日向倶楽部世界旅行編第74話「篠崎和枝は歌わない」

準決勝第一試合、最上達の前に航空母艦娘加賀が立ちはだかる。
0
三隈グループ @Mikuma_company

「最短で接触する事になりますね」 「真っ向から来るのね」 「俺たちの演奏をよォ、こんだけの人たちが聴いてんだぜッ!」 「こんな戦いもあった」 「艦娘になったって時の事覚えてっか!?」 「歌えるんだよ、歌えるんだッ!」 「…キタぜ」 日向倶楽部、この後21:00! pic.twitter.com/pUO2GX6Rtk

2019-02-19 20:49:21
拡大
三隈グループ @Mikuma_company

【前回の日向倶楽部】 篠崎和枝は加賀になった。運命は、夢見るミュージシャンに艦娘という「成功」を掴ませた。 それが何をもたらしたのか、誰にも分からない、航空母艦娘加賀は何も語らない。 沈黙の航空母艦娘が最上達に立ちはだかる。彼女の奏でる音達は、何かを語っているのだろうか?

2019-02-19 21:00:44
三隈グループ @Mikuma_company

日向倶楽部 〜世界旅行編〜 第74話「篠崎和枝は歌わない」

2019-02-19 21:02:17
三隈グループ @Mikuma_company

〜〜 大歓声に包まれながら、準決勝第一試合が始まった。最上と足柄は風を切り、真っ直ぐ突き進み続ける。 「相手は何処に?」 「正面から来るみたいですよ、最短で接触する事になりますね。」 偵察に出した瑞雲の情報を元に、最上は足柄へと伝えた、敵は真っ向からやって来ると。

2019-02-19 21:03:56
三隈グループ @Mikuma_company

その情報に、足柄は眉をひそめる。 (やはり、真っ向から来るのね…) デスメタルピースの戦いは、事前に試合の録画を見ていた為知っている。彼等は艦載機を主体とした航空母艦娘のチーム、射程外からの攻撃を得意としている。 それは普通だ、足柄が妙だと言うのは、彼等の動き方なのだ。

2019-02-19 21:04:57
三隈グループ @Mikuma_company

艦娘の扱う艦載機というのは、平たく言えば武装したドローンである。空を飛び、内蔵した火器で相手を一方的に撃つのだ。他にも相手の艦載機を落としたり、偵察を行なったり、用途は多岐にわたる。 利点はその射程と多角的な攻撃、未熟な艦娘は対処出来ず呆気なくやられてしまう。

2019-02-19 21:06:33
三隈グループ @Mikuma_company

一方で、欠点は火力やコストなどだ。 風が強い時は飛ばせないし、一機につき詰める弾はそこまで多くない為、火力は砲撃に比べて劣る。 また、対処法を知っている艦娘はその弱点を踏まえて的確に対応する為、有効打になりにくい。強力で利点も多いが、その実欠点も多い武器なのだ。

2019-02-19 21:08:05
三隈グループ @Mikuma_company

つまり、使う側はその利点を最大まで活かす必要がある。相手の手が届かない、距離を取った状態で戦うのだ。 だから、電撃戦の必要があるこちらに対し、全速力で近付いて来るデスメタルピースの動きは妙だと言えた。これまでの試合も彼等はそうしていたのが、なおの事気になっていた。

2019-02-19 21:09:28
三隈グループ @Mikuma_company

(一応砲は持っている様だけど、あれは最低限の自衛用…軸に据えられるものではない。) 足柄は悩む、彼等には近付く理由が見当たらないのだ。何かがある、そう推察せざるを得ない。そしてそれは、最上も同じ様であった。 「…あの人達、何があるんですかね」 彼女は訝しみながらぼそりと呟く。

2019-02-19 21:10:46
三隈グループ @Mikuma_company

最上の様な航空巡洋艦娘は、艦載機と艦娘本人の連携がモノを言う、だから接近する事も多い。 最上は航空巡洋艦娘としての視点から、デスメタルピースの思惑を読もうとする。だが分からない、考えれば考えるほど、わざわざ全速で接近する理由が思い当たらなかった。

2019-02-19 21:12:30
三隈グループ @Mikuma_company

そんな風に二人が考えを巡らせている、その時だ。最上達の正面から、冷たい風が吹いて来た。 そしてその風と共に 「…?何かの、音…?」 スタジアムの歓声、水面の波音を掻き分けながら。 「音楽…何かの、音楽だ…!」 弦楽器とドラムの音が、聴こえて来た!

2019-02-19 21:13:56
三隈グループ @Mikuma_company

それと同時!水平の彼方に、デスメタルピースの二人がその姿を現した!彼等の頭上には無数の艦載機が、巨大な編隊を組んでいる! そして風に流れるドラムの音が、一際激しくなった瞬間! 「…来る!」 その艦載機達は、最上達を目掛けて突き進み始めた!

2019-02-19 21:15:41
三隈グループ @Mikuma_company

待っていても、避けていてもジリ貧!最上達はその艦載機群に対し、正面から突撃した!会場に割れんばかりの歓声が、響き響く! 「デスメタルピースとWヴィーストの戦いは、正面からの激突となります!」 副音声の実況は会場の声にかき消される。それ程に皆が、この準決勝に注目している!

