【全作140字ジャスト】空と踊る男の「140字怪談」まとめ【全百話】

コツコツ投稿していた140字怪談をまとめました。 ちなみにハッシュタグ含め全て140字ピッタリです。 中には「これのどこが怪談?」というような話もありますが、文字数の制約があるからこそできる試行錯誤や実験をいろいろやってみました。 目標の100作を達成しましたので、いったん完結とさせていただきます。
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空と踊る男 @dancewithsky

ケンジくん、その方向へ真っ直ぐ。 そこで一旦止まる。 やや左を向いて。違う、少し戻って。そう、そのあたり。 そこからゆっくり17歩直進。途中で横へずれないよう気をつけて。 右向け右で、あと6歩。 はい、ストップ。 目隠し取って。 来ちゃったね。〈私〉の入口に。 出口はないけど。 #140字怪談

2019-08-11 22:25:27
空と踊る男 @dancewithsky

子供の頃、ホームレスのおじさんと仲良くなった。 おじさんの優しい笑顔が好きだった。 おじさんが僕を小屋に監禁し性的暴行を繰り返したと皆が言うけど、一切思い出せないし、そんな話は信じない。 でも。 気がつくと記憶が飛んで、またこの橋の上から異骸川へ飛び降りようとしている。 #140字怪談

2019-08-11 23:54:16
空と踊る男 @dancewithsky

キャンプ場の人々はあらかた惨殺され、残るは殺人鬼と少女一人になった。ラストガール。そしてラストガールはもちろん処女だ。 毎回処女ってのもどうなのよ、と殺人鬼は思った。それポリティカル・コレクトネス的に不味くね? 少女も同じことを考えていた。 ひと夏の物語が、今、始まる。 #140字怪談

2019-08-12 00:36:49
空と踊る男 @dancewithsky

古本屋で買った小説を読んでいたら、登場人物の名前が赤ペンで囲まれ、その上の余白に 「6ページ後に死ぬ」 と書かれていた。 しかし6ページ後にその人物は死なず、また別の人物の名前を囲って 「間違えた。こいつが7ページ後に死ぬ」 7ページ後、余白に 「間違えた。ここでおまえが死ぬ」 #140字怪談

2019-08-12 13:26:15
空と踊る男 @dancewithsky

〈新右衛門様 お慕い申しております 子三つ時 異骸橋の上にて〉 子三つ時、新右衛門が異骸橋へ赴くと、手招きする黒い着物に白い吹き流しの女。 微笑む女の眼が赤く光る。 おのれ人外。新右衛門が刀で斬り捨てると、 女も橋も消え、そこは異骸川の淵で、新右衛門は捨てられた赤子だった。 #140字怪談

2019-08-12 14:22:37
空と踊る男 @dancewithsky

俺は高校の正門から続く長い坂を降りて一人で下校していた。 最近この坂に、男女関係なく生徒の制服を鋏で切り裂く異常者が出没するらしい。 じゃり。突然背後で音がした。 ……なんだ、S子先生か。 「どうして君には友達がいないの。先生悲しくてやりきれない」 先生は鋏を取り出した。 #140字怪談

2019-08-12 19:03:12
空と踊る男 @dancewithsky

高校の生徒会長選挙。私の立候補者演説の番が来た。 「この講堂で昔、ある部活の部員全員が集団自殺しました。 原因は不明でしたが、想像を絶する恐ろしい何かから“呼ばれた”のです。 いつかあなた方も呼ばれることになるでしょう。 私は、その時を待つだけです」 予定通り私は当選した。 #140字怪談

2019-08-12 20:44:16
空と踊る男 @dancewithsky

吐き気が酷く、会社を早退し駅へ歩いていると、 「ヨダさんだよね?」 知らない男が声をかけてきた。 気味の悪い男だ。 違いますと答える。実際違う。 次の瞬間、堪え切れず嘔吐した。 「ヨダさん大丈夫?」 いいから消えて…… 「よし判った、僕も吐こう」 男は大量の黒い液体を吐いた。 #140字怪談

