【全作140字ジャスト】空と踊る男の「140字怪談」まとめ【全百話】

コツコツ投稿していた140字怪談をまとめました。 ちなみにハッシュタグ含め全て140字ピッタリです。 中には「これのどこが怪談?」というような話もありますが、文字数の制約があるからこそできる試行錯誤や実験をいろいろやってみました。 目標の100作を達成しましたので、いったん完結とさせていただきます。
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空と踊る男 @dancewithsky

廃ビルの広間。僕と弟は集めたダンボールで少しずつ迷路を築く。大変だが飽きない。 ついに迷路が完成した日、弟は興奮して中を歩き回った。 奥から声がする。 兄ちゃん、見えたよ。向こうが。 それきり弟は忽然と迷路から消えた。未だに見つからない。 あの時、弟は何を見たのだろう。 #140字怪談

2019-08-04 01:25:15
空と踊る男 @dancewithsky

生理的に無理な男性からデートに誘われた時、私は断らなかった。 キスを迫られた時も、私は断らなかった。 セックスを迫られた時も、私は断らなかった。 結婚を申し込まれた時も、私は断らなかった。 やがて子供が生まれて、その子の目が、一緒に死のう、と囁いた時も、私は断らなかった。 #140字怪談

2019-08-04 13:32:28
空と踊る男 @dancewithsky

打ち水や 誰ぞ呼んだか 首落つる 家を出た時、脳裡に突然こんな句が浮かんだ。 いつどこで読んだ句だろう。思い出せない。妙に不安な気分になる。 外は今日も死にそうな猛暑だ。 そうだ、大切なものを家に忘れてきた。 でも、もう二度と見つからない。 道端では老婆が打ち水をしている。 #140字怪談

2019-08-04 14:02:49
空と踊る男 @dancewithsky

〈逆さ男〉のこと覚えてる? 〈逆さ男〉は夕暮れに一人で歩いている子供を狙う。 路地の角を曲がるとふいに〈逆さ男〉が現れ、 「逆さにしちゃうぞぉぉ」 と笑う。 逆さにされた子供は二度と元に戻らない。 え? 何が逆さにされるのかって? 知ってる癖に。 でもいいよ、見せてあげる。 #140字怪談

2019-08-04 15:31:50
空と踊る男 @dancewithsky

深夜、近道なのでいつも通り抜けている公園を歩いていたら、ベンチに子供が座っているように見え、心底驚いた。 近づいてよく見てみると、髪の長い大きな市松人形が二体置かれていた。 それも一体ではなく、公園内のベンチ全部に二体ずつ置かれている。 全て両方の目を抉り取られていた。 #140字怪談

2019-08-04 21:48:03
空と踊る男 @dancewithsky

最近人気上昇中のバンド「青空恐怖症」のライヴのチケットが取れた。 演奏が始まる。 正直、あまり上手くない。拙いリズム隊、雑なギター、不安定なボーカル。 だがこのバンドの魅力は歌詞だ。 青空怖い 青空怖い 青空怖い 延々この一節を繰り返すだけ。 そうだ。皆、青空が怖いのだ。 #140字怪談

2019-08-04 22:19:35
空と踊る男 @dancewithsky

子供の頃、うちには〈ヨビガミ様〉がいた。 おそらく新興宗教の一種だったのだろう。奥の畳の間にはヨビガミ様が祀られていて、両親は毎日そこで祈りを捧げていた。 子供の私は入ることを固く禁じられていた。 「で、結局何だったの、そのヨビガミ様って」 「妹たちだよ、私の」 「え?」 #140字怪談

2019-08-04 23:10:07
空と踊る男 @dancewithsky

先刻から4人の若い男たちに尾行されている。 振り返り、正面から尋ねる。 「何か用かな」 「へえ、ネオジャップの癖に大層な口を利くじゃないか」 その言葉に血の気が引く。 額に石が当たった。 「待て、俺が何をした。君たちだって同じ日本人じゃないか……」 石は正確に額を狙ってきた。 #140字怪談

2019-08-05 17:23:21
空と踊る男 @dancewithsky

僕らがよく寄るコンビニの中年の女性店員・ウワバミさんは、お辞儀する時にひょいっ、と爪先立ちで背伸びする癖がある。 石頭のトモキに、そのひょいっ、に合わせてお辞儀させてみた。 ひょいっ。 トモキの頭がウワバミさんの後頭部の口に呑み込まれた。 僕らは死ぬほど走って逃げた。 #140字怪談

2019-08-05 19:27:00
空と踊る男 @dancewithsky

月が怖いですね。 闇に響く女の声。 夜空を見やる。赤と橙が混ざった血のような半月。確かに凶々しいが、怖いというより哀しげで。 あの夜も、あの女を、この月が、 でも、いちばん怖いのは。 ふたたび女の声。 あなた 瞼の裏に甦る赤い光景。 二度と見ずに済むよう、両の眼を潰した。 #140字怪談

2019-08-05 22:17:38
空と踊る男 @dancewithsky

今まで蒐集した怪談の中で、最も怖かった話は? 僕はFさんに聞いてみた。 「それは話せません……が、私が今までに体験した最も恐ろしいことなら……」 Fさんは語り始めた。 その話は全く怖くなく、そもそも一切理解できなかったが、やっと判った。 この男は生かしておいてはならない。 #140字怪談

2019-08-05 23:09:38
空と踊る男 @dancewithsky

さんざん弄ばれた挙げ句、突然捨てられて。 あの男は私の全てを奪っていきました。 人を信じる心さえも。 そんな時、もう一度だけ信じてみたい男性が現れた。 それがあなただったんです。 こんな風に、ロープで縛ってナイフを突きつけたりしながら言うつもりじゃなかったんです、本当は。 #140字怪談

