- dousei_skhs
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…………。……また熱が出ただろうか。言葉を理解するのが、普段よりだいぶ遅くなっているらしい。いや、風邪なのを差し引いても、これが仕方ないと思う。当の長谷部くんを見ると、気まずそうに頭を掻いていた。
2019-02-01 00:22:11「俺もお前も自分で磨いたりしてるけど……その、一度ちゃんとしたところに頼んで、綺麗にしてもらいたいなと思ったんだ。とても大事なものだし、……光忠がこれをくれてから、節目にもなるし、ちょうどいいんじゃないかって」 「……」
2019-02-01 00:22:50それがどうして、いま僕に指輪を外せということに繋がるんだろう。僕の疑問を含めた眼差しに、長谷部くんは苦笑しながら答えた。 「クリーニングに出すと、一日は返せないらしいんだ。」 「……そんなにかかるの」
2019-02-01 00:23:17「個人でメンテナンスをやっているんだそうだ。他にも調整とかいろんな依頼があるから、ちょっと時間が掛かるんだと。……あ、宗三に教えてもらった人だから大丈夫だぞ。信用できるって言ってた」 「……」
2019-02-01 00:24:34「……光忠、まだ明後日くらいまではちゃんと寝ていた方がいいだろうし、どこにも出掛けないし、こんなときくらいしか、長い間外すことなんて出来ないだろうし……」 俺も、お前も。 だからどうかなって、思ったんだけど……。
2019-02-01 00:26:44どんどん語尾が小さくなっていく長谷部くん。思いつき自体はいいことでも、自分がそれをどんなまずい言い方で、どんなまずいタイミングで切りだしてしまったのかに気がついたみたいだった。 僕は顔を覆った。 ……最悪だ。かっこわるい。
2019-02-01 00:28:13「……なるほど。綺麗にしてくれるつもりだったんだ」 「ああ」 「……」 「……」 「……こんな弱ってるタイミングで言わないでくれよ」 「す、すまん……」 「言葉が足りないんだよ本ッ当にさあ……なんだよいきなり指輪外してくれって……」 「悪かった、本当に悪かった」 「許さない」 「えっ」
2019-02-01 00:29:45指の隙間から覗くと、長谷部くんはお手本のように焦っていた。弱った僕に追い打ちをかけてしまったと思っているのかな。まったくその通りだから反省してくれ。 「……長谷部くんが美味しいお粥を作ってくれないと許さない」 「! ど、努力する」
2019-02-01 00:32:07「あと治ったらいっぱいいちゃつかせて」 「え? それは別に、俺だって」 「え?」 「あっ」 「……」 しまったと口を覆うけれど、遅かったね長谷部くん。僕といちゃつきたいと遠回しに伝えてしまって赤くなる耳は、さっきまでしんでしまいそうだった僕の心をすっかり元気にしてくれた。
2019-02-01 00:33:44「長谷部くん」 「……なんだ」 「僕のこと好き?」 「……うん」 「ならちゃんと言ってほしいな」 「……」 「はーせーべーくん」 「そんなの言わなくても、今さら、」 「だめ。許さないよ」 「……わかっ、た」
2019-02-01 00:37:50さっきまで瀕死だったのに、我ながら調子がいい。でも今は風邪っぴきに免じてめいっぱい甘えよう。そんな僕の胸のうちなんてわかっているだろうに、長谷部くんはすうっと息を整えると、僕の目をまっすぐ見て。 「……光忠、大好きだ」 そう言ってくれた。
2019-02-01 00:40:10「……ふふ」 「満足か」 「あ? 人を傷つけておいてその態度は」 「すまん、悪かった」 「……長谷部くん」 「ん」 なるべく触れないようにしていたんだけれど、ちょっとだけ許してほしい。僕はすこしかさついた指先を、長谷部くんの頬に滑らせた。
2019-02-01 00:42:34「ありがとう。僕も大好きです」 「……どういたしまして」 俺でよければ。そう言ってお返しとばかりに、僕の額に触れてきた長谷部くんの手。その冷たさが、とても心地よかった。 【了】
2019-02-01 00:42:47【管理人より】夜分に失礼いたします。新年初のSS更新、お付き合いくださりありがとうございました。そしてあけましておめでとうございます。いつの間にやら睦月が逃げて日付を跨ぎ、なんと二月、如月となりました。遅いにもほどがありますが、本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
2019-02-01 00:47:54