避難指示が解除される時、避難指示区域の実際の線量はどのくらい下がっているか:福島県南相馬市小高地区の個人線量測定

「避難指示基準の20 mSv/年をちょっとでも切りさえすれば、国は避難指示を解除して一丁あがりにしようとしている」と言い立てる人がいますが、実際に避難指示が解除される時避難指示区域の線量はどのくらいまで下がっているのか。2011年3月12日に避難指示が出され、2016年7月12日に避難指示が解除された南相馬市小高区に(2017年3月31日時点で)帰還した住民の個人線量(2017年4月1日-6月30日測定)を非帰還者(帰還者と同時に小高区から避難指示により避難後、小高区以外の南相馬市内または南相馬市外に定住している人)と比較した南相馬市立総合病院の論文が出ていたので読んでみました。 続きを読む
10
nao @parasite2006

(続き)測定結果の研究への利用の同意取得はオプトアウト方式(明確な不同意の意思表示がない場合は同意とみなす)で行い、その結果2017年4月-6月の測定に参加した南相馬市全域の2147名中1847名(86.1%)から同意が得られたと報告されています。この中から避難指示時点の小高区住民387名を抽出し解析

2019-05-12 17:29:21
nao @parasite2006

pic.twitter.com/fKO5T1yGFR (続き)論文本文には「屋外生活時間が1日6時間を超える人の割合には居住地間の有意差はない」(平日p=0.26、週末p=0.41;いずれもカイ自乗検定)と書いてあるものの、屋外生活時間が1日2時間以上の人の割合を見ると小高区内が小高区外より多そうに見えるのは気のせいか?

2019-05-12 18:00:43
拡大

(↑なぜ今ここで「平日の屋外活動時間2時間以上」に注目しているかといいますと、先を読み進めば「この特徴を持つ人の個人線量が自然放射線量に対して上積みされるリスクが平日の屋外活動時間1時間未満の人と比較して有意に大きくなる」という解析結果が報告されているからです)

nao @parasite2006

この論文では個人線量と居住地の関係の検討に入る前に、調査票への回答(こどもの場合は保護者が代理回答)を元に参加者のガラスバッジ装着状況(通学中、在宅時、屋外)を確認し、ガラスバッジを通学中や屋外活動時に装着していなかった人を除外。この結果対象者はもとの半分以下に絞られました。 pic.twitter.com/0wZCIhNLzN

2019-05-12 18:39:57
拡大
nao @parasite2006

さて東日本大震災以前から個人線量測定に使われてきた測定器具には電子式積算線量計(表示部があるのでいつでも線量の数値を見ることができる)とガラスバッジ(表示部がなく測定値は製造元が専用読み取り装置で読み取って通知)の2種類があり、南相馬市の測定には後者が使われています(続く)

2019-05-12 22:45:32

(↑表示部が付いている電子式個人線量計は、装着者がいつでも好きな時に肉眼で数値を確認できるという利点がありますが、装置1個の値段がガラスバッジと比較してずっと高く、大人数の測定には向きません。また測定値が電子機器の影響を受けやすく、震災直後の学校の教職員の個人線量測定に使われた時はうっかり携帯電話と一緒に持ち運んで測定値が異常に跳ね上がったケースが多く報告されたものでした。一方ガラスバッジは装置1個の値段が安く、学校、地域、職場単位の集団測定に向いていますが、測定値の読み出しが測定終了後に製造元が保有している専用読み取り装置で行われるため、装着者が測定期間の途中で測定値を知ることはできません。従って測定期間中どの時期に外部被曝の個人線量が高かったか、逆に低かったかを知ることはできません)

nao @parasite2006

(続き)日本で個人線量測定に使われているガラスバッジの製造元は2社あり、それぞれ専用読み取り装置で一旦自然放射線量込みの測定値を読み取った後、独自方式で自然放射線量を差し引いた結果を報告します(詳しくはこのまとめtogetter.com/li/730384?page… の一番最後の「参考2」をご覧ください)

2019-05-12 22:51:32
まとめ 日本の自然放射線地図:実測と推定 日本地質学会の日本の自然放射線地図http://bit.ly/hvuBcj (ウランとトリウムとカリウム40の土壌濃度から計算)は自然放射線の地域差を手っ取り早く見るのに便利なので、これまで随分お世話になってきましたが、この地図が空間線量率(空気吸収線量率)の実測に基づくものではなく鉱物の濃度から推定されたもので、従って実測と必ずしも一致しないことを知った上で使っていただきたくてまとめました。 6931 pv 47 103
nao @parasite2006

南相馬市の個人線量測定では千代田テクノル社製のガラスバッジを使用。この会社はガラスバッジの読み取り値から自社の研究所がある茨城県大洗町の自然放射線(たぶん日本全体の中間値に近いからかもbit.ly/1yYiHrS )の分として年間0.54 mSv(1 cm線量当量。0.062 μSv/hに相当)を引いて報告

2019-05-12 23:05:16
nao @parasite2006

@s__51 日本地質学会の日本の自然放射線地図bit.ly/gap3N8 でみると、那珂川河口の大洗町はトルコブルー(0.036-0.054 μGy/h)に色分けされています。日本全体のちょうど中間(かちょっと低め)にあたっているようですね。

2013-12-11 14:40:06
リンク www.geosociety.jp 日本地質学会 - 日本の自然放射線量 日本地質学会 公式サイトです。 82 users 284
nao @parasite2006

千代田テクノルが自然放射線分として差し引く年間0.54 mSv(0.062 μSv/h)は大きすぎと言う人がいるので、震災前の福島県下の自然放射線の測定結果と比較してみます。空気吸収線量率(μGy/h)を1.2倍して周辺線量等量率(μSv/h)に換算すると南相馬市原町区(小高区の北隣)は0.06 μSv/hに相当 pic.twitter.com/45H1w5NiVp

