明石市長の「パワハラ」案件について、自治体としてできること・できないことから考える

東京都庁職員だった経験のある大貫剛さん(@ohnuki_tsuyoshi)による解説です。
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大貫剛🇺🇦🇯🇵З Україною @ohnuki_tsuyoshi

明石市長の暴言の件。「7年も放置した職員の怠慢を叱った市長は正しい」という意見が多いようだが、公共事業の経験のある僕から見ると職員が言っていることも間違っていないように思うので、連ツイしてみる。

2019-01-30 19:44:05
大貫剛🇺🇦🇯🇵З Україною @ohnuki_tsuyoshi

市長が起こっているのは、以下の点についてだろう。 ・ある用地の買収が遅れている(どの程度遅れているかはわからない) ・過去7年間、地権者に買収価格を伝えていなかった ・一番面倒そうな地権者への交渉を後回しにしていた

2019-01-30 19:45:31
大貫剛🇺🇦🇯🇵З Україною @ohnuki_tsuyoshi

これに対して職員の説明はこう。 ・買収価格は概算を提示していた ・当該用地の買収予算は前年度までついておらず、今年初めてついた ・全事業費の予算を1年で確保しているわけではない

2019-01-30 19:47:29
大貫剛🇺🇦🇯🇵З Україною @ohnuki_tsuyoshi

で、この時点で僕から見ると、職員の説明の方に「そりゃそうだなあ」と思ってしまうのだが、公務員経験がないと何がどうそりゃそうなのかわからないと思うので、説明する。

2019-01-30 19:48:38
大貫剛🇺🇦🇯🇵З Україною @ohnuki_tsuyoshi

職員の説明は、こういうことだ。たとえばある道路の用地費用が総額10億円だったとする。役所は単年度予算なので、毎年2億円ずつ計上すれば5年で買収を終えられる計算になる。1億円なら10年かかる。

2019-01-30 19:49:48
大貫剛🇺🇦🇯🇵З Україною @ohnuki_tsuyoshi

用地買収は、ほいっと行ってすぐにできることではない。まず用地を測量し、正確な面積を測る。また用地買収時には建物の補償もするので、土地家屋調査士に依頼して査定額を計算する。これらの調査は当然、地権者の同意を必要とする。

2019-01-30 19:52:05
大貫剛🇺🇦🇯🇵З Україною @ohnuki_tsuyoshi

2億円ずつ5年の予算が組まれていたら、まず協力的な地権者から順にこういった調査を行い、用地買収の手続きを進めていく。「ややこしいの後回しにして、楽な商売しやがって」と言われても、協力的な地主を後回しにするわけにはいかない。

2019-01-30 19:54:00
大貫剛🇺🇦🇯🇵З Україною @ohnuki_tsuyoshi

年に2億円ずつしか用地買収できないとすれば、3億円4億円分の用地の交渉をするわけにもいかない。4億円分の地権者が「その金額で良いですよ」と言ってくれたのに2億円ぶんだけ買収して、翌年度再査定したら安くなっていたら、地権者は「なんでうちを先に買ってくれなかったのか」と怒るだろう。

2019-01-30 19:55:46
大貫剛🇺🇦🇯🇵З Україною @ohnuki_tsuyoshi

もちろん地価は上がる可能性もあるから、逆もあり得る。いずれにせよそういうトラブルもあり得るから、一般にはエリアを区切って1年目はこの範囲、2年目はこの範囲、と用地交渉を進める。後の方のエリアに面倒な地権者がいるとわかっていても、先に進めるのは難しいだろう。

2019-01-30 19:57:34
大貫剛🇺🇦🇯🇵З Україною @ohnuki_tsuyoshi

短期間で買収を終えたいなら、5年の買収期間があっても最初の方で一気に用地買収を進め、後半は残る地権者と粘り強く交渉する。当然、こういうことをするには予算も人員も集中投入する必要がある。体力のない小さな自治体には難しい。

