バッハ自筆譜によるマタイ受難曲の解説(BCJ 鈴木雅明 音楽監督)

BCJの鈴木雅明 音楽監督が、マタイ受難曲をバッハの自筆譜とともに解説する。
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ25] 15曲と17曲には有名なコラール「血潮滴る主の御頭」第5と第6節が、ホ長調と変ホ長調で立続けに現れる。15曲で主の慈しみを願い、16曲ペテロの強がり信仰告白に私達会衆も同調して、17曲で「あなたから決して離れません!」と激白。私達の決意が如何に脆いかも知らずに。 #BCJマタイ pic.twitter.com/nv9IBIxT1N

2019-03-24 00:13:37
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ26] 続いて第18、21,24,26曲がゲッセマネの祈り。イエスは迫り来ることの重大さを思い「できるならこの杯を去らせたまえ。しかし私ではなく、神の意のままに」と祈る。弟子達が寝てしまうのは、まるで私達の姿。イエスの苦しみと苛立ちは、イエスの最も人間的な姿と言っていい。#BCJマタイ pic.twitter.com/fSvoF1ayKT

2019-03-24 00:41:17
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ27] ゲッセマネの祈りの間に、第1テノールと第2バスのアリアが一つずつ挿入。第1テノールは第2群との交唱で第1曲同様の対話。19曲では痛みと恐れに震える低音の上にリコーダーとダカッチャという類い希な編成が現れ、もだえるテノールと息を潜めつつ歌うコラールの対比が見事。#BCJマタイ pic.twitter.com/LMoyGxsngi

2019-03-28 10:54:01
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ28] 20曲テノールは「私はイエスの側に留まる」決意、第2群は「罪が深く眠る」表象。目覚めと眠りの対比は、ただ1ヵ所で激しく交わり再び奈落の底へ。ちなみに19曲から20曲へのアタッカは、ダカッチャからオーボエへの素早い持替が必要。長年のチームワークが滑らかな連続を作る。#BCJマタイ pic.twitter.com/tLk9ERqiLT

2019-03-28 11:01:39
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ29] ところで19曲のリコーダーは、フルートではなくヴァイオリンのパート譜に書きこまれている。つまりヴァイオリンの人がリコーダーに持ち替えたのだ。下はヴァイオリンのパート譜2段目途中にFiauto(リコーダー)と書き込まれている所。とすると、ここも楽器持ち替えの時間がない! pic.twitter.com/2RLEDut4i5

2019-03-29 17:25:19
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ30] 22曲は第2バスのレチ。第22曲罪の堕落とイエスの跪く姿を重ねて、弦楽器が執拗な下降音型のみ。バスはその伴奏に乗って、減5度や減7度のアップダウンを繰り返し、上りと下りの交差をことさら強調。ひれ伏す(下降)引き上げる(上行)堕落(下降)神の恵み(上行)などなど。#BCJマタイ pic.twitter.com/yoQzZVNnJe

2019-03-29 17:45:54
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ31] 上行と下降はアナバシス、カタバシスと呼ばれ、この交差は十字架を象徴。23曲でバスがレ⇒シ⇒レという6度の上り下りでGerne喜んで、と歌う。とても喜べない音型だが「十字架と杯を受けよう」と続くので、これは辛く苦しい出来事を敢えて受け入れる決意の表れ。最もつらい曲。#BCJマタイ pic.twitter.com/xwAF92bjBP

2019-03-29 17:59:14
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ32] イエスはゲッセマネで涙を流しながら必死の祈りを続けるが、鈍い弟子達はつい眠りこけている。26曲ついにユダが祭司長や群衆を誘導して、イエスを捕らえに来る。無防備なイエスを捕らえるのに剣や棍棒を持ってやってきたところが、いかにも見当外れ。それにしても劇的なレチ。#BCJマタイ

2019-04-02 18:38:52
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ33] 特に最後にイエスが裏切り者ユダに向かって「わが友よ、なぜ来たのか?」と問うところは、Mein FreundのFreu-の部分に置かれた装飾音が不協和音を作り、如何にもイエスの悲しみを表して余りある。バッハのレチは、本当に深い。#BCJマタイ pic.twitter.com/gDj7kg8Y2E

2019-04-02 18:48:46
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ34] 最も恐ろしい27曲。前半は、低音のない弦楽器の冷たい刻みに乗ってSpとAltの青ざめた二重唱。捕らえられたイエスの痛ましさに月も太陽も沈む。第2群突然の叫び「放せ!縛るな!」後半は「稲妻よ、雷よ、地獄よ裏切り者を呑み下せ!」なりふり構わぬ劇的な曲。これがバッハとは!#BCJマタイ pic.twitter.com/dKQNuvFyMU

2019-04-02 19:31:44
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ35] ゲッセマネでの場面が続く。弟子が剣を抜いて大祭司の手下の耳を切り落とす!イエスは静かに言う「剣をしまいなさい。剣を取る者は剣で滅ぶ。すべては神の御旨が成就するためなのだ」その後、弟子は皆逃げ去った。情けない弟子達よ!しかし彼らは復活の後に呼び戻される。#BCJマタイ

2019-04-02 19:42:55
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ36] 第1部終曲。「おお人よ、汝の罪の大いなるを嘆け」の壮大なるコラールファンタジー。フルートとオーボエの16分音符が2つずつスラーされた溜息の音型を吹き続ける下で、Sopが装飾のないコラール旋律をホ長調で歌う。ヨハネ受難曲第2稿冒頭にも変ホ長調で用いられた。#BCJマタイ pic.twitter.com/dIIKfdIr5s

