろ良いことかもしれないと思い,そういうことをしたのは自分の責任だと思い,行われているというのが性的虐待の典型例です。ちょっと御紹介したいと思ってお話ししました。
○森委員 今,小西委員の方から具体的な被害者の声の御紹介がありましたけれども,私も検察官として実務の現場でこのような事案を経験してきた立場から,若干申し上げたいと思います。
  以前にも申し上げましたけれども,実の親,あるいは養親などが,子に対して性的行為を繰り返し日常的に行っているという事案では,暴行も脅迫もなく,抗拒不能という状態もない,そういった状況の中で性交等が行われているという事案がよくございます。そのような事案の中には,被害者が普通こういうことはやるものだと思っていて,それでもできるだけやられたくないので,お父さんの機嫌をとるためにプレゼントをねだったり,あるいはどこかに連れていってくれと言って外にお父さんを連れ出して,そのときに積極的に腕を組んで歩いたりしたというような事案もありました。
  それからまた,姉妹がいて,最初は姉の方が被害に遭っていて,父親が妹の方にも手を出そうとしたので,その姉が妹をかばうために積極的に自分が父親に働き掛けて,自分が性行為の相手をしていたという,非常に痛ましい事案もございました。現実にそのような事案があることを考えますと,先ほど事務当局の説明にもありましたように,監護者の側から必ずしも積極的な働き掛けがなくても,影響力の下で行ったと見るべき事案というのはたくさんあると思っております。
  先ほど今井委員の方から,「乗じて」という表現の方が適切ではないかというような御意見がありましたけれども,私もその御意見を伺いまして,その方がしっくりするなという感想を抱いたところです。
○中村幹事 先ほど小西委員から,影響力が遮断されている事例として挙げました暗闇で行われた例につきまして再考を要するのではないかという御指摘を頂きましたけれども,これは確かに御指摘として受け止めたいと思います。ただ,ここで申し上げているのはどういうことかと申し上げますと,影響力が遮断されているかどうかというのは,つまりは影響力とは無関係に性交等が行われたかどうかということであると。その一つの典型的な例として,18歳未満の者の側が,その行為者が監護者であることを認識していなかった。それが影響力とは無関係,つまり影響力は遮断されているということの一つのパターンであろうと考えた次第でございます。その上で,暗闇の中,相手方を判別できない状態という,一種机上の事例というのを考えてみた次第でありまして,それを御紹介したというところでございます。
○加藤幹事 事務当局の想像力の欠如を露呈してしまったというところでありまして,恐縮なのですが,中村幹事が申し上げたように,暗闇の例は暗ければ犯罪が成立しないと言っているわけではなく,それによって相手方が監護者であることを認識できないという,そういう例ですので,先ほど小西委員から御指摘いただいたように,例えば挙動とか,それから見えなくても声が聞こえればその声ですとか,そういうものから判別できていれば,この例には当たらないというところでございます。
○小西委員 それは承知しております。よく分かります。
○佐伯委員 要綱(骨子)第三の罪というのは監護権の影響力がある状況下でなされた18歳未満の者の意思決定は,外見上,自由なもののように見えても自由な意思決定ということはできないと法的に判断するということだろうと理解しております。そうすると,先ほど来,御意見がありましたように,影響力を利用したという文言はちょっと強すぎる。他にどんな文言が適切かというのは難しいのですけれども,「乗じて」というのも候補だと思いますが,「利用した」というのはちょっと強すぎるように私も思います。
  それからそのように,法的に規範的に判断するという観点から考えますと,先ほど来,問題になっております現に監護する者の範囲につきましても,法的な監護権に限られないということは確かにそうなのですけれども,先ほどからの御議論を伺っていますと,限られないというところにちょっと力点が強いのかなという印象を受けまして,やはり法的な監護権に基づいた影響力であるということは,監護権者の範囲を判断する際には,非常に重要な要素ではないかと思います。
  それから最後は,要綱(骨子)第三の規定が補充規定であるということの意味についてですが,先ほど事務当局から刑法第177条,第178条に当たる場合には,それのみが成立するという御説明があったのですけれども,私は第177条ないし第178条に当たり得る場合であったとしても,要綱(骨子)第三の罪で処罰することは可能であると考えます。
○加藤幹事 ただいまの佐伯委員の御指摘の中にもございましたが,要綱(骨子)第三の書き方については,これまで御説明してきたような具体的な内容を表現するものとして,「利用して」という文言を要綱に用いていたものでございます。しかし,ただいま,別の表現を検討するべきではないかという御指摘がございましたので,この点につきましては更に事務当局においても,十分に検討させていただきたいと存じます。
○委員 1点,事務当局の方から補足させていただきます。
  ただいま,佐伯委員の方から,要綱(骨子)第一の罪と要綱(骨子)第三の罪の関係について御指摘がございましたが,第一の罪のみが成立すると申し上げた趣旨は,意味としては佐伯委員のおっしゃるものと同様の意味であると考えておりまして,実体法の関係の罪数の整理としては第一の罪のみが成立するという場合があろうかと思いますが,訴訟法的な観点を加味して,この要綱(骨子)第三の罪だけで処罰できるかといいますと,それは可能であると事務当局としても考えているというところでございます。
○齋藤幹事 宮田委員がおっしゃったように,現在の家族の関係というのは多様だと感じております。例えば両親と同居していても,日中,両親は仕事でおらず,実質的には祖父母が面倒を見ているとか,おじ・おばが面倒を見ているとか,若しくは家族の中のほかの者が面倒を見ているというような家庭はありまして,その中で祖父・孫間の性的虐待ですとか,親族間の性的虐待ということが行われているという事例も経験しております。従いまして,これまで説明のございましたように,監護という観点につきまして,実質的な状況について,個々に判断していただけるということがとても重要なのではないかと考えております。
  また,自由な意思決定ということに関してですけれども,これはもう既に幾つも御意見が出ているものではございますが,私も臨床の中で出会った事例には,養父から大変言葉巧みに,自分たちが恋愛関係であると思い込まされる,若しくはこれを断ると,母親若しくはこの今の暮らしに影響が及ぶのだということを言葉巧みに刷り込まれるなどし,性的な関係に持ち込まれ,性的虐待が継続され,そして加害者が逮捕されて安全な状況になって初めて,自分の傷に気付いて,本当にその後,大変苦しむという事例も幾つもありました。そういったことを考えますと,やはり影響力が行使されている段階で,自由な意思決定というのが大変難しいということを考えてはおりますので,今,御説明のあったことが個々に本当に判断されることを願っております。
○橋爪幹事 要綱(骨子)に賛成する方向で2点申し上げたいと存じます。既に議論がございましたように,本罪は,精神的に未成熟な18歳未満の者が,現に監護する者の影響力を受けて,性交等をすることについての意思決定に至った類型をカバーする規定ですので,18歳未満の者の意思決定は自由な意思決定とは言い難いという観点,つまり意思決定過程に瑕疵が生じていることが処罰の根拠をなすと考えるべきかと存じます。そして,このように考えますと,やはり監護する者の概念については,意思決定に重大な影響を及ぼしうる者という観点から,ある程度限定的に捉える必要があると思うのです。したがって,基本的には,法的な監護権が認められるような事情を前提としながら,場合によっては更に限定するような理解もあり得るように考えております。そうしますと,例えば教師や,あるいはスポーツのコーチなどが,仮に18歳未満の者に一定の精神的影響を与える関係があるとしましても,それだけで,これを監護する者に含めることは難しいと思います。
  もう1点でございますが,このように行為者が監護する者という地位にあることが処罰の根拠として重要であると考えますと,本罪につきましては,本来ならば被害者を保護しなければいけない者,すなわち,被害者を保護し,監護すべき立場にある者が,その立場や機会を濫用して,本来ならば保護すべき者の性的自由を侵害するという意味において,悪質性が高いと考えられます。このように行為者に対する非難可能性が高いことを併せ考えますと,やはりこの類型については,通常の強姦罪,強制わいせつ罪と同一の法定刑で処罰すべきであると考えております。
○塩見委員 余計な一言かもしれませんが,先ほどからお話を聞いていますと,被監護者の側が,妹を救うためとか,そういう本心ではないのだけれども,表面的にはむしろ監護者に迎合するような態度を取っているような場合があるというお話だったのですけれども,先ほどちょっと故意を問題にしましたのは,そうすると監護者の側から,被監護者の同意がある,向こうから求めてきたと認識していたという主張が出やすくなってくるのではないかと思ったからです。先ほど,遮断の認識があれば,やはり故意が否定されるという御趣旨の御回答もありました。具体的に何か提案があるわけではないのですけれども,やはり立法化された際に認定をどうするのかという点は慎重でないと,本来処罰対象に入れるべき行為が,故意の観点で落ちてしまうということになりかねないのではないかと,ちょっと思いましたので,一言申し述べさせていただきました。
○加藤幹事 ただいまの塩見委員の御指摘について,承って検討いたしたいと存じますが,1点,先ほど中村幹事からお答えした趣旨ですけれども,18歳未満の者の側から監護者等に対して性交を求めることがあったとしても,それはその行為自体が監護関係による影響力を受けていると考えられる方が一般的であろうと考えられるので,18歳未満の者の側から求める行為があっただけでは,影響力が遮断されたことにならないという理解をしております。したがいまして,18歳未満の者の側から求めてきたという認識があるだけでは,故意を欠くことにもならないと考えているという点を確認させていただきます。
○宮田委員 他人の類型のことで一つ確認です。今,橋爪先生のおっしゃったスポーツ等の指導者の例ですけれども,親がスポーツのコーチに子供を託すような場合があります。あるいは学校の寮などに契約をして入れる場合もあります。そのように,親権者からの委託を受けて子供を預かっている全くの他人は,同居して生活の面倒を見ている場合に,この類型には,含め得るのか得ないのかというところでございます。先ほどの他人の類型はどこまでか,というところにも関係してまいるかと思います。
○中村幹事 「現に監護する者」に当たるか否かにつきましては,正に個別の事案の具体的な事実関係によって判断されるものですので,先ほど来,申し上げているような要素から,今のようなケースについても当たるかどうかというのを判断していくということになると思うのですけれども,いわゆる単なる教師と生徒とか,単なるコーチと教え子というだけであるならば,通常は,その現に監護する者には当たらないということになると思いますけれども,更にそれが言わば親代わりになっているような場合には,その関係性というのが親子関係と同視し得るような場合にまで至っているということであれば,「現に監護する者」に当たるということもないわけではないのではないかとは考えております。
○武内幹事 質問に当たりますけれども,イメージの整理をさせてください。そうしますと,現に監護する者と被監護者との間では,具体的な局面において,例えば抗拒不能状態にある時と,抗拒不能でない時というのは,それぞれ存在し得る。他方,現に監護する者と被監護者の間における影響力というのは,基本的には常に存在する,すなわち常態的に存在するものである。ただ,例外的にその影響力と無関係に性交が行われる場合も考えられ,そのようなケースを,影響力の遮断という用語で説明されていた。このように理解しましたけれども,大筋において間違いないでしょうか。
○中村幹事 基本的に,今御指摘になったようなところで,間違いはないものと考えております。この「現に監護する者」に当たるということであれば,その18歳未満の者に対する一般的な影響力があるものと考えておりますので,そのような影響力が一般的に存在する下において性交等が行われたということであれば,通常はその影響力を利用したと言えるのだろうけれども,ただ例外的に影響力とは無関係に行われた場合がないとは言えないだろうと。そのような場合を遮断という言葉で先ほど来,申し上げているとおりでありまして,そういう場合は影響力を利用したとは言えないということでございます。
○武内幹事 そうしますと,故意の要素,すなわち主観的な認識の対象としても,自らが現に監護する者であることを認識していれば,一般的には当該性交が影響力を利用ないしは影響力の存在するところで行われたものであるということの認識を伴うという理解でおおむねよろしいでしょうか。
○中村幹事 現に監護する者であることによる影響力を利用して性交等をしたということでございますから,もちろん故意犯でありますので,いずれについても認識が必要となるということでありますけれども,現に監護する者であるという点については,現に監護する者であることを基礎付ける事実の認識があれば,この現に監護する者であるという要件についての故意があるということになります。
  また,その影響力を利用して性交等をしたという点でございますけれども,先ほど来申し上げていますとおり,この影響力を利用して性交等をしたという意味ですけれども,18歳未満の者に対する監護者の影響力が一般的に存在しており,かつ,その影響力が遮断されていない状況で性交等を行ったという意味であると御説明申し上げてきているところでございますけれども,故意については,今申し上げたとおり,監護者の影響力が一般的に存在するということを基礎付ける事実の認識,また,その影響力が遮断されていない状況で性交等を行った事実,この認識が必要であるということになってまいります。
○山口部会長 今回は2巡目で,1巡目の時にも大分御議論いただきました。今日もいろいろな観点から御議論を頂きましたが,この辺りでまとめさせていただいてもよろしゅうございましょうか。
  「影響力を利用して」の要件につきましては,18歳未満の者に対する監護者の影響力が一般的に存在し,かつ,その影響力が遮断されていない状況で,性交等又はわいせつな行為を行った時には,影響力を利用したと言えるというのが基本的な事務当局の御説明であったわけでございますけれども,これに対しては立証責任の事実上の転換になるのではないか,あるいは処罰範囲が広がっていってしまうのではないかというような趣旨の御疑問をお述べになる御意見もございましたけれども,多数の方は事務当局のような説明でよいのではないかという御意見であったと理解させていただきました。
  なお,そのような理解を前提とした場合に,「影響力を利用して」という文言につきましては,更に検討が必要だという御意見もございまして,先ほど事務当局からもそれに関して御発言がございましたけれども,事務当局において更に御検討をお願いしたいと思います。
  要綱(骨子)第三につきましては,大体この辺りで終わらせていただきたいと思いますが,よろしゅうございましょうか。ありがとうございました。
  それでは,若干休憩をここで挟みたいと思います。それでは,11時まで休憩とさせていただきます。

(休     憩)

○山口部会長 それでは,会議を再開いたします。
  ここからは,要綱(骨子)第七について審議を行います。要綱(骨子)第七につきまして,1巡目の議論を振り返っておきますと,まず第七のような,先後を問わず,同一の機会に強盗と強姦を犯した場合に現行法の強盗強姦罪と同様に重く処罰する規定を設けることの必要性につきまして,必要でないという御意見もございましたが,多数の方は必要であるという御意見でございました。
