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2019年4月21日

明治からくれなゐ

丸山さんのお話です 明治大正設定、人外設定あり
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よつげ @Eight_os

壱 あれはまだ、私が九つの頃のことでございます。 「ほら、食べな」 育ての親と共に山奥に暮らしていた私は、或る日野良猫を見つけて 私の家から煮干を持ってきて其の猫にあげようとしたのでございます。 しかし一刹那 「アホか」 後ろから男の人の声がしたもんですから #エイトで妄想

2019-04-21 23:12:08
よつげ @Eight_os

弐 私は驚いて振り返り立ち上がったのでございます。 其処に立っていたのは、旅人のような装いの背の高い男性。 笠を被っていたせいで顔はよく見えませんでした。 其の人は凛とした声で云いました。 「今すぐ其奴から離れるんや」 私は意味が分かりませんでした。 #エイトで妄想

2019-04-21 23:12:09
よつげ @Eight_os

参 何故今日初めて会った他人の命に従わねばならないのか。 野良猫の世話をしていただけだ。 確かに黒目の部分が血塗られたように赤かったり、やたらと図体が大きく爪も舌も長い。 でも鳴き声も仕草も間違いなく猫だ。 のに 「聞こえんかったか?其奴は危険や 離れた方がええ」 #エイトで妄想

2019-04-21 23:12:09
よつげ @Eight_os

四 「…何もされてないもん」 そう言って口を尖らせたのは、たった九つ、しかもまともな教育も受けていない女子のささやかな反抗である。 「…ったく」 其の人は私を押し退け、さらには煮干しさえも奪い取ると、其の野良猫の前に立った。 此の人も此の仔と遊びたかったのだろうか #エイトで妄想

2019-04-21 23:12:10
よつげ @Eight_os

五 彼は野良に向けて誘う様に煮干を振りました。 すると フゥーーッッ 先刻まで大人しかった野良は忽ち毛を逆立て赤眼を更に赤黒くし睨みを利かせ、 其の人に飛びかかったのでございます。 「危ない!」 私が叫んだのと、彼が野良の前にばっと掌を翳したのがほぼ同時。 #エイトで妄想

2019-04-21 23:12:10
よつげ @Eight_os

六 彼は暫くそうしていました。 野良は動きを止めずっと唸っておりましたが、 やがて落ち着いたようにゆっくりと彼に近寄り 普通の猫のように脚に擦り寄りました。 猫を手懐けた男性は猫の顎を触りながら煮干を与えています。 笠から覗く口許には穏やかな笑みが浮かび #エイトで妄想

2019-04-21 23:12:11
よつげ @Eight_os

七 その顎に黒子が有るのが見えました。 「化け猫や、普通の山里にも偶にこうして居はる もし次目の色のちゃう猫に会うたら、無闇に近づいたあかんで」 確かに。 此の人が間に入らず私が煮干をあげていたら、あの流れで噛まれていことだろう。 「…ありがとう、ございます」 #エイトで妄想

2019-04-21 23:12:11
よつげ @Eight_os

八 当時はまだ慣れない丁寧語で言うと「…別に」と目線を逸らしました(とはいえ、笠で目元は見えて居ないのですが) 然して其の人は 「…じゃ」と短く言うと笠を目深に被り直し、颯爽と去って行ったのでございました。 思えば不思議なことです。 あのような危険な化け猫を #エイトで妄想

2019-04-21 23:12:12
よつげ @Eight_os

九 あの人は武器一つ使わず、素手一本、尚且つ化け猫に触れることなく害のないものにした。 今の私と同じ年頃の女子なら、何故だと深く考えることでしょうが、生憎その頃の私は九つ。 そのような不思議な出来事もすんなりと解し、月日と共に忘れて行ったのでございます。 #エイトで妄想

2019-04-21 23:12:13
よつげ @Eight_os

拾 そして、十二になった頃 私は、奉公に行くことと相成りました。 珍しいことですが、奉公先の主人がわざわざ家まで俥でお越しになったことを覚えています 「丸山さん…どうかこの子をよろしくお願いします」 「お任せ下さい」 頼み込む私の両親と話をした後 #エイトで妄想

2019-04-21 23:12:14
よつげ @Eight_os

拾壱 「…行くで」 その凛とした声に、有無を言わせぬ迫力の様なものを感じ、私は返事も忘れてその大きな背中を追いました。 然して私は俥に乗り込み 大きな不安と小さな期待を胸に、奉公先へと向かうのでありました。 唐紅の、紅葉舞う京都へ━━━━━ #エイトで妄想 pic.twitter.com/OnRZwU2C4I

2019-04-21 23:12:19
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よつげ @Eight_os

拾弐 「…だいぶ上達してきましたね」 主人が口許に笑みを浮かべました。 奉公先の主人…否、此処からは旦那様とお呼び致しましょう。 旦那様の元へ来てから、早四年が経とうとしていました。 以前は心細さも有ったものの、何時の間にやら忘れていった様に思います。 #エイトで妄想

