【全作140字ジャスト】空と踊る男の「140字怪談」まとめ【全百話】

空と踊る男 @dancewithsky

「国民呪霊党」という珍妙な名前の政党の党首による政見放送が始まった。 『いいですか皆さん、強大な呪霊がすぐ背後まで迫っています。今こそ国民を挙げて呪霊を畏れ、その報いにおののきつつ身を全て委ねようではありませんか！ 我が党は公約として1年以内に国民の半数の呪殺を実現す』 #140字怪談

空と踊る男 @dancewithsky

僕が夕暮れの海辺を歩いていると、波打ち際に女の人が現れて、僕に言った。 坊や、お願い、一緒に行こう。一人じゃ寂しくてやりきれない。ねえ、一緒に行こう。 僕は胸が痛んだ。女の人が哀れで涙まで出てきた。 一緒に行きたい。けど行けない。 だって、あなたの足元にたくさんの赤子が #140字怪談

空と踊る男 @dancewithsky

ボロボロに泣いたドラマの最終回が再放送されると知り、俺は心を躍らせつつ見始めた。 けど、何かおかしい。 ヒロイン役の女優、こんな暗い顔をしてたっけ。こんな焦点の合わない目つきをしてたっけ。 ラストシーン、ヒロインの首が後ろに曲がる。 「えがぐぉゃぁぃぁ」 なんだこれ…… #140字怪談

空と踊る男 @dancewithsky

プロムの夜、ジョーは意を決してベスに話しかけた。 「ベス、よ、よかったら、僕と踊ってくれないか？」 ベスは頬を赤らめ、頷いた。 天にも昇る気持ちでジョーはベスの手を取った。 11年後、ジョーはベスを含む9人の女性を惨殺するのだが、今、二人は喜びに包まれ、くるくる踊る。踊る。 #140字怪談

空と踊る男 @dancewithsky

同窓会に佐藤1～4と鈴木1～4と田中1～3と山田1～3と高橋1～3の全員が出席してややこしいったらない佐藤1～4のどれか一人は死んだはずだが誰だか思い出せないしそもそも全員男だと記憶していた佐藤1～4のうち3人が女なのはなぜだと山田4に聞いたら怯えた顔で頼むから帰ってくれ佐藤と言われ #140字怪談

空と踊る男 @dancewithsky

土曜日の真昼、私が家に一人でいると、ごめんください、と玄関の外から声がした。 どちら様ですか？ と玄関越しに聞くと、 お宅にヨビガミ様がいますね。 と意味の判らない答えが返ってきた。 そんな人いません。 ヨビガミ様がいます。すぐそこに。今。 こうして私はヨビガミ様になった。 #140字怪談

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コント:書店 「あのすいません、本を探してるんですけど」 「はい、どういった本でしょう？」 「怖い女図鑑ってありますか？」 「はい？」 「怖い女図鑑」 「いや、当店には置いてないですね」 「じゃあこれはあるだろ、怖い女図鑑2」 「ねえよ！ なんで1がないのに2があると思うんだよ！」 #140字怪談

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コント:書店2 「本を探してるんですけど」 「またあんたか……どういった本で？」 「徘徊女図鑑」 「ないですね」 「ないの？」 「ないです」 「じゃあ俺の書いたこの徘徊女図鑑を今から100数える間に隠すから見つけたらカップル成立な」 「……どこから突っ込んでいいのかわかんねえよ！」 #140字怪談

空と踊る男 @dancewithsky

こんな綺麗な子がAVに出るなんて！ 俺はドキドキしながらDVDを再生した。 男優がゆっくり彼女の服を脱がしてゆく。 身体のあちこちに切り傷があるのが見えた。 え…… 本番が始まった。 女優の傷口から黒い血が流れ出す。 え…… カメラへ向けて黒い血が噴き飛び、画面は真っ黒になった。 #140字怪談

空と踊る男 @dancewithsky

ごうっ、と風が鳴った。 君は何だか、今にも消えてしまいそうだね。彼は言った。 もう消えかけてるのかも。彼女は答えた。 風の強い日、彼女は家から外に出ない。 彼は理解した。このひとは風にかき消されてしまうのが怖いのだ。 ごうっ、と風が鳴った。 ふいに窓が開け放たれて、彼女は、 #140字怪談

空と踊る男 @dancewithsky

戦争は終わりました！ 私は近所の家々を回ってそう叫んだ。 戦争は終わりました！ 誰もいない。どの家も黒く焼け焦げ崩れ落ちている。 戦争は終わりました！ 頬を涙が伝う。私は叫び続けた。 「お祖母ちゃん、また徘徊してたの」 「困るわね。銃後の守りが何より大事なこのご時世に」 #140字怪談

空と踊る男 @dancewithsky

夏休み、蝉を取りに行った雑木林で、僕はそのおじさんと出会った。 「おまえは俺なんだよ」 おじさんは言った。 蝉の声が聞こえる。 ……違う。僕はこのひとなんかじゃない…… 「判るだろ？」 おじさんが一歩近づいた。 蝉の声が聞こえる。 今、僕はおじさんになり、雑木林で僕を待つ。 #140字怪談