  また,第七の一ただし書及び第七の二につきましては,要綱(骨子)に賛成する御意見が多く述べられましたが,第七の一につきましては,現行法の下よりも減軽される範囲が狭くなるという点,第七の二につきましては,現行法の下では中止未遂として必要的減免となるものが要綱(骨子)では必要的減免とならない場合があるということ,第七の二につきまして,これを適用する方が単純な併合罪よりも処断刑が軽くなる場合があり得ることについて,検討が必要であるという御指摘がございましたので,事務当局において検討していただくこととしておりました。
  第七の三につきましては,死亡の結果が生じた場合の規定ですが,このような規定を置くこと,またこの規定には殺意を持って行った場合をも含み,殺害が未遂に終わった時には,第七の三の罪の未遂犯として罰すること等につきましては,特に反対の御意見はございませんでした。
  このような1巡目の御議論を踏まえて,本日は2巡目の御議論をお願いしますが,まず,事務当局から,先ほどの点について検討の結果の御説明をお願いいたします。
○中村幹事 この部会の第3回会議におきまして,要綱(骨子)第七に関しまして,現行法では強盗が既遂であっても,強姦が未遂であれば強盗強姦罪の未遂となり,強姦を任意に中止すれば中止未遂の規定が適用されるのに対し,要綱(骨子)第七の一ただし書では,強盗が既遂であれば刑は減軽されず,酌量減軽をしても執行猶予を付することができないこととなるという点,また,強盗が既遂の場合には,強姦を任意に中止しても,第七の二による刑の減免が認められないこととなるという点,また,第七の二,すなわち強姦行為と強盗行為のいずれもが未遂に終わった場合において,いずれか一方を自己の意思で中止した時は,必要的に刑を減免するという規定については,強姦と強盗とを併合罪として処理する場合よりも,第七の二が適用される場合の方が刑が軽くなる場合が生じるのではないかという点につきまして,検討の必要があるとの御指摘を頂いておりました。
  これらの点につきまして,事務当局において改めて検討いたしましたので,御説明申し上げます。
  まず,1点目の問題と2点目の問題ですけれども,いずれも要綱(骨子)第七の一ただし書におきまして,強盗と強姦の両方が未遂であった場合にのみ,刑の減軽を認めることとしていることによる問題であると考えられます。
  このように,両方が未遂であった場合にのみ,刑の減軽を認めることとしたのは,強姦行為と強盗行為とが同一の機会に行われ,そのいずれか一方でも既遂であった場合には,同一の機会にそれぞれ単独でなされてもなお悪質な,強盗に向けた行為と強姦に向けた行為とがともになされ,少なくともそのいずれかは行為の目的を達しているわけですから,その悪質性・重大性は,いずれも未遂の場合と比べて大きいと思われ,あえて刑の減軽をする必要はないと考えたためでございます。
  第3回会議におきまして,強盗にも様々なものがあることを考えると,酌量減軽をしても執行猶予を付し得ないこととしてよいのかという御指摘や,中止未遂の適用範囲が狭くなることは,被害者保護の観点から問題があるのではないかとの御指摘を受けました。これを受けまして,改めて検討いたしましたが,仮に,同一の機会に行われた強盗行為と強姦行為のいずれか一方が既遂で,他方が未遂の場合に,刑の減軽を認めることとしたり,一方が既遂で他方が任意に中止したという時に,刑の減免を認めるということとしたりしますと,一方の罪のみが行われて既遂となった場合,処断刑は懲役5年以上となりますが,そのような場合よりも,一方の罪の既遂後,他方の行為に着手し未遂に終わった場合,この場合は処断刑が懲役3年6月以上となり,この場合の方が処断刑は軽くなるという不均衡が生じることとなります。
  また,要綱(骨子)第七の罪におきましては,強姦行為と強盗行為のその先後を問わないものとしていますところ,一方の行為に先に着手し,それを任意に中止した後,他方の行為に着手し,既遂となったような場合,つまり,例えば強姦行為に着手したものの,かわいそうになって中止し,引き続き強盗行為に着手して既遂に達したような場合,このような場合を考えますと,このような場合にまで先行行為,先の行為を中止したことをもって刑の減免を認めることが相当であるとは思われません。また,この点につきまして,後の方,後行行為を中止した場合にのみ,刑の減免を認めることとすればよいという御意見もあり得るかと思われますけれども,現実の事件におきましては,どちらの行為が終わったのが先だったのかということを認定することが困難な場合も多いと思われますので,行為の先後によって決めることは,適切ではないと考えております。
  このようなことを考えますと,事務当局といたしましては,やはり要綱(骨子)のとおり,強姦行為と強盗行為のいずれもが未遂に終わった場合にのみ,刑の減軽を認めることとするのが適切であると考えている次第でございます。
  次に三つ目の御指摘について申し上げます。
  第七の二において,強姦行為と強盗行為のいずれもが未遂に終わった場合であって,いずれか一方を自己の意思で中止した時は,必要的に刑を減免することとしている点につきまして,強姦罪と強盗罪とを併合罪として処理する場合よりも,第七の二が適用される場合の方が刑が軽くなってしまう場合が生じるのではないかという御指摘を頂いておりました。
  この点につきましては,第3回会議におきましても御説明申し上げたところでございますけれども,確かに御指摘のとおり,まず強姦に着手したものの,被害者がかわいそうになって中止し,新たに強盗の犯意を生じて強盗に着手したものの,抵抗されて未遂に終わったというような事案を想定しますと,処断刑におきましては,強姦の中止未遂と強盗の障害未遂の併合罪とした方が,第七の二を適用するよりも重いこととなる場合があり得ることになります。
  もっとも,そのような事案が発生すること自体がかなりまれではないかとも思われますし,そのような事案が仮に生じたといたしましても,その場合にも第七の二の適用による処断刑,すなわち有期懲役を選択した場合,3年6月以上10年以下の懲役という処断刑の範囲内で適切な量刑が可能なのではないかと考えております。
  したがいまして,第3回会議で申し上げましたとおり,このような場面が生じ得るとしても,いずれか一方でも中止すれば刑を減免するとすることによって,結果の発生を防止するという政策的な目的を達成する趣旨というのを重視しまして,この要綱(骨子)第七の二のとおりとするのが適切であると考えているところでございます。
  以上が事務当局による検討の結果でございますけれども,委員・幹事の皆様方の御意見を頂ければと存じます。
○山口部会長 ありがとうございました。
  それでは,ただいまの御説明も踏まえまして,御審議を頂きたいと思います。ただいまの御説明に対する御質問や御意見をも含めまして,御発言のある方はお願いしたいと思います。
○今井委員 ただいまの御説明に賛成する方向で改めて確認のために発言したいと思います。
  第七の一のただし書のところでありまして,いずれの罪も未遂罪であるときはその刑を減軽することができるものとすることという案になっております。この案につきましては,私,前にもお話しさせていただいたかと思いますけれども,配布資料18というところの12ページ辺りでしょうか。現在の強盗強姦罪の量刑の分布がございます。この表の読み方については,以前も御説明を受けたと思いますけれども,既遂・未遂の区別は特にされていないのかと思いますが,ここを見ましても,仮にどちらかが未遂類型を含むものがあったとしても,3年以下という執行猶予が付し得るものは,率にして,例えば0.41%という場合もあるようで,非常に小さくなっております。ということは,現在の量刑判断におきましても,いずれかが既遂に至ったような場合というのは,当然この中に含まれているわけですけれども,大変悪質なものであり,重たい刑に相当するという理解がとられているものと思います。そのことを踏まえますと,仮に任意的な刑の減軽をするとしても,御提案のようにいずれの罪もという仕切りがよいのではないかと思うところであります。
○佐伯委員 私は以前の会議におきまして,現行法より狭くなることについて,もう少し検討が必要ではないかと申し上げました。その後,自分でも考えてみて,後の行為を中止した場合に適用するというようなことも考えたのですけれども,今,事務当局から御説明がございましたように,どちらが先か認定することが難しい場合があるということで,結論として事務当局の御提案に賛成したいと思います。
○香川幹事 今の事務当局の御説明とはちょっと関係ない話になってしまうのですけれども,こちらも新しい類型でございますので,裁判所の立場から気になっていることをお聞きしたいと思います。
  現在は強盗強姦罪という罪のみがあるわけでございますけれども,これは強盗が強姦するという形になってございますので,実務上,強盗と強姦とどっちが先なのか,あるいは犯意がいつ発生したのかということが,裁判の現場で争われることがございます。
  今回の要綱第七の一の一に掲げる罪と,二に掲げる罪というのが,今の御説明でも同一の機会ということで,それは両方あるということが要件だというお話であったと思います。そういたしますと,要するに同一の機会に両方あるということが大事なのであって,特に犯意の点でございますけれども,初めから両方の罪の犯意を有していたか,あるいは一方の罪を犯した後に他方の罪の犯意が発生したかということは,余り関係ないと言いますか,どちらの場合もこの要綱第七の一の罪が成立すると,こういう理解でよろしいのかどうか,確認させていただきたいということでございます。
○中村幹事 ただいまの御質問の点でございますけれども,初めから強盗と強姦,両方の罪の犯意を持っていた場合,強盗と強姦,どちらか一方の罪を犯した後に,他方の罪の犯意が生じた場合,そのいずれにつきましても,この要綱(骨子)第七の罪が成立するという理解でよろしいかと思います。
  また,先ほど今井委員から御発言のありました資料18の強盗強姦の最近の量刑分布のグラフと表についてでございますけれども,若干,補足的に申し上げますと,平成12年から平成26年までの間に,強盗強姦罪,これは未遂も含みますし,もしかすると中止未遂というのが入っているのかもしれず,その点は分かりませんけれども,そのような強盗強姦罪につきまして,量刑分布を見ますと,3年以下となっているものがこの平成12年から平成26年の間に3件となっていまして,平成12年から平成14年の間に2年以下だったものが0.44%,平成15年から平成17年の間に3年以下だったものが0.41%,平成18年から平成23年の間はゼロ,平成24年から平成26年の間は2年以下が1.02%という数字が書かれているとおりでございます。また,この強盗強姦罪には,先ほど申し上げたとおり,未遂も含まれており,また,この表の中では執行猶予に付された場合には,括弧書きで数字が書かれるわけでございますけれども,括弧書きでの数字がないことから明らかなとおり,この強盗強姦罪に問われた事案の中に,執行猶予に付された例はないということになります。補足的に申し上げました。
○山口部会長 ほかにいかがでございましょうか。
  1巡目で御指摘いただいた問題につきましては,先ほど事務当局の方から御説明がございまして,それで了解したという御発言もございましたが,この要綱(骨子)第七の罪に関連して,ほかに疑問点などはございませんでしょうか。
○木村委員 2点,確認させていただきたいのですけれども,一つはこれは前に議論があったかもしれませんけれども,「際に」というのがどの程度の範囲を示しているのかというのは,ここで了解が取れているのかどうかの確認と,あともう一つ,いずれかの未遂でも未遂という点なのですけれども,三のところで死亡させたというところで,殺意があるというのは,強盗と強姦のどちらでも殺意があり得るということでよろしいでしょうか。現在は,強姦致死は殺意がある場合は含まないと理解されているのかと思うのですけれども,それとはちょっと違う理解でよろしいのかという点を確認をさせていただければと思います。
○中村幹事 「際に」という文言の意義でございますけれども,こちらは現行の強盗強姦罪と同様の理解でございます。強盗強姦罪につきましては,強盗の機会に女子を強姦するという場合にこの罪が成立すると一般に理解されておりますけれども,要綱(骨子)第七の一の「際に」というのは,それと同様の理解でございますので,いわゆる同一の機会にこの二つの罪がなされた場合ということでございます。
  この機会についてでございますけれども,この機会につきましては,裁判実務上,どのように判断されているかというところでございますけれども,時間的,場所的な乖離の程度,その被害者が同一かどうかなどなどの考慮要素というのを総合的に勘案して,その機会であったのかどうかというのが判断されているものと思われますけれども,この強盗強姦罪と同様な考え方で,この第七の同一の機会についても判断されるものと思われます。
  それから殺意の点でございますけれども,この殺意というのは,強盗行為ないし強姦行為,そのいずれかのときに殺意を持って行為がなされた場合には,この罪が成立すると考えております。
○宮田委員 同一機会という問題との関係で,前回も述べましたけれども,強盗の場合にはこの暴行脅迫が,かなり強いものである一方,強姦自体の暴行脅迫要件はかなり弱いものになっておりますし,性的行為に対する抗拒不能が,直ちに財産に対する抗拒不能になるかどうかという問題もあるかと思います。場合によっては新たな暴行脅迫要件が必要な案件もあるように思われますし,あるいは窃盗が同時に,従来,強姦の現場で窃盗にしかならないとされた事件もございます。
  この機会性の条件を新たに作ることで,従来は窃盗で処罰されていたものまで,認定を緩められてしまう危険はないのかという危惧感を持っているというところでございます。
  あと,重い行為について中止未遂で判断することがより罪が軽くなって問題だという考えもありますけれども,逆に,より重い罪を犯さないなら刑を軽くするという機会を与える政策的な判断自体は,あり得ることなのではないでしょうか。要は,あえて政策的に,そういう判断をすることもあり得るのではないかという2点です。
○加藤幹事 ただいま,御指摘の点について,事務当局の考え方のみ確認的に申し上げます。
  最初の御指摘であります強姦については,暴行脅迫の程度が若干弱い場合もあるのであるが,機会性というその概念を持ち込むことによって,本来窃盗として扱われていたものまで強盗として扱われるのではないかと,こういう危惧を述べられたわけでございますね。しかし,これは既に御説明いたしましたとおりで,従来の強盗という罪の成立範囲を緩めようという意図はありませんので,御懸念は当たらないと考えております。
  それから,より重い,片方が既遂に達している場合でも,政策的にもう一方が中止になっていれば,必要的減免を認めてもよいのではないかといった御指摘だったと思います。もとよりそういった政策をとるかどうかは,評価の問題ではございますけれども,事務当局の考え方としては,既遂に達しているその片方の罪が,強盗であっても強姦であっても非常に重い罪が既遂に達しているにもかかわらず,更にもう片方が中止であったからといって,必要的な刑の減免といった恩典を与えて,そのような恩典を与えれば,本来の既遂に達している罪の法定刑を下回る処断刑となるといったことが,政策としても適切ではないと考えているというところでございます。
○山口部会長 ほかに何かございますでしょうか。特に御発言がない方は,要綱(骨子)のとおりでよいという御趣旨であると理解してもよろしゅうございましょうか。
(一同異議なし)
○山口部会長 ありがとうございました。
  そうしますと,問題があるという御指摘があったわけではございますけれども,多数の方は要綱(骨子)のとおりでよいのではないかという御意見であったと理解させていただきたいと思います。
