【全作140字ジャスト】空と踊る男の「140字怪談」まとめ【全百話】

コツコツ投稿していた140字怪談をまとめました。 ちなみにハッシュタグ含め全て140字ピッタリです。 中には「これのどこが怪談?」というような話もありますが、文字数の制約があるからこそできる試行錯誤や実験をいろいろやってみました。 目標の100作を達成しましたので、いったん完結とさせていただきます。
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空と踊る男 @dancewithsky

病室にて。入院している幼い弟を、姉が見舞った。 姉「早く元気になって、退院したらまた一緒にアレやろうね」 弟「もう嫌だよ、アレは……」 姉「は? もともとあんたが始めたんでしょ?」 弟「でも、これ以上は……」 姉の両掌には指が計二本しかなかった。弟には両腕と左眼がなかった。 #140字怪談

2019-06-15 23:27:30
空と踊る男 @dancewithsky

バスに乗り、十数年ぶりに母校の高校へ向かう。同窓会だ。 「このへんも変わってないな」とつぶやく。 「いや、トンネルへのルートが変わった」隣のKが言った。 「え?」 「ずっと待ってたよ、この時を」Kが囁いた。 あたりは突然暗闇に包まれた。Kがライターを点し、自分の顔を照らした。 #140字怪談

2019-06-16 00:16:13
空と踊る男 @dancewithsky

母が若い頃に画家志望だったと、亡くなってから知った。 「どんな絵を描いていたの」父に聞いてみた。 「知らない方がいい」父はそれだけ答えた。 母の遺品の整理中、黒い女が描かれた絵が出てきた。 私は台所で包丁を握った。 「君だけだよ」と言ったのに。絶対に許さない。私は走った。 #140字怪談

2019-06-16 00:59:10
空と踊る男 @dancewithsky

「最近おまえの様子がおかしいって、みんな言ってるよ」 「みんな? みんなって誰だよ? せいぜい数人だろ」と反論する。 「いや、みんなは〈みんな〉だよ。ほら」と後ろを指差されたので振り向くと、 そこには確かに〈みんな〉がみんないた。みんな眼のない眼で、口のない口で笑っていた。 #140字怪談

2019-06-16 16:18:33
空と踊る男 @dancewithsky

高飛び込みはいつも緊張する。でも私は水泳部のエースだ。決めなければ。 ふいに耳許で「報いの時だよ」という声が聴こえた。 何……今の? 気のせいだ。姿勢を正し、跳躍する。 着水した瞬間、水中にたくさんの黒い人影が見え、私の頭を沈め、足を引っ張った。みんな知っている顔だった。 #140字怪談

2019-06-16 16:44:06
空と踊る男 @dancewithsky

同学年のKが発狂したとの噂を耳にし、俺は本人に確かめに行った。 「なぁK、おまえ発狂したって本当か?」単刀直入に聞く。 「え、俺は発狂してないよ」Kが答えた。 「彼は発狂なんかしてない」KのクラスのS子が口を挟んだ。 「本当だな?」 「してないって」 「だって、あなたがKでしょ」 #140字怪談

2019-06-16 23:20:30
空と踊る男 @dancewithsky

「観ただけで死ぬ映画があるんだ」俺はKとOに話した。 「観ただけで死ぬ映画w」Kは吹き出した。 「ちょwおまwwねえよそんな映画ww」Oも笑い転げる。 「そうかなwww」俺は答えた。 「嘘松乙wwww」 「大草原不可避wwww」 映画館の暗いロビーで、俺たち三人はいつまでもいつまでも笑い続けた。 #140字怪談

2019-06-17 01:10:01
空と踊る男 @dancewithsky

夜中に部屋でヘッドホンで音楽を聴いていたら、何か叩くような音が耳に入ったので、ヘッドホンを外して確かめてみた。 コンコン。 間違いない。窓を叩く音がする。 ここ5階なのに…… コンコン。 その時ふいに、私は自分が重大な勘違いをしていたことに気づいた。階数の問題ではないのだ。 #140字怪談

2019-06-17 22:46:05
空と踊る男 @dancewithsky

「ハーゲンダッツのバニラとコーラ。ダッシュな。10分過ぎたら肩パンだから」 全く人使いの荒い姉だ。僕は必死に走った。 息を切らしつつ「買ってきたよっ」と姉の部屋に入る。ギリギリセーフ! あれ…… そこには姉などおらず、顔全体が口の何かが涎を垂らしながら 僕の体を待っていた。 #140字怪談

2019-06-18 01:07:04
空と踊る男 @dancewithsky

僕の好きだったユキ先生は夏休みに海で溺れて亡くなったけど、二学期が始まっても変わらず教壇に立っている。顔は水ぶくれでパンパンだし、たまに口の中から蟹とか船虫が出てくるけど、それでもユキ先生はこのクラスの担任だ。でも今日フジタくんが後ろからバットで殴ったら、首がボキッと #140字怪談

2019-07-09 23:01:49
空と踊る男 @dancewithsky

「もしもし」 「もしもし、オレだよオレオレ」 「ちっ、今さらオレオレ詐欺かよ」 「オレだよ、お前が高三の夏に殺して山深くに埋めたヤマダヒロシだよ」 「……誰だ?」 「お前こそ誰よ?」 「……」 「だってその後ずっとヤマダヒロシとして生きてきただろ? ねえ、本当は誰なのお前?」 #140字怪談

2019-07-09 23:23:17
空と踊る男 @dancewithsky

映画館で映画を観ているうち、次第に奇妙な気分になった。 今日封切りの新作なのに、以前観たことある気がする。 いや間違いなく観ている。主人公の次の台詞すら判る。 「左手が膵臓になるよ」 さらに次の台詞はこうだ。 「横隔膜が顔になるよ」 そして突然、ぐしゃっ、と私は弾けた。 #140字怪談