2019-08-12 22:40:59
空と踊る男 @dancewithsky

昔、某掲示板のオカルト板に「私にだけ見える奇妙な生き物」というスレッドがあった。 スレ主には幼い頃から宙を飛ぶ蛇のような生き物が見えるという。 彼の詳細で綻びのない説明と誠実なレスに、スレ住人たちも次第に真剣になった。 「全部嘘www」 その頃には既に私も見え始めていた。 #140字怪談

2019-08-13 00:01:26
空と踊る男 @dancewithsky

病に臥せっている作家仲間のAを見舞った。 「僕はもう長くない。妻を頼むよ」 唐突に妙なことを言う。 「いつか君はきっと妻を題材に小説を書く。それはとても恐ろしい作品になるよ」 Aはずっと独身なのに。 しかしAが亡くなって何年もの後、私は彼の言葉が全て正しかったことを知った。 #140字怪談

2019-08-13 21:53:27
空と踊る男 @dancewithsky

目薬を両目に差したら、急に目の前が赤くなった。 何これ…… いくら洗っても治らない。 「サキちゃんどうしたの? 目が真っ赤だよ」 赤い目がそんなに珍しいか。いっそおまえの顔面も血で真っ赤にしてやろうか? 目に映る世界が全て赤く染まって以来、日に日に人間どもへの殺意が増す。 #140字怪談

2019-08-13 22:28:26
空と踊る男 @dancewithsky

あなたおかしいですよ。うちのシンちゃんが手出しするわけないじゃないですか。そもそも「腕を変な角度に曲げられた」って、あれぐらい普通曲がるでしょう。私だって曲がりますよ。ほら。あなたの腕も曲げてみましょうか。痛い? はは、痛いわけないでしょうこれで。あなたおかしいですよ。 #140字怪談

2019-08-13 22:58:23
空と踊る男 @dancewithsky

猫を殺したい。判ってる。それは許されないことだ。でもどうしても殺したい。ついに昨日は殺す夢まで見た。猫を洗濯機に入れて蓋を閉めスイッチを回した。僕は涙を流した。なぜ泣くのだろう。やっと殺せたのに。 猫だと泣いてしまうから、もっと身近にいる、まだ喋らない生き物にしよう。 #140字怪談

2019-08-13 23:22:30
空と踊る男 @dancewithsky

カフェの窓際の2階席から、道行く人々をぼんやり眺めている。 突然雨が降りだした。急激に強くなってゆく。 でも変だ。誰一人傘を差したり駆け出したりしない。皆ゆっくりと虚ろな顔で歩いている。生ける屍みたいに。 「ついに起きたか……当分ここに籠るしかないな」ふと隣の男が呟いた。 #140字怪談

2019-08-14 09:09:28
空と踊る男 @dancewithsky

子供の頃、家で一人でTV放映の映画を見ていた。 うろ覚えだが、少女と母親の暮らす古い屋敷が次第に歪んでゆく、という怪奇映画だったはずだ。 子供心に不思議だった。なぜこんな恐ろしい場所からすぐに逃げ出さないのだろう? 今ならその気持ちが判る。 すぅ、と背後で夫の足音がした。 #140字怪談

2019-08-14 09:55:19
空と踊る男 @dancewithsky

謎は全て解かれ、探偵は真犯人の名を告げた。関係者一同が驚く中、犯人は言った。 「確かに犯人は俺さ。 そんなことよりずっと聞きたかったんだ。 この探偵だ。 なぜこいつには牙が生えてるんだ? なぜ首が伸びるんだ? 一体こいつは」 探偵は犯人を撃ち、関係者一同も残らず撃ち殺した。 #140字怪談

2019-08-14 11:00:34
空と踊る男 @dancewithsky

「さて今夜も始まりました、群崇の『ミッドナイト・テラー』!」 「拍手~~」 「それでは早速リスナーから寄せられた恐怖体験を読んでいきますよー」 「楽しみですね!」 「まず最初は、東京都豊島区在住の……〈お元気ですかウワバミです〉……さん……」 「群さん? 顔が真っ青ですよ」 #140字怪談