  それでは,要綱(骨子)第七についての議論はここまでとさせていただきますが,冒頭で申し上げましたように,残りの時間で要綱(骨子)第四の非親告罪化に関する御議論をお願いしたいと思います。
  まず,事務当局から御説明をお願いいたします。
○中村幹事 事務当局から,要綱(骨子)第四につきまして,御議論をお願いしたい点がございますので,御説明申し上げます。
  要綱(骨子)第四の強姦罪などの非親告罪化につきましては,前回までの御議論におきまして,要綱(骨子)のとおり,非親告罪化するべきであるという御意見が多数でありましたけれども,仮にこの要綱骨子のとおり答申を頂き,法改正をすることとなった場合に,その時的な適用範囲が問題になると考えられます。
  すなわち,改正法施行後に犯された強姦罪などが非親告罪となるのは当然といたしまして,改正法の施行前に犯された強姦罪などについても,改正法施行後は非親告罪として取り扱うべきかどうかという問題です。
  事務当局におきまして検討しましたところ,告訴をするか否かの判断をしなければならない被害者の負担を軽減するという今回の非親告罪化の趣旨に鑑みますと,改正法施行前の犯罪行為についても,非親告罪として取り扱うことを検討する意義があるものと考えるに至っております。この点,親告罪とする規定,つまり特定の罪について告訴がなければ公訴の提起をすることができないとする規定は,訴訟手続に関する規定ですので,親告罪とされている罪を非親告罪とする改正は,訴訟手続に関する法律が改正された場合には,新法を適用するという原則に従うものでありますし,親告罪とされている強姦罪などの罪を非親告罪とすることは,「実行の時に適法であった行為」について遡って刑事責任を問うものでも,行為の違法性の評価,責任の重さを遡って変更するものでもありませんから,憲法第39条にも反するものではないと考えられます。
  また,改正法施行の時点において,将来的に告訴がされる可能性がある事件につきましては,告訴がなされれば公訴が提起され,有罪判決がされる可能性があるものですから,これを非親告罪化したとしても,その被疑者・被告人の法律上の地位を著しく不安定にするものとは言えないことから,改正法施行時に告訴がされる可能性があるものについては,改正法施行前の犯罪行為を非親告罪として取り扱っても,被疑者・被告人の利益を不当に侵すものではないと思われます。
  もっとも,改正法施行前に既に告訴がされる可能性がなくなっているような場合,例えば全ての告訴権者の告訴が取り消されて,更に告訴をすることができないような場合などが,これに当たり得ると考えられますけれども,このような場合につきましては,一旦,告訴がされる可能性がなくなり,その結果として起訴される可能性がなくなった被疑者の地位の安定性を考慮し,また,その当時の法に従って意思表示をした被害者の意思を尊重して,非親告罪化しないこととするのが適切であると思われます。
  したがいまして,改正法施行時において既に告訴がされる可能性がなくなっているものを除き,改正法施行前の犯罪行為についても新法を適用し,非親告罪として取り扱うこととするべきであると考えるに至ったところでございますけれども,この点につきまして,委員・幹事の皆様の御意見を賜りたいと考えております。
  なお,参考になる例といたしまして,本日お配りいたしました配布資料31の2ページ目にございます刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律(平成22年法律第26号),公訴時効の廃止及び延長などを内容とするものですけれども,この附則の第3条におきまして,この法律の施行前に犯した罪であっても,その施行の際,公訴時効が完成していないものについては,公訴時効の廃止・延長等に係る改正後の規定を適用するものとしているものがございます。この点につきましては,配布資料32の最高裁判所の平成27年12月3日の判決では,公訴時効の廃止や延長は,行為時点における違法性の評価や責任の重さを遡って変更するものではなく,被疑者・被告人となり得る者につき,既に生じていた法律上の地位を著しく不安定にするようなものでもないとして,憲法第39条,第31条に違反せず,それらの趣旨に反するものとも認められないとしていることが参考となると思われます。
○山口部会長 ありがとうございました。
  ただいま,御説明がございましたように,事務当局において要綱(骨子)第四のとおり法改正をする場合,その適用範囲をどのようにすべきかという問題について検討され,改正法の施行前に行われた行為につきましても,一定の場合を除いて非親告罪として取り扱うこととするのがよいのではないかと考えるに至ったということでございます。
  この点につきまして,改正法施行前に行われた行為についても,非親告罪として取り扱うことの当否等を中心に御意見のある方はお願いしたいと思います。
  いかがでございましょうか。
○小木曽委員 今の事務当局の御説明をなぞるようなことになりますけれども,一つは憲法の問題があります。遡及適用の問題ですが,新たな罪を作るわけではなく,また,告訴がなければ裁判ができないということであったもの,すなわち国家の刑罰権自体はあるけれども,被害者への配慮からその処罰意思が確認できなければ裁判をしないという制度であったものを,被害者の処罰意思を訴訟条件としないという制度にするという変更ですから,これは憲法第39条の規定する事後法の禁止条項には触れないと思います。
  そうすると,あとは立法政策の問題になるわけですが,この資料31を見ますと,従来の法制度では,遡及適用しないというものもありますし,それから今回は大きな改正でもありますので,法が施行されるときを基準に将来的に適用するという考え方もあるだろうと思いますけれども,他方で,改正の趣旨が被害者の負担軽減ということであれば,施行前に犯された罪についても適用するという提案も否定されるものではないと考えます。
  また,罪は罪として成立するわけですので,告訴がなければ訴追されないという被疑者の期待を保護する必要があるかというと,そのような必要はないと考えることができるのではないかと思います。
○井田委員 今の小木曽委員のお考えと基本的に同じだと思うのですけれども,一言私の意見を申し上げます。手続法規定の適用に関する原則論から言えば,やはりそれは法律の施行と同時に,今現在,進行中の手続にそのまま適用するというのでなければいけないと思います。たとえ犯罪自体は施行日以前の出来事であったとしても,実体法ではなく手続法に関する法改正なのですから,遡及適用ということにならない。また,それは「改正」であり,非親告罪化という形でよい方向に法の規定を変えるという前提で考えるのですから,それはもう施行と同時にすぐ適用するのが当然で,そうでなければ筋が通らないことになるだろうと考えます。これが原則論ではありますが,ただし,仮にそれが行為者の側の正当な法的利益を侵害するというのであれば,ただちに施行するのは適切ではない,ちょっと待ちましょうということになるのだと思います。
  そこで,ここでの問題は,果たして行為者側にとって自分の犯罪が親告罪であるということが,果たして正当な法的利益であるとして主張できるものであるのかどうかということになります。
  確かに,一定の事実上の利益があることは否定できないかもしれません。しかしそれは法改正により実現される被害者側の正当な利益と拮抗して,それを凌駕するような正当な利益とは言えないでしょう。公訴時効期間の延長とか,そもそも公訴時効の廃止とかでさえ,潜在的被疑者の正当な法的利益を害するものではないというのが,平成22年の刑訴法一部改正の前提であり,またそれは最近の最高裁の判例によっても支持されているのです。そうであるとすれば,親告罪であるということはますます法的に保障されているような利益ではないと考えなければならないと思います。
  ただもう既に施行前に告訴の可能性がなくなっているようなものについてはどうかということになると,確かに公訴時効の場合とは違います。既に公訴時効が完成している場合にはそもそも公訴権がない,訴訟追行権が消滅しているということで,これを法改正により復活させることはできないとも考えられる。これに対して,告訴の可能性が事実上なくなったという場合だと別に公訴権がなくなるとか,訴訟追行権がなくなるということではないということにもなりそうなのです。それはそうなのですけれども,法的安定性という見地から,それを再び動かすまでのことはないので,そういう事件については除きましょうというのが一つの考え方であり,政策的な判断としてはそれが適当であろうと考えられるのです。
○宮田委員 私は逆に,これは実体法の条文ではないとしても,刑法典の中に定められている部分であり,その重要な変更であるということを考えますと,過去の昭和22年改正,昭和33年改正の例などもございますので,同様に不遡及でいくべきではないかと考えます。
  確かに実体法上の条文ではありませんが,例えば立件されていない事案について示談がされる,あるいは告訴しないと話が付いているような事例などは,十分あり得るかと思います。こういうものは絶対に掘り起こさないという政策についての確約でもあればよろしいのですが,非親告罪化されることによって,一旦示談してもうお話が付いていたものについて,あまりいい例ではないかもしれませんが,示談金を更に取得しようとする乱用的意図で被害が届けられることも出てき得るのではないでしょうか。加害者が,自ら進んで被害者との関係を修復する動きをしたものについて,それが掘り起こされて起訴されるというようなことがあってはいけないのではないか。
  そういう意味で,非親告罪化は,公訴時効と違って,実体的な判断に関わってくるような部分もあるように思われるのです。
  犯罪を犯した方の側の立場の不安定性というのが免れないことを考えますと,遡及には反対の立場を取りたいと思います。
○橋爪幹事 1点,質問がございます。今,宮田委員の方からも御指摘がございましたが,本日配布の資料31番では,刑法の一部改正につきまして,非親告罪化に関する先例を2点御紹介いただいておりますが,昭和22年改正も昭和33年改正も,ともに非親告罪化については「なお従前の例による」旨の経過規定が設けられておりますので,今回の改正については,これらの先例とは趣旨が異なるという説明が必要になってくるかと存じます。もし事務当局の方でお分かりであれば,昭和22年改正,昭和33年改正の趣旨につきまして,ご教示いただければと存じます。
○中村幹事 それでは,事務当局から御説明申し上げます。この親告罪であったものが非親告罪化されるという改正があった場合に,改正法施行前の行為についてそれを適用するかどうかといいますのは,先ほど申し上げたとおり,理論的な問題というよりも,むしろ政策的な判断の問題ではないかと考えているところでございますけれども,その上で個々のそれぞれの法改正の際に,それぞれの政策判断がそれぞれなされたということかなと思っております。
  その上で申し上げますけれども,昭和22年の刑法改正についてでございますけれども,これは現行の日本国憲法が制定されたことに伴いまして,刑法が改正されたというところでございます。そのうちの一つとして,暴行罪につきまして,従前は親告罪であったものが,非親告罪とされるとともに,法定刑につきまして引き上げられるという改正がされています。これにつきまして,経過規定では,この改正以外の部分につきましても含めた上で,なお従前の例によるとされたものでございます。
  このときの暴行罪の非親告罪化の趣旨でございますけれども,当時の説明などを見てみますと,このように要は単なる暴行でとどまる場合については,その訴追というのを被害者の意思如何に係らしめるのを適当とするという考え方に立っていたということなのですけれども,この憲法が新しいものとなり,民主主義体制の下においては,暴力というのはやはり否定する必要があろう,傷害を伴わない暴行と言えども軽微な罪ということではなく,国家として処罰する必要があるだろうという趣旨から,非親告罪化し,法定刑が引き上げられたというものであると承知しておりまして,そうであるとするならば,今回の非親告罪化につきましては,被害者が告訴するかどうか判断を迫られるというその負担の軽減であるというところとは,非親告罪化の趣旨が異なるという説明は可能なのかなと思っております。
  また,昭和33年の輪姦的形態による強姦罪につきまして,非親告罪化されましたけれども,このときもこの法律の施行前の行為については,なお従前の例によるという形で,施行前の行為については非親告罪化しないという扱いがされたところでございます。このとき,このように判断されたのがなぜであったのかというところにつきましては,必ずしも明確でないところもあるわけでございますけれども,当時の輪姦的形態でなされる強姦罪等が非親告罪化された趣旨につきましては,この輪姦的形態でなされる強姦罪というのは,非常に凶悪なものであり,その訴追については被害者の利益のみによって左右することは適当でないと考えられたものと説明されているところでございまして,先ほど申し上げた今回の非親告罪化の趣旨とは異なるということは言えるのではないかと考えるところでございます。
○橋爪幹事 ありがとうございました。今,御説明を伺いますと,これまでの先例が統一的な論理的根拠に基づいているわけではないよう,過度に先例を重視する必要はなく,飽くまで今回の立法趣旨に従って個別的に判断をすれば足りるように思いました。
○池田幹事 先ほど宮田委員からも御指摘がありました,告訴がされて取り消されたわけではないけれども,告訴をしないという取決めが被害者との間でなされているという事案は,確かに存在するのだと思います。ただ,そういう事件について,非親告罪化したからといって,検察が被害者の意思の如何を問わず起訴するということにはならないのだということが,非親告罪化をする方針について賛成する際にも議論されていたと思います。つまり,そのような事案が仮にあるとしても,実務上,個別的に対応がなされるのであって,全ての事案が直ちに起訴されるということにはならないものと理解をしております。
○森委員 今,池田幹事に代わりにお答えいただいたような気がいたしますけれども,確かに以前も申し上げましたとおり,検察官としましては非親告罪化されたとしましても,被害者の意思を尊重して処分を考えていくという点は,何ら変わるところがないと考えております。ですので,ちょっと宮田委員がおっしゃった事案とは異なりますけれども,例えば被害者がもういいですと言って告訴しませんと言って不起訴になった事案につきまして,検察官の方がそれを新たに掘り起こして,被害者の意思に関係なく起訴してしまうというようなことはまずないと思っていただいていいと思います。
  それから宮田委員がおっしゃったのは,被害者がもう告訴しません,示談が成立しているので告訴しませんと言って事件化されなかったような改正法施行前の事案について,被害者がやはり処罰してほしいと言い出した場合,その事案が立件されることになるとしたら,被疑者の立場から見た場合問題ではないかということだったかと思うのですけれども,その点につきましては,現行法の下でも告訴が一旦なされて取り消されたのではなく,元々告訴がないのであれば,改めて被害者がやはり処罰してほしいということで告訴をすれば,それは処罰の対象になりますので,現行法の下と非親告罪化した後の対応とで何ら変わるところはないと考えております。
○塩見委員 私も非親告罪化して,それを遡及させるという御提案に賛成を致します。こだわるというか,細かいことを申しますと,暴行罪のときと非親告罪化の趣旨が異なるというお話が出ましたけれども,刑罰を引き上げて,それに伴って非親告罪化しているという点では,やはり今回も一緒ではないのかという気はしております。
  第1回目の刑事法部会におきまして,私が申して佐伯委員から御批判を受けたことなのですけれども,非親告罪化を支持する理由としまして,やはり重く処罰される,そういう重い責任評価を受けるに至った性犯罪であることが挙げられると思います。そういう場合にはやはり刑事訴追を被害者の意思に委ねるのは妥当でないという点がやはり私はあると考えますので,暴行罪の場合と今回の場合とは違いますと割り切るというのは,ちょっと抵抗感を感じないわけではありません。
