レイシズム 青識氏批判

　投書には「中学生」と書いてありますが、実は高校生だったのですか？「高校生が不安を口にすることはレイシズムか？」という雑な問いと、「件の中学生の投書はレイシズムか？」という問いは全く異なります。『率直な不安の吐露』のなかにもレイシズムであるものもある、ということに同意しているのなら、「率直な不安はレイシズムか？」という問いの立て方が誤っていることがわかるはずでしょう。多様化社会への「純粋な・率直な不安」が素朴なレイシズム・ゼノフォビアである場合を無視した青識氏の問い・論の立て方は不当です。

　そのように軽率に『あらゆるもの』とか言ってしまうことが雑だと言っているのです。件の投書をレイシズムと指摘したからといって、或いは、青識氏の採用する定義よりも広義のものを採用したからといって、レイシズムの定義が（無限に拡大して）『あらゆるものに及ぶ』ことにはなりません。或いはもし、私達の言論のあちこちにレイシズムが潜んでいる、という意味で『レイシズムの定義はあらゆるものに及ぶ』と言っているのであれば、はいそうです。定義上レイシズムであるものはどこにあろうとレイシズムであって、その指摘は「あらゆるもの」に及び得ます。

　では次に本題である、件の投書のどこがレイシズムなのか、という問いに移りましょう。

　まず前提として、外国人労働者の受け入れについて、文化摩擦などどう対処していくのか、という不安は主張されても当然でしょう。しかし、『郷に入っては～』とか『このままの日本』でいるべきであるとかいう同化主義を移入者にどこまで要求することができるのか（すべきか）という点は議論されるべきです。

　金明秀氏は次のように述べています。『何らかの問題があるとき、その原因としてさまざまな可能性が考えられるのに、人種・民族的要因によって本質的に生じたと十分な根拠なく恣意的に断じるのがミクロなレイシズム。』『「日本人の基本的気質」として「謙虚さや我慢強さ」があると称揚し、一方で、外国人はそれらを持たずに騒乱の原因になると想定するのは、典型的なレイシズムなんだよ。』
　件の投書が外国人は『騒乱の原因になると想定』しているとまで解釈することはできないと私は思いますので、金明秀氏の評に全部同意するわけではありませんが、投書のレイシズムの指摘は可能だと思います。では投書を見ていきましょう。

　投書の『僕は日本人の謙虚さや我慢強さは～』の部分から『～少しずつ失われつつあると思う。』の部分までは、外国人移民の話と無関係です。なぜなら、外国人移民が増えることと、『謙虚さや我慢強さ』といった『日本人の基本的気質』を日本人が維持できるかということは無関係だからです。（両者の話題を無理やり関係づけようとすれば、金明秀氏のように解釈するか、『日本人の基本的気質』の喪失に歯止めがかかるまで外国人に同化を要求すべきというように『日本人の基本的気質』と外国人の扱いとを天秤に掛けていると解釈することになる。）では、『自己肯定感を得るためにルールを守らない人』や『ただ騒ぎたいというだけで集まる若者ら』と『（日本の）風習や文化に不慣れな外国人』とを並置することがどのようにして可能になっているかと言うと、どちらも『このままの日本』を崩すものとされているからです。
　投書では、『風習や文化に不慣れな外国人が今後増えていく』ことで（or外国人移民が日本の風習や文化に同化しないことで）どういう問題が生じると考えているのか、言及していません。ただ『このままの日本』の存続危機を述べるだけです。投書内では、外国人移民が「今の日本」をどう変えるのか、『このままの日本でいられ』なくなることがなぜ問題なのか、（青識氏の言葉で言えば、『多様化社会になること』の何が『不安』なのか）述べられていません。ただ『このままの日本でいられ』なくなることが問題だということしか読み取れません。
　『最近』の変化として『謙虚さや我慢強さ』といった『日本人の基本的気質のようなものが少しずつ失われつつある』、と日本人内部からの『このままの日本』の瓦解に言及しているのにもかかわらず、『日本どうなる』と言うときに原因視されるのはなぜか『外国人』であるわけです。このように、「Ａが壊れる・失われる」とする「喪失のレトリック」において、『このままの日本』のように曖昧で恣意的に定義できてしまうものを持ち出して無根拠に特定の対象に原因・責任を帰すという表現様式は、典型的な差別表現です。（例えば、同性愛の肯定によって日本の「家族・家庭」が崩壊するなど。）

　以上から結論を言えば、論としてちぐはぐな件の投書を予断や意図の決めつけなくちぐはぐのまま解釈するとしても、レイシズムとして解釈するのは妥当性を持つと私は思います。逆に、この投書のみから、「多文化主義の限界の指摘」とか「同化は文化摩擦の解消法の最適解として主張されているに過ぎない」とか解釈することは、予断が過ぎます。

　雑な問い・議論ではなく、投書についての青識氏自身の解釈と判断をきちんと述べるべきだと思います。どうぞ。