【SGOSS】黒獅子は英雄の夢を見るか

いつものまとめ 11/19 14:35
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ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

必要ならば解説もしよう! ウィズなりに満足なラインナップに仕立てたらしい。そう若干誇らしげに胸を張る女を一瞥して、レオンハルトは数ある武器を眺めた。 そして、一番右端にあった剣を適当に選び、手に取る。 「これでいい」 「んお。それでいいのかえ?もっと悩むと思ったが……」

2019-07-12 22:17:58
ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

「武器なんて斬れりゃいいんだよ。他に拘りなんてねぇ」 そう吐き捨てると、レオンハルトは一つ欠伸をする。もはや眼前の武器の山には興味がないようだ。 「だいたい俺が使ってると何使ってもすぐ折れるしな。武器はアンタが勝手に選んでくれ。コイツが折れたら次のを使う」

2019-07-12 22:21:00
ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

「なんとまぁ、執着の無い男よ……」 些かつまらなさそうにウィズが肩を竦める。女が指揮をすれば、ゴーレム達が武器を片付けていった。 「傭兵と聞いていたから、もっと武器に拘りがあるのかと思っておったよ」 「あー?どうだろうな……昔はそうだったかも。覚えてねェ」 記憶は曖昧だ。

2019-07-12 22:26:14
ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

『武器は■■の■■■』 かつて、誰かが何かを言っていた気がする。だが、それはもう思い出せない。混沌の彼方へ消えてしまった。 そうして少しずつ人間としてのよすがを失っていく。それは誰にも止められない。悲願を果たすまでは。 「覚えてねぇよ……何もかもな」 そう呟いて、男は自室へ戻る。

2019-07-12 22:30:23
ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

「だから、いいんだ」 去り際、レオンハルトはウィズへと振り向き、陰のある笑みを浮かべて言う。 「武器なんて何でもいいんだよ」

2019-07-12 22:44:04
ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

彼は稀代の大罪人にして反英雄と呼ばれた存在ではない。 ただの傭兵。ただの邪紋使い。身に余る混沌を宿してしまったがために、無限螺旋に自我を喰い尽くされようとしていた哀れな青年。 ある意味ではこちらが正史で、ある意味ではこちらが正しい結末と言える。 そんな、虹になり損ねた青年の話。

2019-07-13 12:18:49
ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

ーー七度目の終戦の日。 「これで…ッ、終わりだァ!!!」 エーラム大講堂にて。 暴走起動し、幾度も時を巻き戻していた大魔法陣へと青年が剣を突き立てる。 黒い髪を靡かせる青年ーーレオンハルトが剣を刺した場所から罅が入り、魔法陣が壊れていく。 上がる喝采。崩壊していく世界。

2019-07-13 12:22:09
ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

終わった。 終わったのだ。 七廻と呼ばれた混沌災害が今、結末を定めた。 七度繰り返された大戦が終わり、世界は正しく時を刻み始める。今、新しい和平の時代が始まりを告げた。 そして、それは即ち。 「っ、ぐ、ゥ……ッ……!」 レオンハルトという人間が、終焉を迎える合図でもあった。

2019-07-13 12:24:42
ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

七度繰り返された争いの歴史。その間にこの男が喰らった混沌は、同じ歴史の七回分。 混沌を制御するのに混沌を必要とし、しかし混沌を喰らえば喰らうほどその身を滅ぼす男の形をした杯は、もはや限界だったのだ。 身体の中で混沌核が暴れ出す。嵐のごとき暴虐の力が自我を引き裂いていく。

2019-07-13 12:36:43
ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

「がっ……く、そ……」 視界が黒く染まり、身体が混沌に置き換えられていく。自分という存在がどんどんなくなって、何もかもが混ざった混沌(カオス)へと変じていく。 ーーやっぱり、駄目か…。 どこかでそう諦観する自分がいる。 分かっていたはずだった。いずれ自分は自我を失い、魔境になる。

2019-07-13 12:39:44
ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

その結末をどうにか変えたくて、ここまで足掻いてきた。皇帝聖印を完成させれば全てをひっくり返せると。 だが、その未来は遠すぎた。黒き邪紋の身では皇帝聖印には至れなかった。だから、この結末を受け入れるしかない。 男が膝をつく。その身が完全に混沌に還ろうとしたその時。

