P-PingOZ 『まほうがとけるまで』①

アカウント開設1周年記念エピソードのまとめ 17:30~18:00まで 次:https://togetter.com/li/1340308
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少し昔、あるところに

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少し昔、第02特区に、グレイ社、という家事代行サービス会社がありました。ところがある日、創業者のグレイ氏が亡くなくなり会社が窮地に陥りました。

2019-04-20 16:47:42
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それを救ったのが、グレイ夫人。彼女は社名を「ヘイゼル」にあらため、亡くなった旦那さんの事業を引き継ぎ、拡大し、大きな自社ビルを建てるまでになりました。その手腕からグレイ夫人は「西の魔女」と呼ばれるようになりますが、これはお話の本筋ではないので、機会があればお話ししますね。

2019-04-20 16:49:24
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さて。そのヘイゼル社が普及させたのが、清掃人形の「サンドリヨン」。後ろが膨らんだスカートのような下半身に掃除機とモップが付いていて、腕のないシンプルな上半身がついてます。大きさは、だいたい大人の腰高ぐらい。顔部分にはモニタがあり、簡単な顔文字で感情表現のようなこともできます。

2019-04-20 16:52:42
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簡単な会話機能も搭載されていて、「30分後に掃除して」など掃除の日時を設定したり、人形の位置情報をもとに地域ごとのごみの日を答えてくれたりします。時間レンタル、月額レンタル、買い切りなど様々な形で導入でき、お値段もお手頃。第02特区で爆発的に普及しました。

2019-04-20 16:57:43
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現在では、公共施設、オフィスビル、病院、飲食店などで広く導入され、人を雇うほどではないけれど余裕のあるお家や、ガジェット好きな方のお家にもサンドリヨンは配備されています。

2019-04-20 17:03:12
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花のシーズンが終わり、街のフェイク植物が若い緑に植え変わる頃。第02特区で、後に市民から「3時間舞踏会」と呼ばれる事件がありました。ある時間を境に、サンドリヨンたちが一斉に言うことを聞かなくなってしまったんです。

2019-04-20 17:11:44
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その180分を過ごしたこれまでの主人公たちの実際の様子を「投稿時間を合わせて」お送りしていきます。

2019-04-20 17:20:25
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どういうことかと言うと、今日この後から数日にわたって、1~2エピソードずつ、時間に合わせて進行させる、という試みです。これは私たち制作側がタイムスタンプ機能を活用したいという言わばワガママなので、視聴者の皆さんは無理せずお付き合いくださいね

2019-04-20 17:23:57
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P-PingOZ 「まほうがとけるまで」 pic.twitter.com/JoxDUePIhc

2019-04-20 17:28:44
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17:30

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◆17:30/みそら地区/イエローライン/ナレーション:リエフ pic.twitter.com/xcKaomuPUw

2019-04-20 17:30:00
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「やだ、もう……」急ぎ足で病院へ戻りながら、こず枝・ミコヤナさん(23歳/女性/看護婦)は腕時計を見ます。こず枝さん、職場の更衣室にマンションの鍵を忘れてしまい、慌ててバスを降りたところ。忙しかったせいか、うっかりしてしまったようです。1

2019-04-20 17:32:00
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日の暮れかけたイエローラインの歩道を行くこず枝さん。その背後からクラクションが鳴りました。思わず音の方を見るこず枝さんを追い抜いて、空色のタクシーが停まります。助手席の窓から、見覚えのある顔。「さっきはどうも。病院なら乗りますか?」2

2019-04-20 17:34:00
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こず枝さんが受け持つ患者さんのご家族です。「お代いいっすよ。俺も戻るとこなんで」「それじゃあ、お願いします」後部座席のドアが開き、こず枝さんを乗せた車は病院へ戻る道を走り始めます。「あなたも、忘れ物とかですか?」こず枝さんが尋ねます。「え? いやあ、俺は。兄貴に謝ろうと思って」3

2019-04-20 17:36:00
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この人はサンジュさん。こず枝さんが受け持つシアンさんという患者さんの弟さんです。今日はシアンさんの付き添いで、今後の方針についての相談をしていらっしゃいました。「あの後、俺へそ曲げちゃって。空気悪いまま帰っちゃったから」4

2019-04-20 17:38:00
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胃の腫瘍で入院しているシアンさん、クローン臓器の順番待ちを辞退され、終末期の緩和ケアに移行すると決めました。それが、弟さんには納得がいかなかったのでしょう。「……兄貴、どうして諦めちゃったんでしょうね」こず枝さん、口元に手を当てて思案顔です。5

2019-04-20 17:38:01
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「諦めた、というか」こず枝さんは、シアンさんが病状を、ずっと冷静に捉えていたことを知っています。今朝、車に乗りたいと零していたシアンさん。それは、このまま入院を続けても叶うことはありません。「もっと、前向きなんだと思います」「いやいや」サンジュさん、棘のある笑い声をあげました。6

2019-04-20 17:40:00
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「兄貴は納得してて、そちらはそれで進めれば良いですよ。俺の気持ち置いてきぼりじゃねーすか」こず枝さんは、この二人がお互いを大事にしていることを知っています。兄弟と言い合う彼らが、実は血縁にないことも。7

2019-04-20 17:42:00
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「それは……」「兄貴、めちゃくちゃ格好良い人なんですよ。憧れてるんです。そういう人に負けて欲しくねえなって、俺のワガママすかね」「ワガママなんかじゃ!」こず枝さん、思わず大きな声を上げてしまいました。8

2019-04-20 17:44:00
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「ワガママじゃないです。シアンさんに会ったら、まずそれを伝えてあげてください。きっとお話し聞いてくれますから」ミラー越しの視線を感じながら、こず枝さんはたどたどしい言葉を紡いで行きます。「そのあと、シアンさんのお話を聞いてみてください」9

2019-04-20 17:46:00
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フロントガラスの向こう、病棟の屋根が見えてきました。「シアンさんは、病気との付き合い方を変える、という選択をしたんだと……私は、思います。ケアの仕方によっては、ご自宅に戻ることができますから」「……そっか」サンジュさんが、片手で首の後ろを掻きました。10

2019-04-20 17:48:00
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「ちゃんと話し合う、って感じじゃなかったからなぁ。さっき」車内の雰囲気が和らいだように見えます。「兄貴と腹開いて話してみます。ありがとう」こず枝さん、座席で恐縮したように縮こまりました。「着いたらどこ降ろしましょう?」「ああ、ええと、ロータリーで停まって貰えると助かります」11

2019-04-20 17:50:00
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「かしこまりました」空色の車は、日暮れの並木を抜けて、病院のロータリーへ向かっていきました。12

2019-04-20 17:52:00
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舞踏会が始まるまで、もう少しです。13

2019-04-20 17:54:00