空と踊る男のツイッター怪談その2:夕焼け恐怖症
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目が覚めると、Iさんは自室の玄関に倒れ伏していた。どうやってアパートまで帰りついたのか全く思い出せない。 とても怖い夢を見ていた。いや、その前に、言葉にはできないほど恐ろしい体験をしたはずだ。 けれどあれは、果たして本当のことだったのだろうか…… でも、ひとつだけ確かなことが判った。
2019-06-13 22:30:41なぜ自分があれほど夕焼けを恐れていたのか、その理由をやっと理解した。 ……どうして許してもらえなかったのだろう。あんなに心から謝ったのに。悪いのは自分ですと、あんなに心から反省したのに。 Iさんは静かに泣いた。涙はとめどなくいつまでもあふれてきた。 これで話の本筋は終わりなのだが、
2019-06-13 22:32:34後日譚がある。 ここまで語り終えたUさんはしばらく黙っていたが、やがて気重そうに口を開いた。 「Iちゃんの身内の方から最近伺ったんですけど、彼女がまだ赤ちゃんの時に実のご両親は二人とも交通事故で亡くなられていて、親戚のその方がIちゃんを引き取って養育されたそうなんです」 冷めた紅茶を
2019-06-13 22:34:56ひと口だけ啜り、少し逡巡した後でUさんはつづけた。 「だから、彼女が語った夢の内容が真実であるはずなんてないんです。でもそれで、ストンと憑き物が落ちたようになったIちゃんを思い出すたび、何が本当なのか判らない気もして……」 それ以降、Iさんが夕焼けを恐れることはなくなったのですか?
2019-06-13 22:37:32筆者はUさんに問いかけた。 「ええ。その後はすっかり怖くなくなったそうです。でも、だんだんあの子、おかしくなって……」 どんな風にですか? 重ねて問う。 「ふとした時に突然、どこか遠くを見るような目をして、ぼそっと『呼んでる……』なんてつぶやいたりするんです。私、何だか怖くて……」
2019-06-13 22:39:05そのうちIさんは会社を休みがちになり、ある日を境にぱったり出社しなくなったという。 「私、心配で彼女の携帯にかけてみたんです。何度目かでやっと繋がったんですけど、ザーザーと変な雑音がひどくて、全然向こうの声も聞こえなくて。でもそのうち……」 雑音の彼方からかすかに『おぉぃ…』と
2019-06-13 22:40:51呼ぶ声が聞こえたのだという。明らかにIさんとは別の何かの声が。 Uさんはすぐさま電話を切り、Iさんの番号を着信拒否にした。 それ以来数ヶ月経つが、誰も彼女の近況を知らないという。 Uさんにお礼を述べて喫茶店を後にし、筆者は都心の街中を最寄り駅へ向け歩いた。もう帰宅ラッシュの頃合だろう。
2019-06-13 22:42:42Uさんから聞いた話を反芻しながら、筆者の脳裏に突如疑問が浮かんだ。 Uさんは連絡がつかず近況すら掴めないIさんの義理の親に、一体どうやって「最近」会ったというのだろう。二人は入社してから知り合ったと聞いた。いくら仲が良かったとはいえ、最終的には気味が悪くて着信拒否にした相手の家族まで
2019-06-13 22:44:27探したりするものだろうか? 曖昧な不安を覚えつつ、点滅し始めた信号を足早に渡る。西空に目をやると、血のように赤い夕焼けが見えた。 その時、筆者はふと後ろを振り返った。 信号の向こう側にUさんが立っていた。 その口許が、にぃぇ、と笑って、 おぉぃ… と背後から呼ぶ声が聞こえた。 (完)
2019-06-13 22:46:37