空と踊る男 @dancewithsky

パパ、今日ね。 知らない女のひとに、話しかけられて。 ううん、違うの。別に怖くなかった。 もうすぐ迎えに行く、ってそのひと言ったんだ。 パパとのずっと昔の約束だからって。みんな一緒に連れてくからって。 小指？ そう、その人が噛んでくれた。 パパの小指と同じだよ。赤く光るの。 #140字怪談

空と踊る男 @dancewithsky

私は夕間暮れの見知らぬ路地裏を一人で歩いている。妙に気持ちが急くばかりで、肝心の用件を思い出せない。 その時、前方に女の着物姿が目に入った。 そうだ、私は知人に女を世話してもらおうと。 ふいに女の上半身がぐにゃっと後ろに折れ、さかさまの顔が、オセワニナリマス、と言った。 #140字怪談

空と踊る男 @dancewithsky

暗くて先が見通せない家の中で、母の気配を察知するべく私は必死に息を殺している。 絶対に母に見つかってはいけない。 闇の中に一瞬、母の姿が浮かび上がり、すぐに消えた。手に刃物を持っている。 なぜこんなことになったのだろう。いつまで続くのだろう。最初はただの遊びだったのに。 #140字怪談

空と踊る男 @dancewithsky

初夏。 英語の授業中、教師のいつもの速すぎる板書に辟易しつつ懸命に書き写してたら、突然振り向いた前の席の女の子。 「ねえ、ここ、なんて書いてあるの？」 How to disappear completely. 囁いた自分の声。見開かれた彼女の瞳。 誰かが振り向くなんて、きっとあれきりのことだろう。 #140字怪談

空と踊る男 @dancewithsky

激しい吹雪の山で何とか小屋に辿り着いたが、火が起こせない。眠れば死にそうだ。 仕方なく、俺、K、Kの彼女のS子は朝まで順番に怪談を語ることにした。 俺もKもすぐネタが尽きたが、S子だけはゾッとするような怖い話をとめどなく語り続けた。 俺とKが凍死した後も、一人で、いつまでも。 #140字怪談

空と踊る男 @dancewithsky

僕が語り終えるとFさんは溜め息をつき、言った。 「失礼ですが今の話、全て創作ですよね？」 ギクリとする。なぜ判るのだろう。 「長年怪談実話を蒐集していると、本物の体験談か創作かはすぐに判ります」 仕方ない、真実の怪談を語るしかない。 僕はFさんの肩に乗った女の首を直視した。 #140字怪談

空と踊る男 @dancewithsky

ものすごく怖い顔の若手女優がいて、でも誰に言っても「えっ、美人じゃん」と返されて全く理解してもらえなくて、どんどん人気者になって、TVにも雑誌の表紙にも電車内の中吊り広告にもその女優ばかり出るようになって、どこへ行ってもその怖い顔から逃げられなくて、耐え切れずに刺した。 #140字怪談

空と踊る男 @dancewithsky

俺とKは深い穴の底に落ちた。 穴の内壁には凹凸が皆無で、とても素手では登れそうにない。 「俺の肩に乗ってみろよ」Kが言った。 「全然届かない」 「俺の手首をやるよ。壁にめり込ませて上手くつかまれ」 「全然足りない」 「足首もやるよ。頭もやる」 狂人同士で助け合うなんて無理だ。 #140字怪談

空と踊る男 @dancewithsky

最近ヒーリングミュージックにハマッている。 寝る前に聴くと、頭の中に森と湖の風景が鮮明に浮かぶ。その中を進んでゆくと、やがて柔らかな光が全身を包み、静かに眠りに落ちる。 今夜も目を閉じ、いつもの風景に、 痛。 見知らぬ暗い風景の中で、知らない女が私の目をこじあけている。 #140字怪談

空と踊る男 @dancewithsky

初めて我が家へ息子の友達を招いての誕生日会。皆楽しそうで安心した。 突然息子が言った。 「ママ、トモキ君が箪笥の中から出てこない！」 トモキ君なんて子、来てた？ 他の子に聞いても誰一人知らない。 あれ以来ずっと、息子は家の中でトモキ君を探し続けている。40年経った今も。 #140字怪談

空と踊る男 @dancewithsky

ざぶん、と湖面に飛び込んだ。 湖から別荘へ戻ると、別荘の主人のE、友人のK、Kの彼女のS子、全員が首を斬られ殺されていた。 なぜ…… ざぶん、と湖面に飛び込んだ。 湖から別荘へ戻ると、別荘の主人のD、友人のJ、Jの彼女のR子、全員が腹を刺され殺されていた。 なぜ…… ざぶん、と #140字怪談

空と踊る男 @dancewithsky

嵐の夜、家に帰ると、兄貴が戻って来ている、と両親から聞かされ、俺は愕然とした。 で、今どこにいる。両親を詰問する。 さっきまで、そこに…… 確か、いたような…… 父も母も目が虚ろだ。 まずい。 突然、全ての照明が落ちた。 闇の中に、くふっ、と兄貴のあの厭な笑い声が響いた。 #140字怪談

空と踊る男 @dancewithsky

エアコンが壊れた。修理する金もない。扇風機もない。出かける気力もない。死ぬかも。 そうだ。隣の女の部屋に忍び込もう。いつも不在っぽいし。 ベランダを乗り越える。窓は開いていた。 う、何この臭い…… 部屋の中では裸の女が、床一面を覆ったゴミの上を四つん這いで徘徊していた。 #140字怪談