辻仁成Twitter小説『つぶやく人々』第一部まとめ

4/8に第一部が終了したようです。作者の妻は中山美穂さん。 辻仁成 - Wikipedia http://bit.ly/BC309 区切り毎に色分けしてあります。入り組んでいるので別まとめにもしています。 『つぶやく人々』110まで(赤) http://togetter.com/li/8454 続きを読む
4
前へ 1 2 ・・ 10 次へ
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第24回:気がつくと、俺たちはつぶやいていなかった。夫婦は顔を真っ赤にして日本文学がなぜ駄目になったのかを議論しあっている。俺は、つぶやきエネルギーを補給する必要があった。一人になって膝小僧を抱え、どことは言えない場所にむかってつぶやかないと。つづく

2010-03-06 23:42:35
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第25回:俺は激怒する妻を遮り、トイレに逃げ込み、つぶやきエネルギーを補給すべく便座にしゃがんでつぶやいた。「文壇にも芸能界にも干されたロンリーウルフなんだからさ、ほっといてくれよ」ところがこれはつぶやきじゃない、しまった、ぼやきであった。つづく

2010-03-06 23:55:02
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第26回:ぼやくと俺はマイナスエネルギーが増える体質。思わず焦ってぼやいてしまった。いかんいかん、と頭を振って、深呼吸。心を無にしてつぶやくんだ。いいかい、禅の境地だよ。鈴木大拙を思いだすんだ。ZAMZAの「SATORI」を口づさめ! つづく

2010-03-07 00:00:20
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第27回:ところがつぶやこうとしても今度はつぶやき方が分からない。妻がトイレのドアをノックする。「斎藤さんから電話!」俺は「うんち!」と大きな声で戻す。大声を張り上げ過ぎたせいか。嗚呼、つぶやくことができない。やばい、誰か助けて、フォローミー!つづく

2010-03-07 00:58:53
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第28回:「ねえ、どうして暴露小説にしたの?」妻がドアの向こうで聞いてくる。「暴露じゃない。実際にはもう少しエレガントな関係だろ、俺たち」妻が笑った。愚息が横で、腹減った、と騒いでいる。「三千人もフォローしているんだからいっそ宣伝に使えば?」つづく

2010-03-07 01:10:19
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第29回:「宣伝ばかりじゃ駄目だ。ツイッターの正しい利用方法じゃない。ツイッターはつぶやくための解放区。宣伝は時々。俺はむしろ小説を読んでもらって、自分を売りたい。だから、フォローミー!俺を買ってくれ!」しまった、つい叫んじまったじゃねえか。つづく

2010-03-07 01:23:40
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第30回:俺は黙った。時々、妻がノックする。でも、もう応答はしない。虚しさがこみ上げる。便座に座って虚空を見つめ、思わず「ああ、なんかお腹がすいたにゅ」とつぶやいてしまった。おっと、つぶやきエネルギーの復活だ。無になったのがよかったに違いない。つづく

2010-03-07 01:30:09
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第31回:つぶやきの最後に「にゅ」を付けると全てがつぶやきに変わるこを俺は発明した。「なんだかうれしいにゅ。気分がいいにゅ。ああ、世界が広がるにゅ」どんどんつぶやきエネルギーが溜まっていく。すばらしいにゅ。俺はこれで自由になることができるにゅ。つづく

2010-03-07 01:35:26
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第32回:俺はついに開眼した。トイレのドアを開けて外に出る。愚息が、うんち漏れるじゃん、と叫びながら駆け込む。廊下で妻と対峙した。怖い目で俺を睨んでいるが、怯えてもいる。「あんた、なんであんな阿呆な小説書くの?」と妻は声を振り絞って抗議した。つづく

2010-03-07 02:00:05
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第33回:永遠級つぶやきエネルギーを手に入れた俺は妻を静かに見下ろした。怯える妻は後ずさりする。「あんた、大丈夫なの!頭手術してから変よ!」妻が不安を露わに声を張り上げた。俺は微笑み「叫んではいけないにゅ、穏やかにつぶやくにゅ」と諭すのだった。つづく

2010-03-07 02:09:39
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第34回:俺は意識下に熱き心情を隠し、虚空を掴もうと試みる。無用の言説を弄することなく、無意識と有意識の合間をすり抜ける実態無き声明。泉のように、或いは春のセーヌの増水のごとく、持ち上げられたこれらのうねりの頂点で静止する言葉こそ、つぶやき。つづく

2010-03-07 05:11:11
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第35回:つまりつぶやきとは昂った後の引き潮の寄せては返す波の揺らぎの中を行きつ戻りつ掴めそうで決して掴めない宇宙の果てから太古から燻ぶり揺さぶられ煮え切らず塞がれた感情のぶつぶつと出そうで出ない小さくもささやかな消えそうで消えないひとりごと。つづく

2010-03-07 05:20:16
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第36回:嘆くなかれ、ぼやくなかれ、孤独につぶやき、虚無と和解する時、汝は世界の楔となり、汝は宇宙の杭となる。つづく

