ローズ・ロゼシア・ストロベリー〜推理(物理)で解決しちゃダメですか〜

詩織子 @cyan0401

ーー倉庫の隅。慌てて片付けられた痕跡があたりに散乱しています。ブルーシートの上に棺桶と、白い花。わたしたちは無言のまま棺桶の側に立ちました。「中にはドライアイスが入れられています。ここは寒いですし、……腐敗は遅いかと」「なぜ棺桶があるんですか？」天野さん、話聞いて？

詩織子 @cyan0401

「このような長期の船上での暮らしは体に負担をかけます。特に最近はご高齢の方の参加も増えていますから…万が一に備えています。珍しいことでありません」なるほど、そういうことも想定しているのですね。まあ、さすがに殺人事件は考えていないでしょうけど。

詩織子 @cyan0401

「ちょっ」制止を聞かず、わたしは棺桶の蓋をぱかりとあけました。顔は布で覆われています。ポケットをまさぐりますが…ないですね、ハンカチ。どこかに落とした？いえ、そんなうっかりさんではありません。わたしは小さくため息を漏らします。あれがあれば、犯人に近づけたのに。

詩織子 @cyan0401

先生の腕時計が目に入りました。針は止まって、時計としてはもう使えません。形見として預かろうと思い、外します。後々何か言われたら「動揺のあまり」とかなんか適当に言い訳すればいいですし。……？あれ？「どうしました？」動きを止めたわたしに、泉原さんが声をかけます。

詩織子 @cyan0401

わたしは首を振り、棺桶を閉めます。…爪にも何も詰まってませんでした。たいてい、抵抗すると相手の服の繊維とか皮膚が詰まるのですが。つまり無抵抗のまま殺された…そこまで警戒する相手ではなかった？先生が、警戒をしない？まさか。そんな相手、いるはずがありません。

詩織子 @cyan0401

それに、大きな疑問があります。腕時計のベルトの三つ目の穴が大きくなっています。いつも先生はそこに留めているのですが…先程、腕時計を見たときには二つ目の穴に留めていました。それではキツイでしょう。うっかりとは思えません。なら、本当に遺体は先生ではない？

詩織子 @cyan0401

ふむ…。先生は人を半殺しにはしますが、殺すことはありません。それに関しては言えます。効率のいい手段を使うので、先生がそんなことをするとは思えません。潔癖とは言いませんが、自分の手を汚すのは嫌いな人なので。

詩織子 @cyan0401

でも…服装は先生のものです。先生の…。「ドレスコードに見合った服を買う金ないって言ったらあっちで用意してくれるってよ」ーー在りし日の記憶が蘇ります。そういえば似たような服の方をパーティーで何人か見かけました。うっそ、この人先生ではない可能性があるんですか？

詩織子 @cyan0401

なら、先生は犯人？いやまあ、先生が誰を殺そうとわたしは構わないのですが、一番ショックなのが何も言わずにこんなことしたことです。わざわざ自分に似せた死体を作るだなんて、何を考えているのでしょう？…自分に似せた？…身代わりの死体？

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例のアレ pic.twitter.com/oL7tJv0JIS

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詩織子 @cyan0401

わたしは頭がそれほど良くないので、どういった結論になりのかサッパリ分かりません、うーん、天野さんがたしか最初に先生の死体が先生本人か聞いてきたんですよね。なら考えがあるのでしょう。仕方ない、聞きましょう。「…さっきのことだけど」「うん？うん、なに？」

詩織子 @cyan0401

いきなり話しかけられても平然と出来るの羨ましいですね。わたしはいつもフリーズします。「もしこの遺体が先生ではないなら…その意図はなんと捉える？」あっ、わたしにしては分かりやすく聞けたのではないでしょうか。「柏尾さんではないんですか？」質問に質問で返さないでいただきたい。