  いずれにしましても,結論的には,被害者保護の観点から,親告罪ではなくて非親告罪にするという要請が政策的判断として強いということで,すぐに適用した方がよいという判断は支持できると思います。そういう意味で御提案に賛成したいと考えております。
○山口部会長 ほかにいかがでしょうか。
  今日のところはこれでよろしゅうございましょうか。ありがとうございました。
  それでは,事務当局におかれましては,ただいまの御意見を参考に更に御検討いただきたいと思います。
  では,本日の審議はこれをもちまして終了ということにさせていただきたいと思います。
  次回でございますが,次回につきましては冒頭で御議論いただきましたように,ヒアリングについて,日程等を含めて事務当局と検討させていただきたいと思いますので,委員・幹事の皆様には,追って御連絡することとさせていただきたいと思います。
  なお,本日の会議の議事につきましては公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することにさせていただきたいと思いますが,そのような取扱いでよろしゅうございましょうか。
(一同異議なし)
○山口部会長 ありがとうございました。では,そのようにさせていただきます。
  では,これをもちまして終了といたします。本日はどうもありがとうございました。
-了-
http://www.moj.go.jp/content/001183733.txt

法制審議会
刑事法(性犯罪関係)部会
第7回会議 議事録

第1 日 時  平成28年6月16日(木) 自 午前 9時58分
                      至 午前11時08分

第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室

第3 議 題  1 要綱(骨子)第一,第三及び第四について
        2 要綱(骨子)全体について
        3 採決

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

○隄幹事 予定の時刻になりましたので,ただ今から法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第7回会議を開催いたします。
○山口部会長 おはようございます。
  本日は,御多忙中のところお集まりいただき,ありがとうございます。
  本日,小西委員におかれましては,御欠席と伺っております。
  まず,初めに,事務当局から資料の御説明をお願いいたします。
○隄幹事 本日配布しておりますのは,資料34です。前回までの会議における審議の状況を踏まえ,事務当局において作成した要綱(骨子)の修正案です。
  内容につきましては,後ほど事務当局から御説明をさせていただく予定です。
  また,いつものとおり,前回までの配布資料を机上に置かせていただいております。
○山口部会長 ありがとうございました。
  それでは,審議に入りたいと思います。
  本日は,まず,前回までに事務当局に検討をお願いした点などにつきまして,事務当局から検討結果の御説明を受けた上で,更に審議を行いたいと思います。
  具体的には,要綱(骨子)第三の「影響力を利用して」という表現について,被害者に向けられた具体的な利用行為が必要であるようにも読めるため,より適切な表現ができないか,要綱(骨子)第四の強姦罪等の非親告罪化の適用範囲をどのようにすべきかという点について,検討をお願いしておりましたほか,要綱(骨子)第一の処罰対象となる行為について,「性交等」とした上で,括弧書きで定義を置いている点につき,より端的で明確な表現ぶりがないかという点についても御検討いただいていたものと思います。
  それで,まずは,事務当局から,検討結果について御説明をお願いしたいと思います。
○加藤幹事 御指示の点について説明を申し上げます。
  本日お配りいたしました資料34を御覧いただきながら,お聞き取りください。
  また,従前の要綱(骨子)は,お手元の資料1に付いておりますので,そちらも必要に応じて御覧ください。
  前回までの部会における委員・幹事の皆様からの御指摘・御意見を踏まえて,事務当局において,諮問に係る要綱(骨子)を再度検討いたしました結果,本日の配布資料34のとおり,3点について一部修正するのが適当であると考えるに至りましたので,その修正内容及び理由について説明いたします。
  まず,要綱(骨子)第一の修正についてです。
  要綱(骨子)第一においては,処罰対象となる行為を「性交等」とし,括弧書きを用いて,「相手方の膣内,肛門内若しくは口腔内に自己若しくは第三者の陰茎を入れ,又は自己若しくは第三者の膣内,肛門内若しくは口腔内に相手方の陰茎を入れる行為をいう。」と定義することとしていました。
  この点につき,第4回会議において,構成要件の明確性の要請を踏まえつつ,より端的な用語で表現することができないかという御意見がありましたので,これを踏まえて事務当局において検討を行いました結果,要綱(骨子)修正案第一のとおり,「性交,肛門性交又は口腔性交」と表現した上で,これらを合わせた略語として,「性交等」を用いることとするのが適当であると考えるに至ったものです。
  これは,従前の要綱(骨子)第一の意味内容を変更する趣旨の修正ではなく,これまで説明をしてまいりました意味内容を維持したまま,より適切な表現を用いようとするものです。
  要綱(骨子)修正案第一の案文に即して,具体的に説明します。
  まず,従前の要綱(骨子)の括弧書きにおいては,その前半部分で,「相手方の膣内,肛門内若しくは口腔内に自己若しくは第三者の陰茎を入れ」る行為を記述し,「又は」以下の後半部分で,「自己若しくは第三者の膣内,肛門内若しくは口腔内に相手方の陰茎を入れ」る行為,すなわちこれまでの議論の中では,便宜上,「挿入させる行為」などと呼んでいた行為を記述しておりました。
  修正案では,これらの行為のうち,膣内に陰茎を入れる行為を「性交」,肛門内に陰茎を入れる行為を「肛門性交」,口腔内に陰茎を入れる行為を「口腔性交」と表現しています。このような表現を用いることにより,行為者が,自己又は第三者の陰茎を相手方,すなわち被害者の膣内等に入れる行為のほか,被害者の陰茎を自己又は第三者の膣内等に入れる,いわゆる「挿入させる行為」をも含むものとして,過不足なく表現することができるものと考えております。
  より具体的に申し上げますと,現行刑法177条は「女子を姦淫」と規定しておりますところ,この「姦淫」とは「性交」を意味し,また「性交」とは一般に男女が性器を交えること,すなわち膣内に陰茎を入れる行為をいうものと解されております。しかし,同条では客体が「女子」に限定されているため,男性が主体となって,女性の被害者の膣内に陰茎を挿入する行為のみが処罰の対象となると解されています。
  これに対し,今回の要綱(骨子)修正案においては,「十三歳以上の者に対し,……性交……をした」という構成要件としており,客体の性別を問わないものとしておりますことから,「性交」との文言で,男性が女性の被害者の膣内に陰茎を入れる行為だけでなく,男性の被害者の陰茎を女性の膣内に入れる行為をも当然に含むものとして表現できていると考えています。
  同様に,「肛門性交」及び「口腔性交」についても,被害者の肛門内や口腔内に陰茎を入れる行為だけでなく,被害者の陰茎を肛門内や口腔内に入れる行為をも含むものとして表現できているものと考えています。
  また,修正案においては,誰の陰茎を誰の膣内等に入れるのかについて限定していませんので,被害者に第三者と性交等をさせる場合をも含むものとして表現できていると考えています。
  なお,これまでの議論においては,口腔内に陰茎を入れる行為を「口淫」という言葉で表現することも多かったのですが,この言葉は必ずしも口腔内に陰茎を入れる行為に限らず,もう少し広い意味,例えば女性器を舌でなめる行為などについても使われる場合があることから,従前の要綱(骨子)の内容を明確に示す意味では,この「口淫」という言葉ではなくて「口腔性交」との用語が適切であると考えたものです。
  さらに,括弧書きの定義を置かないこととしたことに伴い,括弧書きの中に書き込まれていました「相手方」という文言を用いる必要がなくなりましたので,この際,刑法176条の強制わいせつ罪と同様の構文として,「十三歳以上の者に対し,暴行又は脅迫を用いて性交,肛門性交又は口腔性交……をした」という表現を用いることとしております。
  以上が要綱(骨子)修正案第一についての説明です。
  次に,修正の2点目として,要綱(骨子)第三の罪の修正案について説明します。
  第5回の会議において,事務当局から要綱(骨子)第三の罪の「影響力を利用して」という文言の意義につき,「18歳未満の者に対する監護者の影響力が一般的に存在し,かつ,その影響力が遮断されていない状況で,性交等を行ったことをいう」旨の考え方を説明いたしましたところ,複数の委員から,「影響力を利用して」という表現では,被害者に向けられた具体的な利用行為が必要であるようにも読めるため,文言を工夫した方がよいのではないかとの御指摘を頂いていました。
  そこで,事務当局において検討しましたところ,要綱(骨子)修正案第三のとおり,「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて」と修正するのが適切であると考えるに至ったものです。
  なお,この修正は,従前の要綱(骨子)第三で示そうとしていたことを,より適切な表現に修正したものでございますので,第5回会議で申し上げた考え方や意味内容を変更するものではなく,「十八歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした」とは,「18歳未満の者に対する監護者の影響力が一般的に存在し,かつ,その影響力が遮断されていない状況で,性交等を行った」ことをいうものです。
  このほか,要綱(骨子)修正案第三の二において,冒頭に「十八歳未満の者に対し,その者を現に監護する者であることによる」としておりますのは,要綱(骨子)第一の修正に合わせて,構文を整理したものです。
  それから,修正の3点目ですが,要綱(骨子)第四,すなわち強姦罪等の非親告罪化に関する時間的な適用範囲についてです。
  この点については,第5回会議において,事務当局から,次のような考え方について御意見を伺ったところです。
  すなわち,要綱(骨子)第四の趣旨が,告訴をするか否かの判断をしなければならない被害者の負担を軽減するというものであることに鑑みますと,改正法施行前の行為についても,非親告罪として取り扱うこととするのが適当であると考えられます。
  もっとも,改正法施行前に,既に法律上告訴がされる可能性がなくなっている場合については,一旦,告訴がされる可能性がなくなり,その結果として起訴される可能性がなくなった被疑者の地位の安定性を考慮し,また,その当時の法に従って意思表示をした被害者の意思をも尊重して,非親告罪化しないこととするのが適切であると思われます。
  そこで,改正法施行時において既に告訴がされる可能性がなくなっているものを除き,改正法施行前の行為についても新法を適用し,非親告罪として取り扱うこととするのが適当であるとの考え方を御説明したところです。
  第5回会議においては,この事務当局の考え方について,御意見・御指摘を頂き,その御議論を踏まえて,事務当局において更に検討しましたが,第5回会議において申し上げた考え方によることが適当であると考え,また,この内容は,経過措置に関する内容ではありますものの,関係者にとって重要な内容であることに鑑みますと,この点についても,要綱(骨子)に明示した上で,御審議いただくこととするのが適当であると考えるに至りましたので,その旨を要綱(骨子)修正案の第四の三として追加することといたしたものです。
  具体的には,要綱(骨子)修正案第四の三において,「一及び二に係る規定により非親告罪化がされる罪であって,改正規定の施行前に犯したものについては,改正規定の施行の際既に法律上告訴がされることがなくなっているものを除き,改正規定の施行後は,告訴がなくても公訴を提起することができるものとすること。」としております。
  ここで,「法律上告訴がされることがなくなっているもの」というのは,いずれの告訴権者においても法律上もはや告訴をすることができなくなったため,告訴がされる可能性がなくなっていることを意味するものです。具体的に申し上げると,一つ目として,全ての告訴権者の告訴が取り消されて,更に告訴をすることができないような場合のほか,二つ目として,被害者本人が死亡し,かつ,生前に告訴をしない意思を明示していたため,刑事訴訟法231条2項に規定する親族がいるものの,同項ただし書の規定により告訴をすることができない場合,三つ目として,刑法229条ただし書の場合,すなわち,わいせつ又は結婚目的の略取・誘拐の罪で,被害者が犯人と婚姻した場合においては,婚姻の無効又は取消しの裁判が確定した日から6か月が経過したときは告訴の効力がないとされておりますところ,改正法施行の時点でその期間を経過しているときなどは,この「法律上告訴がされることがなくなっているもの」に当たると考えられます。
  他方で,単に告訴権者が告訴の意思を有しない場合や告訴能力を有しない場合などについては,法律上告訴の可能性がなくなっているわけではありませんから,この要綱(骨子)修正案第四の三にいいますところの「法律上告訴がされることがなくなっている」場合には当たらないものと考えています。
○山口部会長 事務当局から要綱(骨子)の修正につきまして御説明を頂きました。修正についての御意見は後ほど承ることといたしまして,まずは修正に関する御質問がございましたらお願いしたいと思います。
  いかがでございましょうか。
(一同発言なし)
○山口部会長 特によろしゅうございますか。
  それでは,続きまして,この修正部分に関する御意見がございましたら,お願いしたいと思います。
○宮田委員 要綱(骨子)第四の三の適用範囲の部分でございます。遡及をさせるべきではないという意見です。
  明治41年法律第29号の刑法施行法4条には,「刑法施行前旧刑法又ハ他ノ法律ノ規定ニ依リ告訴ヲ待テ論ス可キ罪ヲ犯シタル者ハ刑法ノ規定ニ依リ告訴ヲ要セサルモノト雖モ告訴アルニ非サレハ其罪ヲ論セス」という規定がございます。
  この解説書「刑法施行法評釋」(遠藤源六 明治大学)62ページには,「けだし,(一)告訴を待って論ずることは,告訴の有無にかかわらず処断するよりも犯人に利益なること,(二)告訴を待って論ずべき罪を犯したる者は告訴なき場合には法律上始めより罪とならざる行為をなしたるものと異ならず,故に新法においてこれを罪とするも,その施行以前の行為に遡及せしむるは不穏当なることの二理由による。そもそも,法律は特別の明文あるにあらざれば,その施行以前の行為に及ばざるを原則とす。したがって,刑法施行以前においては,告訴あるにあらざれば罰せざる行為を刑法において告訴の有無にかかわらず罪とし論ずる旨を規定するもこの規定をもって刑法施行以前の行為を論ずることあたわざるはもちろんなり。故に,本条の規定は理論上当然のことにして,特にこれを設くる必要なきがごとし」と記載があります。
  確かに,刑法施行法は,現行法には関係ない法律で,今回,直接適用されるものではありませんが,この規定の趣旨は,今の解説にあるように,法の一般原則の確認でございます。
  この要綱(骨子)修正案の非親告罪化の規定は,このような「遡及するべきではない」という考え方とは合致しないものと思います。
  また,憲法の教科書などを見ますと,訴訟条件について憲法39条の適用はないけれども,その精神を尊重して,被告人の不利益を避けるべきだという意見は,かなり強いものと考えています。