2019-01-30 20:00:40
大貫剛🇺🇦🇯🇵З Україною @ohnuki_tsuyoshi

ここまでの話は、明石市職員の話と符合する。年度予算は用地買収を大きく進めるには足りず、人員は1人しかいなかった。弾も兵隊もないのに「どうして陣地を占領できていないのか」と言われても困りますよ司令官閣下、と言っている。

2019-01-30 20:02:21
大貫剛🇺🇦🇯🇵З Україною @ohnuki_tsuyoshi

じゃあどうするべきだったのか、ということになるが、「ない袖は振れないから工期を延長する」のか、「もっと集中的に予算と人員を投入する」のかいずれかの方向性しかない。で、予算と人員を確保するのは基本的に、市長の仕事だ。

2019-01-30 20:04:02
大貫剛🇺🇦🇯🇵З Україною @ohnuki_tsuyoshi

もちろん、そういうことをしなければ工期を守れない、と市長に進言するのも職員の仕事だ。だから今回の事態を招いた責任が誰にあるのか、特定するのは難しい。ただ、これはよくある話だ。つまり「上司と部下の意思疎通が不充分」というやつ。

2019-01-30 20:05:40
大貫剛🇺🇦🇯🇵З Україною @ohnuki_tsuyoshi

なので、結局のところ「仕事がうまくいかないからと言って、上司が部下にパワハラをするのは許されない」というごく当たり前の話にしか落ち着きようがない。

2019-01-30 20:07:06
大貫剛🇺🇦🇯🇵З Україною @ohnuki_tsuyoshi

ところで、この「役所は単年度予算なので」というところが、よく言われる「民営化するだけでなぜコスト削減になるのか」に関わってくる。民間は単年度予算に縛られずに収支を考えることができる。

2019-01-30 20:21:02
大貫剛🇺🇦🇯🇵З Україною @ohnuki_tsuyoshi

例えば「10億円借り入れて施設を建設し、完成後毎年収益を上げて建設費を返済する」という事業があったとする。技術的には5年で完成できるが、役所が年に1億円の予算しか用意できなければ、完成に10年かかる。

2019-01-30 20:23:19
大貫剛🇺🇦🇯🇵З Україною @ohnuki_tsuyoshi

ここで「役所が年1億円ずつ10年間払うので、その契約書を担保に民間が10億円借りて建設する」という契約を結んだとする。民間企業ならさっさと5年間で建設してしまった方が、だらだら建設するより管理費が安く済む。しかも残り5年間、この施設から収益を上げることができる。

2019-01-30 20:24:53
大貫剛🇺🇦🇯🇵З Україною @ohnuki_tsuyoshi

「役所は10億円借りてないじゃないか」と思われるかもしれないが、10億円使ってその間収益がないということは、完成後の収益を前借しているのと同じこと。その間の利子に相当する損失を考えておく必要がある。

2019-01-30 20:27:05
大貫剛🇺🇦🇯🇵З Україною @ohnuki_tsuyoshi

つまり、単年度予算に縛られない民間に公共事業を任せることで、民間企業の「利益をあげたい」という目的と、役所の「少ない税金で多くのサービスを提供したい」という目的を両立できる。5年早くサービス開始できるというだけでも「より多くのサービス」になっている。

2019-01-30 20:28:46
大貫剛🇺🇦🇯🇵З Україною @ohnuki_tsuyoshi

蛇足だが、ここまでのような一般論を前提として、ポジティブな気持ちで明石市の件を詳しく紐解いてみた結果、「なんだよやっぱり担当職員がクソ怠慢じゃねえかよ」という結論になる可能性も否定はしません。

2019-01-30 20:40:01
大貫剛🇺🇦🇯🇵З Україною @ohnuki_tsuyoshi

ただ、物事はまず「常識的な人間が善意に基づいてやったのにうまくいかなかった」という可能性を第一に考え、それでは説明できない場合に初めて「誰かがサボタージュや悪意によって問題を起こした」という選択肢を持ち出すべきだということです。

2019-01-30 20:41:29