明治からくれなゐ

よつげ @Eight_os

廿五 「…お前ももう十六か」 「はっ、はい…！」 まさか、見合い… 「此処に住込んでもう四年になるのか」 「はいぃ…！」 見合いだ！！ そんな、まさかこんなに早く… 「ほんなら、そろそろ新しい仕事を増やしてもええ頃合…か」 「はい！…え？」 新しい仕事？ #エイトで妄想

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廿六 私と旦那様はそのまま二階へ上がり 旦那様の仕事部屋の前で立ち止まりました。 「此処や」 「え、でも此処は女中は入ったら…」 そう 女中は誰一人入ることが許されていない旦那様のお部屋である。 旦那様は頭を掻くと 「…唯一の住込みの、四年も働いたお前やから任せる」 #エイトで妄想

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廿七 そうお言葉を添えました。 そして私より先に戸を開けて中に入りました。 「…入り」 「し、失礼致します！」 そっと中へ足を踏み入れると 其所には様々な物が置いて有りました。 窓際には何故か、高そうな骨董品の壺と赤漆の簪、さらに横笛と鈴が並べて置いてありました。 #エイトで妄想

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廿八 壁には様々な暦の表が貼ってあり 文机には帳簿と筆と墨と算盤、そして文机の隅に避けられた難しそうな書物。 何なら床は一面書物の海で、何処に足を付いたら良いかも判りません。 他にも浮世絵やら安い洋画やら西洋の骨董やらが有りましたが、此処では割愛致しましょう。 #エイトで妄想

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廿九 「…凄いですね」 「頼みたいのは此の部屋の掃除や」 「え、此処をですか！？」 此の物の量だ。 時間がどれ程かかることだろう。 「二週間に一遍でええ 書物も何処かに仕舞うとかや無しに、纏めて隅にでも置いといてくれたらええんや …仕事のせいで時間が無くてな」 #エイトで妄想

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参拾 言い忘れておりました。 旦那様は、万事屋を営んでおります。 単純に申すならば、「何でも屋」と言った所でしょうか。 依頼主と依頼内容は多岐に渡り 遊女から田舎に逃げさせてくれと頼まれることも有れば 狸から怪我を治してくれと言われることも有るそうです。 #エイトで妄想

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参拾壱 但し此れは全て旦那様から伺った話 何処までが真実で、何処までが虚言なのか、私には見当も付きません。 「まあそういう訳で、よろしおますか？」 「分かりました」 深く頭を下げれば、珍しく旦那様が優しい笑みを浮かべて「…頼むで」と私の頭を撫でて下さいました。 #エイトで妄想

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参拾弐 私はまた頬を染めて俯きます。 と、その時。 ｶﾀｶﾀｶﾀ… と物が動く音が致しました。 「…地震でしょうか？」 「…いや」 呟くと、旦那様は窓際の棚へと視線を移します。 私も同じ様に其方を見て 甚だ戦慄致しました。 #エイトで妄想

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参拾参 棚に並べて置かれていた あの壺や簪、笛と鈴が 風も無く地面も揺れて居ないにも関わらず 独りでに動いて居たのですから。 #エイトで妄想

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参拾四 私は思わず腰が引けてわなわなと唇を震わせて惟だ其れを見つめていました。 何が起こっている？ 誰がこんな事をしている？ 旦那様は？ ちら、と旦那様を見上げるもまるで慣れて居るとでも言う様に涼しい顔をなさっていて あの九つの頃の記憶が蘇りそうになりました。 #エイトで妄想

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参拾五 しかし其の矢先、 ｶﾞﾀﾝｯ 大きな音を立てて其等の骨董は高く高く天井に舞い上がったのです。 「ひやぁぁぁ！？」 此には叫び声を禁じ得ませんでした。 しかも尻餅まで付いてしまい、隣の旦那様が呆れた様に溜息を吐きます。 「そないに怖がったら飽きませんよ」 #エイトで妄想

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参拾六 「だ、だってえぇぇ」 「こんくらいやったら、西洋のお話でもよお出てきます ぽるたぁがいすとってやつやな」 旦那様は一歩前へ進み出ると、パンパンと手を叩いた。 「もう、お前ら、うちの女中が怖がっとるやんか 久々の客人で嬉しいのは分かるけど、今は落ち着いて」 #エイトで妄想

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参拾七 すると、最初に鈴が棚に戻った。 そして続く様に簪と壺、最後随分渋る様に部屋をぐるっと廻った後に笛が棚に戻る。 呆気に取られて私は見守っておりました。 「あ、あの…此れは良く有ることなのですか？」 「せやなぁ 古都京都やし、不思議な話は昔から有るからなぁ」 #エイトで妄想

