燭へし同棲botログ:ある日の可愛い彼について

20/10/16:光忠から見た長谷部の可愛い話。
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燭へし同棲bot @dousei_skhs

【ある日の可愛い彼について】 「……つっ……かれたぁ……」 玄関をくぐった途端、とんでもなく情けない声が出た。格好悪い。でも今日はどうか許してほしい。帰宅がこんな時間になるほど仕事を頑張ってきたんだから。誰にするでもない言い訳を胸のうちで呟いて、僕は洗面所兼脱衣所へと直行した。

2020-10-16 23:47:49
燭へし同棲bot @dousei_skhs

今はもうなんでもいい。最悪シャワーだけでも構わないから、とにかく熱いお湯を浴びたかった。重たい身体からなんとか服を剥がしてお風呂場に入る。そしてシャワーコックを捻ろうとしたところで、違和感を覚えた。……どうやら湯船のお湯が、まだ熱いままのようだ。

2020-10-16 23:48:51
燭へし同棲bot @dousei_skhs

とっくに冷めているものと思っていたのに、長谷部くんも入ったのが遅かったのかな。……まあいいか。有難いな。ただそう思った僕は髪と身体を洗ったあと、湯船のふたを開け、たっぷりのお湯に疲れ切った身体を預けることにした。

2020-10-16 23:49:22
燭へし同棲bot @dousei_skhs

どれだけ疲れていても、髪はちゃんと乾かさないといけない。翌朝泣きを見るのは自分なのだから。というわけで半ば舟を漕ぎながらドライヤーをかけ、歯を磨き、ようやくひと心地ついた僕はそのままキッチンへ向かった。 夕食は職場で軽く食べてきたし、それは長谷部くんにも早い段階で伝えてある。

2020-10-16 23:49:47
燭へし同棲bot @dousei_skhs

一人でご飯を食べてもらうことになったのは心苦しいれど、お互い働いているとこんなこともままある。……寂しい。仕方ない。 冷蔵庫からペットボトルの水を取り出す。それをコップに注いで一気に飲み干し、ふうと一息ついた。キッチンから見えるリビングは、当たり前にしんと静まり返っている。

2020-10-16 23:52:55
燭へし同棲bot @dousei_skhs

……長谷部くん、ちゃんとご飯食べたのかな。またゼリーとかで済ませてないといいんだけど。そんなことをいろいろ考えながらも、僕の瞼は仲良くなったり離れたりを繰り返している。あぶない。いい加減ちゃんと寝てしまおうと、コップを洗って水切りカゴに置いた。 そのときだった。

2020-10-16 23:53:18
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「……おかえり」 「うあっ!」 暗闇から声がした。正確には、リビングのソファから起き上がった影がしゃべった。その影は覚束ない足取りで僕のところまでとことこ来ると、ふあ、とひとつ可愛いあくびをする。 「……ただいま長谷部くん。起きてたの」 「……」

2020-10-16 23:58:22
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「びっくりしたよ。部屋で寝てるものだと思ってたから……」 「……」 「……僕のこと、待っててくれたの?」 「……うん」 眠たいのだろう。今までソファで寝ていたらしい長谷部くんは、目をこすりながら頷いた。リビングの電気が消えていたから、てっきり自分の部屋でもう寝ているんだと思っていた。

2020-10-16 23:59:01
燭へし同棲bot @dousei_skhs

でも長谷部くんは待っていてくれたのだ。僕が仕事から帰ってくるのを。 「ありがとう。……ごめんね。僕、ただいまも言わないで先にお風呂行っちゃった」 「いいよ。俺も、待ってるつもりが寝落ちしてたし……」 「……ご飯ちゃんと食べた?」 「言うと思った。食べたよ」 「そっか」

2020-10-17 00:00:00
燭へし同棲bot @dousei_skhs

見ると、長谷部くんは上に掛けていたらしいタオルケットを片手で持って引きずっていた。よく似た子ども向けのキャラクターがいたなあと思いながら、僕は長谷部くんの、寝間着のスウェットに包まれた身体に触れた。……ああ、冷えてしまっている。 「湯冷めしちゃった?」 「ああ……そうかも」

