日向倶楽部世界旅行編第82話「嵐の中の蜃気楼」

決勝戦の舞台、足柄と利根の激突は嵐の中へともつれ込む。吹きすさぶ風と激しい波の中、足柄の時が逆流する。
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三隈グループ @Mikuma_company

「あの日も、こんな天気だった」 「艦=カタと似ている!」 「正気かよあの艦娘!」 「波紋弾の追跡から逃れる事は出来ん…!」 「那珂…」 「勝つよ、足柄は」 「貴女はとても強いから、誰にだって勝てる」 日向倶楽部、この後21:00! pic.twitter.com/hOzA1Ehvy4

2019-05-01 20:45:57
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【前回の日向倶楽部】 開始早々大きく試合の動いた決勝戦、最上を撃破した横須賀利根姉妹は残る足柄に大攻勢をかけるが、足柄の凄まじい力量は彼らの攻撃を寄せ付けなかった。 結果として筑摩がリタイア、嵐が迫る中、試合は利根と足柄の一騎打ちとなる。

2019-05-01 21:00:13
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〜〜 黒雲に太陽が隠され、スタジアムは昼だというのに薄暗くなった。風は強くなり、水面は景色を映す暇もなく白波を立てる。 その中を、足柄と利根は駆ける。 二人は互いに様子を伺っていた。利根は艦載機を失い、足柄は主砲を二基失っている。だが利根に波紋技がある以上、両者の射程は五分。

2019-05-01 21:01:09
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故に、距離を取っている限り大きな動きは起きない。どちらかが接近し、仕掛けるまで、試合は膠着状態に陥る。 その様子を一人、画面越しに見つめる者が居た。 その者の名前は、那珂。トラック泊地の帝王と呼ばれる艦娘にして、足柄の戦友であった。 〜〜

2019-05-01 21:02:01
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日向倶楽部 〜世界旅行編〜 第82話「嵐の中の蜃気楼」

2019-05-01 21:03:14
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〜〜 那珂と足柄が出会ったのは、今から五年以上前の事。 当時の世界情勢は混迷を極めていた。太平洋全域に勢力を拡大していた深海棲艦により、アジア諸国は壊滅的な打撃を受けていた。 深海棲艦の直接的な攻撃を受ける諸島国家も後を絶たず、人々は海の怪物に怯える事となった。

2019-05-01 21:05:01
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また人々に恐怖を与えたのは、深海棲艦の直接的な被害だけではなかった。 深海棲艦によって海上に危険が蔓延った事で、多くの国が物流面に大きな被害を受けた。 その煽りを受け、物資が不足する国が続出していった。それだけで済めばまだしも、経済が破綻する国まで現れ始めた。

2019-05-01 21:06:45
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物資の不足、経済の破綻、破壊された生活、それは小さな国々に大混乱を生み出した。治安の悪化により、略奪や虐殺の起きた地域は一つ二つではない。 政府関係者がいち早く脱出してしまった国は特に悲惨であり、最早、深海棲艦どころの話ではない国も多かった。

2019-05-01 21:07:44
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那珂と足柄の出会いは、そんな激動の時代の中にあった。 軽巡洋艦娘那珂、本名四方園八叡。 当時19歳、政治屋一族四方園家の長女。 重巡洋艦娘足柄、本名天道千聖。 当時23歳、実家はよくある富裕層。 歳は離れていた、地元も違った、二人の出会いは、何の約束もない偶然だった。 〜〜

2019-05-01 21:09:29
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〜〜 黒雲に覆われた空の下、足柄は海を駆ける。強い風に吹かれながら、風上に正面を向けぬよう動く。 彼女の視線の先には、まだ黒雲に覆われていない、光の降り注ぐスタジアムがあった。 今は昼、太陽は真上。しかし足柄の立つ場所は、その光が届かぬ影の地だった。

2019-05-01 21:11:00
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周囲の景色は薄暗く、視界は悪い。普通の艦娘ならこんな場所にはいないだろう、弾丸の軌道が見えにくく、戦い辛いからだ。 しかし今、足柄にとってはここが最高の戦場だった。 利根の放つ波紋弾、それは光を放つ赤い光弾である。つまり薄暗いこの海では、星の様によく目立つ。

2019-05-01 21:11:56
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加えて足柄は、この戦いの中で…普通なら考える間もない時間の中で、利根の持つ晴嵐の波紋について理解を深めていた。 伊勢との戦闘、利根と最上の交戦、数多の情報から、足柄は晴嵐の波紋という未知の能力に対抗出来るだけの術を身に付けつつあった。

2019-05-01 21:12:52
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足柄は海を駆け、黒雲を背負いながら突き進む。スタジアムを包む影はだんだんと大きくなり、光の降り注ぐ地はその影に呑み込まれた。 薄暗くなる戦場、強まる風。 その中で足柄と利根は、互いの姿を認識した! 「見つけたぞッ!妹の分までたっぷりとお返しをしてやろうッ!」

2019-05-01 21:13:57
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利根は両手を叩き合わせ、波紋弾を構える! 「集えよ蛍火ッ!」 赤い光弾が足柄目掛け、何発も何発も放たれた!それは本当の蛍の様に、薄暗い戦場の中に輝く! それは弾幕と言って良い数、しかし足柄はこれを素早く避ける、その動きには余裕がある!