2019-08-06 18:47:38
空と踊る男 @dancewithsky

僕らと同じゼミに出席する時、ウワバミさんは必ず唇の端に米粒がついている。 ある日、それが血のような赤い色をしていた。 君、それ…… 思わず教授が指差すと、 ウワバミさんは無言でその赤い粒を剥がした。 次の瞬間、大量の血が一面にジェット噴射され、僕らは死ぬほど走って逃げた。 #140字怪談

2019-08-07 20:23:27
空と踊る男 @dancewithsky

「おまえ舐めてんのか?」 「別に舐めてません」 「そういう態度が舐めてんだよ!」 「死にますよ」 「ああ?」 「僕が肌を舐めたら、先生、一瞬で死にます」 「……おまえふざけん」 「試してみます?」 「…………」 「 先生にその勇気がありますか?」 「……いいだろう。あたしも女だ」 #140字怪談

2019-08-07 20:49:19
空と踊る男 @dancewithsky

深夜に自販機でコーラを買おうとしたら、ボタンの下に文字が打たれたテプラが貼ってある。 赤文字で 「押すと手首が落ちてくるよ」 と書いてある。 くだらん悪戯だ。俺はボタンを押した。 ごとん、といういつもの音ではなく、 ことん と音がした。 取出口に手を入れられなかった。 #140字怪談

2019-08-07 21:10:39
空と踊る男 @dancewithsky

ある双子の姉妹は、物心ついた頃からお互い以外の他人とは決して話さなかった。 やがて姉妹は二人だけの独自の言語を産み出して会話を始め、さらに二人にしか読解できない文字を用いて長い物語を綴った。 他の誰も解読できないまま、その邪神の降臨と支配の物語は未だに書き継がれている。 #140字怪談

2019-08-07 22:43:29
空と踊る男 @dancewithsky

外灯が壊れ、深い闇に包まれた路地を歩いている。通りたくないのだが、うちはどん詰まりにあるので他に迂回する道はない。 ふと、闇の先に女の白い顔が浮かび上がって消えた。 思わず叫びそうになったが、やがて女の首だけが宙を飛んでいることに気づいた。 なんだ、母さんじゃないか。 #140字怪談

2019-08-08 21:53:48
空と踊る男 @dancewithsky

昼食後、左右正面を衝立で仕切ったブースで仮眠できる「お昼寝タイム」が会社に導入された が、最近女子用ブースで奇妙な噂が流れ始めた。 「真上から誰かに見られている」 私は薄目を開けて確かめてみた。 派遣のウワバミさんの首が蛇のように伸びて宙をうねり、全員を見下ろしていた。 #140字怪談

2019-08-09 20:57:54
空と踊る男 @dancewithsky

新歓コンパで泥酔してしまった僕は成り行きでS子先輩の部屋に泊まることになった。 「ヘンなことしたら殺すよ」と先輩。 「し、しませんよ!」 「はは、確かに君はしないか。でも、あたしはするの」 そして先輩は両の義眼を外した。 ……義眼? やがて身も凍る「ヘンなこと」が始まった。 #140字怪談

2019-08-09 23:37:00
空と踊る男 @dancewithsky

会社を出たところまでは覚えている。それ以降、橋の欄干から身を乗り出して異骸川へ飛び降りようとしていたのを止められるまで一切記憶がない。いつも同じだ。突然記憶を失って、気がつくとあの橋の上から異骸川へ身投げ未遂。もう全て終わらせたいのに、なぜ毎回助けられてしまうのか…… #140字怪談

2019-08-10 22:10:35
空と踊る男 @dancewithsky

電車の中でベビーカーに乗った赤ちゃんが泣き叫んでいて、迷惑そうな顔をする乗客もいて、でもすぐ隣のおばあさんがニコニコしながら赤ちゃんを見つめていて、同時にぶつぶつ呟いていて、何と言っているのか耳を澄ましてみたら、 「ツブシテミタイ、ツブシテミタイ、ツブシテミタイ……」 #140字怪談

2019-08-10 22:30:43
空と踊る男 @dancewithsky

叔父さんは怪談の蒐集が趣味で、語るのも上手く、幼い僕にもよく聞かせてくれた。 震え上がりつつ、何度も次の話をせがんだものだ。 そんな叔父さんが事故で亡くなった。 遺品の中に〈禁〉と書かれたノートがあった。 そこには「甥憑き男」という物語が記されていた。 全てが実話だった。 #140字怪談

2019-08-10 23:21:41
空と踊る男 @dancewithsky

息子が引きこもって約1年になる。普通に会話は出来るしたまに外出もしているが、気になるのは部屋の中に得体の知れない緑色の液体が詰まったペットボトルを何百本も並べていることで、息子に聞いても「法則を回復する為だよ」としか答えない。一体何の法則だろう。 とても厭な匂いがする。 #140字怪談

2019-08-11 14:55:49
空と踊る男 @dancewithsky

街の広場にある英雄の像の足元に、毎日ずっと縋りついている女がいた。 やがて革命が起き、多くの人が殺され、英雄の像は独裁者の像に変わった。 それでも縋りつく女を、兵士が撃った。 弾が跳ね返った。 女が像になったのか、最初から像の一部だったのか、もう誰も思い出せなかった。 #140字怪談

2019-08-11 19:46:52
空と踊る男 @dancewithsky

自殺した友人の墓参りに行くと、先に手を合わせている女がいた。 白い人だな。 そう思った。 女は短い間、友人と交際していたという。 なぜ突然自殺したのか全く判らない。女は言った。 白い人だな。 また思った。 今、屋上から飛び降りる瞬間も、思い出していたのは女のあの白さだった。 #140字怪談

2019-08-11 21:15:31