明治からくれなゐ

よつげ @Eight_os

五百廿五 旦那様は言わずとも察しているのか、偶に心配そうな目で此方を見てきます。 私は其の度に笑い返します。 …仕事を手伝っている心労なのかも知れません。 しかし此の時間さえも幸せで、手放したくないものなのです。 #エイトで妄想

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五百廿六 数え二十歳になった最初の日。 …まあ、つまりは元日ですが。 「おはようございます！ 旦那様、あけましておめでとうございます」 「おめでとうございます …お年玉は要りますか？笑」 「子供扱いしないでください！」 はははと笑う旦那様。 私は口を尖らせます。 #エイトで妄想

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五百廿七 子供っぽいのは嫌なのに…。 「そういうところが可愛ええんよ」 旦那様はそう言って微笑みました。 「…お身体は差し障りはないですか？」 「大丈夫、ですけど…」 「そうですか …ほんなら今日 楽しみにしとりますわ」 其の笑みは悪戯っぽいものに変わりました。 #エイトで妄想

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五百廿八 …た、楽しみに…って… もしかして、あの時の続き…？ 「ひぇ…」 私、ついに旦那様と…？ その日は初詣に行ったり家で親戚に挨拶したりしており、仕事はありませんでした。 なくて良かった。 あったら絶対集中出来ない。 #エイトで妄想

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五百廿九 幸運なのは不思議と今日は体調が良かった点です。 夜になっても気分はいつになく爽快でした。 …とはいえ、緊張で相殺されてはおりますが。 ｶﾞﾗｯ 旦那様が部屋に入ってきました。 口を真一文字に結ぶ私。 口元に浮かんだ笑みさえも妖艶です。 #エイトで妄想

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五百参拾 「…そんな緊張せんといてよ笑」 「や、ち、ちが…」 旦那様がかっこいいから。← お風呂から上がって、少し書き物をして、此処へ来た旦那様。 少しはだけた胸元と濡れた髪は未だに慣れません。 「…心の準備あかんのやったら 直ぐにはしませんよ？」 「へ…？」 #エイトで妄想

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五百参拾壱 旦那様は私の真正面に座ると、そっと私の手を取った。 「そら、据え膳我慢すんのはしんどいけど…もう慣れたし お前がちゃんと僕に預けたい…って、思ってくれてへんと意味ないから」 旦那様の目の前の笑みは優しくて 私はぎゅっと抱きつきました。 「ちょ、」 #エイトで妄想

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五百参拾弐 「大丈夫です…」 「でも」 「私も旦那様と、その…」 恥ずかしくて二の句が告げないで居ると 「…僕と？」 旦那様がそっと身体を離して小首を傾げました。意地悪。 恥ずかしいので旦那様の耳元に寄って小さな声で続きを言いました。 「…おりこうさん」 #エイトで妄想

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五百参拾参 優しく深く唇を重ねながら、ゆっくりと上体が後ろに沈んでいきます。 快い重みを感じながら、絡み合う舌に溺れて。 一瞬唇が離れて、此れまでになく近い距離で見つめ合います。 「…幸せです」 私が呟いた言葉に、旦那様は嬉しそうに笑って 「…ほんまに？」 #エイトで妄想

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五百参拾四 そう言います。 「幸せで、怖いくらいです」 「………せやなぁ 僕と居ると苦しいんやもんな」 一瞬訳が分からなかったものの 前に此の家を出た時に私が言った言葉だとすぐに気づきました。 「や、違いますあれは！」 「分かってる …僕も苦しい」 旦那様が目を眇めて #エイトで妄想

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五百参拾五 其の美しさに息を飲む私の手を取って 自らの胸に触れさせます。 確かに伝わる旦那様の鼓動。 「毎日苦しくて、でも幸せで。 …好きやから やから… もう何処にも行かせへんよ？」 旦那様の顔付きが変わった。 深く口付けながら、そっと私の着物に手を掛ける。 #エイトで妄想

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五百参拾六 其の手は私の肌を這い 幸福と悦びで喉が震えること度々。 旦那様の額から落ちた汗が一粒頬に流れる。 旦那様を身体で、熱で感じる。 掠れた声で名前を呼ばれる。 息も、思考も追いつかぬ程 私は、私達は幸せの中に居て このまま溶けてしまえると本気で思った。 #エイトで妄想 pic.twitter.com/ZvWQ0kqZ42