2019-08-14 12:35:22
空と踊る男 @dancewithsky

歪んでゆく。歪んでゆく。扉も、壁も、床も、椅子も、机も、箪笥も、ベッドも、柱も、時計も、この家の中のものは全て歪に歪んでゆく。 母さん、なぜここから逃げないの? 私は聞いた。 母は悲しげに答えた。 「あなたがいるからよ」 ああそうか。何よりも歪んでいたのは、私だったのだ。 #140字怪談

2019-08-14 14:16:36
空と踊る男 @dancewithsky

深夜の街中を10歳ぐらいの女の子に追われ逃げている。いくら走っても追ってくる。大の大人が情けないとは思うが怖くてたまらない。だってなぜ追われるのか全然身に覚えがないし、足はやたら速いし、振り返って見た顔が子供の頃の私にそっくりだったから。ああ厭だ。どっか行ってよ昔の私。 #140字怪談

2019-08-14 15:34:06
空と踊る男 @dancewithsky

『器官の欠損は聖痕なり。山の霊気を聖痕から取り込み穢れを浄化すべし。』 聖気教の教義である。 ある日、地元では誰も入らない忌み山に籠った聖気教徒たちは、一夜明けると全員が失った筈の聖痕のみを残し消えた。 眼や耳や鼻や舌の他に脳がひとつあった。 教祖の聖痕は脳全部だった。 #140字怪談

2019-08-14 17:11:19
空と踊る男 @dancewithsky

学級崩壊なんてレベルじゃないユウナちゃんはダイキ君に首を絞められ何度失神してもいぃっ絞めてぇって叫ぶしミサちゃんは何体もの猫の胴体に兎の頭を載せて飾ってるしカイ君は4階から飛び降りてグシャッと弾け飛ぶ遊びをやめないしソラ君はボッシュの絵を先生の裸体に模写しながら指を切 #140字怪談

2019-08-14 20:42:59
空と踊る男 @dancewithsky

儂の話は以上じゃよ。 さて。 茶に入れた毒が回る頃合よの。 はは。何、儂の茶だけよ。 あんた、あの日の忌み山の女じゃな。 一人だけ逃した儂を殺しに来たな? 生憎あんな殺され方は 何、 茶を入れ替えたと? しかし人外のあんたに毒なんぞ、 ま、まさか…… あんた、本当にただの…… #140字怪談

2019-08-14 22:13:20
空と踊る男 @dancewithsky

少年と少女は異骸川の畔で秘密の逢瀬を重ねた。 ある日、川辺のツツジを摘み、少女は蜜を吸った。 吸ってみて。甘いよ。 少年はなぜか恐れ、断った。 その夜、少女は川に身を投げた。 数十年ぶりに異骸川の畔に咲いた、咲く筈のない花を男は手折る。 今度こそ少女と同じ毒を味わう為に。 #140字怪談

2019-08-15 20:23:45
空と踊る男 @dancewithsky

深夜、狭い路地の真ん中に全身黒ずくめの長い黒髪の女が後ろ向きで微動だにせず立ち尽くしていて、横を通り抜けようにも足が固まり動けず、諦めて来た道を戻ろうと振り返ると全く同じように黒い女が背中を向け立っており、突然後ろ向きのまま凄い速さで走って来て背後からも走って来る音。 #140字怪談

2019-08-15 21:50:48
空と踊る男 @dancewithsky

朝、遠くより呼ぶ声で目覚めた。 忌み山を越え、辿り着いたのは異骸川という黒い川だった。 川の中州の公衆電話ボックスからベルが聴こえる。 一面に赤い掌の跡が残るガラス扉を開け、受話器を取る。 「君の番だよ」 懐かしい人外の声。 あなたは百年ぶりに百一話目の怪談を語り始めた。 #140字怪談

2019-08-16 20:43:38
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