2019-04-03 08:14:20
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ37] 29曲の旋律は元来詩編36編のためにストラスブールのM.グライターが作曲。後にルター派賛美歌に取り入れられた珍しいケース。カルヴァンの詩編歌集(1539年)に初出。詩編の罪人の悪事と神の慈しみの対比がが旋律にも見事に反映。歌詞に応じたバッハの和声は驚きの連続。#BCJマタイ pic.twitter.com/k6dWY3dB0F

2019-04-03 08:45:26
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ38] イエスが捕縛されたところで説教が入る。受難曲が演奏された礼拝での説教は残っていないが、マタイが3回目に演奏された1736年3月30日聖金曜日に説教したのはG.ガウドリッツ牧師。この人とバッハは1728年頃賛美歌選曲の権利について論争。結局教会会議でバッハは敗北。#BCJマタイ

2019-04-08 14:20:00
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ39] 説教が終わると第2部。冒頭は再びシオンの娘の対話。今度はソロと第2群合唱。「私のイエスはどこに行ってしまったの?」Song of songsと言われる雅歌から引用した美しい詞をアルトが歌う。初稿ではバスのソロだったので、自筆譜にはバスを消してアルトに書き換えた後が残る。#BCJマタイ pic.twitter.com/Q1rVpxUraa

2019-04-08 14:26:30
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ40] 捕らえられたイエスは、まず大祭司の下で宗教裁判にかけられる。彼らは初めから「虚偽の証言」を探した、というのだから不正極まりない。一方ペテロは、他の弟子達が逃げ去ったのにひとり戻ってきて中庭に入っていた。32曲は、欺き、嘘、偽りからお守り下さい、と祈るコラール。 pic.twitter.com/21hqSMvi7Y

2019-04-12 11:10:48
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ41] ついに偽証人2人が出てきて「彼は神殿を壊して3日で建てると言いました」。イエスは3日後の復活のことを指していたので、これは偽証ではなく真実。しかし信じない者には偽証となった。「偽証人の言質もあわなかった」ので、カノンで歌う二人は、ズレたまま、一度も「合わない」#BCJマタイ pic.twitter.com/6BfuyPOwKT

2019-04-12 11:24:46
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ42] 不当な裁きでのイエスの態度は、沈黙・告白・忍耐という3要素で理解できる。34曲ではまず沈黙。ただ黙することによってイザヤ書53章7節「彼は口を開かなかった」という預言が成就する。バッハは沈黙を「休符」で表すので、第2オケのオーボエが、短い8分音符と休符ばかりを演奏。#BCJマタイ pic.twitter.com/yCnv8ZBrCn

2019-04-15 10:27:14
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ43] 続いて35曲同じ第2テノールがイエスの忍耐を歌う、通奏低音とソロのみのアリア「耐え忍べ」。第1曲合唱の対話に「見よー何を?ー忍耐を」とあり、忍耐が全曲のキーワードの一つであることがわかる。通奏低音の楽器は通常チェロとオルガンだが、1742年ではガンバとチェンバロに。#BCJマタイ pic.twitter.com/n6wVk9IzeI

2019-04-15 10:32:39
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ44] 36曲大祭司が問う「おまえは神の子なのか?」イエスが沈黙を破って告白「その通り。やがて私が雲に乗ってやってくるのを見るだろう」これは最後の審判の日のこと。雲を表すa-h-c-a, f#-g-a-f#という音型がいかにも絵画的だが、大祭司は怒って衣を引き裂いて叫ぶ「神の冒涜だ!」#BCJマタイ pic.twitter.com/MOoT1veBfb

2019-04-16 00:45:38
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ45] 連続ツイートはまだ終わらないのに、録音は無事に終了。明日はいよいよ聖金曜日。オペラシティでの本番となってしまった。何とかツイートも追いかけます。#BCJマタイ

2019-04-18 23:47:05
Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ46] 36曲祭司と議会の幾人かがイエスを殴りながら「誰が打ったか、当ててみよ!」。すかさず第10曲「私です」と同じコラールが、今度はヘ長調で挿入され、事実上イエスを苦しめるのは「私です!罪もないのに。」と告白。再びあまりに見事なバッハのコラール選択に、唖然。#BCJマタイ pic.twitter.com/Jz4kNv17Gc

2019-04-19 00:01:56
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ47] 38曲大祭司の庭に忍び込んでいたペテロは、イエスのことを3度も「知らない」と否定。その途端鶏が啼いてイエスの言葉を思い出す「おまえは鶏が啼く前に3度否定するだろう」。続いて39曲、あまりに美しい慟哭のアリア「憐れみたまえ」。バス旋律には「血潮滴る」のコラールが・・ #BCJマタイ pic.twitter.com/NBuJNolpQJ

2019-04-19 00:17:26
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ48] 驚くべきことは、ペテロはバスなのに、39曲でペテロの悔い改めを歌うアリアはアルト。これもこの作品がオペラでないことの証拠。さらに40曲コラールが悔い改めと神との和解を歌って、ペテロとユダの違いを鮮明にする。#BCJマタイ pic.twitter.com/7UT4Xvm55g

2019-04-19 00:23:30
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Masaaki Suzuki @MSuzukiBCJ

[マタイ49] 今日は聖金曜日。ちょうどこのツイートでもここで一夜あけて、祭司長達がイエスを殺そうと相談しているところにユダが来て「私は罪を犯しました」と銀貨30枚を返そうとする。ユダは来るべき所を間違えたのだ。祭司長ではなくイエスに来て罪の告白をするべきであった。#BCJマタイ

2019-04-19 10:29:56