エンター・ザ・ランド・オブ・ニンジャ #4

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニンジャとは、ただ秀でた支配種族というだけではないのだ」ジェイソンは語った。ブッダへの説法じみていたが、コトブキは黙って聞いた。「ヴォルケイノーは実際、怪物だ。肌は岩そのもの、熱を持ち、怒りと共に赤く燃え上がる。怒れば手が付けられない。村を焼いて、畑にする……」 21

2019-06-18 23:02:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お、俺は……俺は焼け出されて、ここに来たんだよ」火傷の跡が痛々しい男が手を挙げた。「恐ろしい……」「弟が死んじまって、今まさにその怒りは……」「アナヤ……!」村人達は恐怖に心くじけ、囁き交す。ジェイソンはつらそうに眉間に皺寄せた。コトブキは意を決し、息を吸った。 22

2019-06-18 23:06:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「皆さん!大丈夫です」彼女は明るく言った。「この作戦は、あなた方に及ぶ危険は最小限になっているんです。しっかり考えたんですよ」彼女はホワイトボードに歩き、心を和ませるイラストレーションを添えて、図解していった。まず、来訪するニンジャと、それを迎える彼女自身。 23

2019-06-18 23:08:44
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「クソ野郎が来たら、あなた方は、わたしを差し出します。最初は、従順にやりましょう」コトブキは自身の絵のまわりにスシや刺身の絵を描いていった。そして「セッタイ」「これが効く」とスローガンを書いた。「いいですか?ヘヴィフィードが死んだ理由を、まず、説明するのです」 24

2019-06-18 23:11:26
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「理由とは……?」「カラテビーストです」コトブキは獰猛なクマを描いた。黒帯を締めている。「実際目撃したとおり、恐ろしい獣にあなた方が襲われ、それを警備したのがヘヴィフィードと手下達でしたよね?彼らの仕事はあくまであなた方の保護なんです。その点は大事です」 25

2019-06-18 23:13:50
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コトブキは自分を示した。「そこに、わたしが現れました!わたしはおかしくなったオイランドロイドで、わけのわからない行動をし、暴れました。この行動によってあなた方が命の危険に見舞われ、ヘヴィフィード=サンは注意が逸れ、カラテビーストの致命傷を受けてしまいます!わたしが罪人です!」 26

2019-06-18 23:16:20
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「そんな……ちょっと待て」「コトブキ=サン、あんた」当初コトブキに胡散臭げな視線を向けていた者達も、彼女を心配そうに見た。コトブキは安心させるように、笑顔になった。「そんな顔をしたらバレるので、本番ではダメですよ。わたしを下手人として、ヴォルケイノーに差し出してください」 27

2019-06-18 23:19:00
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「無茶では」「アンタは知らんだろうがヴォルケイノーは弟の比ではなく、ワシら誰もが悪行を知っていてだな……」「望みなき自己犠牲の意図はありません!」コトブキは請け合った。「いいですか、わたしはこのようにオシャレをしますし、オイランドロイドとしてセッタイします。サケを呑ませます」 28

2019-06-18 23:21:54
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「セッタイ……そして……?」「どんどん呑ませます。ベロベロにします。ニンジャでも酔います、わたし知ってますよ。そうなると、うまくジツもコントロールできない。カラテも弱まってしまうのです。その隙をついてアンブッシュをしかけます。皆さんは猟銃で襲います!」 29

2019-06-18 23:25:05
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「いや……しかし」「うまくいくのか?」コトブキは胸を張った。「少なくとも、隙は生じます。わたしに自我がある事を、ヴォルケーノ野郎は知りません。わたしはこう見えてカンフーのタツジンです。デス・タッチの知識もあります。いえ、知識だけですが、最終的には心臓をデリンジャーで撃ちます」30

2019-06-18 23:28:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「だが」「コトブキ=サン……」「ジレッタイナ!」コトブキは叱咤した。「だってヴォルケイノーは遅かれ早かれ村に来るんでしょう?そうしたら、この作戦をやる事自体が不可能で、なぶり殺しです。一番の悲劇はそれです!わたしはヤルキに満ちていますし、この段取りは皆さんのリスクが低いです」31