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五百参拾七 pic.twitter.com/n1ImRijxJf

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五百参拾八 薄らと目を開けると、書き物をしている旦那様の背中が其所に有った。 「…旦那様」 細い声で呼ぶと旦那様は驚いた様に此方を見る。 「起きたん？」 其の言葉に、嗚呼、そうかと状況を理解する。 …旦那様と結ばれた翌日の晴れた昼下がり。 私は、此の部屋で倒れた。 #エイトで妄想

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五百参拾九 「…私、ずっとこの部屋で寝てたのですか？」 「せやなぁ、かれこれ半年くらい」 私の布団が敷かれている周りだけが、乱雑に書類の束が避けられていた。 旦那様、私が片付けないとすぐこうなる。 「起きれたんほんま奇跡やで」 #エイトで妄想

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五百四拾 旦那様は背中を向けて一、二文何か書いたらしかった。 そして、真剣な顔で此方を振り向いた。 「…何となく分かっとったんよな？ 体調が優れへん原因」 「…」 「やから、自分から進んで体調が悪いことを言わんかった ここ最近も…いうても半年前やけど…大丈夫言うてた」 #エイトで妄想

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五百四拾壱 「…言えるわけないじゃないですか 皆さん、旦那様の大事な仲間ですから」 其の言葉に 『ごめんな』 と、妖達が口々に言う。 …旦那様の妖力は元々の才故のものだけど、 私が妖達と話す様になれた此の能力は、あくまでも後天的なもの。 #エイトで妄想

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五百四拾弐 昼夜を共にするほどの長い期間妖と一緒に居ると、普通の人は体調を崩してしまうらしい。 後天的に彼らと関わる術を身につけた者も、直ぐにというわけではないが、身体に異常をきたすのはよくある事なのだと旦那様は言った。 #エイトで妄想

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五百四拾参 「…言うても、僕もちゃんと見とくべきやった、ごめんな？」 旦那様の申し訳なさそうな顔に首を横に振る。 「…でな、此処からは急な話なんやけど」 旦那様は其処で一息つくと、続けた。 「話し合ってん、みんなと このまま此処に居てもらう訳にはいかんって」 #エイトで妄想

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五百四拾四 其れは 妖達とはお別れしなきゃいけないって、こと？ 「嫌です…私なら大丈夫ですんで」 「馬鹿 …妖達と長いこと過ごしてるとな、下手すれば命を落とすんや」 そんな…。 「…聞いてくれ こいつらが最後に残した願いは… 『忘れられへんこと』」 #エイトで妄想

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五百四拾五 「こいつらが過ごしてきはった人生も こいつらが生まれてから今日まで見てきはった景色も 誰かに覚えててもらえる様に語り継ぐこと」 ほんで、と旦那様は先程まで書いていた書面を手に取る。 「…ようやく出来た」 其処には妖達が語ったと見られる言葉がぎっしりと。 #エイトで妄想

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五百四拾六 「…言うても、売りに出すとかそう言ったことはせえへん 僕らで、この家で、これを守ってけたらええんちゃうかな…と、思ってる」 どうかな？と少し不安そうな顔で聞かれて、笑って頷くと 旦那様は安心したように微笑んだ。 「…でも、これが出来たということは」 #エイトで妄想

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五百四拾七 「…嗚呼、急な話言うたんはこの事や」 旦那様が、窓際に目を向ける。 「お別れの時間や」 私の目から一粒、涙が零れた。 #エイトで妄想

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五百四拾八 旦那様は苦笑して、私の頭を撫でる。 「…泣くと思った」 「だって…」 「僕かて辛い…でもしゃーないんよ 君に居なくなられる方がよっぽど辛い」 旦那様の方がきっと辛いだろう。 私よりずっと長く此の妖達と一緒に居た。 「でも…」 『なぁなぁ』 #エイトで妄想

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五百四拾九 亮さんが私達に声を掛ける。 『誰も成仏するなんて言うてへんで？』 「「え」」 其の言葉に、私だけでなく旦那様まで驚く。 『せやせや！俺らも妖力強なって来たから、そろそろ移動しよう思ててん』 『そうそう、何かに取り憑いてた方が力使わんってだけ』 #エイトで妄想