2019-07-13 12:42:28
ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

「……あァ?」 白い地面。白い空。白い世界。 唐突に訪れた空白の先に、その白衣の魔法師はいた。 彼は言う。 「キミの力を貸して欲しい」 曰く。世界という本の表紙が書き換わりそうで。 曰く。その裏に手を引く者がいて。 曰く。それを阻止したい。 だから、英雄たるレオンハルトの力を借りたい。

2019-07-13 12:45:49
ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

「……見て分かんねぇのか?俺は今まさに死にそうに……魔境に変わりそうになってんだが」 正直それどころではない。 だが、白衣の魔法師は膝をついたままのレオンハルトに手を差し伸べる。 「よく見てごらん、自分を」 男の言う通り自分を見てみれば、己の身体はしかとそこにあった。

2019-07-13 12:51:39
ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

混沌によって消滅もしていないし、崩れてもいない。 「……何をした?」 その手を払って立ち上がり、レオンハルトは男――アールブムを睨む。 「私は何も。強いて言うなら、今は時間が止まっているから、かな。多分」

2019-07-13 12:54:36
ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

レオンハルトの肉体は今、時間が止まっているとアールブムは言っていた。 時間が止まっているからレオンハルトの混沌侵食も止まっているのか。 俄かには信じがたい仮説だが、現に今レオンハルトはレオンハルトとしての自我を保てている。それが何よりの証拠だった。 「……それで?」

2019-07-13 12:56:08
ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

「俺はこれから自分がいなくなる世界に興味なんかねぇよ。俺の混沌をどうにもしてくれねぇ世界なんかな」 吐き捨てるようにレオンハルトが言うと、アールブムは少し考えるように顎に手を当てる。 「もちろん、この誘いは断ってくれても構わない。けれど、その場合、キミの時間はすぐに動き出す」

2019-07-13 12:58:23
ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

つまり、今すぐレオンハルトは自我を失って死ぬということだ。 「脅してんのか?」 「いいや、違うよ。逆に考えるんだ。……これは最後のロスタイムだとね」 「なんだと?」 男は提案する。 「この先に広がる平行世界のアトラタン。そこには無数の聖印、混沌、あらゆる叡知があるかもしれない」

2019-07-13 13:00:53
ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

「もしかしたらキミのその混沌を取り除く術を持つ者がいるかもしれない」 「もしかしたらキミはそちらの世界をも呑み込んで、皇帝聖印を完成させるかもしれない」 「そのどちらかが無理でも……もしかしたらキミは最期に――英雄として在れるかもしれない」

2019-07-13 13:02:31
ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

そう考えてみてはどうだろう? 白衣の魔法師の甘言。それをレオンハルトは耳にする。 「……」 向こうにあるのは平行世界のアトラタン。そこにはまだ見ぬ可能性がある?更なる混沌がある? なら、まだ――まだ。 まだ……自分は自分として居られるだろうか?

2019-07-13 13:04:29
ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

これが本当に最後の最期のチャンスだとしたら。 「チッ、都合のいいことばかり言いやがって」 自分はまだ、諦められないのだ。 だって、だって、まだ、まだ生きていたいから。 「分かったよ。どこへでも連れて行け。どうせしくじりゃ死ぬ身だ。好きにしろ」 「ありがとう」

2019-07-13 13:06:46
ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

深く溜息を吐いたレオンハルトを導くように、アールブムは道を拓く。 レオンハルトが歩く。歩いていく。 その先に広がるのは――もう一つのアトラタン。 反英雄でもない。傭兵でもない。英雄として黒獅子が降り立つ地。 道行きがてら、男は白衣の魔法師の言葉を思い出す。

2019-07-13 13:10:15
ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

『最期に英雄として在れるかもしれない』 ――柄にもなくその言葉に高揚してしまったのは、やはり自分が英雄を模倣する者だからだろうか。 ああ、そうだ。思い出した。 掠れ朽ち果てた記憶の片隅を掘り起こす。 そうだ、自分は。 最初に投影体達から始祖君主レオンの伝説を聞いた時、胸が高鳴ったのだ。

2019-07-13 13:13:07
ヒポ先生(聖別)/FateESアフター @higururoll

「俺は……」 ――俺は、英雄に憧れてた。 そこからどれだけ遠く離れようと、それだけは変わらない。 あるいはこれが最期だとしても。 最期に見る夢が英雄の夢なら、きっと満足できるから。

2019-07-13 13:15:21
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