  例えば,ちょっと古くてすみませんが,橋本公亘先生の憲法の教科書では,事後法の禁止について,「犯罪の実行行為の後に訴訟法が変更された後であっても,その変更が一般的に言って被告人に格別の不利益をもたらすものでないときは,もちろん立法前の犯罪の裁判に適用できる。訴訟法の変更が被告人に不利益をもたらすものであっても,その不利益が限定されており,被告人の有罪判決を容易にするような性質のものではないときは,また右と同様である。憲法39条前段後半の規定は,本来実行行為の後に制定された刑罰実体法規で処罰されないことを主とするものであるから,右のように考えることができる。しかし,訴訟法の変更が重要なものであって,被告人に対して容易に有罪判決をもたらすような内容であるときは,前記条項の精神から見て立法前の犯罪の裁判には適用できないと解すべきである」との記載があります。
  昭和25年4月26日の最高裁判決の上告理由を制限した刑訴応急措置法の規定については,憲法39条の類推はないとしていますが,この判決文の中には,「憲法39条の趣旨を類推すべき場合と認むべきではない」としているだけで,「類推すべき場合がある」ということは決して排除されていません。
  公訴時効の変更について,刑法6条の適用を認めていない裁判例もありますが,認めた裁判例もあります。最高裁の昭和42年判決は,これを認めているもので,訴訟条件についてはおよそ遡及しないという考えはとるべきではありません。
  過去の刑法改正において,非親告罪化については不遡及とされている例があることは,事務当局から御紹介いただいております。これは法律の制定によって大きな価値判断の変更があった,例えば憲法改正などのような大きな価値判断の変化に伴ったような場合には,非親告罪化を遡及させていないという御説明を頂戴しましたが,今般の改正は性犯罪についての枠組みを大きく変えて国民の価値観の変更を求める,そのような大きな改正ではないのでしょうか。
  このような改正の趣旨全体を考えれば,不遡及と考えることが妥当なのではないかと私は考えます。
○小木曽委員 告訴が処罰条件であるから,この改正法案も実体法の変更と同様,遡及は許されない,分かりやすく言えば,今回の法改正によって,それまで告訴がなければ裁判にならなかったものが裁判になるわけですから,これは新たに処罰根拠を定めた法改正,すなわち実定法の改正と同様である,したがって遡及は許されないという解釈は,もちろんあると思います。
  他方で,犯罪行為自体は既に処罰されることになっていて,ただ,被害者の意思を尊重するという政策的な目的から,告訴がなければ裁判が開始されないことになっている。このようにしたのが親告罪制度であると解することもできると思います。
  仮に,今,御紹介がありましたように,前者のように解したとしても,この法案を遡及適用すると憲法39条に違反するとまでは言えないということについては異論がないとすれば,あとは立法政策の問題ということになるのだろうと思います。
  では,その立法政策に合理性があるかということになるわけですけれども,今回の改正の趣旨,すなわち立法政策の目的が被害者の負担の軽減にあるとすれば,その負担はできるだけ早く軽減するのがよい,したがって,この改正を遡及的に適用するという政策判断にも合理性があるという解釈も成り立つと思われます。
○池田幹事 宮田委員御指摘の点については,そのような考え方も成り立つだろうとも思われます。ただ,小木曽委員からも御指摘がありましたように,親告罪の規定は告訴がなければ公訴を提起することができないという文言になっておりまして,公訴権行使を制限する手続規定であるとも理解することができます。
  手続規定については,法改正があった場合は新法適用が原則であると考えますと,先ほど御紹介いただいた刑法施行法の規定につきましても,そのような特別の規定を置かなければ原則どおり新法が適用されるが,それは事柄の性質に反し適切でないという立法政策上の判断に基づいて,敢えて設けられた特則であると理解することも,可能ではないかと思われます。
  そうだとすれば,本件についても,新法を適用すべきかどうかというのは,法改正の趣旨に即して考えることが許される問題だろうと思います。そして,被害者の負担を軽減するというのが,今回の非親告罪化の趣旨であるとするならば,その必要性は施行の前後を問わず存在するものであり,新法適用を妨げる理由はないのではないかと思われます。
  もちろん,そのことにより被疑者の地位が著しく損なわれる,悪化するという事情があれば話は別だと思われます。ただ,これも,処罰され得る地位にあるということについては法改正の前後を通じて変更がないのでありまして,新法を適用することによって,その地位を著しく悪化させるということにもならないと思います。
  したがいまして,新法の適用が許されないとまでは言えないと考えます。
○加藤幹事 事務当局から,宮田委員の御意見について,御発言中に引用されていた文献がございましたので,その点について若干補足して申し上げます。
  宮田委員からは,遠藤源六先生の「刑法施行法評釋」についての御紹介があったのですが,この刑法施行法についての趣旨を述べた文献として他のものもまたございます。当時の司法省民刑局が編さんした「刑法施行法参考書」という文献によりますと,刑法施行法4条の趣旨について,告訴を訴追条件と考えれば,理論上は刑法施行法4条の規定とは反対の結論となる,つまり,旧法下で親告罪とされていた罪を犯した場合も,新法において非親告罪とされたものは,非親告罪として取り扱うとの結論になるという考え方を示した上で,この刑法施行法4条を設けた趣旨については,しかしそのような取扱いは,被害者の予期に反して厳しすぎることになるきらいがあるなどと説明されているものと承知しております。
  これは,旧法で親告罪であった罪については被害者の意向を尊重するという趣旨であると受け取ることが可能でありまして,そういった趣旨で,このような規定が設けられたと考えているようでございます。
  これに対して,今般の強姦罪等の非親告罪化につきましては,この改正自体が被害者の精神的負担を軽減するために行うというものであり,その趣旨に沿って改正後の規定の適用範囲を定めるとすれば,刑法施行法と必ずしも同様の取扱いとする必要はないと考えたというものでございます。
○山口部会長 ありがとうございました。
  ただいまの点につきましても,ほかの点につきましても結構でございますが,修正部分についての御意見がございましたら,お願いしたいと思います。
○齋藤幹事 今の点とは全く関係のないところでして,事務当局の皆様には既にお伝えさせていただいたのですけれども,この要綱(骨子)第一の強姦罪の改正につきまして意見をお伝えさせていただきます。先日ヒアリングにいらっしゃいました浅野先生から,修正前の要綱(骨子)第一の強姦罪の改正の文面を読んで大変びっくりされたというお話がありましたけれども,それは,一般の人にも読んで趣旨が分かったということだと思うのです。先ほど,要綱(骨子)修正案の表現について,挿入させる行為に関しても当然に含むものとして表現しているという御説明があったのですけれども,法律に精通していない私のような者の見方としましては,最初に出された要綱(骨子)の書き方と同じ内容がこの修正案で酌み取れるかというと,なかなか酌み取れないということが実情でございます。もし社会に広報する際ですとか,この趣旨について御説明する際に,この点について丁寧に説明をしていただけると,法律に精通していない私どものような者にも,趣旨が分かるのではないかと思いますので,その点についてだけお願いできればと思っております。
○加藤幹事 承りました。
○今井委員 要綱(骨子)第三の修正案についてですが,賛成する見地から一言申し上げたいと思います。
  前回の会議でヒアリングを行いましたけれども,そこで被害者の方々,支援する方々からの非常に厳しい経験を聞かせていただきまして,私たちも認識を深めたところだと思います。要綱(骨子)第三の罪というものは,そういった背景を条文化するものだと思いますが,この度,より適切な形になったと思います。
  つまり,監護者が18歳未満の者に対しまして,従前からその被害者等に対して成育過程から様々な不正な影響力を行使しており,具体的な行為を行った際には,その対象者の自由な性的自己決定ができないというような状況が,この改正において視野に入れられている事例群だったと思います。
  そのことに適切に対処していくためには,従前の,「影響力を利用して」という文言も,考えられたところではありますが,先ほど事務当局からも御説明がありましたように,具体的な利用行為がないということによって,そういった事例が処罰されないというのは,今回の改正の趣旨にも反するものだと思いますので,私は前にも申しましたが,「影響力があることに乗じて」という言葉の方が適切だと思います。この点をもう一度申し上げたいと思います。
○佐伯委員 要綱(骨子)第三について,私も,以前「利用して」というのは,ちょっと適切ではないのではないかと申し上げまして,今回の修正,「乗じて」という修正で適切であると思います。
○橋爪幹事 要綱(骨子)第一の罪につきまして,若干意見を申し上げたいと存じます。
  私は以前の部会におきまして,修正前の原案につきまして,性交等の意義については,その具体的な内容に関する定義規定を置くことが,処罰範囲の明確化という観点からは是非とも必要であるという旨を申し上げました。
  今回の修正案におきましては,括弧書きが省かれ,定義規定は置かれておりませんが,その代わり行為類型が具体的に規定されておりまして,処罰範囲の明確性という観点からは問題はないと考えております。
  この点につきまして,より具体的に申し上げたいと存じます。
  先ほど事務当局から御説明がございましたように,性交という概念は現行法における姦淫と基本的に同義に解すべきでありまして,陰茎の少なくとも一部を膣に挿入する行為と解すべきことにつきましては,恐らく異論がないと思われます。
  さらに,前回のヒアリングでも議論になりましたように,男性の性被害につきましても性差を考えることなく同様に保護すべきという観点からは,修正案における「性交をした者」とは,膣内に自身の陰茎を挿入した男性の行為だけではなく,逆に,男性を脅迫するなどして,男性の陰茎を自身の膣内に挿入させた女性の行為も含むと解釈すべきであるように思います。「性交をした者」という表現からは,やや違和感があるかもしれませんが,修正案が現行法と異なり,被害者をあえて女子に限定していない以上,このような解釈は当然に導かれるものだと思われます。
  いずれにしましても,陰茎が膣内に挿入された状態に至ることが性交の本質ということになります。そして,このように性交という概念を,陰茎を身体に挿入した状態という観点から理解する以上,肛門性交という概念も,肛門内に陰茎が挿入された状態に至る行為であること,また,口腔性交も同様に,口腔内に陰茎が挿入された状態に至る行為であることが一義的に明らかになっていると思われます。
  したがいまして,例えば陰茎を唇に押し付けるような行為,あるいは異物を挿入する行為等につきましては,これに該当しないことが明らかです。
  このような意味におきまして,修正案は,実質的には定義規定を置いているに等しい実態がありますし,解釈論上も混乱が生じないと思われますので,これに賛成したいと存じます。
○角田委員 今の要綱(骨子)第一についてなのですけれども,私は結論として,この修正に賛成なのですけれども,齋藤幹事がおっしゃったように,法律について詳しくない人が読むと性交の定義というのをどのように考えるかという問題はやはりあると思いますので,その辺のところの丁寧な説明というか,その解説を社会に向かってする必要があると思います。
  その点では,法律家の考える性交というものと一般社会の人が考える性交というのは必ずしも同じではない。その点からは,修正前の案の方が,前も私は申し上げたのですけれども,素人に分かりよいということはありますので,これとこれは同じですよと言われても,そうですかとなかなかならないところがあるのではないかと思いますので,その辺はやはり注意深くあるべきでないかと思っております。
  全体として,賛成ということではあります。

○山口部会長 ありがとうございます。
  ほかにいかがでございましょうか。
  今回の修正部分につきましては,御意見は大体以上でよろしゅうございましょうか。
  それでは,修正部分についての御議論はこの程度にさせていただきまして,修正後の要綱(骨子)全体について,まとめの御審議を頂きたいと思います。
  これまで要綱(骨子)に従いまして,項目ごとの審議及び修正案に対する審議等を行ってまいりましたが,審議をまとめるに当たりまして,全体を通じての御意見をお伺いしたいと思います。可能な限り,修正後の要綱(骨子)についての賛否を明らかにされた上で,御発言をお願いいたします。
○森委員 私は,修正案を含めた要綱(骨子)に賛成するものでございます。
  私は,検察官として,性犯罪の捜査・公判の実務に携わってまいりましたけれども,その中で性犯罪の被害者が受ける精神的なダメージというものが,いかに大きなものであるかということを実感してまいりました。また,現行法の下で処理に苦慮する事案もありました。
  この部会では,こうした経験に照らしまして意見を申し上げてきたところですが,修正部分も含めて,この要綱(骨子)のとおり法改正が実現すれば,捜査・公判実務の現場から見ましても,性犯罪の罰則の在り方として,良い方向に進むものと考えております。
○塩見委員 私も,要綱(骨子)につきましては,全体として,修正部分も含めて賛成いたします。
  全体ということで最後にお聞きして申し訳ないのですけれども,要綱(骨子)第一の罪と第三の罪の関係を確認頂ければと思いまして,質問させていただきます。
  13歳未満の者に対して影響力に乗じて性交等を行ったという場合,要綱(骨子)第一の罪の後段と,要綱(骨子)第三の罪の二の関係について,要綱(骨子)第三の二の罪が成立すると考えるのか,要綱(骨子)第一の罪の後段,13歳未満の者に対し性交等をした者とされるのかという点,それから,18歳未満の者に対して監護権者等が暴行により,かつ,影響力に乗じ性交等を行った場合,要綱(骨子)第一と第三の罪の関係がどうなるかという点について,事務当局のお考えを確認できればと思います。
○隄幹事 御質問の趣旨は,要綱(骨子)第一の罪と第三の罪の関係,罪数関係ということでよろしいでしょうか。
  要綱(骨子)第三の罪は,強制わいせつ罪,要綱(骨子)第一の罪等を補充する趣旨で設けようとするものでございます。したがいまして,仮に,ある行為が外形的には要綱(骨子)第一の罪と要綱(骨子)の第三の罪との双方に該当するように見られる場合については,要綱(骨子)第一の罪のみが成立するものと考えております。
  ただ,実体法的には,そのようになるかとは思うのですけれども,訴訟法的な観点から見ますと,要綱(骨子)第三の罪で処罰されることもあり得るものと考えております。
○塩見委員 ありがとうございました。
○井田委員 私は,大きく三つの視点から,この要綱(骨子)の全体を評価してみたいと思います。
  三つの視点というのは,一つはマクロ的な観点,もう一つは,ミクロ的な観点,それから三つ目は言わばその中間の方法論的な観点です。
  まず,マクロの観点から申し上げると,今の現行刑法典の性犯罪処罰規定は,1907年にできて以来,実に100年以上の間,そのまま基本的に変わってこなかったということがあります。この間,ものの考え方も随分変わりましたし,人間関係の在り方も変わって,時代環境も非常に変化しているにもかかわらず,そのままであった。諸外国はどんどん法改正してきましたので,その動きからも取り残されて,古色蒼然としたものになってしまっております。
  それが今回かなり大きく手を加えられ,時代にマッチし,また国際水準にも合致したものになることは,やはり歓迎すべきことではないか。これが大きな目で見た評価です。