2019-06-18 23:32:36
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コトブキはサムアップした。「途中でバレたらわたしのせいにできますし……」「バカを言っちゃいけない!見損なったらいかん」ジェイソンが言った。「アンタの事を下手人扱いしてのうのうと逃れはせん。一緒にやるからには、覚悟を決める。そうだろう皆」「お、おう」「そりゃ勿論だ……!」 32

2019-06-18 23:35:06
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「参ったなあ」窓の方向から別の声がした。外から窓枠に身を乗り出し、困り顔を見せたのは、フィルギアだった。村人達は驚愕した。「アイエッ!」「誰?」「旅人!?」「知人です!」コトブキが保証した。フィルギアはコトブキに尋ねる「気になって戻って来たら……その作戦、キミ一人で考えたの?」33

2019-06-18 23:38:49
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「確かに、わたし以外のブレーンの存在を疑うのも無理もないですね」コトブキはフィルギアに頷いた。フィルギアは窓枠に突っ伏し、沈思黙考。「ウーン……そうだな……」「……?」「?」村人達は顔を見合わせる。フィルギアは窓を乗り越え、断りなしに入り込んだ。そしてホワイトボードを見た。 34

2019-06-18 23:42:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「いや……でもまあ……そうね、一見アレだが……」彼は爪先で床をタップし、指を噛み、ニューロンを高速回転させているようだった。「このヴォルケイノーはどんなニンジャ?」ジェイソンはやや怪訝としながら、フィルギアにその力の特徴を伝えた。フィルギアは頷く。「マグマ・ニンジャ・クランね」35

2019-06-18 23:44:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼はホワイトボードの和やかなコトブキの絵を見て微笑した。「酒の甕か。実際、悪くはないな……悪くは。マグマ・ニンジャ・クランの奴には案外これは……」コトブキはフィルギアの思考を邪魔せぬよう、奥ゆかしく黙っている。「このサケは何?」「種類は詰めていません」「メイプル・サケかな?」36

2019-06-18 23:48:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「へえ、そうです」村人が答えた。「供するならば、メイプル・サケです。兄弟はメイプル・サケに目が無くて……」「ただ酔わせるだけだと、五分ってところだが」「わたしのセッタイでカンペキですよ」「食い合わせの助けを借りようか。この異常な生態系なら、マサシタケが生えてるかも知れない」 37

2019-06-18 23:51:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それは茸ですか」「そう、茸」フィルギアはホワイトボードの余白に、まるでデッサンしたような写実の図画を描いた。「これ、探して。川の水が直接洗っていく地面に時々生える。見た目はマツタケに似てる。マツタケだと偽って食わせるんだ。焼いて、サシミにしてもいいし、ソバに混ぜてもいい」 38

2019-06-18 23:56:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「とても詳しいのですね」「ああ。色々試したもんだよ。長い人生、倦んでしまうから。とにかくいいか、メイプル・サケとマサシタケの相性は最悪なんだ。めちゃくちゃバッドトリップする。特にマグマの奴らは炎を纏うにもセイシンテキが必要で……」村人達がフィルギアをじっと見ている。39

2019-06-19 00:02:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アンタ、何者だね」ジェイソンが尋ねた。フィルギアは熱弁を自ら顧みるかのようにクールダウンし、コトブキの後ろに下がった。「……俺は博物学者だ。博物学者、って呼んでくれればいいよ。まあ、キミらにまた会う事も多分ないと思うけど……ちょっと寄っただけなんだ。この後も忙しい」 40

2019-06-19 00:05:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どこかへ?」コトブキが訊き返す。フィルギアは頷く。「調子狂っちまった……悪いけど、俺、カラテはカラキシだし、そもそも、作戦を手伝う義理もないしね」「あの、ありがとうございました」「イヒヒ……いいか、だけどそもそも俺がさっき言った事、ちゃんと考えたほうがいいぜ。コトブキ=サン」41

2019-06-19 00:09:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フィルギアは咳払いをひとつ、窓を乗り越えると、既にその姿はない。その場の者達はやがて我に返った。「……ならば、キノコは任せなさい」ジェイソンが言った。「アタシらでしっかり探すよ」乳飲み子を抱えた女が請け合った。コトブキは人々を見た。みな、コトブキの目を見て頷いた。 42

2019-06-19 00:15:02