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参拾八 成程、私が知らなかっただけで、此の街には此の様な不思議な事が頻繁に起きるらしい。 そう思うと、少しの好奇心が湧く。 「…あの骨董品って、何なんですか？」 「キズモノ扱いで売られてた物です でも、見た感じ傷の一つもあらへんやろ？」 確かに。 #エイトで妄想

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参拾九 鈴はともかく(鈴に失礼だが)、骨董はどれも美しく輝くものばかり。 鈴も豪華絢爛とまではいかないものの傷は見当たらない。 「ほんまは、物に取り憑いてる妖が怖くて、みんな買わへんのです そーゆうもんを『回収』するんも僕の仕事なんですよ」 #エイトで妄想

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四拾 「妖…って、怖いですか？」 「や、少なくとも此処に取り憑いてる奴らは怖がる様な類の奴らと違いますよ ちっちゃい神様みたいなもん」 「神様？」 「そ、物を護る守り神」 神様… でも旦那様、先刻柏手一つで神様を動かしていた。 「…私にも操れたり、するのでしょうか？」 #エイトで妄想

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四拾壱 此れは完全に興味である。 旦那様は一瞬酷く呆れたような表情をなさった後 「…………まあ、無駄やと思うけど やってみたらどうです」 そう言って、私を棚の真正面に立たせた。 私は一つ大きく息を吸い込み 先程旦那様がやっていたようにパンパンと手を打った。 #エイトで妄想

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四拾弐 しかし返事は帰って来ない。 「あ、あれぇ…？」 旦那様、簡単そうにやってらしたのに… もう一度やってみる。 やはり静寂が返ってくる。 「な、だから言うたやろ、無駄やt」 「もう一回！ もう一回だけ！やらせてください！」 いつの間にか必死になっていた私は #エイトで妄想

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四拾参 心底嫌そうな顔をした旦那様を後目に、念じる様に目を閉じます。 「お願い…答えてください！」 ﾊﾟﾝﾊﾟﾝ 暫く沈黙が有った、その後 ﾁﾘﾝ 鈴が独りでに鳴った。 驚いて、嬉しくて、勢いよく旦那様を振り返ると、旦那様も大層驚いた顔をなさっていました。 #エイトで妄想

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四拾四 「鳴りました！」 「やな…」 「動きました！！」 「へぇ…珍しいな 大抵の人はこれ出来ひんのに」 旦那様は返事もそこそこに考え出します。 「此れってずっと練習してたらもっと動かせるようになりますか？」 「…」 「旦那様？」 #エイトで妄想

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四拾五 ややあって旦那様はふと思いついた様に顔を上げると 私の顔を見ました。 「そうか…お前は野良の化け猫に煮干あげようとして襲われずに済む部類の女やったな」 「…へ？」 何でもない、と旦那様は誤魔化します。 「そんなに動かせるようになりたいのか？」 「はい！」 #エイトで妄想

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四拾六 旦那様は苦笑すると 「分かりました、ほんなら此れからは好きな時にこの部屋にいらしてください ほんで練習すればええ」 「ありがとうございます！！」 実は少し念願であった、旦那様のお部屋を出入りする権利。 漸く得られた。 「因みに」 旦那様が更なる有力情報を。 #エイトで妄想

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四拾七 「其奴等を扱える様になったら…同時に、其奴等の声も聞けるようになるはずです」 声！？ そんなことも出来るのか。 「頑張ります！」 「はいはい笑」 旦那様はまた呆れた笑みを浮かべて居るだけにございました。 #エイトで妄想 pic.twitter.com/WgFgnpeJV3

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四拾八 あれから二ヶ月。 妖たちと仲良くなろうとしてはいるものの、 旦那様のお仕事中に頻繁にお部屋にお邪魔すると「邪魔や」と冷たく追い払われることの多々有り 私は旦那様がお仕事で留守中の隙を狙って練習していた。 ｶﾞﾗｯ 「ひゃっ」 「…お前」 #エイトで妄想

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四拾九 「あ、す、すみませんお留守の時に…」 しまった。 今迄見つかって無かったのに。 すると 『もー、只今くらい言えていつも言うてるやんかぁ』 「ですよね！安田さんもそう思いますよね！？」 『いっつもこうやねん丸は』 鈴の中の妖━━━━━━安田が答えてくれる。 #エイトで妄想