  ミクロの目で見たとき,私が特に今回の改正で重要性が高いと思うのは,個別的な五つの点です。第1に,現行規定の中にある男女の性差ないし性別に基づく格差が解消されることです。
  第2に,現行法においては,性犯罪が,特に重い類型である強姦罪と,少し軽く評価される強制わいせつ罪とに二分されているのですが,その間の合理的な区別,線引きが可能とされることです。
  第3に,強姦・準強姦,あるいは強制わいせつ・準強制わいせつと,法的には完全に同視できる犯罪を新たに類型化することができたのも非常に重要なことだと思います。
  第4に,性犯罪を非親告罪化し,訴追・立件が国の責任だということを明確化できたということも,大きな前進であろうと思われます。
  第5に,性犯罪の保護法益は,形式的には性的自己決定の侵害であり,実質的には自己決定の侵害によって侵される身体的な内密領域として私は理解していますが,その法益としてのウエイト,重要性の高さを立法上はっきりと示すことができたことです。
  このように個別的な5点の変化を見たときに,これにより良い方向への改正が可能になると考えられるわけです。
  そして最後に,刑事立法の方法論について一言すれば,これは刑事立法に限らないのでしょうが,様々な方向からの要請があり,また,いろいろな利害の対立があって,それが相互にぶつかり合う領域になっているわけです。そうした領域において,一つの立場だけを採用して,一面的に極端に走ったような規定を設けるのはやはりよろしくない。異なった方向からの要請をうまく調和させ,良いところに落ち着かせることが求められています。今回の要綱(骨子)は,ある立場からすれば,まだ微温的であり不徹底であるということになるのかもしれません。おとなしめに見えるところもあるのかもしれません。しかし,私としては,いろいろな要請をうまく調和させたものになっているのではないかと考えております。
  以上のところから,全体として要綱(骨子)は良いものに仕上がったのではないかと考える次第です。
○宮田委員 私は,反対の立場から意見を申し述べさせていただければと存じます。
  3点ございます。
  まず第1点です。法定刑の範囲内で宣告刑が収まっているにもかかわらず,刑の下限の引上げが行われる,あるいは強姦強盗などについては上限が重くなります。そのように刑罰を重くするということが本当に正しいのかどうかという問題でございます。
  平成になってからの法改正は,確かに強盗致傷罪については刑が下がりましたけれども,併合罪加重についても,個別構成要件では自動車運転過失致死傷についても刑が上がっておりますし,あるいは危険運転という類型で,過失犯のいわゆる故意犯化を行ったりしています。
  実は先日,私的な席で,ある高名な裁判官が,「俺は本当に正義を行っているのか。こんな万引きを繰り返しているような人を,俺は常習累犯窃盗で刑務所にぶち込むために裁判官をやっているのかと時々思う。」とおっしゃいました。
  財産罪の法定刑は重すぎるのではないでしょうか。あるいは,犯罪態様をもっと類型化して規定をすることが必要なのではないでしょうか。言い渡し可能な刑罰についても,死刑と懲役・禁錮と罰金と,自由刑や罰金刑についての執行猶予があるだけという,このような刑罰体系で本当によいのでしょうか。刑法全体について,見直さなければならない時代が来ているのではないでしょうか。
  先ほど井田委員が,刑法が世界遺産になってしまうのではないかという御発言をされましたけれども,それは刑法全体についての問題なのではないかと思いますし,刑罰を重くするということではなくて,別な方策も考えられるべきではないかと考えるのです。
  特にこの刑罰を重くすることについては,私は要綱(骨子)第一の類型については,肛門性交,口腔性交,性交させる行為という,今まで強制わいせつで罰せられていたものが,強姦と同じ刑になるというだけではなくて,強姦と一緒に刑の下限が5年まで引き上げられるということで,二重の重罰化が図られるということに対しては,強く反対意見を述べざるを得ません。
  第2の点です。重罰化のメッセージが国民に与える影響がプラスのものだけなのだろうかという疑問点です。
  私は保護司をやっておりますし,更生保護施設の評議員等という形で更生保護に関わってきている者です。更生保護施設の多くは,近隣住民からの反対で,性犯罪者や殺人のような重罪,あるいは薬物犯罪を犯した人を受け入れるなと言われ,そのように運用されています。
  また,性犯罪は,保護司が最も預かることを嫌がる犯罪の類型です。
  罰則を重くすることで,性犯罪を犯した人は社会から排除されるべきだという誤ったメッセージが伝わり,今のような傾向に拍車が掛かっては困ると思います。
  性犯罪は,犯罪を犯すことからの回復のためには,その人の考え方,生活態度,あるいはその内面に抱えている心の傷などに対して修正し回復を図っていくことが,最も必要な犯罪類型です。このような人たちに対してこそ社会の受入れ先が必要だということは,強調しすぎてもしすぎることはありません。しかしながら,受入れ先もないし,そもそも被害者の御意思ということで仮釈放も付きません。これで本当に,性犯罪を犯した人たちの円滑な社会復帰が図れるのでしょうか。刑務所の中だけではできないのだ,しかも刑務所で今やっていることは十分ではないのだという前回ヒアリングでの中村先生の御指摘については,私は強調しすぎてもしすぎることではないと思っています。
  三つ目です。前回のヒアリングで,中村先生や浅野先生からは,性犯罪を始めとした暴力犯罪や薬物犯罪などの罪を犯す人には性虐待の被害を過去受けてきた方が多いという御指摘がありました。
  私どもが弁護活動をするときに,被疑者・被告人には過去に性被害,性的虐待の経験があるという主張をしても,ほとんど顧みられておりません。
  今回,この部会でヒアリングが行われ,性被害というものが,犯罪傾向まで生み出してしまう,例えば,大きな暴力衝動,あるいは薬物依存といった非常にゆがんだ形で,性被害者の行動を規定してしまうことがあることが明らかにされました。性被害が極めて大きな,人生,あるいは心の傷を残すことがヒアリングで明らかになったわけですから,罪を犯した方に対して量刑を考えていく際の一般情状として,そういうものがもっと顧みられてもよいのではないでしょうか。あるいは,受刑現場での対応として,そのような虐待を受けた人に対する特別な配慮を行う,あるいは,その方たちを社会に復帰させるときの,更生保護などのプログラムなどにおいても特別な配慮を行っていくというようなことも必要なのではないかとも考えた次第です。
  刑罰を重くしても,そのような体制が整わなければ,結局は,その性犯罪を行った人が同じ犯罪を繰り返すことが避けられないのではないかという危惧を持つものでございます。
○角田委員 今回の主要なテーマに関しては,私は一定の進歩があったということですから,大変喜ばしいことだと思っております。
  長いこと,実はこの問題は当事者を中心にして,社会の周辺部に追いやられて,なかなか日の目を見ることがなかったテーマだったと思うのです。
  それが今回ようやくにしてというか,無形文化遺産になる寸前のところで,百何年経っているのですか。私は1907年に建った建物とかを見る度に,例えば奈良ホテルがそうなのですね。刑法と同じなのだとか,つい思ってしまったりするくらい,この1907年の今と全く体制の違う時代にできた,特に性に関する刑法というのが放置されていたということは,私は関係者にも大いに責任があると思うのですね。
  そこに非常に問題があるということを誰が一番初めに言い始めたかといいますと,その犯罪の被害に遭って,不当な扱いを受けてきた主として女性たちだったのです。非常に長い間小さな声だったのですが,いろいろな犯罪被害者の運動一般とも連携することができて,ようやくここのテーマになったことは大変私はうれしいと思っております。ただ,小西委員の意見にもありましたように,これは問題解決の一歩にしかすぎないということで,積み残された課題がたくさんありますので,そのことについてどういう形か分からないですけれども,引き続き関心を持っていただいて,検討の対象にしていただきたいと思っております。
  それから,私と宮田委員で,同じ日弁連から派遣されていて,いつもほとんど違う意見を述べているのだということで,そういう認識をされていると思うのですけれども,先ほど宮田委員がおっしゃった刑法全体について見直さなければいけない時期に来ているのではないかということについて,私も全くそのように思っております。
  このように1907年に作った刑法,あちこち時代の要請に合わないということ,継ぎ接ぎだらけのことをやっていくと,きっと全体として統一的な考えに貫かれた刑法というのにはほど遠くなっていくのではないかと思いますので,私も,今がその時期かはともかく,少なくとも全体的に,近い将来に見直すということも考えていただいていいのではないかと思います。
  それから,最後になって宮田委員といろいろと意見が一致するのですけれども,重罰化だけでよいのかという点については,私はやはり犯罪の原因がどこにあるのかということを,刑法以外の他の社会科学等,あるいは医療等でも研究されておりますので,そういう知見も含めて,社会全体としてどうしたらいいのかということを考える必要があると思います。
  加害者への対応について,検討会でのヒアリングでもそうでしたし,医療的な対応等々が非常に日本では小さいのですけれども行われておりますし,諸外国ではそういう知見もあるようですので,そういうことを含めて犯罪をなくすにはどうしたらいいのかということ,つまり社会的な対応策ということも,今はここでの議論の対象にならないのでしょうけれども,今後私どもが考えるときには視野に入れる必要があると思っております。
  例えば貧困の結果,教育の機会がなくなったということと,犯罪との関係というのはかなり明らかではないかと思いますし,それから性暴力犯罪についても,適切な育ちが保障されなかった,つまり自分自身が被害を受けたということで保障されなかったということで,大人になって,今度は加害者に転化するという事例は別に珍しいことでもないようですので,そういうことを含めて,もっと広い社会的な視野を持って考える必要があるのではないかと思っております。
  それから,これは最後なのですけれども,確かにこの会議は刑法の改正を議論しているわけなのですけれども,私は検討会のときも,それから今度の法制審のこの委員会も非常に違和感を持っていることがあります。
  それは,委員や幹事の構成がこのように刑法の専門家に偏ったものでいいのだろうかということなのです。ジェンダー・バランスの問題もありますけれども,刑法の問題といっても,要するにこれは社会の問題の一部なので,刑法の人が中心になるとは思うのですけれども,刑法・刑訴法の学者以外にも,もっと他の関連する分野の人が委員・幹事として入る必要があるのではないかと思っております。
  私はこういう委員会に出たのは初めてなので,私の偏見から言えば,このように偏った委員構成の会議をやってどうするのだろうかというのは非常に率直に思ったところですので,今後このような形で研究会なり行われるときは,もう少し広い視野で委員を選任された方がよいのではないか,その方が社会の要請に,より良く応えることができるのではないかということを思いまして,このことは最後にどうしても一言言わせていただきたいと思って待っておりました。ありがとうございました。
○武内幹事 私も修正された要綱(骨子)全体について,賛成の立場です。
  ただ1点,性犯罪の非親告罪化について若干の心配もあることから,一言申し述べさせていただきます。
  強姦罪等が非親告罪化することによって,告訴をするかしないか,あるいは一旦なした告訴を維持し続けるかどうかということについて,被害者の方が思い悩む負担というのは確かに軽減されると考えます。
  とはいえ,非親告罪化以降は,告訴を取り消すという選択肢が性犯罪の被害者の方からなくなるという点も事実です。
  もとより被害者の積極的,かつ明確な拒絶に反して捜査あるいは公判が継続されるということは,実務上考え難いのでしょうが,それでも告訴の取消しができなくなったことによって被害者の方が捜査の過程,あるいは公判の過程で,これまでとは違った側面での様々な精神的な負担を受ける場面も,これから想定されるかと思います。

  そういった形で,せっかく改正された刑法によって,性犯罪被害者に対する新たな二次被害が万が一にも惹起されることのないよう,弁護士あるいは専門家によるサポートが,これまで以上に重要になってくるのではないかと思います。
  私ども弁護士会の人間としても,それだけの体制を整えられるよう努力していく所存ですけれども,今後は国あるいは社会によって,性犯罪被害者に対する支援の潮流がより強まっていき,適切な施策が講じられることを強く希望します。
○小木曽委員 私も全体として賛成の立場ですけれども,長年の懸案であった問題について,保護法益自体を捉え直すということを確認しつつ,その認識の変化に応じた実体法の改正を提案しているという点に意義があると思います。
  被害者を女性に限らないということですとか,行為態様の多様化,それから要綱(骨子)第三類型の創出,非親告罪化など,一定の前進であると考えますが,他方で,暴行・脅迫要件を始めとして,いろいろとまだ不満があるという向きもおられると思います。
  しかし,性犯罪への社会の対応を考える際には,法令,その法令も刑法や児童福祉法があるわけですが,そのような法令が負うべき役割,実務に携わる方々が負うべき役割,更には社会の構成員がその意識を変えるという意味で負うべき役割といったものがあるのではないかと思います。
  それぞれが手を携えて初めて,不幸な犯罪を防ぎ,罪を犯した者にはその責任を問い,被害に遭った人々には,そのダメージを可能な限り回復するという方向に進むことができるのではないかと思いますし,当然誤判のおそれは可能な限り低くするべきです。併せて,先ほどから御指摘ありますように,再犯予防に何が効果的であるのかということについても継続的に検討されていくべきであろうと思います。今回の法改正が,そのような継続的な議論の契機となることも期待したいと思います。
○木村委員 以前にも申し上げましたので重ねてで恐縮なのですけれども,要綱(骨子)第三の罪についてです。
  これまで十分対応できなかったものについて,このような類型を作ったというのは非常に強力な武器になると思いますので,意義は非常に大きいと思います。
  ただ,監護権者以外,例えば教師であるとか,コーチのような立場の人であるとか,そういうような方の影響力に乗じた行為という事例も決して少なくないですし,やはり被害も非常に重大なものがあると認識しておりますので,現行法ですと恐らく準強姦とか準強制わいせつを中心に議論することになるのかもしれないですけれども,今後はそういう点も少し視野に入れて,立法も含めてお考えいただき,検討する機会があれば非常に有り難いと思います。
○齋藤幹事 被害者支援の立場から少しだけお伝えさせていただければと思うのですが,私は,被害者支援に携わる中で,同じ加害者から同じように性的に侵襲されて,しかし,挿入された場所が膣だったか肛門だったかの違いで罪が違うということを,大変疑問に思っておりました。そうしたことなどが今回,話し合われて,そしてこのように改正の提案が出されたということに対して,良かったと思っております。
  他方,要綱(骨子)自体には賛成なのですけれども,これまで被害者の被った被害が正しく検討されていたのか,正しく把握されていたのかというと,被害者支援や心理の専門家としては,多々,疑問が残ります。今回,暴行・脅迫の要件ですとか,性交同意年齢ですとか,18歳未満の時効の問題ですとか,法制審議会の部会での議論になることのなかった点は幾つかございますが,今後今回の改正をきっかけに,そういった点も含めて,被害者の受けた被害がどういったものだったのかということが正しく認識される社会になっていくということを願っております。
