日向倶楽部世界旅行編第74話「篠崎和枝は歌わない」

準決勝第一試合、最上達の前に航空母艦娘加賀が立ちはだかる。
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三隈グループ @Mikuma_company

〜〜 無音の世界、大きな爆発音と共に、足柄はそこに放り込まれた。 (…上手くいったみたいね) 艤装の破損箇所…もとい、足柄は自ら撃ったそれを投棄する。背負った艤装の主砲部を撃った瞬間、爆発と共に強烈な爆音が足柄へ飛び込んで来た。

2019-02-19 22:21:58
三隈グループ @Mikuma_company

その瞬間、聴力が失われた。一時的なものだが、彼女は完全な静の世界に飛び込んだ。 何も聞こえない、波音も歓声も、音楽も。しかし、彼女の狙いはそれだった。 「…!」 未だ続く艦載機攻撃を彼女は避ける、音が聞こえない分感覚は鈍るが、先程までより避けやすく感じた。

2019-02-19 22:23:24
三隈グループ @Mikuma_company

(やはり、音だった…!自分達でも気付かない間に、私達は彼等の演奏に、リズムに"乗せられて"いた…) 心地の良い音やリズムは、無意識のうちに人を乗せてしまう。 (彼等が近付いて来たのもこれで説明がつく…音を、なるべく近くで聴かせる必要があるから!)

2019-02-19 22:26:03
三隈グループ @Mikuma_company

あまりにも突拍子の無いカラクリだと、推察した足柄自身も感じていた。だが音を遮断した今、それが事実だとはっきり分かる! (今なら避けられる…そして、この攻撃網を抜ける穴も、見つけられる…!) 飛沫の冷たさと吹き抜ける風が、いつもより強く感じられる。

2019-02-19 22:27:19
三隈グループ @Mikuma_company

研ぎ澄まされた感覚、足柄は破損した艤装を背負いながらも、攻撃を鮮やかに捌き続ける。 そして! 「…見えたッ!」 一瞬の隙、彼女にだけ見える攻撃の切れ目に、足柄は飛び込んだ!飛沫を上げ、その隙間を一気に駆け抜ける!

2019-02-19 22:28:57
三隈グループ @Mikuma_company

「ここで足柄が攻撃を抜けた!試合展開が動きますッ!!」 スタジアムに大歓声が上がる。足柄にそれは聞こえていない、彼女の世界を駆け抜ける! 「ッ…!なんだ!?」 驚いたのは吉田!封殺されていたはずの足柄が、攻撃を潜り抜け迫っているのだ!

2019-02-19 22:30:14
三隈グループ @Mikuma_company

艦載機攻撃を次々と避け、彼女は吉田達に迫って行く! 「チッ、和枝の邪魔はさせるかッ!」 吉田は艦載機を差し向ける!だが今の足柄にそれは通じない、的確に対処される! 「潰させて貰うッ!」 そして反撃!足柄は爪付き主砲をぶっ放す!二丁しか無いが、二丁あれば彼女には十分!

2019-02-19 22:32:52
三隈グループ @Mikuma_company

「やらせるか!まだ、まだやらせねえ!」 吉田は立ちはだかる!マイク型の副砲で抵抗する!だが敵わない、既に航空母艦娘の間合いではなくなっているのだ! やがて足柄の聴力が元に戻り始めた、再び音楽が聞こえ始める。しかしこの距離なら、関係なく突き進める!足柄は突き進む!

2019-02-19 22:34:25
三隈グループ @Mikuma_company

その時だ! 「…ッ!」 激しい弦楽器、リュートの音が響き、艦載機の攻撃が激しくなった!加賀の演奏が、激しさを帯び始めたのだ! その攻撃は容赦のない、凄まじさすらある猛攻!精密であり、熾烈である! されど足柄は不退転、ギリギリでこれを避け、避け、進む!