2019-05-12 23:48:49
拡大
nao @parasite2006

千代田テクノル製のガラスバッジで測定した3ヶ月分の個人線量測定結果(自然放射線への上積み分)を4倍して求めた年間線量の居住地別分布が1枚目の表(補足データ)。自然放射線量への上積みが年間1 mSvを超える人(赤線より下)は(11/174)x100=6.3%だけ。表から描いたグラフが2枚目(横軸は対数目盛) pic.twitter.com/GpRjd42QSo

2019-05-13 00:22:02
拡大
拡大

(↑書き落としましたがこの表のカッコ外の数字は人数の実数値、カッコ内は居住地別のグループ内での百分率です)

酋長仮免厨 @kazooooya

@parasite2006 論文の読み解きお疲れ。もう終わりました? アブストでは、1 mSv超の割合が、帰還者で7.0%、市外の非帰還者で4.2%と書かれるを、「帰還すると2倍被ばくする」と誤解されそうだけど、屋外活動時間が異なることも書いて欲しいな。 屋外活動と線量のひも付があったら良かったとも思う。

2019-05-12 21:52:10
nao @parasite2006

前ツイの1枚目の表の年間線量の分布を線量を横軸とする対数正規分布曲線に当てはめて、中央値(集団全体の50%がこれより下におさまる値)、IQR(四分位範囲)、平均値、SD(標準偏差)を居住地別に算出。小高区と南相馬市外の中央値には有意差があるが、小高区と原町区・鹿島区の間には有意差なし pic.twitter.com/jJA7XkomFC

2019-05-13 01:07:55
拡大
nao @parasite2006

避難指示解除後小高区に戻った人と南相馬市外に留まっている人の年間個人線量(自然放射線への上積み分、中央値)には有意差がつきましたが(1枚目)、個人線量の上積み分の増大につながる要因として著者らは1) 平日の屋外活動時間が2時間を超えること、2) 避難指示解除後の居住地を指摘(2枚目) pic.twitter.com/kWgoJLbRSZ

2019-05-14 11:12:35
拡大
拡大
nao @parasite2006

避難指示解除後の居住地で個人線量に差がついた理由について、著者らは考察の項で原論文表3(1枚目)を見せながら「生活習慣の違いよりも旧避難指示区域内と区域外の空間線量率の差の寄与が大きい」と述べていますが、居住地別特徴(2枚目)で小高区は平日の屋外活動時間2時間超えの人がよそより多そう pic.twitter.com/wlERnudfy1

2019-05-14 11:49:28
拡大
拡大
nao @parasite2006

そこで平日の屋外活動時間を居住地別にグラフ化して割合を比較しようとしてみてびっくり。実際には平日の屋外活動時間を回答しなかった人がどの居住地にもいるのに、原論文ではこれを除外せずに割合(%)を計算していたのです(1枚目)。無回答の人を除外して割合を計算し直し(2枚目)(続く) pic.twitter.com/IRR6CKy6Ey

2019-05-14 12:04:19
拡大
拡大
nao @parasite2006

(続き)再計算結果をもとに平日の屋外活動時間を居住地別にグラフ化し、割合を比較したものがこちら。平日の屋外活動時間1時間未満を基準とした場合の個人線量増大のリスクが有意に上がるとされた平日の屋外活動時間2時間超えの割合は、小高区(63%)>原町区/鹿島区(54%)>南相馬市外(39.1%) pic.twitter.com/YNOvNnzxM8

2019-05-14 12:21:38
拡大
nao @parasite2006

原論文iopscience.iop.org/article/10.108… の考察の項に明記された重要メッセージ「(避難指示解除後)帰還した人々の外部被曝線量が限られていたこと(2017年の中央値0.4 mSv/年)を考えれば、この(避難指示解除区域内と区域外の)線量の差は(数値としては統計上有意でも)健康影響の観点からは有意ではないpic.twitter.com/flrjC1C5ea

2019-05-14 20:40:16
拡大
拡大
nao @parasite2006

ここで紹介者は原論文の著者に誤解のお詫びを申し上げておかなければなりません。考察の項で「帰還者の線量が原町区・鹿島区および南相馬市外に住む非帰還者と比較して1.30倍および1.53倍高かった」とあるのは、職業や平日の屋外活動時間等について補正「後」の値の話でした(1枚目の赤点線) pic.twitter.com/WZY0C647VC

2019-05-14 21:11:03
拡大
拡大
nao @parasite2006

twitter.com/parasite2006/s… 「平日の屋外活動時間の差について補正を行った後でもこれだけの差が残った」という話ならば、個人線量の差の原因の説明を居住地の空間線量率の差に求めるのも納得できます。

2019-05-14 22:58:36
nao @parasite2006

ともあれ何より重要なのは、避難指示解除後に南相馬市小高区に帰還した人57人中、年間個人線量(2017年4-6月の測定値の4倍)が1 mSv/年を超えたのは4人(7.1%)だけで残り53人(92.9%)はこれ以下だったこと。この4人、特に最大値(6.8 mSv/年)の人には生活習慣の調査と対策をtwitter.com/parasite2006/s…

2019-05-14 23:27:15
nao @parasite2006

著者らは考察の最後で「この測定は希望者の自由参加により行われたため標本数が少なく(小高区内住民登録者の約25人に1人。ここからさらにガラスバッジ装着不良者を除外した結果最終的には約50人に1人に)、また被曝が気になる人が率先参加していた可能性がある(参加バイアス)。(続く)

2019-05-15 00:06:03