ストレイトロード:ルート140(42周目)
- Rista_Bakeya
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荒らされた部屋を捜索すると一本の吸殻が見つかった。家主は煙草が買える金などないと首を振る。「じゃあ犯人の物?」「断定はできません」藍の期待に反して捜査員の反応は薄かった。わかりやすい証拠で罪を擦りつけようとする事件も多いらしい。「でもこの辺にまだ煙が残ってる」藍が天井を見上げた。
2019-05-15 18:47:05怪物たちが積極的に各地を破壊した結果、人類が築き上げた通信網も打撃を受けた。激減した回線や基地局を再建できずにいる影響は当然庶民に向く。個々の契約に関係なく速度や容量を制限する町も多い。「昔は動画でも何でも見放題だったって本当?」藍の端末にも制限超過の無情な宣言が表示されていた。
2019-05-16 18:53:13街角で新聞を広げ、眉をひそめる男女を見かけた。見覚えある記事は確か藍の無謀な行動を報じる写真の裏にあった。「自分の意思で抗議に参加したらしい」「嘘よ、こんなの親の指示に決まってるわ」女の方が親のあるべき姿勢を説き始めた。私の陰で話を聞いていた藍が言った。「束縛に慣れた人も大変ね」
2019-05-17 18:51:59宿に戻ると、籠を抱えた従業員とすれ違った。私達がここへ来た時からずっと塞がっていたある部屋から、荷物が次々と運び出されている。耳を傾けた藍が廊下の端を指した。「ただの長期滞在じゃなかったみたいね」その部屋を占拠していた男が女将に問い詰められている。長らく宿賃を滞納していたらしい。
2019-05-18 19:31:08発見したデータの正体は通話記録だった。怪物を空の冷凍庫へ追い込んだとの報告が聞き取れた。『この図体で空気の世話になってないわけがあるか』動きを封じ、あわよくばその間に窒息でもしてくれたら、と期待したらしい。「考え甘すぎない?」藍の指摘は正しい。この構図からの事故に心当たりがある。
2019-05-19 20:30:19「この家だけは守りたい。役人を何とかしてくれ」立ち退きを迫られた住民に請われ、藍が手配した弁護士と共に家の中を調べた。通路を除けば棚も階段も隙間なく、漬物を入れた容器に埋め尽くされていた。「つまり非常食専用の倉庫として確保したいと」「大事なのはわかったけど、家一軒使う必要ある?」
2019-05-20 18:59:11「裏で偉いひとの手を借りてるって聞いたけど」藍が宴席で発した一言は運悪く録音されており、翌朝には名指しされた団体が様々な手で糾弾を始めた。無知な子供だからと流さず撤回を要求する相手は風の魔女の影響力が怖いのか。「あっちが同じことしても素直に撤回しないくせに」本人は少しも動じない。
2019-05-21 18:47:05逃げた証人を追う道中、廃屋の壁面に奇妙な花を見た。怪物が踏んだ土地に新種の植物が現れたとの報告は時折聞くので、その時は深く考えず通り過ぎた。厄介な真相に到達した後味悪い帰り道、同じ場所で見た花は屋根の上に到達していた。「さっきも見たならどうして言わないの」藍が前しか見ないからだ。
2019-05-22 18:41:49破壊者は間違いなく去ったが、藍がそう伝えても現地の人々は全く信じようとしなかった。だがある商店の主人だけは話を真剣に聞いたばかりか詳細を尋ねてきた。翌日からその店が商品の投げ売りを始めた。理由を尋ねると、威勢のいい主人はこう答えた。「みんな出て行くから今のうちにひと稼ぎするのさ」
2019-05-23 19:24:10「なんでわたしがここにいるってバレてるの」テーブルの陰に隠れた藍は頭を抱えた。女心を知らない富豪が柱の向こうに駆けていった後、私も藍に目線を合わせた。「誰かに行き先しゃべった?」「学会の日程から予測したのでは」振り向いた藍の髪が私の目を叩いた。「あいつの滞在予定調べてきて、早く」
2019-05-24 19:02:52学校から藍の為に配信された宿題を、彼女が眠った後に採点した。最初にそれを出した頃はどの科目も基礎レベルから危かったが、最近は幾らか良くなってきた印象がある。回答を送信する日まで余裕があるので少し復習させようか。苦手な分野の問題を抜き出すべく再度目を通すと、どれも不安に見えてきた。
2019-05-25 20:04:06ある村の壊滅と再興を追った記事を藍が見つけてきた。怪物に畑を荒らされた人々が一度は土地を捨てたが、移住先を見つけられず結局戻ってきたという。「でも畑の植物を根絶やしにする必要まである?」「自然任せでは解決しないと判断したのでは」写真には元の作物とはかけ離れた形状の葉が写っていた。
2019-05-26 21:37:30