2019-02-19 22:35:48
三隈グループ @Mikuma_company

だがギリギリの回避、ハイリスク!戦況は再度五分に持ち込まれた。吉田は加賀を守るように立ちはだかり、艦載機攻撃を続ける。 しかし! 「ぐあァッ!?あいつ…!」 「足柄さん、今ですッ!」 吉田を、最上が撃った! 足柄に意識を向けすぎた結果、最上も攻撃網を潜り抜けたのだ!

2019-02-19 22:37:00
三隈グループ @Mikuma_company

そしてそこが、好機! 「アポロ∞、起動ッ!」 足柄は姿勢を低くし、アポロ∞を起動!猛烈な勢いで加速した! 「や、やらせねえ…!」 吉田は止めようとする、だが無駄!最上の援護、足柄のスピード、彼には止められない!足柄は主砲を放ちながら、加賀へと迫る!

2019-02-19 22:38:47
三隈グループ @Mikuma_company

激しいリュートの音、艦載機の攻撃、それをものともしない足柄! 一瞬の戦い、刹那に激闘が繰り広げられる!その末に! 「捉えた…ッ!」 接近し切った足柄の一撃、放たれた弾丸が、加賀を捉えた! 「…!」 直撃弾!衝撃に加賀の尼の様な服が破け飛んだ!足柄はそこへ追撃をかける!

2019-02-19 22:41:09
三隈グループ @Mikuma_company

「クッソォォォォッ!」 それを吉田、我が身を顧みず阻止しようとする、立ちはだかる!吉田に足柄の追撃が突き刺さる、容赦なく、彼は打ちのめされる! しかしそれでも彼は、演奏を止めない!艤装を操り続け、音を響かせる! 「しぶといな、あいつ…!」 足柄と共に最上も、撃つ!撃つ!撃つ!

2019-02-19 22:42:08
三隈グループ @Mikuma_company

猛攻は続いた、容赦なく続いた。 「ま、まだだ…!まだ…!」 吉田よろめきながら、立ちはだかろうとする。制服はビリビリに破け、満身創痍なのは誰の目にも明らか、これ以上戦えば命に関わるだろう。 「まだ…演奏は、終わっちゃいねえ…!」 吉田は副砲を手に、立ちはだかる。

2019-02-19 22:44:00
三隈グループ @Mikuma_company

だが、もう無理だった。足柄の放った一撃が、避けきれなかった加賀に命中した。勝負あり、そんな一撃だった。 やがて、加賀の演奏が止まった。同時に艦載機達も、激しい攻撃を止めた。 「か、加賀ちゃん…和枝…止めたらダメだ…」 吉田は振り向かず、加賀を守るように仁王立つ。

2019-02-19 22:45:21
三隈グループ @Mikuma_company

その時だ、止まったはずの音が、不意に彼の後ろから響いてきた。 リュートの、いや、ギターの音が、彼の後ろから聴こえて来たのだ。 「…!?」 吉田は思わず振り返る。リュートではない、ギターなのだ、ギターの音なのだ。 魂を揺する、ギターの音なのだ。

2019-02-19 22:47:12
三隈グループ @Mikuma_company

「か、加賀ちゃん…いや、和枝…?」 吉田は思わず呟く。 すると、加賀はフードを外し、豆鉄砲でも食らったような吉田の顔に視線を向ける。そしてその目を、カッと見開いた。 「…キタぜ」 加賀はギターをひと鳴らしして言った、いや、 叫んだ。

2019-02-19 22:48:52
三隈グループ @Mikuma_company

「アタマに…アタマにキタぜェェェェェェェェェェェェェェッ!!!!!!」 魂の咆哮が、水面を震わせた。 第74話 「篠崎和枝は歌わない」 おしまい

2019-02-19 22:50:12
三隈グループ @Mikuma_company

【デスメタルピース】 バルバトス加賀、バンドマン吉田のチーム。 艦載機の扱いに特化しており、楽器の演奏により艦載機を制御している。その技術は特化という言葉では足りない、究極と言って良い正確さを持つ。 また、その演奏は相手をリズムに乗せ、回避行動をワンパターンなものにしてしまう。 pic.twitter.com/aJ6i4vHSEm

2019-02-19 22:51:56
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