2019-02-19 21:17:14
三隈グループ @Mikuma_company

先手を取ったのはデスメタルピース!音楽と共に飛来する艦載機が、直進する最上達を襲う! 「数が多い…本職って感じだ!」 最上は艤装の対空システムを起動、空を睨みながら攻撃網の突破を図る。艦載機同士というのは激突の危険がある為、互いが極端に接近できない、そこが穴であり、突破口である!

2019-02-19 21:18:46
三隈グループ @Mikuma_company

が!最上を襲うそれらは、極めて緻密で、精密な動きをする! (こいつら、ギリギリを攻めて来る…。まるでそれぞれが意思を持って、互いを譲る様に…!) 普通ではあり得ない、そう言えてしまう程の動き!されど最上も素人ではない、的確な反応と基本に忠実な動きで避けて行く!

2019-02-19 21:20:08
三隈グループ @Mikuma_company

それは足柄も同様!彼女は最上と同じ、いやそれ以上に的確で迅速な回避を続け、攻撃網を掻い潜る! (あいつなら、これは避けられる…!) 身を捻り、砲を撃ち、時に避け、時に叩き落としながら進んで行く。準決勝に相応しい、熾烈な攻撃と鮮やかな回避の応酬が繰り広げられる!

2019-02-19 21:21:41
三隈グループ @Mikuma_company

その間も加賀と吉田の演奏は続いている。吉田の艤装は複数の楽器を同時に演奏する特殊仕様、スタジアムには二人だけの演奏とは思えぬ充実した音色、軽快なリズムの曲が響き渡る! 「数が多い…イナゴみたいにッ!」 最上は吐き捨てながら艤装を操り、飛来する艦載機を叩き落とす。

2019-02-19 21:23:14
三隈グループ @Mikuma_company

デスメタルピースの放つ艦載機群は、普通の航空母艦娘の扱うそれとは比にならない数を有していた。 無論、そういう事はある。運用の精度と引き換えに艦載機の数を増やすだけなら比較的簡単に出来るし、それをやる艦娘も多い。足りない技量を、手数を増やして補うのも一つの正解だからだ。

2019-02-19 21:24:32
三隈グループ @Mikuma_company

要するに機械等の都合で、数が増えると艦載機の運用精度は落ちるのだ。 落ちる、はずなのだが! (この数が、ここまで正確に動くのか…!?) デスメタルピースの艦載機群には、その常識が通じない!彼等の艦載機はまるで一機を一人が操っている様に、それぞれが正確で緻密な動きをしている!

2019-02-19 21:26:25
三隈グループ @Mikuma_company

「…ッ!危ないな!」 迫る攻撃をすんでのところで避け、最上は冷や汗をかく。艦娘として長い最上にとって、艦載機だけの攻撃を捌くというのは決して難しい事ではなかった。 だが今回ばかりは違う、捌き切るので手一杯な程、攻撃は熾烈で精密で強烈なのだ!

2019-02-19 21:27:28
三隈グループ @Mikuma_company

(一刻も早く相手に肉薄して叩かないといけない…けど、欲張ればその瞬間に落ちかねない…!) あまりに激しい攻撃を前に、最上は回避以上の事へ気を配れない。 現に彼女は、相手二人の位置を把握する事すら困難になりかけていた、取り囲む艦載機を見続けなければならないのだ!

2019-02-19 21:29:05
三隈グループ @Mikuma_company

「くそっ!埒があかない!」 最上は飛沫を上げ、ギリギリの回避を繰り返す。余裕が無いとはいえ最上も優秀な艦娘、ひたすらに専念すればまだ避けられる部類だった。 (この数の艦載機を正確に操り、そして艦載機だけでこの攻撃、冗談じゃないぞ…!) 舞い散る水に、彼女は息を呑む。

2019-02-19 21:30:34
三隈グループ @Mikuma_company

最上は、日向と演習で何度も戦った事がある。その大半は負けていた、最上が弱いのではない、日向が強かったからだ。 日向は艦載機の扱いに長けていた、しかし彼女の強さの本質は、その引き出しの多さであった。あらゆる状況で適切な攻め手を選び、優れた技量でその手を差し込んで行くのだ。

2019-02-19 21:31:53
三隈グループ @Mikuma_company

最上はそれに何度もやられていたし、それが強いものであると理解し、自身もその様にして来た。 多彩な攻め手で相手の弱点を突く、そうやって彼女は艦娘として食べて来たのだ。 だからこそ艦載機の扱いという、ただその一本で押してくる相手にここまで苦戦する事が、あまりに想定外だった。

2019-02-19 21:33:17
三隈グループ @Mikuma_company

(相手は航空母艦娘だ、肉薄すれば勝機がある…!) 直撃コースを辿る攻撃を、瑞雲の鼓動を流した飛行甲板で防ぐ。なんとか耐えられる、まだ耐えられる、最上は策を練る。 (攻撃だって無限じゃあないんだ、ここを凌げば必ず穴が生まれる…耐えてそこを狙う!)

2019-02-19 21:35:02