2019-04-22 23:16:40
よつげ @Eight_os

拾参 旦那様の口許の黒子も今は随分と見慣れたことです。 しかし旦那様が私を褒めるなどということは滅多にございません。 「ありがとうござ」 「せやけどまだ少ぉし味が濃い」 此の通り。 旦那様は常日頃より家事と礼儀作法には殊に五月蝿い人でした。 #エイトで妄想

2019-04-22 23:16:40
よつげ @Eight_os

拾四 「こない濃くなくてええていっつも言うてはりますやろ? そろそろ覚えてもらわな困るわぁ」 「すっ、すみません! 直ぐに作り直して」 「結構 残す方が勿体ないわ これもいっつも言うてるやろ」 そう言うと旦那様は一気に味噌汁を飲み干す。 #エイトで妄想

2019-04-22 23:16:41
よつげ @Eight_os

拾五 私はと言えば、恥ずかしさと申し訳なさと少しの憧憬に、頬を染めて俯く次第。 とは言え四年も勤めた身ですから、旦那様の此の程度の物言いには慣れて居ります。 それにまた或る一方で旦那様は教育熱心な人でもあります。 毎日のように家に人を呼んでは #エイトで妄想

2019-04-22 23:16:41
よつげ @Eight_os

拾六 読み書き算盤や縫い物、武術などを私に教えさせるのでございます。 私はなにぶん物覚えが悪く、叱られては肩を落とすこと数々。 其れだけならまだしも、私がまだ入ったことの無い二階の旦那様の部屋の窓から 「其の程度ならいつでも辞めてええで」と旦那様に言われる始末。 #エイトで妄想

2019-04-22 23:16:42
よつげ @Eight_os

拾七 穴が有ったら入りたいとはまさにこのことでございます。 それでも私がそうした手習いの先生に申し付けられた宿題に頭を悩ませていると、傍に寄ってきては教えてくれたり手伝ってくれたりしてくれるのでした。 其の時の口調に、日頃の様な毒は有りません。 #エイトで妄想

2019-04-22 23:16:42
よつげ @Eight_os

拾八 褒めることなく、笑うこともなく。それでも私が終にやり方を習得するまで根気強く教えてくれるのです。 又、どうやら此の家の女中で私だけが住込みの様なのでした。 他の女中さんは皆近い所からの通いで、尚且つ時間が決められていて其の時間が来るとお帰りになるのでした。 #エイトで妄想

2019-04-22 23:16:43
よつげ @Eight_os

拾九 嫌だと思うべき所なのでしょうが 私が其れに気づいたのは、私が「どうやら旦那様は悪い御方では無さそうだ」と気づき始めた頃にございましたから 寧ろ旦那様が私なぞを常日頃お傍に置いてくださることにこれ以上ない喜びを感じたのでございます。 #エイトで妄想

2019-04-22 23:16:44
よつげ @Eight_os

廿 その様な訳でございますから。 旦那様は、普通の女子なら、唯嫌うのみと見られる気難しい御方ではございますが その様なことは最早私が気に留める程のことではなく 嘗ては早く逃げたいと常に思っていた旦那様のことも 今は唯 お慕いしているばかりにございます。 #エイトで妄想 pic.twitter.com/a9uIPEfXXl

2019-04-22 23:16:49
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よつげ @Eight_os

廿壱 「なぁなぁ聞いて!」 数えで一つ歳上の女中仲間、花さんが帰り支度をしながら私に話し掛けて来る。 「うちな、今度お見合いすんねん!」 「お見合い…ですか」 「旦那様が紹介してくれはったんやけど、結構ええお家柄の人みたいでなぁ?」 旦那様が紹介してくれた #エイトで妄想

2019-04-23 22:41:14
よつげ @Eight_os

廿弐 其の言葉は私の言葉を搔き暗す。 此の家の女中で居るからには…何時か、其の様にして此処を出ていかねばならない、そういうことなのだろうか。 「あんたは?見合いの話ないん?」 花さんが聞いてくるけど 「…私は、まだ笑」 私は曖昧に濁すばかりでした。 #エイトで妄想

2019-04-23 22:41:15
よつげ @Eight_os

廿参 本当は 口を開けば 本音が出てきそうでございました。 …私は、まだ、旦那様のお傍に居たいと。 「おい」 背後から旦那様のお声がして振り返ります。 「何を無駄話してはんねん お花も。お前の今日の仕事は終わりや。 油売ってへんとはよ帰り」 「は、はい」 #エイトで妄想

2019-04-23 22:41:15
よつげ @Eight_os

廿四 お花さんは先に帰って 私と旦那様が二人で部屋に残ることと相成りました。 「…えと、此の後は手習いの先生がお越しになるんですよね?」 「や、今日は来いひん 身体のお具合がようないらしいわ」 「あ、そ、そうなのですね」 えーーと…では何故旦那様は此処に… #エイトで妄想

2019-04-23 22:41:16
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