2020-10-17 00:00:39
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「……あれ、でもお風呂あったかかったけど……入ったの遅かったんじゃないの」 「追い炊きした。お前が帰ってきて風呂に入るとき、熱くしておいた方がいいかと思って」 「……長谷部くん」 「あったまったか」 「ありがとう。おかげさまで、気持ちよかったよ」

2020-10-17 00:01:56
燭へし同棲bot @dousei_skhs

長谷部くんはそうか、と言いながらとろんと笑った。 僕の行動を読んで、僕のためにお風呂のことまで考えてくれて。こういう気遣いをさらっとするのが、彼の格好いいところだと思う。長い付き合いだけれど、今でもそこかしこできゅんとしているのは内緒だ。 でも。

2020-10-17 00:02:28
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「そんなに眠たいの我慢してまで、僕のこと待ってくれなくてもいいんだよ」 「いやか」 「嫌なわけないだろ。めちゃくちゃ嬉しいけど」 「……俺は」 長谷部くんの手が、タオルケットをぎゅっと握った。そして、ここまで近くにいなければ聞き取れないような声で、ぽつぽつと言葉をこぼしたのだ。

2020-10-17 00:03:12
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「……俺は、寝る前にお前がいないと……さみ、……寂しいから、……お前もそうかなあと、思って」 「…………」 「……光忠?」

2020-10-17 00:05:02
燭へし同棲bot @dousei_skhs

なんで今、そんな可愛いことを言うんだろう。 言葉が出て来なかった。 僕が衝撃のあまり顔を覆ったのをどう勘違いしたのか、長谷部くんは「ごめん」「迷惑だったか」と慌てだした。僕は溢れる感情のまま、長谷部くんのひんやりした身体を思い切り抱き締めた。

2020-10-17 00:06:45
燭へし同棲bot @dousei_skhs

僕が嬉しさでいっぱいなことが伝わったらしい。「なんだ、どうした」という声の色が、不安げなものから楽しそうなものへと変わる。小さく笑う彼の声を聞いていると、本当にたまらない気持ちになった。

2020-10-17 00:08:07
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「……長谷部くん」 「うん?」 「明日はお休みだね。僕も、君も」 「ああ」 「朝ごはん何食べたい? なんでも作るよ」 僕に出来ることといったらこれくらいしか──今の頭では──思い浮かばなかった。だけど僕がそう尋ねると、長谷部くんはほのかに弾んだ声で「……だし巻き」と答えてくれた。

2020-10-17 00:09:29
燭へし同棲bot @dousei_skhs

なんでもって言ったのに、まさかそれだけじゃないだろう。それと? と促すと、長谷部くんは悪戯っ子のように、 「一緒に寝てから考える」 ──と言った。

2020-10-17 00:11:19
燭へし同棲bot @dousei_skhs

……それは。 「……お誘い? だと思ってもいいの、かな?」 「添い寝のな。言っておくが本当に寝るって意味だからな。もう眠たいから」 「それは僕も。途中で寝ちゃうのとか絶対避けたいからね」 「……」 「……そうなったら君だって満足できな、」 「冷えたから湯たんぽになってくれ」

2020-10-17 00:13:09
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「……はーい、……っ!」 「……ふふ」 ぴしゃりと遮られて少し寂しくなっていると、長谷部くんはすっかり冷えた足で、僕の脚をすり、と撫でてきた。冷たさに驚いた僕の反応はさぞ面白かっただろう。 「……長谷部くん」 「んー?」

2020-10-17 00:19:34
燭へし同棲bot @dousei_skhs

咎めるように名前を呼んでも、眠気でふわふわ笑うだけ。僕が叱れないことをわかっている。なんて人だろう。……ああでも、もういい、わかったよ。 「……好きに使ってください」 君にはどうにも敵わない。 苦笑する僕の顔を見て、長谷部くんは楽しそうに笑った。 【了】

2020-10-17 00:23:07
燭へし同棲bot @dousei_skhs

【管理人より】夜分に失礼いたしました。先日ご協力いただいたアンケートより『光忠から見た長谷部の可愛い話』をお送りしました。少しでも皆様のよい燭へし日和の足しになりましたら幸いです。ありがとうございました。

2020-10-17 00:28:00