詩織子 @cyan0401

びっくりするので、わたしが。現にびっくりして無言になりました。この様子を見て何かまずいと思ったのか、泉原さんが加わります。「ええと、自分の格好をさせた遺体を残して、本人はなにをしてるのか…ということでしょうか？」泉原さん、優秀。さすが豪華客船のスタッフです。

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周りから見た図と、内心かなり焦るノバラの図 pic.twitter.com/x8RbLmgZ9W

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詩織子 @cyan0401

わたしが肯定として首を振ると、天野さんは大人しく話し始めます。もしや、彼は泉原さんが苦手なのでしょうか？たしかに犯人扱いされていましたしね。わたしがその立場なら弁解できない絶望のあまり即座に舌を噛み切ってますけど、まあそれはいいとして。

詩織子 @cyan0401

「自分の存在を眩ませたいのかなって。死体をどう用意したのかは分からないけれど…死んだことにして、探されないようにしたいのではないかな」すり替えですか。なるほど…。死人は探されませんからね。ますます、わたしに一言も話してくれなかったことにショックです…。

詩織子 @cyan0401

「にしても、妙ですよね」泉原さんが顎に手を添え小首を傾げます。「私のようなスタッフがいうのもなんですが、ここはクローズドサークルです。殺人を行うにはいささか短絡的ではないですか？」わたしも思います。しかも焼くとか。バレてくれって言ってるようなものじゃありませんか。

詩織子 @cyan0401

「クローズドサークルだからだよ」天野さんが言います。「犯人は死体を発見してほしかった。そう思う」「なんのためにですか？」わたしは、横から口出ししました。「…見せしめ」死んだことを第三者に見せつけるために。脅しとも言いましょうか。次はお前だと示すための。なら焼かれたのも分かります。

詩織子 @cyan0401

ではその対象は？先生には見せしめにする相手がいたのか？そのために人を殺したのか？ならこんなまだるっこい真似しなくてもいいのに。先生が良しと言えば、わたしはその通り動きます。そのことを先生はよく知っているはずなのに…。外からどう見えていたのか、泉原さんが顔を覗き込んできます。

詩織子 @cyan0401

パーソナルスペースを侵さないでください！ほんとなんでみんなズカズカ入り込んでくるんですか！「…大丈夫、ではありませんよね」わたしは頷きます。「なにも柏尾さんが犯人と決まったわけではないよ。むしろ、身の危険を感じて逃げている、被害者の可能性もある」

詩織子 @cyan0401

「では、あの遺体は？」「その前にあの人は柏尾さんだったの？」わたしは首を振ります。泉原さんは驚いた顔をしました。わたしもこのぐらい表情が出せれば苦労しないのでしょうか。「では、誰ですか…？」「それはまた調べよう。…僕らが解決すべきことは複数ある。

詩織子 @cyan0401

ひとつめは、殺人犯は誰か。ふたつめは、柏尾さんの安否確認。三つめは、あの部屋でなにが起きたか。…三つめはふたつめが解決出来れば分かるだろう。懸念しているのは、これが連続殺人にならないかということだ」たしかにそうです。先生(仮)が一人死んで終わるとは断定できませんから。

詩織子 @cyan0401

「そうすると真の被害者は何者か、という話に戻る。そちらで把握することは？」「時間は掛かるでしょうが、出来ます。……上に報告しなければ。このことを口外しないようにお願い出来ますか？」神妙な表情で泉原さんは言います。何より口外する相手がいないのでわたしはいいですけど、

詩織子 @cyan0401

天野さんが何かしないか不安なんですよね…。「僕らが探偵ごっこしていることは言わないでほしいな…。なにやってんだって叱られそうだし」むしろこってり絞られてほしいです。それにあなた探偵でしょうに。泉原さんは「了解しました」と返します。ほんとかなぁ。

詩織子 @cyan0401

泉原さんはふと手元の端末に視線を落としました。「いけない、ミーティングがありました」わたしたちを見て、泉原さんはにこりと笑います。営業スマイルです。「では、また後ほど。花園ノバラさま、天野陽月さま」お前らのことは覚えたからなってやつですか？怖い…。