  また,他方,宮田委員も角田委員もおっしゃっておりましたが,性犯罪の加害者であるとか,その他薬物等,アディクションの加害者であるとかに関しましては,再犯を防ぐという意味で医療や社会とは連携を欠かすことができないものだと思いますので,そういった再犯を防ぐという意味での加害者へのシステムの構築ですとか,被害者支援のより一層の充実といったことが,これを機に,これまで以上に社会で考えられていくことを願っております。
○北川委員 今回,非親告罪化ということとともに,要綱(骨子)第三類型という新たな犯罪類型が設けられたことによって,家庭内において児童が性的な虐待を受けるということについて,ある意味,早期発見され,そして適正な処罰が図られていくことを期待しています。
  ただ,それだけに,既に多くの委員の方々がおっしゃいましたように,被害者に対する支援,ケア,そちらの方に非常に今後は期待されるところが大変大きくなってくることだと思いますし,また,非親告罪化に伴い生じ得る被害者の精神的な負担ということについて,被害者の方々が司法過程に関係するということについてケアや配慮がどんどん必要になってくることかと思いますので,そういったところの実際的な今後の動きに期待をしております。
○山口部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでございましょうか。
  大体よろしゅうございますでしょうか。
  それでは,本日御欠席の小西委員からも,修正後の要綱(骨子)についての意見書が提出されておりますので,最後に事務当局から御紹介をお願いします。
○隄幹事 小西委員の意見書を読み上げます。
  現在,事務当局より示されている要綱骨子(案)については,不足な点があるが,性暴力に関して,被害の現実に即さない現刑法から新しく一歩踏み出したことを評価したいと思います。2,3意見を述べた上で,案に賛成します。
  第一,強姦の罪(刑法177条)の改正について。
  女性,男性,またどのような性的アイデンティティを持つ人にも,性暴力被害があり得ること,その容態は多様であること,その被害の結果は深刻であることが踏まえられていることが必要だと考えますので,第一,強姦の罪の改正には原則的に賛成します。ただし強姦という名称は適当でなく,「性的侵襲」「性的侵入」等の名称が適当であると考えます。
  ほかに「強制性交の罪」という案もあったと思いますが,性交という行為に焦点を当てるのではなく,人の極めてパーソナルな領域への侵襲が許されないという点に焦点を当てるべきであるという考えから,「性的侵襲」「性的侵入」を推したいと思います。
  なお,今回は「暴行又は脅迫を用いて」という条件やその解釈はそのまま残されています。これが多くの性暴力被害者を潜在化させる要因となっています。将来的に,さらに,「同意のない性的侵襲」にも刑法の適用が可能になるような改正を望みます。
  第三,監護者であることの影響力があることに乗じたわいせつな行為又は性交等に係る罪の新設について。
  この罪が新設されることは大きな意味があります。子どもに対し親の立場にある者の「影響力」がいかに大きいか,当事者のヒアリングでも示されたと思いますが,そのような被害を受けた人は,多数存在します。新設には大いに賛成ですが,ただ,性的虐待の被害の実情から考えると,少なくとも,教師についても,同様の罪を設けるべきだと考えます。
  今回の改正は第一歩ですが,更に検討が必要と考えます。
  第四,強姦の罪等の非親告罪化。
  賛成します。性犯罪はほかの暴力犯罪と同じく人権を侵す暴力行為であり,特殊視することなく同じように扱われることが基本的に必要だと思います。しかし,非親告罪化する場合には,司法の過程での傷つきが深くなるようなケースが生じることが危惧されます。非親告罪化を行うのなら,司法過程の中での被害者支援,司法過程に参加できるようになるための精神的社会的な被害者支援をより強化することが必須であり,それを保証する政策,対応が必要です。非親告罪化と同時に被害者支援の大幅な強化が必要なことを,何らかの形で示すことを強く希望します。
  上記のほかの第二から第七に関しては案に賛成します。
  以上,小西委員からの意見書を紹介させていただきました。
○山口部会長 ありがとうございました。
  それでは,これで議論は終結し,部会としての意見の取りまとめに入りたいと思います。
  諮問第101号は,「近年における性犯罪の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処をするための罰則の整備を早急に行う必要があると思われるので,別紙要綱(骨子)について御意見を賜りたい」というものであり,その別紙として,要綱(骨子)が付されておりましたが,この要綱(骨子)につきましては,本日,事務当局から修正案が提出されました。
  具体的には,要綱(骨子)第一及び第三について修正がなされ,要綱(骨子)第四の三が追加されました。
  ここで,資料34として本日配布されました要綱(骨子)修正案を部会における取りまとめの対象とし,これを単に要綱(骨子)と呼ぶこととしたいと思います。
  そこで採決の方法でございますが,要綱(骨子)第一から第七は,それぞれが密接に関連するものであり,これらを一体として諮問されたことに鑑みまして,要綱(骨子)第一から第七までを一括して採決の対象とさせていただきたいと考えておりますが,よろしゅうございましょうか。
(一同異議なし)
○山口部会長 ありがとうございました。それでは,そのようにさせていただきます。
  では,採決に入らせていただきます。
  要綱(骨子)第一から第七に賛成の委員の方は挙手をお願いいたします。
(賛成者挙手)
○山口部会長 次に,反対の委員の方は挙手をお願いいたします。
(反対者挙手)
○山口部会長 それでは,事務当局から採決の結果を報告していただきます。
○隄幹事 ただいまの採決の結果を御報告いたします。
  賛成の委員の方14名,反対の委員の方1名,出席委員総数は,部会長を除きまして15名でした。
○山口部会長 ただいま報告がございましたとおり,要綱(骨子)につきましては,挙手されました委員の賛成多数で可決されたと認めます。
  諮問第101号につきましては,配布資料34の事務当局による修正後の要綱(骨子)を,部会の意見として総会に報告することに決しました。
  この決定は,部会長である私から総会に報告させていただきますが,報告につきましては,慣例として,部会長に一任願うということでよろしゅうございましょうか。
(一同異議なし)
○山口部会長 ありがとうございました。それでは,そのようにさせていただきます。
  これで当部会の審議は終了となります。
  昨年以来,充実した審議を重ねていただきまして,誠にありがとうございました。委員の方々から,既に御指摘がございましたように,明治以来の日本の性犯罪の罰則に関する規定としては,ある意味で画期的なものが部会の結論として出されたのではないかと思います。
  これまでの皆様の御尽力,御協力に心より御礼を申し上げます。ありがとうございました。
  なお,本日の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成し,公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしゅうございましょうか。
(一同異議なし)
○山口部会長 それでは,そのようにさせていただきます。
  それでは,これで散会とさせていただきます。どうもありがとうございました。
-了-

http://www.moj.go.jp/content/001170177.txt
  ここからは,法定刑についての御議論をお願いいたします。
  法定刑につきましては,第1に,要綱(骨子)第一の罪の下限を懲役5年とすること,第2に,要綱(骨子)第二の罪,準強姦罪につきましても同様に下限を懲役5年とすること,第3に,要綱(骨子)第六の2,強姦致死傷の罪の法定刑の下限を懲役6年とすることという三つの点が問題となってまいりました。
  これらの点につきまして,併せて御意見をお願いします。
  引き上げる理由につきましては,先ほど事務当局の方から御説明がございましたが,いかがでございましょうか。
○橋爪幹事 結論から申し上げますと,法定刑の引上げに賛成したいと考えております。その賛成の理由を申し上げた上で,事務当局に1点質問をさせていただきたいと考えております。
  現在の強姦罪の法定刑の下限は3年でございますので,法定刑の下限が5年である強盗罪とのギャップが生じていることは,先ほど来,御説明があったかと存じます。また,性犯罪が被害者の人格に対して重大な被害を及ぼすことを考えますと,強盗罪よりも強姦罪の法定刑が軽いということは,やはり大きな矛盾をはらんでいるように思います。また,資料18を拝見しましても,量刑傾向につきましても,強姦罪については,現住建造物等放火や強盗罪よりも重たい量刑傾向にあるようです。そして,正に量刑傾向というものが現在の社会における性犯罪に対する処罰感情なり処罰の必要性の反映であると考えますと,やはり強姦罪と強盗罪との間のギャップを解消する方向での法改正が必要であると考えております。
  そういう観点からは,もちろん強盗罪の法定刑を引き下げるという方向の法改正もあり得るところかと思います。しかし,現在の強盗罪の法定刑が過度に重すぎるとまではいえないように思いますので,強盗罪の法定刑を基準としつつ,強姦罪をこれにそろえるという方向での法定刑の改正もにあり得る選択肢ではないかと考えております。このような理解から,原案に賛成したいと思います。
  もっとも,このような理解は,飽くまでも現在の量刑傾向が正当な判断である以上,それに対応するかたちで法定刑を修正するべきという趣旨でございます。したがいまして,今回の立法提案というのは,現在の強姦罪の処罰が余りにも軽いから,法改正によってより重く処罰する必要があるというメッセージまでは含んでいないと,私は考えております。
  端的に申し上げますと,今回の法改正は,今後の実務においては求刑,量刑が従来よりもプラス2年で行われるべきであるというメッセージを発するものであってはならないと思うのです。飽くまでも現在の量刑傾向に適切に対応する形で法定刑の修正を行うという趣旨で,今回の事務当局の御提案を評価すべきだと思います。
  質問と申しますのは,このような形で今回の改正の御提案の趣旨を考えてよいのか,という点について確認させていただければ,と考える次第です。
○中村幹事 事務当局から,今回の諮問の法定刑引上げについての考え方に関し,御質問の点について御説明申し上げます。
  今回の諮問につきましては,現行法の強姦罪の法定刑,つまり3年以上の有期懲役となっておるわけでございますけれども,現行法のそういった法定刑の下におけるものとして,強姦罪の求刑だとか量刑が軽きに失して不当であるという認識を前提とするものではございません。
  要綱(骨子)のように,法定刑を引き上げる趣旨につきましては,先ほど冒頭御説明申し上げましたとおり,最近における性犯罪の法定刑に関する様々な御指摘,それから現実の量刑の状況に鑑みますと,強姦罪の重大性,悪質性に対する現在の社会一般の評価が,強盗罪,現住建造物等放火罪などの犯罪に対する評価を下回るものではないと考えられることなどから,その法定刑の下限を強盗罪,現住建造物等放火と同様の懲役5年に引き上げようとするものでありまして,強姦罪の悪質性,重大性に対する法定刑としての評価を適切に反映させようとするものでございます。
  また,法定刑を引き上げる法改正をした後の実務における求刑や量刑の在り方についてでございますけれども,そのような改正の趣旨を踏まえて,検察官又は裁判所において適切に判断されるべきと考えております。
○佐伯委員 私は検討会でも申し上げましたけれども,法定刑の下限の引上げについては慎重であるべきであると考えております。
  元々強盗罪の下限が重過ぎると考えていることもございますし,現住建造物等放火罪については,やはり生命に対する危険性が非常に高いということを根拠として下限が定められていると考えております。
  そのように,私自身は引上げには慎重であるべきだという考えなのですけれども,ただ,先ほど橋爪委員から御指摘があり,事務当局が御説明があったことは,仮に法定刑の下限の引上げがなされた場合であったとしても,非常に重要な点であると思いました。
○北川委員 法定刑の下限という点に関して,先ほど御説明のあった量刑の経緯,量刑に関する資料からは強姦がだんだん重くなってきているという状況があるということなのですけれども,それは飽くまで強姦の話ですよね。つまり,強制わいせつは含まない,重い事例はこうであるという統計ですね。
  何を言いたいかというと,この議論の前提として,「性交等」という形で強姦に匹敵する行為を広げた場合に,ある一定程度の重い強制わいせつ罪が入ってくるということも想定しながら,それでも5年以上ということでよいのかというお尋ねです。対象行為の基本部分の軸足を定めないとぐらついてしまいますので,お伺いしたいと思いました。
○加藤幹事 事務当局から,ただいまお尋ねの点について,説明いたします。
  事務当局からの説明の中でお示しした資料は,御指摘のとおり強姦罪のみを対象とした統計であり,いわゆる性交類似行為を含む強制わいせつ罪をその中に含んでいるものではありません。ただ,強姦未遂は含まれています。
  それから,今回の改正に当たって,強姦罪に関する資料を法定刑の引上げを御検討いただく一つの根拠としておりますが,現在強制わいせつ罪として問擬されているものの中にも,冒頭の説明でも申し上げましたように,それと同等に評価すべきもの,すなわち現在強姦罪とされている行為と同等の悪質性,重大性を備えるものがあるのではないか,その部分については,現在強姦罪とされているものと同等に評価するのが相当なのではないかという考え方で,その部分についても,要綱(骨子)第一どおり強姦罪の法定刑を引き上げた場合には,同等の法定刑とすべきものがあるのではないかという御提案申し上げているということでございます。
○北川委員 ありがとうございます。分かりました。
  法定刑の引上げによっては,やはり性交等の行為の類型化の範囲と密接に関わりますので,御確認いただきましたこと,ありがとうございます。
○宮田委員 私は法定刑の引上げには反対の意見でございます。そもそも,強姦罪の構成要件を広げないという前提でも,5年まで上げる必要はないという考えでございます。
  現行の罰則の中で,確かに量刑傾向は重くなっているとはいえ,法定刑の中で収まっている刑の言渡しがなされているということは重要かと思います。現在,非常に執行猶予が付きづらい状態にはなっていますが,それが更にこれを引き上げるべき立法事実になるのかは疑問です。
  また,執行猶予を付けるべきではない事案には付けなければよいというだけで,酌量減軽しなければ執行猶予は付かない形に条文を変えることには,問題があるのではないかと考えます。
  そして,傷害致死は3年以上,殺人は5年以上です。やはり,生命への侵害に対して,このような法定刑であることとの権衡は考えなければならないと思っております。
  更に,被害者の精神的ダメージの問題です。嫌がらせをされてPTSDになった,これはそのPTSDの診断書を出して,傷害罪で処断することは可能です。
  PTSDや適応障害あるいは不眠などの精神症状が出ている強姦罪の被害者について,診断書を出して,これを強姦致傷に問えないのでしょうか。あるいは強姦の中で,被害者が非常に重い精神的な苦痛を受けていることが,例えばカウンセラーから,カウンセリングの過程で非常に心理的に酷い状態になっているという証言が出てきたら,それは犯情の重い事案ということで,現行の強姦罪の中でも重いものとして処罰が可能なのではないでしょうか。
  逆に,被害者の精神的被害を強姦の中に取り込んで考えていくということは,比較的軽微な診断名の診断書が出されて強姦致傷だと言われたら,これは強姦の中で評価され尽くしているから,これは強姦致傷にはならないという方向での議論にもつながり得るのではないかと思いますし,被害者の精神的な苦痛について,カウンセリングなどの資料を更に付けて重く処罰をすることができなくなってくるのではないかということを感じるのでございます。