2010-03-07 05:26:43
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第37回:「あんた」背後で妻が喚いた。俺の真のつぶやきに怯えているようだった。「喚いちゃだめにゅ、つぶやくにゅ」俺は言った。「ねえ、それ以上変になってどうするの?お願い、正気に戻って!」妻の悲嘆する声が響く。「叫んじゃ駄目にゅ。つぶやくにゅ」つづく

2010-03-07 05:39:49
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第38回:「人間は孤独にゅ。孤独は嘘をつかないにゅ。つぶやきは正直にゅ。つぶやく人こそ人間にゅ。苦しみも、儚さも人は生まれながらに背負ってるにゅ。悲しいのは人間生まれつきにゅ。お前もつぶやいてみるといいにゅ。きっと救われるにゅ。   にゅ? 」つづく

2010-03-07 09:06:21
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第39回:「お前は一度真剣にツイッターを覗いてみるといいにゅ。人々のつぶやきが、日々の泡のように、次々生まれては消えていくにゅ。その刹那の中にこそ真実があるにゅ。ツイッターがすごいんじゃないにゅ。その世界で日常をつぶやく我ら人間がすごいにゅ」つづく

2010-03-07 09:22:59
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第40回:「あなたは間違えているにゅ」妻がいきなりにゅ尻言葉を使いだした。俺は一瞬たじろいだ。振り返ると妻が酔拳のポーズをとっている。そうきたかにゅ、と俺は戻して、蛇拳のポーズをとった。「にゅにはにゅにゅ」と妻がつぶやいた。やば、負けそうにゅ。つづく

2010-03-07 09:28:31
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第41回:酔拳の恰好をとる妻がにゅ尻言葉で攻めてきた。さすがに女優だけのことはある。「にゅ」が様になっている。下手に挑めば帰り血を浴びてしまう。「待つにゅ」俺は蛇拳のポーズを解除した。「この際、世界のために力を合わせるにゅ」「それはなぜにゅ?」つづく

2010-03-07 09:37:56
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第42回:「実は俺には野望があるにゅ」妻も酔拳のポーズを解除した。「それは何にゅ?」「にゅ尻言葉を日本のお茶の間に。そして、今年の流行語大賞をとることにゅ」妻が笑った。「小さいにゅ」俺は、待つにゅ、と遮ってから、つぶやいた。「その先があるにゅ」つづく

2010-03-07 09:45:23
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第43回:「日本人はまじめ過ぎるにゅ。だから若者から老人まで自殺者が毎年何万人も出るにゅ。でも悲しいにゅ。せっかくこの星で同じ時代に生まれたにゅ。先立たれると苦しいにゅ。若者の練炭自殺は胸が裂けそうになるにゅ。そこで、にゅ尻言葉を広めるのにゅ」つづく

2010-03-07 19:58:27
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第44回:「にゅ尻言葉は、自殺を思いとどまらせるパワーがあるにゅ。死にたい人間は必ずつぶやくにゅ。自殺志願者が、にゅ尻言葉でつぶやけば、キモ可愛い言葉の響きが彼らを現実の苦悩から遠ざけ、目覚めさせ、死を馬鹿馬鹿しいものへと変質させるにゅ~」つづく

2010-03-07 20:06:52
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第45回:「お前は女優、俺は作家にゅ、二人で力を合わせれば、日本中にこのキモ可愛い言葉を広められるにゅ。キモいのに笑えるというのは得点高いにゅ。馬鹿夫婦を装って広めるにゅ。人々のためにゅ。人助けにゅ。死ななくていい命を守るにゅ。祖国のためにゅ」つづく

2010-03-07 20:11:56
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第46回:なるほどにゅ、と妻は頷いた。俺は久しぶり、妻と心が通じ合えたような気分を覚えていた。しかし、次の瞬間、妻は酔拳の秘儀、酔パンチを繰り出してきた。「にゅにはにゅにゅ!」と叫びながら。俺は慌てて身を翻し、蛇の構えをとって応戦した。つづく

2010-03-07 20:22:15
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第47回:「にゅにはにゅにゅ」とは「にゅ尻言葉にはにゅで応ぜよ」という古い中国の教えであった。妻が繰り出す酔パンチを交わしながら、俺は結婚当初の波乱万丈を思い出していた。あの頃は真剣に喧嘩をした。結婚から十年、俺たちはその真剣さを失っていた。つづく

2010-03-07 20:27:09
辻仁成 @TsujiHitonari

ツイッター小説「つぶやく人々」第48回:「あんた、まだ衰えてはないにゅ~」妻が酔拳のポーズを解いた。そして「わかったにゅ」と告げた。「にゅ尻言葉を広めるの手伝うにゅ。喧しい世界にささやかな微笑みを届けるにゅ」「うれしいにゅ、じゃあ、俺は小説に戻るにゅ、おお!すごいにゅ~!」つづく

2010-03-07 20:36:25
前へ 1 2 ・・ 10 次へ