コルセア乗りのミーナ

深海さかな @dzurablk_kai

F-4U-1系列の発展型である、ターボスーパーチャージャー搭載試作型XF-4U-3に詰まれるはずであった過給機を、そのままF-4U-4Bに追加した機体である。 二十ミリ機関砲の破壊力と、スーパーターボチャージャーがもたらす高高度での飛行特性はまさに、 #荒馬とメイドの口説き方

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彼が出撃時に用いるTACネーム『リンクス』の名に恥じぬ逸品であった。 対するミーナの乗る機体は、同じコルセア系列でも戦闘爆撃仕様のF-4U-1D。トムの乗るF-4U-4の四枚プロペラとは異なり、ブレード枚数が三枚なのが外見上の特徴だ。 #荒馬とメイドの口説き方

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武装は十二.七ミリ機銃を左右の主翼に各六門備える他、胴体下のハードポイントにはナパーム弾を始めとした各種爆弾をも装備できる。エンジンはトムの乗機と同じく、オリジナル（R-2800-8）からR-2800-14Wに換装、過給機は無いものの離昇馬力が大幅に向上している。 #荒馬とメイドの口説き方

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ミーナのTACネームは『レイヴン』。 日頃の出撃では、トムの乗る強撃型重武装機が低空で敵戦闘機ないし地上部隊を霍乱、その間に高空に遷移したミーナ機が爆撃ないし致命的な機銃弾をお見舞いする、というのが二人の十八番の戦法である。 #荒馬とメイドの口説き方

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今日の仕事は、列車の襲撃。南満州鉄道を走る日本陸軍の装甲列車を馬賊が襲撃するのを上空から援護する手はずだ。報酬は金品というよりも酒や食物が多めであったが、それでも飛竜討伐を抜きにすればさして悪くない稼ぎだった。 #荒馬とメイドの口説き方

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「それでは、ご主人様」 ミーナが三枚羽のコルセアの前で一度振り返り、漆黒の羽根を翻しながらメイド服のスカートを軽く持ち上げ会釈して見せる。 「おう、稼ごうぜ！」 トムはそう笑って返し、逆ガル翼に登り愛機のコックピットに飛び込んだ。 #荒馬とメイドの口説き方

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飛行場を発ってからの航路は、概ね快適であった。目的地までの片道は、概ね小一時間といったところ。 折角乗機のターボチャージャーを換装したのだからトムとしては是非とも高空での飛行を試したいところであったが、生憎今日の仕事は低空での地上援護である。 #荒馬とメイドの口説き方

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暇を潰すために道中で何度かバレルロールやスプリットSといったマニューバを試しつつ進んだ。流石はターボスーパーチャージャー、新たな肺を得たエンジンはすこぶる好調。 #荒馬とメイドの口説き方

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往路では二機のコルセアの間で、ほとんど無線の交信は無かった。下手に無線で交信すると、もし仮に襲撃目標の適が別の傭兵を雇っていた場合に、致命的な情報を渡してしまう可能性があるためだ。 だが、トムが顔を上げるとミーナの姿はいつでも拝むことができた。 #荒馬とメイドの口説き方

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トムの駆るリンクス機の上方、太陽の中に黒点のようにあるのがミーナのレイヴン機だ。いついかなる状況でトムが敵に襲われても、すかさず援護に駆けつけられる位置から、ミーナは四方八方に視線を巡らせ敵機がいないか神経を尖らせている。 #荒馬とメイドの口説き方

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無用な無線をしないのはそんな彼女の集中力を削がないためもあった。 「目標視認」 前方、鉄路が伸びる草原の彼方に機関車が吐き出す黒煙が見えた。 『了解、上空に敵機あり。数は２』 ミーナの声は重苦しい。被弾箇所の修理代金の計算でもしていたのだろう。 #荒馬とメイドの口説き方

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「いつもので行くか」 『了解、いつでも』 端的にそう交わすとトムは、エンジン出力を司るスロットルを一挙に押し込み、愛機を最高速度へと駆り立てた。 #荒馬とメイドの口説き方

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アメリカ合衆国南部、東海岸。マイアミ市を擁するフロリダ州内に、エグリン空軍基地がある。かつてドゥーリットル隊による日本本土爆撃計画の立案や訓練、近年だとF-35の配備に先立っての乗員育成を受け持った、優秀な試験飛行隊を有する合衆国航空戦力の一大拠点だ。 #荒馬とメイドの口説き方