2019-05-01 21:14:27
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利根とてそれは分かっていた、この攻撃は布石に過ぎない! 「森羅の光、命の輝き、無縫の衣となり我を護り給え…!晴嵐、波紋天衣ッ!」 利根の身体が赤い光を帯びた!無数の蛍火と共に、彼女もその蛍の一つとなり、足柄へと突撃する!

2019-05-01 21:15:48
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この行動に、足柄は見覚えがあった。 これは障壁、利根の身体を包み込む障壁、攻撃を弾いてしまう羽衣なのだ! これに護られる事で、利根は接敵する際の回避行動を最小限に抑え、素早く距離を詰める事を可能とする。 現に利根は、猛烈な速度で足柄に迫る!

2019-05-01 21:16:55
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しかし足柄、一切の抵抗を行わない!利根から距離を離す様に動いていたが、それは焼け石に水、距離はどんどんと縮まる。 いよいよ二人の距離は目と鼻の先!利根の徒手空拳は今にも足柄を捉えられる、そんな距離まで縮まる! 「ここじゃあッ!」 利根は足柄へ攻撃を叩き込むべく、構えた!

2019-05-01 21:17:55
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足柄が砲を構えたのは、その瞬間からだった! 「…何ッ!?」 彼女の放った一発が、利根の右の小手甲板に命中する、続く二発目は左の小手甲板に命中した。 驚きはした利根だが、直撃ではない。むしろ小手甲板で防いだ、防御には成功している! 彼女は再度攻撃に移る!

2019-05-01 21:18:51
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だがまたしても、足柄は利根に砲撃を行った、無論利根はこれを防ぐ。次も、その次も、その次も!足柄の砲撃は利根に弾かれ続ける。 しかし、息を呑んだのは利根だ! (違う!攻撃を防いでるのは、我輩ではない…!) 利根の放つ一撃は、晴嵐の波紋を帯びた強烈な一撃、防御の能わないものだ。

2019-05-01 21:21:02
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されど砲撃が来れば話は変わる、利根は防御にその拳を回す必要がある。 足柄は防いでいた、砲撃で利根の攻撃を!攻撃を最大の防御としていた! 「貴様!その技、我輩は見たぞ!那智や長門のやっていた、艦=カタと似ている!」 攻防の最中利根はそう言ったが、足柄は何も答えずに砲撃を続ける。

2019-05-01 21:21:53
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(艦=カタ…長門との戦いで、一度もう"見て"いる…手の内は分かる、だが…) 足柄の砲撃を捌きながら、利根は思考を巡らせる。足柄の砲撃は恐ろしく速く、正確であった。 (だが此奴のは、長門のそれより遥かに激しい!長門の奴が未熟だったのか?それとも、此奴がおかしいのか…!)

2019-05-01 21:22:44
三隈グループ @Mikuma_company

利根が容易く打ち破った長門の艦=カタも、真っ当な物差しで考えれば凄まじいものであった、完成された戦闘術だった。 そもそも、今足柄が行なっているのは艦=カタでもなんでもなかった、射撃の基本を突き詰め、それを応用しただけの攻撃なのだ。 にも関わらずそれが、ただただ、強い!

2019-05-01 21:23:58
三隈グループ @Mikuma_company

しかし利根も、手をこまねき続ける訳ではなかった! (…見えたッ!) 足柄の攻め手が一瞬、急ぐ様な動きを見せた。それはリロードの隙を消す為の動き、利根はそう判断した! 「今しかあるまい!集えよ蛍火ッ!」 リロードの為距離を取ろうとする足柄に対し、利根は波紋弾を撃ち放つ!

2019-05-01 21:24:50
三隈グループ @Mikuma_company

放たれた波紋弾は、素早く反応した足柄の脇をすり抜ける。その回避動作と並行し、足柄は右手の主砲を次々放ちながら、左手のそれを片手でリロードした! だが回避とリロード、二つを同時に行えば隙は必然的に大きくなる!この僅かな隙は、強者二人の間では大きなチャンスと、ピンチであった!

2019-05-01 21:25:37
三隈グループ @Mikuma_company

「一丁では数が足らんなァッ!汝の無常、無情にて絶つ!」 回避ざま、利根は左手から赤い靄を放つ!呪縛の霧、晴嵐波紋縛!決まれば勝負も決まる! そこへリロードを終えた足柄は、二丁の主砲を放ち、筑摩の時と同じ様に弾丸を炸裂させ、霧散させる!波紋縛はそうそう決まらない!

2019-05-01 21:26:41