2019-07-16 01:12:18
空と踊る男 @dancewithsky

まだネットが普及していなかった頃、大学のサークルでは皆、雑記帳に色々なことを書き込んでいた。 今読み返しても懐かしくほろ苦い思い出だ。 気になるのは、筆跡が全て同じこと。 それに、なぜ私はこのノートを所持しているのだろう。 そもそも、私は何というサークルにいたのだろう。 #140字怪談

2019-07-18 23:10:09
空と踊る男 @dancewithsky

街中で母親が子供をきつく叱っている光景を目にすると、過去を思い出していつも胸が苦しくなる。 「ねえ、私たちの子供には、絶対にあんな叱り方しないようにしようね」膨らみが目立ってきたお腹を撫でながら、前を歩く夫に声をかけた。 「いい加減にしてくれ……誰なんだよあんた……」 #140字怪談

2019-07-19 22:27:42
空と踊る男 @dancewithsky

ツイッターで相互フォローだったSさんから突然ブロックされた。全く理由が判らない。 オフ会で会って、二人きりでも何度も会ったのに。 「君のうなじが舐めたいな」 「君の足の薬指を噛みたいな」 全部望みを叶えてあげたのに。 絶対に許さない。目玉を抉りだしてやる。私と同じように。 #140字怪談

2019-07-19 23:09:10
空と踊る男 @dancewithsky

「〈首斬り魔の雑木林〉へ肝試しに行こう」D君が言った。 「やめた方がいいよ」僕は止めた。 「最後に子供の首無し死体が発見されてから15年も経ってるんだぜ。もう犯人死んでるって」 やれやれ、何も判ってない。 溜め息をつくと、僕は前任者から引き継いだナイフをポケットに忍ばせた。 #140字怪談

2019-07-19 23:46:07
空と踊る男 @dancewithsky

ちょ、ちょっと待て、いや、それは判った、おまえらが俺をこの崖から突き落とすという、そのことは受け入れがたいけど受け入れた、その理由がクラスで俺一人だけ仮面を被っていない、というのも理解しがたいけど理解した、だから殺す前に一度だけこの鏡を見てくれ、そもそも仮面などどこに #140字怪談

2019-07-20 00:08:51
空と踊る男 @dancewithsky

夜、仕事帰りに毎日通る薄暗い坂道の途中に電柱が一本立っていて、その真下で幼い姉弟が電灯に照らされ地面にしゃがみうつむいたまま、何かを弄くり回して遊んでいる。いつもうつむいているから顔が見えないし、手元で何を弄っているのかも判らないが、絶対に見たくないし判りたくもない。 #140字怪談

2019-07-20 23:50:14
空と踊る男 @dancewithsky

「ちゃんと最初に言ったよね? 判りましたって答えたよね? 大丈夫か、って聞いたら、大丈夫です、って答えたよね? じゃあなんで同じミスするわけ? これで何回目? そもそも人の話全然聞いてないよね? バカなの? ねえバカなの?」 って隣の一人暮らしの女の部屋から毎日聴こえてくる。 #140字怪談

2019-07-22 21:52:19
空と踊る男 @dancewithsky

人類の滅亡は既に始まっています。確かな筋からの情報です。確かな筋からの情報だと聞いています。確かな筋からの情報だという噂が流れています。確かな筋からの情報だという噂が流れている可能性があります。確かな筋からの情報だという噂が流れている可能性について検討しています。確か #140字怪談

2019-07-22 22:10:34
空と踊る男 @dancewithsky

そのホラー映画は中盤で少女が殺人鬼をあっさり倒してから徐々におかしくなってゆく。少女が殺人鬼のマスクを剥ぎ取ると、それまで全く登場していなかった女の顔が映る。少女はマスクを被る。そして旅が始まる。旅の終わりに彼女はマスクを脱ぐ。そこにはあなたの殺したあの女の顔がある。 #140字怪談

2019-07-22 23:29:38
空と踊る男 @dancewithsky

父も母も成績がいい兄のことばかり気にかけ、僕は家に居場所がない。叔父さんだけが僕を可愛がってくれる。 ある日、叔父さんは僕の家族を皆殺しにし、自殺した。 叔父さんが僕に残した手紙には 「大丈夫、これは現実じゃないから」 と書かれていた。 恐ろしいことにそれは本当だった。 #140字怪談

2019-07-23 19:42:45
空と踊る男 @dancewithsky

そのホラー映画は中盤で主人公の青年が古い洋館に現れる幽霊をいきなり殴り殺すところから徐々におかしくなっていく。なぜ人間が幽霊を殴り殺せるのか一切説明がないまま、主人公は洋館を飛び出し、そこら中の幽霊たちを目につく限り無惨に撲殺してゆき、最後に呟く。 「誰でもよかった」 #140字怪談

2019-07-24 22:20:28
空と踊る男 @dancewithsky

「いい天気だからどこかへ出かけよっか!」 「それがいいそれがいいと言いました」 「出かけた先でそこにいる奴ら皆殺しにしちゃおっか!」 「それがいいそれがいいと言いました」 「全員殺し終えたら次の場所へ移動しよっか!」 「それがいいそれがいいと言いました」 「よーし、出発!」 #140字怪談

2019-07-24 22:36:13
空と踊る男 @dancewithsky

父の通夜、見知らぬ若い女が現れ、私に言った。 「生前のお父上のことは随分お世話しました」 仕事関係の人だろうか。何か言葉遣いが変だ。 女は口元に禍々しく厭な笑みを浮かべていた。 女が焼香を始めると、指先から赤い粉が大量に零れ、室内を覆い、席上の人々は次々と血を吐き倒れた。 #140字怪談

2019-07-24 22:57:30
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