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この基地で43年に海軍・空軍の主要な機体を対象として行われた空戦トライアルにて、コルセアは見事最優秀機体の称号を手に入れていた。 同時期には今だ二段ターボ過給機付きのP-51や、海軍の新鋭機F-6Fが実用段階に入っていなかったとはいえ、 #荒馬とメイドの口説き方

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同じくターボ過給機有するP-47やP-38を前者は低空での運動性能によて、後者は単発機ならではの軽快さによって見事打ち破っていたのである。 その傑作機が今まさに、トムの足元で唸りを上げていた。 エンジンの排気によってタービンを駆動するターボチャージャーと、 #荒馬とメイドの口説き方

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エンジンの回転軸から抽出したエネルギーで同じくタービンを駆動するスーパーチャージャー。その両者を併せ持ったF-4Uのエンジンには通常の大気圧の何倍もの圧力に凝縮された大気機械的かつ強制的に送り込まれつつある。 トムはそこで更に、 #荒馬とメイドの口説き方

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スロットルレバーに備え付けられたスイッチを押し込んだ。エンジン内へ水を噴射することで、五分間に限り一割増しの馬力を得ることができる戦時緊急馬力用スイッチである。 コルセアのエンジンナセル下方に備わったターボチャージャー用吸気口と、 #荒馬とメイドの口説き方

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両主翼内側のオイルクーラー用エアインテークから、ネコ科の捕食動物を思わせる甲高い唸り声が上がった。 爆発的な推力を得た機体は、瞬く間に目標である装甲列車とその直援機の懐へと飛び込んだ。 #荒馬とメイドの口説き方

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一度列車上空をフライパスしながら、目線は敵機に注ぐ。ブリュースター・バッファローを思わせるずんぐりとした胴体に、グライダーのような横に細長い高アスペクト比な主翼、それに急降下爆撃機のようなスパッツ付きの固定脚。キ３６こと九八式直協機だろうと踏む。 #荒馬とメイドの口説き方

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「ミーナ、援護は不要だ！　こいつは俺が頂く！」 敢えて敵機をオーバーシュート、目の前に躍り出る。前にしか進めない戦闘機が敵の前に尻を晒すこの機動は本来、空戦においては禁忌中の禁忌である。だが今回の相手は日本陸軍の旧式機、それも速度の出ない固定脚機である。 #荒馬とメイドの口説き方

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かのゼロファイターすら追いつけない高速域での戦闘を得意とする、このコルセアの敵ではない。 案の定、慌てた敵機が追い縋ってきた。だがもう遅い。操縦桿を一挙に引き水噴射の冷却力を得たエンジンの馬力で強引に宙返りを繰り出す。 #荒馬とメイドの口説き方

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それと同時に空戦フラップを開く。本来であれば離着陸時にのみ用いるこの動翼を使えば、一時的にとはいえコルセアはゼロ戦とも対等に渡り合えるほどの旋回性能を手にすることができた。 そのまま敵機の背後に滑り込み、二〇ミリ機関砲をしこたま撃ち込んだ。 #荒馬とメイドの口説き方

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キルスコアに一機追加。 左バンクを取りながら、黒煙を引きつつ眼下へ遠ざかる敵機を横目に、サイドポートの新たな敵機へ向かう。こういった鍔ぜり合いのような格闘戦ではコルセアのロール性能の高さと、P-51以上とも謳われた操舵力の調和が際立つ。 #荒馬とメイドの口説き方

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単調なカーブを描く敵機の前方に曳光弾と撤甲弾のミックスをお見舞いする。二機目、撃破。 「クリア！　空域は制圧したぜミーナ！！」 トムがそう高らかに謳うと同時に、すぐ背後から爆発音が聞こえた。咄嗟に振り返るとそこには、 #荒馬とメイドの口説き方

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今まさに絶好の射撃位置からトム機を狙わんとしていた日本軍機が火を吹きながら降下していく姿。少し遅れて昔懐かしい一世代前のコルセアのエンジン音と、六門の一二．七ミリ機銃が奏でるシンフォニーが高らかに鳴った。 『デカイ顔するのは敵を殲滅してからにしてください』 #荒馬とメイドの口説き方