  もう一つ,要綱(骨子)への意見です。構成要件を広げて,なおかつ処罰を重くするという要綱(骨子)でございますが,頂戴した資料12を見ますと,ドイツの刑法は,性的行為については原則1年以上で,重い性交類似行為の類いは2年以上です。韓国は,強制的な性行為は3年以上,口淫や肛門性交は2年以上ということのようです。
  資料14を見ますと,口淫の事例は多くはありません。先ほど申しましたように,口淫は,性交に至るまでの一つのプロセスとしてなされる場合も多い。口淫をさせたけれども,これは強姦まで至るまでに例えば被害者に抵抗されて行為はやめてしまったので,強姦未遂というような事例は,数多くあるかと思います。
  口淫は,肛門性交を含むいわゆる性交に対しての準備的な側面もある。そういう意味では,口淫の科刑は軽くてもいいのではないか。現に頂戴した資料14の中の執行猶予を含む3年未満の事例は,18件中の7件だったと思います。3年というのが3件で,過半数が3年以下であった。要綱(骨子)は,この刑を引き上げろというメッセージを発するのですか,という疑問を持ってしまうわけです。
  やはり,下限が5年という議論は,飽くまで,今まで言われていたいわゆる強姦行為という,非常にコアになるものに対する議論ではなかったのかと思うのです。
○小西委員 今のお話なのですけれども,私は当然,PTSDは傷害として処罰されるというのは妥当だと思っている者です。ただ,また今,強姦の中に差が付くというお話をされているのですけれども,そういう形では傷害の差はとれないということを先ほど申し上げたと思います。被害者の側からすれば,どの形の類型でも同じであるということは,申し上げたと思います。
  過半数が3年以下と言われましたが,被害者の方から言いますと,強姦被害者の約半数が大体PTSDが診断されることが分かっていますよね。半数のPTSDの患者の中でまだ今ごく一部の人が臨床にしか来ないというのは,そうなのですけれども,来られた方の平均の受診までの期間は,6〜7年かかっていました。
  今,私は,レイプワンストップセンターと一緒に関わっていますので,被害後非常に早い時期の人を診るようになりましたけれども,今までの臨床では,それから日本の多くのところでは,受診するまでだけに6〜7年かかるのですね。被害の後も,本当に家を替えたり,職業をなくしたりする人がいろいろな犯罪類型の中で高いです。強盗より当然高いです。そういう点では,その被害の大きさから考えても,強盗より低いということは考えられないのではないかと思います。
  もう一つ言いますと,被害者の方に直接伺うと,どういう刑がいいのというと,ずっと入っていてくださいとか死刑にしてくれと言われます。もちろんこれは主観的な御本人の印象ですけれども,そのくらい傷付いているということは事実だと思います。
○井田委員 基本的には橋爪幹事のおっしゃったことに賛成なのですけれども,少し補足して申し上げたいと思います。法定刑は確かに実際に科すことができる刑の幅の上限と下限とを決めているということはもちろんそうなのですけれども,そればかりではなくて,やはり法の目から見たそれぞれの犯罪に対する評価,あるいは被害法益に対する評価というものを示しているという側面がとても大事だと考えています。そういう点から見て,今の強姦罪等の刑の在り方はこれでよいのかどうかということが問われているのだと思います。
  そういう目で見ますと,確かに強盗の場合ですと,その被害額,財産的な損害の額が低いとか,または犯人が経済的に困窮していてかなり同情すべき面もあるというような事情があって,やはり軽いケースというのが想定できる。それにもかかわらず,強姦の法定刑の方が下の方に幅広になっていること自体,法定刑の在り方として理解しにくいという面があります。そして,現在の量刑水準では強姦と強盗との間に逆転現象も生じているということは,もう指摘のあったところです。
  また,殺人との関係でいいますと,殺人というのは,御提供いただいている資料にもありますけれども,元々量刑が大きく2極分解する,重いものと比較的軽いものとに分かれる傾向があります。グラフに二つの山ができる犯罪であって,軽い類型というのも想定しやすいのです。そこで,殺人と比べてどうのという議論は必ずしも当たらないのではないかという感じがいたします。
  それから,今回,強姦罪の範囲を広げるということの関係で申し上げますと,改正に当たっての基本的な考え方は,従来よりも強姦罪の範囲を広げて,より軽いものも取り込むのだ,というものであってはならないと思います。そうではなくて,従来は不当にも軽い類型に包括されていた行為を正しく評価する,強姦と同じ重い行為の類型の中に収めるのだという考え方をすべきです。ですから,軽いものを取り入れて広げるのだから法定刑を上げてはおかしいという議論には,必ずしもならないと思います。
○池田幹事 先ほどから量刑傾向について指摘がなされているところですけれども,宮田委員が御指摘になられたように,現行の法定刑の範囲内でも重く評価されている事案があるわけでありまして,量刑傾向が重い方にシフトしているということから直ちに法定刑の引上げが基礎づけられると考えることにはならないのではないかと思います。
  しかし他方で,井田委員も御指摘になられたように,その他の法定刑を異にする犯罪と比較して,実際に言い渡されている刑が逆転しているということは,考慮要素として非常に重要なものだと思います。
  そのことと,その他の法定刑との均衡や,あるいは法定刑の下限を,酌量減軽なしでも執行猶予を付し得るものとして今後も維持するかどうかということ,またこれらに加えまして,度重なる議会での附帯決議がなされていることや,共同参画基本計画等に示されている要請に鑑みますと,社会全体として法定刑の見直しを要求する意見というものが現に存在していることから,立法事実の存在も認められるのではないかと考えております。
  このような見解から,要綱(骨子)に基本的に賛成でございます。
○宮田委員 先ほどの事務当局からの御説明で,強姦致傷については下限を6年に上げるという案が出されました。酌量減軽で,やはり執行猶予が付くべき事案があるのではないかというお考えだったかと思います。強姦致傷と強姦の量刑傾向のグラフを拝見しておりますと,強姦のピークは5年ぐらいのところにあります。強姦致傷のピークが,やはり7年以下の辺りのところにあります。つまり,大体強姦致傷と強姦は,2年ぐらいはピークに差があるのではないでしょうか。
  そうすると,やはり強姦致傷ですら酌量減軽で執行猶予が付くよう6年にするということであると,強姦を5年にすることは,現実の量刑自体からみて重くなりすぎ,強盗,強姦致傷との関係での刑の採り方として,いかがなものということを感じるのでございます。
  あと,これは今ここで述べるべきことかどうか分からないのですけれども,第1回のところで性犯罪とえん罪の話を私がいたしましたが,えん罪と量刑は関係ないのだと小木曽委員がおっしゃったわけですけれども,重い刑のものに対しては,例えば国民がその捜査に協力しなければいけないという思いから,曖昧な目撃証言であっても,これは情報として出さなければいけないと思う,あるいは被告人に対する取調べ圧力が高まる,捜査官だって,あるいは国民全体だって人間ですから,人間がものを扱う以上は,そこの刑法のメッセージというのは捜査に必ず反映するのであると思うわけです。
  ですから,刑を上げるということが直ちにえん罪につながるとは言いませんが,それは関係ないからというのは,私は違うのではと申し上げます。
○小木曽委員 名前が出たからというわけではないですけれども,量刑というのはどういうものなのかということから考えて見ますと,今,井田委員や池田幹事から御意見がありましたけれども,やはりその行為に対する社会のというか,主権者の評価を枠として示す意味があるのだろうと思います。
  では,その主権者の意思がどのようなところに表れているのかということを判断するのに,池田幹事がおっしゃったような様々な機関での決議なり現在の量刑傾向なりをその指標として見ることは,必要なのだろうと思います。それから,その行為を刑法の体系の中で,それ以外の犯罪との関係でどのように評価するかということで考えますと,やはり財産刑との比較という観点があってもいいのだろうと考えます。そうすると,現在の3年というのは低すぎるという意見があってもおかしくないと考えます。
○佐伯委員 繰り返しになって恐縮ですけれども,私も小木曽委員,あるいは池田幹事と同じように,あるいは橋爪幹事が最初におっしゃったように,強盗罪と強姦罪はやはり同じ法定刑の下限であるべきだと思います。しかし,強盗罪の法定刑を引き下げることが難しいから,現実の問題として難しいから,強姦罪の方を引き上げるべきだというのは,やはり刑事政策として妥当なものとは思わないということです。
○角田委員 検討会の中でも,強盗の刑を引き下げるのが難しいから,その代わりにと言ったら何ですけれども,強姦罪を上げるという認識はなかったのではないかと思います。
  私は,やはり強姦罪と強盗罪の保護法益が質的に違うというところに着目して,今までの3年という強姦罪の扱われ方が余りにも酷いのではないかと,だから井田委員もおっしゃったように,今まで不当に扱われていたものを,きちんとしたそれにふさわしい扱い方にするという考えで,要綱(骨子)に賛成です。
○宮田委員 「性犯罪の罰則に関する検討会」のときには,5年ではなくて4年という意見も出ていたかと存じます。事務当局の方で,この5年という案をお出しになった,その理由について,お聞かせいただければと存じます。
○中村幹事 事務当局の方の考え方でございますけれども,先ほど来,御議論いただいているところとも重なるところもございますけれども,下限が5年という法定刑として,刑法の中には,例えば強盗罪,現住建造物等放火罪といったものがございますけれども,そういった強盗罪や現住建造物等放火罪と強姦罪を比べたときに,強姦罪に対する社会の評価というものが強盗罪を下回るものではないのではないのかというところであります。さらに,強姦罪については,一般に凶悪重大犯罪と言われていますが,一般に凶悪重大犯罪と言われている強盗ですとか放火という罪と同じく,刑法の全体の中で法定刑としても位置付けられるべきであろうという点でございます。
  また,その4年とするかどうかでございますけれども,強盗罪を5年としつつ強姦罪を4年とした場合には,依然として強盗罪と強姦罪との間には差が残るわけでございます。強盗罪の法定刑を引き下げた上で4年にそろえるという選択肢というのもあり得るかとは思いますけれども,他方,強盗罪について,その法定刑を引き下げるような特段の事情はないのではないのかというところもございまして,以上のようなところを総合的に考慮いたしまして,下限を5年としたらいかがかということで御提案申し上げている次第でございます。
○山口部会長 消極の御意見が述べられました。要綱(骨子)を支持する御意見も述べられておりましたけれども,何か今までの御意見と違った観点から御意見があれば是非お願いしたいと思いますが,いかがでございましょうか。
  よろしゅうございましょうか。
(「異議なし」の声あり)
  ありがとうございました。
  本日頂きました御議論をまとめますと,法定刑の下限を引き上げる必要がないという御意見がございましたけれども,要綱(骨子)のとおりにする,強姦罪及び準強姦罪の法定刑の下限を懲役5年に,強姦致死傷罪の法定刑の下限を6年に引き上げるという御意見が多数であったと理解させていただきました。
  それでは,最後に,要綱(骨子)第五の点,すなわち,ただいま御議論いただきました強姦罪及び強姦致死傷罪の法定刑を引き上げるということを前提として,集団強姦等の罪及び集団強姦等致死傷の罪を廃止することについて,御意見を承りたいと思います。いかがでございましょうか。
○角田委員 私は,廃止には反対です。確かに基本の強姦罪の下限は上がることになると思うのですけれども,それでもこの集団強姦罪というのは,犯罪類型が普通の強姦罪とは基本的に,本質的に違った悪質なものだと考えておりますので,その悪質性をきちんと評価すべきではないかと考えております。
  そうすると,下限は何年にするのかということになってくるわけなので,強姦罪と同じということには多分できないでしょうから,6年に上げるかということは考えざるを得ないのではないかと思っております。
○今井委員 集団強姦罪とは,御案内のように,一連の経緯があって,緊急に対処すべきということで作られた規定ではないかと思っております。それが今回の諮問に応じまして,先ほど来,井田委員も明確におっしゃっておりましたけれども,強姦罪とされる範囲を広げつつ,その法定刑を上げていくということで,本来の正当な評価をするということで,強姦等の罪,あるいは致傷等の罪の法定刑の引上げについては,おおむねの合意が得られたところですが,それによりますと,従前その機能を担っていた集団強姦の罪は,ほぼ新しく作られる罪の中に取り込まれてしまうということもありまして,集団でなされた悪質性が高いものが存在することは分かりますけれども,共犯類型における量刑事情を適切に評価することで従前と変わらない量刑ができるのではないかと思いますので,私は今回の御提案に賛成するところであります。
○井田委員 強姦罪はその基本類型としても既に大変重い犯罪であり,法定刑の上限を見ると懲役20年です。例えば,傷害罪は,被害者の目をくり抜いたり,その腕を切り落としたりする行為を含みますが,その上限は懲役15年であり,強姦罪はその基本類型においても,それよりも重い犯罪として規定されているのです。ですから,集団強姦罪の規定を仮に削除したとしても,重いケースについては基本類型により十分重く評価することができるはずです。また,法定刑の下限について見ても,今回の改正により強姦罪の刑の下限を引き上げて,そのままでは執行猶予を付けられない,つまり酌量減軽という特別の判断をしないと執行猶予にはできないということになれば,その意味でも,この集団強姦罪を置く理由はなくなってしまうのではないかと思います。
○山口部会長 ほかに,いかがでございましょうか。
  集団強姦等の罪については残すべきだという御意見が述べられましたが,先ほど御議論いただきましたように,強姦罪等の法定刑の下限を引き上げると,特別の類型として集団強姦等の罪を殊更に置く必要はないという御意見であったように思いますが,いかがでしょうか。
○橋爪幹事 私も要綱(骨子)に賛成でございます。集団強姦は確かに極めて悪質な犯罪ですが,現在の実務の一般的な理解に従いますと,姦淫行為自体を複数人が分担する必要はないと解されておりまして,例えば暴行・脅迫の共同実行,更には実行分担がなくても実行共同正犯に匹敵するような関与があれば,集団強姦罪が適用されているようです。
  このように,強姦罪の共謀共同正犯を適用すべきケースと集団強姦罪を適用すべきケースというのは,実は紙一重のところがあり,実務的にも困難な問題をもたらしているように理解しております。
  このような実務的な問題もありますので,集団強姦行為につきましては,むしろ同一の構成要件の内部で,量刑評価の問題として対応する方が適当であるように考えております。
○山口部会長 維持するという御意見が述べられ,廃止してよいという御意見が述べられておりますが,ほかに,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
  ありがとうございました。
  集団強姦罪等を廃止することについては,反対の御意見,維持すべきだという御意見が述べられましたけれども,廃止することに反対だという御意見はほかにありませんでしたので,廃止するという御意見が多数であったと理解させていただきます。
  それでは,本日の審議はこれで終了とさせていただきたいと思います。
http://www.moj.go.jp/content/001170177.txt